Game of Vampire   作:のみみず@白月

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甘えん坊さん

 

 

「……ねえ、本当に意味があると思うの?」

 

私としては半信半疑ってところだぞ。十二月に入ってから初めての魔法薬学の授業中、サクヤ・ヴェイユは隣で調合を進めている親友に対してそう問いかけていた。ちなみに今日の課題は危険性の高い『告別の呪薬』の調合ということで、他の生徒たちはやや緊張した面持ちで作業を進めている。

 

リーエムの血と刻んだベラドンナの葉を慎重に混ぜている私へと、グラップホーンの角の削り粉を鍋に投入している魔理沙が返事を寄越してきた。告別の呪薬そのものも貴重だが、使う材料も希少品が殆どだ。ブッチャー先生はストックが残り僅かだと授業の最初に説明していたから、評価を得るためには少しの失敗も許されないぞ。

 

「あんな仕掛けがあった上に、中に刻まれてたのは創始者の一人のサインなんだぞ。関係ないはずないだろ?」

 

「マーリンのサインだったらともかくとして、グリフィンドールのサインなのよ? そりゃあ年代的に関わりはあったんでしょうけど、私たちが調べている隠し部屋とは『別件』かもしれないじゃないの。……本物のグリフィンドールのサインかも疑わしいしね。」

 

「偽のサインを隠すために、わざわざ手の込んだ仕掛けを施すとは思えんぜ。お前は食らってないから実感が薄いのかもしれんが、かなり強力な魔法だったんだからな?」

 

「じゃあ、あれが本物のグリフィンドールのサインだとしましょう。そこは別に同意してもいいわ。……問題はペティグリューさんがそれを知らなかったって点よ。扉にたどり着けてた彼が知らない以上、サインと『順路』は関係ないってことなんじゃない?」

 

もしそんな仕掛けを突破していたなら私たちに教えてくれたはずだし、そもそも他の忍びたちにだって話して聞かせていただろう。魔理沙の言からするに、あの絵の裏の穴を守っていたのは『みぞの鏡』に近い強力な魔法の仕掛けだ。あれだけルートを詳細に覚えていたペティグリューさんが、そこだけ忘れるなんて有り得ないと思うぞ。

 

つまるところ、私たちは先日発見した『グリフィンドールのサイン』についてを話し合っているのだ。古い見取り図に新しいインクで印が付けられていた位置にあった、ペティグリューさんから聞いたルート上にあるマーリンではなくグリフィンドールのサイン。関係がありそうといえばありそうだし、なさそうといえばなさそうな微妙すぎる『手掛かり』。これは判断が難しいな。

 

私はどちらかといえば関係なさそうだと思っているのだが、魔理沙は怪しいと睨んでいるらしい。そんなわけでここ数日は延々二人で議論を繰り広げているのである。すり鉢の中で混ぜ合わせた紫色の液体を鍋に入れた私の疑問に、魔理沙は唸りながら応答してきた。

 

「でもよ、現状それくらいしかヒントが無いだろ。ペティグリューから教えてもらったルートは何度か辿ってみたし、扉があるはずの地下通路の壁も調査済み。古い見取り図と照らし合わせてルートを少し変えてみてもダメだったんだから、ここはあのサインの線を追ってみるべきだぜ。」

 

「まあ、これは貴女の『課題』よ。だったら主導権は貴女にあるわけだけど……でも、『サインの線を追う』って言っても具体的にどうするつもりなの?」

 

あの後寮に戻って見取り図を隈なく調べてみたものの、他に印らしきものは一切見当たらなかったのだ。この状況でサインについてを調べると言われても、何をどうしたら良いのかが分からないぞ。困った気分で尋ねた私へと、魔理沙は鍋をかき混ぜながら返答してくる。

 

「星見台の入り口のドアには何が刻まれてた?」

 

「四寮のシンボルよ。杖に巻き付く蛇、剣を咥えた獅子、本を掴んだ鷲、花飾りを抱えた穴熊。……それがどうかしたの?」

 

「つまりよ、私は他にもサインがあるんじゃないかと考えてるわけだ。もしあのサインがマーリンの仕掛けの一部だってんなら、『グリフィンドール単品』ってのは違和感があるぜ。」

