Game of Vampire   作:のみみず@白月

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ホグワーツの新米教師

 

 

「ねえ、ホラス? どうしてこんなことになっちゃったの? 私には全然分かんないよ。」

 

惨憺たる有様の地下教室を前に、テッサ・ヴェイユは大きくため息を吐いていた。充満する鼻を突く臭気と、大鍋からデロデロと溢れ出る蛍光色の粘液。酷すぎるな。悪夢の中だってもう少しマシな光景が見られるはずだぞ。

 

採点する教師にとっても地獄の学期末テスト期間が終わり、生徒たちが家に帰る準備を始めている六月二十七日の昼前。今年の夏休みは前半に休暇をもらえることになった私も自室で色々と準備を進めていたところ、魔法薬学の教師たるホラス・スラグホーンからの救援要請を受け取ってしまったのだ。

 

『ちょっとしたトラブル』の解決を手伝って欲しいという紙飛行機の手紙を読んで、仕方ないなぁと軽い気持ちで地下教室まで来てみたわけだが……うん、全然ちょっとしてないな。どうやら私はまたしても先輩教師に騙されてしまったらしい。

 

ジト目で睨み付ける私へと、ホラスは自慢の髭を弄りながら言い訳を放ってくる。ダンブルドア先生やディペット校長を真似ているつもりらしいが、生えない部分がある所為でセイウチにしか見えないぞ。

 

「いやなに、昨晩ベッドの中で非常に画期的な調合方法を思い付いてしまってね。それを試していたんだよ。」

 

「あー……そう。『画期的』ね。私もそう思うよ。何をどうしたらこうなるのかさっぱり分かんないもん。ピーブズが厨房のゴミ箱に増殖爆竹を投げ込んだ時より酷いんじゃない?」

 

「うん、失敗であることは認めよう。だが、これがいずれ偉大な成功に繋がるんだ。つまりだね、必要なプロセスなんだよ。分かるかい?」

 

「後片付けを手伝わされる私からすれば違うけどね。単なる失敗だよ。っていうか、大失敗。ヴェンタス(吹き飛べ)。」

 

言いながら杖を抜いて、空気を入れ換えるために突風を吹かせた。まあ、もう慣れたさ。ホグワーツで一番の新米教師はこの私なのだから。である以上、先輩教師たちから扱き使われるのは仕方がないことなのだ。

 

新人が入ってきたら絶対に、絶対に優しくしてあげよう。私はこの経験を反面教師にしてみせるぞ。もう何度目かも分からんような決意を固める私に、ホラスも杖を振って粘液を消し去りながら話しかけてくる。

 

「夏休みの予定は決まったかい? 今年は長めにもらえることになったんだろう?」

 

「んー、オルレアンの実家に帰ろうかなって。パパとママが帰ってこいって煩いんだよね。……嫌になっちゃうよ、本当に。」

 

「ほっほー、それは富める者の悩みというやつだね。帰っておきなさい、テッサ。嫌になれるうちに帰っておくんだ。それが良い人生を送る秘訣だよ。」

 

深い経験を感じさせる笑みで言ってくるホラスへと、思わず反射的に頷きを返す。……何だかんだでやっぱり熟練の教師だな。未だに私は『生徒扱い』を抜け出せないらしい。

 

ホグワーツの教師になってもうすぐ四年。全然成長できていない自分にやれやれと首を振っていると、粘液の処理を終えたホラスが思い出したように言葉を寄越してきた。

 

「ああ、フランスに行くなら忘れないうちに伝えておこう。向こうの魔法省に勤めている私の友人の──」

 

「お見合い話ならやめてね、ホラス。どうせ家に帰ったらママからしつこく言われるんだから。」

 

「君が嫌なら無理にとは言わないが……お見合いもそう悪いものではないよ? 重要なのは出会いの形ではなくて、相手の人柄だろう?」

 

「結婚なんてまだ早いよ。それに、私は『ヴェイユ』じゃなくてきちんと『テッサ』を見て欲しいの。……これって我儘?」

 

