Game of Vampire   作:のみみず@白月

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落ちない終わり

 

 

「……っ! デパルソ(除け)!」

 

破砕呪文で浴びせかけられたステージから剥がれた木片を衝撃呪文で吹き払いつつ、アリス・マーガトロイドはちらりと頭上に視線を送っていた。ようやくここまで接近できたな。ステージの天井から糸で吊るされたクロードさんと二人の少女。早くラメットさんを無力化して助け出さねば。

 

パチュリーと少女の身体を操っている魔女が戦いの場を移し、私とテッサがラメットさんと杖を交え始めてから一分ほど。戦況としてはかなり有利な状態を保てている。ラメットさんの杖捌きは見事なものだが、それでも二対一を覆せるほどではないらしい。このままいけば近いうちに押し切れるだろう。

 

戦闘の余波か、あるいは老朽化で穴が空いている箇所に足を置かないように気を付けつつ、舞台袖へと後退を続けるラメットさんに呪文を撃ち込む。もちろんテッサと息を合わせながらだ。

 

「ステューピファイ!」

 

「エクスペリアームス!」

 

ブナノキとイトスギの杖から放たれた二つの赤い閃光は、ほぼ同時にラメットさんに向かって飛んでいき……よし、決まったな。片方を何とか無言呪文で打ち消したラメットさんだったが、もう片方の閃光が身体に激突した。杖を手放して倒れたのを見るに、テッサの武装解除を食らったようだ。

 

アクシオ(来い)。……テッサ、一応縛っちゃってくれる? 動かないし、呪文の衝撃で気絶したんだと思うわ。」

 

「ん、分かった。」

 

引き寄せ呪文で落ちた杖を回収した後、テッサがラメットさんを縛り付けるのを尻目に人質たちへと向き直る。終始無言だったラメットさんのことも気になるが、事情を訊くのは後回しだ。先ずは三人を助け出さねば。

 

ディフィンド(裂けよ)。……モリアーレ(緩めよ)!」

 

あの高さから落ちたら怪我をしちゃうだろうし、一人一人落ち着いて救出していこう。慎重に狙った切断呪文で糸を切って、落ちてきた四歳くらいの赤毛の少女をクッション呪文で受け止めたところで……背後からテッサの鋭い警告が響く。

 

「ひゃっ、プロテゴ! アリス、スペア持ってる!」

 

スペア? 何事かと慌てて振り向いてみれば、ギリギリで呪文を防いでいるテッサと、彼女に追撃を撃ち込もうとしているラメットさんの姿が目に入ってきた。スペア……スペアの杖か! 戦闘職の魔法使いは持つことがあると耳にしたことはあるが、実際に持っているのは初めて見たぞ。

 

何にせよ、援護しなければ。至近距離で戦う二人の横合いから、失神呪文を放とうと杖を振り上げ──

 

「だめだよ、お姉ちゃん。」

 

「ちょっと、何を?」

 

ようとした瞬間、気を失っていたはずの救出した少女が私の腕を抱いて妨害してきた。いきなり目覚めて混乱しているのか? 多少乱暴に振り解こうとするが、私の杖腕を抱き締めている少女は決して離れようとしない。

 

「離して、今は──」

 

「だめだもん!」

 

防戦一方のテッサを見て、もう我慢できないと少女ごと杖をラメットさんに向けようとすると……痛ったいな! 少女は私の手首にがぶりと噛み付いてくる。手加減ゼロの本気噛みだ。めちゃくちゃ痛いぞ。

 

「いっ……たいわね! ステューピファイ!」

 

子供でも顎の力は強いんだななんて場違いなことを考えつつ、それでも強引にラメットさんの方に失神呪文を飛ばすと、空中を走る二つの閃光が同時に標的へと吸い込まれた。一つは私が放ったラメットさんへの呪文で、もう一つはラメットさんが放ったテッサへの無言呪文だ。

 

「テッサ!」

 

あの速度で放たれた無言呪文であれば、そこまで強力な魔法じゃないはず。そう自分を励ましながら倒れ込むテッサに駆け寄ろうとするが……ええい、何なんだこの子供は。未だ私の手首に歯を立てている少女が妨害してくる。どういう育て方をしてるんだよ!

 

「お願いだから離して頂戴。怖いのはわかるけど、私たちは貴女を助けに来たの。もう大丈夫よ。」

 

落ち着け、アリス。きっと怯えているだけだ。痛みを我慢しながらにっこり笑って語りかけてやると、少女は噛み付いたままで上目遣いになった後、私の手首から口を離してクスクス微笑んできた。口の周りが私の血で真っ赤だぞ。

 

「そんなの知ってるよ。でも、何であたしが元のままだと思ったの?」

 

「へ?」

 

その言葉の意味を認識する間も無く、少女はそれまで以上の物凄い力で私の手首に噛み付くと、堪らず落としてしまった杖を遠くに蹴り飛ばす。……まさか、この子も『人形』になっているのか?

