Game of Vampire   作:のみみず@白月

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十中八九

 

 

「おや、美味そうじゃないか。これだけあるなら私たちが食べちゃっても問題なさそうだね。」

 

昼食会とやらの会場に足を踏み入れながら豪語するリーゼ様に、アリス・マーガトロイドは困った気分で頷いていた。本当にいいのかな? リーゼ様はともかくとして、私は生徒でも学校関係者でもないわけだが。

 

リヒテンシュタインの連盟本部に到着した後、私たちの控え室に挨拶に来たマクゴナガルから『昼食会が開かれるそうです』と聞き出したリーゼ様が、空腹だからと勝手にこの場に乗り込んでしまったのだ。一人にさせるのは不安で私もついてきたのだが……何か、人が少なくないか? 見たところホグワーツとマホウトコロ、それにワガドゥの生徒らしき二十名ほどしか参加していないぞ。お陰でちょびっとだけ寂しい雰囲気になっちゃってるな。

 

いきなり現れた吸血鬼に会場の全員が注目する中、それを全く気にしていないリーゼ様は料理が並んでいる中央の長テーブル目掛けて突っ込んでいく。

 

「アリス、キミも食べたまえ。どうせ夜のパーティーでは腹にたまらんような物しか出ないぞ。」

 

「いや、私は……まあその、ちょっとだけで問題ありません。」

 

「そうかい? 思ってたよりも美味そうだぞ? ……やあ、ホグワーツの代表選手諸君。楽しんでいるかい?」

 

まるで招待した張本人かってくらいに堂々としているな。肉を皿に取りながら呼びかけたリーゼ様に、近付いてきたハリーが返事を返す。シッティングビュッフェか。多分連盟は人数が多くなることを予想してこの食事形式にしたのだろう。殆どのテーブルが使われていないのを見るに、完全に裏目に出ているわけだが。

 

「リーゼ、もう到着してたんだね。昼食会に呼ばれたの?」

 

「呼ばれていないが、私だってホグワーツの生徒だ。だったらここで食べる権利はあるはずだろう?」

 

「それは分かんないけど……まあ、大丈夫じゃないかな。料理がかなり余りそうな状況だしね。」

 

また少し背が伸びているな。今やジェームズよりも高いんじゃないか? 呆れたような表情で応じるハリーのことを眺めていると、ニヤニヤしながら歩み寄ってきた魔理沙が話しかけてきた。何だその顔は。

 

「よっ、アリスちゃん。小さくて可愛いぜ。リーゼお姉ちゃんに連れてきてもらったのか?」

 

「……私は完全武装の人形を持ってきてるんだからね。」

 

「おお、怖いぜ。……実際のところ、こうして見てると変な気分になるな。騒動が収まったら元に戻るんだろ? 何か落ち着かないし、私としてはその方が助かるんだが。」

 

「その予定よ。……盛り上がってないみたいね、昼食会。」

 

新鮮な反応だな。リーゼ様やエマさんと違って、魔理沙は『子供な私』をマイナスに捉えているようだ。そんな魔理沙に問いを送ってみると、彼女は苦笑しながら説明を飛ばしてきた。

 

「あー……まあな、盛り上がってはいないかな。一通り自己紹介は済ませたんだが、そっからは各校で固まって黙々と食事って感じだ。校長たちはあっちで喋ってるけどよ。」

 

魔理沙が指し示した方向に視線を向けてみれば……なるほど、三校の校長は一つのテーブルを囲んで歓談しているらしい。質の良い緑のローブを着たマクゴナガル、桜色の着物姿のマホウトコロの校長、そして茶色のローブに毛皮のマントを着けているワガドゥの校長が笑顔で言葉を交わしている。

 

サクラ・シラキさんだっけ? 淑やかな微笑を浮かべているマホウトコロの校長とはカンファレンスで会ったが、ワガドゥの校長はダンブルドア先生の葬儀でチラッと見かけたくらいだな。飾り付きの長い髭に覆われた柔和そうな顔と、恐ろしく高齢であることを感じさせる小さな体格。見た目だけは余生を送っているお爺ちゃんって感じだが……うーむ、さすがは名高きワガドゥの長老。醸し出す雰囲気はダンブルドア先生に負けず劣らずだ。

