Game of Vampire   作:のみみず@白月

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初動捜査

 

 

「競技場で自主練を終えた後、チームメイトたちと一緒に談話室に戻る途中だったんです。そしたら地下通路の奥から物凄い音……爆発みたいな音が何度か聞こえてきたので、何があったのかと思ってそっちに行ってみたら、慌てた様子で走っているマリサとすれ違いまして。」

 

神妙な顔付きで経緯を説明しているがっしりとした体格のスリザリンの七年生……確か、ギデオン・シーボーグだったか? 去年のクィディッチトーナメントで代表ビーターをしていた男子生徒の声を耳にしつつ、アンネリーゼ・バートリはソファに身を預けて沈黙していた。

 

現在の私とアリスが居るのは、夕食時のホグワーツの校長室だ。マクゴナガルからの知らせを受けてホグワーツに移動した後、昼過ぎに起こった『失踪事件』に関する説明を聞いているのである。……つまるところ、咲夜と魔理沙が姿を消したという事件についての説明を。

 

黙考している私とアリスへと、『最後の目撃者』として呼び出されたシーボーグが話を続けてきた。その背後の執務机には真剣な表情のマクゴナガルの姿もある。

 

「マリサは『チェストボーン先生がヴェイユを攫ったから、校長に急いで伝えてくれ』みたいなことを早口で捲し立てたかと思えば、すぐに角を曲がって走って行きました。あいつが悪趣味なジョークを言うヤツじゃないってことは知ってますし、本気で焦ってる時の顔だったので、後輩に伝言を任せて俺はマリサを追ったんです。何かトラブルに巻き込まれてるなら手伝おうと考えたので。だけど、背を追って角を曲がってみたら──」

 

「そこに姿は無かったと。なるほどね、よく分かったよ。」

 

相槌を打ちながら、記憶を基に思考を進めた。思い当たる節は一つだけだ。『マーリンの隠し部屋』。咲夜と魔理沙が探していた隠し部屋は、地下通路に存在しているはず。詳細は未だ掴み切れていないが、創始者たちのサインが『鍵』になっているという魔女っ子の推理が正しかったということなのだろう。魔理沙は鍵を手に入れたからそこに入れたものの、シーボーグは隠された部屋を認識できなかったわけか。

 

無言で考えている私たちに、マクゴナガルがおずおずと現状を伝えてくる。

 

「報告を受けた直後に私も現場に向かいましたが、マリサとサクヤ、それにチェストボーン先生の姿は発見できませんでした。地下通路の奥にある今は使用していない区画が大きく崩れており、そこで何らかの強力な魔法が使われたことが分かっただけです。ブッチャー先生やバブリング先生の証言から、マリサとサクヤが最近その区画にある特別な地下牢についてを調べていたことも判明しています。……その、こんなことになってしまって申し訳ございません。」

 

「……いいよ、怒っちゃいないさ。これはある程度予想していた展開なんだ。チェストボーンのことだけは予想外だったけどね。」

 

「予想? ……ギデオン、貴方はもう大広間に戻って結構ですよ。ご苦労様でした。後は私たちに任せなさい。余計な混乱を招く恐れがありますから、事件のことはまだ口外しないように。」

 

「はい、分かりました。気を付けます。……だけどあの、また何かあれば言ってください。地下通路が関係してるなら、俺たちスリザリン生が役に立てるかもしれません。」

 

嘗て共に戦った魔理沙のことが心配なのだろう。不安げな面持ちで退室したシーボーグを見送った後、今度は私たちからマクゴナガルへと事情の説明を始めた。二人が見つからないということは、既に遡行したと判断すべきだ。であれば大まかな状況を話したところで問題ないはず。

 

「魔理沙と咲夜は今学期の初めからずっと、この城のどこかに隠されている逆転時計を探していたんだ。二人が失踪したのも、チェストボーンの一件も、恐らくそれに纏わる事象だと思うよ。」

 

「ごめんなさい、マクゴナガル。迂闊に話せなかったの。『過去の咲夜』から現在の彼女に手紙が送られてきたのよ。だから多分、咲夜と魔理沙は探していた逆転時計を発見して、それを使用したんだと思うわ。意図的にそうしたのか、偶然なのかは私たちにも分からないけど。」

 

「それは……しかし、止めるべきでした。逆転時計は非常に危険な道具です。どうして魔法省や私たち教員に知らせずに、二人が探すことを許可してしまったんですか?」

 

真意が掴めないという顔付きで指摘してくるマクゴナガルに対して、眉間を揉みながら解説を放つ。むう、私自身も未だに完璧に把握できていない状況なだけに説明が難しいな。

 

「つまりだね、マクゴナガル。私たちはパラドックスを恐れたんだ。咲夜に探すことをやめさせれば、当然過去の彼女からの手紙は送られてこなくなる。それを防ごうとしていたんだよ。」

 

「それは問題にはならないはずです。遡行自体をやめさせれば何ら危険はありません。」

 