 

「ここでも四寮がセットになってるってこと? ……まあ、有り得なくはない仮説だと思うわ。本当にサインが隠し部屋に関係してたらの話だけど。」

 

これまで図書館の本を通して調べた限りでは、マーリンはホグワーツにある意味で『心酔』していた。創始者四人に対する深い尊敬を示す逸話も数多く残っているし、彼が宿敵モルガナに対抗し始めた切っ掛けは他ならぬホグワーツを守るためなのだ。そんな彼が施した仕掛けであれば、創始者全員が関わっていると推察するのはおかしなことではないだろう。

 

鍋の火加減を調整しながら思考を回していると、やおら歩み寄ってきた誰かが私たちに声をかけてくる。一緒に授業を受けているレイブンクローの六年生男子のミルウッドだ。

 

「あの、ちょっといいかな。もしフェアリーの羽が余ってたら分けて欲しいんだ。欠片だけでもいいから。」

 

どうやらミルウッドは教室中を巡って『カンパ』を募っているらしい。フェアリーの羽を使う工程はかなり難しかったので、失敗する生徒が多くてブッチャー先生のストックが尽きてしまったようだ。

 

「ん、いいぜ。私たちはもう終わってるから。」

 

困り果てているミルウッドに苦笑しながら彼が持っている容器に余った羽の欠片を入れた魔理沙に続いて、私も申し訳程度の量をそこに追加した。足りるのかな、これ。見た感じ全生徒を巡ってギリギリってところだぞ。

 

とはいえ、ミルウッドにとっては大きな救いになったようだ。小さな欠片まで大事そうに回収した彼は、私たちに笑顔でお礼を言ってくる。

 

「ありがとう、二人とも。君たちは調合が上手いんだね。他のところよりも多く余らせてるみたいだし、形も綺麗だ。助かったよ。」

 

「おう、そっちも頑張れよ。……っと、そうだ。ついでに聞きたいんだけどよ、創始者が残したサインの逸話ってレイブンクローに伝わってないか?」

 

「創始者のサイン?」

 

うーむ、行動力だけはピカイチだな。早速とばかりにサインに関する聞き込みを始めた魔理沙のことを、そんな簡単に見つかるようなものじゃないだろと呆れながら見ていると……んん? ミルウッドは心当たりがあるような顔付きで首肯してきた。私はこれっぽっちも期待していなかったのに、まさかの展開だな。

 

「あー、レイブンクロー寮にそんな感じの噂話は伝わってるよ。あくまで噂話だけどね。」

 

「マジでか。教えてくれ、ミルウッド。私たちはそれを探してるんだ。」

 

明るい表情になってぐいと顔を近付けた魔理沙へと、ミルウッドは何故か頬を赤くしながら口を開く。

 

「えっとね、ずっと昔の卒業生がロウェナ・レイブンクローのサインを見つけたって噂なんだ。レイブンクローは直筆のサインを殆ど残してないから、もし本当に存在していれば凄く貴重なものなんだよ。」

 

「具体的な場所は?」

 

「……ごめん、そこまでは伝わってないんだ。その卒業生は百年くらい前の人みたいだから、話を聞くのも難しいかも。」

 

一転して申し訳なさそうになってしまったミルウッドに、魔理沙は肩を竦めて返事を送る。百年前か。遠い過去だな。

 

「その情報だけでも充分だぜ。サインの存在を後押しする噂話なわけだしな。」

 

「でもね、真実味はあるんだ。……僕、ダンブルドア先生が防衛術を教えてくれてた時に聞いてみたんだよ。そういう話があるんですけど、何か心当たりはありませんかって。質問に行ったついでの、単なる世間話だったんだけどね。」

 

「そしたらどうだったんだ?」

 

「知ってるって言ってたよ。実際に見たこともあるって。ちょっと冗談めかした口調だったけど、ダンブルドア先生が生徒に嘘を吐くはずないし、実在してるのは確かなんだと思う。……『わしが知る中で最も賢い魔女がそれを見つけた』って言ってた。その人からふとした拍子に話を聞いて、二十年くらい前にダンブルドア先生も見つけたんだってさ。」

