Game of Vampire   作:のみみず@白月

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賢人の条件

 

 

「おいおい、さすがの俺たちでも笑えないジョークだな。マーガトロイドさんがアメリカで殺人? お袋が聞いたら激怒するぜ。」

 

悪戯グッズがぎっしり詰まった棚を整理しながら苦笑するジョージに、レジカウンターに座っている霧雨魔理沙は呆れ顔で返事を返していた。いやはや、本当に笑えないな。無茶苦茶すぎるぞ。

 

「まあな。ヴォルデモートがマグル保護のために募金活動をするって方がまだ信じられるぜ。お陰でヨーロッパ旅行はおじゃんになって、私は場末の悪戯専門店でバイトをしてるってわけだ。」

 

「元気出せよ、マリサ。場末なりのバイト代は出してやるから。」

 

ジョージと瓜二つの苦笑いを向けてきたフレッドが言うと同時に、彼が直していたディスプレイ用のミニ観覧車が動き出す。『遊び飴』が乗っている観覧車だ。ゴンドラの中の人型の飴たちは観覧車が回り始めたことに大喜びしている。早く地上に降りて遊びまくりたいのだろう。

 

夏休みも中盤に差し掛かった七月下旬。フランス魔法大臣の手によってイギリスに逃された私たち……というかアリスは、現在人形店で引きこもり生活の真っ最中だ。あの後魔法省でボーンズ大臣と話し合った結果、状況が落ち着くまでは安全な場所で大人しくしている方が良いという結論に至ったのだとか。

 

無論ただ黙っているわけではなく、ボーンズ大臣やフランスの大臣、魔法法執行部の部長であるルーファス・スクリムジョールやウィゼンガモットの評議長までもが対処に動いているようなのだが、日々魔法省に出かけているリーゼによればホームズはしつこくアリスの身柄を要求しているらしい。国際魔法使い連盟の本部を舞台に熾烈な『政治バトル』が行われているそうだ。

 

今日も朝から家を出て予言者新聞社のスキーターに会いに行っているリーゼのことを考えつつ、大量の浮遊ガムを持ってきた常連の少年の支払いを済ませていると……おお? ベーコンだ。入り口を抜けてくる同学年のレイブンクロー生の姿が目に入ってきた。

 

「よう、ベーコン!」

 

昼時で客が少ないし、ちょっと声をかけてお喋りするくらいなら問題ないだろう。そう思って呼びかけながら手を振ってみると、ベーコンはびくりと震えてキョロキョロ店内を見回した後、カウンターに居る私を見つけて小走りで近付いてくる。何故か少し赤い顔だ。こいつは悪戯とは無縁の優等生タイプの生徒だし、『悪名高き』ウィーズリー・ウィザード・ウィーズに居るのを見られて恥ずかしいのかもしれない。

 

「へ? ……キリサメ? 何してるの?」

 

「バイトだよ、バイト。双子と仲が良かったのは知ってるだろ? その繋がりで雇ってもらってるんだ。」

 

「ちゃんとグリフィンドールの寮監に申請書を出した? 夏休み中のバイトは申請を通さないとしちゃいけない決まりよ。」

 

「あのな、この店が既に校則違反を具現化したみたいな場所なんだから、そこで働くのに申請もクソもないだろ。大体、あんな申請書を真面目に出してるヤツなんてごく少数だぞ。私の知る中じゃハーマイオニーくらいだ。」

 

休みに入る前に自分の両親が経営している歯科医院でのバイト申請を出していたが、受け取った新寮監であるフーチは完全にきょとんとしていた。教師ですら規則のことを知らなかったあたり、グリフィンドールで毎年きちんと出していたのはハーマイオニーただ一人なのだろう。

 

私が肩を竦めて放った返答を受けて、レイブンクローが誇る『監督生予備軍』はムッとしながら注意を投げかけてくる。八月になったら間違いなくこいつにバッジが送られてくるだろうし、確実に私には来ないだろうな。

 

「意味不明な理屈で規則を破るのは良くないわね。私はフリットウィック先生に申請書を出したわよ? 近所の子の家庭教師をしてるの。」

 

