Game of Vampire   作:のみみず@白月

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拭えぬ影

 

 

「ありえません! マーガトロイドさんが犯罪者? 誘拐? 殺人? ……マクーザに吼えメールを送ってやるわ。ええ、ありったけの量を送ってやりますとも。イギリスの魔法使いを怒らせたらどうなるのかを教えてやらないと。」

 

私の目の前の皿にパスタを盛りながら激怒するモリーさんを見て、サクヤ・ヴェイユは困った気分で半笑いを浮かべていた。物凄い迫力だな。アリス本人より怒っているのは間違いないだろう。

 

夏休みも半分が過ぎようとしている七月の末、私と魔理沙は箒の練習をするために隠れ穴を訪れているのだ。ちなみに明日開かれるポッター先輩の誕生日パーティーのために、ポッター先輩本人やハーマイオニー先輩も泊まり込みで遊びに来ている。私たちはダイアゴン横丁に一旦帰るが、明日のパーティーにはリーゼお嬢様と一緒に参加する予定だ。

 

そんなわけでクィディッチの練習に行く前に、ウィーズリー家の生活感溢れるダイニングで昼食をご馳走になっているわけだが……もう皿の上のパスタは一人前を優に超えてるぞ。誰か止めてくれとテーブルの面々に目線で助けを求めてみると、苦笑しながらのジニーがモリーさんを止めてくれた。

 

「ママ、幾ら何でも盛りすぎだよ。サクヤは小食なんだから、そんなには食べられないって。」

 

「あら、沢山食べなきゃダメよ。残してもいいからお腹いっぱい食べて頂戴。」

 

「そういう風に言われても無理して食べようとしちゃうのがサクヤなの。……ほら、いいから貸してってば。ちょっと減らすから。」

 

言うとジニーはモリーさんからトングを取り上げて、私の皿から自分の皿にパスタを移してくれる。実にありがたいぞ。とても美味しそうなペスカトーレではあるのだが、さすがに限界以上は食べられない。大量に残しちゃうのは申し訳ないと思っていたのだ。

 

「これくらいでいい?」

 

「うん、充分よ。ありがと、ジニー。」

 

「おっけーおっけー。……ママ、真ん中に置いとけばみんな自分で盛るから大丈夫だよ。なんでそんなに盛りたがるのさ。」

 

トングを取り戻そうとするモリーさんにジト目で抗議したジニーに、赤毛の母親が娘そっくりの顔で言い返す。やっぱり親子だな。

 

「昼休みにお父さんとパーシーが帰ってくるんだから、二人の分を残しておく必要があるのよ。食べ盛りがこんなに居たら無くなっちゃうでしょう?」

 

「無くなるわけないじゃん。まだ追加で作ってるんでしょ? ……いいから私に任せてってば。ママが盛るとみんな食べすぎで死んじゃうよ。」

 

やれやれと首を振りながらテーブルの中央にパスタがたっぷり入ったボウルを置いたジニーへと、モリーさんが尚も食い下がろうとするが……その前にテーブルの一番奥に居るビルさんがトングに手を伸ばした。彼は結婚式の準備をするために、最近は隠れ穴に頻繁に戻ってきているらしい。

 

「ジニーの言う通りだよ、母さん。みんなもう子供じゃないんだから、自分の分くらい自分で取れるさ。……そら、それぞれ適当に取ってくれ。味は保証するから。」

 

「本当にもう、張り合いのない子たちね。……ハリー、ハーマイオニー、マリサ、あなたたちも好きなだけ取って頂戴。サラダもありますからね。」

 

おー、何もかもが大量だな。今度は野菜が山盛りになっている巨大なボウルを持ってきたモリーさんへと、みんなでお礼を言いつつそれぞれ手を伸ばしたところで、ロン先輩の隣に座っているハーマイオニー先輩が話題を元に戻してくる。アリスの一件が気になって仕方がないようだ。

 

「それで、マーガトロイド先生はどうしてるの?」

 

「最近はずっと家に居ます。あんまり外に出るべきじゃないってボーンズ大臣に言われたみたいで。ポッター先輩の誕生日パーティーとか、ビルさんの結婚式に出られないかもしれないことを謝ってました。」

 

「残念だけど、そういう事情なら仕方がないさ。フラーも納得してくれると思うよ。……というか、彼女はマクーザに対して怒るんじゃないかな。フランス魔法省に乗り込んで逮捕しようとしたっていうのは強引すぎるからね。」

 

私に応じたビルさんに続いて、ポッター先輩も真剣な表情でこくりと頷く。ちなみにデラクールさんはお仕事中らしい。明日の誕生日パーティーには来るそうだけど。

 

「うん、悪いのはマクーザだよ。……まさか本当に逮捕されたりはしないよね?」

 