 

即座に杖を取り戻すために動こうとするが、少女は掴んだままの腕を背中に押し付けるようにして私をうつ伏せに倒してしまった。直後に子供では有り得ないような腕力で頭をステージに押し付けられると……くそ、動けないな。加えてズキズキと痛む杖腕はもうまともに使えそうにない。背中に染み込む生温かい液体は私の血だろう。力が全然入らないし、さっきの噛み付きで腱か何かが傷付いてしまったようだ。

 

「……人質は無事じゃなかったの?」

 

何とか頭を横にして背中にのしかかる少女に問いかけてみれば、彼女は先程と同じく可愛らしい口調で返事を寄越してくる。これも『キャラクター』を演じているわけか。不気味なヤツだな。

 

「無事だって保証した女の子は一人だけだもん。だからぶら下がってるもう一人は弄ってないよ。二分の一を外しちゃったね、お姉ちゃん。」

 

「……後学のために聞かせて欲しいんだけど、今の貴女は二つの身体を同時に操ってるってこと?」

 

「あれ、時間稼ぎ? ちょっと稼いだところで無駄だと思うけど……うん、そうだよ。上で図書館の魔女と戦ってる『僕』と、ここでお姉ちゃんを押さえ付けてる『あたし』。二体くらいならギリギリなんとかなるんだ。」

 

「大したものじゃない。私の師匠と戦いながらこんなことが出来るだなんてね。」

 

話しながら左手で杖なし魔法を使おうとするが、何一つそれらしい手応えを感じない。杖腕でも十全に使えないのに、左手じゃ無理か。万事休すかと焦る私へと、少女は得意げな表情で自慢してきた。

 

「えへへ、凄いでしょ。実は自分でも中々凄いと思うんだ。テストは何回もやったんだけど、実戦となるとすっごく難しいの。……でも、そろそろ負けちゃいそうかな。強いね、あの魔女。子供の身体なのに全然容赦してくれないし。」

 

「降参する? 口利きしてあげましょうか?」

 

「そんなのしないよ。あたしの目的はお姉ちゃんだもん。」

 

「あら、どこかへ連れ去るつもりなの? それなら全力で抵抗して時間稼ぎさせてもらうけど。」

 

みっともなく暴れ回ってやるぞ。笑みを浮かべながら強がりを言う私に、少女は顔を近付けて否定してくる。唇に付着した私の血をぺろりと舐めながらだ。

 

「この身体はあんまり弄れてないから魔法がまともに使えないし、お姉ちゃんを連れて吸血鬼や図書館の魔女から逃げ切るのは難しそうかな。……だけど、それよりもっと良い方法があるんだ。お姉ちゃんの頭の中に『種』を仕掛けるの。」

 

「種?」

 

「そう、種。お姉ちゃんの思考を誘導して、あたしの所に戻ってこさせるための種。人間を人形にするために色々実験してた時の副産物。……かなり痛いけど、我慢してね。これが終わったらお姉ちゃんもあたしたちと一緒になれるから。」

 

そんなの嫌だぞ。恍惚とした声色で喋る少女の唇が、私の耳にゆっくりと近付く。全力で暴れようとする私の頭を片手で易々と固定した少女は、そのまま耳元で囁いてきた。

 

「いくよ? お姉ちゃん。大丈夫だからリラックスしてね。」

 

直後に少女の舌が耳に触れ、背筋にぞわりとしたものが走った瞬間──

 

「なーにをしてるんだ、キミは。うちの娘に変なことをしないでもらおうか。」

 

私にのしかかっていた少女の身体が、くの字に折れてステージの壁へと吹っ飛んでいく。何が起こったのかと急いで身体を起こしてみると、不機嫌そうな表情で立っているリーゼ様の姿が目に入ってきた。

 

「……リーゼ様?」

 

「いかにも、アンネリーゼ・バートリ様だよ。」

 

「ドールハウスから出てこられたんですか?」

 

「ああ、出てきたとも。怒りと不満と憎しみと共にね。」

 

おー、怒ってる。左手で耳をさすりながら杖が落ちている方へと移動する私を他所に、リーゼ様はステージの奥へとズンズン進んで壁に打ち付けられた少女を持ち上げると……うわぁ、凄い光景だな。幼い少女の顔面を容赦なくぶん殴り始めた。