 

マクゴナガルも相当の魔法使いだと思うのだが、あのテーブルでは少し見劣りしてしまうな。内心で新校長にエールを送っていると、追加の料理を取りにきたらしいマホウトコロの男子生徒たちのひそひそ話が耳に入ってきた。こちらもホグワーツと同じく制服姿だ。独特な『着物ローブ』って感じのやつ。

 

『見ろよ、吸血鬼だぜ。初めて見た。血を飲んだりはしないのかな?』

 

『飲むだろ、吸血鬼なんだから。飲まないなら何でその名前なんだよってなるじゃんか。』

 

『いやまあ、そうだけどさ。見たところ肉を取ってるぜ。血じゃないぞ。』

 

『だから、あれの他に血も飲むってことだろ。普通に考えて血だけ飲んでたら栄養が足りないだろうが。それだと蚊と一緒じゃんか。』

 

肘で突き合いながら小声で話すマホウトコロの生徒二人に、リーゼ様がくるりと振り返って日本語で声をかける。あーあ、聞かれちゃった。知らないぞ、私は。

 

『おいおい、無礼な連中だね。蚊はないだろうが、蚊は。目上への態度ってやつを教えてあげようか? イギリスの魔法使いは杖も手も早いぞ。吸血鬼ともなればその百倍は早いしね。』

 

まさか日本語を理解できるとは思っていなかったのだろう。びくりと震えた男子生徒二人は、傍目にもそれと分かるほどに慌て出すが……残念ながら、リーゼ様はちょうど良い暇潰しを見つけたと判断してしまったらしい。意地悪な笑みで詰め寄り始める。

 

『ほら、何とか言いたまえよ。その台詞は人間を猿と呼ぶ以上に無礼なことなんだぞ。ふむ、そうだな……謝罪の証として血をもらおうか。ナイフはどこだ? フォークで突き刺すのもいいが。』

 

『いや、その……すみませんでした。まさか言葉が分かるとは──』

 

『ふぅん? 分からなかったら言ってもいいと思っているわけだ。尚のこと許せないね。首と手首のどっちがいい? より痛いと思う方を教えてくれ。そっちから血を流してもらうから。……ああそうだ、腹を切るのもアリだぞ。得意だろう? 日本人なんだし。』

 

絶好調の様子で脅しまくるリーゼ様に、男子生徒二人はどうすればいいのかと真っ青の状態だ。もういいだろうと止めに入ろうとすると、その前に駆け寄ってきたマホウトコロの女子生徒が……わお、豪快。勢いそのままに男子生徒二人をぶん殴ってから口を開いた。滅多に聞けないような鈍い音がしたぞ。ごつんって。

 

『こら、何してんのよ! ……ごめんね、こいつらが何かした? 私がきつく叱っておくから許してくれないかな? えっとね、ほら! アメもあげるから。日本のアメだよ?』

 

『……一応聞いておくが、キミは吸血鬼のことを知っているかい?』

 

『わあ、可愛い喋り方。ちょっとあんたたち、こんな小さな女の子にちょっかいをかけるのはやめなさいよね! 私たちは代表選手なんだから、それらしく振る舞わないといけないの! 教頭先生から何度も言われたでしょうが! ……それで、何だっけ? 吸血鬼? 何のお話かな?』

 

うわぁ、マズいな。『こんな小さな女の子』へと優しく語りかけた黒いポニーテールの女生徒に、リーゼ様は苛々と翼を揺らしながら質問を重ねる。さっきまでの『からかいモード』と違って、今は本気でイライラしてきた時の顔になっちゃってるぞ。

 

『つまりだね、キミは吸血鬼の存在を正しく理解しているのかと聞いているんだよ。この翼が何だか分かるかい?』

 

『えっと……可愛いわね。よく似合ってるわよ。お母さんかお父さんに買ってもらったの?』

 

『買ってもらっただと? 翼を? ……よーく分かった。マホウトコロの教育の甘さを私は今まさに痛感したよ。』

 

