Game of Vampire   作:のみみず

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受難の始まり

 

 

「なあ、アリスが言ってたのってこの色だよな? それともこっちか? 違いが全然分からんぞ。」

 

ちょびっとだけ明るかったり暗かったりしているのは分かるが、私からすればどれも『青』だ。棚に並ぶ大量の青い布を見比べながら、霧雨魔理沙は困り果てた気分で隣の咲夜に問いかけていた。こういう違いをどうでも良いと思っちゃう人間だからこそ、私は白と黒が好きなのかもしれないな。

 

ホグワーツから五年生の教科書のリストが送られてきて、ついでに咲夜が『優等生バッジ』を手に入れた八月の上旬。私たちはアリスからのお使いを遂行するために、ダイアゴン横丁にあるマダム・マルキンの洋装店を訪れているのだ。

 

今月の中頃にあるビルとデラクールの結婚式に向けて、私と咲夜の新しいドレスローブを縫ってくれるということで、家を出られないアリスの代わりに材料の布を買いにきたわけだが……よく考えたら、今のアリスにそんなことをやっている余裕があるのだろうか?

 

先日リーゼと二人で香港自治区に行った際、例の魔女は北アメリカに深く関わっているとの情報を手に入れたようで、今はリーゼが動き回ってそれを調べているものの……まあうん、やっぱり新大陸の情報は入手が難しいようだ。現状では有力な手掛かりを掴めていないらしい。

 

リーゼは北アメリカを縄張りにしていた魅魔様との接触を望んでいるようだが、そっちもそっちで音沙汰なし。我が気まぐれな師匠は今頃何をしているのだろうかと思考していると、咲夜が手元の『お使いリスト』を確認しながら返事を寄越してくる。

 

「買うのはロイヤル・ブルーよ、魔理沙。濃いブルー。」

 

「だけどよ、『濃いブルー』だけでも五十種類はあるぞ。……もう大人しくマダム・マルキンに聞こうぜ。箒なら違いが分かるが、布はさっぱりだ。」

 

「私もナイフなら分かるんだけど、こっちはちんぷんかんぷんね。勉強すべきかしら?」

 

「アリスが居るんだから必要ないだろ。……おーい、おばちゃん! 手伝ってくれ! 私らだけじゃお使いが達成不可能なんだ!」

 

ミシンの音が響いてくる店の奥に呼びかけてみれば、すぐさま中年の女性が愛想の良い笑顔でこちらに近付いてきた。この店の主人であるマダム・マルキンだ。もう少しでホグワーツの新入生たちが制服を買いに来る時期なので、今からその準備をしているらしい。

 

「はいはい、今行きますよ。……マーガトロイドさんからお使いを頼まれたの? 今は人形店に戻ってらっしゃるのよね?」

 

「ご明察。私たちに服を縫ってくれるらしくてさ、そのために布が要るんだよ。ウィーズリー家の長男が結婚するのを知ってるか?」

 

「ああ、フランスのお嬢さんと結婚するんだとか。噂になってるわよ。」

 

さすがはダイアゴン横丁で一二を争う『噂好き』だな。情報通のマダム・マルキンに首肯してから、咲夜がお使いリストを渡すのを横目に続きを語る。私は夏休みの間ダイアゴン横丁をぶらつくことが多いので、彼女からよく噂を教えてもらっているのだ。

 

「そうそう、対抗試合の時にボーバトンの代表だったフランスのお嬢さん。それで近々結婚式があるから、アリスがドレスローブを仕立ててくれるんだとさ。私たちもお呼ばれしてるんだよ。」

 

「あらまあ、良いわねぇ。マーガトロイドさんは落ち着いた服が好みだから、きっと大人っぽく作ってくださるわ。」

 

「詳しいじゃんか。アリスはよく来るのか?」

 

「イギリス魔法界で一番布の品揃えが良いのはこの店ですからね。マーガトロイドさんは昔からのお得意様なの。ホグワーツの制服のデザインにも助言をもらってるのよ? ……最近マグル製の新しい布をいくつか仕入れたから、出来れば直接本人とお話ししたかったわ。」

 