実家から届いた山のようなお見合い状。開封もせずにクローゼットの奥に仕舞い込んだそれらのことを考えつつ聞いてみれば、人生の大先輩は苦笑いで助言をしてくれる。

 

「いいや、我儘なんかじゃないさ。それは非常に先進的で、かつ当然の望みだ。しかし、それに縛られすぎるのも良くないね。私はお見合い結婚で幸せになった夫婦を数多く知っているよ? ……何れにせよ、君はまだ焦るような歳じゃない。ゆっくり考えなさい。」

 

「……ん、そうする。」

 

ホラスの言う通りだ。私はまだ二十代前半、人生これから。……いつまで使えるのかなぁ、この言い訳。タイムリミットがあることを自覚しつつ、今日のところは目を逸らして教室の片付けに集中するのだった。

 

───

 

そして悪夢のお掃除作業も終わり、ご機嫌なホラスに見送られて薬学の教室を出た後、薄暗い地下通路を歩いていると……ああもう、早くも次のトラブルか。前方の空き教室の中から二人の生徒が『飛び出てくる』のが目に入ってきた。自前の足で自発的に出てきたというよりも、誰かに外まで吹き飛ばされたというご様子だ。本当に退屈しない学校だな!

 

「こら、何やってんの!」

 

とりあえず怒鳴りながら近付いてみれば、杖を片手に立ち上がろうとしている二人の下級生と、教室から顔を覗かせる一人の上級生がこちらに視線を送ってくる。二年の優等生コンビと五年生の秀才どのだ。教員会議で名前が頻出する濃い面子じゃないか。

 

「今日はハッフルパフ以外が減点される日みたいね。……ミネルバ、フィリウス、エバン。それぞれ言い訳はあるかしら? 私は聞く耳くらい持ってるわよ?」

 

私が『怒ってますよ』と腰に手を当てて放った問いかけに対して、先ずはグリフィンドールの二年生が応じてきた。十三歳にしてはやや高めの身長に、キリッとした眉が特徴的な女生徒。筆記の学年トップであるミネルバ・マクゴナガルだ。

 

「言い訳はしません。ですが、間違ったことをしたとも思っていません。私たちにはロジエールに挑む正当な理由があったんです。」

 

「なら、その『正当な理由』とやらを教えて欲しいわね。」

 

「彼がレイブンクローの二年生にちょっかいをかけたんです。つまり、その……個人の名誉に関わるようなちょっかいを。口外しないで欲しいと頼まれたので口にするつもりはありませんが、黙って看過するにはあまりに無礼な行いでした。同級生として許せません。」

 

「だから決闘を仕掛けたってこと? 五年生相手に?」

 

度胸だけは評価するが、そういう時は教師を頼ってほしいぞ。痛む頭をさすりながら発した質問に、今度は隣のレイブンクロー生が答えてくる。平均よりもかなり小さな身長と、きっちり整えられた栗色の髪。二年生のレイブンクローではリーダー格となっているフィリウス・フリットウィックだ。ちなみにこっちは実技のトップ。総合だと僅差でマクゴナガルに軍配が上がるが。

 

「僕たちは話し合いで決着を付けようとしましたが、ロジエールがいきなり杖を抜いたんです。だからこちらも応戦せざるを得ませんでした。最初から決闘を吹っかけたわけではありません。」

 

「なるほどね。……それで、そっちの言い分は? エバン。」

 

二人の二年生が睨む先に話のテーブルを回してみると、洒落たネクタイピンを着けているスリザリン生が返答を寄越してきた。エバン・ロジエール。私が七年生の年に入学してきた男子生徒で、六、七年生を差し置いて現在のスリザリン寮のリーダーとなっている秀才だ。

 

「何かしらの不幸な行き違いがあったことは認めましょう。二年生である彼らに怪我をさせかねなかった行為だったことも反省しています。……しかしながら、先に杖を出してきたのは彼らの方ですよ。とても可愛らしい火花を私に放ってきましてね。穏便に取り押さえようとしたのですが、中々どうして才能がある二人組のようだ。こんな結末になってしまいました。いや、我ながら情けない話です。」

