Game of Vampire   作:のみみず@白月

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一流

 

 

「ふーん? クィディッチね。……魔法使いってのはどうしてこんなにクィディッチが好きなのかしら? それぞれの学生の研究発表会とかじゃダメだったの?」

 

すっかり使い慣れたイギリス魔法省外部顧問室のソファに座りながら、レミリア・スカーレットは立ったまま報告しているブリックスへと問いかけていた。私としてはどこまでも興味が湧かないイベントだな。ワールドカップでかなり詳しくなった自覚はあるが、だからといって好きかどうかは別の話なのだ。

 

私の理不尽な文句を受け取ったロビン・ブリックスは、手元の書類を捲りながら律儀に答えを寄越してくる。

 

「えーっとですね……急に決まったことなので、長い準備期間が必要な催しは無理みたいなんです。」

 

「あら、対抗試合の時の準備期間に比べれば全然マシだと思うけど?」

 

「あれはそこまでの下準備が必要ないイベントでしたので。」

 

「どうかしらね。私が思うに、ドラゴンと生徒を向き合わせるのに『そこまでの下準備』を必要としなかったのがバグマンの失態の一つなんじゃない?」

 

つまるところ、先日フランス大臣が言っていた『七校の交流』が国際間で形になってきたらしいのだ。連盟は七大魔法学校を仲良しこよしにするための手段として、魔法使いとしてはお決まりのクィディッチを選択したらしい。各校の代表チームでトーナメント戦を行うんだとか。

 

まあ、私情を抜きにすれば良い選択ではあるな。各校にはそれぞれの競技場が既にあるわけだし、やるのが世界的なスポーツなら言語の壁も然程影響しないはずだ。新大陸では『クォドポット』というクィディッチから派生した競技の方が主流なようだが、それでも北アメリカにはクィディッチの公式チームがいくつかあるし、イルヴァーモーニーの各寮にもチームがあるらしい。特に問題ないだろう。

 

私が放った嫌味に対して、ブリックスは愛想笑いを浮かべながら曖昧な首肯を返してきた。何だかんだでこういうところが気に入られるんだろうな。こいつはあまり人の悪口を言わないのだ。敵を作ろうとしないヤツは出世できないが、人間としては好かれるだろう。若き日のコーネリウス・ファッジを思い出すぞ。

 

「いやぁ、僕にはそれを判断することは出来ませんけど……バグマン部長は張り切ってるみたいですよ? 国際協力部に頻繁に打ち合わせに来てますから。」

 

「……ひょっとして、イギリス魔法省は今回のイベントを魔法ゲーム・スポーツ部主導にするつもりなの?」

 

「まだ確定してません。うちの部長はやる気がなくて、尚且つバグマンさんはやる気満々なので、もしかしたらそうなるかもしれませんね。」

 

「私の管轄じゃないし興味もないけど、あんな男に国際機関との連携を任せるべきではないとだけは伝えておくわ。外部顧問としてね。」

 

真剣な表情で言ってやると、ブリックスは目を逸らしながらまたしても曖昧に頷いてくるが……知らないぞ、私は。国際協力部としては長い戦争で疲弊しているから、ヒマヒマ状態が続いていたゲーム・スポーツ部にぶん投げたいって気持ちは分かる。とはいえ、ぶん投げたものが大きくなって返ってくる可能性を考慮しないのは問題じゃないか?

 

ま、いっか。それで苦労するのは見て見ぬ振りをした協力部と、延いては全ての責任者であるボーンズだ。死喰い人に比べれば『可愛らしい』問題だし、去り行く私としては知ったこっちゃあるまい。さすがのバグマンも『こっちの方が盛り上がりそうなので、ブラッジャーの代わりにドラゴンを使います』とは言わないだろうし。

 

ブリックスから渡されたふわふわした計画書を横に退けて、別の問題に話を移す。今の私には他に考えるべきことがあるのだ。

 

「七校合同のクィディッチイベントに関しては理解したわ。私は関わらないから好きにやって頂戴。……それより、『委員会』の方はどうなってるの?」

 

「あーっと、マグルへの対策を話し合う委員会ですよね? 正式名称はまだ未定で、イギリスから誰が出るかも未定ですけど、議長はもう本決まりみたいです。アルバート・ホームズって人だとか。」

 

「……まあ、順当ではあるわね。」

 

フランス大臣からの知らせを受けた後、手分けしてホームズに関する情報を集めたのだが……分かったのは彼がマグルの専門家と言って差し支えない知識と経験を保有しており、かつ恐ろしく用心深い男だという事実だけだ。きな臭い噂は多く、逆に有能さを感じる逸話も多々集まったものの、ついぞ肝心な部分には辿り着けなかったのである。

