Game of Vampire   作:のみみず@白月

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杖診断

 

 

「まあ、順調っちゃ順調だよ。今年は珍しいことに、誰もハリーのことを殺そうとしてないからな。その分目の前の問題に集中できるってわけさ。」

 

暖炉の前の一人掛けソファの上で肩を竦める魔理沙に、サクヤ・ヴェイユは呆れた顔で頷いていた。身も蓋もない言い方だけど、確かにその通りだ。私が一年生の時から去年の四年生まで。毎年誰かしらがポッター先輩の命を狙っていたわけなんだし、それ抜きだとすれば順調なのは当然のことだろう。

 

十月の二週目が終わろうとしている金曜日の夜、私と魔理沙と七年生の四人は談話室でお喋りの真っ最中だ。魔理沙とポッター先輩が代表チームの練習についてを話してくれていたのだが、二人によれば比較的スムーズに連携が固まってきているらしい。

 

呪文学の宿題を片付けながら言った魔理沙に、防衛術のレポートを仕上げているポッター先輩が応じる。ちなみに魔理沙のは私が、ポッター先輩のはハーマイオニー先輩がお手伝い中だ。

 

「アレシアも慣れてきたみたいだよ。チーム全員が気を使ってくれてるっていうのもあるけど、アレシア本人も成長してるみたいだね。」

 

「相方はスリザリンのシーボーグなのよね? あの体格が良い六年生。気難しそうな見た目だけど、アレシアは怖がってないの?」

 

「それがシーボーグのやつ、かなり慎重に接してるんだよ。ああ見えて案外気が回るタイプだったみたいでな。新しい一面を垣間見れた気分だぜ。」

 

ハーマイオニー先輩の質問に答えた魔理沙へと、外国の新聞を読んでいるリーゼお嬢様が相槌を打つ。ロシア語かな? 私は全然読めないぞ。

 

「杖とやらはどうなったんだい? 決まったのか?」

 

「よく分からんし、もうエボニーでいいんじゃないかってなってるな。ハーマイオニーが調べてくれたところによると、エボニーの杖の持ち主は『信念を貫く』とか『自立している』とかって特徴があるらしいしさ。悪くはない素材だろ。」

 

「ふぅん? 『杖診断』ってわけだ。……アカシアはどうなんだい? 私の杖はそれなわけだが。」

 

「そこまではちょっと分からないわ。それに、杖に関しては意見が分かれる本が多かったの。杖作りによって同じ杖でも全然違った見解があるみたい。」

 

ハーマイオニー先輩が困ったような表情で言うのに、薬学の課題を進めているロン先輩が提案を投げた。

 

「オリバンダーに聞いてみるのはどうだ? 杖作りの方じゃなくて、一年生のオリバンダー。何か知ってそうじゃないか?」

 

「あー、オリバンダーか。……でもよ、まだ一年だぜ? つまり十一歳ってこった。オリバンダー家とはいえ、さすがに詳しくは知らないんじゃないか?」

 

「あれだけ歴史が長い杖作りの家で育ったら、嫌でも詳しくなりそうに思えるけど……もう寝ちゃったか? 見当たらないな。」

 

魔理沙に返事をしながら生徒たちで賑わう談話室を見回すロン先輩へと、ポッター先輩が校庭側の窓際を指差して『発見報告』を送る。

 

「あそこに居るね。今日も一人で本を読んでるみたい。」

 

「まだ友達は出来てないってわけか。……どうする? 呼んでみるか? いきなり上級生の集団に呼び出されたら驚くかな?」

 

「それは気にしすぎだろ。……おーい、オリバンダー! ちょっとこっちに来いよ! 聞きたいことがあるんだ!」

 

ロン先輩の懸念を流した魔理沙が大声で呼ぶのに、オリバンダーはムスッとした顔を上げて素直に近付いてくるが……私だったらあまり知らない上級生に呼ばれるのは怖いけどな。魔理沙基準だとそうでもないってことか。

 

「……なんですか?」

 

太っているというよりも『がっしりしている』と表現すべき見た目のオリバンダーへと、魔理沙が杖についての質問を始めた。しかしまあ、随分と貫禄がある一年生だな。ブラウンの短髪の下のそばかすだらけの顔には、上級生相手だというのに面倒くさいという表情を隠すことなく浮かべている。十一歳とは思えない太々しさだぞ。もしかしたらハーマイオニー先輩と同じように、九月生まれとかなのかもしれない。それにしたって図太すぎる気もするが。

 

「トーナメントの代表選手が杖を決めなきゃいけないってのは知ってるか? 噂になってると思うんだが。」

 

