Game of Vampire   作:のみみず@白月

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深夜の小さな冒険

 

 

「またハズレか。」

 

薄暗い山荘の中で従姉妹様が苛立ったようにそう言うのを、紅美鈴は死体を突っつきながら聞いていた。

 

「ヴォルちゃんはいませんねぇ。」

 

「これで四度目だぞ。今回は魅了まで使ったんだ、情報が間違ってるとは思えない。……妙だな。」

 

その通り。既にこの、あー……死喰い人? とかいう連中への襲撃は四回目だ。そして今回の有様から分かるように、その四回ともが失敗に終わっている。

 

別に襲撃自体が失敗しているわけではない。そこには確かに死喰い人たちが居て、従姉妹様と私で皆殺しにしているわけだが……肝心のヴォルちゃんが見つからないのだ。

 

「情報漏れじゃないんですよね?」

 

「今回は騎士団を経由していない。知っているのはアリス、パチェ、レミィ、そして私たちだけだ。偶然漏れることも、聞き出されることも有り得ないよ。」

 

まあ、それは有り得ないだろう。とすると、またしてもヴォルちゃんは偶然逃げ延びたわけだ。何とも運がいいらしい。

 

「私たちと敵対した不運と、逃げられる幸運。結構バランス取れてますよね。」

 

「アホなこと言っている場合じゃないぞ、美鈴。これはさすがに不自然すぎる。」

 

私としては、このまま殺しまくっていればいつかは終わると思うのだが……まあ、それは確かにめんどくさそうだ。従姉妹様が解決してくれるのを期待しよう。

 

イラつく従姉妹様が死体の腕を踏み潰しているのを見ていると、背後から呻き声が聞こえてきた。生き残ってるヤツがいるとは、幸運なのか不幸なのか。

 

声のした方を見てみれば、棚の陰で倒れていた女がゆっくりとこちらに顔を向けるところだった。お、目が合った。

 

「ッ! アバダ・ケダブラ(息絶えよ)!」

 

「おっと。」

 

飛んできた緑の閃光を手のひらで受けると……おお、こりゃ凄い。手首の辺りまでが黒く萎びてしまった。魔法ってのも案外バカにできないもんだ。

 

適当に気を巡らせて再生すると、女は驚愕の表情で呆然としている。びっくりしたのはこっちだよ、まったく。

 

「ば、化け物め。」

 

「まー、化け物ではありますねぇ。」

 

杖を持つ手を握り潰してやると、女はしばらく苦しんでいたが……やがて狂ったように笑い出した。なんだこいつ、壊れたか?

 

「なんだ美鈴、壊しちゃったのか?」

 

「いやぁ、腕を潰しただけなんですけど……。」

 

近付いてきた従姉妹様と二人で見下ろしていると、女はピタリと笑いを止めて、呂律の回らない口調で叫び始める。ホラームービーみたいだ。ちょっと面白い。

 

「おまえ、お前たちは後悔することになる! あのお方の恐ろしさを! あのお方の力を! 我々を殺したことをこっ、後悔するぞ! バケモノどもめ! むざんにっ、無惨に死ぬことになる! あの方がきっと! きっとお前たぢぁ……ぅぎっ……。」

 

話の途中だったみたいだが、従姉妹様は無表情で女の喉を踏み付けると、そこに体重を乗せてニヤニヤ笑い始めた。おお、大魔王ごっこ再びだ。

 

「んふふ、他力本願なのはいけないね。ほら、足掻いてみたまえよ。このままだと喉がミンチになっちゃうぞ?」

 

「がぁ……ぎっ……。」

 

「ほらほら、頼りのトカゲちゃんはまだ来てくれないのかい? ふーむ……そうだ、腕の印で呼んでみたらどうかな? こわぁいバケモノが私を虐めるんだって伝えてみなよ。」

 

ああ、何だっけ? 闇の印とかいうやつか。どうやら死喰い人の連中は、主人のためなら喜んで焼印を受け入れているらしい。家畜扱いなのに不満はないのだろうか?

