Game of Vampire   作:のみみず@白月

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ブレイジングボルト

 

 

「いたずら完了、っと。……今回の隠し部屋は一際意味不明だったな。『おまる』の展示会場みたいだったぜ。」

 

誰が造ったんだよ、あんな部屋。ホグワーツにしたって素っ頓狂すぎる隠し部屋を後に一階の廊下を歩きながら、霧雨魔理沙は隣を歩く親友に肩を竦めていた。

 

九月も半分が見えてきた今日、私と咲夜は午前中の空きコマを使って隠し部屋のチェックを進めているのだ。忍びの地図を参考に隠し部屋を探し当てて、そこに入って逆転時計らしき物がないかを確認するという作業をもう二十回以上も繰り返しているのだが……残念なことに、未だ『オリジナルの逆転時計』は見つかっていない。

 

まあうん、そんなに簡単に見つかるとは思っちゃいないさ。単なる古ぼけた羊皮紙に戻った忍びの地図を懐に仕舞いながら、全ての隠し部屋を調べるのにはまだまだ時間がかかりそうだなとため息を吐いていると、ぼんやり手のひらの中の歯車を弄っている咲夜が応答を寄越してくる。この前わざわざリーゼが女子寮の私たちの部屋に忍び込んで、直接返しに来た代物だ。魅魔様の課題も重要だけど、そっちもそっちで気になるぞ。

 

「そうね、これまでで一番奇妙な部屋だったわ。一種の狂気すら感じたわよ。……ねえ、魔理沙? この方法はやっぱり違うんじゃない? 魅魔さんってこうやって隠し部屋を虱潰しに調べることを課題にするような方なの?」

 

「……言わんとすることは分かるぜ。だけどよ、星見台には何も無かったし、マーリンのことを本で調べてみても大したヒントは見つからなかっただろ? だったらこうするしかないじゃんか。」

 

「何かこう、違う気がするのよね。切り口を変えてみるべきだと思うわ。ルーピン先生やブラックさんには手紙を送った?」

 

「先週の日曜に送ってみたけど、まだ返事は来てないぜ。……んー、難しいな。確かに私も方向性を間違えてるような気はしてるんだよ。」

 

咲夜が言っていることは私も薄々感じていたことだ。こんな風に地味に探すことを魅魔様が望むとは思えない。どちらかといえばこれは地味な努力ではなく、発想力を試す課題なんじゃないだろうか?

 

だとすれば、こんなことをしていても進展は得られないはずだ。頭をガシガシと掻きつつも、大広間を目指して曲がり角を曲がった。

 

「いっそ逆転時計の線から調べてみるか? 『オリジナル』ってことは、もしかしたら今ある逆転時計はそれを手本に作られた物かもしれないってことだろ?」

 

「それも良いかもね。何にせよ、隠し部屋巡りはちょっと効率が悪すぎるわ。先ずある程度の当たりを付けてから捜索すべきよ。……ついでにこの歯車のことも調べたいし。」

 

「リーゼは『手紙に書かれていた通りに持ち歩きたまえ』って言ってたよな? 結局誰から送られてきた物なんだ?」

 

「何故かそれは教えてくれなかったの。ただ、『信頼できる人物』とは言っていたわ。だから指示に従った方が良いって。……まあ、私としてはリーゼお嬢様がそう言うなら持ち歩くだけよ。」

 

やや腑に落ちていない様子の咲夜がいつも懐中時計を入れているポケットに歯車を仕舞ったところで、到着した大広間に昼食が並んでいるのが見えてくる。食ったら薬学の授業だ。寮に教科書を取りに行かなきゃだし、早めに済ませた方がいいだろう。

 

グリフィンドールの長机の空いている席に咲夜と座って、いざ食べようと料理に手を伸ばした私に……おお? 大きな細長い紙袋を両手で抱えているフーチが歩み寄ってきた。かなりの早足でだ。

 

「……また何かやったの?」

 

「いやいや、今年はまだ何もやってないぞ。課題のこともあるし、トラブルを起こすつもりは無いぜ。」

 

寮監どののあまりの勢いを見て邪推してきた咲夜へと、記憶の中から心当たりを探しつつ言い訳を放ったところで、私の目の前でぴたりと停止したフーチが手に持っている紙袋を突き出してくる。その顔に浮かんでいるのは予想外の満面の笑みだ。

 

「キリサメ、貴女宛ての国際便です。そして私が思うに、包まれているのは箒ですね。……新しい箒を買ったのでしょう? 私にも見せてください。」

 

