Game of Vampire 作:のみみず@白月
「ってことはだ、ここをこう回せばいけるんじゃないか?」
肌寒い廊下でテンションを上げている魔理沙を前に、サクヤ・ヴェイユは手元の羊皮紙を確認しながら一つ頷いていた。これまで調べた手順によれば、それでパズルは完成するはず。長かった試行錯誤の時間もようやく終わりか。
二月上旬のよく晴れた日の午後、私と魔理沙とジニーとルーナは天文塔の螺旋階段裏で例の立体パズルを動かしているのだ。アリスから教えてもらったパズルは恐ろしく複雑な物だったが、四人がかりで空き時間を活用して地道に解き進めた結果、何とか完成まで漕ぎ着けたのである。
私の首肯を受けた魔理沙が球体部分の四段目をゆっくりと半回転させると、同時に全ての稼働する部分が同期して回り……やっぱり模様ではなく、文字だったのか。球体の表面に歪な読み難い一文が完成した。ラテン語かな?
「やっと完成ね。……で、誰か読める? ぐにゃんぐにゃんな上に普通の英語じゃないみたいだけど。」
「『知識を糧に、知恵を血肉に。積み重ねた者だけが高みを覗ける。』かな。ルーン文字学でラテン語は習ったから、多分合ってると思うよ。バブリング先生が言うには、ラテン語は力ある文字なんだって。」
実に格言っぽい内容だな。ジニーの質問にルーナが答えたところで、球体がやおら土台になっている王冠の方へと下がっていき……わお、めり込んじゃったぞ。王冠の中心部分の床に球体の半分が沈み込んでしまう。水に沈むような滑らかな動きだったし、何かの魔法が使われている仕掛けらしい。
「……私、球体がカパッと開いて中のサインが見られるようになるんだとばっかり思ってたわ。」
「私もだぜ。意外に手が込んでたな。」
私と魔理沙が呆気に取られている間にも、下半分が地面に埋まってしまった球体の上の部分がカシャリと開く。すると中には……あれがレイブンクローのサインか。上部と下部が開いた所為で不格好な筒のようになってしまった球体越しに、レイブンクローのサインが刻まれてあるのが見えてきた。どうやら王冠の下に小さな空洞があって、球体はそこを覗き込むための『鍵』になっていたようだ。
「
「どれ? 私にも見せてよ。」
杖明かりを灯して王冠の下の空間を覗き込んでいる魔理沙と、彼女に負ぶさるような体勢でよく見ようとしているジニー。チラッとは見えたし後からでいいやと二人の背中を眺めている私に、ルーナがポツリと話しかけてくる。
「これって、頭の中を覗くって意味なのかな?」
「へ? ……あー、なるほどね。王冠の下にあるのは頭ってこと?」
「ん、そういうこと。王冠を被る人の頭の中にあの格言があるのが重要ってことなんじゃないかな。上に浮かんでるだけじゃダメなんだよ、きっと。」
「本人が作ったのかは分からないけど、レイブンクローらしい仕掛けではあるわね。」
ちょっとした『教訓』をパズルで表現するというのは、何となくパチュリー様を連想させるやり方だぞ。私とルーナが納得したところで、魔理沙とジニーがオブジェから離れて口を開く。二人とも満足したようだ。
「おっし、これでレイブンクローのサインも見られたぜ。正解の手順もきっちりメモできたしな。協力してくれてありがとよ、二人とも。」
「ま、珍しいものを見られたわ。クィディッチと勉強の息抜きにはなったわね。」
「うん、面白かった。」
手伝ってくれたジニーとルーナが魔理沙のお礼に応答した後、全員でもう一度サインを確認していると……ありゃ、もう終わりか。見学は終了とばかりに球体が元に戻り始めてしまった。あれだけ苦労したのに、終わってみると呆気ないな。
ジニーも同じ感想を抱いたようで、疲れたようにやれやれと首を振ってから私たちに言葉を送ってくる。
「ついでにお宝でも入ってれば嬉しかったんだけど、本当にサインを隠すためだけの仕掛けだったみたいね。」
「悪かったな、付き合わせちまって。正直そんなに興味なかったろ?」
「いいわよ、これくらいなら。ハリーたちほど派手な体験ではなかったけど、これはこれで四人の良い思い出になりそうだしね。……じゃあ、とりあえず大広間に戻りましょうか。」
苦笑したジニーが歩き出そうとした瞬間、廊下の先からピーブズのけたたましい声が聞こえてきた。またお馴染みの馬鹿騒ぎを始めたらしい。何百年も同じことをしていてよく飽きないな。ポルターガイストという種族……性質? 故なのかもしれないけど、その一貫性だけは凄いと思うぞ。
「おいおい、誰か絡まれてるのか?」
「ピーブズが騒ぎ始めたってことは、すぐにフィルチさんが来るわよ。妙な疑いをかけられる前に逃げちゃいましょ。」
「ちょっと待った、被害者が一年生とかだったら助けに入らないと可哀想だぜ。」
まあうん、確かに下級生だったら可哀想だな。私の警告を耳にしつつ懐から取り出した忍びの地図を起動させた魔理沙は、すぐさま廊下の先に居る『被害者』の名前を特定する。
「絡まれてるのは、あーっと……チェストボーンだな。放っておいても大丈夫そうだ。」
全員に見えるように地図を広げた魔理沙の言う通り、『ピーブズ』という名前のすぐ近くに表示されているのは『バイロン・チェストボーン』という名前だ。さすがに教師であれば手助けは不要だろう。というか、ピーブズが教師にちょっかいをかけるのは珍しいな。舐められているのか?