 

「こいつの所為で随分と苦労させられたよ。アホみたいな数の人形に襲われたり、訳の分からん仕掛けに付き合わされたり、火で炙られたり、水責めにあったり、突風で吹き飛ばされたりね。絶対に許さんからな、キミ。」

 

……それって、半分以上は私とパチュリーの仕業じゃないか? 右手首に癒しの呪文をかけながら話すべきかと迷っていると、少女は泣き顔で言い訳を叫び出す。

 

「やめて、痛いよ! 痛い! ……もうしないから殴らないで! 大体、あたしが用意したのは人形と時間稼ぎの謎解きだけ──」

 

「煩いね。私のフラストレーションは限界を超えてるんだ。泣き叫んでも無駄だよ。死ぬまでやるからね。」

 

「や、やめっ……この身体がどうなってもいいの? 身体の持ち主に罪は──」

 

「どうせもう元には戻らないんだろう? だったらこれは『キミ』だよ。『攫われた少女』じゃない。吸血鬼にありきたりな道徳観を期待しないでもらおうか。」

 

冷たく言い放ったリーゼ様は、少女の首を掴んで思いっきりステージに叩き付けてから……一切の躊躇なくその頭を踏み潰した。ぐちゃりと割れた頭部と、びくりと痙攣した後で動かなくなった胴体。それを一瞥してから赤黒いものに塗れた足を嫌そうに振った後、リーゼ様は杖を抜いて清めの呪文を放ちつつ私に声をかけてくる。

 

「汚いね、スコージファイ(清めよ)。さて、アリス。今の状況を……おいおい、怪我してるじゃないか。見せてごらん。」

 

途端に心配そうな表情になって駆け寄ってきたリーゼ様に手を取られながら、顔を潰された少女の亡骸を見て小さく息を吐く。……私なら絶対に殺せなかったな。そして、殺したことを一概に正しいとも思えない。もう元の少女に戻らないとしても、私ならそれを躊躇なく『破壊』することなんて出来ないはずだ。

 

私の考え方が甘いのか、それともリーゼ様が苛烈なのか。答えが出なさそうな問題に悩みながら、無残な死体のことをジッと見つめていると……リーゼ様が慎重な手付きで私の手首をペタペタと触診し始める。それでも私はこの吸血鬼を否定できそうにないな。こんな風に私の怪我に焦ってくれるリーゼ様もまたリーゼ様なのだから。

 

「結構深くやられたみたいだね。動かせるかい? 変に治療すると後々問題が出るかもしれないし、先ずはパチェに……そういえば、パチェはどうしたんだ?」

 

「えっと、今はどこかで魔女と戦ってます。」

 

「んん? じゃあ私が始末したのは?」

 

「つまりですね、同時に何体か操ってるみたいなんです。パチュリーが戦っている方の人形は魔法を受けても平然としてましたし、こっちのより強力なものなんじゃないでしょうか?」

 

そうじゃないなら、パチュリーが未だに戻って来ないのはおかしいだろう。ある程度戦いが継続しているということは、それなりに強力な人形ということだ。推理を交えながら送った返答を受けて、リーゼ様は倒れているテッサを指差して質問を重ねてきた。

 

「ふぅん? まあ、ヴェイユは救い出したんだろう? 気を失っている状態を『救い出した』と表現できるかは分からんが。……隣に倒れてる人間は誰だい?」

 

「マリー・ラメットって名乗ってきた、フランスに来る時の列車で知り合った女性です。テッサによれば犯人の共犯者なんだとか。」

 

「共犯者? ……いまいち分からんね。あれも人形ってことかい?」

 

「その可能性はありますけど……すみません、私も理解しきれていないんです。普通に杖魔法で攻撃してきて、私の失神呪文で気絶させましたから、強力な人外とかではないと思います。」

 

話している間にようやく右手を診察し終えたらしいリーゼ様は、倒れたままで動かないラメットさんへと歩み寄りながら口を開く。やや警戒している様子だ。

 

「あるいは魔女の弟子なのかもね。キミがパチェに師事しているように、魔女が弟子を取ることは珍しくないんだ。体の良い小間使いとして扱うのが殆どだが……ふむ、本当に気絶してるな。捨て駒にでもされちゃったのか?」

 

「後で事情を訊いてみましょう。……良かった、テッサも気絶してるだけです。呪文で起こしていいですか?」

 

つま先でラメットさんの顔をつんつんするリーゼ様に聞いてみると、彼女は少し考えた後で首を横に振ってきた。ダメなのか。

 