 

薄っすらとした笑みで言ったエバンに、フィリウスが怒りに染まった顔で反論を繰り出す。この小さな二年生はレイブンクローとグリフィンドールでハットストールを起こした後、レイブンクローに組み分けされたらしい。そしてマクゴナガルは同じ経緯を辿ってグリフィンドールに行き着いた。結果として誕生したのがこの奇妙な二人組。時に競い合い、時に協力し合う勇猛果敢なレイブンクロー生と思慮深いグリフィンドール生というわけだ。

 

「この上嘘を吐く気か、ロジエール!」

 

「おや、小鬼もどきが何かを言っていますね。自分に不都合なことを忘却するのは血の為せる業ですか? 小さな頭で覚えておけるのは貸した金額だけのようで。」

 

皮肉げな口調で挑発するエバンへと、フィリウスを抑えながら注意を飛ばす。

 

「エバン、その発言はいただけないわね。ホグワーツでは誰もが平等よ。そのことを忘れないように。」

 

「おっと、これは失礼しました。私としたことが重要なことを忘れていたようです。この学校は『慈善事業』に力を入れているんでしたね。……謝罪するよ、ミスター・フリットウィック。君は確かに薄汚れた小鬼の血が混じった『半ヒト』だが、ヴェイユ先輩の言う通りこの学校では平等だ。今日の諍いは水に流して共に勉学に励もうじゃないか。」

 

「スリザリンから二十点減点。……理由を説明して欲しい?」

 

「理由は必要ありませんが、不本意であるということは伝えておきましょう。貴女なら何が正しいのかを理解できるはずだ。フランス名家の『正しい血』を継承する魔女であり、リドル先輩と友人だった貴女ならね。」

 

リドル。その名前に僅かに心が揺れるのを感じながら、顔には出さずに口を開いた。エバンは一年生の頃にリドルと親しくなり、彼が卒業した後もボージン・アンド・バークスに頻繁に顔を出していたらしい。

 

「二つ間違えてるわよ、エバン。私は何が正しいのかをきちんと理解しているし、リドルとは今でも友人だわ。『だった』じゃないの。」

 

「本当ですか? あの方が今どこに居るのかもご存知ないのでしょう? そんな薄っぺらな関係を『友人』と呼べますかね?」

 

「リドルの方がどう思っているにせよ、私はまだ友人だと思ってるの。……貴方はどこに居るかを知ってるみたいね。」

 

「知っていますよ。言いませんがね。」

 

肩を竦めて答えたエバンは、大仰に一礼してから話を打ち切ってくる。リドルがボージン・アンド・バークスを辞めたことは風の知らせで聞いているものの、その後の消息はまったく分からないのだ。教えて欲しいのは山々だが、まさか生徒から無理に聞き出すわけにもいかない。もどかしいな。

 

「それでは、この辺で失礼してもよろしいでしょうか? 水掛け論では話が進みませんし、これ以上減点されては寮の皆に迷惑がかかってしまいます。私の軽い口が余計なことをする前にお暇したいのですが。」

 

「……行っていいわ。ただし、もう問題を起こさないように。」

 

「勿論ですとも。清く正しい学生生活を送りますよ。今までもそうしてきたわけですしね。」

 

こういう時は経験の浅い自分が恨めしいな。どうにか正しい方向に導いてあげたいという思いはあるのだが、実際にどうしたら良いのかが分からない。エバンの方からもそれが透けているからこうやってナメられちゃうのだろう。

 

遠ざかるスリザリン生の背を見ながら自分の未熟さにため息を吐いた後、気持ちを切り替えて二年生二人に声をかけようとしたところで……彼らの背後からこちらに近付いてくる人物の姿が目に入ってきた。

 

「ありゃ、ダンブルドア先生。どうしたんですか?」

 

立派な髭と、すらっとした長身。最近はスーツじゃなくてローブ姿なことが増えてきた、変身術の熟練教師であるアルバス・ダンブルドア先生だ。ホラスやシルバヌスのことは本人の要望で名前で呼ぶようになったのだが、ダンブルドア先生やビーリー先生なんかは未だにこういう呼び方をしている。何というか……こう、切り替えるタイミングを逃してしまったのかもしれないな。

