Game of Vampire   作:のみみず@白月

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大魔女からの課題

 

 

「……んん?」

 

曇天の下で人形店のポストを覗き込んでいたサクヤ・ヴェイユは、中から取り出した一通の手紙を見て小首を傾げていた。差出人の名も、宛名も無いな。封筒自体も白い一般的な品だし、唯一の特徴といえば封蝋に可愛らしい猫のシーリングスタンプが押されていることくらいだ。誰から誰に向けての手紙なんだろう?

 

ホグワーツへの帰還が五日後に迫り、魔理沙がようやく宿題の未完了っぷりに焦りを見せ始めた八月二十七日の早朝。エマさんがキッチンで朝ご飯を作ってくれている間に、店の外を掃除しようと思って布巾とバケツと箒を……『掃除用の箒』を持って表に出てきたのだ。ショーウィンドウを綺麗に拭いて、前の通りを軽く掃き掃除して、最後にポストに取り掛かったところで手紙を見つけたのである。

 

これはポストだ。だから手紙が入っていること自体は珍しくもなんともないが、差出人も宛名も書かれていない手紙は高頻度で届く物じゃないはず。怪訝に感じながらも手紙をポケットに仕舞って、布巾を入れたバケツと箒を両手に持って店内へと戻った。何にせよこの家のポストに収まっていたのだから、この家に届いた手紙だと判断すべきだろう。

 

今日はエマさんのお菓子を出す日だし、朝食を食べた後でガラスケースも掃除しようと心のメモ帳に書き込みつつ、階段を上がって到着したリビングでお皿を並べていたエマさんに声をかける。

 

「エマさん、ポストに手紙が入ってました。」

 

「あれ、今朝はふくろうから直接受け取ったんですけどね。誰宛てですか?」

 

「それが、何も書いてないんです。」

 

本日の朝ご飯はサンドイッチか。きちんとトーストされたパンにベーコンやレタス、トマトなんかが挟んであり、隣にはスクランブルエッグやチップスも添えられているようだ。ターキーを挟んでいるのもあるし、BLTサンドというよりはクラブハウスサンド風なのかな?

 

ううむ、美味しそうだ。サンドイッチという簡単なメニューでも一切手を抜かないエマさんの手並みに唸りながら、ダイニングテーブルに手紙を置いて返答してみると、我が目標である熟練メイドさんは困ったように応答してきた。

 

「本当ですねぇ、真っ白です。……お嬢様かアリスちゃんに確認してもらいましょうか。誰宛てか分からない以上、私たちが勝手に開けちゃうわけにはいきませんし。」

 

「じゃあ、私は料理が冷めないうちに魔理沙を起こしてきます。」

 

「ついでにアリスちゃんも呼んできてください。多分起きてるはずですから。」

 

「分かりました。」

 

廊下を進んでアリスの部屋をノックして朝食が出来たことを伝えた後、魔理沙と二人で使っている部屋に入ってベッドの上のねぼすけ魔女見習いを揺り起こす。何とも幸せそうな寝顔だ。宿題の夢は見ずに済んだらしい。

 

「魔理沙、起きて。朝よ。」

 

「……ぁ、え?」

 

「朝だってば。起きなさい。」

 

「……ん、おはよ。朝ご飯は何だ?」

 

目が覚めて最初に出てくるのがその質問か。とことん幸せなヤツだなと苦笑してから、廊下に戻りつつ返事を投げた。

 

「今日はサンドイッチよ。いつにも増して美味しそうだったから、冷める前に食べた方が良いと思うけど。」

 

「おし、サンドイッチか。今行くぜ。」

 

ふむ、起きた直後に即食べられるというのはちょびっとだけ羨ましいな。私だったら少し時間を置かないと食べる気になれないぞ。もそもそとベッドから出ようとしている魔理沙を尻目にドアを抜けて、再び良い匂いが漂うリビングルームに入室してみると、既にダイニングテーブルに着いていたアリスの姿が目に入ってくる。ちなみにリーゼ様はまだ眠っているはずだ。エマさんが起こそうとしていないということは、この時間に起こすべきではないのだろう。

 

「魔理沙は素直に起きた?」

 

「うん、サンドイッチで釣ったからすぐ来ると思う。……また徹夜で人形を作ってたの?」

 

