Game of Vampire   作:のみみず@白月

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選手発表

 

 

「ハリー、キミはあれだね。杖じゃなくてプレゼントのセンスを磨くべきだよ。洋服なりアクセサリーなり、選択肢は山ほどあったわけだろう? 何をどうしたら杖磨きクリームに行き着くんだい?」

 

十月初週の日曜日。生徒たちが今か今かと投票の結果発表を待つ夕食時の大広間で、アンネリーゼ・バートリは呆れ果てた気分で額を押さえていた。杖磨きクリームか。ジニーはさぞ反応に困っただろうな。

 

昼間に今年度初のホグズミード行きがあったので、ハリーはジニーとデートを、私はハーマイオニーやロンと三本の箒で適当に食事なんかを楽しんだわけだが……デートの結果を聞かされた私たちは、口々にハリーへと『ダメ出し』しているわけだ。

 

私の発言に続いて、隣の席のハーマイオニーが大きく頷きながら文句を放つ。ちなみに咲夜と魔理沙はまだ大広間に到着しておらず、ジニーはレイブンクローのテーブルに出張してルーナとお話中だ。

 

「リーゼの言う通りよ、ハリー。杖磨きクリームは違うわ。絶対に違う。どうしてそれを選択肢に入れちゃったの?」

 

「だって、良いクリームなんだ。僕が使っていいなと思ったからプレゼントしただけさ。ジニーだって喜んでくれたよ。」

 

「別に杖磨きクリームをプレゼントすること自体を責めてるんじゃないの。デートの締め括りのプレゼントとして選んだことを疑問視しているのよ。」

 

「そもそもどうして僕のプレゼントを君たちが『疑問視』するのさ。ジニーと僕の問題でしょ? ……何かをプレゼントして責められる日が来るとは思わなかったよ。」

 

ムスッとした顔で反論するハリーに、長机に頬杖を突きながら指摘を飛ばす。この辺はロンの方がまだ一枚上手だな。私が『目を離したフリ』をした隙にハーマイオニーに小さなペンダントをプレゼントしていたし。

 

「つまりだね、それらしくラッピングして渡したことが問題なんだと思うよ。デートが終わろうってその瞬間、綺麗な包装の小箱を渡されたジニーは期待しただろうさ。そしてワクワクしながら開けてみたら、出てきたのは『あなたの杖がピカピカに! トロールだって使えちゃう!』と書かれた杖磨きクリームだったわけだ。……どうかな? 何を『疑問視』しているのか伝わったかい?」

 

「煽り文句はちょっとアレだけど、本当に良いクリームなんだよ! 独自成分としてムーンカーフの涙が入ってるんだ。……ロンだって気に入ってたよね? 二人に言ってやってよ。」

 

「あー……うん、良いクリームだな。僕はまあ、中々のプレゼントだと思うよ。貰ったら嬉しいはずだ。少なくとも僕は嬉しいし。」

 

「ハリー、友達へのプレゼントとガールフレンドへのプレゼントは別なの。そりゃあ普段はジニーだって気にしないでしょうし、杖磨きクリームだろうが箒磨きクリームだろうがプレゼントするのは素晴らしいことだと思うけど……今日はデートだったのよ? しかもかなり久々の、二人っきりでのデート。そうなっちゃうと話は別だわ。」

 

『男の友情モード』のロンを完全に無視して、乙女心の複雑さを何とか伝えようとするハーマイオニーだったが……うーむ、全然伝わらんな。ハリーは何が問題なのかさっぱり分からないという顔付きで口を開く。私でも理解できるレベルの話なんだぞ。

 

「だからプレゼントしたんだよ。普段ならしないけど、今日はした。僕としてはよくやったって自分を褒めたいくらいさ。」

 

「よくやったはよくやったけど、私が言いたいのはそうじゃなくて……ああもう、ダメね。リーゼ、任せたわ。」

 

「私もダメかな。……まあ、ハリーにしては頑張ったよ。そう思っておこうじゃないか。」

 

投げやりな褒め言葉にハリーが抗議のジト目を向けてきたところで、魔理沙と咲夜が話しながら近付いてきた。こっちの二人も同級生たちと一緒にホグズミードに行ったはずなのだが、三本の箒でもゾンコの悪戯専門店でも会わなかったな。どこを巡っていたんだろうか?

