Game of Vampire   作:のみみず

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新大陸

 

 

「つまり、委員会とやらの設立は確定してるって認識で問題ないのね?」

 

イギリス魔法省の大臣室の中。暖炉に『送身』されているフランス魔法大臣の顔に向かって、レミリア・スカーレットは確認の言葉を投げかけていた。隣の椅子にはボーンズが座っており、その斜め後ろにはスクリムジョールが立っている。お馴染みの面子で秘密の作戦会議をしているわけだ。

 

「ええ、問題ありません。連盟加盟国から一人ずつ委員を選出して、彼らによる合議によって方針を決定するというシステムになりそうです。……正式名称を『非魔法界対策委員会』にするか『融和促進委員会』にするかで割れているようですが。『対策』という単語が些か攻撃的ではないかと文句をつけられているようですな。」

 

「そこはどうでも良いわ。心の底からね。……合議制ってことは、議長に当たる席もあるはずよ。誰が有力なの?」

 

カンファレンスや水面下で進めていた働きかけの甲斐あって、マグルに対する問題における国際的な機関の設立までは漕ぎ着けたわけだが……議長の席を確保できるかどうかが次の分水嶺だな。そりゃあ建前上は平等かもしれないが、話し合いの進行権を握っている議長の力は大きいだろう。ここを取り零すわけにはいかんぞ。

 

頭の中に候補を並べながら聞いてみると、フランス大臣は難しい表情で返答を送ってくる。宜しくない顔だな。『身内』の魔法使いではないらしい。

 

「委員会の設立自体がようやく決まった直後なので、精度の高い情報とは言えないのですが……アルバート・ホームズが北アメリカの委員兼議長にと検討されているようです。」

 

「アルバート・ホームズ? 聞いたことのない名前ね。」

 

北アメリカの委員ということは、即ちマクーザの魔法使いということになる。身内とは言えないまでも、協力的ではあるんじゃないか? 首を傾げる私に、意外なところから説明の声が飛んできた。苦い顔をしているスクリムジョールからだ。

 

「ホームズはここ十年ほどで一気にのし上がってきた魔法使いです。マグルに対する優遇案や非魔法界からの技術流用に力を入れていて、主に非魔法界出身の『第一世代魔法使い』たちからの支持を基盤に活動しています。議会内の派閥の一つである『統一協会』のリーダーでもあったかと。」

 

「そこだけ聞く分にはマグルへの理解がある委員向きの魔法使いなわけだけど……貴方の顔を見るに、良くない説明が続くのよね?」

 

「大前提として、私はマクーザの内情に詳しいわけではありません。去年の夏にスカーレット女史の随行として向こうに行った際、大昔に国際研修で知り合った闇祓いの友人から聞いた話なので、あくまで人伝の噂話だということを念頭に置いて聞いてください。」

 

随分と入念に予防線を張るな。スクリムジョールは部屋の全員が頷いたのを確認してから、その『噂話』とやらを語り始めた。

 

「ホームズは議会入りした当初から非魔法族優遇派の急先鋒だったので、主流である秘匿派や分離派、同じ野党である魔法族優遇派などの政敵が非常に多かったらしいのですが……彼と争った有力な政敵が次々と死亡しているんです。当然ながら闇祓い局は最も利益を上げたホームズに疑いの目を向けたものの、一つ一つを見れば事件性が無い上にホームズ自身に繋がる証拠が得られなかったため、逆に『強引な捜査』として当局が叩かれる原因になってしまったとか。」

 

「……まあ、きな臭くはあるわね。」

 

「更に言えば、数名の議員を『スカウラーの子孫である』と議会で激しく糾弾しています。標的になった議員はホームズの過激な支持者からの私刑に遭ったり、それを怖れて国外への移住を余儀なくされたようです。……本人は涼しい顔で無関係を主張したそうですが。」

 