「徹夜と言えば徹夜だけど、私たちは本来寝る必要がない種族だからね。そうおかしなことでもないわ。新しい関節の構造についてを思い付いたから、色々試してたら朝になってたの。」

 

「その言い方、パチュリー様みたいだよ。」

 

まあ、パチュリー様の場合は気付いたら朝になってたどころではなく、『いつの間にか数日経っていた』というパターンの方が多かったが。蔵書の整理を始めた結果、その途中で整理すべき本を読むのに夢中になった挙句、本棚単位で延々読み返すことになるという彼女特有の『無限読書状態』。そうなってしまうと誰かが止めるまでひたすら本を読み続けるから、毎回毎回小悪魔さんが『救出』のために広い図書館を探し回ってたっけ。

 

紅魔館ではお馴染みになっていた現象を思い出しながら言った私に、アリスがクスクス微笑んで応じてきた。

 

「私も魔女らしくなってきたってことかしらね。……これは何? 手紙?」

 

「ん、それはポストに入ってた謎の手紙だよ。宛名も差出人も書いてないんだけど、アリスは心当たりある?」

 

テーブルに置いたままだった手紙を手に取ったアリスへと問いかけながら、キッチンに移動して紅茶の準備を始める。そのままエマさんと二人で朝食の用意の仕上げをしていると、手紙の観察を終えたアリスが部屋に入ってきた魔理沙に挨拶しつつ回答してきた。

 

「おはよう、魔理沙。……この封蝋の猫、どこかで見たことがある気がするわ。」

 

「アリス宛てってこと?」

 

「それは分からないけど、見覚えがあるのは確かよ。でも、具体的にどこで──」

 

「それ、見せてくれ!」

 

おおう、びっくりしたぞ。一瞬前まで眠そうにしていたのに、急に元気になったな。私と会話していたアリスから勢いよく封筒をひったくった魔理沙は、封蝋をジッと見つめながら目を見開いている。そんな彼女を前にして、アリスは得心が行ったような表情で口を開いた。

 

「そうだわ、香港自治区の一件の時に見たんだった。あの時コインに刻まれていた自治区の紋章の中に、この猫の姿もあったのよ。……つまり、魅魔さんからの手紙なのね?」

 

「……多分そうだ。開けてもいいか?」

 

「いいんじゃないかしら。貴女が最初に送り主に気付いたってことは、それは貴女宛ての手紙なんだと思うわよ。」

 

アリスの理屈は普通なら意味不明だが、大魔女たる魅魔さんが差出人なのであれば納得できてしまうな。緊張している様子の魔理沙がそっと封を開けるのを見守っていると、中から一枚の便箋を取り出した彼女は……良くないことが書かれていたのか? 目を通した途端に顔を曇らせてしまう。

 

「なんて書いてあったの?」

 

我慢できずに疑問を飛ばした私に対して、魔理沙は至極微妙な顔付きで便箋を突き出してくる。読んでみろということか。覗き込んできたアリスやエマさんと一緒に文面を確認してみると──

 

『最上の評価を二つも取り零すとはどういうことだ、バカ弟子。罰として追加の課題を与えさせてもらう。大昔に私が面倒を見た手癖の悪い魔術師の小僧。そいつが私から盗んだ物をホグワーツに隠しやがったから、見つけ出して破壊しな。出来なきゃ破門だからね。』

 

「……これ、フクロウ試験のことよね? 魅魔さん的には全部『O・優』じゃないとダメだったってこと? 厳しすぎない?」

 

「いや、そうじゃない。そこは正直どうでも良いはずだ。魅魔様は私に課題を与えたかったんだよ。だから適当な理由を添えてるだけさ。」

 

何だそりゃ。手紙を一読した限りだとそこが理由のように思えるが、魅魔さんとの付き合いが長い魔理沙はそうではないと考えているらしい。私の呟きに答えた弟子どのは、大きなため息を吐いた後で説明を続けてきた。

 

「幻想郷に居た頃の修行でもそうだったからな。ドアをきちんと閉めなかったから追加の課題、靴に付いた土を掃わなかったから追加の課題、昨日よく寝てたから追加の課題、今日は晴れたから追加の課題。理由に大した意味なんてないんだよ。重要なのは課題の方さ。……『追加の課題』は魅魔様の得意技だ。どっかのタイミングで来ることは予想してたぜ。」