『んっと、どういう意味かな? お姉ちゃんが何かしちゃった?』

 

きょとんとしながら年少の子への対応としては百点満点の話し方をする女生徒は、それが吸血鬼に対してはマイナスの点数になることに気付いていないらしい。先程の男子生徒たちは目の前の問題が理解できているようで、大慌てで女生徒を止めようとしているが……そこに着物の女性がするりと割り込んできた。マホウトコロの校長だ。

 

「ごきげんよう、バートリ女史。カンファレンス以来ですね。」

 

「……やあ、サクラ・シラキ。キミのところの生徒はどうなっているんだい? 私を蚊扱いしたり、ガキ扱いしたりしてくるわけだが。」

 

「あらまあ、大変。うちの生徒がそんなことを? 校長として深く謝罪いたします。」

 

心底申し訳なさそうな表情でぺこりと頭を下げたシラキ校長は、無言で生徒たちの方に一度顔を向けた後、頰に手を当ててリーゼ様との話を再開する。……生徒たちが絶望的な顔付きになっているな。どんな顔を向けたのかまでは見えなかったが、穏やかなだけの人ではないらしい。

 

「お詫びもしたいですし、こちらのテーブルにいらっしゃいませんか? ワガドゥの校長先生も是非にとおっしゃっているんです。」

 

「……ま、構わないよ。邪魔しようじゃないか。魔理沙、アリスを頼むよ。迷子にならないように見てやってくれたまえ。」

 

「おう、任せとけ。まだ小さいから心配だもんな。」

 

迷子になんかならないぞ。肩にポンと置かれた魔理沙の手を払い除ける私を他所に、リーゼ様は校長たちのテーブルへと行ってしまう。それを見送った後、事態を見守っていたハリーが魔理沙に疑問を放った。

 

「……何があったの? 何となくの流れは掴めたけどさ。」

 

「まあ、テーブルで説明してやるよ。……ちなみにこっちの子はリーゼの親戚な。社会見学で来てるんだ。」

 

「初めまして、アリス・カトリンです。」

 

ハリーは事情を知らないのか。だったらお芝居しなければと子供らしいトーンで自己紹介しながらお辞儀してみると、上げた顔の先に至極微妙な表情のハリーが居るのが見えてくる。どうしたんだ? 変だったかな?

 

「あの、僕はリーゼから聞いてますから。つまりその、正体を。」

 

「へ? ……ちょっと、魔理沙?」

 

「おおっと、すっかり忘れてたぜ。悪かったな、アリスちゃん。」

 

ぬう、してやられちゃったな。悪戯成功の笑みでホグワーツ生たちのテーブルへと駆けて行く魔理沙にジト目を向けつつ、アリス・マーガトロイドは早く元の姿に戻りたいという気持ちを新たにするのだった。

 

 

─────

 

 

「おお、嬉しいね。とても嬉しい。自分の知識を誰かに活かしてもらえるのは教師にとって最大の喜びじゃ。貴女の役に立ったのであれば、慣れない文章を苦労して書いた甲斐があったというものじゃよ。」

 

何度も頷きながら嬉しそうに微笑むワガドゥの校長を前に、アンネリーゼ・バートリは皿に取ったシチューの中の兎肉を頬張っていた。マクゴナガル曰く、彼女は動物もどきの勉強をするにあたってこの爺さんの著書を参考にしたらしい。変身術の権威ってわけか。

 

シラキからとんでもなく無礼な日本の小娘に関する謝罪を受け取った後、三校の校長とテーブルを囲んで食事を行なっているわけだが……ふむ、私以外の三人は全然食べていないな。やっぱり爺さん婆さんになると食が細くなるのかと考えている私を他所に、マクゴナガルがワガドゥの校長へと返事を返す。余所行きの丁寧な笑みを浮かべながらだ。

 

「感覚的な部分が非常に分かり易く説明してあったので、あの本のお陰で一歩前に進めましたわ。……ワガドゥではアニメーガスがそれほど珍しくないと聞いておりますが。」

 