『スカウラー』というのは、新大陸の移住当時に魔法界の治安を維持するためという名目で生まれた傭兵集団だ。ヨーロッパ各国の政治機関が主導して、まだ未熟な新大陸の魔法界を支えるためにと作られたシステムなわけだが……本国の監督から遠く離れ、強い権力を与えられた彼らは次第に本来の目的を見失っていった。ついでに言えば文明人としての理性も失くしちゃったようだが。

 

その結果として起こったのが、悪名高きセーレム魔女裁判を代表する数々の事件だ。スカウラーたちは金儲けのために罪もないマグル……新大陸風に言えばノーマジたちを『悪しき魔女』に仕立て上げ、懸賞金を巻き上げるというマッチポンプを行なっていたらしい。他にも悪事を止めようとした同胞たる魔法使いを売り渡したり、最盛期には堂々と拷問や殺人なんかを楽しんでいたんだとか。当時の新大陸における移住者たちの宗教観が拍車を掛けたのには同意するが、抑止力なき権力が暴走した代表例だと言えるだろう。

 

だが、そんなスカウラーたちの隆盛も十七世紀末のアメリカ合衆国魔法議会……通称マクーザの設立によって終わりを迎えることとなる。政府に所属する闇祓いたちとの長きに渡る血みどろの戦いの果てに、スカウラーという犯罪者集団は歴史から姿を消したわけだ。少なくとも表面上は。

 

難を逃れて生き延びた少数のスカウラーたちはノーマジの社会にその身を隠し、非魔法族との婚姻を重ねることでマクーザの執拗な追跡を逃れる道を選んだらしい。魔法力を隠すために魔法使いとして生まれた子供をあえて『間引き』、ノーマジとして生まれた子供にマクーザに対する憎しみを植え付けることで怨嗟の念を引き継いでいったんだとか。つまりはまあ、イギリス魔法界の純血主義と正反対の事態が起こったわけだ。どっちにしろバカバカしいのは変わらんが。

 

新大陸における魔法史の権威がスカウラーの子孫に当たる人物を数名特定したところ、その全員が魔法使いではないのにも拘らず、存在すら明確に知らされていない魔法界への強い憎しみに染まっていたらしい。……そしてそんなスカウラーたちの逆恨みが原因となって起こったのが、新大陸の魔法族と非魔法族を完全に分断する『ラパポート法』制定の切っ掛けとなった、かの有名なドーカス事件だ。

 

これはマクーザの財務を司るトラゴット管理官の一人娘であるドーカス・トゥエルブツリーズが起こした事件で、蒙昧な彼女は一目惚れしたノーマジの青年に魔法界についてをペラペラ話してしまった。それだけであれば単純な国際機密保持法の違反で済んだのだが、不幸なことにその青年はスカウラーの子孫の一人だったのである。

 

魔法族に対する憎しみをきちんと引き継いでいた青年……バーソロミュー・ベアボーンは、ドーカスの好意を利用して近隣の魔法族や魔法界そのものに関する情報を入手し、それが全て揃った後に彼女の杖を盗んで行動を起こした。北アメリカの魔法史上最も大規模な機密保持法違反に繋がる行動を。

 

ベアボーンはノーマジのありとあらゆる新聞社を回って魔法界の存在を暴露し、非魔法界の『そういう研究』における著名人たちに手紙を送りまくり、『振ると強い反動を感じる』ドーカスの杖を誰彼構わず見せつけ、マクーザの本部がある建物の位置を手作りのビラで喧伝した後、最終的には手に入れた情報にあった魔法族の住処の一つを襲撃しようと企んだらしい。数人の武装した友人たちと共にだ。

 

だがしかし、ベアボーンの魔法界を白日の下に晒そうという計画はそこで潰えた。彼が『邪悪な』魔法族だと思い込んで襲撃した集団は単なる無関係なノーマジたちで、彼はマクーザが対処する間も無く非魔法族の警察によって逮捕されてしまったそうだ。新聞社の方も殆どは彼の話を真に受けず、事態はそのまま収束へと向かい始めたらしい。

 

