Game of Vampire   作:のみみず@白月

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隠し通路の小戦闘

 

「いいから見てくれ、ピックトゥース。」

 

ホグワーツの廊下で呼び止められたフランドール・スカーレットは、ジェームズの突き出す地図を目を細めて眺めていた。

 

地図自体はもちろん見慣れたものだ。なんたってフランも作るのに協力したのだから。

 

『忍びの地図』と名付けたこのホグワーツの詳細な地図は、五人組で協力して作った悪戯好きのための強い味方だ。普段はボロボロの羊皮紙にしか見えないが、合言葉を唱えながら杖を置くと、ホグワーツにいる人の配置がリアルタイムで映し出されるのだ。

 

ちなみに仕組みはさっぱりわからん。フランはパチュリーの図書館から本を調達したり、歩き回ってホグワーツを調べるのを協力しただけだ。

 

専らフィルチを欺くために使われているそれには、特におかしな点は見当たらない。精々ピーブスがスラグホーン先生の薬品庫で悪戯をしているくらいだ。つまり、いつものホグワーツである。

 

フランが何か言う前に、隣にいたコゼットがうんざりしたように口を開いた。

 

「ポッター、フランをまたトラブルに巻き込む気なの? この子の純真さにつけ込むような真似はやめてよね。」

 

最近のコゼットはハッキリとものを言うようになった気がする。彼女はあの日……お父さんの訃報を聞いたあの日以来、呪文の鍛錬を欠かさないようになった。フランが聞いても、笑顔で『用心のためだよ』としか言わないが……なんだかちょっと心配なのだ。

 

そんなコゼットはジェームズたちを怪しんでいるらしい。この前スネイプに大怪我させたときには、滅多に使わないような言葉で罵っていた。まあ……あれはフランもやり過ぎだったと思う。本人たちも同様らしく、しばらく沈み込んでいたくらいだ。

 

「違うんだよ、ヴェイユ。いや……まあ、違わないんだけど。悪戯の相談じゃないんだ! ほら、ホグズミードに通じてる隠し通路を見てみろよ!」

 

ジェームズの言葉にそこを見てみると……ラバスタン・レストレンジ? 聞いたことのない名前が見える。他にも見知らぬ二人の名前がそいつと一緒に蠢いていた。

 

「誰なの? こいつら。」

 

フランの疑問に、ちょっと緊張した様子のシリウスが答えを放つ。

 

「死喰い人さ。レストレンジってのは我が忌々しい実家の親戚なんだ。あの家には生粋のクソ野郎しかいない。間違いなく死喰い人だ。」

 

死喰い人。その単語を聞いたコゼットが固まるのが分かった。フランも少しだけ緊張してくる。なんたって、リーゼお姉様ですら梃子摺る悪いヤツらなのだ。

 

それを見たジェームズが、声を潜めてフランとコゼットに話しかけてきた。

 

「きっとホグワーツを探りにきたんだよ。ここはダンブルドア校長の拠点だからね。だから……こいつらを僕たちでやっつけてやらないか? そうすれば、僕たちも騎士団とやらに入れてもらえるかもしれないだろ?」

 

ジェームズとシリウスは校長先生の組織に入りたくてたまらないのだ。六年生に入ってから何度も直談判しているのだが、未成年では入れないの一点張りらしい。

 

コイツらを倒して認めてもらおうってことか? ううむ、地図にある名前は三つだけだ。やってやれなくもなさそうだが……。

 

「ダメに決まってるよ! すぐに校長先生に知らせないと!」

 

案の定コゼットは猛反対してくる。彼女は今にも校長室に走り出しそうだ。

 

それを見て慌てたジェームズが、コゼットの肩を掴みながら捲し立ててきた。

 

「待ってくれよヴェイユ! 君だってコイツらが憎いだろ? それに……君も本当は騎士団に入りたいはずだ。そのためにいつも空き部屋で呪文の練習をしてるんだろ?」

 

