Game of Vampire   作:のみみず@白月

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隠れ穴のクリスマス

 

 

「そうか、授業は楽しいか。それは良かった。……まあ、アレックスとコゼットの娘だものな。そりゃあそうだ。いつも居眠りしていた俺とは違うか。」

 

朗らかな笑みで語りかけてくるロバーズ局長へと、サクヤ・ヴェイユは愛想笑いで曖昧に頷いていた。同じように闇祓い局の局長だったスクリムジョール部長とか、ムーディさんとは全然違う雰囲気だな。普通に『話しやすいおじさん』って感じだ。ちょっと意外だぞ。

 

今日は十二月二十五日、つまりはみんな大好きなクリスマス。四人で隠れ穴を訪れた私たちは、ウィーズリー家主催のクリスマスパーティーに参加している真っ最中なのだ。家具が隅っこに片付けられたリビングルームは沢山の飾りで彩られており、予想以上の数の参加者たちが手に手にモリーさんの料理を持って談笑している。

 

「えっと、ロバーズ局長の噂も色々と聞いています。アリスの件、ありがとうございました。アリバイの証言とかもしてくれたみたいで。」

 

そんな中、闇祓い局の現局長さんに話しかけられてしまったわけだが……この人もやっぱりお父さんやお母さんの知り合いだったようで、会話の導入はいつも通りお母さんそっくりの顔とお父さんの瞳のことだったな。もちろん悪い気はしないものの、毎度お馴染みのふわふわした不思議な気分になるぞ。

 

私のお礼に対して、ロバーズ局長は大慌てで手を振りながら返事を寄越してきた。うーむ、部下の後ろでどっしり構えているタイプの人ではなさそうだ。愛嬌はあるけど、闇祓いって雰囲気じゃない。それなのに局長。どうにも掴めない人だな。

 

「いやいや、当然のことをしたまでだよ。マーガトロイドさんには随分とお世話になっているし、人としても闇祓いとしても証言をするのは当たり前さ。……しかし、本当に驚きだな。あの時お腹の中にいたのが君なのか。会ったばかりのおっさんにそんなことを言われても困るだろうけどね。」

 

「そんなことはありません。ちょっと照れ臭いですけど。」

 

「すまないね。君としては複雑なんだろうが、ご両親と一緒に働いていた私たちは……おっと、オグデンさん! サクヤちゃんですよ。一声かけてあげてください。」

 

オグデンさん? 話の途中でロバーズ局長が声を投げた方へと目をやってみると、奇妙な格好をした長身の男性の姿が見えてくる。スーツなのに長い革のブーツ。おまけに黒革のカウボーイハット。かなり特殊なファッションセンスだな。

 

初老手前くらいに見える糸目の男性は、呼びかけに応じてこちらに視線を向けると……どうしたんだ? ぽかんと大口を開けて私のことを見つめた後、そわそわと落ち着かない様子でスーツのジャケットのボタンを留めてから、非常にバツが悪そうな顔付きで近付いてきた。

 

「……どうも、ミス・ヴェイユ。アルフレッド・オグデンです。元闇祓い副長で、今はアズカバンの監獄長をしています。」

 

「サクヤ・ヴェイユです。よろしくお願いします。」

 

そして沈黙。やや気まずい空気を感じて私がどうしたらいいのかとロバーズ局長の方を見ると、彼も困惑しているような顔でおずおずと口を挟む。

 

「あーっと……どうしたんですか? オグデンさん。無口な貴方なんて初めて見ましたけど。口調もやけに丁寧ですし。」

 

「いやなに、僕のような不良中年にミス・ヴェイユが毒されてしまっては大変だろう? だから余計なことを喋らない方がいいと思ったのさ。」

 

初めて会った私でも無理していることが丸分かりな態度で戯けたオグデン監獄長は、そのまま私に何かを言おうと口を開きかけるが……結局は何も言わずに軽くお辞儀して足早に遠ざかって行った。まるで逃げ去るかのようにだ。

 

「……私、何か粗相をしちゃったんでしょうか?」

 

「いや、そうじゃないと思うよ。あの人はちょっと変わってるからね。気にしないでくれ。」

 

