Game of Vampire   作:のみみず@白月

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白か、黒か

 

 

「じゃあその、アピスさんにもう一度会いに行くんですか?」

 

ちょっと心配だな。リーゼ様とアピスさんは相性が良くないし、変に拗れちゃったりしないだろうか? 人形店のリビングの椅子に座っているアリス・マーガトロイドは、右手に持った手鏡へとそう問いかけていた。

 

リーゼ様がハリー経由でブラックから借り受けたという『両面鏡』。嘗てジェームズとブラックが秘密の連絡に使っていたというその魔道具で、魅魔さんの記憶に関してを話し合っているのだ。割と貴重な魔道具なのに、ブラックはどうやって入手したんだろうか? ブラック邸の倉庫にでも保管されていたのかな?

 

まあうん、何にせよ煙突ネットワークを使うよりは安全だろう。ウィーズリー家の双子といい、忍びの地図を作った五人といい、『悪戯っ子たち』も中々侮れないなと考えを改めている私に対して、鏡の中のリーゼ様が返答を寄越してくる。彼女が持っている方の手鏡には私の姿が映っているはずだ。

 

「ああ、そうなるね。私が直接ボストンとやらに出向いてもいいんだが、慣れない土地で慣れないことをするよりはアピスに任せた方がまだマシだろう? 近いうちにスイスに行って、調査を依頼してくるよ。」

 

「……でも、少し同情しちゃう内容ですね。具体的に何があったのかまでは推し量るしかありませんけど、あまり良い生まれ方じゃなかったのは何となく分かりました。」

 

「大方、魔女狩りのスケープゴートにでもされたんじゃないかな。妖怪ってのは人間たちの恐怖から生まれる存在なんだ。である以上、あの魔女が生まれた土地では『魔女』に対する恐怖が蔓延っていたということになる。それが形と意思を持つほどにね。……そんな場所に見ず知らずの少女がいきなり現れればどうなるかなんて明白だよ。自分や身内を『魔女』にされたくない人間どもにとっては好都合だったろうさ。嬉々として怪しい少女を魔女に仕立て上げたはずだ。」

 

昔パチュリーとヨーロッパや北アメリカの魔女狩りについてを議論したことがあるが、師匠は魔女狩りという現象のことを『不十分な知識が生んだ集団ヒステリー』と評していた。過ぎ去った後でなら愚かな行為だと分かるようなことでも、内側に居る者たちは至極真面目に取り組んでいるものなのだと。

 

これで例の魔女が人間を嫌う理由の一片は窺い知れたなと納得している私へと、リーゼ様は疲れたようにため息を吐きながら話を続ける。

 

「まあ、あの魔女が悲劇的な生を歩んでいようが何だろうが、それがキミにちょっかいをかけていい理由にはならない。それはそれ、これはこれさ。あまり同情しない方が良いと思うよ。」

 

「それは……はい、気を付けます。」

 

「とにかく、アピスには何としてでも仕事を受けさせるから、キミはもう暫く大人しくしておいてくれたまえ。現状イギリス魔法界は協力的だし、新大陸から入ってきた捜査員たちもぽんこつばかりだ。キミが外に出られなくて不便な以外は特に問題ないだろうさ。」

 

どうやらリーゼ様は校庭の湖で釣りをしながら話しているようで、言葉と共に手に持った竿をヒュンと振っているが……会話を始めてから結構な時間が経つというのに、まだ一匹も釣れてないみたいだぞ。

 

こんなにも釣れないものなのかと訝しみつつ、その感情は胸に仕舞ったままで返事を返す。テッサが学生時代に釣りをしていた時は簡単に釣れてたんだけどな。水魔の所為で普通の魚が減っちゃったんだろうか?