「なら、さっさとお暇しましょ。ほらここ、フィルチが一直線に向かって来てるわよ。」
「フィルチのやつ、何をどうやって察知してるんだろうな?」
「長年の経験ってやつじゃない? フィルチの仕事の半分は『ピーブズ対策』でしょうし。」
魔理沙と話しながらのジニーの促しに従って、フィルチさんが通るであろう通路とは違うルートで大広間へと向かい始めた私たちの背後から……何とまあ、今日は一際派手に騒いでいるな。金属の何かを思いっきり打ち鳴らす騒音と共に、ピーブズの甲高いおちょくるような声が響いてきた。チェストボーン先生も早く対処すればいいのに。
「うろちょろ、うろうろ、チェストボーン! 生徒を覗き見、チェストボーン! こそこそ、のろのろ、チェスト──」
「ピーブズ!」
おっと、フィルチさんが『現着』したらしい。ピーブズの声よりも更に大きな怒声が響き渡ったところで、巻き込まれてなるものかと四人で小走りになって大広間へと移動する。そうして安全圏と思われる中央階段まで離れた後、魔理沙が地図をチェックしながら報告を寄越してきた。
「おし、もう大丈夫そうだ。……ピーブズのやつ、『生徒を覗き見』って言ってなかったか?」
「言ってたわね。あの辺に私たち以外に誰か居た?」
「まだ授業中だし、誰も居なかったぞ。……まさか、私たちのことを覗き見てたってことか?」
動く階段を下りながらちょっと不気味そうな面持ちで返答してきた魔理沙へと、私も若干嫌な気分で首を傾げる。騒ぎがあったのはちょうど私たちが居た場所に繋がる廊下の角だ。可能不可能で言えば覗き見ることは可能だろう。
「……気味が悪いわね。あんな場所で何をやっているのかが疑問だったとか?」
「それなら普通に声をかけるだろ。」
そりゃそうだ。私と魔理沙が微妙な表情で顔を見合わせるのに、ジニーとルーナも同じような顔付きで相槌を打つ。
「何考えてるかよく分かんないのよね、あの人。授業がつまんない云々を抜きにしても好きになれないわ。生徒との関わりを避けてる感じ。……何で教師になったんでしょうね?」
「出身はレイブンクローみたいだけど、私たちの寮でも人気はないかな。みんなマクゴナガル先生とかマーガトロイド先生の授業の方が良かったって言ってるよ。」
「他の先生方と話してるのもあまり見ないわよね。ブッチャー先生ですら先生同士の会話には参加してるのに。」
まあ、最近ではもう生徒も普通に話しかけているが。大広間の教員テーブルでのブッチャー先生の態度を思い出しながら言ってやれば、魔理沙が肩を竦めて話題を締めてきた。
「とはいえ、ピーブズの言うことだしな。あんまり気にしても仕方ないだろ。」
それはそうだな。あのポルターガイストの台詞をいちいち気にしていたら、ホグワーツではやっていけないだろう。入学から三日で学べるこの城の真理を語った魔理沙の背を追って、一階の廊下へと足を踏み入れる。
何にせよ、これで三つのサインを見つけることが出来た。あとはマルフォイ先輩からヒントを貰った地下牢のスリザリンのサインだけだ。イモリ試験を控えているジニーとルーナをこれ以上付き合わせるのは悪いし、そっちは魔理沙と二人で調べることになりそうかな。
チェストボーン先生が私たちのことを『覗き見て』いたかもしれない。ちょびっとだけ不気味なその可能性に眉を顰めつつ、サクヤ・ヴェイユは大広間へと歩を進めるのだった。
─────
「やあ、ゲラート。偉大なる連合王国を楽しんでいるかい? 神は世界を創る時、何よりも先にこう言ったらしいよ。『グレートブリテンよあれ』と。」
イギリス魔法省の地下一階にある貴賓室。豪奢なソファと分厚いテーブルが置かれているその部屋に居るゲラートへと、アンネリーゼ・バートリはひらひらと手を振りながら話しかけていた。ちなみにここは未だ片付けられずに残っている『イギリス魔法省外部顧問室』の向かいだ。嘗てのレミリアのオフィスの目の前に、客人としてゲラートが案内されたってのは諧謔があって面白いな。
