Game of Vampire   作:のみみず@白月

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レミリア・スカーレットの肖像

 

 

「つまり、何を言いたいのかしら?」

 

ウィゼンガモットの評議員たちを前に、レミリア・スカーレットは傲然と言い放った。

 

人前に出るようになってからしばらくが経ったある日、各国の政治機関と連携を強めようと動いていたところで、イギリス魔法省から呼び出しがかかったのだ。場所は格式高きウィゼンガモットの大法廷。実に大仰なことである。

 

しかし……全くもって話の迂遠な連中だ。呼び出しを受けて来てやったはいいが、これじゃあ話が進みやしない。回りくどい会話を終わらせるべく、法廷の中央に置かれた椅子に座ったまま魔法大臣を睨みつけてやると、何故かその隣に座るクラウチが口火を切った。

 

「つまり我々としては、多少の問題があるのではと危惧しているわけです。その……貴女は吸血鬼なのでしょう?」

 

「あら? かのご高名な魔法法執行部部長さんは、人間至上主義者に鞍替えしたのかしら? それならヴォルデモートの下に行くといいわ。同じような思想なんだし、喜んで受け入れてくれるでしょう。」

 

「そういうつもりで言っているのではありません。しかし、分かるでしょう? 我々が人間である以上、貴女のことを信用できない者が出てくるのもまた事実なのです。」

 

「ご自分がその筆頭、というわけ? 迂遠な話は結構よ。結論を言ったらどうなの?」

 

私の冷たい口調にも一切怯むことなく、クラウチは表情を崩さないままで口を開く。

 

「貴女がホグワーツの校長に情報を提供しているのは知っています。それをこちらにも流して欲しいだけなのです。我々は専門家なのですから、こちらを通したほうが効率的でしょう?」

 

「その『専門家』さんたちはグリンデルバルドに対して何をしたんだったかしら? 私の記憶が確かなら、この建物で右往左往していただけだったと思うのだけど。」

 

他の評議員はバツが悪そうな顔に変わるが、クラウチは未だ顔色を変えない。なかなか面の皮の厚いヤツらしい。

 

「時代は変わっているのです、スカーレット女史。もはや弱かった魔法省はもう無い。貴女は今の魔法省を信じられませんか?」

 

「聞く必要があるかしら? この建物にヴォルデモートのスパイがウロウロしているのは、誰もが知っている事実でしょう? 答えはもちろん信用できない、よ。」

 

「逆にご自分が『なんちゃら卿』の味方ではないと言い切れますかな? 彼の一団には吸血鬼も混じっているそうですが?」

 

「そして人間も混じっているらしいわね。種族単位で疑うのであれば、貴方たちのほうがよっぽど信じられないとは思わない?」

 

厳密には向こうの『吸血鬼』と私たちは全く別の種族なのだが……まあ、それを説明しても無駄だろう。

 

私とクラウチが睨み合っていると、フランスから出向している外交員が口を挟んできた。

 

「クラウチ氏、スカーレット女史への謂れもない非難はやめていただきたい。彼女がヨーロッパにどれほど貢献したか、イギリスはもう忘れてしまったのですかな?」

 

同時にスイスの外交員も、顔を真っ赤にして口を開く。

 

「彼女の種族で差別しようとは情けないとは思わんのかね! イギリスの諸兄はご存知ないのかもしれんが、彼女はヨーロッパの盾としてその身を賭けて戦ったのだぞ!」

 

全然この身を賭けてはいなかったが、擁護してくれているのに文句を挟むつもりなどない。なめるなよ、クラウチ。私はお前がガキの頃からヨーロッパと深い繋がりを保ってるんだ。今のイギリス魔法省はお前の庭かもしれないが、私の庭はヨーロッパ魔法界なんだよ。

 

さすがに他国との関係には配慮しているようで、多少勢いをなくしたクラウチだったが……おっと、まだやる気があるらしい。一瞬瞑目した後、再び舌戦を挑んできた。

 

「これはイギリスの問題なのです。今や我が国は危機に陥っている。グリンデルバルドの時にそうしたように、今度はイギリスに情報を渡してはくれないのですか?」

 

「それを受け取った貴方は何をするのかしらね? 拷問? 吸魂鬼のキス? それとも残虐に殺すのかしら? 私の耳には貴方の悪行が届いてるのよ。そんな貴方をどうして信用できるの?」

 

もちろん残虐に殺しているのはリーゼと美鈴だが、利用できるもんは利用すべきだ。大魔王ごっこを楽しんでいるあの二人に感謝しよう。

 

「……虐殺などしてはおりません。敵の巧妙な情報操作ですよ。」

 

「そうかしらね? 予言者新聞の写真は見てないの? 胸に『魔法省万歳』なんて書かれた死体が、この建物の庭先にぶら下がっていたらしいじゃない。装飾としては些か……悪趣味じゃないかしら?」

 

「その件と魔法省とは無関係だと声明を出したはずです! 余計なことを掘り返さないでいただきたい!」

 

「その『余計なこと』が原因で貴方たちを信じられないと言っているのよ。一度精神鑑定でもしてみたら? 貴方ちょっと……異常よ?」

 