 

「ホグズミードは楽しめたかい? 二人とも。」

 

席に着いた二人に問いかけてみれば、金銀コンビは微妙な表情で曖昧な首肯を返してくる。

 

「えーっと……そうですね、それなりには。」

 

「そうだな、マダム・パディフットの店を冷やかしに行ったところまでは楽しかったぜ。より厳密に言えば、そこでジェレミー・シートンがハッフルパフの五年生とイチャついてるのを見るまではな。……ロミルダのやつ、シートンに片想いしてたんだよ。」

 

「シートンたちったら、瞬間接着ガムで口をくっ付けられたみたいになってました。だからその、ベインが『悲劇のヒロインモード』になっちゃいまして。後半はずっと慰めてたんです。」

 

「大泣きしっぱなしだったんだよ。……ちなみに今も寮で泣いてるぜ。代表選手の発表も夕飯も、この世の全てがどうでもいいんだとさ。失恋のショックで世界の真理を悟ったみたいだ。」

 

普段いがみ合っている咲夜が慰めに入るということは、ベインは相当落ち込んでいるのだろう。七年生たちが何とも言えない顔で黙り込む中、魔理沙は肩を竦めながら結論を口にした。

 

「まあ、三日も経てば元通りになるだろ。ロミルダが悲劇のヒロインになったのはこれで八回目だからな。一週間後くらいにシートンが女ったらしだって噂が流れて、それで終わりさ。」

 

「それはそれは、一番の被害者はシートンってことになりそうだね。」

 

根も葉もない噂が流されることが確定した、哀れなグリフィンドールの六年生に憐憫の念を送っていると……おや、フィルチが投票箱を抱えて大広間に入ってきたぞ。どうやらそろそろ発表が始まるようだ。

 

青い金属製の箱をよっこらよっこら運ぶフィルチが教員テーブルの前まで到着したところで、生徒たちもお喋りを止めて注目し始める。一応私もシーカーにハリー、チェイサーに魔理沙、キーパーにロン、ビーターにアレシアの名前を書いて投票済みだ。

 

全校生徒が用務員どのの一挙手一投足に注目する中、教員テーブルの後ろのドアが開いて校長閣下が登場した。いつもより少し高価そうなローブだな。マクゴナガルも気合が入っているらしい。

 

「さて、誰になるかな。自信はどうだい?」

 

「試験はとっくに終わってるわけだし、なるようにしかならないよ。名前を呼ばれなかったら全力で応援に回るさ。」

 

比較的落ち着いている様子で言ってきたハリーに対して、魔理沙とロン、それにレイブンクローのテーブルから急いで戻ってきたジニーは緊張している表情だ。口では諦めると言っていた赤毛の兄妹も、内心では期待しているらしい。

 

そんな三人を見て苦笑を浮かべていると、教員テーブルの中央に置かれた投票箱の前に立ったマクゴナガルが声を上げた。

 

「では、夕食の前に代表選手の発表を行います。選ばれた者は夕食の後で詳しい説明を行いますので、私のところまで来るように。……最初はキーパーです。」

 

おおう、サクサク進めるな。ダンブルドアなら絶対に勿体ぶっていた場面だが、マクゴナガルは余計な茶番を挟む気など無いようだ。宣言した後で軽く杖を振って、投票箱を宙に浮かせてゴールポストが彫り込まれた面を生徒たちに向ける。

 

そのままマクゴナガルがもう一度杖を振ると……おー、凝ってるな。彫り込まれていたゴールポストのリングの中に白く光る文字が浮かび上がってきた。あれが最多の票を獲得した生徒の名前なのだろう。

 

教員テーブルの教師たちも身を乗り出して確認しようとする中、マクゴナガルがよく通る声でその名前を読み上げる。

 

「ホグワーツ代表キーパーは、スーザン・ボーンズ!」

 

途端、ハッフルパフのテーブルから盛大な拍手が沸き起こった。……まあ、妥当だな。私から見てもキーパー試験で良い動きをしていたのはスーザン・ボーンズだ。誰もが納得できる結果だと言えるだろう。

 

「……そんな顔しないでくれ、みんな。『もしかしたら』と思ってただけで、僕だってこうなることは分かってたさ。素直にボーンズを応援することにするよ。」

 

んー、残念だったな。気まずい気分になっている私たちへと、苦笑いで言いながらロンが拍手するのに、ハーマイオニーが柔らかい声色で相槌を打つ。

 

「すぐに拍手できるのはカッコいいと思うわよ。……そうね、一緒に応援しましょ。私とリーゼだけだと細かいテクニックとかがさっぱり分からないもの。隣で解説してくれると助かるわ。」

 

「ん、任せといてくれ。」

 

ロニー坊やも大人になったな。二人のやり取りを横目にぺちぺち拍手していると、マクゴナガルが宙に浮いたままの投票箱を回転させて……次はビーターか。二本の棍棒が交差している面をこちらに向けた。

 

「続いてビーターです。」

 

そう言ったマクゴナガルが杖を振ると、それぞれの棍棒の上に名前が浮かび上がる。遠すぎて読めない生徒たちが固唾を呑んで見守る中、マクゴナガルは選ばれた生徒の名を大声で言い放った。

 

「ホグワーツ代表ビーターは、ギデオン・シーボーグとアレシア・リヴィングストン!」

 

「おっし、グリフィンドールから先ず一人だ!」

 

真っ先に拍手を始めた魔理沙に続いて、グリフィンドールとスリザリンのテーブルを中心とした拍手が大広間を包む。シーボーグとやらのことはよく知らんが、様子を見るにスリザリン生らしい。そういえば試合の時に名前を聞いた気がするな。