二月も真ん中が見えてきた今日、非魔法界対策委員会の議長どのがイギリス魔法省を訪問しているのだ。予言者新聞でそのことを知った私は、是非ともちょっかいを出しに行かねばと魔法省に駆け付けたわけだが……何だその迷惑そうな表情は。この私が顔を出しに来てやったんだから、もっと嬉しそうにしたらどうなんだよ。
「……何故お前がここに居るんだ?」
「それはだね、ここがイギリスだからだよ。イギリスは私が所有している国家なんだ。」
「イギリスには名目上の君主が居て、非魔法族の首相が居て、実質的な為政者である議員たちが居て、そして魔法大臣が居るはずだ。お前がそのどれでもない以上、ここはお前の国では……そんなことより、護衛は何をしていたんだ? こういう事態を防ぐために警備しているはずだぞ。」
「ドアの前に居た銀朱ローブのことかい? 顔見知りだから通してくれたよ。キミ、もっときちんと教育した方がいいんじゃないか? あの護衛君、この私を廊下で待たせる気かと不機嫌そうに言うだけでドアを開けたぞ。」
ドアの前に立っていたのは、ゲラートが一昨年のトーナメント開催パーティーの際に連れていた護衛君だったのだ。勝手に対面のソファに腰を下ろしながら注意した私に、ロシアの議長閣下はうんざりしたような顔付きで応じてくる。
「……そうだな、後で言っておこう。二度と怪しい吸血鬼をノーチェックで通すなと。」
「まあ、そんなことはどうでも良いさ。どんなに警備を厳しくしたところで無意味だからね。吸血鬼ってのは生まれながらの不法侵入者なんだ。『マスターキー』を持って誕生するんだよ。……で、委員会の方はどうなんだい? 進んでいるのか?」
テーブルに置いてある茶菓子を漁りながら問いかけた私へと、ゲラートは忌々しそうにため息を吐いてから返答してきた。いいのが置いてあるじゃないか。さすがは最上級の貴賓室だな。ファッジと違って倹約家のボーンズも、こういう部分には予算を惜しまないらしい。
「現状を一言で表せば……そう、『惨め』だな。俺は今惨めな気分になっている。」
「ふぅん? キミに『惨め』って言葉は似合わないね。キミに似合うのは『支配』とか、『変革』とか、『アスコットタイ』って言葉だよ。」
「俺は世界の魔法族のために、これまで自分の人生を捧げてきたつもりだ。必ずしも良い結果を齎せたとは思っていないが、多少は報われて然るべきだと考えている。……だが、魔法族の非魔法界に対する理解度は俺の予想を遥かに下回っていた。惨めだ。俺が人生を懸けた魔法族という連中は、どうやら能無しの集団だったらしい。」
おやまあ、随分と落ち込んでいるな。それどころかちょっと怒っているようにも見えるぞ。珍しくイライラした口調になっているゲラートに対して、肩を竦めながら相槌を打つ。
「具体的に言いたまえよ。どんな状況だったんだい?」
「先日連盟加盟国で一斉に行った調査によれば、世界の魔法族の約六十パーセントが『非魔法族の技術は魔法族の魔法に劣る存在である』と判断しているらしい。そして残りの四十パーセントの内の半分は『魔法が僅かに優る』と考えており、更に残りの二十パーセントの半分は『ほぼ同等である』と見做している。つまるところ、非魔法族の技術力を脅威だと感じている魔法族は全体の十パーセント程度しか居ないということだ。」
「それが何か問題なのか? 予想通りの割合だと思うがね。」
百人に十人、十人に一人か。まあうん、明確に『脅威である』と断定しそうなのはそのくらいじゃないか? むしろ予想より多いぞ。私は二十人に一人居れば上出来だと考えていたんだが、最近の活動のお陰で理解者が増えてきたのかもしれないな。何を今更と問い返した私へと、ゲラートは大きく鼻を鳴らして詳細を述べてきた。
「今言ったのは世界全体での割合であって、国毎の平均ではない。思考能力のある十パーセントを支えているのは北アメリカとロシア、そしてこの国の魔法界だ。……よく考えてみろ、吸血鬼。このイギリス魔法界ですら非魔法界への理解度においては『先進国』なんだぞ。恐らくロシアは俺が、イギリスはスカーレットが居た影響によるものだろう。他の国はそれより遥かに非魔法界を知らないんだ。そう考えると愉快な気分にはなれんな。」