 

ミルウッドの発言を受けて、魔理沙と二人で勢いよく顔を見合わせた。ダンブルドア先生が知る『最も賢い魔女』は、私が知っているそれと同一人物のはずだ。イギリス魔法界でその称号が相応しい魔女はたった一人しか居ないのだから。

 

「えっと、どうしたの? 二人とも。」

 

「いや、何でもないんだ。教えてくれてありがとよ、ミルウッド。」

 

「うん、何かあったらまた聞いてよ。噂話には結構自信があるからさ。」

 

魔理沙に応じてから別の生徒にカンパを頼みに行ったミルウッドを見送りつつ、『サイン探し』の作戦会議を再開する。予想していた以上の情報が得られたな。噂話も案外バカに出来ないらしい。

 

「レイブンクローのサインを見つけた卒業生っていうのはパチュリー様よね、どう考えても。」

 

「だな。ダンブルドアが『最も賢い魔女』って言ったなら、それは間違いなくノーレッジのことだろ。……問題はだ、ダンブルドアにもノーレッジにも話を聞けないって点だぜ。」

 

「……アリスに相談してみる? もしかしたらパチュリー様から何か聞いてるかも。」

 

「それがいいかもな。レイブンクローのサインについてはクリスマス休暇に入ったらアリスに直接聞いてみよう。……こうなるとハッフルパフとスリザリンのサインもあるような気がしてきたぜ。」

 

まあうん、私もさっきよりは疑いが薄れているぞ。オーグリーの羽根の重さを量りつつ、熟考し始めた魔理沙に提案を飛ばした。

 

「色々な人に尋ねてみましょうよ。長く勤めている先生方とか、噂に詳しそうな他寮生とかにね。あとはブラックさんとルーピン先生にももう一度手紙を送ってみれば? サインのことはまだ聞いてないわけだし。」

 

「そうしてみるか。クリスマスにダイアゴン横丁に戻ったら、双子にも聞いてみようぜ。あいつらはこの城を隅々まで調べてたからな。ひょっとすると知ってるかもしれん。」

 

「ノーヒントで小さなサインを探してたら卒業までかかっちゃうでしょうし、とにかく手掛かりが必要よ。ルート上の壁とかを調べるのと並行して聞き込みを続けてみましょ。」

 

「おしおし、計画が纏まってきたな。良い感じだぜ。……ってもまあ、今は調合に集中した方が良さそうだぞ。この辺からクソ難しい工程に入っていくみたいだ。」

 

魔理沙が指差した教科書の調合手順を読んでみれば……うわぁ、これは確かに難しいな。調合前にサラッと読んだ時は気付かなかったが、物凄く微細な調整が求められるらしい。もしイモリ試験にこれが出てきたらと思うとゾッとするぞ。

 

黒板に書いてあるブッチャー先生の注意事項と調合手順を見比べつつ、サクヤ・ヴェイユは慎重な手付きで鍋の中身をかき混ぜるのだった。

 

 

─────

 

 

「あー……疲れた。エマ、肩を揉んでくれ。」

 

何だって私がこんなことをやらねばならんのだ。人形店のリビングのソファにどさりと身を下ろしつつ、アンネリーゼ・バートリは巨大なため息を吐いていた。面倒くさすぎるぞ。

 

十二月も真ん中を過ぎた今日、博麗神社で神札の『補充』を済ませて帰ってきたところなのだ。二柱の神の機嫌を取るためには早苗の機嫌を取らねばならず、早苗の機嫌を取るためには二柱を顕現させる必要があり、二柱を顕現させるための神札を手に入れるには紅白巫女の機嫌を取らなければならない。うんざりしてくるぞ、まったく。何だこのご機嫌取りの連鎖は。

 

外回りのビジネスマンみたいなことをしている自分を疑問視しながら、我が身に降りかかっている災難を嘆いて額を押さえていると、近付いてきたエマがソファの後ろに回って私の肩を揉み始める。

 

「疲れてるみたいですね、お嬢様。」

 

「ああ、疲れているとも。巫女も早苗も徐々に要求を吊り上げてくるんだ。忌々しい限りだよ。」

 