 

従姉妹様が少しだけ足の力を緩める。おかげで喋れるようになった女は、咳き込みながらも勝ち誇ったように話し出した。

 

「げほっ、ざ、残念だったな! この印はあのお方からの一方通行だ!」

 

嬉しそうに言ってるが……それはどうなんだ? 従姉妹様も同感らしく、ニヤニヤをやめて呆れたような顔になる。

 

「つまり使い捨てにされているわけじゃないか。何を勝ち誇っているんだか。」

 

「違う! 我々はあのお方の手足なのだ! お前たちがいくら手足を捥ごうとも、あのお方にはたどり着けない!」

 

「まあ、確かに逃げ回るのが上手いのは認めるよ。……ふむ、趣向を変えてみようか。」

 

何かを思いついたらしい従姉妹様が、女の顔を覗き込んだ。む、瞳が赤く光っている。魅了をかけるらしい。

 

「私の眼を見ろ。」

 

「何を……はい。」

 

「お前はこれから仲間の元に戻って、隙を見てヴォルデモートを殺すんだ。いいな?」

 

「はい。仲間の元に戻り、隙を見てヴォルデモートを殺します。」

 

「よし、腕は治してやる。エピスキー(癒えよ)。」

 

杖魔法で女の腕を治療する従姉妹様に、気になったことを聞いてみる。

 

「トカゲちゃんは捕らえるんじゃないんですか? アリスちゃんが悲しまないように、そうするって言ったのは従姉妹様じゃないですか。」

 

「こんな小物に殺されたりはしないだろうさ。ちょっと反応を見るだけだよ。もし死んだら……うん、その時はその時だ。」

 

「適当ですねぇ……。」

 

腕が動くようになった女は、従姉妹様に命じられて姿くらましで消えていった。それを見て腕を組んで伸びをした従姉妹様が、疲れたように呟く。

 

「それじゃ、帰ろう。」

 

「はーい。」

 

従姉妹様の肩を掴むと、彼女が杖を振って付添い姿あらわしで紅魔館へと移動する。何にせよ敵の数は減ったのだ。それなりの働きをしたと信じたい。……でなきゃやってられないぞ、まったく。

 

二人が消えた後の薄暗い山荘には、死喰い人たちの死体だけが残っていた。

 

 

─────

 

 

「何してんのさ?」

 

満月に照らされるホグワーツ城を背に、フランドール・スカーレットは一人足りないグリフィンドールのいじめっ子たちを問い詰めていた。

 

二年生も半分が過ぎ、夜の散歩も日常となったある日、校庭をこっそり歩いている人影を見つけたのである。

 

気になって近付いてみると、そこには暴れ柳のほうをこっそりと窺う、メガネ、気取り屋、オドオドの三人が居たというわけだ。

 

私の呼びかけに驚いた様子の三人だったが、真っ先に立ち直ったメガネがフランに話しかけてくる。

 

「ス、スカーレット? お前こそ何をしてるんだ?」

 

「フランは散歩してるだけだもん。それより、ヨレヨレは? オマエらが三人のとこは初めて見たよ。」

 

「お前には関係ないだろう? 夜に出歩くのは校則違反だぞ。」

 

「フランは吸血鬼だからしょうがないって、ちゃんと許可を貰ってるもん! オマエらこそ校則違反だよ。先生を呼んできてやる!」

 

フランが城へと向かおうとすると、気取り屋が慌てたように止めてくる。

 

「待ってくれ! 頼む、スカーレット。見逃してくれないか? これはリーマスのためなんだ。」

 

「んぅ……ヨレヨレの?」

 

「そうだ。あいつは何か問題を抱えているらしくてな。本人は病気の母親がどうだとか言ってるけど、絶対に様子がおかしい。だから……それを確かめようと思って後をつけて来たとこなんだ。頼む、先生には言わないでくれ。」

 

うーむ、こいつらのことは嫌いだが、瞳にはヨレヨレへの気遣いが見える。友達のためにやってることなら……むうう、仕方ない。見逃してやることにしよう。

 

「ん……分かった。友達のためだって言うなら、見逃してやるよ。」

 

