Game of Vampire 作:のみみず@白月
「それで、首尾はどうだったの?」
ダイアゴン横丁のショッピングから数日後。再び訪れた紅魔館の執務室で、アンネリーゼ・バートリは部屋の主人に返答を放っていた。もう能力で分かってるくせに。わざわざ聞くなよな。
「会えたよ。キミの予想通りにね。」
「予想じゃないわよ、そういう運命だったの。」
向かいのソファで胡散臭く嘯くレミリアに鼻を鳴らしながら、出会うことが出来た紫の少女に関しての報告を語る。パチュリー・ノーレッジ。人間にしては面白いヤツだったな。目的なく知識を求める女。
「魅了をかけて望みを聞いた後、我が家に残ってた魔導書をくれてやったよ。可哀想に、家に帰った後でひどく混乱しただろうね。魅了はその日のうちに解けたはずだから。……ひょっとしたら、まだ混乱してるんじゃないか?」
「魔導書? ……あんたね、なに考えてんのよ! フランのための大事な人柱なのに、死んじゃったら元も子もないでしょうが!」
「魔導書の一冊や二冊で死ぬような人間だったら、そもそも魔女になんか至れやしないさ。心配するだけ無駄だよ。」
とはいえ、渡した魔導書は『それなり』の部類に入る代物のはずだ。前の持ち主は狂った挙句、自分の両腕をボリボリ食って死んだんだったか? いや、もしかしたら脚だったかもしれんな。
魔導書の逸話を記憶から掘り起こしている私へと、レミリアは一つため息を吐いた後で質問を飛ばしてきた。
「まったく、悪戯も程々にしなさいよね。……それで? 見所はありそうだったの?」
「まだちょっと話しただけじゃないか。決め付けるだけの判断材料がないよ。」
私がダイアゴン横丁で買った杖を弄りながら答えたのを見て、レミリアは少し呆れたような表情で口を開く。そういえば、杖はどのくらいの頻度で掃除すればいいのだろうか? 杖屋で聞いておけばよかったな。
「随分と気に入ってるようじゃないの。棒きれだ何だって罵ってたのは誰だったかしらね。」
「その呆れ顔をやめたまえ、レミィ。どんな道具も使う者次第だということさ。……それよりもだ、魔法省だったか? そことのパイプ作りはどうなったんだい?」
「何人かに魅了をかけて、何人かを金で転ばせて、ってな具合ね。まあ、それなりの情報を引き出せるようにはなったわ。下準備としては充分でしょ。」
「大いに結構。これで一歩前進というわけだ。……次はどうする? ノーレッジの方は向こうからの反応待ちだぞ。」
赤髪の門番……美鈴が用意した紅茶を一口飲んでから問いかけてやると、我が幼馴染どのは自分の髪を指に巻き付けながら答えてきた。昔はもっと伸ばしていたんだがな。ふむ、短い方が似合っている気がするぞ。もちろん口には出さんが。
「そうね……ダンブルドアは承認欲求の塊みたいなヤツらしいから、折を見て手紙でも送ってみましょうか。そういうタイプは適当に煽ててやれば木にも登るでしょ。もしくはノーレッジ経由で接触してもいいしね。同学年らしいわよ? あいつら。」
「ふぅん? グリンデルバルドだけ仲間外れってわけだ。」
そっちは『ダームストラング専門学校』とかいう、大陸の辺鄙な場所にある学校で学生をやっているらしい。魔法学校とやらにもいくつか種類があるわけだ。よくマグルから隠しておけるな。
「グリンデルバルドの方はこっちの魔法界からだと関係が持ち難いのよ。ダームストラングは生意気にも独立独歩の気質でやってるらしくてね、情報が殆ど入ってこないの。」
「何にせよ、しばらくは様子見ってことか。そうと決まればフランの部屋にでも行ってくるよ。ダイアゴン横丁で色々とお土産を買ってきたんだ。」
応接用のソファから立ち上がり、フランの部屋へ向かおうと一歩を踏み出すが……その背中にレミリアが待ったをかけてきた。
「今日はやめておきなさい。満月よ。」
「……そうだったね。残念だが、次の機会にしておこうか。」
満月。人外に力を与え、その対価として理性を奪う日。私たちであれば多少そわそわするくらいで済むのだが、常日頃から狂気に囚われているフランがどうなるかなど言わずもがなだ。土産を渡すのは今度にしておいた方がいいだろう。
苦笑しながらソファに戻ったところで、懐から小瓶を取り出してテーブルに置く。土産といえば、こっちもあったんだった。ちょうど良いタイミングだし渡しちゃおう。
