Game of Vampire   作:のみみず@白月

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画伯の弟子

 

 

「わぁ……可愛いですね。予想外です。」

 

一見すると蛇にも見えるけど、ちゃんと立派な翼があるな。頭部も鳥そのものだ。ガラス製のケージの中でとぐろを巻いている『オカミー』を観察しながら、サクヤ・ヴェイユは鉛筆とスケッチブックを取り出していた。

 

一月も終盤に差し掛かった火曜日の午後。現在の私たちは外が寒いからという理由で教室で行われることになった、魔法生物飼育学の授業を受けている真っ最中だ。ハグリッド先生がやたら楽しそうに『今日の生き物は面白いぞ』と言っていたので、そういう時は『ヤバい』魔法生物が出てくることを経験則として知っている五年生は戦々恐々としていたわけだが……空き教室の中には巨大なガラスケージと、その中で大人しくしている美しい『蛇鳥』が待っていたのである。

 

深い青の細かい鱗に覆われた長い胴体と、その真ん中あたりから生えている一対の翼。灰色の皮膜が紫色の羽毛で包まれているそれをリーゼお嬢様はどう評価するのだろうかと考えている私に、ハグリッド先生が満面の笑みで応じてきた。『予想外です』の部分は気にしないことにしたらしい。

 

「どうだ、美しいだろう? 観察する時はケージに触れちゃならんぞ。卵を抱えとるから。基本的には大人しい生き物なんだが、卵を守っとる時はちょいと神経質になるんだ。」

 

「卵? ……あー、あれか。銀色だな。」

 

「見た目は硬そうだが、触ってみると柔らかいぞ。子供が卵から出た後は純銀と同じ硬さになるがな。オカミーの卵の殻と純銀の違いを見分けられるのは、この広い魔法界でも小鬼たちだけだ。殻は魔法薬の材料にもなるはずだから、気になるもんはブッチャー先生に詳しく聞いてみるといい。」

 

背伸びして覗き込んでいる魔理沙の質問に答えた後、ハグリッド先生はケージの周囲を歩きながらオカミーについての詳しい説明を始める。

 

「オカミーの最大の特徴は、身体の大きさを自在に変えられるっちゅう点だ。今はケージに合わせて三メートルくらいの体長になっとるが、外に出せばもっと大きくなる。もちろん逆に手のひらに収まる程度の小ささになることも可能だぞ。ちなみに大きさの限界は今でも明らかになっとらん。五、六メートルが限界だと言っちょる研究者が多いものの、俺は若い頃のフィールドワーク中に二十メートル近い個体を見たことがあるからな。近寄った直後に吹っ飛ばされちまったからきちんと観察できんかったが。」

 

『基本的には大人しい』んじゃなかったのか? 体長二十メートルのオカミーに吹っ飛ばされるというのはあまり良い経験ではないように思えるが、ハグリッド先生にとっては必ずしもそうではないようだ。懐かしむような口調で解説の続きを口にした。

 

「今思い返せば、あの個体は鱗に濃いグリーンが交じっとったな。もしかしたら大きさと関係してるのかもしれん。本当に美しい個体だった。……生息地はインドや東アジアの密林で、五頭から十頭くらいの小さな群れを形成して生活しとる。群れの構成は雄よりも雌の方が多く、雄一頭に対して雌三頭ほどのグループを作ることが殆どだ。」

 

「複数の雄が一つの群れに所属しているということでしょうか? 争ったりしないんですか?」

 

「いい質問だ、ベーコン。オカミーは同種で争うことを滅多にせん。傷付いた雄を他の雄が守ろうとすることもあるくらいだ。群れが大きくなると自然と二つの集団に分かれ、小さくなれば他の群れと合流する。生存戦略として身内では争わなくなった賢い生き物っちゅうこったな。」

 

ふむ、確かに顔付きは賢そうだな。スケッチしながら話を聞いていると、オカミーの黄色い瞳がちらりとこちらに向けられた。猛禽類に似た鋭い瞳だ。ちょっとカッコいいと思ってしまう私は子供なんだろうか?