「それはそれは、悪戯専門店でバイトするのとは天と地の内容だな。フリットウィックも鼻が高いだろうさ。」

 

「……別に職業に貴賎はないでしょ。ここだって立派な商店よ。」

 

うーん、悪いヤツではないんだよな。私の冗談に目を逸らしながら生真面目なフォローを入れてきたベーコンに、苦笑を浮かべて質問を飛ばした。

 

「それで、今日は何を買いに来たんだ? 大抵の悪戯グッズなら揃ってるぜ?」

 

「悪戯グッズというか、生徒を和ませるためのちょっとしたマジック用品みたいなものを買いに来たの。……夏休みの間だけ週三回のペースで教えてるんだけど、なんだか他人行儀なのが抜けきらなくて。休憩時間の話の種が欲しいのよ。ちなみにマグルの十一歳の男の子ね。」

 

「あー、なるほどな。十一歳か。その歳のマグル相手だったらいくらでもやりようはあるが、あんまり派手すぎると機密保持法に抵触しちまうから……『底抜けスプーン』とかが無難か? 見た目は何の変哲もない普通のスプーンだけど、実際は底が抜けてるから何も掬えないんだ。」

 

地味すぎて魔法族にはあまり売れていないが、マグルが見れば立派なマジックだろう。カウンターの裏にある棚から一本取り出してやると、ベーコンは至極微妙な表情で根本的な疑問を述べてくる。

 

「本来は何に使うものなの? それ。」

 

「そりゃあ食事時とかにさり気なく置いといて、『あれ、スープが掬えないぞ?』みたいな状況に持っていくための代物だよ。」

 

「……そう。」

 

まあうん、説明している私もこの商品はいまいちだと思うぞ。私の商品説明に何とも言えない顔で曖昧に頷いたベーコンは、気を取り直すような口調で会話を進めてきた。

 

「そうね、これにするわ。水が通り抜けるマジックみたいな感じで見せれば話題作りには充分でしょうし。」

 

「はいよ、毎度あり。」

 

どうせ売れてないし、ありったけ値引きしておこうかな。双子も文句は言わんだろう。勝手に商品の値段を下げた私に、ベーコンは財布を懐から出しながらおずおずと問いかけてくる。

 

「……ねえ、ヴェイユは一緒じゃないの?」

 

「ん、咲夜? 家に居るけど、何か用があるのか?」

 

「そういうわけじゃないんだけど、貴女たちはいつも一緒に居るからキリサメだけなのが珍し……『家に居るけど』? どういう意味?」

 

おおう、どうした? 言葉の途中でやけに真剣な表情になって聞き返してきたベーコンへと、スプーンを包みながら口を開く。

 

「だから、家だよ。私たちの家。」

 

「私『たち』の家? ……い、一緒に住んでるの?」

 

「あーっとだな、咲夜の育ての親がレミリア・スカーレットだってことは知ってるか?」

 

なんでそんな剣幕なんだよ。カウンターに身を乗り出してくるベーコンから身体を引きつつ、説明の前提となる情報を確認してみると……ベーコンは分かり易くハッとしながら勢いよく頷いてきた。こいつ、こんなに元気な動きをするヤツだったか?

 

「そんなこと勿論知って……まさか、スカーレット女史が居なくなったから貴女の家に居候してるとか?」

 

「厳密に言えば居候してるのは私なんだけどな。私が住んでるのはアリスの実家なんだよ。そんでレミリアの家が、あー……空になっちまうから、ダイアゴン横丁にあるその家にアリスが戻ってきて、リーゼと咲夜なんかも夏休みの間はそこに住むことになったんだ。」

 

さすがに『レミリアは別の場所に転送された』とは言わない方がいいだろうな。ちょびっとだけ嘘を交えた経緯を口にした私へと、ベーコンは何故か安心したように息を吐きながら何度も首肯してくる。

 

「なるほどね、バートリ先輩やマーガトロイド先生も一緒なら問題ないわ。」

 

「問題?」

 