「ここはイギリスよ、ハリー。だからイギリスの魔法使いを他国の捜査機関が不当に逮捕することなんて出来っこないわ。そうなったらもう国際問題よ。」

 

「ん、リーゼもそう言ってたぜ。魔法省は断固抗議の姿勢を取るんだってさ。」

 

パスタに入っている海老を頭ごと食べている魔理沙の返答に、自家製らしきドレッシングの瓶を持ってきたモリーさんが反応した。ぷんすか怒りながらだ。

 

「当たり前です。いきなり訳の分からない疑いをかけて、強引にアメリカに移送しようとするだなんて……信じられないほどに無礼だわ。ジニー、吼えメールの残りがどこにあったか覚えてる?」

 

「覚えてるけど、手紙を書くのは食べ終わってからにしなよ。私も書きたいし。」

 

「なら、後でダイアゴン横丁に追加を買いに行きましょうか。ついでにマーガトロイドさんの様子も見てこようかしら? そうなるとお土産に何か作った方が良いかもしれないわね。」

 

「母さん、吼えメールは程々に頼むよ。マクーザにまでウィーズリーの悪名が伝わるのは避けるべきだろ? フレッドとジョージの所為で、イギリス魔法界にはあまねく広まっちゃってるんだから。」

 

苦笑いのビルさんが注意したところで、少し離れた場所にある暖炉に緑の炎が燃え上がると共に、スーツ姿のアーサーさんが姿を現わす。魔法省は昼休みに突入したようだ。

 

「みんな、ただいま。パースもすぐに……おっと、来たみたいだね。」

 

「ただいま帰りました、母さん。みんなも久し振りだね。」

 

「お帰りなさい、二人とも。さあさあ、席に着いて頂戴。今日はパスタを作りましたからね。」

 

うーむ、慌ただしいな。私たちに挨拶しながらパーシー先輩がビルさんの隣に、アーサーさんが家長らしく一番上座に腰を下ろしたのを見て、モリーさんが素早い動きで皿を持ってくる。紅魔館では住人たちの食事の時間がバラバラなことが多かったので、こういう『大家族』って雰囲気は新鮮だ。

 

何となくこちらを笑顔にさせる光景に微笑んでいると、アーサーさんが革のブリーフケースから何かを取り出した。困惑しているような表情でだ。

 

「サクヤ、マリサ、君たちはこれの詳細を知っているかね? さっきアトリウムで配られていたんだが。」

 

そう言ってアーサーさんがテーブルの中央に置いたのは……わお、凄まじいな。予言者新聞の号外だ。見出しには目が悪い人でも絶対に見逃さないような大きな文字で、『権力の妄執者、アルバート・ホームズの蛮行』と書かれている。

 

「賭けてもいいけど、これを書いたのはスキーターだと思うよ。見出しがもう『スキーター調』だもん。」

 

「そうね、『蛮行』ってあたりがスキーターっぽいわ。『妄執者』の部分はちょっと文学的すぎてゴシップ記者っぽくないけど。」

 

ジニーとハーマイオニー先輩がよく分からない議論をしている間に読み進めてみると、これでもかというくらいにホームズの行いを叩いている内容だということが分かってきた。この記事によればホームズは『スカーレット女史の影響力を削ぐために清廉潔白なイギリス魔法界の功労者の罪をでっち上げ』、『腐敗した連盟の威を借りて我が国に対して不当な圧力をかけてきており』、『イギリスの威信を貶めるべく日々怪しげな密会を繰り返している』のだとか。レミリアお嬢様のことを悪し様に書いたリータ・スキーターのことは好きじゃないが、今回の記事だけは好きになれそうだな。

 

そしてそれは私だけの感想ではなかったようで、モリーさんも大きく鼻を鳴らしながらうんうん頷き始める。

 

「スキーターもまともな記事を書くようになったみたいね。後で壁に貼っておきましょうか。」

 

「スキーターのやつ、ボロクソに叩いてるぜ。……見ろよ、ここ。『本紙が取材したマクーザの関係者によれば、ホームズは自身の支持者を利用して敵対議員に脅迫を行うという非人間的な行為を何度も実行している』だってよ。マクーザに行ったってことか?」

 

「大して調べなくても書くだけなら簡単よ。スキーターのことだし、『本紙が取材したマクーザの関係者』ってのは実在しない人物なんでしょ。」

 

「それでも今回はいい気味だよ。……三枚目もぎっしり書いてあるな。裏までだ。これ、文量だけならいつもの新聞の五倍はあるぞ。」

 

魔理沙に突っ込んだハーマイオニー先輩へと、三枚目を手にしたロン先輩が応じたところで、アーサーさんがサラダを頬張りつつ魔法省職員の反応を教えてくれた。

 