 

私の呼びかけを受けたダンブルドア先生は、いつも通りの穏やかな微笑みで返事を返してきた。

 

「ほっほっほ、先程一階の廊下で出会ったミス・バーンスタインが色々と教えてくれてね。勇敢な同級生のことを助けてあげて欲しいと頼まれてしまったのじゃよ。」

 

バーンスタイン? 確か、引っ込みがちなレイブンクローの二年生……なるほど、ミネルバが言っていた『ちょっかい』をかけられた生徒というのはバーンスタインのことだったのか。驚きを顔に浮かべる『勇敢な同級生』二人に、ダンブルドア先生は柔らかい声色で続きを語る。

 

「心配せずともミス・バーンスタインの顔は綺麗な状態に戻っておるよ。彼女は呪いで多少『ごちゃついて』しまった顔を他人に晒してでも、君たちの危険を伝える方が重要だと考えたようじゃ。……友のために上級生に食ってかかる心意気は天晴れじゃが、次からは先ず医務室に行くべきじゃな。新任の校医さんはとても優秀な方なのじゃから。」

 

優しさと威厳を兼ね備えた雰囲気のダンブルドア先生に諭されて、申し訳なさそうに小さくなってしまった二年生二人へと、イギリスの英雄どのは茶目っ気たっぷりにウィンクしながら褒め言葉を付け足した。

 

「しかしながら、同級生を想うその心は実に素晴らしいものじゃ。他者の為に行動するというのは容易な選択ではない。それが危険を伴うのであれば尚更じゃよ。そのことに敬意を表して、レイブンクローとグリフィンドールに十点ずつを差し上げよう。」

 

「……ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます、ダンブルドア先生。」

 

「うむ、うむ。それでは医務室に行きなさい。ミス・バーンスタインが君たちのことを心配して待っておるよ。早く無事な姿を見せてあげねばのう。」

 

元気に勢いよく頭を下げたフリットウィックと、礼儀正しく深々とお辞儀したマクゴナガル。礼をするのも対照的な二人の二年生は、ダンブルドア先生に促されて一階に続く階段の方へと早足で歩いて行く。小さくなっていくその姿を見送りつつ、何とも情けない気分でダンブルドア先生にお礼を放った。

 

「助かりました、ダンブルドア先生。こんなに綺麗に終わらせるのは私には無理でしたから。……全然成長できてないですね、私。教師っぽくなれないままです。」

 

「ふむ、今日は一段と悩んでいるようじゃな。……無理に教師らしくある必要はないと思うがのう。歳を取ったわしには話せないことでも、君が相手なら話せるじゃろうて。逆もまた然りというだけのことじゃよ。」

 

「だけどこう、私がなりたいのは『友達先生』じゃないんですよね。……分かります? この感覚。」

 

仮にダンブルドア先生が相手であれば、さっきのエバンの態度は変わっていたはずだ。別に偉ぶりたいわけでも、無理に尊敬して欲しいわけでもないのだが……むむう、上手く言えないな。もどかしい気持ちを顔で表現しながら聞いてみると、ダンブルドア先生はクスクス微笑んで頷いてきた。

 

「分かるよ、テッサ。わしも大昔に同じことを悩んだからのう。」

 

「ダンブルドア先生にもそんな時期があったんですか?」

 

「ほっほっほ、わしとてこの姿のまま生まれてきたわけではないのじゃよ。多くのことを学んできたし、それに勝る数の失敗もしてきた。……君はホグワーツに入学したての頃、上級生が眩しく見えなかったかね? 見事な杖捌きで易々と呪文を使う先輩たちのことが。」

 

「そりゃあ、見えました。アリスと二人でカッコいいねって話してましたもん。」

 

うーん、今では遠い昔に思えるな。まだ子供だった一年生の頃を思い出しながら同意した私に、ダンブルドア先生は人差し指を立てて話を続ける。

 