「そうそう、フランへのお土産で思い出したんだが、キミにも買ってきてあるんだよ。ほら、最高級の処女の生き血さ。ダイアゴン横丁の裏通りで偶々見つけてね。さあ、グイっといってくれたまえ。」
「血? あそこはそんな物まで売ってるの? ……へぇ、随分と真っ赤な血ね。私に相応しいわ。」
うーむ、相変わらず変なところで素直だな。全く警戒せずに小瓶の封を切ったレミリアは、嬉しそうな表情で一気に飲み干す。可愛いヤツめ。
果たしてドラゴンの血は……やっぱりマズかったようだ。レミリアは赤い顔で勢いよく咳き込み始めたかと思えば、テーブルをバンバン叩きながら私に文句を繰り出してきた。
「んぐっ、ぇほっ、ぐぇぇ……何よこれ! にがい! 騙したわね、リーゼ!」
「んふふ、騙される方が悪いのさ。ドラゴンの血だよ。結構な値段だったんだぞ。」
「要するにトカゲの血じゃないの! めーりーん! 水! 水持ってきて!」
ふむふむ、ドラゴンの血は苦いのか。また一つ勉強になったな。ぺっぺと血を吐き出しながら美鈴を呼ぶレミリアを横目に、アンネリーゼ・バートリはクスクス微笑むのだった。
─────
「ああもう……。」
ヤバい。何がヤバいって、この本がヤバい。焦るあまりに語彙力を失いながらも、パチュリー・ノーレッジは自慢の頭脳をフル回転させていた。
あの日、四年生用の学用品を買いにダイアゴン横丁に行ったあの日。両親と死別して以来一人ぼっちになってしまった我が家に帰ってきた後、いつものように紅茶を淹れて読書の時間に入ろうとしたところでふと気付いてしまったのだ。……自分が得体の知れない本を読もうとしていることに。
『七曜の秘儀』
何だこの本は? いや、分かってはいる。あの少女から借りた本だ。それは理解できるのだが……私はこんな本を読みたいと思ったことなんて無かったはずだぞ。そもそも存在を知らなかったし、何故借りる流れになったのかが全く思い出せない。
唯一思い出せるのはあの真っ赤な瞳。少女の瞳がやたら美しかったという記憶だけだ。……マズいな、良くない魔法をかけられたらしい。こういう時のために必死で閉心術を覚えたというのに、全然役に立ってないじゃないか。
いやいや、そうじゃなくて。何より問題なのは目の前にあるこの本だ。受け取ってしまってから数日が経った今、私を取り巻く状況はこれ以上ないってほどに悪化してしまった。
どうしても、どうしてもこの本を読みたくなってしまうのだ。
『読みたいなぁ』なんていう可愛らしい感情ではない。『読まなければならない』だ。寝ても覚めてもこの本のことが気になっちゃうし、昨晩なんて寝ながら読もうとしていた。片付けるのが面倒で、床に置きっ放しだった別の本に躓いて目が覚めたため事なきを得たが、あの時は背筋が震えたぞ。
いやまあ、読んでみたいってのは否定しない。そこに本があれば、読みたくなるのがパチュリー・ノーレッジという魔女なのだから。……問題なのは、この本が『読んだら死んじゃう系』の本である可能性が非常に高いという点である。
ホグワーツの図書館の閲覧禁止区画にも腐るほどある類のものだが、この本はそれらとは別格の雰囲気を漂わせているのだ。言語化するのは難しいものの、一度開いてしまえばロクなことにならないのだけはひしひしと伝わってくるぞ。
本来ならば魔法省に連絡を入れて、対策チームをダースで回してもらうところだが……心の奥底にある何かがそれを止めてくるのだ。本の力ではなく、私自身の感情が。
この停滞した生活を打ち破るきっかけになるのではないか。また新たな未知を探究できるのではないか。そんな思いがどうしても頭から離れてくれない。
だが、無策で本を開いてしまえば先にあるのは絶望だけ。そして、最早タイムリミットは目前に迫っている。このまま手をこまねいているだけでは、近いうちにあの本を開いてしまうだろう。そうなれば私に待つのは良くて聖マンゴでの入院生活だ。
「うぅ……。」
進退窮まった状況に頭を抱えながら、本の横に置いてある羊皮紙へと目をやった。本と一緒に渡された一切れの羊皮紙。そこには例の少女の住所と、そして名前が記されている。
『アンネリーゼ・バートリ』
全ての元凶たる少女の名前を恨めしい気持ちで見つめながら、焦る内心を抑えて思考を回す。あの少女は一体全体何を思ってこの本を私に渡したのだろうか? 私の命を狙って? それとも誰でも良かったとか?