「だから、その……子供だけじゃ問題があるってことよ。色々と。」

 

「いやまあ、去年までは私一人だったんだけどな。」

 

代金を受け取って包んだスプーンを渡しながら言った私に、頬に赤みが差しているベーコンは早口で別れを告げてきた。変なヤツだな。

 

「それはそれ、これはこれなの。……それじゃあ、失礼するわ。バイト頑張ってね。」

 

「おう、お前も家庭教師頑張れよ。」

 

そそくさと店を出て行くベーコンを怪訝な思いで見送ってから、午後の客に備えるために私も商品の補充を手伝おうと席を立つ。今日のベーコンはいつもと違う雰囲気だったな。やっぱり夏休み中に会ったからそう思うのだろうか?

 

ホームズの件で落ちていた気分が多少マシになったのを感じつつ、霧雨魔理沙はまだまだ売れている『食べられる闇の印』のストックを手に取るのだった。

 

 

─────

 

 

「待て待て、どういうことだい? 『国際指名手配』? 正気の沙汰とは思えんぞ。」

 

ええい、忌々しい新大陸の大間抜けどもめ。アリスじゃなくてリドルを追う時にその積極性を発揮しろよな。苛々と翼を揺らしながらソファに座るアンネリーゼ・バートリは、部屋の面々に苦言を投げかけていた。対面のソファにはイギリスの魔法大臣たるアメリア・ボーンズが座っており、部屋の隅の壁には執行部部長のルーファス・スクリムジョールが寄りかかっていて、少し離れた木の椅子にはウィゼンガモットの評議長であるチェスター・フォーリーが腰を下ろしている。なんか微妙な距離感だな。全員ソファに座った方が話し易いだろうに。ひょっとして仲が悪いのか?

 

フランスでの騒動から一週間が経過した今日、遂にホームズが大きな動きを仕掛けてきたということで、イギリス魔法省の大臣室を訪れているのだ。先程のボーンズの説明によれば、マクーザはアリスを『国際指名手配』しようとしているらしいのだが……この状況でそんな強引な手を押し通せるか? 一体どういうことなんだ?

 

私のイラつきを含ませた言葉を受けて、先ずはボーンズが返事を寄越してきた。顔付きを見るに、彼女も喜ばしい事態とは捉えていないようだ。

 

「大前提として、イギリス魔法界はこの指名手配を受け入れるつもりはありません。連盟にもそのことは明言しています。」

 

「だが、事実として指名手配はされたんだろう? ……訳が分からんぞ。一体全体どういう状況になっているんだい?」

 

「つまり、マクーザが単独で国際指名手配をしたんです。北アメリカでは犯罪者ですが、イギリスでは犯罪者ではないということですね。」

 

「それだと『国際』って単語が相応しくないように思えるんだが。」

 

国際規約に明るいレミリアならこの段階で理解できているのかもしれんが、私にはさっぱり分からん。その感情を発言に滲ませてみると、今度は硬そうな木の椅子に座った老人が解説してくる。ウィゼンガモットの評議長か。私にとっては殆ど『知らない』と言えるような関係しかない人物だな。

 

「マクーザが連盟に対して指名手配を公認するようにと迫っているのですよ。それが叶った暁には、晴れてミス・マーガトロイドは連盟加盟国中の指名手配犯というわけですな。」

 

「……その場合、イギリスでも指名手配となるのかい?」

 

「なりませんよ、拒絶しますので。……ミス・マーガトロイドはイギリス魔法戦争の功労者であり、スカーレット女史の私兵として活躍した魔法使いです。指名手配を受け入れるか拒否するかの話し合いはウィゼンガモットでも行われますが、恐らく拒絶する方向で容易に纏まるでしょう。今のウィゼンガモットはスカーレット女史の色が強い。私としても自国の魔法使いの権利が侵害されるのは望むべきところではありませんので、そこは問題なく進むはずです。」

 

「ふぅん? ……仮に連盟にマクーザの要請が通っても、イギリスに居る限りは安全ってことかい?」

 