「噂話をする相手が居ないので知りません。……杖?」

 

「『チームの象徴となる杖』を一本選べって主催者側から言い付けられてるんだよ。オリバンダーが……ダイアゴン横丁の杖作りのオリバンダーが作るってマクゴナガルが言ってたんだが、そっちからも聞いてないか?」

 

「ひいお爺ちゃんが? ……知りませんでした。意外ですね。ひいお爺ちゃんは『持ち主が居ない杖』を作るのは嫌いなはずなんですけど。」

 

心底意外そうに呟くオリバンダーへと、リーゼお嬢様が興味深そうな顔付きで質問を飛ばした。

 

「おや、ギャリック・オリバンダーは曽祖父なのか。息子の息子の娘ってことかい?」

 

「息子の娘の娘です。別段違いはないでしょうけど。」

 

「ふぅん? 息子が跡を継ごうとしているのは風の知らせで聞いてるが、キミはどうなんだい? 杖作りに興味は?」

 

「なれるかは分かりませんが、なりたいとは思っています。……私は『将来の夢』を聞くために呼ばれたんですか?」

 

うーん、愛想が悪いな。『ムスッと顔』に戻ってしまったオリバンダーに、ポッター先輩が取り成すように言葉をかける。見た目通り気難しい性格らしい。

 

「ごめんごめん、そうじゃないんだよ。聞きたいのは杖のことなんだ。代表選手で選べって言われてるんだけど、僕たちには杖に関する知識がなくてさ。詳しく知ってたら教えて欲しいと思って。」

 

「……それなりには知ってます。私はよく店の手伝いをしていたので、その時にひいお爺ちゃんが色々と教えてくれました。」

 

「じゃあよ、先ずエボニーの杖の特徴を教えてくれ。今最有力の候補はそれなんだ。」

 

魔理沙が放った本命の問いかけに対して、オリバンダーは予想以上にスラスラと回答を寄越してきた。記憶の中の知識を読み上げているような口調でだ。

 

「黒檀は不死鳥の羽根やドラゴンの心臓の琴線が芯材なら防衛術に向き、ユニコーンの毛が芯材なら呪文学に向きます。意志が強くて目的意識がはっきりしている所有者を好み、頑固で疎外的な人が杖に選ばれることが多いです。魔法力の伝達自体は並以上ですが、どちらかと言えば繊細な呪文を使うのが得意な杖ですね。」

 

「ふぅん? ……エボニーにユニコーンの毛、19センチ。キミはこの杖をどう見る?」

 

「そこまで短い黒檀の杖は聞いたことがありませんけど、黒檀は短ければ短いほど扱いが難しくなるはずです。まともに使えているなら非常に実力のある魔法使いが持ち主で、かつかなり頑固な性格なんだと思います。」

 

「大正解だ。これは参考にして良さそうだね。」

 

誰の杖のことを言っているのかは分からないが、とにかくリーゼお嬢様としては納得の考察だったらしい。愉快そうな笑みを浮かべつつ、真っ白な杖を抜いてオリバンダーに示す。

 

「こっちはどうだい? アカシアにドラゴンの心臓の琴線、25センチ。私の杖だ。」

 

「アカシアの杖に選ばれる魔法使いは稀で、ひいお爺ちゃんの店には殆ど置いてません。ですが、選ばれさえすれば魔法使いの力を最大限に引き出すと聞いています。長さが25センチならバランスが良く、ドラゴンの心臓の琴線が芯なら比較的乱暴な扱いにも耐えられる杖ということになりますね。……白いアカシアの杖を見たのは初めてなので、私には細かいところまで判断できません。ひいお爺ちゃんの店で買った杖ですか?」

 

「今から百年ほど前にね。」

 

リーゼお嬢様の返答を受けて、オリバンダーは驚きながら白い杖を見つめる。そんな一年生へと、今度は魔理沙が自分の杖を抜いて質問を口にした。

 

「なら、こいつはどうだ?」

 

「クリですね。クリは使い手や芯材に左右され易い素材で、何か一つの才能に秀でた所有者を好むとされています。ドラゴンの心臓の琴線が芯材なら収集癖があり物質欲が強く、ユニコーンの毛が芯材なら公明正大で私情に左右されず、不死鳥の羽根が芯材なら忠誠心があり個人を重んじる、といったように組み合わせによって求める性格がガラリと変わる杖です。長さによっても変化しますけど、そこまでは複雑すぎて覚えていません。」

 

「……収集癖と物欲か。なんか嫌な評価だな。」

 

