Game of Vampire   作:のみみず@白月

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縄張り争い

 

 

「んー……いっそのこと、新大陸に行ってアルバート・ホームズを攫ってみるかい? あの土地に足を踏み入れるのは嫌だが、キミは他人の空似じゃないと確信しているんだろう?」

 

フランス魔法省の廊下を歩きながら提案するリーゼの背中を、霧雨魔理沙は呆れた気分で眺めていた。人外ってのはすぐに強引に解決しようとするな。分かり易いのは嫌いじゃないが、もう少し慎重になった方が良いんじゃないか?

 

一昨日の夜に『フランスの魔女』からのメッセージを受け取った私たちは、昨日えらく近代的な人外の情報屋からポール・バルトやアルバート・ホームズに関する情報を入手し、そして今日は闇祓い隊の隊長からの報告を聞くためにフランス魔法省を訪れているわけだ。ちなみにアメリカの事件の詳細を確認した後はそのままイギリスに戻る予定になっている。私の初旅行は本日で終了か。予定の一割程度しか消化できなかったな。

 

自転車のレースは結局ホテルのてれびじょんでしか観られなかったし、事前に取っておいたクィディッチの独立リーグのチケットも紙切れになってしまった。残念な気分で小さくため息を吐いていると、前を進むアリスがリーゼに返事を送る。厳しい表情でだ。

 

「リーゼ様も偶然なんかじゃないことは分かっているはずです。バルト隊長と魔女を繋げる線があるとすれば、それは間違いなくホームズの存在でしょう? ……問題は彼がマクーザの議員で、かつ委員会の議長だってことですね。」

 

「前者はそこまで問題じゃないさ。新大陸の議会なんぞ知ったこっちゃないからね。だが、後者は……確かに厄介だぞ。迂闊に手を出せば『意識革命』の方に影響が出るかもしれない。それはちょっと歓迎しかねる事態だ。」

 

「レミリアさんやダンブルドア先生が頑張って築いたものですもんね。……何とかホームズを議長の座から引き摺り降ろせませんか?」

 

「私からゲラートに頼んでみようか。そっちはボーンズを動かしてくれ。レミィが居ない以上、私たちが持っている政治的な手札はその二枚だけだからね。」

 

魔法戦争を勝ち抜いたイギリスの魔法大臣と、元大犯罪者であるロシアの魔法議会議長。私からすれば大した面子だと思うのだが、リーゼはまだ不足だと考えたらしい。了解の首肯を返したアリスに、思い出したように言葉を重ねる。

 

「それと、リータ・スキーターも動かそう。今は随分と評価されてるみたいだし、あの女にホームズのスキャンダルでも書かせれば有利に働くだろうさ。」

 

「受けてくれますかね? レミリアさんとは一種の同盟関係にありましたけど、私たちとは殆ど無関係ですよ?」

 

「もちろん何か利益を提示する必要はあるだろうが、渦中のホームズのスキャンダルが『おいしいネタ』なのは間違いないはずだ。レミィから聞いてる性格を鑑みるに、食い付かせるのはそう難しいことじゃないと思うよ。」

 

まあ、なんとなく想像は付くぞ。スキーターなら嬉々としてあることないこと書きまくりそうだな。一人で納得している私を尻目に、アリスは魔女への対策を纏め始めた。……ちなみに咲夜はずっと無言でリーゼの後頭部を見つめっぱなしだ。歩く度にぴょこぴょこ揺れるポニーテールが気になって仕方ないらしい。首を微かに動かして黒い尻尾を追いながら、掴むのを我慢しているかのように指先をピクピクさせている。猫かよ、お前は。

 

「先ずはホームズを議長の座から降ろして、それから『物理的に』対処するのが良さそうですね。その間に八雲さんから情報を入手できそうですか?」

 

「ああ、大丈夫だと思うよ。夏休み中に会う予定になってるからね。……最大の問題は新大陸が私にとって完全な『アウェイ』であることかな。アピスによれば魔女は北アメリカを拠点にしているようだし、攻めに行くのであれば向こうの人外についての情報を入手しておきたいんだが……魔女っ子、キミから魅魔に頼んでくれないか? 可愛い弟子の頼みなら無下にはしないはずだろう?」

 