段々状況が理解できてきた私の質問に、厳しい表情のボーンズが答えてきた。そう単純な話ではないらしい。

 

「微妙なところですね。……こちらがマーガトロイドさんを引き渡したり、捜査に協力することは拒否できても、イギリス国内における捜査権は確保される可能性があります。」

 

「つまり、向こうの捜査員がこの国に入ってくることは防げないと?」

 

「そういう国際規約があるのです。そして、連盟内での動きを見るにホームズはそれを狙っています。……最も不自然なのはマクーザがホームズの動きを黙認していることですね。議会内のスカーレット派は何をしているんでしょうか?」

 

確かにそうだな。フランスやポーランドほど仲良しこよしとは言えないまでも、新大陸にだって『吸血鬼好き』な連中は存在しているはずだ。部屋に放たれたボーンズの疑問に対して、黙っていたスクリムジョールが声を上げる。

 

「知り合いの闇祓いからの情報によりますと、マクーザ議会もひどい騒ぎになっているようです。闇祓い局と治安局が完全に対立し、議員たちも二派に分かれて足の引っ張り合いを繰り広げているのだとか。」

 

「それはまた、昔のイギリス魔法省みたいな状況じゃないか。……その状態で連盟に要求をゴリ押してるってことは、多数派をホームズが握っているのかい?」

 

「そのようですな。現議長は闇祓いと共に反対派に回っていますが、多数なのはホームズの側です。北アメリカの報道紙は議長の解任決議が行われるのではないかと予想しています。……そうなった場合、ホームズの後ろ盾になっている議員の誰かが議長の座に就くのでしょう。」

 

「政治に関しては素人の意見だが、あまりにも展開が急すぎないか? レミィが去った直後にいきなりこれってのは異常だぞ。」

 

ほんの数ヶ月前までのマクーザはレミリアと足並みを揃えていたはずだ。それが急にスカーレットの身内を国際指名手配ってのは素人目に見てもおかしいぞ。私が足を組みながら口にした問いに、フォーリーが静かな声で応じてきた。

 

「間違いなく準備をしていたのでしょう。スカーレット女史の身内から凶悪な犯罪者が出れば、スカーレット派の勢いは否が応でも衰えます。今や最大の脅威である紅のマドモアゼル当人は魔法界から去りましたし、敵対派閥にとっては願っても無い展開なのでしょうな。……一応聞いておきますが、ミス・マーガトロイドが本当に犯罪を起こしたという可能性は無視して構いませんか?」

 

「無視していいよ。新大陸のぽんこつ捜査機関によれば、誘拐殺人が起きたのは戦争真っ最中の去年の春頃だ。あの頃のアリスに新大陸までお出かけして、子供を攫いまくって殺してる余裕があったと思うかい?」

 

「……まあ、個人的には同意しかねる捜査報告でしたが、客観的に見て可能性がゼロとは言い切れませんな。」

 

「おや、キミはアリスのことを疑っていると?」

 

鋭い目付きで睨んでやると、枯れ木のような老人は重々しい口調で返答を寄越してくる。

 

「そうではなく、客観的な可能性をゼロに近付けるためにこちらも捜査すべきだと言いたいのですよ。主張に正当性を持たせるためにも、我々イギリスも独自に事件を調べましょう。向こうの捜査の粗を見つけて公式な場で糾弾すれば、ホームズたちが動き難くなるのは間違いないはずです。……お任せしてもよろしいかな? スクリムジョール部長。」

 

「妥当な動きですな。……闇祓い副局長のシャックルボルトをマクーザに向かわせましょう。フランスの治安次局長が現地に居ると聞いていますから、連携を取ればそれなりの情報は入手できるはずです。それを基にして闇祓い局に事件を洗い直させます。」

 

そもそもがでっち上げなのだから、事件を調べ直せば何か不自然な点が見つかるかもしれない。私としても捜査し直すのに異存はないと部屋の面々に目線で伝えると、フォーリーが一つ頷いてから自身の動きについてを語ってきた。

 