今やクラウチの顔からは余裕が消え、紫色の顔は怒りに染まっている。ふん、ようやく面白くなってきたじゃないか。

 

劣勢に立たされたクラウチはどうやらやり方を変えるようだ。今度はダンブルドアのことを矛先に挙げてきた。

 

「あの老いぼれが率いる自警団のほうが魔法省より信用できると? 学校の校長は犯罪者に対処するような職業ではなかったはずですが?」

 

「その『老いぼれ』が何をしたか覚えていない? グリンデルバルドを打ち倒してイギリスを救ったはずだったのだけど……私の記憶違いだったかしら?」

 

「ですから状況が違うのです! 今は我々が魔法省を主導し、あの忌々しい死喰い人たちに対処している。少しは協力しようとは思わないのですかな!」

 

「何度も言っているでしょう? 思わないわね。私は無能を助けているほど暇じゃないの。貴方の権力闘争に関わっている時間はないのよ。」

 

堂々巡りだ。こんなことをしているより、フランの成績を確認したいのだが……ふくろう試験は上手くいったのだろうか? 一時はヴェイユの件で随分と落ち込んでいたから、成績は甘めに見てあげねばなるまい。

 

私がフランのことを考えている間に、クラウチはもはや怒りも隠さずに私を糾弾してきた。

 

「貴女が我々を信用できないように、我々も貴女を信用できない! それでは強硬な手段に出ざるを得ませんぞ!」

 

「へぇ、強硬な手段? 何をしろと言うのかしら?」

 

「……真実薬で証言していただきたい。『なんちゃら卿』の一味ではないということを。」

 

途端に法廷がざわめいた。各国の外交員はもはや怒りを隠さずにクラウチに罵声を浴びせかけ、イギリスの評議員たちは居心地悪そうに沈黙している。確かにそれは『強硬な手段』だな。犯罪者扱いではないか。

 

内心どうあれポーカーフェイスを保って、クラウチに冷たく問いかける。

 

「随分と思い切ったことを言うわね。誰に何を言っているのか、本気で理解しているのかしら?」

 

「無論ですとも。貴女が吸血鬼であることは、それほどに大きな問題なのです。どうですか? 出来ませんかな?」

 

出来ないと思っているのだろう。そもそも本気で言ってるのか怪しいもんだ。大方『レミリア・スカーレットが証言を拒んだ』という成果が欲しいだけなのだろうが……ふふん、私を甘く見たな、クラウチ。

 

「いいわよ、証言しましょう。今ここで、ね。」

 

ニヤリと言い放ってやると、クラウチは驚愕の表情で言葉を返してくる。

 

「それは……本当によろしいのですかな? もちろん開心術師も同席しますぞ。」

 

「いいと言っているでしょう? さっさと連れてきなさい。」

 

バカが。吸血鬼に真実薬やら開心術やらが効くと思うなよ。ついでにパチュリーの薬も飲めば完璧だ。適当に、『イギリスを憂うヨーロッパの英雄』を語ってやればいい。それで私は大衆の支持を手に入れることができるのだ。

 

全員の視線が外れた一瞬の隙に、パチュリー特製の閉心薬を飲み込む。グリンデルバルドで効果は確認済みだ。必要ないとは思うが、念には念をというわけである。

 

多少気後れしながらも開心術師たちを呼びつけるクラウチに向かって、ニヤリと笑って言い放った。

 

「これで私の潔白が証明されたら……覚悟はできているんでしょうね?」

 

「……当然です。」

 

「結構よ。」

 

慌ただしく入ってきた開心術師たちの一人から、小瓶に入った透明な薬を渡される。

 

「三滴だけ口に含んでください。」

 

彼の言う通り全員の目の前で薬を口に含む。味は……しないな。色といい、つまらん薬だ。昔パチュリーに聞いた効果によれば、使用者はちょっとぼーっとするはずだ。一応そんな感じで演技しつつ、質問の時を待つ。

 

「ではいくぞ? レジリメンス(開心)!」

 

開心術師たちの呪文とともに、心に侵入されるような感覚がしてきた。拒まずに慎重にそれを誘導して……よし。後は英雄ごっこを楽しむだけだ。

 

コツコツとした足音と共に、クラウチが私に近づいてくる。私の様子を少し確かめた後、慎重に言葉を選びながら質問を始めた。

 

「それでは、スカーレット女史。貴女は例の……ヴォルデモート卿に協力していますかな?」

 

「いいえ。」

 

この時点でクラウチは苦々しい表情だが、怯みながらも質問を続ける。

 

「では……本当にイギリスのために行動していると?」

 

「その通りよ。イギリスを守るために、この身を賭して戦っているわ。」

 

「そうですか……。では、情報を規制しているのはあくまでもイギリスのためだと?」

 

「もちろんだわ。私心など一切なく、魔法界を守るために最善の選択をしているつもりよ。」

 

クラウチが開心術師たちを見るが、彼らは黙って頷くだけだ。その目は『もうやめようよ』と語っている。

 

それでも諦められないらしいクラウチは、矛先を変えて質問をしてきた。

 