とはいえ、世にはベアボーンの言葉を信じる変わり者も居るし、彼以外のスカウラーの子孫もまた存在している。当時ワシントンの中心部にあったマクーザ本部は郊外への移動を余儀なくされ、ドーカスが情報を漏らした魔法族も安全のためにと移住させられた。他にもベアボーンがばら撒いたビラの回収や、それを信じて行動に移そうとするノーマジたちの記憶修正などを行った後、最終的にはラパポート法という非魔法族との婚姻や友人関係を禁じる悪法の制定へと繋がったわけだ。

 

事件直後もドーカスは軽率な行動で魔法界を露見の危険に晒したと叩かれまくったわけだが、現代ではむしろラパポート法制定の切っ掛けになったことこそを叩かれている。当初大いに賛成されたこの法律は、結果として新大陸の魔法界に様々な歪みを及ぼすことになったからだ。

 

話は戻ってヨーロッパからの大規模な移住当時。スカウラーの所業を風の便りで知ったヨーロッパの魔法使いたちは、当然ながらよく分からん物騒な土地への移住を躊躇った。そうなるとマクーザを構成する魔法使いの殆どがノーマジ出身の『新参魔法使い』になる上、人口に対する魔法族の数も少なくなってしまう。無論、旧大陸から移住したノーマジたちが魔法使いごと土着の同族を……要するにインディアンたちを殺しまくったことも影響しているのだろうが。

 

その後徐々に新大陸の人口が増えるにつれて魔法族も増加していくのだが、『歴史』という基盤を持たない彼らは慣れ親しんだノーマジ寄りの魔法文化を形成せざるを得なかったわけだ。それがようやく形になってきた頃、いきなり二つの世界を厳しく分断するラパポート法が制定されればどうなるかなど言わずもがなだろう。

 

混乱は停滞を招き、停滞は新たな混乱を生んだ。ノーマジに親戚を持つ大多数の魔法使いたちが不満を感じ始めたのに対して、マクーザ上層部は罰則を強化することで対応しようとしたのである。ラパポート法が度重なる改定によって一番厳しくなった時期……十九世紀中盤の北アメリカ魔法界においては、『健康的な生活を送るにあたって不可避の接触』しか許されていなかったんだとか。アーサー・ウィーズリーなんかは即座に監獄行きだろうな。

 

そうして完成したのが現在のマクーザの状況だ。1965年にラパポート法が廃止された後も、親ノーマジ派と反ノーマジ派の溝は終ぞ埋まらなかった。反ノーマジ派がスカウラーの子孫たちの危険性を説けば、親ノーマジ派がそれを生み出したのは魔法界だと非難し、親ノーマジ派が自分たちのルーツになっているのは非魔法界だと説けば、反ノーマジ派たちは既に分離しているものだと反論する。そんな感じで延々と進歩のない議論をやり合っているらしい。

 

ちなみに現在の最大派閥は反ノーマジ派の中で最も穏健な姿勢を取っている『秘匿派』なのだが、彼らは非魔法族の技術を危険視しているが故に私の革命に乗ってきたようだ。どうせ隠し切れなくなるのであればさっさと向き合っておこうというわけである。……まあうん、ここに関しては正しい判断だと言えるだろう。

 

そこにいきなり飛び込んできた、きな臭い噂を持つ親ノーマジ派の男。主流派を押し退けて委員の席に自分をねじ込んだというのも気になるし、親ノーマジ派の癖にスカウラーの悪評を利用するというのも少し違和感を覚えるな。腕を組んで考え込んでいると、ボーンズが静かな口調で話を再開した。

 

「何れにせよ、先ずはホームズという男に関する情報を入手すべきですね。非魔法界に対する問題はこれから更に大きくなっていくでしょう。そうなれば当然利権云々の話も出てきますし、そこへの対処を誤れば意識革命の障害になるはずです。噂を鵜呑みにするのは危険ですが、旗頭となる議長に相応しいかはきちんと見極める必要があります。」

 

「おっしゃる通りですな。マクーザの闇祓いとはうちのデュヴァルが連絡を取り合っていたはずですので、私はそこから情報を引き出せないか試してみましょう。」

 