 

記録上の出身地はマサチューセッツとニューハンプシャーの州境にある田舎町で、年齢は三十三歳と議員にしてはやや若め。魔法学校を卒業せずにフランスの親戚の家で魔法を学び、新大陸に戻ってからは数年の杖認可局でのキャリアを経てマクーザの議会入りを果たしたらしい。……だが、出身地とされている田舎町は過疎により消えていたし、フランスの親戚とやらも記録を調べたら死亡済み。結婚はしておらず、存命の身内も居らず、目立った友人関係もない。議会入りする前や私生活についての記録は殆ど見つからなかったのだ。

 

議会での主張は最初期から一貫して『ノーマジ贔屓』のものばかりで、やり過ぎな内容と現実的な内容が半々ほど。前者はあくまでポーズなのだろう。マクーザから取り寄せた公開議事録を見るに、弁はそれなりに立つようだ。無論、やり合っても負ける気はしないが。

 

所属している派閥は自身がリーダーをしている『統一協会』で、凶悪犯の捜査を担当する闇祓い局とは頗る仲が悪く、もっと身近な治安維持を担当している魔法保安局とはベタベタの関係らしい。ちなみに統一協会の理念は『ノーマジと魔法族との境を無くし、種として統一すること』なんだとか。派閥の規模としては小さいようだが、影響力はそこそこあるようだ。

 

そして、最も気になっているスクリムジョールが教えてくれた『黒い噂』に関しては……残念ながら、何一つ確かなことは分からなかった。香港自治区の窓口になっているサルヴァトーレ・マッツィーニ曰く、『普通に生きていたらもう少し情報が集まるはずなので、不自然であることは間違いない』とのことだ。要するに意図的に自分のことを隠そうとしていることまでは分かったが、実際に何を隠しているのかは不明ということである。

 

うーむ、一番厄介なタイプだな。出来れば議長の席には他の分かり易い人物を当てたかったが、ホームズのマグルに対する知識は本物だし、推す声も中々に強かった。私、ダンブルドア、パチュリー、グリンデルバルドで決めた目標は『魔法族に自分の頭で考えさせる』というものだ。だからそこまで深く干渉しなかったのが裏目に出ちゃったな。

 

今からでも私が影響力をフルに使えば、強引に議長の席をもぎ取ることも不可能ではないはずだが……まあうん、それは目的に沿った行為ではない。強行策を取れば後々に響くヒビを入れちゃうかもしれないし、民意がホームズに向いているのであれば従うべきだろう。

 

スキーターが煽りまくっている甲斐あって、ヨーロッパの魔法使いたちのマグルに対する意識は改善されてきている。他国の動きもそう悪くないようだし、委員会が正式に稼働し始めれば更に加速していくだろう。後は委員会主導で勝手に話し合ってくれるはずだから、そこで私の手から離れていく予定だったのだが……このままだと嫌なしこりが残っちゃいそうだな。グリンデルバルドやマッツィーニなんかは調査を継続しているらしいので、私が去る前に何か明確な情報が入ってくることを祈るばかりだ。

 

入手したホームズの顔写真……快活そうな表情の中にどこか人形めいた無機質さを覗かせる男を思い出していると、ブリックスが気遣うような声色で質問を飛ばしてきた。

 

「あの、何か心配なんですか?」

 

「んー……ちょっとだけね。ホームズって男は嫌な噂が多いのよ。それが委員会に悪影響を及ぼさないかが心配なの。折角ここまで漕ぎ着けたのに、その所為で潰れちゃったら目も当てられないわ。」

 

「調べておきましょうか? ……僕の権限で出来ることなんて高が知れてますけど。」

 

お人好し感を漂わせながら本気で案じてくるブリックスに、苦笑を浮かべて首を振る。それほど役には立たないが、忠誠心がある小型犬ってとこかな。餌くらいはくれてやろうという気にさせるヤツだ。

 

「ボーンズやスクリムジョールが動いてくれてるから平気よ。ついでに言えばグリンデルバルドなんかもね。」

 

「あー、なるほど。それなら僕の立ち入る隙はなさそうですね。」

 

「というか、貴方はそろそろ自分の出世を考えなさい。上層部との繋がりもあるし、目指そうと思えばもう少し上に行けるでしょう?」

 

「えっと、部長にもそう言われちゃいました。実は東ヨーロッパの区長補佐にならないかって打診されてるんです。」

 

