Game of Vampire   作:のみみず@白月

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クロード・バルト

 

 

「……ねえ、まだ話してくれないの?」

 

ジト目でこちらを見つめてくるテッサから目を逸らしつつ、アリス・マーガトロイドはこの一時間で何度目かの返答を放っていた。もうちょっと待って欲しいって言ってるじゃないか。

 

人質を助け出した私たちは廃劇場から出た後、ボロボロの服を着替えた美鈴さんと一緒にフランス魔法省に移動したのである。リーゼ様は毎度のように姿を消して、パチュリーは報告が終わるまで図書館に居ると言い残して何処かへ行ってしまった。……この時間に図書館が開いているとは思えないし、ひょっとして忍び込むつもりなのだろうか?

 

ちなみにテッサに対しての『説得』は、美鈴さんが着替えを入手する間に済ませてある。『パチュリーのことは話さずに、美鈴さんに助け出されるまでずっと気絶していたことにして欲しい』という強引な説得を。かなり困惑した様子だったものの、私の真剣な顔を見て一応は頷いてくれたのだが……二人っきりになった今、抑え込んでいた疑問が吹き出してきたらしい。結果として先程から説明しろとせっつかれているわけだ。

 

「後で絶対に話すから、今は勘弁して頂戴。魔法省じゃどこに耳があるか分からないわ。」

 

今私たち二人が居るのは、リーゼ様に助言されながらの美鈴さんがバルト隊長に何があったのかを報告している間、ここで待っていてくださいと通された応接用らしき小部屋だ。もちろん盗聴されているなどとは疑っていないが、事が私だけの問題ではない以上、念には念を入れるべきだろう。『お喋り』がどうなるのかはリーゼ様が教えてくれたわけだし。

 

そう思って送った言葉に、テッサはソファから身を乗り出して呆れたような声を寄越してきた。

 

「あのね、こんな部屋で誰が聞いてるってのよ。……私は闇祓いに嘘まで吐いちゃったんだからね? 納得できる説明が欲しいもんだわ。」

 

「後で説明するってば。レストランにでも行って、そこでゆっくり話しましょう。」

 

「……絶対だからね?」

 

ムスッとした顔で渋々首肯したテッサは、そのまま立ち上がって部屋を歩き回りながら話題を変えてくる。本来は何の目的で使われる部屋なんだろうか? テーブルとソファが置いてあるだけで、他には目立った家具がない小さな部屋だ。ソファはやけに高価そうな一品だし、もしかしたら司法取引とかをするための場所なのかもしれない。

 

「クロードさん、大丈夫かな? 起こす前に検査するって言ってたけど。」

 

「見たところ気絶してるだけみたいだったし、心配ないと思うわ。……私としては女の子の方が心配ね。監禁されている間はどんな生活だったのかしら? トラウマになったりしてないといいんだけど。」

 

「……結局一人だけしか助からなかったんだよね?」

 

「そうなるわね。」

 

第一の被害者がパチュリーと戦った子で、第二の被害者はビスクドールにされた女の子。そして恐らく第三の被害者が私を襲った子だから、第四の被害者が救出された女の子なのだろう。『プショー』の元になった人やグラン・ギニョール劇場での死者も含めれば、今回の事件の犠牲者の数は私が知るだけでも十名近くになってしまう。

 

神妙な顔で黙り込むテッサと、額を押さえてため息を吐く私。部屋の空気が重苦しくなったところで、ドアが軽くノックされると共に入室の許可を求める声が飛んできた。

 

「テッサさん、マーガトロイドさん、入ってもよろしいでしょうか? クロードです。」

 

「わ、クロードさん? 入って入って。」

 

「では、失礼します。」

 

何で急に前髪を整え始めたんだ? 謎の行動をするテッサの許可に従ってドアを抜けてきたのは、二つのマグカップを手に持ったクロードさんだ。彼はおずおずとカップをテーブルに置くと、気まずげな表情でテッサに謝り始める。そう来ると思ったぞ。

 

「……テッサさん、申し訳ありませんでした。私は結局何の役にも──」

 

「あーほら、私はこの通り元気だしさ、クロードさんは『ホラー人形』から守ってくれたじゃん。だから気にしないで……っていうのは無理かもだけど、とにかく私は感謝してるから。謝らなくても大丈夫だよ。飲み物持ってきてくれたの?」

 