 

「なるほどね。フクロウ試験がホグワーツが出した試験なら、こっちは魅魔さんが出す試験ってところかしら。」

 

「そういうこった。つまりは私の実力が一定の基準に到達したから、こうやって最初から出す予定だった課題を伝えてきたってことさ。……『出来なきゃ破門』も魅魔様がよく使う台詞だが、実際できなかったら本気で破門にされかねん。全力で取り組まないとな。」

 

アリスが手紙を読み直しながら纏めたのに首肯した後、魔理沙は憂鬱そうな雰囲気を漂わせたままでサンドイッチに手を伸ばす。うーむ、大変だな。大魔女が出す課題か。一筋縄では達成できなさそうだ。

 

しかし、ノーヒントじゃ辛い内容じゃないか? 場所こそホグワーツであると指定されているものの、あの城は控え目に表現しても『迷宮』だ。隠し部屋が山ほどあるホグワーツ城の中で、隠された『何か』を探し当てるのは相当難しいと思うぞ。

 

理不尽な課題に困惑しながら封筒を片付けようと持ち上げてみると、中からひらりと羊皮紙の切れ端が落ちてくる。慌ててそれをキャッチしてから、黙考しつつサンドイッチを食べている魔理沙に声を放った。

 

「ちょっと、これ。まだ入ってたわよ。」

 

「ありゃ、何か書いてあるか?」

 

「……うん、書いてあるわ。ヒントみたい。」

 

魔理沙に渡しながら読んだ内容に、少しだけ動揺している自分を自覚する。……魅魔さんは何をどこまで知っているんだろうか? 去年出会った時はそこまででもなかったが、この一文を読んでしまうと空恐ろしくなってくるな。

 

『追伸、盗まれたのは私が創ったオリジナルの逆転時計だ。銀髪のお嬢ちゃんと二人で仲良く探しな。』

 

逆転時計。私が生まれた理由に深く関わっている強力な魔道具。自身に宿る能力のことを思いながら、サクヤ・ヴェイユは小さく喉を鳴らすのだった。

 

 

─────

 

 

「マーリンですね。魔術師マーリン。名前くらいは魔女見習いさんもご存知でしょう?」

 

やっぱりそうなのか。作業台で人形を組み立てながら言ってくるアピスへと、霧雨魔理沙は一つ頷きを返していた。魔術師マーリン。星見台を造った中世の魔術師で、大魔女モルガナと鎬を削った偉大な大魔法使いで、イギリス魔法界にはその名を冠した勲章があるほど高名な男。彼こそが魅魔様から逆転時計を盗んだ『命知らず』なわけだ。

 

我が師匠から課題が送られてきた日の午前中、今日も人形店に修行をしに来たアピスに相談に乗ってもらっているのである。どうもこの情報屋は優に千歳を超えているようだし、去年見た記憶によればお師匠様とも交流があったらしい。だから何らかのヒントを得られるかもと思って課題が書かれた手紙を見せてみた結果、断定に近い答えが返ってきたというわけだ。

 

まあ、マーリンに関しては薄々予想が付いていた。朝食の席でアリスも真っ先にその名前を出してきたし、『ホグワーツに関係する魔術師』となれば私としても最初に頭に浮かぶのはマーリンだ。取り敢えずはその線で追っていって良さそうだなと考えを固めている私へと、アピスは手を止めないままで話を続けてくる。ちなみに教師役たるアリスは店番中でここには居ない。今日はエマのお菓子を出す日だから、午前中は客が多くて忙しいのだろう。

 

「少なくともマーリンとニューヨークの大魔女に付き合いがあったことは間違いありませんよ。貴女の師匠の仲介で私はマーリンと取り引きしましたから。」

 

「情報を売ったのか?」

 

「売りました。何の情報を売ったのかまでは情報屋として答えられませんが、取り引きがあったこと自体を話すのは別に構わないでしょう。マーリン当人はとっくの昔に死んでますしね。」

 

「わざわざ仲介したってことは、魅魔様と敵対してたわけではないってことか。……やっぱ『盗んだ』って部分は真面目に受け取らない方がいいのかもな。」

 