頭の中にぐるぐると考えが巡るが……本当はもう分かっているのだ。魔法省でも、聖マンゴでもない選択肢はあの少女だけ。だったらそれを選ぶ他ないだろう。
ノロノロとした動きで文机に向かう。自ら泥沼に入り込むようで気が乗らないが、手紙を送るからには気合いを入れて書かねばなるまい。口頭での会話は厳しくても、文章なら人並み以上にやれるはずだ。
しかし、何を書けばいい? 文句を言う? 助けを乞う? ……うーむ、悩んでも正解が見つからないなら、いっそのこと正直な気持ちを伝えてみようか?
うん、そうだな。変に考えずに、要点だけを纏めて伝えればいいのだ。私が今一番知りたいことを、簡潔な分かりやすい文章で。……それでダメそうなら魔法省に手紙を書こう。今日は自分をベッドに縛り付けて寝ればいい。
ひどく短い文章を書き終わり、封筒に入れてから飼っているふくろうに持たせて窓から離す。真昼の空を飛んで行くフクロウを見上げながら、さすがに要点を纏めすぎたかとパチュリー・ノーレッジは後悔するのだった。
─────
「んふふ、面白いじゃないか。」
秋が顔を覗かせ始めた日の夕暮れ、アンネリーゼ・バートリは屋敷の自室で手紙を読みながら微笑んでいた。いいぞ、パチュリー・ノーレッジ。この手紙は私好みだ。
茶色のふくろうが運んできた手紙には、宛先と差出人の署名がある他にはたった一文のみが記されている。
『この本はどうすれば読めますか?』
たったこれだけ。真意を問うこともなく、責めるわけでもなく、ただ本を読む方法を知りたいという。実に面白いじゃないか。ユニークなヤツは好きだぞ。
「ロワー、出かけるぞ! 煙突なんちゃらを準備しろ!」
座っていた椅子から立ち上がり、ドアを抜けながらロワーを呼ぶ。煙突……煙突飛行だったか? あれは便利だ。レミリアが鼻薬を嗅がせた魔法省の役人に用意させたものだが、今や紅魔館との行き来はその方法で行なっている。
屋敷のエントランスの中央にデンと置かれた暖炉に向かうと、既にロワーが緑色の粉の詰まった袋を持ちながら待機していた。
「準備は出来ております、お嬢様。」
「ああ、キミも来たまえ。」
短く指示を出してから、ロワーが粉をひと掴み投げ入れた暖炉に入る。緑色に変わった温かい炎が身体を擽るのを感じつつ、目的地たる場所の名前を口にした。
「紅魔館!」
言い終わった瞬間、身体がもの凄い勢いで引っ張られる感覚と同時に、視界がぐるぐると回り始める。……一瞬で移動できるのは便利だが、これだけは好きになれんな。もっと穏やかにするのは無理なのか?
そのままボスンという音と共に紅魔館のこれまたエントランスに設置されている暖炉に到着すると、箒でチャンバラごっこをしている妖精メイドたちの姿が目に入ってきた。こいつらが働いてるところを見たことが無いんだが、レミリアは何のために雇ってるんだ?