お世辞で言っているわけではなく、本気で残念そうな顔付きだな。一種の趣味仲間ってわけか。リストを一瞥しただけで的確に布を選別していくマダム・マルキンに、苦笑しながら返答を送る。

 

「今はほら、『指名手配問題』があるからさ。迂闊に外出できないんだよ。」

 

「そう、それよ。本当に忌々しいわ。マクーザの連中は何を考えているのやら。たった一ヶ月足らずでスカーレット女史への恩義を忘れて、その上マーガトロイドさんに迷惑をかけるだなんて……信じられない連中ね。恩知らずの、恥知らずの、礼儀知らず。イルヴァーモーニーでは何を教えているのかしら? 濡れ衣の着せ方でも教えてるの?」

 

おおう、火がついちゃったらしい。途端にぷんすか怒り出したマダム・マルキンは、どうもスキーターの記事をきちんとチェックしているようだ。カウンターまで運んだ布を必要な長さに切りながら、尚もブツブツと文句を続けた。

 

「ボーンズ大臣の姿勢は尤もよ。ダイアゴン横丁の住民はみんなそう言ってるわ。大国だか何だか知りませんけど、イギリス魔法界はあんな粗暴な国に屈したりしませんからね。今の魔法省は例のあの人だって退けたんだから、マクーザなんて……何かしら?」

 

ん、どうした? 急に『苦言』を停止させたマダム・マルキンが見ているのは、店の前の大通りだ。釣られて私たちも視線を向けてみると、ダイアゴン横丁のメインストリートで何か騒ぎが起こっているのが目に入ってくる。

 

どうやらスーツ姿の十名ほどの男たちを、その三倍ほどの横丁の住人たちが取り囲んでいるらしいが……むう、穏やかじゃない雰囲気だな。スーツの集団も、住人たちも。随分と剣呑な表情を浮かべているぞ。

 

「おいおい、何だ? 良くない感じだな。」

 

「そうね、普通じゃないわ。……行ってみる?」

 

私と咲夜がショーウィンドウ越しに騒ぎを眺めながら相談している間にも、手早く布を包んだマダム・マルキンはこうしちゃいられないとばかりに小走りで店を出て行く。新たな噂を仕入れられると判断したようだ。

 

「見てきますからお代は置いておいて頂戴。」

 

「……まあうん、私たちも行ってみっか。」

 

「ちょっと待って、代金を……はい、オッケーよ。行きましょう。」

 

慌てて代金をカウンターに置いた咲夜と一緒に、私も店を出て集団に近付いてみると……おお、おっちゃんだ。人だかりの中心で、箒屋のおっちゃんが三十歳ほどのスーツ姿の眼鏡の男性と睨み合っている。何やら口論をしているらしい。

 

「ここはイギリスだ。分かるか? イギリスの魔法界にある、由緒正しい商店街なんだ。だからあんたらに口出しされる覚えはないし、そんな義理もない。とっとと海を渡って家に帰るんだな。」

 

「先程丁寧にご説明した通り、我々は国際魔法使い連盟に認可された捜査権に基づいて捜査を行おうとしているだけです。そこを退いていただきたい。捜査を邪魔するのは権利の侵害ですよ。」

 

「だったら言わせてもらうが、あんたらがウロつくと大事な客が寄り付かなくなるんだよ。それは権利の侵害に当たらないのか?」

 

そうだそうだと囃し立てるダイアゴン横丁の住人たちと、それを忌々しそうに睨み付けるスーツの一団。『国際魔法使い連盟に認可された捜査権』? ……つまり、こいつらはホームズの部下たちなのか? 見たところホームズ本人は居ないようだが、とうとう連盟がイギリスでの捜査を認めてしまったということなのだろう。

 

「ヤバいんじゃないか? これ。横丁じゃマーガトロイド人形店の場所なんか常識だし、すぐにバレちまうぜ?」

 

「でも、リーゼお嬢様はあの人たちが入国したことを知ってるんじゃない? まさか魔法省に許可も取らずに捜査に来たわけじゃないでしょうし。」

 

私と咲夜が顔を合わせて話しているのを尻目に、リーダーらしき眼鏡の男性がおっちゃんに反論を放つ。かなり苛々している口調でだ。

 