魔理沙のは確かドラゴンの心臓の琴線が芯材だったはずだ。当たっているなとうんうん頷いている私を他所に、ポッター先輩も杖を差し出す。みんな当初の目的を忘れていそうだな。杖診断の会場になっちゃってるぞ。

 

「これはどうかな? ナナカマドに不死鳥の風切羽なんだけど。」

 

「ナナカマドはあらゆる杖の中で最も防衛術に向いている杖で、特に護りの魔法においては他の杖を遥かに上回る適性を発揮します。ナシほどではありませんが、リンゴやポプラと同じように闇の魔法使いに使われることを嫌うため、高名な闇祓いに使い手が多いとひいお爺ちゃんは教えてくれました。……ニワトコの杖の持ち主と惹かれ合うとも言ってましたね。」

 

ニワトコの杖と? それを聞いたリーゼお嬢様が目を丸くしてポッター先輩を見る中、私も自分の杖を抜いてオリバンダーに見せてみる。脱線した話題を修正するのは、自分の杖を見てもらってからにしよう。気になるし。

 

「これはどう? 28センチ、芯は不死鳥の羽根よ。オリバンダーさんはこれを私に売ってくれた時、何故か不思議そうな顔をしてたんだけど。」

 

「イチイですか。……イチイは絶対に平凡な魔法使いを選びません。特殊な運命や才能を持った魔法使いにだけ忠誠を示し、よって歴史に名を残す英雄や悪人が所有者になることが多いそうです。互いに所有者を守ろうとする柊の杖とは相性が悪く、また同じく英雄の持つ杖とされるイトスギとも反発し合うとか。」

 

むう、良い評価なのか悪い評価なのか分かり難いな。英雄か、悪人か。とにかく偉大なことをする所有者が多いわけだ。……まあうん、そう考えれば悪い気はしないかな?

 

微妙な気分になりながら杖を引っ込めた私に、オリバンダーはやや言い難そうに情報を追加してきた。

 

「……例のあの人の杖もイチイに不死鳥の羽根です。それに大魔女モルガナの杖もひいお爺ちゃんは同じ組み合わせだと睨んでいました。長年杖を研究していても謎が多い、良くも悪くも特別な杖だと。」

 

ヴォルデモートと同じ組み合わせ? ……なんか、一気にケチが付いちゃったな。そういえば杖を買った時、アリスも少し反応していた気がするぞ。あれはそのことを知っていたからなのか。

 

何だかモヤモヤする感情を内心に残しながら、サクヤ・ヴェイユは自分の杖を見つめるのだった。

 

 

─────

 

 

「あーくそ、上手くいかんな。私のパスが強すぎるか?」

 

地上に居る時よりも数段寒く感じる秋風を我慢しつつ、霧雨魔理沙はマルフォイとロイドに対して質問を飛ばしていた。十月も半分が過ぎた水曜日の早朝、毎度お馴染みの朝練を行なっているのだ。今日は初めて全ポジションが参加する試合形式での練習をしているわけだが、どうにもチェイサー三人の連携が噛み合っていない気がするぞ。ポジション別の練習では上手くいってたんだけどな。

 

ちなみに敵役としてグリフィンドールとハッフルパフの混成チームが手伝ってくれており、観客席にはレイブンクローとスリザリンの選手たちも顔を出している。恐らく今日の練習を観察することで、今度相手役を務める時の参考にするつもりなのだろう。

 

わざわざ朝に起きて手伝ってくれている連中のためにも、私たちは結果を出さなければならない。そう思って気合を入れながら放った問いに、少し先を飛んでいるロイドが答えてきた。

 

「どちらかと言えば、僕がパスを受け損ねたのが問題だね。早いパスを受けるのが難しいのは当然だけど、それは同時に敵にカットされ難いって意味でもあるはずだ。キリサメはそのままでいいよ。こっちで調整してみせるから。」

 

「だったら遠慮なくいかせてもらうぜ。……マルフォイ、そっちはどうだ? やり難くないか?」

 

「当然やり難いが、レベルが高くてやり難いのはむしろ歓迎すべき事態だ。ロイドの言う通りこっちで合わせる。タイミングはこのままでいこう。」

 

「おっし、それでこそだ。……もういいぞ、ジニー! 再開してくれ!」

 

待ってくれていた敵役チェイサーのジニーに合図を送って、練習試合を再開する。……マルフォイの言う通り、このチームはレベルが高い。全校生徒の中から各ポジションのスペシャリストを選出したんだから当たり前だが、それだけに高望みをしてしまうのだ。