ソファに戻って早口で遮りながら聞いたテッサに、クロードさんは落ち込んだ顔のままで肯定の返事を口にした。……グラン・ギニョール劇場では私を守れず、ヴェイユ邸ではテッサを守れず、廃劇場では気絶している間に全てが終わったわけか。相手が相手だけに仕方ないとはいえ、本人はやっぱり気落ちするだろうな。

 

「はい、スカーレット氏の私兵だという女性……マーガトロイドさんのお知り合いの方の報告がまだかかりそうでしたので、お飲み物をと思いまして。」

 

「ありがとうございます。……検査はどうだったんですか?」

 

「全く異常ありませんでした。単に気絶していただけのようです。」

 

私の質問に答えたクロードさんは、部屋に一つだけあるドアを横目に話を続ける。マグカップに入っているのはコーヒーか。イギリスだったら紅茶を出してくれる場面なんだけどな。

 

「未熟ですね、私は。まだまだ学ぶべきことがあると痛感しました。……そういえば、ここに来る途中でマリー・ラメットへの尋問もそろそろ始まると聞きましたよ。」

 

「尋問? 真実薬とかを使うのかな?」

 

「黙秘すればそうなるでしょうね。父が開心術師の申請もしていたようですから。」

 

「……なんか、遣る瀬無い気分になるよ。あの人の言ってたことが全部嘘だとは思いたくはないんだけどなぁ。」

 

コーヒーを飲みながら寂しそうに呟いたテッサへと、私もマグカップに口を付けてこくりと頷く。ヨーロッパ特急では良い人に見えたんだけどな。廃劇場での彼女は冷徹な表情で一言も喋ってくれなかったし、全部見せかけのものだったんだろうか?

 

苦い液体を嚥下した私たちがカップをテーブルに置いたのを確認して、やおらクロードさんが杖を抜いてドアへと呪文を放った。……施錠呪文? 何をしているんだ?

 

「どうかしたんですか? クロードさん。」

 

「あまり意味はないでしょうが、一応やっておこうと思いまして。……ご安心ください、マリー・ラメットは杖魔法で操られていただけですよ。テッサさんと魔法省の廊下で話しているのを見た時、保険として利用しようと考えたんです。『手直し』する時間が無かった所為で服従の呪文を使う羽目になってしまいましたが。」

 

「何を──」

 

不穏なものを感じて杖に手をやろうとするが……くそ、身体がピクリとも動かないな。意識ははっきりしているし、口も問題なく動くのに、首から下だけがまるで言う事を聞いてくれない。向かいに座っているテッサの混乱した顔付きを見るに、彼女も同じ状態のようだ。コーヒーに何か入っていたのか?

 

そんな私たちに構うことなく、クロードさんはテッサの隣に座り込んで会話を進めてきた。声も、顔も、口調も。先程までのクロードさんと全てが同じなのにも拘らず、『別のもの』であることを確信させる雰囲気だ。

 

「とはいえ、結果として大した役には立ちませんでした。ダームストラングでは服従の呪文に抵抗する方法をきちんと教えているようですね。お二人を襲わせるのが精々で、当初予定していた『物語のスパイス』としての役目は果たせず終いです。信じていた人物に裏切られるというのは悪くないストーリーだったと思うのですが……一言も喋ってくれないのでは盛り上がりませんし、そこまで衝撃的な展開に導けません。結局マリー・ラメットが口を開いたのはテッサさんが死にかけた時だけでしたよ。」

 

「……ど、どういうことなの? クロードさんも犯人の仲間だったってこと?」

 

愕然とした顔で問いかけるテッサへと、クロードさんは苦笑を浮かべながら穏やかに応じる。

 

「そう、その反応。私が欲しかったのはそれなんです。……いっそのことテッサさんを操れば良かったのかもしれませんね。しかし、どちらにせよ人形にするには時間が足りませんでしたし、それでは美しいストーリーになりません。もどかしいですよ。グラン・ギニョール座でストーリーを作るときはもっと簡単だったのですが、現実が舞台となると不確定要素が多いようです。様々な場面でいくつも失敗をしてしまいました。」

 

「『貴女』が脚本家としても演者としても未熟なのはよく分かったけど、その前にテッサの質問に答えて頂戴。……大体、これはルール違反じゃないの? 貴女は廃劇場での戦いで決着を付けると約束したはずよ。」

 