「あ、従姉妹様だー。」
「ほんとだ。従姉妹様もあそぶー?」
「悪いが、今日は仕事で来たんだよ。レミィが何処に居るか分かるかい?」
「地下室だよー。」
ふむ? 地下室か。……というか、私の呼び方は『従姉妹様』で定着しちゃったみたいだな。間違いなく美鈴の影響だろう。暢気すぎる口調の妖精メイドたちに頷きを返してから、パチリと現れたロワーに対して指示を送った。しもべ妖精に煙突飛行は不要なようだ。
「ロワー、この前買ったフランへの土産を渡してくれ。キミは地下室に行けないから……そうだな、妖精メイドの遊び相手をしててくれるかい?」
指を鳴らして土産を出現させたロワーに言ってやると、彼は珍しく困ったような雰囲気で曖昧な頷きを返してくる。どうやらこの出来たしもべ妖精にとっても、妖精メイドの遊び相手というのは中々の難題らしい。
「……かしこまりました。」
「おおー、遊んでくれるの?」
「よっしゃあ! 食器フリスビーしよう!」
まあ、精々頑張ってくれ。ロワーに纏わり付く妖精メイドたちを尻目に、土産を持って地下室へと歩き出す。……うむ、背後から響く何かが割れる音は聞かなかったことにしておこう。
そしてたどり着いた地下室のドアを開けてみれば、そこには仏頂面で食事をしているレミリアとフランの姿があった。題を付けるなら……そうだな、『冷めた夕食』だろうか? いかん、捻りが無さすぎるぞ。
「あっ、リーゼお姉様!」
「フラン? 食事中よ。きちんと座りなさい。」
部屋に入ってきた私を見た途端に駆け寄って来ようとするフランへと、レミリアが厳しい口調で注意を飛ばすが……おっと、その隙に給仕をしているらしい美鈴が盗み食いをしているぞ。強かなヤツだな。
「フランはね、オキャクサマをお迎えしてるの。それが礼儀ってもんでしょ? オマエみたいに無視して食べてるほうがおかしいでしょ?」
「ごきげんよう、リーゼ。何か進展があったの?」
フランをまるっきり無視してレミリアが聞いてくるのに、肩を竦めながら挨拶を返す。そういうことをするから嫌われるんだろうに。ほら、フランが怒りのあまり地団駄してるじゃないか。
「おはようレミリア、おはようフラン。……ノーレッジから手紙が届いたんだよ。一応キミにも見せておこうかと思ってね。」
「お手紙? 誰の? リーゼお姉様に? フランも見たい!」
話に割り込んだフランが興奮した様子でおねだりしてくるのに、苦笑しながら近寄って手紙をテーブルに載せる。これだけ簡潔な内容なら見せても問題ないだろう。もう食事どころじゃないみたいだし。
「見てもつまらないと思うけどね。これだよ。」
「んぅ……なぁに? これ。何かの暗号?」
可愛らしく首を傾げるフランに続いて、食事を切り上げたレミリアも手紙を覗き込む。
「ふーん? なるほどね。廃棄するでもなく、通報するでもなく、貴女にこれを聞いてくるってことは、どうやらノーレッジは正解を引いたようね。……教えてあげてもいいんじゃない? この際三つの方法でやってみましょうよ。ノーレッジには積極的に関わり、ダンブルドアは誘導するに留め、グリンデルバルドは放任。これでどう?」
レミリアはそれらしく言っているが、グリンデルバルドに関してはもう面倒くさくなったのだろう。悪い癖だぞ。美鈴が勝手に下げた料理を美味しそうに食べているのを横目にしつつ、面倒くさがりの幼馴染どのへと返答を放った。
「まあ、私は別にいいけどね。ノーレッジは人間にしては面白いヤツみたいだし、優しく教えてあげることにするよ。」
「愉しむのは結構だけど、壊さないように気を付けなさいね。」
と、そこでこちらを見ていたフランが涙目になって文句を言い始める。爆発寸前だな。蚊帳の外なのが気に食わないらしい。
「……フラン、つまんない! 二人ばっかり楽しそうにしちゃってさ! フランだって遊びたいのに!」
ダンダンと踏みしめる足下の石畳にはヒビが入っているが……うーむ、大したもんだな。すぐさま修復されているのを見るに、スカーレット卿が作った結界は今なお正常に動作しているようだ。
その見事さに感心している私を他所に、レミリアがフランに対して言葉をかけた。困ったような苦笑を顔に浮かべながらだ。
「フラン、これは貴女がお外に出るためにやってることなのよ? リーゼはそれを手伝ってくれてるの。」
そんなレミリアの台詞を疑わしそうに聞いた後、こちらを見てきたフランに首肯してやると……バツが悪くなったのか、金髪の妹分はつま先で丸を描き始める。やれやれ、ちょっと可哀想だし、この辺で慰めるための切り札を使ってみるか。