「寝かせといた方が楽だと思うよ。『こっち側』のことは教えていないんだろう?」

 

「いえ、あの……救い出す時、事情を説明するためにちょっとだけ話しちゃいました。ダメだったでしょうか?」

 

「いやまあ、キミが話すに足ると判断したんであれば別にいいけどね。私のことも話しちゃったのかい?」

 

リーゼ様のことは……話してない、よな? 『こっち側』の存在だというのは伝えたかもしれないが、ここに来ていることや吸血鬼であることまでは明言しなかったはずだ。首を左右に振ることで応じると、リーゼ様は肩を竦めて結論を口にする。

 

「なら、やっぱり寝かせておこう。どうせもう終わりみたいだし、今更説明すべきことを増やしても──」

 

リーゼ様が面倒くさそうに何かを言おうとしたところで、頭上から微かな物音がした後、ステージ天井の穴からパチュリーが姿を現す。向こうも決着が付いたようだ。見た限りでは無傷だな。

 

「あら、リーゼ。やっとドールハウスから出られたのね。『偉大なる吸血鬼』の癖に何の役にも立てなかった気分はどうかしら?」

 

「心配しなくてもさっきアリスの危機を颯爽と救ったよ。キミが目を離した所為で生じた危機をね。」

 

「ほんの少しだけ挽回できて良かったじゃない。その前まではずっと私が守ってたわけなんだし。……アリス、大丈夫?」

 

「私は大丈夫だけど、パチュリーは? 魔女はどうなったの?」

 

平時通りに見えるパチュリーに問いかけてみると、彼女はステージに着地しながら端的に答えてきた。

 

「片付けたわ。……こっちも聞きたいんだけど、どうして人質が一人死んでるのかしら? それもかなり凄惨なやり方で。」

 

「それは私がやったんだよ。」

 

「遂に自供したわね、極悪吸血鬼。大人しく罪を償いなさい。アズカバンに本くらいは差し入れてあげるわ。」

 

「本なんか要らんし、魔法使い如きの牢獄に入るつもりもないよ。アリスを襲ってたから踏み潰しただけさ。チェックが甘いぞ、ぽんこつ魔女め。」

 

うーむ、暢気だな。私がラメットさんを拘束している間にいつもの漫才を始めた二人は、残る人質を救出しながらお互いへの口撃を続ける。喧嘩するほど仲が良いってやつか。少なくともパチュリーがこういう態度になるのはリーゼ様と小悪魔さんに対してだけだし。

 

「あのね、悪いけど今日は貴女より私の方が活躍してるでしょう? おもちゃのお屋敷で延々お人形さんごっこをしてたのはどこのどなた? 私はその間にアリスを守りながらヴェイユを見つけ出して、ついでに敵方の最高戦力を片付けたんだけど?」

 

「キミの方が重労働なのは当然のことだろう? キミたちを働かせることこそが当主たる私の仕事なんだから。私はいざという時のために閉じ込められたフリをしていたのさ。……それよりほら、どうしたんだい? 早くこの小娘が人形じゃないかを調べたまえよ。二度も同じミスをやらかさないようにね。」

 

「人間よ、人間。全身生身だし、妙な『加工』は施されていないわ。……そんなことより、閉じ込められたフリっていうのは撤回なさい。どう考えても嘘でしょうが。全然出られなくて焦ってたら、偶々アリスの危機に遭遇できただけでしょう?」

 

「私がそうだと言ったらそうなんだよ。あの程度の魔道具にこの私を閉じ込めておけるわけが……おい、その目はやめたまえ。ただでさえ悪い性格が更に悪く見えちゃうぞ。ほら、その目! その目だよ、ジメジメ魔女め。」

 

とびっきりのジト目になっているパチュリーに、リーゼ様が嫌そうな表情で文句を言ったところで……客席の一番奥にあるドアから第三の人外が入ってきた。服がボロボロになっている美鈴さんだ。

 

「どもー、みなさん。ひょっとしてもう終わっちゃいました?」

 

「おや、一番役に立たなかった迷子の門番が帰ってきたようだね。何処をほっつき歩いてたんだい?」

 

「ひどいですねぇ、地下でずっと戦ってたんですよ? 雑魚ばっかりでしたけど、数が多かったので退屈はしませんでした。概ね満足です。……結局人質らしき人物は見付けられませんでしたけどね。」

 

苦笑しながら近付いてきた美鈴さんは、ぐるぐるに縛られているラメットさんを指差してにっこり頷いてくる。

 

「まあでも、無事みたいじゃないですか。ヴェイユちゃんでしたっけ? 良かったですね。」

 