「海外出張までして凶悪な殺人犯を追っている我々に対して、イギリス魔法界の住民たちは僅かな協力もしてくれないと? 我々は殺人犯を捕らえることで、この町の治安をも守ろうとしているのですよ?」

 

「悪いが、余計なお世話なんだよ。……まさか歓迎されるとでも思ってたのか? ヒーローみたいに迎え入れてくれるとでも? 残念ながら、今お前さんたちが目にしてるのがダイアゴン横丁の総意だよ。ここじゃあお前らは招かれざる客で、『凶悪な殺人犯』とやらは身内ってこった。市民の協力を期待してるなら考え直した方が身の為だぞ。」

 

「……貴方たちがやっているのは犯罪者の隠匿行為です。我々に捜査権がある以上、拘束するのも可能だということを知っておくべきですね。」

 

「おう、やってみろよ。ここに居る全員を拘束して、マクーザの裁判所か何かでありもしない罪をおっ被せてみな。……イギリスの魔法使いには安い脅しなんぞ通用しねえんだよ。俺たちは戦争を終えたばかりなんだ。平和ボケしてる北アメリカの魔法使いと一緒にしないでもらおうか。」

 

腕を組んで堂々と言い放つおっちゃんへと、縁なし眼鏡の男性はため息を吐きながら何かを言おうとするが……ふと私たちの方に目を向けたかと思えば、いきなり歩み寄って腕を掴んできた。何すんだよ、こいつ。

 

「君たち、フランス魔法省でマーガトロイドと一緒に居た子たちだね。少し話を聞かせてもらおうか。私はジャック・フリーマン。イギリスでの捜査を認められている、マクーザ国際保安局の次局長だ。」

 

「……嫌だって言ったら?」

 

「出来れば任意で話を聞かせてもらいたいが、我々には同行を強制する権利が──」

 

「おい、子供相手に乱暴なことをするんじゃねぇよ!」

 

強く握られた腕を引っ張って抵抗する私と、次局長とかいう男を止めようとするおっちゃん。それに対してフリーマンが空いている手で杖を抜こうとしたところで、急にあらぬ方向から眩い閃光が瞬く。ああもう、今度は何だ? その場の全員が視線を送った先に居たのは──

 

「あーら、まあ! ショッキングなシーンざんす! 『マクーザ捜査官、イギリスでの捜査権を盾に未成年に暴行』。明日の朝刊のトップニュースはこれで決まりざんすね。」

 

イギリスが誇る捏造の達人、リータ・スキーターだ。フラッシュを焚いたばかりのどデカいカメラを手にしている専属カメラマンを引き連れながら、ウキウキ顔で手に持ったメモ帳に自動筆記羽ペンを走らせているスキーターは、物凄い勢いで私に近寄ってくると……この状況で取材する気かよ。さも心配しているかのような表情を浮かべつつ、掴まれている二の腕を指差して質問し始めた。

 

「お嬢ちゃん、痛い? 必要以上の力で掴まれていると感じる? 暴力だと判断する? この男に恐怖を感じて答え辛いなら、頷くだけでも結構ざんすよ。」

 

「あー……そうだな、ちょっと痛いかな。」

 

「なるほどね。なるほど、なるほど。不憫ざんす。苦痛を感じていると。」

 

ちらりとスキーターの手元のメモ帳を覗き込んでみると、どうやら私は『他国の不当な捜査に怯える何の罪もない幼い少女』で、『単に通りを歩いていただけなのにいきなり暴力を振るわれ』、『腕に専門的な癒者の治療が必要なほどの怪我を負っている』らしい。よくもまあ一瞬でここまで誇張できるもんだな。

 

「それで、どういう意図で我が国の未成年に暴行を加えているんざんしょ? マクーザは捜査権さえあれば未成年を痛め付けても構わないと判断しているってことかしら? それはアルバート・ホームズの指示? それとも貴方の独断? ……ボゾ、もっと写真を撮りな。折角の『良いシーン』なんだから数枚ぽっちじゃ勿体無いざんす。」

 

「私は別に、そんなつもりは──」

 

何度もフラッシュを焚きまくるカメラマンを見て慌てて手を離したフリーマンへと、スキーターはにじり寄りながら問いを連発した。その間も自動筆記羽ペンはとんでもないスピードで動き続けている。水を得た魚、ゴシップを得たスキーターだな。