「大いに正しい意見だが、致命的な前提があるんだ。魔理沙が逆転時計を探し始める切っ掛けはその手紙ではなく、また私たちが咲夜の遡行を知った切っ掛けは過去からの手紙だったのさ。その条件下で手紙が送られてこなければどうなると思う?」

 

「……バートリ女史たちの知らぬ間に、結果的にマリサやサクヤが過去に旅立ってしまう可能性があるというわけですか。それでも疑問は残ります。そもそもマリサが逆転時計を探し始めた切っ掛けと、お二人が捜索を許可した理由が分かりません。」

 

さすがにマクゴナガル相手だと話が早いな。状況を理解し始めている校長閣下にちょびっとだけ感心している私を他所に、続いてアリスが口を開いた。

 

「まあその、日本に居る魔理沙の保護者はパチュリーの知り合いなの。彼女をも凌ぐ、信じられないほどに強大な魔女なのよ。その魔女から魔理沙はホグワーツにある逆転時計を破壊するようにと指示を受けたわけ。」

 

「……ノーレッジさん以上の魔法使い? 日本魔法界にはそんな方が? それ以前に、何故その方がホグワーツに逆転時計が隠されていることを知っているのですか?」

 

「知っていた理由は分からないけど、パチュリーと同じようにその人も膨大な知識を持っている魔女なの。信ずるに足る情報だと思うわ。……隠されている逆転時計はとても強力な一品らしいから、それを見つけ出して壊すことに関しては特に否がなかったのよ。」

 

「強力な逆転時計を破壊しようとするのは私としても賛成できます。そこは理解できますし、探すのがマリサやサクヤであれば悪用する危険性もないでしょう。……ですが、バートリ女史かマーガトロイドさんが探すのではダメだったのですか? 今更言っても仕方のないことかもしれませんが。」

 

うーむ、ギリギリのラインの説明だな。マクゴナガルのことをそれなりに信頼できていて、かつパチュリーという強力な魔女が双方の知り合いだから伝わっている感じだ。ほんの少しだけ認識がズレている会話に苦笑しつつ、私からその部分についての弁明を送る。

 

「魔理沙にとってはその魔女に認められるための大切な『課題』だったんだ。そいつは古き良き『師匠と弟子』という関係を重んじている魔女でね。魔理沙も師として尊敬しているから、部外者の私たちが余計な手助けをするのは憚られたのさ。……無論、過去からの手紙が送られてきた時点までの話だが。」

 

「それでも妙です。サクヤやマリサが過去に遡行してしまうことを、貴女がたが甘んじて認めるはずがありません。私とてそうなんですから。……その点にも何か理由があるのでしょう?」

 

「勿論あるよ。咲夜がこの先ずっと過去で生きるだなんて冗談にもならないさ。……私たちはね、何らかの方法で咲夜が現在に戻ってくると考えているんだ。過去からの手紙には奇妙な歯車が入っていて、それが鍵になると予想しているんだよ。そしてその『二人が戻ってこられる正解の流れ』は、今現在のこの状況……であるはずだ。少なくともパチェを超える魔女や、私たちはそう予想している。」

 

「……話を纏めると、過去のサクヤからの手紙は彼女が現在に戻ってくるために必要な物であり、また逆転時計で遡行すること自体は不可避である可能性が高いので、お二人は遡行を承認した上でサクヤとマリサが戻ってこられる可能性を潰さないように逆転時計の捜索を止めなかったわけですね?」

 

おやまあ、見事な纏めだ。ぺちぺちと拍手をしながら、首肯と共に補足を付け加えた。

 

「加えて言えば、そのことをアリスと私の胸の内に留めていたのは手紙が送られてきた時点の流れが『正解の流れ』だったからだ。『賢い連中』にも相談してみたんだがね、どうもパラドックスのことを考慮すると余計なちょっかいをかけずに進めるのが正解らしい。だから止めも手助けもしないで、自然な展開に任せることにしたのさ。」

 

「周囲が知ってしまえば否が応でも不自然さが出てしまうということですか。……まだ頭の中を整理し切れていませんが、一応納得しました。彼女たちが『旅立った』と思われる今であれば、もはや隠す意味はないというわけですね?」

 

「そういうことさ。だから咲夜と魔理沙がどこかの段階で『行方不明』になるのは想定されていた事態なんだよ。心配だし、不安だし、何も出来ないことにイライラするが、二人に任せて帰還を信じるしかないんだ。咲夜からの手紙が送られてきている以上、遡行後の手紙を送る時点まで咲夜が無事なことは保証されているしね。……とはいえ、チェストボーンの一件は別だぞ。どういうことなんだい?」

 

話題をもう一つの方……というか、恐らく逆転時計にも関わっているのであろう件に移してやると、マクゴナガルはバツが悪そうな顔で応答してくる。

 

「詳細は不明です。現在フィリウスが闇祓いと共にホグズミードの自宅の捜索に向かい、ポモーナとロランダが教員塔の自室を調べています。」

 