「国際便……ああ、日本からか! そうだ、箒だ!」

 

遂に届いたのか! 慌てて受け取って机に載せた後、何事かと注目し始めた周囲のグリフィンドール生たちの視線を感じながら茶色い紙を剥がしていくと……うおお、カッコいいぞ。黒に近い焦げ茶の艶がある柄、しなやかな流線形に整った尾、各所に付いている金色の金具。息を呑むほどの美麗な箒がその姿を現した。

 

「……こりゃまた、凄えな。想像してたよりもずっとカッコいいぜ。」

 

「この箒はまさか、ブレイジングボルトですか? ……一目で分かる素晴らしい箒です。驚きました。本当に驚きですね。」

 

フーチが呆然と呟くのを他所に、滑らかな柄をそっと撫でる。……うん、しっくり来るな。スターダストと出逢った瞬間を鮮明に思い出すぞ。あの時と同じように腕を伝うこの感覚。これは間違いなく『私の箒』だ。

 

「マリサ、来たの? 届いたのね? アレシア、ニール! こっちに来なさい! マリサの箒が届いたわよ!」

 

「最近の箒業界では柄を複雑な形にするのが主流ですが、この箒はその考え方に真っ向から異を唱えていますね。しかしその反面、尾の部分は最新式であることを窺わせる形状です。恐らく緻密な計算に基づいた形になっているのでしょう。ポッターが持っていたファイアボルトともまた違う形状ですし、設計班がツィガー系列の理念を取り入れて──」

 

人混みを見て大慌てで駆け寄ってくるジニーと、ブツブツと一人で考察を語り続けているフーチ。それらの姿を横目にしつつ早く乗りたいとうずうずしている私に、咲夜が何かを渡してきた。

 

「魔理沙、ほら。手紙が一緒に入ってたわよ。中城さんからじゃない?」

 

「おっと、読むぜ。」

 

女の子らしい模様の封筒の中に入っていた便箋を取り出して、それにササッと目を通してみれば……なるほどな、少なくとも中城は東風谷が『無事である』と判断したようだ。東風谷がマホウトコロに何事もなく帰ってきたので、約束通り箒を送るとちょっと癖の強い丸っこい日本語で書かれている。

 

「……騙したみたいで申し訳ない気分になってくるぜ。本当に東風谷は『無事』なのかな?」

 

うーむ、不安だ。後から『異常』が見つかった時に返せと言われないだろうか? 隣から覗き込んで一緒に読んでいた咲夜に小声で聞いてみれば、彼女はどうでも良さそうに適当な相槌を打ってきた。こいつは東風谷にあまり興味がないらしい。

 

「それは知らないけど、兎にも角にもこれで試合には出られそうね。良かったじゃない。」

 

「まあ、そうだな。心配事が一つ減ったぜ。……おっしゃ、早速乗ってみるか。見たいヤツは一緒に来い!」

 

新たな相棒をがっしり掴んで立ち上がると、囲んで見ていたフーチやグリフィンドールのクィディッチ好きたちが一人残らずついてくる。競技場だと移動に時間がかかるし、訓練場で軽く乗ってみるか。七百ガリオンの新型箒を前にして我慢できるクィディッチプレーヤーなんて存在しないのだ。

 

「咲夜、サンドイッチをいくつか確保しといてくれ! 授業直前に食べるから!」

 

「はいはい、分かってるわよ。教科書も持っていってあげるから、気が済んだら地下教室に直行しなさい。」

 

「さすがだぜ、そうこなくっちゃな!」

 

うんうん、持つべきものは頼れる親友だな。呆れ顔で了承してきた咲夜にウィンクしつつ、大広間を出て訓練場へと歩き出す。ピーキーな箒らしいが、それくらいじゃないと面白くない。必ず乗りこなしてみせるぜ。

 

クィディッチ好きたちを引き連れて一階の廊下を闊歩しながら、霧雨魔理沙はニヤリと不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

─────

 

 

「結論から言えば、あの手紙は四半世紀近くもの間ロンドンのふくろう便配送センターに保管されていた物でした。時間指定郵便というシステムを知っていますか? それを利用して1998年の九月二日、ホグワーツの大広間に居るメイド見習いさんに届くようにと手配したようです。」

 

なるほど、時間指定郵便か。言われてみれば身近なシステムだが、まさかそんなに長い時間でも利用可能だとは思わなかったな。人形店の店舗スペースでアピスさんが報告してくるのを耳にしながら、アリス・マーガトロイドは納得の首肯を返していた。