ここも魅魔様流のちょっとした『ジョーク』なわけだ。頭を掻きながら推理した私に、アピスは然もありなんと首肯して応じてきた。

 

「当然そう考えるべきでしょうね。あの大魔女から何かを盗んで無事でいられるはずがありません。『盗んだ物』は『渡した物』か、あるいは『貸した物』と翻訳するのが妥当でしょう。」

 

「纏めると魅魔様がマーリンに『オリジナルの逆転時計』を渡して、マーリンがそれをホグワーツのどこかに隠したってことか。そいつを探し出して破壊しろってわけだ。……何で『取り返せ』じゃなくて『破壊しな』なんだろうな?」

 

「単なる推測ですが、ニューヨークの大魔女にとっては別段必要のない物だからでは? もっと強力な魔道具を所持しているか、もしくは時間の操作そのものに興味がないのでしょう。マーリンにそれを譲渡したという時点で固執していないのは透けていますしね。」

 

「逆転時計『程度』に興味がないってのは有り得そうな話だが、そうなると今度は私に破壊させる理由が分からんぜ。特に理由もなく課題にするのはどうにも魅魔様らしくないからな。破壊しろってんなら破壊させるなりの訳があるはずだ。」

 

魅魔様は完全に無意味なことをする方ではないのだ。私の課題として利用したにせよ、破壊すること自体にも何らかの意味があるはず。腕を組んで悩みながら呟いた私へと、アピスはすらすらと予想を述べてくる。

 

「逆転時計を破壊しようとするのはそうおかしな行動ではありませんよ。あれは危険な道具です。大妖怪の私から見てもそうなんですから、それを未熟な魔法使いたちが管理している現状は異常とも言えるでしょうね。貴女の師匠はその点を危惧したんじゃないでしょうか? あの大魔女に他人の迷惑を考慮するような良心があればの話ですけど。」

 

「私の師匠に良心があるかどうかはともかくとして、今の今まで放っておいたわけだろ? 魅魔様がマーリンに逆転時計を渡したのはそれこそ千年近くも前のはずだ。随分と急に動き出したことにならないか?」

 

「貴女への課題についてを考えた時、ふと思い出したんじゃないでしょうか? 『そういえば大昔に逆転時計を渡したな。マズいぞ、あれを下手に利用されると危険だ。何かとんでもない事態になった時、私の所為になるかもしれない。よし、ちょうど良いからこれを弟子への課題にしちゃおう。』といった至極適当な思考に過ぎないと思いますけどね。ニューヨークの大魔女が『大いなる厄介事』をその辺に置いたままで忘却するのは今に始まったことではありません。長い付き合いの私からすれば、正直『またか』という気分ですよ。」

 

「……何か、すまんな。うちの師匠が迷惑をかけたみたいじゃんか。」

 

常時ポーカーフェイスのアピスにしては珍しいうんざりした表情を見て、弟子として申し訳ないと思いながら謝ってみると、情報屋どのは組み上げた人形のチェックをしつつ助言を追加してきた。さすがにアリスが作る人形と比べてしまえば見劣りするが、かなりの出来であることは間違いなさそうだ。

 

「貴女も苦労しているようですから、同情ついでにもう少しだけサービスしてあげましょう。貴女が推察していた通り、逆転時計の破壊に完全に意味がないわけではないはずです。貴女への課題、魔法界にオリジナルの……恐らくイギリス魔法省に保管されている物より遥かに強力な逆転時計が残る危険性、忘れていたマーリンに対する『取り立て』。これらもまた確かに理由の一つではあるのかもしれませんが、あの大魔女がたったそれだけの理由で弟子への課題を決めるとは思えません。もう一つくらいは何かしらの理由があるんじゃないでしょうか?」

 

……まあ、その懸念は理解できるな。リーゼの言う通り魅魔様が私の生活を覗き見ているのであれば、私が一年生の時点でマーリンについては思い出しているはずだ。何たって彼が造った星見台で命に関わるレベルの騒動があったのだから。

 

