Game of Vampire 作:のみみず@白月
「ネルソンが死んだ?」
ロンドンの一角にある不死鳥の騎士団の仮本部で、アリス・マーガトロイドは団員の訃報を耳にしていた。
「そんな、確かなのか?」
信じられないというように聞くフランク・ロングボトムに、ディーダラス・ディグルが怒りの表情で詳細を語る。
「自宅でズタズタに引き裂かれていたらしい。死喰い人のクソったれどもめ! 彼を拷問して殺したに違いない!」
「なんて酷いことを……。」
椅子に倒れこむように座ったフランクを見ながら、私もこめかみを押さえつける。ついに騎士団の中から死人が出てしまった。
一瞬でケリがつくと思われていたこの戦争は、残念なことに未だ勝負がつかないでいる。
それどころか状況は悪くなるばかりだ。日々リドルの手下どもが誰かを殺し、それに対抗するために魔法省はバーテミウス・クラウチの元で強引な捜査を進めている。
対して騎士団は後手後手に回らざるを得ない。なんたって人が足りないのだ。
あの結成以来、騎士団の団員は遅々とした速度で増えている。若きウィーズリー夫妻、ダンブルドア先生の弟であるアバーフォースさん、マーリン・マッキノンに、キャラドック・ディアボーン。
他にも何人か勧誘をしているようだが、現状ではこれで全員だ。未だ騎士団を名乗れるような人数じゃないし、死喰い人や魔法省の無能どもに対しては少なすぎる。
「それに……ブリックスとも連絡が取れないんだ。幾ら何でも長すぎる。もしかすると、もう……。」
ディーダラスの言葉で思考から覚める。今日はひどい知らせばかりのようだ。
更に沈み込んでしまったフランクを元気付けようとした瞬間、室内にけたたましく警報が鳴り響いた。どうやら警戒魔法が発動したらしい。
「襲撃だ!」
ディーダラスの声が部屋に響く。さすがに場慣れしている三人だけあって、アイコンタクトだけで考えを一致させた。ここは逃げるべきだ。この場所には守るべきものはない。居場所がバレたのであれば、拘る必要はないのだ。
「私が止めるわ。先に行きなさい。」
「危険です、マーガトロイドさん。」
「煙突飛行を追跡されるほうが危険よ。貴方たちが飛んだら、暖炉を壊すわ。大丈夫、私は私で移動手段があるから。」
止めるフランクに言い放ちながらも人形を取り出す。姿あらわしを妨害できるのは便利だが、こういう時は恨めしい。
「……わかりました。でも、ちゃんと逃げてくださいよ? 貴女に何かあったら、妻にひどく怒られる。」
「同じ名前の好かしら? 心配しなくても大丈夫よ、引き際は心得ているわ。」
頷いて暖炉に飛び込んだフランクを見ながら、残ったディーダラスに話しかける。
「ダンブルドア先生に伝えてね。ここは放棄しないと危険だわ。」
「ああ、心得た。気をつけろよ、マーガトロイド。」
ディーダラスの返事とともに、階下から騒々しい声が聞こえてくる。どうやら招かれざる客が上がってきたらしい。
「行きなさい! 奴らが来たわよ!」
「健闘を祈る!」
緑の炎と共に消えていったディーダラスを確認して、爆破魔法で暖炉を吹っ飛ばす。これで追跡はされないはずだ。
暖炉の破片が床に落ちる間も無く、室内にドタドタと死喰い人たちが入ってきた。おっと、見知った顔もあるようだ。別に嬉しくもなんともないが。
ボサボサ髪で黒尽くめの魔女が、不気味な笑みを浮かべながらこちらを見ている。悪名高き、ベラトリックス・レストレンジだ。既に何度かやり合ったことがある死喰い人の幹部で、あの時のテッサの怪我もこいつのせいらしい。
「おぉやぁ? 逃げ遅れたのかい? 人形使い。」
「あら、ごきげんよう、レストレンジ。ひょっとして……整形した? 醜い顔が貴女のご主人様そっくりよ?」
「強がりはやめな!」
言葉と共に放ってきた呪文を、盾を持たせた人形で防ぐ。他の子たちも周囲に浮かせて臨戦態勢を取らせた。
未だ完全な自律人形は完成させられていないが、半自律人形の質は上がり続けている。その中でも自信作であるこの七体の人形は、こちらの指示がなくともある程度自動で戦える、私の自慢の子たちなのだ。
「すぐに逃げようかとも思ったのだけど……どうしようかしら? 貴女が相手なら逃げる必要もないかもね。」
「ほざけ、人形使い! おまえたち、捕らえるんだよ! あの方のご命令だ!」
激昂したレストレンジに命じられた死喰い人たちが呪文を放ってくる。えーっと、五人ってとこか、防御に集中すればギリギリなんとかなるだろう。危なくなったらパチュリーの魔道具で逃げればいい。
しかし……捕らえろ、ね。リドルは未だ私の『方法』に興味があるのだろうか? まあ、リーゼ様やパチュリーを狙うよりかは賢い選択なのかもしれない。
何にせよ、余計なことを考えるのは後だ。無言呪文をイカれ女に撃ち込みつつ、ニヤリと笑って言い放つ。
「そう、それなら……ちょっとだけ付き合ってあげるわ!」
七体の人形たちに背中を預けながら、アリス・マーガトロイドは杖を振りかぶるのだった。
─────
「あにめぇがす?」
ホグワーツの空き部屋の一室で、フランドール・スカーレットは後ろにいつもの仲間を引き連れたジェームズにそう聞き返した。