 

「ダイアゴン横丁の住民に歓迎されないのを受けてどう思った? 連盟の捜査権があるのにこの対応は納得できない? ……なるほど、不当だと考えているんざんすね。『捜査権を手にした我々に逆らうとは何事か』と思っていると。」

 

「待て、私はまだ何も言って──」

 

「言い辛いことは無理に言わなくても大丈夫ざんす。たとえ取材相手が終始無言でも、表情から真意を読み取るのが一流の……あら、その手は何ざんしょ? まさかジャーナリストを力尽くで遠ざけようとしているとか? マクーザは他国の市民の知る権利に介入しようとしているってこと?」

 

「ち、違う! それは違う! 私はただ、落ち着いて話を聞いてもらおうとしているだけだ!」

 

至近距離で捲し立ててくるスキーターの肩を軽く押したフリーマンに、わざとらしい驚愕の顔を向けた予言者新聞社のエースどのは、それまで以上の猛烈な勢いで『客観的事実』を並べ立て始めた。

 

「情報規制、報道に対する抑圧、権利の乱用、傲慢、市民の声を無視。……ボゾ、撮ったね? 私のことを『強制的に排除』しようとした場面を撮ったざんしょ?」

 

「撮りました、スキーターさん。」

 

「良い仕事ざんすよ。大陸側の紙面に載せる写真はこれで決まりざんす。編集長に翻訳用自動羽ペンの追加を頼まないとね。あらゆる国にばら撒いてやりましょ。」

 

『特ダネ』の入手を喜んでいるスキーターたちを見て、このままではマズいことになるとフリーマンは感じたのだろう。敵意が無いことを身振りで必死に表現しながら、スキーターに弁明しようと口を開くが……その前にまたしても『火種』が飛び込んでくる。

 

「待っていただきたい、我々は……何だ? これは。」

 

フリーマンの足元にちょこちょこ歩いてきた足の付いた黒い球体。スーツの一団がこぶし大のそいつを不思議そうに見つめるのを他所に、ダイアゴン横丁の住人たちは示し合わせたように目を閉じて鼻と口を手で塞いだ。もちろん私も、咲夜も、スキーターもカメラマンもだ。だって私たちはこれが何なのかをよく知っているのだから。

 

「何をしているんだ? 一体何が──」

 

一斉に奇妙なポーズになったイギリスの魔法使いたちに何かを問いかけようとしたフリーマンだったが、ポンという軽い音と共に台詞を途中で途絶えさせてしまう。……というかまあ、喋りたくても喋れないんだろうな。何せ今のフリーマンは悪戯小僧たちが生み出した激辛ガスで咳込みまくっているのだから。『囮爆弾』の新型は完璧にその役目を果たしたらしい。

 

「よう、お二人さん。今のうちに逃げようぜ。どうせ暫くは追ってこれないさ。激辛粉の量をかなり増やした特製煙幕だからな。……本当は死喰い人に使いたかったんだけど、機会が無くて倉庫の肥やしになってたんだよ。」

 

「しかし、マクーザの捜査官も大したことないな。ホグワーツ生ならあれが何なのか分からなくてもとりあえず逃げるぜ? 危機管理がなってない証拠さ。イルヴァーモーニーではきちんと悪戯を『教えて』いないのか?」

 

私と咲夜の手を引いて真っ赤な煙幕の外まで誘導してくれたのは、言わずと知れたウィーズリー・ウィザード・ウィーズの店主二人組だ。騒ぎを聞きつけて助けに入ってくれたのだろう。騒動を大きくすることで助けようとするのは双子らしいが。

 

「……大丈夫なんですか? あれ。」

 

小走りで駆けながらの咲夜が遠ざかる『被害者』たちを指して放った質問に、フレッドが肩を竦めて返答を返す。

 

「俺たちはイギリス魔法界の流儀を懇切丁寧に教えてやっただけさ。現にお偉い捜査官以外の連中は平然としてるだろ? これくらいのことで参ってたらこの国で捜査なんか出来っこないぜ。」

 

「不運な連中だな。いきなりスキーターとお前ら二人に遭遇するなんて難易度が高すぎるぜ。あとはグルグル目玉が居れば『イギリス魔法界のフルコース』じゃんか。」

 