 

形になれば強いものの、不完全では意味がない。その辺のバランスが難しいなと考えながら上空からのマルフォイからのパスを受けて、そのままゴール向かって箒を走らせた。

 

「ロイド!」

 

途中でハッフルパフのチェイサーの妨害を受けたので、斜め下のロイドに全力でパスしてみれば……あちゃー、またダメか。クアッフルには当然物理法則が適用されるため、基本的に上から下へのパスが最もスピードが出る。故にカットし難くてタイムラグも少ないのだが、勢いがありすぎると片手でパスを受けるのもまた難しいわけだ。

 

「悪い、キリサメ!」

 

悔しそうに顔を歪ませるロイドが掴もうとしたこぼれ球を、横から抜けてきたジニーが掻っ攫った。ニヤリと笑ってボールを確保した赤毛の友人は、素早くくるりと反転してゴールへ向かおうとするが……お見事。アレシアの打ち込んだブラッジャーがジニーの脇腹に激突する。練習用でもあれは痛いぞ。

 

「いいぞ、リヴィングストン! 完璧だ! 非の打ち所がない!」

 

大袈裟に褒め称えるシーボーグへと、アレシアが恥ずかしそうな笑顔で棍棒を控え目に突き上げた。当初の予想とは裏腹に、ビーター陣が一番上手くいっている理由がこれだ。シーボーグはとにかくぷるぷるちゃんを褒めまくって緊張を緩和させる作戦を選択したようで、スリザリンとグリフィンドールとは思えないやり取りをしつこいほどに繰り返しているのである。

 

とはいえ、そのお陰でアレシアは事あるごとに褒めてくれるスリザリンの上級生を怖がらなくなった。おまけに失敗してもすぐさまフォローが入るので、伸び伸びとプレーできているようだ。

 

協調性があるスリザリン生と臆病なグリフィンドール生。六年生と二年生の性格も体格も凸凹なコンビのことを横目にしつつ、ジニーが落としたボールを私が拾うと……良い場所に居るじゃんか。それを予期していたようなポジションに居たマルフォイが視線でパスを要求してくる。あいつ、本当にシーカーだったのかが疑問になるほどチェイサーが上手いな。

 

「ほらよ!」

 

つまるところ、マルフォイはポジション取りが絶妙なわけだ。小手先の技術で勝負するんじゃなくて、居て欲しい時に居て欲しい場所に居るようなタイプ。もしかしたらシーカーとして上空から試合を俯瞰していた経験が働いているのかもしれないなと考察していると、パスを受け取ったマルフォイが敵キーパーのロンの前でボールをひょいと放り、それを自分が乗っている箒の尾で弾き飛ばした。

 

チェイサーがよくやる箒を使ったシュートを目にして、球威がある球が来ると身構えたロンだったが……よしよし、成功だな。マルフォイのシュートに見せかけたパスは緩い速度で上に打ち上がり、それをロイドが拾ってシュートを──

 

「うお、やるな。」

 

する前に、赤毛のキーパーどのが強引に上がってきてシュートコースを塞ぐ。ロンのやつ、絶好調じゃんか。その動きを公開試験の時に見せろよな。

 

ロンが勝利を確信した笑みでシュートを阻むのに、少し離れた場所を飛んでいるジニーがガッツポーズしているが……うーん、残念。ロイドはシュートしようとした球を自由落下で落としてしまった。ロシアのナショナルチームがよく使うテクニックで、『ジャグリング』とかって言うんだとか。ゴール前で何度もフェイントを交えた細かいパスをして、キーパーを混乱させるわけだ。

 

ロンが顔に浮かべている感情を喜びから驚愕に変える中、再びボールを持ったマルフォイが彼の下を通り過ぎて、完全にフリーの状態で見事にシュートを決める。今回のジャグリングは完璧だったな。これなら実戦でも問題なく通用するだろう。

 

「代表チームのゴール! これで40対0!」

 

審判役をやってくれているフーチが笛を吹いた直後、悔しそうな表情のロンがカウンターのために急いでクアッフルを投げようとするが、その前にずっと上空を飛んでいたハリーが急降下するのが目に入ってきた。

 

「キリサメ、ポッターを援護しろ! あれはフェイントじゃない!」

 

「はいよ、任せとけ!」

 

マルフォイの指示を受けて一番近い私が援護に向かおうとするものの、近付く間も無くハリーは捕らえたスニッチを拳に握って突き上げてしまう。試合終了か。思ってたよりも早めに終わっちゃったな。

 