去年の狼人間騒動から一年。共通の秘密を持った四人組とは、それまででは考えられないくらいに仲良くなった。
イジメてた子たちにはきちんと謝ったみたいだし、ジェームズやシリウスからはそれまでのような傲慢さが消えている気がする。聞いてみると、『大人になったのさ』なんて言ってた。フランにはよく分からん。
結局あの後、朝日が昇るまで待っていると、狼人間はリーマスの姿に戻っていった。彼は秘密を知られれば友人を失うと思っていたらしいが、ジェームズもシリウスもそんなことを気にしている様子はなかった。ピーターはまあ……ちょっとビビってたが。
むしろ二人は満月の夜に一緒にいるべきであると主張し、数週間の説得の末、リーマスにそのことを了承させたのだ。フランにもちょっと気持ちは分かる。独りぼっちで閉じ込められるのはつらいはずだ。
そしてフランが何故こんなに仲良くなっているかというと、リーマスのつけた条件が関係している。曰く、『僕を押さえられるような人と一緒なら』とのことだった。まあ……つまり、フランのことだ。
四人から必死に頼まれたフランは、友達のためだということで仕方なく了承し、月に一度は理性を失ったリーマスをノックアウトする生活が始まったというわけである。
しかしジェームズはそんなフランを不憫に思ったのか……もしくはノックアウトされるリーマスを不憫に思ったのかもしれないが。とにかく、フラン以外の手段も用意すべきだと、去年の暮れから調べものをしていたのだ。
そんなジェームズが遂に見つけ出した方法こそが、『アニメーガス』なのだそうだ。ふむ……なんだそりゃ。
フランの疑問に、興奮した様子のジェームズが説明してくる。
「アニメーガス、動物もどきだよ! 自分を動物に変える魔法さ!」
意味が全くわからない。そんなフランを見て、捲したてるジェームズの隣にいるシリウスが苦笑しながら補足してくれた。
「大型の動物に変身できれば、リーマスが変身しても押さえられるだろう? それに、多分人間がいると興奮しちゃうんだよ。フランドールと二人の時は大人しかったじゃないか。」
「大人しいって言うか、怖がってる感じだったけど……。」
呟いたピーターを睨みつけつつ、なるほどそれなら何とかなりそうだと納得する。でっかいクマとかになれれば、狼人間なんか怖くないだろう。
「ふぅん。いいんじゃない? さっさと覚えちゃいなよ。」
フランの提案に、四人ともがなんとも言えない顔をした。なんだ? フランは至極真っ当なことを言ったはずだが。
顔を見合わせた四人の中から、代表してジェームズが話し出す。
「あー、それがね、滅茶苦茶難しいんだよ。大人の魔法使いでも使えるのは数人しかいないくらいなんだ。」
「ダメじゃん!」
「いや、諦めるのはまだ早い。ホグワーツの図書館にアニメーガスの詳しい本があるらしくて、それを見てからでも遅くはないと思ったんだが……。」
「どうせエツランキンシなんでしょ。あそこの本は全部そうだもん。」
「その通りだ、フランドール。」
ジェームズの横から、完全同意と言わんばかりにシリウスが割り込んだ。
あの図書館は利用者に本を読ませる気なんてないのだ。フランが面白そうだと思った本は、軒並みエツランキンシなのだから。人間の皮で出来た本なんてとっても面白そうなのに。
「じゃあ、やっぱりダメじゃんか。」
フランがつまらなさそうに言うのを聞いたジェームズが、ニヤリと笑って背後に隠していた何かを突き出してきた。
「そこで……これさ!」
ジェームズが持っているのは……布? サラサラと重さを感じさせない銀色の布だ。まあ、とっても綺麗ではあるけど、この布が何だというんだ。
「布なんか何に使うの?」
「まあ見てろよ、フランドール。こうして……どうだ、凄いだろう?」
フランの疑問を聞いたジェームズが、布を身体に巻き付けると……おおぉ、巻き付けたとこだけ透明になった。リーゼお姉様の能力みたいだ。
首だけになったジェームズが、得意げに計画を説明してくる。ううむ、こういう妖怪を図鑑で見たことがある気がする。
「透明マントっていうんだ。これを使って閲覧禁止の棚に忍び込むのさ! 口煩い司書だって、さすがに見破れやしないだろう。」
その横からシリウス、リーマス、ピーターの順で口々に補足を入れてきた。
「俺、ジェームズ、フランドールが透明マントで侵入するのさ。この三人なら余裕でマントに収まるはずだ。」
「一応、僕とピーターが外で騒ぎを起こす予定だよ。マントがあれば充分だとは思うが、念には念をって言うだろう?」
「その為に悪戯グッズをたくさん用意したんだよ。爆発花火とか、投げると増えるかんしゃく玉とか、そういう気を引けそうなやつ。」
輝く笑みを浮かべている四人だったが……むぅ、これは言わないほうがいいだろうか? しかし、無駄な労力をかけるよりはマシだろう。うーん……言おう。意を決してフランの反応を待つ四人に向かって口を開いた。
「あのね、すっごい計画だとは思うんだけど……その本、多分私のお友達が持ってるよ。」
パチュリーなら絶対に持っているだろう。残念ながら、フランには彼女が持っていない本など想像できない。
フランの言葉にあんぐりと口を開ける四人を見ながら、フランドール・スカーレットは顔に覚えたての苦笑を浮かべるのだった。