ポリポリと頭を掻きながらロバーズ局長が苦笑いを浮かべたところで、今度は顔見知りの一団が歩み寄ってくる。ポッター先輩とロン先輩、それにアーサーさんだ。

 

「やあ、ガウェイン。サクヤと話していたのかい?」

 

「ああ、アーサー。そうです。とても懐かしい気分になれましたよ。料理も美味しくいただいています。」

 

「それは良かった。……それでだね、こっちは息子のロナルドとその友人のハリー・ポッターだ。どちらも今年七年生で闇祓い志望だから、何かアドバイスを聞かせてもらえればと思ったんだよ。」

 

「それは良いですね。闇祓い志望は大歓迎ですよ。」

 

快活さを感じる笑みで先輩二人に向き直ったロバーズ局長へと、ポッター先輩とロン先輩はそれぞれ自己紹介を放つ。これも『就職活動』の一つってことか。大変だな。

 

「何度かお会いしてますけど、きちんと話すのは初めてですね。ハリー・ポッターです。」

 

「ロバーズだ。……まあ、君のことはもちろん知ってるよ。ダームストラング戦でのキャッチは見事だった。あの一瞬だけは警備を忘れて喜んでしまったからね。」

 

「ロン・ウィーズリーです。よろしくお願いします。」

 

「ノッポで、赤毛。間違いなくウィーズリー家の魔法使いだね。君の家はボーンズ家やヴェイユ家と並んで私が尊敬する家系の一つだ。よろしく頼む。」

 

ふむ、とりあえずは好印象っぽいな。二人としっかり握手したロバーズ局長は、続けて闇祓いについてを語り始めた。それを真剣な表情で聞く先輩たちを尻目に、するりと場を離れてリーゼお嬢様を探していると……ジニー? 笑顔のジニーが私の手を引いてくる。お嬢様のお世話をしないといけないのに。

 

「ジニー、どうしたの?」

 

「こっちこっち、面白いわよ。」

 

「面白い?」

 

何事かと進行方向に目を向けてみれば……何だあれは。テーブルの上にちょこんと座っている赤ちゃんが、キャッキャと笑いながら目まぐるしく姿を変えているのが見えてくる。ルーピン家の変身赤ちゃんだ。

 

「何あれ。」

 

「ね? 可愛いでしょ?」

 

「そりゃあ可愛いけど、どういう状況なの?」

 

「ドーラに合わせて変身してるのよ。」

 

言われてよく確認してみれば、母親であるニンファドーラさんが変身するのに合わせてテディも変身しているらしい。母が赤毛になれば赤毛に、黒髪になれば黒髪にといった具合に。七変化の英才教育だな。父親であるルーピン先生は苦笑しながらそれを眺めているようだ。

 

変身する度に周囲で見ている人たちが拍手するのが、子供ながらに何だか嬉しいのだろう。赤ちゃんはどんどんテンションを上げながら変身の速度までもを上げている。中々見応えのある母子の合わせ技を見物していると、視界の隅に椅子に座って談笑しているリーゼお嬢様とハーマイオニー先輩の姿が映った。

 

テディの可愛い姿も貴重だが、私にとって優先すべきは常にリーゼお嬢様だ。ぱちぱちと拍手しているジニーから離れてそちらに近付くと、私の接近に気付いたお嬢様が先に声をかけてくる。

 

「おや、咲夜。私のことはいいから楽しんでおいで。酌はハーマイオニーがしてくれてるよ。」

 

「リーゼのことは飲み過ぎない程度に見張っておくから大丈夫よ。」

 

「いえ、私も結構食べたり話したりしましたから。……モリーさんを手伝った方がいいですかね?」

 

「んー、今は行かない方がいいだろうね。デラクールが……じゃなくて、今はもうフラー・ウィーズリーか。彼女が手伝ってるみたいだから。ウィーズリー家の嫁姑問題を解決するためにも、少し二人っきりで作業させるべきだろうさ。」

 

あー、そういう状況になっているのか。若干不安な思いでキッチンの方をちらりと見てから、遠くのテーブルで何かゲームをしている魔理沙を眺めつつ空いている席に腰を下ろした。ビルさんとチャーリーさん、それにブラックさんも一緒だ。スニッチを使ったテーブルゲームをしているらしい。

 

「……賑やかですね。」

 