「職員たちは混乱してたよ。マーガトロイドさんのことを知っている人は結構多いからね。彼女は……何と言うか、人気があるんだ。人当たりが良いから。」

 

「職員の人たちは魔法省の姿勢を支持してるってことですか?」

 

私が投げかけた質問に、ペスカトーレに入った大量のイカを見て嫌そうな顔になっているパーシー先輩が答える。嫌いなのかな? 美味しいのに。

 

「多分、九割以上が支持するんじゃないかな。スカーレット女史の関係者で、かつ去年の戦いでは例のあの人の杖腕を切り落とし、第一次戦争では不死鳥の騎士団所属。おまけに人付き合いが良くてダイアゴン横丁にも顔が利くとなれば、嫌ってる人なんて殆ど居ないよ。この記事もそれに拍車を掛けるだろうしね。」

 

むう、アリスは私が思うよりも『人気者』だったらしい。ちょびっとだけ感心する私を他所に、ビルさんがおかわりを皿に取りながら同意を返す。

 

「だろうね、グリンゴッツの呪い破りの中にも『ファン』がいるくらいだから。……ホームズが何を考えているのかは分からないけど、ここまで強硬に拒絶されるのは予想外だったんじゃないかな。」

 

「そう? 私は至極当然の反応だと思うけど。」

 

「それはジニーがイギリスの……というか、ヨーロッパの魔法使いだからそう思うんだよ。僕は何度か仕事でアメリカに行ったことがあるけど、向こうじゃスカーレット女史の影響力はヨーロッパほど大きくないんだ。『紅のマドモアゼルの部下』って立場がどれだけの価値を持つかは、マクーザの中に居ると分かり難いんじゃないかな。」

 

「ふーん。……ま、ざまあみろだよ。」

 

母親そっくりの仕草でジニーが鼻を鳴らしたところで、ずっと記事を読んでいたポッター先輩が根本的な疑問を口にした。

 

「でもさ、変だよね。マーガトロイド先生が犯人じゃないのは当然として、ホームズはどうしてここまで自信満々に糾弾できるんだろう? これだけ大きな国際問題になってから、やっぱり犯人じゃありませんでしたってなったら大事じゃない? ホームズに同調してるマクーザとか、連盟の協力者とかはそれが怖くないのかな?」

 

「……確かにそうね。ここまで強引に要求をゴリ押せるってことは、何か決定的な証拠でもあるのかしら?」

 

「あるわけないだろ? ハーマイオニー。マーガトロイド先生は犯人じゃないんだから、『決定的な証拠』なんてものは出るはずないんだ。」

 

パスタを頬張りながらのロン先輩の指摘を受けて、ハーマイオニー先輩は難しい表情で首を横に振る。

 

「捏造してるって可能性を考慮すべきよ、ロン。もしスキーターの記事通りホームズの目的がスカーレットさんの影響力を削ぐことなら、そこまでのことをやったっておかしくないわ。スカーレットさんには味方が多かったけど、同時に敵も多かったでしょう? そういう人たちが協力してるのかもしれないじゃない。」

 

「ハーマイオニーの言う通りだね。スカーレット女史が居なくなったことで空いた穴は途轍もなく大きいんだ。今の国際社会はそれをそのままにしておこうという者と、代わりに誰かの存在をねじ込もうとしている者に分かれてる。後者の連中はスカーレット女史の影響力を払拭したいんだよ。ホームズの行動はそういう人たちにとって都合の良いものなんじゃないかな。」

 

パーシー先輩が重々しい口調で放った意見を聞いたテーブルの面々は、それぞれ無言で考え始めた。……この場では私と魔理沙だけしか知らないが、ホームズの裏には例の魔女が居るはずだ。それを含めると事態はより複雑になってくるな。

 

魔女がアリスを狙っているとして、殺そうとしているのか捕縛しようとしているのか。本気でレミリアお嬢様の影響力を削ごうとしているのか、それともそれはアリスを捕まえるための手段に過ぎないのか。

 

一体何が目的なんだ? アリスか、魔法界そのものか、はたまた別の何かか。私が頭を悩ませていると、魔理沙が呆れたような半笑いで声を上げる。

 

「しかしよ、レミリアも大したもんだな。居なくなった後もあいつを中心に大騒ぎしてるじゃんか。」

 

……まあうん、確かにそうだな。ホームズと戦っているのも、アリスを守っているのもレミリアお嬢様の存在に他ならないだろう。姿がなくとも、遠く離れていても、結局のところ国際社会はお嬢様を中心に動いているわけだ。これって結構凄いことなんじゃないだろうか?

 

未だ魔法界に鎮座し続ける『紅のマドモアゼル』のことを思って、サクヤ・ヴェイユは紅魔館の主人への尊敬度合いを一つ上げるのだった。

 

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