 

「それに関しては考えがあるんです。魔法薬で年齢を変えちゃおうかと思ってまして。魔女や妖怪相手ならともかく、普通の魔法使いはそれで欺けるでしょうし。」

 

「おや、いいね。幼くなるってことかい?」

 

「ですね。加齢する魔法薬は魔法界にもいくつかありますけど、大幅に若返る薬は少ないですから。十歳前後の姿になろうと思ってます。大昔にパチュリーから作り方を習った薬なので、ポリジュース薬なんかと違って闇の魔術検知棒にも引っ掛からないはずです。」

 

「素晴らしいじゃないか。小さいのが一番だよ。背が高くて良い事なんて一つもないからね。」

 

謎の理論で嬉しそうにうんうん頷くリーゼ様へと、別の話題を切り出した。魅魔さんの記憶以外にも、もう一つ気になっていたことがあるのだ。

 

「そういえば、ラメットさんはどうだったんですか? ホグワーツに赴任してきたんですよね?」

 

「今のところ怪しい行動は見せていないね。とはいえ、完全にシロだとも言い切れない。……本当に厄介だよ。どれが人形でどれが人間かの判断が付かないってのは。」

 

そう、それが例の魔女の一番厄介な点だ。五十年前にクロードさんがそうだったように、全く疑っていなかった人物が人形の可能性もあれば、ラメットさんがそうだったように疑っていた人物が無関係の可能性もある。

 

タネが分かっていても判別できないことを歯痒く思っていると、鏡に映る光景が午前中の青空になったと共に、リーゼ様が少し遠くなった声で話を纏めてきた。両面鏡を地面に置いたようだ。リールを巻く音がするし、遂に釣れたのかもしれない。

 

「何にせよ、ラメットへの警戒は続けるよ。残り二人の新任教師も調べないといけないしね。」

 

「どんな人なんですか? 変身術と魔法薬学の教師。」

 

「片や怪しすぎる闇の魔法使いもどきで、片ややる気を感じない平凡な爺さんだ。どっちもあの魔女には似合わない気がするし、そこまで心配してないけどね。」

 

「『闇の魔法使いもどき』? どっちの教師の話ですか?」

 

どういう人物評なんだ、それは。一体全体どんな人物なのかと顔を引きつらせる私に、リーゼ様は呆れたような声色で応じてくる。

 

「魔法薬学の方だよ。リドルと並んで歩いていたらどっちを通報すべきか悩む感じのヤツさ。……まあ、マクゴナガルから詳しい話を聞いた限りでは、むしろ一番安全なんじゃないかな。」

 

「よく分からない状況ですね……。」

 

「色々な人生があるってことさ。……くそ、何故この湖の鱗付きどもは餌だけ食べていくんだ? 無礼な連中め。素直にかかるならリリースしてやろうかとも思ったが、こうなったら絶対に釣り上げて食ってやるからな。その時に後悔しても遅いぞ! 精々怯えて暮らすがいいさ!」

 

こちらからは見えないが、どうもリーゼ様は湖の魚に怒鳴っているらしい。そんなことしたら逃げちゃって尚更釣れなくなるんじゃないかと心配していると、鏡を持ち上げたリーゼ様が会話を締めてきた。実に不機嫌そうな顔付きでだ。

 

「……アピスとの話が付いたらまた連絡するよ。小さくなって出歩けるようになったら一緒に魔法省に行こう。ボーンズやスクリムジョールがキミと直接情報を擦り合わせておきたいみたいだからね。」

 

「はい、了解です。」

 

私の返答と同時に鏡の中が真っ暗になったのを確認して、両面鏡を布で包んで戸棚に仕舞う。……さて、そうと決まれば薬の調合を急がねば。正直言って製薬は苦手な分野なので、思っていたよりも手間取っているのだ。パチュリーが有事のためにと材料を残していってくれて助かったな。私だけだと素材の入手すら困難だったかもしれないぞ。

 

椅子から立ち上がって自分の部屋に移動しようとしたところで、キッチンの方から声が投げかけられた。

 

「あれ、アリスちゃん。お嬢様との作戦会議は終わったんですか?」

 

クッキーでも作っているのかな? 白いふにゃふにゃの塊……小麦粉を練ったものらしき物体を調理台で小さく千切っているエマさんに、こくりと首肯しながら口を開く。紅魔館に居た時は日々の雑務で忙しかったようだが、この家は狭いので暇を持て余しているようだ。

 

「ええ、終わりました。……クッキーですか?」

 

「いえいえ、もっと手の込んだお菓子ですよ。出来てからのお楽しみです。」

 