 

「小さい身体の時は主に虫を食うが、大きくなると動物を狙うようになる。獲物が少ない時期は小さくなることで必要な食料の量を減らし、豊かな時期は身体を大きくして成長のために栄養豊富な獲物を狙うっちゅうこった。特に栄養が必要な繁殖期は猿や子鹿、羊なんかも狙うな。時折果物の汁を舐めることも確認されとる。何らかの栄養素を摂取しとるのかもしれん。……おっと、注目! オカミーが卵を動かすぞ。ああやって一時間に一回のペースで卵を回転させるんだ。隠れとった脚が見えるからよく観察するように。」

 

ハグリッド先生の注意に従って顔を上げてみれば、オカミーがするすると蛇のような身体を動かして二つある銀色の卵を回転させているのが目に入ってくる。脚は……あれか、小さいな。地上を動く姿は完全に蛇だし、退化してしまったのかもしれない。

 

スケッチのために見逃すまいと脚を観察していると、今度は魔理沙がハグリッド先生に質問を投げた。

 

「飛ぶんだよな? こいつ。」

 

「滑るように飛ぶぞ。見せてやりたいのは山々だが、卵を守っとるうちは飛ばんだろう。そもそも頻繁に飛ぶ生き物でもないしな。基本的には陸棲で、巣は木の洞や地面の穴の中に作る。よく見る鳥の巣と似た見た目だ。今卵が置いてあるのは俺が作った仮の巣だから当てにしないように。イギリスは寒いから、ちっとばかし手を加えさせてもらった。」

 

「食べ物は丸呑みするんですか?」

 

「獲物によるな。虫やネズミなんかはそのまま呑んじまうが、大きめの生き物になると嘴で絶命させてから呑み込むことが多い。腹の中で抵抗されるのを防ぐためかもしれん。蛇みたいに絞め殺すっちゅう光景はあまり見たことがないから、長い胴体は鞭みたいに打ち付けることに使うんだろう。それで弱らせて鋭い嘴でひと突きってこった。」

 

魔理沙に続いたハッフルパフ生の問いに回答したハグリッド先生は、動かし終えた卵を再びとぐろの中に隠したオカミーを横目に説明を締める。少しだけ悲しそうな表情でだ。

 

「こいつらも他の魔法薬の素材を生み出す魔法生物同様、昔から密猟の被害に遭っとる生き物だ。小さい状態ならコップの中にだって隠せちまうからな。違法に捕獲したバカどもがそうやって運び出しちまうと取り締まりが難しい。お前さんたちがもし魔法生物に関わる仕事に就いた時は、こいつらが安全に暮らせるように手助けしてやってくれ。」

 

───

 

「良い授業だったわね。今学期では一番の内容だったわ。この前やったサラマンダーも可愛かったけど、あの時は生徒の半分が火傷しちゃったし。」

 

そして飼育学の授業後。完成させたスケッチを見ながら一階の廊下を進む私へと、魔理沙が微妙な顔付きで応じてきた。視線を私の描いたスケッチに固定しながらだ。……ハグリッド先生に確認してもらった時の反応からするに、今回の飼育学はかなり高い評価をもらえたはず。これでまた『貯金』が増えたな。

 

「あのよ、怒らないで聞いてくれよ? 友人として指摘させてもらうが……お前さ、絵が下手だよな。別に悪いことじゃないけどよ。」

 

「……そんなことないでしょ。上手く描けてるわ。ハグリッド先生だって褒めてくれたじゃないの。」

 

「いや、下手だぞ。断言してもいいほどに下手だ。ハグリッドはお前が何を描こうが褒めるだろ。参考にならんぜ。」

 

「あのね、私は妹様から絵を習ったの。だから下手なはずがないのよ。貴女の感性の方がおかしいんでしょ。」

 

急に失礼なことを言い出すヤツだな。心外だと声色に表しながら言ってやれば、魔理沙は実に無礼な表現で私のスケッチを評価してくる。

 

「ならよ、お前の描いたオカミーを素直に評価するぞ。怒るなよ? ……『人面ムカデ』だ。何でこんなに足が沢山あるのか教えてくれ。」

 

「足じゃないわよ。身体の上の方にちょこちょこ羽毛が生えてたでしょう? それを描いてるの。見たら分かるでしょうが。」

 

「いやお前、これは……よう、ベーコン! こっち来いよ! ちょっと意見を聞かせてくれ!」

 

会話の途中で廊下の先に呼びかけた魔理沙は、振り返って歩み寄ってきたベーコンに私のスケッチを見せるが……ふん、これで証明されるな。私のスケッチが如何に精緻な物なのかが。

 

「何?」

 

「これを見てくれよ。咲夜のスケッチだ。……下手だろ? 遠慮せずに言ってくれていいぞ。」

 

「うっ。」

 