「そうだけど、でも、こんなの危ないよ。もし負けちゃったら死んじゃうんだよ? 本当に分かってるの?」

 

「それは騎士団の人たちだって一緒だろう? それでも戦うのが彼らなんだ。僕たちはその覚悟を示そうとしてるんだよ。」

 

未だ迷っている様子のコゼットだったが、走り出す気配はなくなった。葛藤している彼女の手を握って、下から覗き込みながら話しかける。

 

「あのね、コゼット。フランはコゼットの考えに従うよ。」

 

「フラン……。でも、フランも来るんでしょう? 怪我しちゃったら大変だよ。」

 

「うーん、コゼットはフランが怪我するところが想像できる? フランは……まあ、できないかなぁ。」

 

呪文はそもそも効かないし、肉弾戦だって余裕で勝てる場面しか浮かんでこない。それでも不安そうにしていたコゼットだったが、やがてゆっくりと頷いた。

 

「うん……わかった。六人でやっつけよう。そうすればきっとお母さんも……。」

 

「よし! そうと決まれば早速行こう。隠し通路だったら何度も通ってるんだ、地の利はあるぞ!」

 

勢いよく言ったジェームズに続いて、隠し通路の入り口へと走り出す。入り口は五階の大きな鏡の裏だ。階段を飛ぶように駆け上って、鏡の前にたどり着いた。

 

杖を抜いて構えながら、リーマスが緊張している様子で口を開く。

 

「プロングス、連中の位置は?」

 

「ちょっと待て……かなり城まで近づいてるな。何処で待ち受ける?」

 

「ここはどうだ? ほら、真ん中に大きな柱があるちょっとした広場だよ。岩でゴツゴツしてるし、隠れるのも楽じゃないかな。」

 

リーマスの指した地点を覗き込む。なるほど、あそこか。確か、岩だらけで歩き難い場所だったはずだ。ピーターが転んで擦り傷を作っていたのを思い出す。

 

「よし、行こう。早く行かないと連中が先に着いちまう。」

 

シリウスが獰猛に笑いながら隠し通路に入っていくのに続いて、他の五人も後を追う。ジェームズとコゼットは緊張しながらも杖を握りしめ、リーマスは油断なく辺りを見回している。ピーターは……おお、震えながらもきちんと杖を構えているみたいだ。

 

薄暗い通路を杖明かりを頼りに歩き続けると、一際大きな広間にたどり着いた。中央にはフランが三人がかりでも抱えきれない太さの石の柱が聳え立っている。

 

「よし、僕とパッドフットは正面に隠れる。ムーニーとワームテールが左、ピックトゥースとヴェイユが右だ。僕の合図で一斉に呪文を放ってくれ。」

 

ジェームズの作戦に、リーマスが補足を加えた。

 

「初撃を防がれても二人組を崩さないようにね。片方が攻撃、片方が防御だ。防衛術で習った通りにいこう。」

 

全員で頷き合って、配置についてから明かりを消す。真っ暗になった広間は耳に痛いような沈黙に包まれた。

 

ちょっとだけドキドキしていると、隣に隠れるコゼットが緊張した表情で囁いてくる。

 

「私が攻撃するから、フランは防御をお願いね。……危なくなったら自分のことを優先するんだよ?」

 

「大丈夫だよ、コゼット。フランがぺチッてやれば、呪文なんか簡単に弾けるもん。」

 

「油断しちゃダメだよ。約束して? 自分を優先するって。」

 

「ん、わかった。」

 

嘘である。もちろんコゼットが優先だ。フランのほうがお姉さんなんだから、コゼットが優先なのは当たり前なのだ。

 

しばらく黙りながら待っていると、通路の奥から物音が聞こえてきた。

 

「くそっ、面倒な通路だな。」

 

「静かにしろと言っているだろうが。面倒だろうが何だろうが、ここはいい侵入経路になるぞ。」

 