「まあ、一筋縄じゃいかないってのは学べただろうさ。この国じゃお堅い常識なんて通用しないんだよ。……そら、多分もう大丈夫だ。後はアンネリーゼに報告すれば何とかしてくれるだろ。」

 

私に答えながら人形店がある方向を指差したジョージは、懐からいくつかの悪戯グッズを取り出してこっちに押し付けてくる。咲夜にはフレッドが渡しているようだ。どれもこれも危険すぎて販売できないとお蔵入りになったやつだな。

 

「大した役には立たないだろうが、無いよりマシなはずだ。上手く使えよ、後輩。」

 

「いいのか?」

 

「どうせ売り物には出来ないからな。横丁はあいつらがウロつくことになるだろうし、夏休み中はもう出歩かない方が良いと思うぞ。それでも何かあったら店に駆け込んでこい。匿ってやるから。」

 

「おう、ありがとよ。」

 

私に続いて咲夜がお辞儀しながらお礼を言うと、双子は揃った動作で手を上げてから来た道を戻って行った。……まさかもう一度悪戯を仕掛けるつもりじゃないだろうな? その辺が若干不安になりつつも、その姿を背にマーガトロイド人形店へと走り出す。

 

咲夜と二人で見慣れた角を曲がって、そのまま人形店に駆け込もうとすると……ありゃ? 何故か人形店があるはずの場所が無くなってるぞ。建物が消えているわけでも入れないわけでもなく、『場所』が無くなっているのだ。左右のお隣さんの建物がぴったりくっ付いていて、その間にあるはずの人形店が忽然と消えている。

 

「……どういうことなの?」

 

呆然と聞いてくる咲夜に、私も狐につままれたような気分で返事を口にした。そんなこと言われたって、私にもさっぱり分からんぞ。

 

「場所は絶対に合ってるはずだ。住んでるんだから間違えようがないしな。……何かの魔法じゃないか? 防衛魔法的な──」

 

「大正解だ、魔理沙。忠誠の術だよ。」

 

うお、びっくりするだろうが。急に背後からかけられた声に慌てて振り返るが、そこにあるのは何も無い空間だけだ。……まあ、今更それに驚いたりはしないが。リーゼの声で話しかけられた以上、姿を消した状態の吸血鬼が居るということなのだろう。

 

当然ながら『お嬢様教徒』の咲夜も声の主を特定できたようで、さほど驚かずに背後の空間へと報告を投げかける。

 

「リーゼお嬢様、ホームズの部下たちが──」

 

「大丈夫だ、分かってるよ。だから術をかけたわけだしね。ほら、早く読みたまえ。そして覚えるんだ。二人とも二度目だから慣れたもんだろう?」

 

「守られる側は経験あるけど、部外者の立場から見たのは初めてだぜ。こういう風に見える……っていうか、見えなくなるんだな。守り人は誰なんだ?」

 

「当然、この私だよ。故に私は中に入れないから、詳しいことはエマとアリスから聞きたまえ。私はこのまま魔法省に行かないといけないんだ。」

 

透明なままでそう言うと、リーゼは私たちに見せていたマーガトロイド人形店の住所が書かれた紙を回収した後、注意を交えた別れの言葉を飛ばしてきた。

 

「悪いが、夏休みが明けるまでは大人しくしていてもらうことになるかもしれない。私は暫く家に戻れないから、エマとアリスの言うことを聞いて慎重に生活するように。マクーザはともかくとして、魔女とホームズは何をしてくるか分からないからね。ホグワーツに行くまでは我慢しておいてくれたまえ。……それじゃ、失礼するよ。」

 

そもそも気配を感じ取れないので本当に居なくなったのかは分からんが、とにかくリーゼが『失礼した』のを受けて、咲夜と一度顔を見合わせてから人形店に……いつの間にか認識できるようになっていた人形店に向かって歩き出す。兎にも角にも、アリスとエマの話を聞こう。じゃなきゃ何をどうすればいいのかさっぱり分からん。

 

どんどん生活が窮屈になることを恨めしく思いつつ、霧雨魔理沙は早くこの一件が解決することを願うのだった。

 


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