おっと、私に話が飛んできたか。振り返って問いかけてきたリーゼに、頬を掻きながら返答を放った。

 

「魅魔様は生粋の気分屋だから、どんな反応が返ってくるかは私にも分からんぜ。……というかそもそも、お前は魅魔様に会えるのか? 少なくとも私の方には連絡を取る手段なんかないぞ。」

 

「さぁね。紫に引き合わせてもらえないか頼んでみるが、実際に会えるかどうかは未知数かな。……あの悪霊が気まぐれなのは私も重々承知しているよ。だから少しでも確率を上げておきたいんだ。イギリスに戻ったらお涙頂戴の師弟愛を深める手紙でも書いてくれたまえ。私が届けてあげるから。」

 

「手紙を書くのは別に構わんが、魅魔様にはそんなもん通用しないと思うぞ。『今日は雲が少ないから頼みを断る』とか、『昨日の夜は星が遠かったから受けてやるよ』みたいなことを平然とやってくるから、結局ギャンブルなのは変わらんぜ。運次第だよ。」

 

苦笑しながら言ってやると、リーゼは然もありなんと肩を竦めて前に向き直る。……でも、手紙を届けられるかもしれないってのは僥倖だな。この機にきちんと勉強して頑張ってますって知らせよう。ちょびっとくらいは喜んでくれるかもしれないぞ。

 

師匠に手紙を送れると知って少しご機嫌になったところで、今度は咲夜がおずおずと口を開く。ようやくポニーテールの誘惑に打ち克ったらしい。

 

「やっぱりレミリアお嬢様には会えないんですか? 魔法界の政治の問題だったら、お嬢様に相談するのが一番だと思いますけど。」

 

「レミィたちは神社への立ち入りを禁じられていて、私は神社から出るのを禁じられているからね。直接会うのは難しそうかな。伝言くらいは頼めば可能かもしれないし、それも紫に聞いてみるよ。」

 

「……意地悪な妖怪ですね。会うくらいなら別にいいじゃないですか。」

 

ムスッとした顔で文句を呟いた咲夜に、リーゼが苦笑いでフォローを口にした。

 

「まあ、あからさまに不自然な措置だし、紫にも紫なりの計画があるんだと思うよ。それを完遂するためには私とレミィを引き離す必要があるんだろうさ。」

 

「まさか、リーゼお嬢様とレミリアお嬢様を仲違いさせようとしてるとか?」

 

「どうかな、私はそこまで単純な計画じゃないと踏んでるけどね。恐らく、私の立ち位置を紅魔館側から神社側……つまり調停者側にズラそうとしているんだと思うよ。だったら今のところは大人しく従っておくさ。対価となる利益は得ているわけだしね。」

 

『今のところは』か。なんだか不安になる余計な一言を耳にしたところで、先導するアリスが私たちに声をかけてくる。闇祓い隊のオフィスに到着したらしい。

 

「ここよ。……すみません、デュヴァル隊長は居ますか?」

 

フランス語で『フランス闇祓い隊』と書かれた簡素なプレート。その下にあるドアが無い入り口を抜けたアリスは、手近な職員に質問を投げかけた。……へぇ、大きな部屋だな。中央には巨大な木製の円卓が置かれており、それを囲むように仕切りの付きのデスクが二十台ほど設置されているようだ。奥の壁には色取り取りのピンが刺さったフランス、ヨーロッパ、全世界の三つの縮尺の地図が貼られていて、その間に二つのドアが並んでいる。きっと偉い人の個室とかに繋がっているのだろう。

 

一昨日も見た魔法生物……マタゴだっけか? が円卓の上で丸くなって昼寝しているのを眺めていると、歩み寄ってきた職員がアリスに返事を返した。

 

「ああ、アリス・マーガトロイドさんですね。話は隊長から聞いております。どうぞこちらへ。」

 

うーむ、私より綺麗な英語だな。見事な発音の『イギリス英語』で先導し始めた若い男性職員は、部屋を横切って世界地図とヨーロッパの地図に挟まれているドアに近付くと、ノックしながらフランス語で中に呼びかける。知らない単語だから定かではないが、多分ドアのプレートに書かれているのは『隊長室』とかなのだろう。

 

『隊長、マーガトロイドさんがいらっしゃいました。』

 

『入ってくれ。』

 