「まあ、そうだな。あの老人もここには気づいてないらしい。」

 

話し声とともに、コツコツという足音が近づいてくる。フランもちょっと緊張してきた。コゼットは蒼白になりながらも、杖をぎゅっと握りしめている。

 

少し待つと、杖明かりを灯した黒尽くめの三人組が見えてきた。小男、大男、猫背。全員揃って人相が悪い。……先入観かもしれない。

 

大男が広間を見て口を開いた。

 

「ほう、見事な広間じゃないか。俺好みだ。」

 

「お前の趣味なんかどうでもいいんだよ、レストレンジ。まだ歩くのか?」

 

「ふん、ここまでかなり歩いたんだ。もうそろそろ着くだろう。」

 

足元を見ながら先頭の大男が近づいてきた瞬間、ジェームズの声が広間に響き渡った。

 

「今だ! ステューピファイ(麻痺せよ)!」

 

同時に全員が呪文を放つ。フランも一応失神呪文を放った。……変な方向に飛んでいったが。

 

「敵だ!」

 

短く叫んだ大男はジェームズとシリウスの呪文を捌ききったらしい。リーマスとピーターの呪文も小男が防ぎ、コゼットの呪文は猫背が素早い動きで避けてしまった。全然倒せてないじゃん!

 

「なめるなよ! ガキ!」

 

飛び出したコゼットに猫背が呪文を放ってくるのを、前に出て慌ててはたき落としながら周りを見る。ジェームズとシリウスは見事な連携で大男を抑え込み、リーマスとピーターは……劣勢だ。二人で防御に回っている。

 

「このっ、エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

 

「はん、呪文ってのはこう使うんだよ! クルーシオ(苦しめ)!」

 

コゼットが一発放つ間に、猫背は三発は撃ってくる。これならフランが突っ込んでぶん殴ったほうが早そうだ。そのことをコゼットに伝えようと口を開いた瞬間、広場にリーマスの絶叫が響き渡った。

 

慌ててそちらを見てみると、倒れ伏したリーマスの隣でピーターが吹き飛ばされていくのが目に入ってくる。

 

「ムーニー、ワームテール! 貴様!」

 

慌てて援護に向かうシリウスの怒声を聞きながら、妙に冷静になった心で決断する。能力を使おう。みんなに怖がられてしまうかもしれないが、友達の危機なのだ。迷っている暇はない。

 

左手でコゼットを守りながら、右手をそっと前に向ける。クリアになった景色の中、猫背の『目』を手のひらに移動させた。

 

「きゅっとしてー、」

 

「何のつもりだ! ガキ! インペディ──」

 

「ドッカーン!」

 

言葉と共に右手を握った瞬間、猫背の右半身が吹き飛んだ。それを確かめる間もなく、次はシリウスと戦っている小男へと腕を向ける。

 

「んー……きゅっ!」

 

こちらを見る間もなく小男の上半身がなくなった。最後にジェームズが相手取っている大男は……おっと、半分になった小男を呆然と見ていた隙に、ジェームズの呪文が直撃したらしい。杖を放して吹っ飛んでいくところだった。

 

再び静寂の訪れた広間に、ジェームズの呟くような声が木霊する。

 

「これは……君がやったのか? ピック……後ろだ!」

 

後半を叫び声に変えたジェームズの言葉に、驚きながらも背後を見ると……猫背が残った左手で杖を振り上げている! 視線の先にいるコゼットはこちらを見ていて気付いていない。

 

全てがスローモーションに見える世界で、ゆっくりと猫背の腕が振り下ろされる。能力は間に合わない。それなら……こうだ!