「気安い関係になってきたってことなんですよ、きっと。『外交』の成果が出てるじゃないですか。」

 

「こういう立ち位置を目指していたわけじゃないんだけどね。」

 

博麗神社の紅白巫女は今や神札の代わりにエマのケーキの個数と種類を指定するようになったし、早苗の方はもっとひどい。あの小娘はどんどん私に『甘えて』くるようになってきたのだ。

 

マホウトコロにおける外出日には必ず日本に来ることを要求してきて、おまけに二柱と会うための札もセットで望んでくる始末。私はこう、『忠実な犬』って状態を目指していたんだが……早苗の我儘っぷりを見誤ったらしいな。あれは犬ではなく猫だ。可愛がるとこっちに尽くしてくれる社会性のある犬ではなく、際限なくベタベタと甘えまくってくる自己中心的な猫。厄介すぎるぞ。

 

イギリスに居た時の早苗はその『本性』を隠していたようで、この段階になってようやくそれを垣間見せるようになってきたのである。普段のあの子は礼儀正しい控え目な仮面を被っているが、その中にあった本当の顔はとびっきりの我儘娘だったらしい。二柱が言っていた通りじゃないか。何故あの発言をしっかり受け止めなかったんだよ、私。

 

つまり『他人』に対してはおどおどと遠慮しがちなのに、『身内』に対しては心を許せば許すほどに全力で寄り掛かってくるタイプなわけだ。一種の内弁慶だな。同じ依存し易い性格でも咲夜のそれとは性質が正反対だぞ。咲夜がせっせと世話を焼いてくるタイプなら、早苗は笑顔で次々と要求してくるタイプ。

 

である以上、私が苦労して作った『貸し』の数々は貸した当初よりも値が下がっていることになる。早苗にとっての私は『親切にしてくれる敬うべき他人』ではなく、『甘やかしてくれる遠慮のいらない身内』になってしまったのだから。仲良くなればなるほどに貸しの価値が下がっていくわけか。恐ろしいシステムだな。

 

『クリスマスもみんなで一緒に遊びたいです!』と満面の笑みで要求してきた早苗のことを思い出しつつ、この負債は幻想郷に行った後で絶対に二柱から取り立ててやるぞと決意を固めていると、これまた疲れた様子のアリスがリビングルームに入ってきた。

 

「あれ、リーゼ様? 帰ってたんですか。」

 

「ん、ついさっき煙突飛行でね。人形は売れたのかい? 今日は取り引きがあったんだろう?」

 

「売れたと言うか、卸したって言うべきですね。昔から付き合いがあるフランスの人形店の店主さんが直接来てくれて、纏めて引き取ってくれました。向こうの魔法界ではこっちよりも需要があるみたいです。」

 

「ふぅん、良いことじゃないか。店頭で売りたいキミとしては微妙な気分かもしれないがね。」

 

エマに肩を揉まれながら苦笑した私に、アリスもまた同じような顔付きで返してくる。

 

「やっぱり直接売りたいんですけどね。まだ普通に売れたのは数体だけですよ。……そういえばエマさん、この前置いたパンをまた置いて欲しいって人が多かったんですけど、どうでしょう?」

 

「パンをですか? ……でもあれって、うちで使う分の余りだったんですけど。」

 

「昔は向こうの角にパン屋さんがあったんですけどね。今は少し離れた場所にしかないので、ここで買えると助かるって近所の人に言われちゃいました。」

 

「この上パンまで売り始めたら、いよいよ何の店か分からなくなるじゃないか。やめておきたまえよ。別に儲けを出そうと思ってやってる店じゃないんだから。」

 

マーガトロイド人形・菓子・パン店? 意味不明だぞ。呆れた声色で会話に割り込んでみると、アリスはダイニングテーブルに着きながらやれやれと首を振ってきた。

 

「もう何でもいいんですけどね、私は。エマさんが作る物はお菓子だろうがパンだろうが美味しいんです。それを食べて育った私はよく知ってます。やろうと思えばレストランだって開けますよ。」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいんですけど……まあその、パンまで作るのはちょっと難しいですね。お嬢様が卒業したので、お世話のために使う時間が多くなったんです。さすがに本業を蔑ろにするわけにはいきませんよ。」

