Game of Vampire 作:のみみず@白月
「また私の友達をいじめて! ぶっ飛ばすよ、メガネ!」
雪が積もってきたホグワーツの中庭で、フランドール・スカーレットはハッフルパフの同級生たちを背に庇いながら、いつもの四人組と対峙していた。
メガネ、気取り屋、ヨレヨレ、オドオドのグリフィンドール四人組だ。こいつらは事あるごとに他の寮生に絡んでくる。他の寮ならともかく、ハッフルパフが狙われたなら黙ってられない。
飛び出したフランに対して、メガネが怒鳴り声を上げてくる。
「またお前か、スカーレット! 今日こそその薄気味悪い羽を毟ってやるぞ!」
「酷いことを言わないでよ、ポッター!」
後ろに立つコゼットが怒ってくれるが、こいつの言うことなんか気にしない。杖を取り出そうとしたので、その前に脇腹を殴ってやった。
「ぐうっ……。」
「ジェームズ! こいつ、やったな!」
メガネが倒れ込んだのを見て、気取り屋が杖を抜いた。オドオドはオドオドしてるし、ヨレヨレは呆れたように見ているだけだ。
「
気取り屋が何かの呪文を放ってくるが、そんなもん効くわけがない。無視してこいつの脛を蹴っ飛ばしてやる。
「あぐっ……。」
脛を押さえて蹲る気取り屋から目を離して、残った二人に向き直った。二人は痛そうに蹲っているが、手加減はもう覚えたのだ。骨すら折れていないだろう。
「ふん、そっちの二人はどうするの? やるんならヨーシャしないよ。」
「あー……僕はやめておくよ。勝てない勝負はしないんだ。」
「ぼ、僕も!」
腕を振り上げて威嚇しながら言うと、ヨレヨレは肩を竦めながら、オドオドはオドオドしながら、それぞれ返事を返してくる。この二人は多少賢いようだ。
「次にハッフルパフに手を出したら、こんなもんじゃ済まないよ!」
四人組に脅しをかけてから振り返ると、コゼットたちが集まって来て心配してくれる。
「だ、大丈夫だった? フランに呪文が当たったように見えたけど。」
「ヘーキだよ、あんなの。ほら、ピンピンしてるでしょ?」
その場で飛び跳ねてみれば、ようやく安心してくれたようだ。庇ったハッフルパフの同級生たちが口々にお礼を言ってくる。
「ありがとう、フランドールちゃん。私、怖くて何もできなくって……。」
「いつもごめんね、スカーレット。僕は男の子なのに……。」
むむぅ、落ち込んでしまっているらしい。ここは元気付けなければなるまい。胸を張ってみんなに言い放つ。
「大丈夫だよ、みんな! フランは強いから、ハッフルパフを守ってみせるよ!」
私が高らかに宣言すると、みんなは安心してくれたようだ。そのままみんなで寮に戻ろうとすると、向こうからマクゴナガル先生が小走りでやってきた。マズいぞ、ハッピーエンドにはならないかもしれない。
「何があったのですか? ポッター、ブラック、それに……スカーレット! また二人をノックアウトしたんですか!」
顔を真っ赤にして怒るマクゴナガル先生に、ハッフルパフのみんなが口々に説明してくれる。
「違うんです、マクゴナガル先生! フランドールちゃんは私たちを助けるために……。」
「そうです! またポッターとブラックが絡んできたんです!」
わいのわいのと騒ぐハッフルパフの生徒を、マクゴナガル先生はこめかみを押さえながら落ち着かせていく。
「分かりました……分かりました! またいつものような展開があったと言うわけですね。」
大きなため息を吐くと、マクゴナガル先生はメガネたちの方へと向き直った。四人組はバツの悪そうな顔をしている。ふん、怒られればいいんだ。
「ポッター、ブラック、グリフィンドールからそれぞれ五点減点します。それと……ルーピン、ペティグリュー、貴方たちも見ていないで止めなさい。それぞれ一点減点です。」