私にも理解できる簡単なやり取りの後、職員が開けてくれたドアを抜けてみると……うーん、狭いな。思ったより狭めの個室が目に入ってきた。壁には一切の飾りがなく、書類棚とデスク、そして風もないのに葉を揺らす謎の観葉植物があるばかりだ。

 

殺風景すぎる部屋に拍子抜けする私を他所に、椅子から立ち上がったデュヴァルが杖を振りながらこちらに話しかけてくる。今日も貧相な見た目だな。本当に大丈夫なのか? この人。

 

「どうも、皆さん。狭い部屋で申し訳ありません。今椅子を用意します。……ロジェ、紅茶の準備を。」

 

『了解です、隊長。』

 

指示を受けた職員が部屋を出るのと同時に、デュヴァルが出現させた椅子に咲夜と並んで腰を下ろすが……これだと紅茶を持ってこられても置く場所がないぞ。応接セットくらい設置したらどうなのかと呆れていると、アリスが早速とばかりに話を切り出した。

 

「マクーザからの新たな報せはあった?」

 

「マクーザからというか、現地に行った治安次局長からの報告になりますが……やはり妙ですね。皆さんは『国際保安局』という組織をご存知ですか? つい最近マクーザに新設された組織らしいのですが。」

 

「国際保安局? 知らないわね。……リーゼ様はどうですか?」

 

「私も知らんね。名称からするに、国際的な動きをする組織だってのは分かるが。」

 

椅子には座らず部屋の隅に移動したリーゼの返答を聞いて、デュヴァルは首肯しながら話を続ける。この部屋にもマタゴが居たのか。性悪吸血鬼は隅っこで寝ている魔法生物にちょっかいをかけようとしているらしい。可哀想だから寝かせといてやれよな。

 

「その通りです。マクーザ曰く、国境を跨ぐ犯罪者を追うために作られた組織なのだとか。」

 

「……それは闇祓いの領分でしょう? わざわざ組織を新設する必要があるの?」

 

「それがですね、かなり複雑な事情があるようでして。マクーザ内部で闇祓い局と保安局……フランスで言う治安パトロール隊、イギリスで言う魔法警察部隊のようなものですね。その二部署のいがみ合いが深刻化した結果、保安局が捜査権を拡大するためにゴリ押しで設立を可決させたそうです。国内の凶悪犯はこれまで通り闇祓いが対処し、国外での捜査をその部署が担当することになったと聞いています。」

 

「要するに保安局が議会内の権力闘争で闇祓い局を上回って、捜査権の分割に成功したわけね。……まあ、新部署については理解したわ。それが今回の件と関係あるの?」

 

政治ってのはどの国でも複雑だな。イギリスに置き換えると魔法警察と闇祓い局がいがみ合って、ウィゼンガモットが魔法警察を優遇する案を議決したってとこか。微妙な表情になっているアリスの疑問に、デュヴァルは神妙な顔付きでこっくり頷く。

 

「その部署設立の立役者であり、責任者である国際保安局局長に就任した魔法使いこそがアルバート・ホームズなのです。」

 

「おいおい、委員会の議長はどうなったんだい?」

 

「ここも複雑な部分なのですが、マクーザの議員と国際保安局局長と委員会の議長。これらは北アメリカの法においては兼任可能な役職なんです。身分としては国際保安局局長の職に就いており、かつマクーザの議員と委員会の議長に選出されているという状態ですね。国際連盟の規約にも一応は違反していません。」

 

「二足どころか三足の草鞋か。……それで、その組織がどうしたんだい?」

 

嫌がるマタゴを無理やり持ち上げようとしているリーゼの質問に対して、デュヴァルはデスクの上にあった書類を読みながら応じる。やめてやれよ、性悪吸血鬼。床のカーペットに爪を立てて必死に抵抗してるぞ。

 

「バルト元隊長の事件の捜査をその部署が担当しているようでして。元々北アメリカではこういった事件は保安局の魔法保安官たちが捜査するのですが、いつの間にか担当が国際保安局に変わっていたそうです。マクーザの闇祓いはそれに対して猛抗議をしているのだとか。越権行為であると。」

 

「ふぅん? 部署の責任者が被害者だから無理やり首を突っ込んできたとか?」

 