「無論、約束は守ります。私は貴女やテッサさんに危害を加えるつもりはありませんし、だからこそ動きを制限するだけの魔法薬を使ったんです。……私はただ、話をしたいだけですよ。マリー・ラメットから闇祓いたちが真実を引き出すか、貴女の怖い保護者が戻ってくるか、それとも職員の誰かが異常に気付くか。その短い時間を『エピローグ』のお喋りに使いたかっただけです。余計な抵抗をされると貴重な時間が減ってしまうので、こんな方法を取らせていただきました。そこは謝罪しておきましょう。」

 

「……その身体も人形なの?」

 

戦意がないことにほんの少しだけ安心しながら、クロードさんに……『魔女』に向けて質問を放つ。私には人外のルールというものがよく分からないが、リーゼ様や美鈴さんは廃劇場で『終わり』であることに疑いを持っていなかった。だったら魔女が言っていることは本当なのだろう。

 

「それは答えに悩む質問ですね。この肉体は今までクロード・バルトとして生きてきたものですし、脳以外は特に弄っていません。である以上、図書館の魔女ですら気付けないほどに限りなく『人間』だと言えるかもしれませんが……まあ、『人形』と定義して差し支えないのではないでしょうか? 自発的に動いているわけではなく、『私』が操っているんですから。」

 

「いつからなの?」

 

「最初からですよ。ビスクドールを貴女に送る以前に弱々しい少女の姿で油断させて攫った後、少し頭を弄って操るための改良を施しました。『挑戦状』を受け取った貴女が選択するであろう手段はいくつかありましたが、情報を得るため闇祓いに接触するというのは予想の中の一つでしたから。……一応人外のルートにも別の人形を潜ませておいたのですが、まさか一番手を出し難い厄介な情報屋を頼るとは思いませんでしたよ。お陰で折角用意した人形がお蔵入りです。」

 

「……つまり、今までずっと操っていたってこと? 廃劇場に攫われる前も?」

 

てっきりそのタイミングで人形にしたのかと思っていたが、出会った当初からずっと『魔女』だったのか。ゾッとしながら問いかけた私に、クロードさんを操っている魔女は即座に首肯してきた。

 

「その通りですが、気付かなかったのは当然のことですよ。父上ですら完璧に騙されていたのですから。……コツを教えてあげましょう。人形にする前に徹底的に調べるんです。口調、立ち振る舞い、性格、視線の動かし方、食べ物や異性の好み、何気ない癖、善悪の判断基準、そしてもちろん詳細な経歴。なぞり切るには経験が要りますが、私は長年の『お人形ごっこ』で慣れています。貴女の近くに居たのは紛れもなく『クロード・バルト』ですよ。……役者としてはそれなりだと見直してくれましたか?」

 

「悪いけど元のクロードさんを知らない以上、私には何とも言えないわね。……まあ、気付かなかったのは認めるわ。」

 

「アンフェアな勝負は好みではないので、ヒントはしっかり提示したのですが……全く気に掛けてくれませんでしたね。ビスクドールと一緒に渡した手紙にバルト家の紋章で封蝋がしてあったでしょう? ならば手紙の差出人はバルト家の人間なわけです。単純明快で、至極当然の帰結ですよ。あれだけ分かり易く身分を示したのに、どうして完全に無視されてしまったのかはむしろ疑問でした。」

 

あの紋章はそういう意味だったのか。バルト隊長の発言から、犯人が闇祓いを挑発しているんだと思い込んでいたが……よく考えてみれば魔女は最初から最後まで闇祓いなんて気にも留めていなかったし、もうちょっと深く考えるべきだったな。

 

内心でそのことを反省しつつ、魔女に向かって最大の疑問を投げかける。

 

「……最初からクロードさんのことを操っていたなら、何故私を襲わなかったの? 何度だってチャンスはあったはずよ。」

 

「決まっているでしょう? そんな結末は面白くないからですよ。これは私が脚本を書いた演劇なんです。それを自分の手で台無しにしたりはしません。クロード・バルトに与えられた役は『観察者』であって、実際に手を下すのは他の人形の役目ですから。……それに、貴女が思うほどチャンスはありませんでしたよ。貴女の側には常に翼が付いた保護者が居ましたからね。強いて言うなら初日に魔法省からヴェイユ邸に移動する途中と、今この瞬間がそれに当たるのかもしれませんが……ご存知の通り今は契約の所為で手を出せませんし、初日の時点ではあまりに早すぎた。私も私で色々と苦労していたんです。」

 

そういえば、リーゼ様はヴェイユ邸のリビングの時点からずっと一緒だったって言ってたな。廃劇場では居なくなったが、代わりにパチュリーが側に居てくれた。唯一二人が離れたあの時……操られている少女に押し倒されたあの時が一番危険な瞬間だったわけか。結局それもリーゼ様に妨害されてしまったが。