ざまあみろ! 落ち込む四馬鹿を見て笑っていると、マクゴナガル先生はこちらにも注意を飛ばしてきた。
「それと、スカーレット。貴女の行いはいささか暴力的すぎます。残念ですがハッフルパフから三点を引かざるを得ません。」
何だって? マズいぞ、これ以上点数を引かれるわけにはいかない。ただでさえ色んなものを壊しちゃっているせいで、そこそこの点数を失っているのだ。
「でも、でも、アイツらがフランの友達をいじめてたんだよ! 黙って見てるなんて出来ないよ!」
「お友達を救おうとするのは素晴らしいことです。しかし、力ではなく言葉で解決すべきでした。」
そんなこと言われたって、アイツらは何度言ってもやめないじゃないか。ぐぬぬ、きっとグリフィンドール出身だから贔屓してるんだ。
なおも言い募ろうとするフランを目線で止めて、マクゴナガル先生はその場の全員に言い放った。
「ルーピン、ペティグリュー、二人を医務室へ連れて行きなさい。ハッフルパフの生徒たちも寮へ戻ったほうがいいでしょう。外に居ては風邪をひきますよ。」
メガネと気取り屋を引きずって、ヨレヨレとオドオドが医務室へと歩いて行く。マクゴナガル先生も何処かへと歩き出すが、フランは未だ茫然と立ち尽くしていた。
どうしよう。このまま点を減らし続けていたら、みんなに嫌われてしまうかもしれない。ウンウン唸っていると、コゼットがフランの手を握りながら声をかけてくれる。
「フラン、落ち込むことなんてないよ。マクゴナガル先生はきっと、あいつらのしつこさを知らないんだよ。」
コゼットの言葉に、みんながそうだそうだと励ましてくれる。嬉しい。ちょっと元気が出てきた。
「うぅ……ごめんね? また点数を引かれちゃったよ。」
「それなら、私たちが取り返すよ! フランがみんなを助けたんだから、今度は私たちがフランを助ける!」
コゼットの言葉を聞いて、その通りだとみんなが同意してくれた。とびっきりの笑顔でありがとうを言う。
みんなで寮へと戻りながら、フランドール・スカーレットは自分も授業で点を取ってみせようと、一人決意を固めるのだった。
─────
「それで、フランは上手くやっているかしら?」
そろそろクリスマスを迎えるホグワーツの校長室で、レミリア・スカーレットは目の前に座るダンブルドアに問いかけていた。
今日はダンブルドアの方から面会の依頼があったのだ。十中八九ヴォルデモートの件だろうが、フランのことも気になっていたのですっ飛んで来たというわけである。
私の問いかけに、ダンブルドアはクスクス笑いながらフランの学校での様子を語ってくれた。
「いやはや、同級生の間では『リーダー』として頼られているようですな。本人も中々面倒見が良いようで、その愛くるしい外見とも合わさって、ハッフルパフでは人気の的ですよ。」
「それはまた……予想外ね。」
人気の的? フランが? そりゃあフランはかわいいが、吸血鬼であることはもう知れ渡っているはずだ。私の疑問を汲み取ったのか、ダンブルドアが説明してくれる。
「吸血鬼だということは、もちろん当初は怖がられていましたが……本人の物怖じしない性格が功を奏したようでして、今ではちょっとしたマスコット扱いになっておりますよ。」
恐れられることを是とする吸血鬼がマスコットか。微妙な気分だが、フランが幸せなら文句はない。
「何かを壊したりはしなかった?」
「多少はありましたが……まあ、彼女に悪気がないことは一目瞭然でしたし、今では随分と手加減が上手くなったようですな。最近ではそういったことも無くなりました。」
どうやら紅魔館では百年あっても覚えられなかったことが、ホグワーツでは数ヶ月かからずに習得できたらしい。やはり学校に通わせたことは正解だったようだ。
多少悔しくも思いながらも、ソファに深く身体を預けて口を開く。