「そうね、私は直接マクーザの議長に連絡を入れてみるわ。あとは香港自治区の方にも聞いてみましょうか。ホームズに後ろ暗い部分があるのであれば、あの街はそれを掴んでいるはずよ。裏には裏の繋がりがあるわけだしね。」

 

イタリアのマフィアや、ドイツの小鬼たち。そういう暗い噂が付き纏う連中にも相応のルールがあり、独自の情報網が存在しているのだ。それが集まる香港自治区の魔法使いなら何かを知っているかもしれない。

 

肩を竦めながら言った私に、フランス大臣は首だけで頷いてから口を開く。重い空気を塗り替えるような明るい声色でだ。会話の雰囲気を操作する手腕はボーンズより上だな。この辺は年の功か。

 

「そういえば、連盟が国際協調のためのイベントを計画していることをご存知ですか? 最近は国際間の繋がりが深まってきていますし、それを強化するために何かしようという考えらしいです。」

 

「忙しないわね。来年のワールドカップじゃダメなの?」

 

「そこまで大規模なものではなく、次代を担う年若い学生たちが関わるイベントにしたいそうです。若いうちから他国との交流を持たせようという理念なようでして。」

 

「対抗試合をやったじゃないの。惨憺たる結果ではあったけどね。」

 

生徒間の絆とやらは深まったような気がするが、代表選手の一人が死亡したのだ。さすがに良い結末だったとは言えないだろう。やれやれと首を振る私へと、フランス大臣は困ったような顔で返事を寄越してきた。

 

「正にそれが問題なのです。もはや嘗てのような『三大魔法学校』ではなく、『七大魔法学校』の時代でしょう? イルヴァーモーニーやカステロブルーシュは自分たちが省かれたことに……その、不満を持っているようでして。そこからの圧力もあったようですな。まあ、ワガドゥやマホウトコロは然程気にしていないそうですが。あの二校は歴史が長いのである程度の余裕があるのでしょう。」

 

「あー、そういうこと。……いいんじゃない? 別に反対はしないわよ。適当に『七大魔法学校なんちゃらかんちゃら』を開けばいいじゃないの。ガキどもにとっては良い経験になるでしょ。」

 

対抗試合には様々な事情があって審査員として参加したが、基本的にイベントごとなんぞに興味などない。そもそも開催される頃には幻想郷に行ってるだろうし、勝手にやってくれというのが私の偽らざる本音だ。

 

とはいえボーンズとしては無視できないようで、苦い表情でフランス大臣へと質問を送り始める。

 

「ホグワーツは色々と忙しい時期なのですが……開催されるとして、いつ頃になりそうですか?」

 

「ああいや、私も連盟の知り合いから『検討している』という手紙を貰っただけですので、本当に開催されるかすら定かではないのです。悪いことではないので順当に行けば現実になるでしょうが、連盟の方も校長が変わったばかりのホグワーツには気を使うでしょうし、そこまでの負担にはならないかと。開催地もイギリス以外になりそうですな。」

 

「そうですか。……カンファレンスで他国と関わった所為で勢いが付いたのかもしれませんね。」

 

「まあ、そこで話が大きくなったというのは有り得そうですね。それにヨーロッパは共通の敵を持って繋がりを深めましたから、アジアやアメリカの魔法使いたちも乗り遅れまいとしているのかもしれません。……いやはや、つくづく時代の節目だというのを感じますよ。非魔法族のことといい、魔法界の変化といい、お互い難しい時期に大臣になってしまいましたな。」

 

苦笑いで言うフランス大臣に、ボーンズも同じ顔で首肯を返す。数年前から起こり始めた変化の波は未だ弱まらずか。確かにこの二人は苦労する時期にトップになっちゃったらしいな。

 

この波の行く末を見届けないままで幻想郷に行くのは少し勿体無い気もするが……ま、向こうでまた波を起こせばいいさ。面白そうな土地だし、それなりのゲームは愉しめるだろう。こっちのゲームの続きはリーゼに見届けてもらうとするか。

 

変化を続ける魔法界のことを思って、レミリア・スカーレットは小さく笑みを浮かべるのだった。

 


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