「あー……まあ、そうだね。イギリス魔法界がマシな部類って考えると、他の国はとんでもなく『ヤバい』ように思えてきたよ。」
アーサーが非魔法界関係の部署の長になっているような国が『先進国』? 凄まじい話だな。ちょびっとだけ不安になりつつも、続けてゲラートへと質問を飛ばす。
「しかしだね、東アジア圏は多少まともに見えたぞ。日本や香港自治区の割合はどうだったんだい?」
「香港特別魔法自治区は連盟加盟国ではないから今回の調査からは外れている。あの場所はどこまでもグレーゾーンだ。そもそも国ではないし、厳密に言えばどの国家にも属していない。面積や人口すらはっきりしていないのだから、調査も何もないだろう。……そして日本魔法界はお前が言うように比較的『まとも』なスコアを出してきたが、対策委員会関係においてはどうにも動きが怪しすぎる。現状ではあまり信用できん。」
「ん? どういう意味だい?」
「内部でお得意の派閥争いをしているようだ。非魔法界対策の舵をどの派閥が握るかを決定できていないのだろう。」
『面倒くさい』という表情を隠そうともせずに吐き捨てたゲラートは、至極迷惑そうに日本魔法界についての予想を続けてきた。まーた三派閥か。
「恐らく日本魔法界は非魔法界問題を重く捉えているが故に、先頭に立つことによって生じる利益を無視できないのだろう。今後長く続き、そして大きな問題になることを予想しているからこそ、他派閥に『非魔法界対策』の利権を渡したくないんだ。……委員会の日本代表委員も既に三度交代している。さっさと問題に取り掛かりたい俺からすれば、迷惑な話だと言わざるを得んな。」
「ああ、そういうことか。なまじ非魔法界問題を重視しているから、その担当の座を三派閥で奪い合っていると。……順当に『外交強者』の藤原派が担当すると思っていたんだけどね。白木は動いていないのかい?」
「かの桜枝は黙して動かずだ。『積極的に関わる気がない』という姿勢だけは明らかにしている。要するに堂々とやる気が無いことを表明したわけだな。……お前は日本魔法界に詳しいのか?」
「ん、最近色々と関わっているからね。今ではちょっとだけ影響力も注いでいるよ。マホウトコロの生徒の一人の『パトロン』をやっているんだ。……手助けしてあげようか? 内情を探るくらいならやってあげてもいいぞ。」
一つ一つ袋に入っているクッキーを食べながら言ってやれば……おお? ゲラートにしては素直じゃないか? 議長どのはさほど迷わずに首肯してくる。
「ならば頼んでおこう。あの国は国土の割に総人口が多く、そうなると当然魔法族の人口も他国と比較して多い。狭いのに多いということは関わる機会が増えるということだ。だからこの問題を大きくするにあたって利用したい国家ではあるが、非魔法界側の国家の姿勢としてロシアよりも北アメリカ寄りな所為で、ロシアの議長という肩書きを持つ俺の方からはどうにも影響力を伸ばし切れん。間接的な関係を築くにしても、せめてどの派閥が『窓口』に適しているかは知っておきたい。……いけそうか?」
「んふふ、素直に頼んできたことに免じてやってあげようじゃないか。……いやぁ、昔を思い出すね。ヨーロッパ大戦の時を。」
五十年の時を経て、ゲラートの支配力を増すためにまた働くわけか。邪悪なコンビの復活だ。良い気分でニヤニヤしている私へと、ゲラートは若干不安そうな顔付きで念を押してきた。
「……やり過ぎるなよ? 今の俺は『表側』の人間だ。あの頃のようなやり方をするわけにはいかん。」
「キミやレミィがどうだかは知らないけどね、私はいつだって『裏側』なんだ。どんなにコインをくるくる回しても、私が居る面は決して見えないようになっているのさ。」
ヨーロッパ大戦の時はゲラートの裏に、第一次魔法戦争の時はレミリアの裏に、そして第二次魔法戦争ではハリーやダンブルドアの裏に。それこそが私の……というか、バートリのやり方なのだ。誰からの称賛も受けられない代わりに、舞台袖の一番近い場所で観劇できる。それが私なりのゲームの楽しみ方だぞ。
私が翼をパタパタしながら嘯いたところで、部屋のドアがノックされると共に呼びかけの声が耳に届く。ロシア語だし、護衛君かな?