東欧の区長補佐か。そこまで大きな役職ではないが、ブリックスの若さだと大抵は役職なしの下働きだ。普通はあと二、三年経ったあたりでその辺の役職になるのを考えるに、協力部だと結構な出世と言えるのかもしれない。

 

「あら、良かったじゃないの。東欧はこれから連邦解体で大きく動くし、ロシアとの関係も改善されつつあるわ。波に乗ればそのまま出世できるかもしれないわよ?」

 

ポーランドとは昔から仲が良いし、問題が起こるとすればハンガリーかチェコあたりだろうが……まあ、この時勢なら暫くは穏やかに進むだろう。本心から口に出した私の言葉に、ブリックスは何故か困ったような顔で応じてきた。

 

「いやその、ありがたい話だとは思うんですが……大丈夫なんでしょうか? 僕で。」

 

「貴方ね、折角のチャンスを棒に振るつもりなの? 目の前に快速のレールがあるのよ?」

 

「棒に振るというか……つまり、迷惑をかけちゃうんじゃないかと思いまして。期待してくれるのは嬉しいんですけど、僕よりもっと経験豊富な人も居ますし。それにですね、出世にはあんまり興味がないんです。お給料はもう充分貰ってますから。」

 

うーん、この前ボーンズが嘆いていた『最近の若い職員は云々』を思い出すな。昔は他人を蹴落としてでも出世を目指したもんだが、近頃の世代はむしろ協調を重視するらしい。役職をどうぞどうぞと譲り合う光景も珍しくないようだ。

 

私はまあ、大昔の政敵を暗殺してたような時代を知っているので、これも順当な文明化の一つなのかななんて思っていたのだが……実際に変化を目の当たりにしてみると中々興味深いな。ブリックスの発言は昔の魔法省では絶対に聞けなかったものだぞ。

 

ハングリー精神による成長が衰えたと捉えるべきか、職員同士が尊重し合う先進的な機関になったと捉えるべきか。……むう、物凄く微妙だな。部内や部署間の出世競争が沈静化すれば、結果的に省内の連携力は増すだろう。だが反面、個々人の能力で見れば昔に劣ってくる可能性も捨てきれない。

 

良いことなのか悪いことなのかはさっぱり分からんが、兎にも角にも時代は変わりつつあるということか。さすがに上層部の権力闘争が収まるとは思えないものの、これから先は『最近の若い職員』たちが魔法省を動かしていくのだから。

 

その典型例たるブリックスへと、しみじみとした思いで助言を送った。

 

「貴方の将来についてそこまで意見するつもりはないけど、今回の話は受けておきなさい。……今の給料だと結婚した時に厳しくなるわよ。子供が出来たら尚更ね。薄給な所為で趣味とかに金をかけられなくなるのは嫌でしょう?」

 

「結婚だなんて。……その、相手も居ませんし。」

 

「さて、どうかしらね。神秘部の女性職員と良い仲だって聞いてるけど?」

 

変わり者集団の一人と昼休みに逢瀬を重ねているようじゃないか。さらりと言ってやれば、ブリックスは驚愕の表情で口を開く。

 

「へ? ……な、何で知ってるんですか?」

 

「外部顧問は何でも知ってるのよ。政治家ってのは人間を操る職業だからね。自分の『庭』の人間関係はそれなりに把握しているの。」

 

「……僕、今までで一番スカーレット女史を恐ろしく感じてます。職員同士の恋愛がどうなったら政治に関わるんですか?」

 

「愛ってのは弱みにも強みにもなるのよ。それをナメてると痛い目に遭うの。……変人の爺さんから嫌ってほど教わったわ。」

 

組織を操って地位を得るのは二流、人を操って忠誠を得てこそ一流なのだ。ニヤリと笑って肩を竦めた私に、ブリックスはきょとんとした顔で首肯してきた。

 

「よく分からないですけど、区長補佐の件は受けることにします。……結婚を考えるわけではないですよ? 一応です。一応。」

 

「はいはい、頑張りなさい。男も女も金は一つのステータスよ。何をするにも必要になるんだから、持っておくに越したことはないわ。」

 

「スカーレット女史の見た目でそういうことを言われると悲しい気分になりますね。」

 

「余計なことを言ってないで仕事に戻りなさい。次は区長を目指すためにあくせく働くのよ。」

 

じろりと睨んで言い放ってやると、ブリックスは慌ててお辞儀してから部屋を出て行く。……まあ、あの感じならそう悪くないレールに乗れそうだな。特急ではないが、鈍行でもない。ちょうど良いスピードで出世しそうではないか。私の審美眼もまだまだらしい。

 

次世代の若人たちのことを考えながら、レミリア・スカーレットは目下の仕事に向き直るのだった。

 

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