「試合終了です! 190対0で代表チームの勝利!」

 

フーチが高らかに試合の終わりを宣言するのと同時に、飛行していた全選手が競技場の中央へと向かい始めた。昨夜の小雨でべちゃべちゃになっているグラウンドに着陸してハリーにハイタッチしてやると、彼は申し訳なさそうな顔付きで『言い訳』を述べてくる。

 

「練習なんだし、本当は早く終わらせても仕方がないんだけど……見つけたから思わず捕っちゃったよ。ダメだったかな?」

 

「まあいいんじゃないか? そろそろ朝メシの時間だし、反省会をしてちょうど良いくらいだろ。そっちから見てチェイサーの動きはどうだった?」

 

「パスの失敗は課題として、全体的な動きそのものは良かったと思うよ。お世辞でも何でもなく、プロの連携みたいだった。」

 

「そりゃまた、嬉しい評価だな。」

 

照れ臭い気分でハリーの肩をバシンと叩いてやれば、下りてきたボーンズも話に乗っかってきた。

 

「そうね、チェイサーとビーターは予想以上の動きよ。お陰で私の練習になってないわけだけど。」

 

「あー、そっか。敵からのシュートがあんまり無かったな。」

 

「まあ、キーパーは試合形式じゃなくても練習できるからね。気にしないで頂戴。……マルフォイ、キャプテンとしてはどう?」

 

ボーンズが苦笑しながらマルフォイに振ると、オールバックのキャプテンどのは一つ首肯してから評価を纏める。セットするのに時間がかかりそうなのに、朝練の時も隙なくこの髪型だな。何時に起きてるんだ? こいつ。

 

「ああ、悪くなかった。予想以上だ。これなら他のポジションに関わる練習をしても問題ないだろうし、昼休みはビーターとキーパーが合同でブラッジャーへの対処を含めたディフェンスの特訓、シーカーはチェイサーを交えたフェイントの練習をしよう。」

 

「とりあえず土台は形になったってわけか。」

 

「相手のやり方が予想できる学内のリーグと違って、トーナメントは一度も戦ったことがない他校のチームが相手になる。特に初戦は情報がゼロだから、どんな相手にも対応できるように基礎を重視していきたい。このまま土台固めを続けつつ、ポジション間の連携を深めていこう。」

 

ポジション内の訓練からチーム全体の訓練へと移行していくわけだ。マルフォイの計画に全員が納得して頷いた後、シーボーグがおずおずと問いを口にした。

 

「ドラコ先輩、パーティーの件はどうなっているんでしょうか? もう半月ありませんけど、何か準備する物とかは?」

 

「杖はエボニーに決まったし、着ていく服以外は特に準備しなくていいそうだ。ロイド、そっちは大丈夫か? 何を着るかで悩んでいたようだが。」

 

「幸い母がスーツを買ってくれましたから、それを着るつもりです。特に高級な品ってわけではないんですけど、普通のスーツで問題ないんですよね?」

 

「学生だからその辺は問題ないだろうし、不安なら僕のアクセサリーを貸そう。適当に着ければ箔が付くはずだ。……他に不安な者は?」

 

ハリーはリーゼからプレゼントしてもらった一張羅を着るらしいし、ボーンズやマルフォイ、シーボーグなんかは名家の出身だけあって慣れているはずだ。私のはアリスが作ってくれるから問題ない。そんなことを考えていると、視界の隅で遠慮がちに手が上がる。アレシアの小さな手が。

 

「あの、私……魔法界の正装がよく分かりません。何を着ていけばいいんでしょうか?」

 

「マグル界のドレスでも問題ないと思うが……どうなんだ? ボーンズ。僕は女性の正装にはあまり詳しくない。」

 

「私は逆にマグル界のドレスがどんなものなのかがいまいち掴めないわ。……もう学校に持ってきてるの?」

 

「いえ、代表になったお祝いに両親が買ってくれるようなんですけど、現物はまだ無いんです。何と言うか、両親の方もどんな服を買えばいいのかが分からないようでして。」

 

その言葉に、代表チームの全員が難しい顔で悩み始めるが……これはまた、面白い光景だな。スリザリンの二人も真剣に考えてるぞ。昔のホグワーツなら名家出身のスリザリン生が、マグル生まれのためにマグル界のドレスについてを考えるなんてジョークにもならなかったはずだ。

 

まあうん、悪くない変化ではあるな。敵役をしてくれていた面々が悩む私たちを見て何事かと近付いてくる中、霧雨魔理沙は奇妙な状況に苦笑いを浮かべるのだった。

 


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