『議長、イギリス魔法省の職員の方がいらっしゃいました。』
『ああ、入れろ。』
言いながらゲラートはちらりと私に視線を送ってくるが……まあ、私がここに居ても然程問題はないだろう。姿は消さないというアイコンタクトを返して、そのままソファの上で待機する。すると直後に部屋に入ってきたのは──
「失礼します、グリンデルバルド議長。」
「失礼しま……リーゼ?」
「おや、ハーマイオニー。それと、あーっと……ブリックス君だったか?」
「はい、あの……どうも、バートリ女史。」
金髪の二十代の頼りなさげな小僧と、カッコいいスーツ姿のハーマイオニーだ。国際魔法協力部の仕事で来たってことかな? どうしたらいいか分からなくなっている二人に向けて、ソファを示しながら適当な指示を放った。
「まあ座りたまえよ、二人とも。……ブリックス君、キミは東欧担当じゃなかったのか? ロシアはアジアだろうに。」
アジアだよな? ……あれ、東欧か? ロシアは昔から『ロシア』だったから難しいな。物凄く微妙なラインであることに悩み始めた私へと、未だ立ったままのブリックス君が応答してくる。
「ソヴィエト時代の名残で、協力部の区分けでは東欧なんです。だからその、区長補佐の僕がグリンデルバルド議長の応接を担当することになりまして。もちろん非魔法界問題の担当者も間も無く到着すると思います。」
「ふぅん? イギリス魔法省としては、ゲラート・グリンデルバルド『程度』なら補佐でも問題ないと判断したわけだ。」
「ち、違います! 滅相もありません! 区長は現在ロシアに駐在しているので、省内では代行たる僕が──」
「どう思う? ゲラート。私からボーンズに言ってやろうか? こんな若造じゃなく、せめて協力部の部長を使ったらどうなんだってね。」
面白いくらいに慌てふためいているブリックス君を横目に尋ねてやれば、ゲラートはやれやれと首を振りながら『オモチャ』を取り上げてきた。何だよ、つまらんな。
「そこの『部外者』の発言は無視してもらって結構。話を進めよう、ミスター・ブリックス。」
「あのですね、えっと……ではその、書類を──」
「その前にだ、この子を紹介しておこう。名をハーマイオニー・グレンジャーと言ってね。非常に優秀な魔法使いだから記憶に留めておきたまえ。イギリス魔法省での繋ぎにはこの子を使うといいよ。」
「へ? ……お初にお目にかかります、グリンデルバルド議長。ハーマイオニー・グレンジャーです。」
急な紹介に一瞬きょとんとしたものの、ハーマイオニーは即座に礼儀正しい自己紹介を口にする。コネは嫌いらしいが、この程度なら問題ないだろう。『友達の輪』を広げただけだ。
「……グリンデルバルドだ。」
「何だその無愛想な挨拶は。ハーマイオニーは私の友人なんだからな。無下には扱わないように。」
「ちょっとリーゼ、いいから。そういうのはいいから。」
「よくないよ。この爺さんを上手く利用したまえ。随分と皺くちゃになっちゃっているが、まだまだ使える部分があるヤツだぞ。ヌルメンガードで半世紀も熟成させてあるからね。」
私の素晴らしいジョークを聞くと、ゲラートは額を押さえながらため息を吐き、ハーマイオニーは大慌てで私の口を塞ごうとして、ブリックス君は真っ青になってしまった。変だな、笑うところだと思ったんだが。柔らかい表現にし過ぎたか。『腐りかけが一番美味い』の方にすべきだったかもしれない。
何にせよハーマイオニーの紹介は出来たぞと自分の手腕に満足しつつ、アンネリーゼ・バートリは口を塞がれたままで新たな茶菓子に手を伸ばすのだった。