『うっ』? ベーコンは私のスケッチを目にした途端にひくりと口の端を痙攣させると、顔を上げて魔理沙を見て、私を見て、またスケッチを見た後に感想を述べてくる。

 

「……特徴的ね。凄く特徴的。」

 

「そういうのはいいからよ、下手か上手いかで言ってやってくれ。これを下手と評価して私のセンスがおかしいと言われるのは我慢ならんぜ。正しい感性を咲夜に突き付けてやってくれよ。」

 

「ベーコン、上手いでしょう? 誰が見たってオカミーだって分かるわよね? 魔理沙の変な意見に流されないで頂戴。普通に評価してくれればいいの。」

 

「へ? いやあの……わたっ、私は──」

 

詰め寄る私たちを前に何故か汗をかき始めたベーコンは、キョロキョロと助けを求めるように周囲を見回した後、無人の廊下の曲がり角へといきなり大声を放った。顔が赤いし、瞳孔も変だぞ。どうしちゃったんだ。

 

「あ、先輩! 悪いけど私、先輩に用事があるの。レイブンクロー寮の用事で……レイブンクロー生だから。レイブンクローのあれってこと。つまりほら、私は監督生だから! だからごめんなさいね、それじゃ!」

 

「えぇ……誰も居ないわよね? 誰か通った?」

 

「通ってないぞ。……あいつ、大丈夫か? 変な魔法薬とか飲んでないよな?」

 

汗びっしょりになって瞳孔を開かせながら物凄い早口で私たちに断ったベーコンは、世界大会の優勝が懸かった陸上選手並みの全力ダッシュで曲がり角へと消えて行く。ちょっと不気味な展開にスケッチのことなど忘れて魔理沙と顔を見合わせた後、二人して微妙な表情を浮かべつつ教室移動を再開した。

 

「前から思ってたんだけど、レイブンクローって変わった子が多いわよね。」

 

「アリスとかノーレッジの出身寮なんだぜ? そりゃそうだろ。まともなのはハッフルパフだけさ。」

 

「そこでグリフィンドールを入れないあたりは公正で評価できるわ。」

 

確かにハッフルパフ出身の妹様は、紅魔館の住人の中で頭一つ抜けて『まとも』な方だったな。昔はちょっとおかしかったのだと本人は苦笑しながら語っていたが、一番常識的な吸血鬼は誰かと聞かれれば妹様一択だろう。穏やかで大人っぽいし。

 

つまり、ハッフルパフこそがホグワーツの『常識面』を一手に担ってくれているありがたい寮なわけだ。つくづく苦労人たちが集まる寮だな。私のお母さんも色々と苦労したのかもしれない。

 

常識人たちが集う黄色い寮への評価を少しだけ上げながら、サクヤ・ヴェイユはホグワーツの非常識な階段を上っていくのだった。

 

 

─────

 

 

「うおぉ……この号ってまだ売ってるか? 記念に買っておきたいぜ。」

 

これは心の底から嬉しいな。国際的なクィディッチ雑誌の七大魔法学校対抗トーナメントについての特集記事を見て、霧雨魔理沙は朝食そっちのけで顔を綻ばせていた。ナショナルチームの有名選手や、各国独立リーグの選手たち。今まで写真越しに憧れることしか出来なかった著名な選手たちが、私たちのプレーを評価してくれているのだ。

 

二月六日の朝食時。わざわざグリフィンドールのテーブルまで来てくれたレイブンクローのミルウッドが、定期購読している雑誌にクィディッチトーナメントに関するインタビュー記事が載っていることを教えてくれたのである。……おいおい、ビゴンビル・ボンバーズのチェイサーに名指しで褒められてるぞ。『マリサ・キリサメはホグワーツの攻めの起点だ』って。

 

ヨーロッパリーグの中でも強豪チームの選手から褒められてテンションを上げている私に、ミルウッドが少し顔を赤くしながら応じてきた。こいつも興奮しているらしい。

 

「まだまだ買えるよ。届いたばかりの今月号だからね。レイブンクローの談話室で見せたら、ロイド先輩も大喜びだったんだ。」

 

「そりゃあ喜ぶぜ。……おいハリー、見ろよ! お前の名前も載ってるぞ! アレシアも来い!」

 