「そう……。安心したわ。でも、苦労をかけたみたいね。もちろん壊した物はこちらに請求して頂戴。」
「なぁに、大した被害はありませんよ。それに、そういったことを学ばせるのもホグワーツの仕事なのですから。」
ダンブルドアはキラキラした瞳でそう言った。しかし、この男は前にも増して穏やかな雰囲気になったな。もはや貫禄だけでいえば、そこらの上級妖怪よりよっぽどあるくらいだ。
「それじゃあ、安心したところで本題に入りましょう。あのトカゲ人間の話なんでしょう?」
私の言葉にダンブルドアは虚を突かれたようにポカンとした後、苦笑しながら口を開く。
「トカゲ人間、ですか。本人に言ったら激怒するでしょうな。」
「見たままを言ってるだけよ。傍迷惑なことをしているわけだし、遠慮する必要はないでしょう?」
「まあ、そうかもしれません。しかしながら……そう笑えない事態になっておりまして。彼は巨人や狼人間を味方につけて、その力を増しているのです。」
巨人に狼人間ねぇ。純血主義を掲げているくせに、行動に一貫性がないもんだ。
「貴方が危惧するほどの問題だと?」
「さよう。下手をすれば、ゲラートより危険かもしれません。」
グリンデルバルドよりも? 脳内でヨーロッパの戦いを思い出すが……そんなことが有り得るか? 見た目はヤバそうな感じだが、さすがに信じられない言葉だ。
「ちょっと、幾ら何でも言い過ぎでしょう? グリンデルバルドを超える敵になるってこと?」
私の疑問に、ダンブルドアは慎重に言葉を選びながら自分の考えを語り出す。
「私はそう思っております。ゲラートが行ったのは理性ある戦争だったが、彼がやっているのは理性なき虐殺です。魔法省は情報を制限しておりますが、既に多くの人間が殺されています。……魔法使い、マグルに関わらず。」
「殺すことそのものが目的だと?」
「そういうことではないでしょうが……彼は恐怖によって支配力を強めようとしているのです。故に殺し続けている。ゲラートにとって恐怖は手段でしかなかったが、彼にとってはそれこそが目的なのでしょう。」
それはまた、随分な異常者らしい。恐怖そのものが目的か。主義主張も相まって、かなり過激なことを考えているようだ。
「まあ、そいつの危険性は理解したわ。それで? 私に何を望むのかしら?」
「協力を。私は彼に対抗するための組織を作っております。貴女が協力してくれるのであれば、これほど頼もしいことはないでしょう。」
ダンブルドアの言葉に、脳内で思考を巡らせる。フランがこの学校にいることと、協力することで生じる面倒を天秤にかければ……簡単に決まった。フランが優先だ。
「いいでしょう。フランのこともあるし、それなりの協力は約束させてもらうわ。」
「これは……安心しました。恥ずかしながら、なかなか緊張していたのですよ。」
大きく息を吐いているダンブルドアを見る限り、どうやら本当のことらしい。
しかし……随分と積極的に動くじゃないか。グリンデルバルドの時とは大違いだ。この様子だと、魔法省よりも先行して動いているんじゃないか?
「しかしまあ、熱心に動いているようじゃない? 『イギリスの英雄』としては放ってはおけないってこと?」
「いえ……そうですな、話しておきましょう。これは身から出た錆なのですよ。何故なら……彼はホグワーツで私が教えた卒業生なのです。」
後悔を滲ませる口調でダンブルドアがそう言った。教師としての責任というわけか。
「ふぅん。まさかその頃からこんな馬鹿げた名前だったわけじゃないわよね? 本名は何てヤツなの?」
興味本位で投げかけた質問に、ダンブルドアははっきりとした口調で一つの名前を口にする。
「トム・リドルです。」
ホグワーツの校長室に響いたその名前を、レミリア・スカーレットは確かに耳にするのだった。