 

「その通りだ。キミは本来私のものなんだから、趣味は趣味に留めておきたまえ。無理してやるようなもんじゃないよ。」

 

エマは私のメイドなんだぞ。他人のためにパンなんぞを作らなくてもいいんだ。鼻を鳴らして言い放った私に……むう、何だその表情は。アリスはちょびっとだけ微笑ましそうな顔で口を開く。

 

「……リーゼ様でも甘える時があるんですね。」

 

「甘える? 何を言っているんだ、キミは。私は主人として従者に注意しているだけだぞ。」

 

「えへへ、お嬢様は実は結構甘えん坊さんなんですよ? 二人っきりの時は沢山甘えてくれますから。」

 

「キミたちね、私の話を聞いているかい? 違うと言っているだろうが。」

 

ええい、無視するんじゃない。異議を申し立てた私を何とも言えない顔付きで見ているアリスは、急に話題を大きく変えてきた。

 

「まあ、パンはやめておきましょう。それよりリーゼ様、クリスマスはどうするんですか? 早苗ちゃんがイギリスに遊びに来るんですよね?」

 

「私は『甘えん坊さん』じゃないからな。それを先ず認めたまえよ。」

 

「分かりましたって。」

 

食い下がった私に適当な感じの相槌を打ったアリスをジト目で睨みつつ、クリスマスの予定を脳内から引き出して答えを送る。違うんだからな。何だよ『甘えん坊さん』って。

 

「……ハリーたちとクリスマスパーティーをやるって約束しているから、クリスマスの昼は隠れ穴で、夜はここでキミたちと過ごすよ。早苗に付き合うのはその他の日になりそうかな。クリスマス当日は必要な分だけ札を渡しておけば、二柱と一緒に勝手に楽しんでくれるだろうさ。」

 

「全部合わせれば物凄い量を消費することになるわけですけど、札はそんなに手に入ったんですか?」

 

「大量のエマのケーキと肉と細々とした雑貨と引き換えにね。あの巫女、苦もなく神札を『量産』してのけたよ。妖怪としては恐ろしい話さ。」

 

「量産、ですか。……『幻想郷の調停者』だけのことはありますね。」

 

あの巫女は紫とは別方向で掴み所がないので確たることは言えないが、尋常な存在じゃないことは間違いないだろう。紫がどこから『スカウト』してきた子なのか、本当に人間なのか、何故あの貧乏神社で巫女をやっているのか、どうして本人は幻想郷の調停者であることを当然の如く自負しているのか。詳細は未だに判明していないものの、敵対したくない存在だということだけは確実だぞ。

 

アリスの言葉に深々と頷いてから、ずっと肩を揉んでいたエマにもういいよと手を振って更に話題を変えた。

 

「ま、幻想郷に関しては私に任せたまえ。移住までにある程度の地盤を確保しておくから。……それより、咲夜と魔理沙はどうなっているんだい? それらしい手紙は来ていないのか?」

 

「えっとですね、クリスマス休暇で帰ってきた時に何か聞きたいことがあるんだそうです。文面からすると、まだまだ逆転時計にはたどり着いていないみたいですね。」

 

「遡行するまではまだ余裕があるということか。そこはまあ、普通に安心だが……難しいね。帰ってきたらどう対応すればいいのやら。」

 

「何もしない方がいいなら、『いつも通り』に対応すべきですよ。何か聞かれたら素直に答えましょう。普段の私たちが答えるようなことなら答えていいはずです。」

 

考え込みながら放たれたアリスの返答に、腕を組んで首肯する。『自然に振る舞う』というのがもう不自然だと思うんだがな。余計なことをするのが危険である以上、今は意識してそう振る舞う他ないか。

 

湯水の如く消費される札と、甘えまくってくる早苗と、面倒な要求をしてきた二柱と、咲夜の遡行問題。リドルとベアトリスの問題を解決してなお問題が山積みなことにうんざりしつつ、アンネリーゼ・バートリは生とはかくもイベントに事欠かないものなのかと嘆くのだった。

 


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