Game of Vampire   作:のみみず@白月

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七人の代表選手

 

 

「それでは、クィディッチトーナメントに関する説明を始めましょうか。」

 

大広間の教員テーブルの裏にある小部屋の中で、霧雨魔理沙はマクゴナガルの言葉にこっくり頷いていた。小さなテーブルを囲んでいるのは七人の代表選手とマクゴナガル、そしてフーチの計九人だ。ハリー曰く、三年前の対抗試合の説明もこの部屋で行われたらしい。

 

真面目な表情のハリー、マルフォイ、ボーンズ。緊張している様子のアレシア、シーボーグ、ロイド。そしてこれ以上ないってくらいにワクワクしている私。そんな代表選手たちの顔を順繰りに確認したマクゴナガルは、取り出した羊皮紙をテーブルの中央に置いて口を開く。細かい文字がびっしり書いてあるな。連盟から送られてきた書類か?

 

「一回戦が十一月の後半に行われることは決まっていますが、会場も対戦相手もまだ未定です。投票開始前に説明した通り、全ては十月の末にリヒテンシュタインで決まることになります。」

 

「トーナメント表だけではなく、試合会場もそこで決まるということですか?」

 

意思が強そうな目付きと、お洒落な感じに編まれたブロンドの三つ編み。ハッフルパフの七年生であるスーザン・ボーンズの質問を受けて、マクゴナガルは首肯しながら詳細を語り始めた。現魔法大臣のアメリア・ボーンズとは親戚らしい。叔母なんだっけか。

 

「その通りです。初戦はシード枠が一つだけありますが、そうでない場合は対戦相手か自校の競技場で試合が行われることになります。組み合わせを決めると同時に代表選手の交流を目的としたパーティーも開かれる予定なので、十月の末までにフォーマルな服を用意しておいてください。」

 

「フォーマルな服……というと、スーツとかでしょうか? 制服はダメなんですよね?」

 

ちょっとボサボサの金髪に、薄いレンズの縁なし眼鏡。レイブンクローチームの一員で、確か六年生のシーザー・ロイドだ。こいつとは試合以外であまり関わったことがないな。自信なさげにおずおずと放たれた問いかけに、マクゴナガルはハキハキとした口調で返答を口にする。

 

「夜会というほど形式張ったものではないようなので、スーツでもドレスローブでも構いませんよ。ですが、制服はやめておいた方がいいでしょう。現地までの移動は連盟側が用意したポートキーで行う予定です。」

 

「パーティーは連盟の本部で行われるのですか? それと、参加者は代表選手だけなのでしょうか?」

 

「各校からは代表選手と校長だけですが、それとは別に各国の要人や著名人も招かれるそうです。イギリスからはルーファス・スクリムジョール執行部長や、チェスター・フォーリー評議長などが参加することになっています。会場は連盟本部の敷地内にある建物を使うようですね。」

 

おー、結構な面子だな。マルフォイの疑問に答えたマクゴナガルは、テーブルの上の羊皮紙を示しながら説明を続けた。

 

「それともう一点、来週末までに話し合ってチームの象徴となる杖を決めてください。ここに記載されている通り、連盟は各校にシンボルとなる杖を提出することを要請してきています。教員が決めてもいいようなのですが、ホグワーツとしては代表選手である皆さんの意見を尊重することにしました。」

 

「『杖を決める』? どういう意味だ?」

 

「言葉通りの意味です。素材と、芯材。それを七人で話し合って決めてください。オリバンダー氏に製作を依頼することになるので、杖に関しては来週がタイムリミットですからね。」

 

「それはまた、変なルールだな。クィディッチとは関係ないじゃんか。」

 

クィディッチは魔法使いにしては珍しく、『杖を使わない競技』であることが一つの売りなのだ。よく分からん気分で私が飛ばした言葉に対して、マクゴナガルも怪訝そうな表情で頷いてきた。

 

「私としても真意を掴めませんが、必要だと言われたなら準備する他ありません。気負わずに、ピンときた杖を選んでもらえれば結構です。実際に使用することを目的としているわけではないようですから。」

 

「しかし、いきなり杖を選べと言われても……。」

 

よく鍛えていることを窺わせる太い首と、ブラウンの短髪の下にある精悍な顔立ち。体格が良い所為で一人だけ後ろの方に座っているスリザリンのギデオン・シーボーグの発言に、それまで黙っていたフーチが強引な纏めを返す。ホグワーツの審判どのは杖なんぞどうでも良いようだ。

 

「それは適当で構いませんよ。フォーマルな服とやらも、パーティーの会場についても深く考える必要はありません。……今最も重要なのは初戦までの練習スケジュールです! たった二ヶ月弱という短い期間で代表選手間の連携を深め、フォーメーションや作戦を練り込む必要があります。」

 

「競技場は使えるんですよね?」

 