 

「それなのに、グラン・ギニョール劇場で戦った時は随分と侮ってかかったのね。」

 

初日のヴェイユ邸の時点でリーゼ様の存在に気付き、それを警戒していたというのであれば、プショーのあの態度は筋が通らないはずだぞ。生じた疑念を言葉に変えてみると、魔女は困ったように微笑みながら返答を寄越してくる。

 

「貴女はまだ理解しきれていないようですね。『プショー』、『僕』、『あたし』、そして『クロード・バルト』。皆単なる登場人物に過ぎないのですよ。それぞれのバックボーンがあり、それぞれの考え方をする独立した演者たち。彼らの思考が脚本家であり演出家でもある『私』と異なっているのは当然のことでしょう? ……廃劇場で『クロード・バルト』が『僕』の遊びを邪魔したように、演者たちは時に私の意思に反する行動だって選択します。役になり切ってこそのお人形ごっこなんですから、そればかりは仕方がないことなんです。」

 

「自分で操っている癖に自分の意思に反する? 意味が分からないわ。……それなら『貴女』の目的は何なの? 一体全体何のためにこんなことを仕出かしたの?」

 

「私はただ、貴女と遊んでみたかっただけなんです。本気で吸血鬼や大妖怪に勝てるだなんて思っていませんし、貴女を人形にすることにだって拘っていません。……一応補足しておきますと、貴女の人形作りの腕を認めているのは本心ですよ? 本当に嬉しかったんです。自分以外にも人形を『主題』にする魔女が居るというのは。だから一緒に遊びたくなっただけなんですよ。」

 

「……何を言っているの? 『遊びたかった』?」

 

あまりにも理解し難い発言に思わず聞き返してみれば、魔女は気安い態度で説明を重ねてきた。口調こそクロードさんの丁寧なものだが、悪戯の種明かしをする子供を思わせる雰囲気だ。

 

「そうです、私は貴女と友達になりたかったんです。そのために頑張って脚本を書いて、適した人形を揃えて、舞台を整えて、貴女に『お人形ごっこ』を仕掛けたわけですが……申し訳ないことに、色々と上手くいきませんでした。予定ではもっとずっと劇的で、苦難に満ちて、最後には達成感があるストーリーだったんですよ? 計算外だったのは貴女の保護者が思っていたよりも過保護だったのと、スカーレットの私兵とかいうあの化け物の存在ですね。図書館の魔女だって想定していたよりも強大な魔女でしたし、貴女も『新米魔女』にしては肝が据わっていた。……だから最後に説明しておかなければと思ったわけです。本当はもっときちんとした劇に招待するつもりで、こんな中途半端な結末になる予定ではなかったということを。でないと貴女は私のことを誤解してしまうでしょう? ……つまり、『三文芝居』をする三流の脚本家だと。」

 

話している間にどんどん落ち込んでいく魔女は、心底申し訳なさそうな顔付きで言葉を繋げる。

 

「私が世間知らずで未熟な所為で、貴女に人形劇を楽しんでいただけませんでした。私はどうやら自分勝手な脚本を書いていたようです。……もっと勉強しないといけませんね。深く反省しています。」

 

「……本気で言ってるの? 私と『遊ぶ』ため? そのために人をあんなに殺したの?」

 

「ええ、そうですよ? ……もしかして、怒っていますか?」

 

「当たり前でしょう? 貴女の狙いが私なら、私だけに突っかかってくればいいじゃない。下らない『お人形ごっこ』とやらのために他人を巻き込んだのは許せないわ。」

 

睨みながら言い放ってやると、魔女はキョトンとした顔になった後……にっこり笑ってパチパチと手を叩いてきた。もう完全に『クロードさん』の顔じゃないな。純粋な子供のような笑み。あれはその奥に潜む魔女の笑みだ。

 

「良い人なんですね、貴女は。そんなところも気に入りました。やっぱり物語の主人公は善人に限ります。……ですが、人間なんて全員ゴミみたいな存在ですよ。私はそれをよく知っているんです。あんなものに優しくしているといつか痛い目に遭いますよ?」

 

前半をニコニコ顔で、後半を能面のような無表情で言ってきた魔女へと、冷たい声で否定を送る。

 

「私は貴女の方が余程に気に入らないわ。人間がゴミだなんて思ったこともないしね。」

 