フランの言葉に、三人は安心したように息を吐く。ヨレヨレのことはちょっとだけ気になるが、フランの心配するようなことじゃないだろう。城に戻ろうとすると……暴れ柳の方から、微かに獣の声が聞こえてきた。

 

「ん? なんか、唸り声がする。」

 

「な、なんだよ、スカーレット。怖がらせる気か?」

 

「違うよ、本当だもん! 吸血鬼は人間より耳が良いんだよ。暴れ柳の方から聞こえてきたんだもん!」

 

メガネの非難するような声に反論すると、気取り屋が慌てて口を開いた。

 

「暴れ柳の方から? マズいぞ、あそこにはリーマスが入っていった!」

 

「入っていく? どこにさ。」

 

「暴れ柳の根元に扉があるんだよ! クソっ、助けに行くぞ! ジェームズ、ピーター!」

 

暴れ柳に走っていく気取り屋に続いて、メガネとオドオドが走り出すが……うん、ダメそうだ。暴れ柳の振り回す枝に阻まれて、全然近付けないらしい。

 

無視して城に戻ろうとも思ったが……まったく、世話のかかるヤツらだ。友達のためだと言うし、フランはお姉さんだから助けてやるか。

 

暴れ柳に近付いていくとフランにも枝が襲いかかってくるが、こんなもんどうにでもなる。適当に捌いて根元に近づくと、なるほど確かに扉があった。

 

「扉はここだよ。早く来なよ、三馬鹿。」

 

「何でそんなに平然と、くそっ、枝が邪魔で近付けないんだ! その辺に何かないのか? リーマスが通った時は大人しかったんだ!」

 

枝を避けながらメガネが叫んでくるが、そんなこと言われてもフランには分からない。能力でへし折ってやってもいいんだが、それはさすがに怒られそうだ。

 

「そんなこと言われてもわかんないもん! なんかヒントはないの?」

 

「リ、リーマスは、石を根元のどこかに当ててた! その辺に何か仕掛けがあるはずだよ。」

 

遠くからオドオドが教えてくる。というか、アイツだけ枝の範囲外でオドオドしている。実にグリフィンドールっぽくないやつだ。

 

とりあえず根元の辺りをぺちぺち叩きまくってみると……おお? 節の一つを叩いた瞬間、急に暴れ柳が大人しくなった。

 

「止まった、のか?」

 

「フランに感謝しなよ?」

 

「それはリーマスを助けた後だ!」

 

大人しくなった暴れ柳を見上げている気取り屋が感謝する前に、メガネが急いで扉の中へと入っていく。立ち直った気取り屋もそれに続き、オドオドも少し遅れて入っていった。つまり、フランは取り残されてしまった。……ありがとうくらい言えないのか。

 

ため息を一つ吐いて、フランも仕方なく扉の中へと進んでいく。ここまでやったなら最後まで付き合おう。

 

しばらく薄暗い通路を走っていくと、杖明かりと共に前の三人の背中が見えてきた。私に気付いたメガネが、振り返って話しかけてくる。

 

「おい、本当に聞こえたのか? この通路……すっごい長いぞ。」

 

「聞こえたもん!」

 

フランが反論した瞬間、応えるように通路の奥から獣の唸り声が響いてきた。これはさすがにこいつらにも聞こえただろう。杖明かりに照らされる三人の顔が途端に引きつったのが見える。

 

「おいおい、何の声だ? リーマス! いるなら返事してくれ!」

 

「行こう! 一本道なんだから、この先にいるはずだ!」

 

ヨレヨレを呼ぶ気取り屋に、メガネが応じて再び走り出す。フランも残りの二人に続いて走り始めた。

 

時折唸り声が響く通路をしばらく走っていると……ドア? のようなものが見えてくる。明らかに人工物だ。どうやら目的地に到着したらしい。

 

メガネにもそれが見えたらしく、声を潜めながら言葉を放ってきた。

 

「ドア? リーマスはあそこか? よし、杖を構えろ。明かりは……消しておこう。ノックス(消えよ)。」

 