それに、この課題は魅魔様にしてはヌル過ぎる。単にホグワーツを探索して、隠された品を探すだなんて『穏便』すぎるぞ。一年生の頃とかならまだ危険だったかもしれないが、私は来学期からもう六年生だ。もはやホグワーツの仕掛けなんぞに手間取るような歳じゃない。

 

熟練情報屋の言葉を受けて熟考している私に、アピスは尚もアドバイスを続けてきた。

 

「他にも引っかかる部分があります。……私は貴女の師匠の大魔女こそが『モルガナ』なのではないかと考えていまして。課題の内容にマーリンが出てきた以上、同時にモルガナが関係してくるのは必然でしょう。その点も思考の材料にした方が良いと思いますよ。」

 

「……魅魔様が、大魔女モルガナ?」

 

「文献を読む限りでは外見の特徴が一致しませんし、モルガナが派手に動いていた時期に貴女の師匠は『魅魔』として活動していました。……それでも私は疑っています。大魔女という存在は往々にして複数の名を使って暗躍するものです。片手で大魔女モルガナを演じ、もう片手で大魔女魅魔としてマーリンを支援する。あれだけ性格が悪い魔女ならその程度のことをやっていたって驚きませんよ。悪趣味な『ゲーム』は彼女の得意分野ですから。」

 

うーむ、はっきりと否定できないあたりが恐ろしいな。魅魔様なら確かにやりかねないし、出来るだろう。……そうなってくると、一年生の時の事件すらも仕組まれたものなのではないかと思えてきたぞ。

 

いやいや、幾ら何でも有り得ないはずだ。私が星見台への入り口を見つけたのは双子から忍びの地図を受け継いだからだし、そこに入れたのはレミリアたちが蘇りの石を咲夜に渡したから。そしてラデュッセルが私たちを狙ったのは星見台にモルガナの遺産が隠されていることを突き止めたからで、突き止めた理由は彼の研究を支援していたヴォルデモートにある。だったら魅魔様が介入する余地はない……よな?

 

参ったな、確信を持てないぞ。もし私がリーゼたちと関わっていなければ、五十年前の大戦が彼女たちの『ゲーム』であることに気付けただろうか? 今のアピスの発言を聞く前の私がマーリンとモルガナの戦いを『魅魔様のゲーム』だなんて疑わなかったように、私はきっと吸血鬼たちのゲームにも気付けなかったはずだ。

 

むう、今の私はムーディのパラノイアをバカに出来ないな。何もかもが怪しく思えてきたぞ。アピスが悩み悶える私を薄い笑みで観察してくるのを横目にしていると、店舗スペースの方からアリスが現れた。客足が途絶えたか、あるいはエマのお菓子が早くも売り切れたのだろう。……まあ、その二つは同じ意味を持っているわけだが。

 

「あれ? もう組み上げちゃったんですか?」

 

「ええ、終わりました。チェックしてください。……魔女見習いさんに対しての助言はここで終了です。これ以上は対価をいただくことになりますし、今の貴女には払えないでしょうから。」

 

「……ん、感謝するぜ。」

 

「感謝は不要です。これは将来の顧客獲得への布石ですから。課題を達成して立派な魔女になって、いつか私のお得意様になってください。貴女は道半ばで終わらなければ大成する気がします。」

 

道半ばで終わらなければ、か。座っていた丸椅子をアリスに譲って、作業部屋を後にしながら返事を飛ばす。そうなることを祈るばかりだ。

 

「かなり先の話になっちまうかもしれんが、その時は利用させてもらうぜ。もちろん今度は対価を払う形でな。」

 

「では、私は大妖怪らしく気長にその日を待ちましょう。是非とも大成して面白い『物語』を運んできてくれる顧客になってください。」

 

アピスの声を背に作業部屋を出た後、リビングへの階段を上りつつ考える。魅魔様が出してくる課題なのだから、簡単に達成できないであろうことは重々承知していたが……想像以上に難しいかもしれんな。これまで私が培ってきた知識や集めてきた道具を総動員する必要がありそうだ。ホグワーツに戻ったら先ず星見台と忍びの地図の再確認をして、マーリンに関する本を図書館で探そう。

 

六年生も暢気に過ごすというわけにはいかなさそうだなとため息を吐きつつ、霧雨魔理沙はエマと咲夜が掃除中のリビングルームに足を踏み入れるのだった。

 

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