「もちろんですとも。競技場だろうが訓練場だろうが校庭だろうが教室だろうが、校内のあらゆる場所を自由に使ってもらって構いませんし、教員一同も協力を惜しまないつもりです。当然、時間が許す限り私も練習に参加します。あなたたちが勝つためなら球拾いや箒磨きだって喜んでやりますから、遠慮なく声をかけてください。」

 

おおう、凄まじい気合いの入りようだな。ボーンズの問いに勢いよく答えたフーチに続いて、マクゴナガルが苦笑しながら補足を加えた。

 

「代表選手の中には試験を控えた七年生が三人、五年生が一人居ます。学生の本分が勉学である以上、それを疎かにするのは教師として推奨できませんが……是が非でも勝って欲しいという気持ちがあるのも確かです。よって私たちにはフーチ先生のように練習の手助けをするのではなく、勉学の面で皆さんをフォローさせてください。個人授業が必要な時は各教師に遠慮なく申し込むように。こちらも全力で取り組みますから。」

 

うーん、頼もしいというのが半分、ちょっと気後れするのが半分って感じだな。個人授業か。これまで冷静に説明していたマクゴナガルも胸の内には熱いものがあったようだし、この分では他の教師も同様なのだろう。となると個人授業とやらが『熱血レッスン』になるのは間違いなさそうだぞ。

 

この場に居る生徒たちはハーマイオニーほど勉強が好きではないようで、代表選手が七人揃って微妙な顔になる中、席を立ったマクゴナガルが話を切り上げてくる。

 

「では、あとはこの書類を見ながら代表選手同士で話し合ってください。……生徒も教師も皆さんのことを応援していますからね。何か困ったことがあればチーム内だけで背負おうとせず、周囲の友人たちや教師を頼りなさい。あなたたちは学校の代表なんですから、ホグワーツの全員が味方であることを忘れないように。」

 

「校長先生のおっしゃる通りです。言っておきますが、ボール拾い云々は大袈裟でもなんでもありませんからね。優勝の手助けになるなら何だってやってやりますとも。遠慮は一切無用ですよ。」

 

マクゴナガルに続いて力強く請け負ったフーチが部屋を出て行くと、代表選手たちは示し合わせたかのように深々と息を吐いた。いやはや、教員たちの気迫は充分に伝わったぜ。これは想像以上のプレッシャーになりそうだな。

 

「で、どうするよ。全員試合で顔を合わせてるわけだし、ありきたりな自己紹介は不要だろ?」

 

とりあえず話を進めるために声を上げてやれば、マルフォイが真面目くさった表情で応じてくる。

 

「自己紹介が不要なことには同意するが、キャプテンは先に決めておこう。何をするにもリーダーは必要だ。纏め役が居ないと話が進まないぞ。」

 

「でしたら七年生の誰かにしてください。下級生としては出しゃばるわけにはいきませんし、出しゃばるつもりもありません。それで問題ないよな? シーボーグ、キリサメ、リヴィングストン。」

 

「ああ、俺はそれでいい。」

 

「こっちも賛成だぜ。」

 

ロイドの呼びかけに六年生のシーボーグ、五年生の私、そして無言でコクコク頷いた二年生のアレシアが賛成したのを受けて、マルフォイがハリーとボーンズに声を放つ。

 

「まあそうなるだろうな。僕としても責任を負うべきは七年生だと思っているし、三人の中から決めよう。……自薦する者は居るか?」

 

「私としては自分以外を推すかな。私は根っからのキーパーだし、キャプテンの経験もないからね。他のポジションに詳しくないからチェイサーやビーターに指示を出すことが出来ないよ。押し付けるようで悪いけど、ポッターかマルフォイがやってくれない?」

 

「僕は……うん、マルフォイが最適だと思う。次点でマリサだけど、七年生から選ぶならマルフォイだよ。」

 

「マルフォイは分かるが、何で私なんだよ。」

 

七年生が全員ダメだとしても、上に六年生二人が居るだろ。妙なことを言い出したハリーに呆れ声で聞いてみると、彼は苦笑しながら彼なりの理由を述べてきた。

 

「最初に発言したのがマリサで、話を進めようとしたのがマルフォイだからね。何かを始める時、一番最初に動き出す。きっとリーダーっていうのはそういう人がなるべきなんだよ。だから僕はマルフォイを推すかな。……それに、二人ともチェイサーでしょ? シーカーは他の選手から遠くなりがちだし、キーパーも同じだ。そういうプレースタイルに慣れてるチームならともかくとして、急拵えのチームなら指示を出し易いチェイサーがキャプテンになるのが最適だと思うよ。」

 

「納得の理由ね。頼めない? マルフォイ。私たちも勿論フォローするから。」

 

「……分かった、受けよう。」

 

リーダーの資質か。私がどうであるかはさて置き、中々に説得力を感じる理由だったな。ボーンズの言葉に諦めたような顔付きで首肯したマルフォイは、マクゴナガルが残していった羊皮紙を読みながら話し合いを進め出す。

 

「なら、そうだな……先に厄介そうな『杖』とやらを決めてしまおう。何か意見はあるか?」

 