メガネの合図で二人が杖を構える。フランも……いや、素手のほうがマシか。悲しいことだが、フランの呪文学の成績はお世辞にも優秀とは言えないのだ。

 

「開くぞ?」

 

杖を構えたままのメガネが恐る恐るドアを開く。目の前に広がるのは……どうやら、ボロボロの廃屋の一室らしい。広さはあるが、人が住めるとは思えない惨状だ。

 

「暗いな。明かりをつけるか?」

 

「いや、何がいるか分からないんだ。このまま行こう。」

 

メガネと気取り屋が小声で相談して、中へと入っていく。オドオドは情けないことにドアの前で立ち尽くしている。それを無視してフランも中に入った。

 

目を細めながら辺りを見回していたメガネだったが、何かを思いついたかのようにフランに話しかけてくる。

 

「全然見えないぞ。……そうだ、スカーレット、お前は見えるか?」

 

「見えるけど、どの部屋もボロボロなだけだよ。少なくともヨレヨレはここにはいないんじゃない?」

 

「わかった、奥へ進もう。何か見つけたら教えてくれ。」

 

「ん。」

 

メガネに返事を返してゆっくりと三人で歩き出す。そういえば、獣の声がピタリと止んだな。

 

そのことを二人に聞こうとした瞬間、頭上からいきなり影が襲いかかってきた。唸り声を上げながらメガネに襲いかかったそれを、グーパンチで殴りつける。うーん、イイ感じの手ごたえだ。影は犬みたいな悲鳴を上げて、部屋の隅へと吹っ飛んでいった。

 

「なっ、なんだ?」

 

「オマエが襲われそうだったから、フランが助けてやったのさ。ドン臭いなあ、まったく。」

 

びっくりした顔のメガネを放って、影の方へと歩き出す。そいつの姿を見てみると……うーん、犬? というか、犬人間? 奇妙な見た目の生き物だった。

 

杖を構えて警戒しながら、気取り屋がフランに声をかけてくる。

 

「スカーレット、その、そいつはノックアウトされてるのか? 暗くて見えないんだ。」

 

「ノビちゃってるよ。明かりをつければ? もう大丈夫でしょ。」

 

「ああ、分かった。ルーモス(光よ)。」

 

私の声に応じて気取り屋が明かりをつける。ゆっくりとこちらに歩いてくると、犬人間を見て驚いたように口を開いた。

 

「これは……ウェアウルフか?」

 

「うぇあ?」

 

「ウェアウルフ、狼人間だよ。何だってこんな所にいるんだ?」

 

狼だったのか。ううむ、まあ、犬と似たようなもんだろう。フランが考え込んでいると、メガネがおずおずと声をかけてきた。

 

「あー、スカーレット、その……さっきはありがとう。」

 

「別に。大したことじゃないよ。」

 

「いや、お前が……君がいなきゃ大変なことになってたよ。だからその、感謝してる。」

 

「……ん、分かった。」

 

うう、なんだかやり難い気分だ。フランとメガネが微妙な沈黙に包まれているのを、気取り屋の慌てた声が救い出した。

 

「そうだ、リーマスは? こいつに襲われたんじゃなのか?」

 

「そうだ! 探さないと!」

 

騒ぐ気取り屋とメガネを背に、狼人間の口元を確かめてみる。一応爪も確かめるが……大丈夫そうだ、血の匂いがしない。

 

「ん、大丈夫そうだよ。血の匂いがしないもん。」

 

「血の匂い?」

 

「フランは吸血鬼だよ? 血の匂いには敏感なんだ。」

 

「そ、そうなのか。まあ……良かった。リーマスは無事ってことだ。」

 

気取り屋がちょっと引いたように言う後ろから、オドオドがようやく合流する。話を聞いてはいたのか、ゆっくりと狼人間を指差すと自分の考えを話し始めた。

 

「あの、もしかして、こいつがリーマスなんじゃ?」

 

オドオドの言葉に全員の視線が狼人間へと集まる。こいつがヨレヨレ? まさか、本当に?

 

誰一人として言葉を発さない中、フランドール・スカーレットは毛むくじゃらの狼人間を、信じられないような気持ちで見つめていた。

 

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