「あー……なるほど、楽しみにしておきます。私は魔法薬の調合に戻りますね。何かあったら呼んでください。」

 

「はいはーい、頑張ってくださいねー。小さなアリスちゃんにまた会えるのは楽しみですから。」

 

ご機嫌な様子で千切った白い塊を麺棒で伸ばして、間に何かを挟みながら何層にも重ねているエマさんの返事を背に部屋へと戻る。今日も口の中が甘くなることは確定だな。間違いなく美味しくはあるのだが、毎日食べているとしょっぱい物も欲しくなってくるぞ。

 

虫歯の痛みとは無縁の魔女で良かったと苦笑しつつ、アリス・マーガトロイドは自室のドアをそっと開くのだった。

 

 

─────

 

 

「では、実際に杖を振ってやってみましょう。ペアを作ってくれますか? 交代交代で相手を『黙らせて』みてください。」

 

穏やかな笑顔で捉え方によっては物騒な指示を出してくるラメット先生を前に、サクヤ・ヴェイユは隣の席の魔理沙と顔を見合わせていた。初回から杖を使うのか。効果や理論の説明はさらっとしかやらなかったし、意外にも『実践タイプ』の先生なようだ。

 

九月初週の木曜日。大広間でお昼ご飯を食べ終えた私たちは、二階の教室で防衛術の初回授業を受けているのだが……うーん、特に怪しい雰囲気は感じられないな。木のキチッとした椅子に座っているラメット先生は、比較的分かり易い授業を無難な感じに進めている。

 

今までの防衛術の先生の中でいうと、ルーピン先生の授業に近い形式だ。偽ムーディ先生ほど苛烈ではなく、パチュリー様ほど理論を重視せず、ダンブルドア先生ほど遊び心がない。良い意味で『丸め』の授業だと言えるだろう。

 

五十年前の事件に関わった人物ということで、ちょっとだけ警戒しながら話を聞いていたわけだが……なんか、大丈夫そうに思えるぞ。温厚そうな笑みを浮かべているラメット先生を横目に立ち上がって、教室の後ろにある『実践スペース』へと移動していると、背後を付いてくる魔理沙が声をかけてきた。

 

「普通だな。教室の内装も普通だし、授業内容もぶっ飛んでない。『まとも』な教師みたいじゃんか。」

 

「油断は禁物よ、魔理沙。リーゼお嬢様も一応警戒しろって言ってたじゃないの。」

 

「ってもなぁ。いきなり『貴女は魔女に操られている人形ですか?』って聞くわけにもいかんし、判断のしようが無いぜ。」

 

「それはまあ、そうなんだけど……。」

 

むむむ、難しいな。そもそもラメット先生はアリスの現在の状況をどう思っているんだろうか? 五十年も前のこととはいえ、自分が服従させられた事件を忘れてしまうとは思えない。だったらアリスのことも覚えているはずだぞ。

 

黙らせ呪文の練習をする生徒たちのことを、ニコニコ微笑んで見守っているラメット先生を観察しながら考えていると……ええい、ズルいぞ。不意打ち気味に放ってきた魔理沙の呪文を食らってしまう。

 

「……!」

 

「おー、怒ってるな。何か抗議したいのは分かるが、黙ってちゃさっぱり分からんぜ。」

 

そっちが黙らせたんじゃないか! 魔理沙にジト目を向けながら自分に反対呪文を撃ち込もうとするが、慣れない呪文な上に無言なので中々上手くいかない。思っていたよりも厄介な呪文だな。

 

自力での解呪を断念して魔理沙を思いっきり睨み付けてやると、金髪の悪戯娘は苦笑しながらこちらに杖を向けてきた。

 

「おいおい、解呪してやるからそんなに睨むなよ。ちょっとした悪戯じゃんか。」

 

「……シレンシオ(黙れ)!」

 

「うおっと。……油断も隙もないヤツだな。そういう目的の練習じゃ──」

 

「シレンシオ! ……エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

 

今度はこっちの番だぞ。喋れるようになった瞬間に飛ばした黙らせ呪文を避けられたのを見て、二の矢三の矢を放っていくが……ぬう、やるな。盾の呪文で赤い閃光を見事に防ぎながら、魔理沙はこちらに文句をぶん投げてくる。