「だね。交じって騒ぐのも悪くないが、こうして見ているのも乙なもんだ。歳を取って得た知識の一つだよ。」

 

「お婆ちゃんみたいなことを言わないでよ、リーゼ。……パパとママ、大丈夫かしら? 双子に話しかけられてるみたいだけど。」

 

「私は止めに行くべきだと思うよ。見た限りじゃ何か手渡されてるみたいだぞ。マグルからすれば『刺激が強い』であろう何かを。」

 

お揃いのドラゴン革のジャケットを着た双子先輩を不安そうな顔で見つめていたハーマイオニー先輩は、リーゼお嬢様の助言に従って席を立ってそちらに歩いて行く。まあうん、私も間に入るべきだとは思うかな。どう見ても悪戯グッズを渡しているようだし。

 

ハーマイオニー先輩に代わってリーゼお嬢様のグラスにワインを注ぎつつ心配していると、お嬢様は天井のランプにグラスを翳してポツリと呟いた。光に照らされたワインの紅さをジッと観察しながらだ。

 

「実に平凡なパーティーだね。これを勝ち取るのにどれだけの苦労をしたことやら。」

 

「……割に合わないと思いますか?」

 

「これが不思議なことに、思わないんだよ。苦労に見合うものだと思ってしまうのさ。」

 

「それなら良かったです。主人の喜びはメイドの喜びですから。」

 

ふんすと鼻を鳴らしながら言ってみれば、リーゼお嬢様はくつくつと笑って応じてくる。今日のお嬢様は少しだけ大人っぽい雰囲気だな。お酒が入っているからだろうか?

 

「キミから見て、私は変わっているかい? つまり、昔の私と今の私は。」

 

「リーゼお嬢様がですか? ……分かりません。そこまで大きくは変わっていないと思います。私から見れば、ですけど。」

 

アリスはよくリーゼお嬢様が丸くなったと言うし、美鈴さんなんかはレミリアお嬢様が変わったと常々口にしていた。でも、私にとっては……そんなに変わっているとは思えないのだ。

 

パチュリー様が言うには、吸血鬼は人間よりも身内意識が強いらしい。ならば今のお嬢様方はその範囲を広げただけであって、本質的な部分は変わっていないんじゃないだろうか? 昔も今も身内以外には容赦がないはずだ。

 

とはいえ、私は私の物心が付く前のお嬢様方を当然知らない。記憶の中で見た妹様が今の妹様と大きく違っていたように、私の知らないお嬢様方が存在していた可能性も大いにあるだろう。

 

ううむ、それはちょっとヤだな。主人のことを全部知りたいと思ってしまうのは我儘なのだろうか? 思考を飛躍させている私に、リーゼお嬢様はゆったりと頷いて返答してくる。

 

「そうか、レミィやパチェとは意見が分かれたね。あいつらは私が変わったと思ってるらしいんだよ。……おや、プレゼント交換をやるみたいだぞ。行っておいで、咲夜。折角用意してきたんだろう?」

 

「お嬢様は行かないんですか?」

 

「んふふ、私は我儘で頑固だからね。きちんと自分に合わせたプレゼントが欲しいし、相手に合わせたプレゼントを贈りたいんだ。ランダムな交換なんてのは以ての外なのさ。キミの分も後で渡すよ。」

 

「えーっと……はい、楽しみにしておきます。」

 

我儘って言うのかな、それ。プレゼントの流儀を語ったリーゼお嬢様にお辞儀してから、ブラックさんが主導しているプレゼント交換会の会場へと進んで行く。その途中でちらりと振り返ってみれば、私と入れ替わりでお嬢様の隣の椅子に座っているアリスの姿が目に入った。挨拶回りは一段落したらしい。アリスも交換会には参加しないのかな?

 

まあ、アリスがこうやって自由にパーティーに参加できるようになって何よりだ。魔女の方はホグワーツに戻る私たちじゃ手助け出来ないだろうし、多分リーゼお嬢様とアリスが調査を進めていくのだろう。

 

ルーナのお父さんが持っているカラフルな蛍光色の箱。あれ以外だったら何でもいいなと参加者たちが持つプレゼントの箱を見回しつつ、サクヤ・ヴェイユは自分の用意したプレゼントを手に取るのだった。

 

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