「そういったプライドの問題である可能性もありますが、そもそも国際保安局は保安局の傘下にある部署です。『ライバル』の闇祓いが捜査権を握ったなら理解できる動きですが、身内の保安局が捜査権を持っているのにわざわざ事を荒立てる必要がありません。参加しようと思えば裏から捜査に参加できたはずです。」

 

んんん、またしても複雑だな。つまり保安局とやらの下に国際保安局があって、そこと闇祓い局の仲が悪いわけだ。闇祓い局は保安局とは完全に別の組織ってことか。イギリス魔法省のように魔法法執行部の下に闇祓い局と魔法警察があるのではなく、闇祓い局は闇祓い局で独立してるって感じかな?

 

……それはまあ、確かに対立しそうな構図に思えるぞ。事件が起きた時にどっちの担当かで揉めたりしているのだろう。イギリスの組織図なら『親』である執行部がそれを明確に定められるが、アメリカの組織図ではそれが出来ないわけだ。

 

私でも分かるような欠陥を何故放置しているのかと訝しんでいると、黙考していたアリスが自身の見解を口にした。

 

「つまり、ホームズは自分で事件を捜査することに拘ったわけね。多少強引な手を使ってでもそれを貫こうとした。……怪しすぎるわ。恣意的にバルト元隊長を『悪者』にしたと思う?」

 

「不明ですが、やろうと思えば可能なはずです。そして現地の次局長はそれを疑い、私もマクーザが提出してきた捜査報告を疑っています。……この事件、思っていたよりも根が深いのかもしれません。魔法大臣も疑念を抱いているようなので、近々マクーザに対して公的な質問状を──」

 

と、そこまでデュヴァルが言ったところで、ドアの向こうから騒がしい音が響いてくる。何事かと私たちが黙って耳を澄ますと、口論のような声が聞こえてきた。

 

「──だから、これ以上の立ち入りはご遠慮願いたい。今隊長を呼んでくるからここで待っていてくれ。」

 

「我々は連盟から捜査権を承認されています。ここで足止めするのはその意に反する行いですよ?」

 

「いいから少し待っていてくれ! すぐに呼んでくると言っているだろうが!」

 

どうしたんだ? イライラを多分に含んだ怒鳴り声の直後、ドアが強めにノックされると共に先程案内してくれた職員が隙間から顔を覗かせた。背後に居る誰かに室内を見せまいとしているかのような格好の職員は、アリスをちらりと見てからデュヴァルに報告を放つ。

 

『隊長、来てください。マクーザの国際保安局とかいう連中が押し入ってきています。連中、かなり強引ですよ。連盟から『お墨付き』を得たようでして。』

 

『国際保安局が? ……分かった、すぐに行こう。』

 

マクーザという単語は分かったものの、早口な所為で何を言っているのか理解できなかったな。私と同程度のフランス語力しかない隣の咲夜も首を傾げているが……むう、リーゼとアリスは何故か鋭い表情だ。もしかしたら招かれざる客なのかもしれない。

 

「少々お待ちください。」

 

ぺこりとお辞儀してそそくさと部屋を出るデュヴァルを見送って、マタゴを離してドア側の壁に歩み寄ったリーゼと一緒に聞き耳を立てる。さっき聞こえてきたのは英語だったし、入ってきた連中とは多分英語で話すはずだ。それなら私にも理解できるぞ。

 

「これはどうも、私はフランス闇祓い隊の隊長のルネ・デュヴァルと申します。本日はどういったご用件でしょうか?」

 

「お初にお目にかかります、デュヴァル隊長。私はマクーザ国際保安局局長を務めております、アルバート・ホームズと申します。本日は危急の用件でフランス魔法省を訪れたため、止むを得ず強引な手段を──」

 

今、アルバート・ホームズって言ったよな? 部屋の全員に確認の目線を送ってみると、リーゼは興味深そうな表情で、アリスは緊張しながら、咲夜は驚いた顔でそれぞれ頷きを返してくる。この壁のすぐ向こうにホームズが居るのか。ポール・バルトを殺し、その息子のクロード・バルトに生き写しだという怪しい男が。

 

いきなりの事態にごくりと喉を鳴らしつつ、霧雨魔理沙はそっとポケットの中のミニ八卦炉を起動させるのだった。

 

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