 

「プロテゴ! おい、武装解除は……プロテゴ! 武装解除は違うだろうが! 黙らせ呪文の練習だろ? エクスペリアームス!」

 

「プロテゴ! ……そっちだって撃ってきてるじゃないの! もう容赦しないからね。エイビス(鳥よ)オパグノ(襲え)!」

 

「っと、そっちがその気なら受けて立つぜ。フィニート(終われ)! ……フリペンド(撃て)ブラキアビンド(腕縛り)!」

 

私の杖先から飛び出した小鳥たちを終わらせ呪文でかき消した魔理沙は、流れるような動作で衝撃呪文を使ってこちらの体勢を崩してから、これで決まりとばかりに腕縛りを撃ち込んでくるが……ほんの一瞬だけ時間を止めてそれを避けた後、お返しの黙らせ呪文を杖から飛ばす。美鈴さんが言ってたぞ。勝てば官軍って。

 

「シレンシオ!」

 

「あっ、お前──」

 

「どうしたのよ、魔理沙。黙ってちゃ何も分からないわ。」

 

ふふんと胸を張って言ってやると、魔理沙は半眼で私の制服の胸ポケットを指差してくる。いつも愛用の懐中時計を入れているポケットだ。要するに、時間を止めたことを糾弾しているのだろう。さすがに魔理沙には気付かれるか。上手いことやれたと思ったんだけどな。

 

「……いいじゃないの、別に。真面目な場での決闘じゃなかったんだから。偶に使うくらいならバチは当たらないでしょ?」

 

「……。」

 

「ああもう、分かったわよ。ちょっと卑怯だったわ。でも、先に不意打ちしてきたのはそっちなんだからね。」

 

無言の抗議に根負けして解呪してやったところで、控え目な拍手の音が耳に届く。釣られて周囲を見てみれば……わお、いつの間にか注目されていたようだ。遠巻きに私たちのことを眺めている同級生たちと、拍手しながらゆったりとした歩調で歩み寄ってくるラメット先生の姿が目に入ってきた。

 

「見事な決闘でしたよ、二人とも。ですが、今はあくまで黙らせ呪文を練習するための時間です。練習スペースもそこまで広くありませんし、何と言えばいいか……もう少し穏やかにやってくれると助かります。」

 

「あの、すみませんでした。つい熱くなっちゃいまして。」

 

「あー……そうだな、悪かった。ど真ん中でドンパチやってたら邪魔だもんな。」

 

うう、失敗しちゃったな。魔理沙と二人でラメット先生にぺこりと頭を下げて、周囲の生徒たちにも目線で謝る。そんな私たちの姿を見た同級生たちが『いいよいいよ』と手を振って練習に戻る中、ラメット先生が私に向かって話しかけてきた。

 

「……サクヤ・ヴェイユさん。もしかして貴女は、テッサ・ヴェイユさんにご縁のある方ですか?」

 

「えっと、そうです。テッサ・ヴェイユは私の祖母なので。」

 

「そうですか、お孫さんでしたか。……ごめんなさいね、急にこんなことを聞いちゃって。貴女は知らないでしょうけど、私は大昔にテッサさんと少しだけ関わったことがあったの。名簿で貴女の名前を見た時、そのことを思い出したのよ。」

 

柔らかさを感じる口調に切り替えつつ、私を見て懐かしそうに目を細めたラメット先生だったが……一転して心配そうな表情になると、気遣うような声色で続きを話す。

 

「……私は報道記者をやっていたから、イギリスでの戦争の犠牲者のことも知る機会があったの。随分と遅くなってしまったけど、お悔やみ申し上げるわ。テッサさんと、それにご両親のことも。」

 

「わざわざありがとうございます。……実はその、私もラメット先生のことを知っていたんです。アリスが話してくれまして。」

 

この際だから探ってみようとアリスの名前を出してみれば……おお? 予想外の反応だな。ラメット先生はほんのちょっとだけ恥ずかしそうな苦笑いで、困ったように頰に手を当てた。照れている、のか?