「如何にも、その通り。わしらにとって動物たちの姿を借りることは珍しくない。魂の形を身体に表すだけじゃからのう。わしらの魔法はお二方の学校で扱う魔法ほど洗練されておらぬが、故に出来ることもあるわけじゃな。……まあ、良し悪しじゃよ。どちらが優れているといった類の話ではなく、土地や学校の個性の問題じゃ。」

 

「ですが、取り入れたい部分も多々ありますね。……アニメーガスの話で思い出しましたが、オモンディ校長がドラゴンの動物もどきだというのは本当なのですか?」

 

ドラゴンの動物もどき? さすがに興味を惹かれて顔を上げると、苦笑いで首肯するワガドゥの校長の姿が目に入ってきた。凄まじいな。妖怪ジジイはアフリカにも居たようだ。

 

「事実じゃが、最後に変身したのはもう三十年以上前じゃよ。今変身したところで単なる老いぼれドラゴンじゃろうな。昔のように雄々しい姿は見せられまいて。」

 

姓はなく、『ただのオモンディ』と自己紹介してきた老人。先程の会話によれば、ワガドゥでは敬意と親しみを込めて『パパ・オモンディ』と呼ばれているらしい。……そういえばゲラートが一年ほど前にこの爺さんのことを話していたな。

 

今は亡きダンブルドア、そして目の前に居るシラキとオモンディ。この三人は曲者揃いの校長たちの中でも別格だったわけだ。『老いてなお』を地で行く連中に鼻を鳴らしていると、今度はオモンディの方からマクゴナガルに質問が放たれる。

 

「しかし、アルバスのことは本に残念じゃった。あの厄介な男の後を継ぐ者として何か困ったことはないかね? わしでよければ協力させてもらうが。」

 

「まだまだ若輩者ですが、今のところは何とかなっています。アルバスが多くのものを残してくださいましたから。オモンディ校長のお言葉もその一つですね。」

 

「うむ、アルバスは大した男じゃった。華がある男というのは見つけるのにも苦労するものじゃが、あの男にはその中でも一際目立つほどの華があったからのう。才能と、人格と、技術。それら全てを併せ持った魔法使いはわしが知る中ではアルバスだけじゃ。」

 

「ええ、偉人と呼ぶに足るお方でしたね。何よりあの方には茶目っ気がありましたわ。人生には多少の隠し味と寄り道が必要なことを教えてくださいました。」

 

シラキもダンブルドアを偲んで寂しそうな微笑みを浮かべる中、ホグワーツ生たちの方を横目に今度は私が口を開く。マホウトコロの生徒と魔理沙を介して話しているようだ。私が起こした騒動が切っ掛けになったらしい。

 

「キミたちは最近のマグルに……非魔法界に対する意識の変化をどう思っているんだい? その偉大なるダンブルドアがやり残していったことなわけだが。」

 

「個人的には善きことだと捉えています。マホウトコロは非魔法界に比較的近しい学校ですので、何を懸念しているのかも、それを解消するために何をすべきなのかも理解しておりますから。」

 

「わしは……ううむ、難しいのう。ワガドゥではそも二つの世界を別個のものだとは考えておらぬ。各国の同意によって定められた機密保持法のことは重んじるが、わしらにとってはそちらで言う非魔法族も魔法族も同一の存在なのじゃ。垣根を無くすのは良いことじゃと思う反面、問題そのものを理解するのが難しいというのが本音じゃな。」

 

「ふぅん? ……まあ、プラスに考えてくれているというのは分かったよ。」

 

悪くない反応だな。シラキとオモンディの発言を受けて思考を回し始めた私へと、マホウトコロの校長閣下が問いかけを寄越してきた。気遣うような表情でだ。

 

「その件に深く関わっている方が、イギリスと揉め事を起こしていると耳にしましたが……明後日の会談で何か動きがあるのでしょうか?」

 

「多分あるよ。ゲラート・グリンデルバルドが動くからね。あの男が動けば盤面も大きく動かざるを得ないだろうさ。」

 

「グリンデルバルド議長ですか。」

 