「そうだ、今日はフランにとっておきのお土産を持ってきたんだよ。この前約束したからね。二人で遊べる新しいボードゲームと……それにほら、とびっきりのお人形だ。」
「わあぁ……スゴいスゴい! とってもかわいいお人形さん! ありがとう、リーゼお姉様!」
私が土産を差し出すと、フランは飛び跳ねながら機嫌を回復させていく。ご機嫌レベルが急上昇だな。気に入ってくれたようでなによりだ。
うんうん頷きつつそれを眺めていると……おや、どうした? はしゃいでいたフランがピタリと動きを止めて、人形を抱きしめながら視線をレミリアと私の間で彷徨わせ始めた。
「あのね、あのね、フランもリーゼお姉様のお手伝いをするよ。その……オマエのお手伝いも。早くお外に出たいもん。」
むう、これは困ったぞ。チラチラとこちらを見ながら言うフランの気持ちを無下にするのは気が引けるが、現状では彼女に手伝いを頼めるような作業がないのだ。レミリアの方を見ると、そちらも参ったと言わんばかりの様子で苦悩している。
「それとも、フランじゃ役に立てないかなぁ? フランはちょっとオカシイから……。」
マズい、何とかしなければ。レミリアと私が今世紀最大の危機に陥ったところで、意外なところから助けの声が飛んできた。ずっとつまみ食いをしていた美鈴だ。
「だったら、妹様はお二人の疲れを癒してあげればいいんですよ。二人とも仕事ばっかりで遊ぶ時間がないなーって愚痴ってましたから。」
そんな愚痴を言った覚えはないが、今日のところは許してやろう。やるじゃないか、美鈴。紅魔館の残飯処理係なんて思ってて悪かったな。その言葉を受けて、レミリアも我が意を得たりとばかりに大きく頷く。
「そうね、その通りよ! ほら、えーっと……今私たちは三人のそこそこ優秀な魔法使いを育成しようとしてるんだけど、必要なのは一人だけで二人余るから、そいつらを戦わせて三人で遊びましょう! 一緒に遊べば疲れも吹っ飛ぶわ!」
おいおい、なんだそりゃ。何やら無茶苦茶なことを言い出したレミリアだったが、フランの瞳が輝くのを見てますます調子に乗っていく。……もう知らないからな、私は。
「つまり、代理戦争よ! カッコいいでしょ? フラン、貴女は参謀役ね! フランと私、リーゼと、えー……美鈴! 二チームで代理戦争といきましょう!」
「それ、すっごく楽しそう! ……でも、チーム分けは私とリーゼお姉様ね。リーゼお姉様もその方がいいでしょ? 二人で美鈴とアイツをボコボコにしちゃおうよ!」
あーあ、フランが乗り気になっちゃってるし、やっぱりやめますとはもう言えないぞ。……まあいい、私にとっても中々に魅力的なゲームだ。人間を駒にした『代理戦争』か。力ある高貴な者のゲームって感じがする。何となくだが。
「ああ、そうだね。私もワクワクするよ。……ただまあ、ゲームを始めるためには先ず三人のうちの必要な一人を決めておく必要があるんじゃないか? 人柱役のヤツが死んだら困るだろう? フランだって、お外に出られるチャンスをフイにしたくはないはずだ。」
レミリアとフランを交互に見ながら言ってやると、スカーレット姉妹は揃って同意の頷きを返してきた。今のところ私はノーレッジにしか接触できていない。見所はあると思うが、至れるかと聞かれればまだまだ未知数なところがあるのだ。
私の示した懸念に対して、レミリアは少し悩んだ後に提案を寄越してくる。
「そうね、それなら四年後……いえ、グリンデルバルドだけ年齢が違うから五年後ね。連中が全員学校を卒業した後に判断を下しましょう。大まかな方針はさっき決めた通りよ。ちょっと短いかもしれないけど、人間の寿命なんて高が知れてるんだから、成人すればある程度運命が収束するでしょ。そこを私の能力で読めばいいわ。」
五年か、私たちにとっては瞬き程度の僅かな時間だ。フランもそれくらいなら待てるだろう。つまり……そう、準備期間ってところか。紅魔館を動けないレミリアは魔法界への繋がりを深め、自由に動ける私はノーレッジの世話をしながら直接介入できる、と。
いやはや、面白くなってきた。そうだ、これこそが私の望みだったはずだ。力ある吸血鬼による壮大なゲーム。生きた駒を使うってのは楽しそうだし、この姉妹と遊べるなら退屈はすまい。
真っ白な杖を取り出して、見つめながら思考を回す。……よし、先ずはノーレッジに呪文を習うとするか。対価として魔導書の読み方を教えるなら嫌とは言うまい。私にとっては不要な力でも、連中にとっては大事な武器だ。操る以上、詳しく知っておく必要があるだろう。
始まった吸血鬼たちのゲームに想いを馳せながら、アンネリーゼ・バートリは愉快そうに目を細めるのだった。