「可哀想に、騙されているんですね。そこも不憫で可愛らしいですが……しかし、友達としては貴女が不幸になるのを放っておけません。」

 

「いつ『友達』になったのかしら?」

 

「だって、一緒に遊んだじゃありませんか。だからもう……ああ、なるほど。楽しくなかったから意地悪をしているんですね? 困りました。機嫌を直してはくれませんか?」

 

なんなんだこいつは。今の流れで何をどうしたら『友達になった』なんて結論に辿り着けるんだよ。不気味な気分で沈黙する私に、何やら勝手に納得したらしい魔女は大きく頷いて提案を飛ばしてきた。

 

「では、暫く待っていてください。今回は失敗してしまいましたが、次はもっともっと面白い『人形劇』を上演してみせます。……そうですね、それが良い。どうせ契約で貴女とは暫く関われなくなるんですから、その間に沢山勉強してみせますよ。いつの日かまた遊びましょう。その頃には貴女ももう少し『魔女らしく』なっているでしょうしね。」

 

嬉しそうにそう言うと、立ち上がった魔女はいきなり杖を抜いてテッサに向ける。何をする気だ? 危害を加えるつもりはないと言っていたはずだぞ。慌てて私が制止しようとする前に、それまで黙っていたテッサがはっきりと魔女を睨め付けながら口を開いた。挑戦的で、恐れを知らない瞳。グリフィンドールの瞳だ。

 

「私には話の流れがさっぱりだし、クロードさんを操ってるとかいうあんたが何なのかも分かんないけど……でも、一つだけ断言できることがあるよ。アリスはあんたと違う、全然違うよ。」

 

「同じですよ、テッサさん。貴女のご友人は魔女だ。人間じゃないんです。」

 

「人間じゃなかろうがアリスはアリスだし、あんたはあんたでしょ。私の親友をあんたなんかと一緒にしないで。」

 

「……困りましたね、テッサさんは私の大事な友達に悪い影響を与えそうだ。口ではこんなことを言っていますが、内心ではどう思っているのやら。詳しい事情を知ればきっとテッサさんは貴女を裏切り、離れていきますよ。人間は『違うもの』を怖がるんです。誰だって怖いものを近くに置きたくはないでしょう?」

 

私に語りかけながら杖の先でテッサの額を小突く魔女へと、テッサは哀れみの表情で反論を放った。

 

「当ててあげるよ、それはあんたの体験談でしょ? ……だけど、アリスはそうはならないよ。私が居るもん。私はアリスが何であろうと怖がったりはしないし、離れたりもしないから。」

 

「ほら、人間はすぐに嘘を吐く。こんな薄っぺらな言葉は何の保証にもなりません。……もうテッサさんは『人質』ではない。ならば殺しても問題ないのかもしれませんね。手出しする気はありませんでしたが、何れ貴女が悲しむならここで殺しておいた方が──」

 

「やめなさい、それをやったら私は貴女を追い続けるわよ。絶対に許さないわ。」

 

「そうですか? それは素晴らしい。尚のこと魅力的な選択になりました。私を追ってきてくれるなら、次のゲームまでの時間が短くなりますしね。」

 

愉快そうに肩を竦めた魔女は、私に見せ付けるように右手に持った杖をテッサの胸元に移動させる。胸中の恐怖を抑えながら必死に杖なし魔法でなんとかしようとする私を他所に、テッサは自分に向けられている杖先を見て一瞬だけ息を呑んだ後、私にちらりと目線を送って小さく微笑んできた。私たちにだけ理解できる、『ごめんね』の笑みだ。

 

「今は恨めしいと思うかもしれませんが、いつの日か私に感謝しますよ。人間との繋がりなど無い方がいいんですから。アバダ──」

 

初めて耳にする『最悪の呪い』。それを唱え切る直前、魔女は……クロードさんは急に左手を動かして杖を持つ右手首を掴んだかと思えば、杖先を強引に自分の喉元に向け直して──

 

「──ケダブラ。」

 

驚愕と安堵が混ざり合ったような不思議な表情になった後、はっきりと禁じられた呪文の残りを言い切った。刹那の間だけ部屋を照らす緑色の光と、直後に力なく倒れるクロードさんの身体。……何が起こったんだ? 自死したということか? だけど、どうして?

 

倒れた拍子にクロードさんの胸ポケットから零れ落ちた闇祓い隊の隊章。それが床を転がって彼の顔の近くへと寄り添うように転がっていくのを見ながら、アリス・マーガトロイドは呆然と息を吐くのだった。

 

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