 

リーゼ様が『何もするな』という助言を魅魔さんと八雲紫さんから受け取ってから数日後、手紙についてのアピスさんの調査も完了したということで、こうして私とリーゼ様で彼女からの報告を受けているのだ。……ちなみに今日はエマさんのお菓子を置いていない日なので客入りは皆無。店の前までは人が来るものの、そこに設置されてある黒板に『本日人形のみ』と書かれているのを見て去って行くという光景が何度も繰り返されている。

 

今もまた黒板の前で立ち止まったカップルらしき若い男女が、残念そうな表情でやれやれと首を振りながら踵を返すのを目にして、人形も見ていったらいいのにと何とも物悲しい気分になっていると……おっと、そんな場合じゃなかったな。カウンターに直接腰掛けているリーゼ様がアピスさんに問いを飛ばす。今は咲夜の問題に集中しなければ。

 

「手紙が郵便局に預けられた具体的な日付は? それを特定できれば咲夜がどの時点まで遡ったのかが判明するはずだ。」

 

「残念ながら、具体的な日付の記録は残っていませんでした。ですが郵便局に長く勤めている局員によれば、手紙が郵便局に届いたのが約二十五年前……つまりイギリス第一次魔法戦争の中期であったのは確かなようです。その頃はロンドン中が混乱していたので、記録も何かの拍子に失くなってしまったのではないかと言っていましたね。」

 

「戦争中期か。……その局員は手紙を預けに来たのがどんな人物だったのかは覚えていなかったのかい? 要するに受け取った当時も郵便局に勤めていたということだろう?」

 

「局員の証言によると、件の手紙は保管のための料金と共にふくろう便で郵送されてきたそうです。随分と先の時間が指定されていたので驚いたものの、既定の料金が同封されてあったので手続きに則って保管庫に仕舞ったのだとか。あんな宛名の書き方できちんと手紙が届いたのも、そちらの手紙で詳細な宛先が指定されてあったからなようですね。」

 

うーん、約二十五年前か。物騒な時期だな。不死鳥の騎士団の一員として戦っていた頃の記憶を思い返しながら、私もアピスさんに質問を放った。

 

「えっと、その時も手紙の中に手紙が入っていたってことですよね? だからつまり、咲夜に送る用の歯車が入っている手紙や保管のための料金と一緒に、時刻の指定や詳細な宛先が書かれたもう一つの手紙が入っていたわけでしょう? その手紙は残っていなかったんですか?」

 

「それは紛失していた……というか、そもそも保管していなかったのではないでしょうか? 何れにせよ、『約二十五年前にふくろう便で届いた時間指定郵便』という情報しか手に入りませんでした。」

 

「そうですか。……まあその、少しだけホッとしました。私はもっと長い時間を遡行した可能性も考えていましたから。」

 

「咲夜が二十五年前に戻って、そして戻ってこれていないのだと仮定すれば……四十を過ぎたくらいか。確かに最悪の展開よりは遥かにマシだが、それでも考えるとキツいものがあるね。あまり想像したくない事態だよ。」

 

額を押さえながらリーゼ様が言うのに、深々と頷いてから思考を回す。彼女は意図的に口に出さなかったようだが、魔法戦争の時期となると時間を遡った咲夜がトラブルに巻き込まれて……最悪の場合、死んでしまったという可能性も否定しきれないだろう。

 

それなら現時点まで一切の接触がない理由にもなるし、あの時期のイギリスは安全とは到底言えないような状況だったのだ。騎士団と闇祓い、執行部、そして死喰い人。様々な要素が混ざり合って混沌を作り出していたのだから。

 

しかし、そんな結末は絶対に認められない。必ず防がなければと決意を固めつつ、二人に向かって口を開く。リーゼ様が幻想郷で、アピスさんが郵便局で調べていたように、私も神秘部で逆転時計についての聞き取りをしてきたのだ。

 

「二十五年前となると、神秘部の逆転時計では遡れないほどの遠い過去ですね。である以上、やはり『オリジナルの逆転時計』による時間遡行と見るべきでしょう。」

 

「普通の逆転時計を繰り返し使っても無理なのかい? 例えば一週間前への遡行を四回繰り返せば一ヶ月前へ、一ヶ月前への遡行を十二回繰り返せば一年前に行けるわけだろう?」

 