 

そして少し離れた場所に座っている子猫ちゃんは……おやまあ、喜ぶどころか真っ青な顔だぞ。周囲の同級生たちが祝福の言葉を投げかけるのに呆然と頷いている。まだ二年生なのに選ばれるとは思っていなかったようだ。

 

「大丈夫なのかい? アレシアは。今にも倒れそうな顔色だが。何故試験を受けたのかが疑問になるようなご様子だぞ。」

 

死刑宣告でも受けたかのような子猫ちゃんを指差して呆れ声で聞いてみると、心配そうな表情のハリーがフォローを飛ばしてきた。

 

「多分大丈夫だと思う。多分ね。アレシアの場合、実力の半分でも出せれば活躍できるわけだし。」

 

「どう見ても実力の一割すら出せない感じの雰囲気だけどね。本番までにどうにかなることを祈っておくよ。」

 

「あー……そうだね、後でフォローしておいた方がいいかもしれない。」

 

急に注目されたからなのか、緊張どころか泣きそうになっているアレシアを見て、ハリーが困ったような苦笑を浮かべたところで……お次はチェイサーか。マクゴナガルがクアッフルが彫り込まれた面を向けたのが目に入ってくる。

 

「続いてチェイサーの三人です。」

 

三度マクゴナガルが杖を振って、クアッフルを囲むように三つの名前を浮かび上がらせた。魔理沙とジニーがごくりと喉を鳴らす中、マクゴナガルが発表した名前は──

 

「ホグワーツのチェイサー代表は、ドラコ・マルフォイ、シーザー・ロイド、マリサ・キリサメ!」

 

「っし!」

 

魔理沙が渾身のガッツポーズをするのと同時に、四寮全てのテーブルから拍手が上がる。マルフォイは当然スリザリンだし、ロイドとやらはレイブンクロー生のようだ。ハッフルパフはまあ、付き合いがいいから拍手してくれているのだろう。これで全寮から最低一人の選手が出たことになるな。

 

「おめでと、マリサ。私の分も頑張ってよね。」

 

「おう、任せとけ。絶対勝ってみせるぜ。」

 

ちょびっとだけ悔しそうな顔付きのジニーが出した手に、ばしんと勢いよくタッチした魔理沙へと、周囲のグリフィンドール生たちが口々にお祝いを浴びせていく。まあ頑張れと私も拍手をしながら、ちらりと蛇寮のテーブルに目をやってみれば……うん? 向こうは微妙な雰囲気だな。

 

何かこう、あまり喜んでいない感じの生徒がちらほら居るぞ。大半の生徒はマルフォイやシーボーグに声をかけているのだが、端の方に固まっている二割ほどの生徒が白けた空気を醸し出している。クラッブやゴイルなんかもそっちの『盛り下がり集団』に所属しているようだ。

 

「スリザリンはヘンな空気だね。何か知ってるかい?」

 

ハーマイオニーの耳元に口を寄せて問いかけてみると、栗毛の監督生どのは拍手をしながら疲れた顔で答えを教えてくれた。

 

「あっちの集団に居るのは、身内が最後まで抵抗した死喰い人だったりした子たちなのよ。今のスリザリンは二派に分かれてるってわけ。何て言うか、『元死喰い人組』は立場が弱いみたい。」

 

「なるほど、マルフォイなんかは一発逆転したから滑り込みで『勝ち組』所属なわけか。相変わらず政治の色がモロに出る寮だね。」

 

「良くないことだとは思うんだけど、他寮の……それもスリザリンのことだから手を出せないのよ。監督生集会でマルフォイにそれとなく言ってみたんだけどね。今はどうにもならないんですって。」

 

「ま、難を逃れた名家としてはわざわざ関わりたくない相手だろうしね。子供にも『お付き合い』をやめるようにキツく言ってるんだろうさ。私もすぐにどうこうするのは難しいと思うよ。時間を置くしかないんじゃないかな。」

 

ホグワーツの小さな政治屋たちも生き残りを賭けて必死なわけだ。温度差を感じる蛇寮を見ながら口元を歪めたところで、マクゴナガルがスニッチが彫り込まれた面を生徒たちに示す。

 

「最後にシーカーの代表を発表します。」

 

勝負を決める花形ポジションだけあって、生徒たちがこれまで以上に注目する中、マクゴナガルの魔法でスニッチの上に浮かんだ名前は──

 

「ホグワーツ代表シーカーは、ハリー・ポッター!」

 

これで何度目だろうな、全校生徒の前でハリーの名前が発表されるというのは。六年間騒ぎの中心に居続けた『生き残った男の子』どのは、最終学年も穏やかに過ごすことを許されなかったようだ。今年は能動的に騒動に飛び込んだあたり、例年よりも救いがあるが。

 

グリフィンドールのテーブルから今日一番の盛大な拍手が沸き起こるのを聞きつつ、アンネリーゼ・バートリは然もありなんと鼻を鳴らすのだった。知ってたさ。

 


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