「それでは……そう、吸血鬼として、人間をどう思っていますかな?」

 

「良き隣人でありたいと思っているわ。その為にこんなにも努力しているのに、差別されるのはとても悲しいわね。」

 

もちろん嘘だ。とはいえ評議員たちは心を打たれたらしく、先程以上に居心地が悪そうにしている。外交員たちは今にもクラウチに呪文を放ちそうだ。

 

「そう、ですか。では──」

 

「もういいのではないですかな? これ以上は彼女の権利への侵害でしょう! まだ続けるというのであれば、外交問題になることを覚悟していただきたい!」

 

まだ何か質問しようとしていたクラウチを、外交員たちが止めにかかる。そりゃそうだ。開心術師たちもクラウチの指示を待たずに杖を下ろしている。

 

「それは……分かりました。彼女に解呪薬を。」

 

クラウチの指示を受けた開心術師が慌てて持ってきた解呪薬を飲み干して、頭を振ってから大きく伸びをする。それっぽいかな? ……大丈夫そうだ。周りは誰も疑っていない。

 

きょとんと首を傾げながらクラウチに声をかける。ニヤニヤ笑うのはもうちょっと先だ。

 

「それで……どうだったかしら? 私はアズカバンに引っ越すべきだった?」

 

「いえ……問題はありませんでした。貴女は潔白だ。」

 

「あら、そう? 潔白なのにどうして真実薬を飲まされたのかしら? どうも私は常識を知らないらしくて、誰か説明してくれない?」

 

評議員たちを見渡すと、誰もが俯いて目をそらす。『無知なレミィちゃん』の演技を続けながらクラウチの顔までたどりつくと、彼は苦虫を噛み潰したような顔で話し始めた。

 

「どうやら、その……無用なことをしたようです。謝罪いたします。」

 

「ふぅん? 謝罪、ね。いつから魔法省は謝罪すれば他者の権利を侵害していいようになったのかしら? 教えてくれない? バーテミウス・クラウチ。」

 

「我々はただ、疑いを晴らそうとしただけです。そして貴女の疑いは晴れた。」

 

「それじゃあ、私の不愉快な気持ちはどうなるのかしらね。吸血鬼相手なら何をしてもいいってこと?」

 

どす黒く染まったクラウチの顔は、形容し難い形になっている。いいぞ。そんな顔を見たかったんだ。

 

「それは、本当に申し訳ありませんでした。」

 

「大法廷で尋問、ね。イギリスの私に対する態度はよく分かったわ。……それじゃあ、失礼させてもらうわね。茶番はもう終わったのでしょう?」

 

無言で歯を食いしばっているクラウチに代わり、お飾り魔法大臣が慌てた様子で返事を返した。

 

「はい、もう退廷していただいて構いません。」

 

鼻を鳴らして立ち上がり、もう一度評議員たちを見渡してからドアへと向かう。もちろんワザとゆっくり歩く。ふん、明日の予言者新聞を楽しみにしておくんだな。きっと首を吊りたくなるぞ。

 

ドアを開けて廊下へと出ると、アーサー・ウィーズリーとフランク・ロングボトムが待っていた。二人は椅子から立ち上がると、勢いこんで結果を聞いてくる。

 

「スカーレット女史! どうでしたか? 先程開心術師たちが入っていきましたが……。」

 

「まさか、尋問を受けたのではないでしょう? クラウチだってそこまでは……。」

 

捲し立ててくる二人に苦笑しつつ、首で合図して歩きながら詳細を話す。

 

「真実薬と開心術のフルコースで持て成されちゃったわ。お腹いっぱいよ。」

 

「そんな……クラウチめ! とうとうイカれたか!」

 

フランクは激怒し、アーサーは言葉を失っている。クスクス笑いながら続きを話してやることにした。

 

「ま、当然無実だったわ。あの時のクラウチの顔……見れなかったのは残念だったわね。」

 

「権力の亡者め、少しは反省すればいいんだ。」

 

ムーディ派のフランクはどうやら彼がお嫌いらしい。アーサーも好きではないようで、せいせいしたとばかりに口を開く。

 

「どうやら明日の朝刊を取っておくべきですね。我が家に貼り出すとしましょう。子供たちのいい反面教師になる。」

 

「早めに買っておいたほうが良さそうよ。明日は予言者新聞が飛ぶように売れるでしょうから。」

 

三人で苦笑しながらエレベーターへと入る。ボタンを押したフランクが、ニヤリと笑って口を開いた。

 

「しかしこれで、魔法省内でも動き易くなりますね。クラウチの信者どもも少しは大人しくなるでしょう。」

 

「そうなって欲しいわね。そうじゃなきゃ、こんな苦労をした甲斐がないもの。」

 

少なくともムーディは大喜びだろう。これで大手を振ってイカれた捜査をできるようになったのだから。『英雄尋問事件』を免罪符に、好き放題するに違いない。

 

頭の中で魔法省への影響力を伸ばすことを考えながら、レミリア・スカーレットは紅魔館にも新聞を貼り出そうと決意するのだった。

 

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