内心を読み取れない微笑でゲラートの名を口にしたシラキに、グラスの中のワインを一口飲んでから疑問を送る。こういう質問をしてきたということは、この女も会談に出席するつもりなわけだ。だったら色を付けるために少し探っておいた方がいいだろう。レミリアによれば日本の魔法界ではかなりの権威を持った人物らしいし。

 

「キミはあの男のことをどう思う? 肯定的か、否定的か。好いているか、嫌っているか。教えてくれたまえよ。」

 

「あら、答え難い質問ですね。……良くも悪くも『行動する人物』だと思っています。普通なら立ち止まるような場所で、無理にでも前へと進もうとする方だと。それは周囲から頼もしく、魅力的に見えますが、同時に多くの敵を作る気質でもあるはずです。」

 

うーむ、本質を突いているな。若干言葉を濁して曖昧な返答を返してきたシラキから、オモンディの方へと視線を移してみると……彼は難しい顔付きでゲラートへの評価を述べてきた。

 

「アルバスには華があったが、グリンデルバルド議長には威がある。他人を退かせ、従わせるような威が。……わしは彼が大戦で掲げた理念には賛同しておらぬが、己の主義に殉じることが出来る人物だという点は評価しておるよ。あれは恐らく、決して己を曲げぬ男じゃ。いくら叩かれてもピンと伸びたままじゃろうて。そこだけはアルバスと同じじゃな。」

 

「過去の理念に反対でも、今の理念を正しいと思えば賛成するかい?」

 

「過去も現在もないよ、吸血鬼さん。グリンデルバルド議長は死ぬまで同一の理念しか掲げまいて。わしが見た限り、諦めたり道を変えたりするような人物ではないはずじゃ。今のグリンデルバルド議長は嘗てと同じ理念の別の側面を見せているだけじゃよ。」

 

「故に賛成は出来ないと?」

 

くそ、面倒な爺さんだな。殆どゲラートと関わりがない癖に、あの男の根本にあるものをよく理解しているじゃないか。人を見る目も校長の資質かと苦い思いで聞いた私へと、オモンディは首を横に振って応じてくる。

 

「反対はせんし、正しいと思ったなら賛成もしよう。人は人、行動は行動じゃからな。何処の誰が人を救おうとそれは善なる行動じゃ。……じゃが、警戒を怠るつもりはないよ。アルバスも、スカーレット嬢ももう居らぬ。ならばあの男が嘗ての側面を見せた時、この魔法界の一体誰が止められようか。」

 

「……なるほどね、その懸念は理解できるよ。」

 

「わしはあの男を類稀なる強者だと認めておる。同時に理念のためなら全てを破壊できる男だということも。……表舞台に復帰して以来、あの男は比較的大人しく動いているじゃろう? 今の政界を生きる若い魔法使いたちは見誤っているはずじゃ。グリンデルバルド議長が嘗てどれほどの勢いと力を持っていたのかを、あの男が本来持っている指導者としての才覚と威を。……史書を読むだけでは理解できまいて。だからこそ身を以て知っている我々が警戒する必要があるのじゃ。古き魔法界を生きた我々老人が。」

 

……そうだな、私も忘れかけていたぞ。世界を相手に一歩も退かず渡り合っていた頃のゲラートのことを。彼がもし本気でもう一度同じことをやろうとしたら、果たして止められる者は居るのだろうか? レミリアも、ダンブルドアも居ないこの魔法界で。

 

私は止めんぞ。私は百年前からゲラートの革命を見てきて、あの男がどれだけのものを犠牲にして理想を目指したのかをよく知っているのだから。本気でやり直そうと決断したのであれば、私はそれを甘んじて承認しよう。まさか軽々にその選択を選ぶような男でもあるまい。

 

とはいえ、本人が望むかどうかは話が別だな。私が見たところ、ゲラートはこの意識革命を最後の戦いと捉えているようだし、十中八九オモンディが懸念しているような事態にはならないはずだ。

 

……まあ、それでも一はある。私にとってはかなり面白くなりそうな一つの道が。『もしかしたら』の展開を想像しつつ、アンネリーゼ・バートリは愉快な気分で血のように赤いワインを呷るのだった。

 


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