「あの、その人は犯人の仲間です。テッサはこっちですね。」

 

「あー……まあ、どっちにしろ救出成功ですよ。これからどうするんですか?」

 

やっぱり顔を知らなかったのか。呆れた顔になった私から目を逸らした美鈴さんの疑問に、リーゼ様が腕を組んで返事を返す。……本当にこれで終わりなのか? なんだか呆気ない幕引きだな。

 

「どうするもなにも、キミが助けたことにするんだよ。私はここに居なかったし、パチェのことは……アリス、キミからヴェイユに口止めしておいてくれ。」

 

「それはいいですけど、パチュリーは別にレミリアさんの部下って扱いでいけるんじゃないですか? 何かあればダンブルドア先生だって知り合いなわけですし。」

 

「私はそれでも問題ないと思うけどね。キミは嫌なんだろう? パチェ。」

 

リーゼ様の質問を受けて、パチュリーは当然とばかりの顔付きで大きな首肯を放った。

 

「当たり前でしょう? どうせこの後事情聴取だの状況説明だのをしないといけないのよ? 初対面の闇祓い相手に私がそれをやれると思うの?」

 

「いやぁ、威張って言うことじゃないと思いますけどね。……ってことは、私が全部やらなきゃいけないんですか? 何をどう話せばいいのか分かんないんですけど。」

 

面倒くさいという感情を声色で伝えてきた美鈴さんへと、リーゼ様がどうでも良さそうに適当な返答を送る。

 

「姿を消して助言してあげるから何とかしたまえ。幸いにも役立たずの護衛君は絶賛気絶中だ。多少筋が通らないストーリーでも納得せざるを得ないだろうさ。……こいつ、結局何のために護衛に付いてたんだ? 一度も守れてないじゃないか。」

 

「貴女には言われたくないと思うけどね。ドールハウスの中に──」

 

「ええい、しつこい魔女だな。いつまでもネチネチ言ってると嫌われちゃうぞ。……とりあえず外に出ようか。そこで私とパチェが姿を消して、ヴェイユと口裏を合わせてから魔法省に行けばいい。そしたらさっさと事情を話してイギリスに帰ろう。そこの『共犯者』を犯人として突き出せば闇祓いどもも満足するだろうさ。」

 

「……でも、ラメットさんが色々と話しちゃったりしませんか? 魔女のこととか、人外のこととか、もしかしたら吸血鬼のこととかも。」

 

撤収する気満々のリーゼ様に聞いてみれば、彼女は皮肉げな吸血鬼の笑みで答えてきた。

 

「それを誰かが信じると思うかい? マグルが魔法を信じないように、魔法族だって人外を信じないよ。自分たちの狭い常識に当て嵌めようとするだけさ。それでもその女が騒ぎ続けたら……まあ、フランスの人外どもが勝手に処理してくれるんじゃないかな。『お喋り』の末路がどうなるかなんて相場が決まっているだろう?」

 

「……そういうものなんですか。」

 

「そういうものなのさ。だからそんなに心配しなくても平気だよ。……結局魔女と決着を付けられなかったのだけは不満だが、ゲームのルールは守らないとね。私たちが追わない限り、向こうももう手を出してこないはずだ。これにて終幕だよ。」

 

軽い口調で終わりを宣言したリーゼ様は、そのまま劇場の出口へと歩き出してしまう。気絶しているクロードさんと少女、テッサとラメットさんを宙に浮かせたパチュリーがその背に続き、私も微妙な気分で足を踏み出す。

 

なんかこう、総じて奇妙な事件だったな。犯人の魔女は最後まで本当の姿を現さなかったし、全体を通して謎の行動が多すぎた。本気で私を攫おうとするのであれば、もっと効率的なやり方が幾らでもあったはずだ。

 

何ならヨーロッパ特急の時点で仕掛けてくれば易々と私を攫えただろう。それなのにわざわざ闇祓いへの報告を看過して、グラン・ギニョール劇場で手の込んだ待ち伏せをした後、魔女にとって大切なはずの工房を呆気なく捨てた挙句、この廃劇場に粗だらけの罠を仕掛けた。

 

うーん、モヤモヤするな。掴み所が無いというか、行動が一貫していないというか……まあ、ここで悩んでいても仕方がないか。先ずはテッサへの説明と、バルト隊長に対する報告の内容を考えなければ。リーゼ様とパチュリーの存在を削るとなると、美鈴さんが大活躍したことになりそうだな。

 

腑に落ちない感情を胸の奥に仕舞い込みつつ、アリス・マーガトロイドは出口に向かって廃劇場の通路を歩くのだった。

 

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