「イギリスとしての杖なのか、ホグワーツとしての杖なのか、チームとしての杖なのか。その辺が分からんと何とも言えないぜ。」

 

「明記されていないが、政治的にはその全ての意味を持っているはずだ。……連盟も面倒なことを考えるな。」

 

まったくだ。私に答えたマルフォイがため息を吐く中、ボーンズがピンと指を立てて口を開いた。

 

「パッと思い付くのはイギリス魔法省の象徴になってるエボニーだけど……木材とか芯材って、確かそれぞれに特徴があるのよね? 一応そういうところにも気を使った方が良いんじゃない? 変な杖を選んで私たち個人が他国に笑われるならまだしも、イギリス全体の代表として笑われるのは宜しくないわ。」

 

「……僕は杖の性質に関してはさっぱりです。図書館で本を探してきましょうか?」

 

困ったように笑うロイドの提案に、マルフォイが額を押さえつつ首を横に振った。

 

「いや、それには及ばない。……言い出しておいてなんだが、杖に関しては後回しにしよう。暫定的にエボニーとして、各自で暇な時に木材と芯材のことを調べておいてくれ。このままでは知識が足りなさすぎて適当にすら決められなさそうだ。」

 

「まあ、俺もそれが良いと思います。代表として恥ずかしくない程度には気を使うべきでしょうし。」

 

「そうだね、こういう問題こそ周りの人を頼った方がいいんじゃないかな。あとで詳しそうな人に聞いてみるよ。」

 

『詳しそうな人』ってのはハーマイオニーのことだろうな。シーボーグとハリーが同意したのに頷いてから、マルフォイは本題となるクィディッチの話題を場に投げる。

 

「では、具体的な練習の話に移ろう。基本的に練習は平日の朝と昼休みと夕食後、加えて休日の午後としたいんだが……どうだ?」

 

「平日の方は文句ないが、休日は午前中もいけるんじゃないか?」

 

「可能不可能で言えば可能だが、トーナメントは一年中続くことになる。そうなるとさすがにオーバートレーニングだし、休日の午前中は休憩や勉強に当てるべきだろう。場合によっては平日も数日おきに昼を空けることを考えているしな。」

 

一年中、ね。私の発言を受けて言外に初戦で終わるつもりはないと伝えてきたマルフォイに、他の六人が納得の頷きを返す。確かに少しくらい休憩があった方がメリハリがつくか。それに七年生三人はイモリ試験に人生が懸かっているのだ。勉強の時間だってないと困るだろう。

 

「いいんじゃないかしら。練習の詳しい内容はどうするの?」

 

「最初はチェイサーとビーターがそれぞれ連携の確認をすべきだと思っている。そこの息が合わなければフォーメーションどころではないし、チームとして動くのはそれからだ。キーパーとシーカーの練習は外部の協力者を頼ろう。」

 

「なら、それぞれのチームに声をかけましょう。……フリーシュート対策の練習相手が選り取り見取りね。キーパー冥利に尽きるわ。」

 

ま、練習相手には困らんだろうな。全ての寮から選手が参加しているし、みんな喜んで協力してくれるはずだ。ボーンズが苦笑いで肩を竦めたところで、マルフォイが『作戦会議』の終わりを宣言した。

 

「今日はそんなところだな。結局練習を始めてみなければ分からない部分が多いし、詳細は一回目の練習で詰めていこう。平日の朝練は六時から競技場で行うことにする。つまり、明日の六時から練習開始だ。」

 

「へいへい、頑張って起きますよっと。」

 

全員が全員うんざりした表情だが、誰からも文句は出てこない。正直言って、ここに居る面子は朝練に慣れているのだ。どのチームだって毎年やっていることなのだから。楽しいと思ってやっているかは別の話だが。

 

戯けながら半笑いで席を立って、七人で部屋を出て無人の大広間を抜けた後、玄関ホールで別れてそれぞれの寮に向かって歩き出す。

 

「……大丈夫なのか? アレシア。一言も喋ってなかったが。」

 

私、ハリー、アレシアの三人になったところで、階段を上りながら終始無言だった後輩に質問を送ってみると……うわぁ、不安になるな。アレシアは青い顔で自信なさげに問い返してきた。

 

「あの、私……大丈夫なんでしょうか?」

 

「聞きたいのは私なわけだが、出来れば大丈夫であって欲しいと思ってるぜ。」

 

「頑張ります。……頑張りはします。」

 

うーむ、これさえなければ頼もしいビーターなんだけどな。俯いて自分に暗示をかけるかのように呟いたアレシアを前に、ハリーと二人で顔を見合わせる。私が朝起きられるかの心配など些細なものだったらしい。チームの明暗を左右するのは今年もアーモンド色のぷるぷるちゃんなわけか。

 

朝練の時に他の四人に『アレシアの取り扱い方』を伝えようと心に決めつつ、霧雨魔理沙は不安な気分で三階への階段を上るのだった。

 


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