「では、私は引き続き連盟への圧力を強めることに専念しましょう。イギリス、フランス、ポーランド、ギリシャ、ブルガリア、スイス。ヨーロッパ各国が大袈裟に騒ぎ立てれば、連盟とて軽々に指名手配を断行できなくなるはずです。」

 

「加えてロシアとドイツもだ。北の老人を動かすのは私に任せてもらおうか。」

 

「……バートリ女史はグリンデルバルド議長と関わりがあるということですか?」

 

「詳しく説明するつもりはないが、あるよ。『意識革命』が始まった時、レミィとゲラートの間に入ったのは私だからね。」

 

この部屋の面子になら話しても問題ないだろう。ボーンズは僅かな驚きを浮かべ、スクリムジョールは表情を変えない中、私の返事を受け取ったフォーリーは……ふむ? どちらかといえばプラスの感情を表しながら首肯を放ってくる。

 

「なるほど、スカーレット女史とグリンデルバルド議長を引き合わせたのは貴女でしたか。まさか偶然出会って意気投合するはずもありませんし、誰が接点になったのかは疑問だったのですが……意外なところで謎が解けましたな。」

 

「ダンブルドアだとは思わなかったのかい? あの爺さんはどっちとも繋がりがあったじゃないか。」

 

「最も可能性が高いのはダンブルドア氏だと考えていましたが、それでも違和感は残ります。意識革命の切っ掛けを作りそうなのはグリンデルバルド議長であって、ダンブルドア氏ではありませんから。議長の思想を『正しく』知る機会があり、尚且つスカーレット女史と引き合わせるという奇手を選択する人物。貴女なら納得ですよ。」

 

「奇妙な台詞だね。キミは私のことを殆ど知らないはずだろう?」

 

魔法省はレミリアの庭であって、私の縄張りじゃない。そう思って発した疑問に、フォーリーは落ち着いた様子で答えを返してきた。

 

「今の今まで我々が殆ど知らなかったのにも関わらず、この状況でグリンデルバルド議長を易々と動かせる。その事実から色々と連想したまでですよ。……改めてスカーレット女史の恐ろしさを感じますな。彼女は一体全体どこからどこまでを操っていたのでしょうか? 今まで偶然だと信じ込んでいた部分も、貴女の存在を当て嵌めればスカーレット女史の計画だったのではないかと思えてきました。」

 

「……ふぅん? キミは謎を明らかにしたいのかい?」

 

「気にはなりますが、やめておきましょう。暴いたところで誰も幸せになれないのであれば、地中深くに埋めておくのが正解ですよ。私は掘り起こすべきでない事実があるということを知っています。」

 

「賢明だね。知らなかったら無いのと一緒なのさ。賢く生きすぎたヤツってのは大抵損をするもんだ。」

 

うーむ、この爺さんも中々油断できない人物みたいだな。フォーリーに対する評価を少しだけ上げたところで、ボーンズが話のレールを元に戻してくる。

 

「とにかく、今はそれぞれ出来ることをしましょう。私はマクーザの議長に連絡を取ってホームズに関する情報を集めます。マーガトロイドさんにはもう暫く家から出ないようにと伝えていただけますか? この状況では何が起こるか分かりませんから。」

 

「ああ、伝えるよ。」

 

ホームズか。正直言ってあの人形だか人間だかを殺すのは難しくないが、この状況でいきなりホームズが死ねばアリスにとって好ましくない方向に事態が進むのは明白だ。それに、ホームズを始末したところで根本の問題は解決しない。あいつが人形だとすれば、操っている魔女をどうにかしない限り堂々巡りになるだけだろう。

 

ただまあ、こっちには向こうが知らないであろう最終手段が残されている。いざとなったら紫に頼んでアリスを幻想郷に逃がしてもらえばいいのだ。あるいは隙間妖怪に魔女を消すための協力を要請してもいいのだが……むう、高く付きそうだな。あいつは間違いなく足元を見て対価を要求してくるだろう。

 

それでもアリスのためなら呑んじゃうんだろうなと苦笑しつつ、アンネリーゼ・バートリはその時が来ないことを願うのだった。

 


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