「それをやると、逆転時計が負荷に耐えきれずに破損するそうです。確たる原理は判明していないものの、遡行による負荷というのは『積み重なる』ものなようでして。……神秘部の知り合いによれば理論上一度に十年、二十年を遡行できる逆転時計を作るのも不可能ではないらしいんですけど、現状の魔法技術では危険すぎると言っていました。大きく遡行すれば、それだけ現在への影響も大きくなるのだと。下手をすると『長時間遡行した』という行為自体が因果関係を盛大に崩すことになりかねないので、遡行した瞬間に存在が消滅する可能性もあるんだとか。遡行した本人だけに限らず、全く関係のない人間もです。……まあ、時間に関しては他の仮説も大量にあるみたいですけどね。少なくとも私が話を聞いた知り合いは『時間遡行によって変化が起きる』と考えているようでした。」

 

「長時間の時間遡行は魔法族にとって必ずしも『やれない』わけではなく、危険すぎるから『やらない』行為だということか。……何にせよこれでオリジナルの逆転時計とやらが問題に関わってきそうなことはほぼ確定したね。だからといって何がどうなるわけでもないが。」

 

魅魔さんの課題に関係しているということは、咲夜だけではなく魔理沙も巻き込まれる可能性が高いということか。深々とため息を吐いたリーゼ様は、頭痛を堪えるように眉間を親指で揉みながらアピスさんへと言葉を繋ぐ。

 

「どうしたら良いのかがさっぱり分からんよ。キミはどう思う?」

 

「『何もしない』と決めたんでしょう? だったら何もすべきじゃないんです。私は人形作りの勉強を、魔女さんはお店の経営を、ハーフヴァンパイアさんはお菓子作りを、そして貴女は神の引き込み作業を頑張ればいいじゃないですか。」

 

「……ただ放っておけと?」

 

「そうです。何もしないことこそが正解なのであれば、良かれと思って何かをすると裏目に出かねませんよ。気になるのは分かりますが、放っておいた方が良い結果を齎すことも確かにあるんです。あの契約主義の大魔女が名に誓った以上、私としても推奨するのは『何もしない』という選択肢ですね。……なので私は人形作りの修行に戻ります。それでは。」

 

平坦な声でそう言うと、スタスタと店舗の裏にある作業場へと姿を消してしまったアピスさんを見送った後、リーゼ様と二人で顔を見合わせた。……何もしないのがこんなに難しいことだとは思わなかったぞ。気になってどうにも落ち着かないじゃないか。

 

「……どうしますか? リーゼ様。」

 

「どうするもこうするもないさ。取り敢えずの方針は『何もしない』なんだから、私たちはアピスが言うように何もしないべきだよ。歯車についてを追っていくのは『何かする』の範疇に含まれちゃいそうだし、まさか私が先に逆転時計を見つけ出すわけにもいかない。今のところはここで行き止まりだね。」

 

疲れたように言い放った直後、リーゼ様はカウンターの上から降りて玄関の方へと歩き出す。

 

「咲夜には頻繁に近況を知らせるようにとそれとなく伝えてあるし、先ずは向こうの進展を待つことにしよう。私は魔法省に行ってくるよ。ハーマイオニーとロンの様子を見るついでに、一応神秘部とのパイプも作っておこうかな。備えあれば何とやらだ。」

 

「オグデンの息子が神秘部に居るので、そこから伝っていけば楽だと思います。コンラッド・エースって名前です。」

 

「あの皮肉屋の息子か。姓が違うんだね。」

 

「オグデンが奥さんと離婚した後、コンラッドは母親の方に引き取られましたから。好青年って感じの子ですよ。私の名前を出せば協力してくれるはずです。」

 

ドアを開けたリーゼ様にアドバイスしてみると、彼女は肩越しにひらひらと手を振りながら人形店を出て行った。

 

「じゃあ、その線から構築していこう。夕食までには帰るとエマに伝えておいてくれたまえ。」

 

「はい、了解です。」

 

通りに出た途端に姿くらまししたリーゼ様を見て、カウンターを片付けながら一息つく。パチュリーが本に、レミリアさんが運命に、私が人形に囚われているように、咲夜にとってのそれは『時間』なのかもしれないな。きっと切り離せない宿命のようなものなんだろう。

 

だとすれば、リーゼ様にとっての『それ』は何なのだろうか? 静かな店の中で棚に並ぶ人形たちを眺めつつ、アリス・マーガトロイドはぼんやりと考えるのだった。

 

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