 

足元にあった大きな岩を、猫背のほうへと思いっきり蹴っ飛ばした。

 

「アバダ・ケ、ぎぃっ……。」

 

岩が激突した猫背は妙な声を上げて、風船のように弾け飛ぶ。危なかった……危なかった! 思わず地面にへたり込んでしまう。

 

「……終わった、んだよな? ……そうだ! ムーニーとワームテールは? 無事なのか?」

 

真っ先に立ち直ったジェームズが二人の元へと走り出す。シリウスがそれに続き、フランも立ち上がろうとしたところで、近付いてきたコゼットが血相を変えてフランの身体をペタペタ触りだした。

 

「フラン! フランは怪我してない? 痛いところは? 何か変な感じはない?」

 

「く、くすぐったいよ、コゼット。その……怖くないの? あれをやったの、フランなんだよ?」

 

半分こにされた小男と岩の染みになった猫背を指差す。それを見たコゼットはちょっとだけ怯んだ様子だったが、フランの目を真っ直ぐに見ながら口を開いた。

 

「フランは助けてくれたんでしょう? 怖がるわけないよ!」

 

「ホントに? フラン、まだコゼットと友達でいられる?」

 

「当たり前のことを聞かないの! フランは私の大事な友達なんだから!」

 

ちょっと怒った顔のコゼットを見て、胸の中がぱあっと明るくなる。よかった、本当によかった。

 

安心したところで、倒れた二人を見ていたジェームズが二人の無事をこちらに大声で知らせてくれる。

 

「二人とも無事だ! 気絶してるだけらしい!」

 

どうやら誰も大怪我しないで済んだらしい。……こちらは、の話だが。残った大男は、シリウスが杖からロープを出して縛りつけている。

 

インカーセラス(縛れ)。よし、こいつは校長に突き出そう。他は……あー、このままにしとこうか。誰も触りたくないだろ?」

 

シリウスの言葉に、ジェームズが顔を引きつらせながら答えた。

 

「絶対に嫌だね。しかし……凄いな、ピックトゥース。こんな技を持ってたのか。」

 

「うん……引いた?」

 

「まあ、ちょっとだけ。でもお陰で助かったわけだしな。なんというか……頼りになるよ。」

 

肩を竦めて言うジェームズに、シリウスが合わせるように口を開く。

 

「そうだな。もっと早く教えてくれればよかったんだ。そしたらフィルチの部屋を爆破する時だって、あんなに苦労しないで済んだのに。」

 

二人もあんまり気にしてないようだ。怖がられるかもなんて、もしかしたら余計な心配だったのかもしれない。

 

「それより、早くルーピンとペティグリューを医務室に連れていこうよ。大丈夫かもしれないけど、念には念を入れるべきじゃない?」

 

コゼットの言葉に三人で頷いて、みんなで急いで準備をする。リーマスとピーターはジェームズとコゼットが杖で浮かせて運び、大男はシリウスが呪文で運ぶことになった。フランはその見張りだ。

 

「パッドフット、擦れちゃってるよ?」

 

「別に構いやしないだろ? ちょっとくらい頭を打てば、コイツもまともになれるかもしれないしな。」

 

シリウスは丁寧に運ぶ気はないらしい。ちょっとというか……ガンガンぶつけているが。まあ、フランだって気にしたりはしないのだ。

 

そういえば、当初の目的は達成できたのだろうか? 前を歩くジェームズに向かって問いかけてみる。

 

「ねえ、プロングス、これで騎士団に入れるの?」

 

「うーん……ちょっと予想してない結果になったかな。こっちは半壊だし、むこうは文字通りの『半壊』だからなぁ……。」

 

「でもでも、ちゃんとやっつけたよ?」

 

「いやぁ、なんだ、この分だと……ちょっと怒られるかもしれない。」

 

苦笑するジェームズに、コゼットとシリウスも苦笑いで頷く。なんてこった、怒られちゃうらしい。

 

薄暗い隠し通路を歩きながら、フランドール・スカーレットはやっぱり半殺しで止めとけばよかったと、今更ながらに後悔するのだった。

 

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