 

「あらあら、そうだったの。ちなみにマーガトロイドさんは私のことを何て?」

 

「人物評というか、五十年前の事件の話をしてくれた時に出てきただけなので……律儀な人だったとは言ってました。」

 

「じゃあその、『告白』については聞いていないのかしら?」

 

「こくはく?」

 

何の話だ? 隣で会話を聞いている魔理沙にちらりと問いかけの目線を向けてみるが、彼女も何のことだか分からないようだ。そんな私の反応を確認すると、ラメット先生はホッとしたように息を吐きながら曖昧に説明してくる。

 

「ああいえ、聞いてないのなら気にしないで頂戴。五十年前の私は若かったから、まあその……色々と、ね?」

 

「色々と、ですか。」

 

「そう、色々と。……マーガトロイドさんがホグワーツで教師をしていたと聞いて本当に驚いたわ。こういうのも一つの運命なのかしら。あと三、四十年早ければ良かったんだけど、今の私はもう妻も子供も居ますからね。」

 

『妻』? 夫の言い間違いだろうか? 英語のアクセントにも若干の訛りがあるし、あんまり得意じゃないのかなと内心で首を傾げながら、遠い目になっているラメット先生に当たり障りのない質問を送った。

 

「お子さんがいらっしゃるんですか?」

 

「ええ、二人。二人とも養子ですけどね。もう独り立ちして立派に働いてくれているわ。……そんなことより、マーガトロイドさんは大丈夫なの?」

 

「私はよく知らないんですけど、多分大丈夫だと思います。……ラメット先生はアリスのことを信じてくれるんですか?」

 

対外用の言い訳を交えつつ聞いてみると、ラメット先生は人差し指を唇に当てながら応じてくる。歳を感じさせない仕草をする人だな。淑やかな雰囲気があるからよく似合っているが。

 

「んー、マクーザの発表が一概に正しくないとは思っていますよ。イギリスがこれだけ一致団結して要求を撥ね退けるという事実こそが、マーガトロイドさんの人柄を如実に表していますから。……半世紀前にほんの少し関わっただけの私でも、あの方に『誘拐殺人』なんてものが似合わないのはよく分かりますしね。」

 

そこまで言ったラメット先生は、次に何かを悩んでいるような難しい顔になって続きを語り始めた。ひょっとすると、これがラメット先生の記者としての顔なのかもしれない。

 

「しかし、何の理由もなくマクーザがイギリスの魔法使いを犯罪者に仕立て上げるとも思えません。それも権威ある紅のマドモアゼルの身内を。ですから……うーん、分かりませんね。記者をやっていた頃なら伝手を辿って調べたかもしれませんけど、今の私は教師ですから。毎日の授業内容を考えるだけで精一杯です。」

 

真剣な表情から一転して後半を戯けるような微笑みで言ったラメット先生は、私に一声かけてから生徒たちの指導へと戻っていく。

 

「とにかく、個人としてはマーガトロイドさんは本当の犯人ではないと考えています。私がそう思ったところで何が変わるわけでもありませんけどね。……さて、そろそろ指導に戻ることにしましょうか。教師が世間話をしていては示しがつきませんから。二人とも見事な杖捌きだったので練習は不要かもしれませんが、復習としてやってみてください。」

 

「……はい、分かりました。」

 

「おう、了解だぜ。」

 

苦戦しているレイブンクローのミルウッドの方へと去って行くラメット先生を見送って、魔理沙と二人で意見を交わす。見た目通りの人っぽいな。

 

「これといった怪しさは感じなかったわね。結婚してお子さんも居るみたいだし、本当に偶然このタイミングで赴任してきたのかしら?」

 

「実際に話してみると、そんな気もしてきたな。……まあ、これ以上はリーゼに任せるべきだろ。これで実は人形でしたってんならもうお手上げさ。」

 

まあうん、そうだな。魔理沙の言う通りお手上げだ。明確な判断を下すのが不可能な以上、とりあえずのところは普通に教師として接する他ないだろう。役に立てなくて申し訳ないが、あとはリーゼお嬢様にお任せするか。

 

モヤモヤする状況に親友と二人でため息を吐いてから、サクヤ・ヴェイユは黙らせ呪文の練習へと戻るのだった。

 

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