ブルガリアのチームであるヴラトサ・ヴァルチャーズで活動している、懐かしきビクトール・クラムのインタビューも載ってるな。『母校であるダームストラングが敗北したのは残念だが、ホグワーツにはそれだけの力があったと認めざるを得ない。ワガドゥはホグワーツのシーカーを侮ると痛い目に遭うだろう。僕の視点から見ても、ハリー・ポッターは警戒に値するプレーヤーだ。』だとよ。高評価じゃんか。

 

あまりにもハイテンションな私を見て事の重大さを認識したのだろう。呼びかけを受けたハリーは反対側に回り込む時間も惜しいといった様子で、長机を乗り越えて雑誌を確認し始める。アレシアもきょとんとした表情で近付いてくる中、自寮の最上級生が食卓を乗り越えるのを目撃した寮監どのが駆け寄ってきた。

 

「ポッター、朝っぱらから何をしているんですか! 七年生としての自覚が──」

 

「だけどフーチ先生、緊急事態なんです! プロのプレーヤーのインタビュー記事が雑誌に載ってるんですよ! ホグワーツチームについてのインタビュー記事が、沢山!」

 

「なんですって?」

 

注意する時よりも遥かに慌てた顔で駆け寄るスピードを上げたフーチは、集まってきた他の生徒を押し退けて雑誌を覗き込む。そこにホグワーツ代表に関する記事が並んでいることを確認すると、こうしちゃいられないとばかりに教員テーブルのマクゴナガルに対して大声を放った。

 

「ミネルバ、煙突飛行を使わせてください! 私は今すぐダイアゴン横丁に行って雑誌を買い占めてくる必要があります! 今すぐです!」

 

「落ち着きなさい、ロランダ。寮監としての注意が先ですし、何よりまだ書店は開いていないでしょう。」

 

「注意など些事です! 今のクィディッチ界を牽引する国際的な選手たちが、我が校の生徒を評価しているんですよ? 落ち着いてなどいられません! 校費で雑誌を買って配布すべきです!」

 

我を忘れて興奮しているフーチの騒ぎっぷりに、他寮の生徒たちも何が起こっているのかを把握し始めたようだ。雑誌を定期購読している者は居ないかと席を立って探し回ったり、定期購読しているものの寮に置きっ放しだった生徒が大慌てで大広間から飛び出ていく。

 

まあうん、それだけの騒ぎになって然るべきだろう。何より嬉しいのは雲の上のスーパースターたちもクィディッチトーナメントには注目しているって点だな。インタビュー記事からは『高が学生の試合』と侮っている雰囲気など微塵も感じられないし、各校の選手たちを次世代のプレーヤーとして対等に評価してくれているのは明白だ。これは練習の活力になるぞ。

 

「見なよ、アレシア! サンデララ・サンダラーズのインタビューにアレシアの名前が出てるよ! 知ってるでしょ? オーストラリア代表の『壊し屋ジョリー』が居るチームだ! ……あれ? アレシアは?」

 

「あーっと、人混みでぺしゃんこになってるな。うちのビーターを通してやってくれ、みんな。ジョリーの進路妨害をしたヤツみたいに頭をかち割られたくはないだろ?」

 

クィディッチ史ではもはや伝説になっている、サンデララ・サンダラーズ対ウロンゴング・ワリヤーズの一戦でジョリーがやらかした大反則。それを例に出しつつ、ハリーと二人がかりでうちの小さな『攻撃担当』を人混みの中から救い出すのだった。この分だと落ち着いて読めるのはもう少し先になりそうだな。

 

───

 

「やっぱりホグワーツだとハリーとアレシアが注目されてるわね。ワガドゥも予想通りキャプテンのキーパーが注目株みたい。イルヴァーモーニーのシーカーも評価が高いわ。……あとはまあ、マホウトコロのエースチェイサーも当然のように高評価よ。ここだけは意外でも何でもないけど。」

 

そしてソワソワして何も手に付かなかった午前中の授業を終え、昼休みの練習時間。予定を変えて空き教室でミーティングをしている私たち代表チームは、スーザンの発言に揃って頷いていた。とどのつまり、インタビュー記事はプロの選手たちの『戦力評価』だ。下手な評論家よりも遥かに鋭い意見を述べているはずだし、トーナメントを勝ち上がるためには参考にすべきだろう。

 

それぞれ一冊を……開店直後にフーチが書店で購入してきてくれた雑誌を手にする代表選手たちの中から、続いて冷静な声色の分析が放たれる。ドラコの声だ。

 

「さすがはプロプレーヤーだけあって、我々の作戦を完璧に見抜いているな。ハイデルベルグ・ハリヤーズのキャプテンのインタビューを読んでみろ。三十二ページだ。」

 