「しかし、上級生になった後は『こんなものか』と思ったじゃろう? 想像していた以上に平凡で、ひどく日常的なものを感じたはずじゃ。あるいは感じすらしなかったかもしれんのう。」

 

「んー、言われてみれば。」

 

「結局のところ、人生というのはその繰り返しなのじゃよ。入学する前は杖を持てることを羨み、杖を手に入れた後は上級生を尊敬し、上級生になると目指す職業に期待する。そして目指す職業に就いた後の姿が……ほれ、今の君だということじゃ。」

 

「……なんか、夢のない話ですね。」

 

思い当たる節があるからそう思ってしまうのだろうか? 苦い顔で文句を呟いた私へと、ダンブルドア先生はゆったりと首を振りながら口を開く。先達の同僚としてではなく、懐かしい教師としての表情だ。

 

「そうかね? わしはこれほど夢のある繰り返しは他にないと思うよ。……全ては繋がっているのじゃ。嘗ての君が憧れていた場所に今の君が立っており、そして今の君はもっと先にある場所に憧れておる。それを人は進歩と呼び、また成長と呼ぶのじゃから。……何より素晴らしいのは、この繰り返しが個別のものではないということじゃな。君が誰かの背中を眺めている時、君の後ろに居る誰かも君の背中を眺めている。そうやって世代は受け継がれていくわけじゃよ。」

 

むう、急に壮大な話になってきたな。感慨深そうに言ったダンブルドア先生は、目をパチクリさせている私に気付くと、申し訳なさそうに苦笑しながら話題を締めてきた。

 

「ううむ、わしは相変わらず話を纏めるのが下手じゃな。ついつい余計なことばかりを口走ってしまう。……つまりだね、テッサ。君が杖を手に入れ、上級生になり、そして教師になったように、いつの日か『友達先生』を抜け出せる日も必ず訪れるというわけじゃよ。無論、その先には新たな背中が待っているわけじゃが。」

 

「えっと……要するに、悩みはなくならないってことですか?」

 

「うむ、そういうことじゃな。だから諦めてほどほどに悩むのじゃ。どうせ尽きない悩みなら、愚者になって適当に受け止めるのが一番じゃよ。わしの友人には真正面から悩み抜いて、猛スピードで先へ先へと進んで行く賢者も居たのじゃが……まあ、あの生き方は唯一無二。他の誰にも真似できんじゃろうて。」

 

どこか自慢げに、それでいてほんの少しだけ羨ましそうに言ったダンブルドア先生だったが……気を取り直すように首を振ると、私に一つの報告を送ってくる。ダンブルドア先生にも目指す背中があるのだとすれば、その『猛スピード』の人なんだろうか?

 

「さて、さて。こんな話題も楽しいものじゃが、今日はわしらに客人が訪ねて来ていてのう。この辺で移動しておこうではないか。実のところ、ミス・バーンスタインに助けを求められる前は君を探していたのじゃよ。」

 

「客人、ですか?」

 

「さよう。少し前にアリスがホグワーツに駆け込んできたのじゃ。彼女によれば、わしと君に重要な話があるとのことじゃった。心当たりはあるかね?」

 

「アリスが? 心当たりは無いですけど……だったら早く行かないとダメじゃないですか! ほら、行きましょう。私の悩みなんか後回しです!」

 

アリスは私と違って常識人なので、『ホグワーツに駆け込む』などという非常識な行為は早々しないはず。つまり言葉通りに重要な話があるということだ。いつもの彼女がする『重要な話』は人形の服のボタンの数とか、バートリさんへのクリスマスプレゼントについてとかだが……今回はどうも違うらしい。

 

親友の『重要そうな重要な話』が気になって慌てる私へと、ダンブルドア先生は微笑ましげな顔で応じてきた。

 

「それでは行こうか。大広間で待ってもらっておるのじゃ。」

 

「はい!」

 

先導するダンブルドア先生の頼もしい背に続きながら、テッサ・ヴェイユは久々に親友に会えることに小さな笑みを浮かべるのだった。

 


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