「……あー、これは見事だね。『ホグワーツの選手たちはチェイサー・ビーター陣を攻守に均等に振り分け、臨機応変な動きを可能にしている。恐らく序盤で相手の動きを観察し、中盤から有利な状況を作ろうとしているのだろう。アローヘッドフォーメーションを基礎にした攻めの形と、ハンマーダウンフォーメーションを基礎にした守りの形。相手の出方次第でそれらを使い分けられる優秀なチームだ。』だってさ。高評価だけど、作戦はバレちゃったみたい。」

 

「一戦観ただけで基礎フォーメーションによく気付けるもんだな。結構崩してると思ったんだが。」

 

フォーメーションはジャンケンと一緒だ。だから基礎にしている形を見抜かれると辛いものがあるのだが……うーむ、言い当てられちゃってるな。苦笑いで読み上げたハリーに応じてみると、今度はシーザーが別の記事を口に出した。

 

「パトンガ・プラウドスティックスは完全にワガドゥ寄りの記事を出してますね。『ホグワーツはバランスの良いチームだが、それは同時に付け入る隙が多いことを示している。スニッチを考慮に入れずにチェイサーの得点で攻め切るか、シーカーに期待してひたすら守り切るのが最も有効な戦い方だろう。ワガドゥのチェイサーたちは攻めに徹するべきだ。ノーガードの殴り合いになればキーパーで勝るワガドゥが負けることはない。』だそうです。アフリカのチームですし、そりゃあワガドゥに勝って欲しいんでしょうけど。」

 

「言ってくれるじゃないの。キーパー戦がお望みなら受けて立つわ。後悔させてやるわよ。」

 

おお、気合が入っているな。獰猛な笑みで鼻を鳴らすスーザンが呟いたところで、ギデオンが取り成すように口を開く。

 

「だが、ホグワーツ寄りの記事も多いぞ。ゴロドク・ガーゴイルズのキャプテンはホグワーツを絶賛してる。『ホグワーツの強みは完成された連携だ。各プレーヤーの長所をそのままにしながら、あくまでチームとして動いている。ホグワーツとワガドゥなら間違いなくホグワーツだね。チェイサーとキーパーは互角、ビーターとシーカーはホグワーツが上。ならば勝つのはホグワーツさ。マホウトコロとの決勝戦が楽しみだよ。』ってな。」

 

「……えっと、ワガドゥ戦にはチーム全員で観戦に行くつもりだとも書いてありますね。」

 

「マジかよ。サイン貰えないかな? 私、シャーンのファンなんだが。」

 

アレシアの補足を受けて尊敬するガーゴイルズの女性チェイサーの名前を出してみれば、ドラコがやれやれと首を振りながら話を戻してきた。何だよ、お前だってプロのサインは欲しいはずだぞ。クラムが来た時に書いてもらってたのを知ってるんだからな。

 

「重要なのはこれでホグワーツ、ワガドゥ、イルヴァーモーニーの情報が増え、マホウトコロが更に有利になったという点だ。勝ち上がってくるのがマホウトコロになれば、決勝戦はかなり厳しくなるぞ。」

 

「おまけに今回は観戦にも行けないからね。」

 

まあ、そこも厄介な点だな。準決勝は同じ週の土日でそれぞれ一試合ずつなので、私たちが北アメリカに行くわけにもいかないのだ。ちなみにイルヴァーモーニーの領内ではホグワーツやワガドゥと同じくマグル製品が使えない。よってびでおかめらも使用不可となる。

 

ハリーが疲れたように額を押さえるのに、ドラコもまた悩んでいる様子でとりあえずの結論を場に投げた。

 

「志願者数名が偵察に行く予定だから、それに期待する他ないな。今はワガドゥ戦に集中しよう。……今日の夕方から新フォーメーションの練習比率を高めるぞ。透けている手札を使い続けるわけにはいかない。あと半月で何とかものにするんだ。」

 

それしかないな。結局は練習、練習、練習なのだ。地道に積み上げた努力は決して裏切らない。魅魔様も、ノーレッジも、ダンブルドアもそのことを認めていた以上、きっとそれこそが勝つための秘訣なのだろう。

 

最低でも努力だけはワガドゥの上を行ってみせようと決意しつつ、霧雨魔理沙は自分の名前が載っている部分を切り取って保管しようと雑誌に折り目をつけるのだった。

 


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