「まさかとは思うが、また死喰い人じゃないだろうね?」

 

「……経歴に不自然な点はありませんでした。惨事部のリセット部隊に所属していたことは第一次戦争の頃にこの目で確認していますし、魔法省から取り寄せた人物評価にも怪しいところは見当たりませんでしたので、普通に雇い入れてしまったんです。」

 

「そも、何故あの男が教師に任命されたんだ? キミが変身術を任せるような『良い教師』だとはとても思えなかったけどね。去年はラメットやブッチャーに気を取られていて気付けなかったが、よくよく考えれば疑問だぞ。」

 

大きく鼻を鳴らして尋ねてやれば、マクゴナガルは実に申し訳なさそうな表情で返事を返してきた。

 

「本来変身術には『若い未来ある教師』を任命する予定だったんですが、一度に三人を採用するということで手が回らず、中々条件に合う候補が見つけられなかったんです。おまけにチェストボーン先生は理事会からの後押しを得ていたので、理事たちへの言い訳が立つように短期的に彼に授業をお任せして、その間にゆっくりと後任を探そうと考えていました。」

 

「……まあ、仕方がないわよ。あの頃の貴女は大忙しだったでしょうし、クィディッチトーナメントのこともあったしね。経歴そのものは比較的立派なんだから、採用しちゃうのはおかしなことではないわ。」

 

「ふん、ダンブルドアの悪癖がキミにも受け継がれているようで何よりだよ。『怪しい新顔』はホグワーツのお家芸だからね。」

 

アリスのフォローと私の皮肉。それを受けたマクゴナガルが至極微妙な顔付きになったところで……おっと、誰か来たな。入り口を守るガーゴイル像が動く音が微かに響き、その直後に足音が下りてくる。どうやら複数人居るらしい。

 

「失礼してもよろしいですかな? 校長。」

 

「構いません、入ってください。」

 

一発で誰だか分かるフリットウィックのキーキー声の後でドアが開き、そのまま入室してきたのは……おお? フリットウィックと闇祓い局のぽんこつ局長どのだ。その背後には二人の局員らしきスーツを着た男性の姿もあるし、チェストボーンの自宅を捜索していた連中が戻ってきたわけか。

 

「失礼します、マクゴナガル校長……と、マーガトロイドさんとバートリ女史。」

 

「やあ、局長君。緊急時だし、余計な挨拶は不要だよ。早く報告したまえ。」

 

「あー……はい、分かりました。」

 

私が居るのを見てちょっとだけ嫌そうな顔になったな、こいつ。見逃さなかったぞ。……しかしまあ、闇祓いを局長含め三人も派遣してきたのか。初動捜査にしては随分と豪華なのは、咲夜が事件に関わっているからなのだろう。ヴェイユの名は闇祓い局にとってやはり重いわけだ。

 

私がヴェイユ家とイギリス闇祓い局の関係を思っている間にも、ガウェイン・ロバーズは部屋に居た三人への報告を始めた。

 

「バイロン・チェストボーンの自宅は一見何の変哲もない一軒家でしたが、地下に巧妙に隠された小さな部屋が存在していました。そこには無許可で作られた逆転時計がいくつか保管されており、それを発見した時点でチェストボーンが犯罪者であることは確定したため、既に自宅付近を封鎖して魔法警察と神秘部の応援を要請済みです。……それと、地下室には『祭壇』のような物も設置されてありました。」

 

「祭壇?」

 

「ええ、奥の壁に闇の印が刻まれていて、その周りに蝋燭が置かれていたんです。ヴォルデモートの『崇拝者』だったようですね。逆転時計や時間遡行に関する文書や本も大量に見つかっています。」

 

そら、やっぱりだ。アリスに答えたロバーズの台詞を聞いて私が呆れを、マクゴナガルが頭痛を堪えるような表情を顔に浮かべたところで、次にフリットウィックが声を上げる。

 

「あの場所で時間遡行の実験を繰り返していたようですな。地下室には檻に閉じ込められている小型の魔法生物が多数見受けられました。一様に逆転時計付きの首輪を嵌められていたので、『生体実験』に使っていたのでしょう。」

 

「ふぅん? チェストボーンは逆転時計を作り、魔法生物を過去に送っていたということかい?」

 

「あくまで予想ですが、魔法生物を過去の檻の中へと送ることで逆転時計が正常に動作しているかを調べていたのではないでしょうか? 現場の魔法生物たちはひどく衰弱し、また身体の各所に不自然な欠損が確認できました。不安定な時間遡行による欠損だと思われます。」

 

「いつから実験をやっていたんだろうね? 魔法生物を過去に送るのであれば、過去のその場所にも檻が存在している必要があり、過去のチェストボーンも実験のことを認知していなければならない。昨日今日立てた計画じゃないってことか。……いや、そうとも言えないな。最近立てた計画を、ずっと昔に始めたって可能性もあるわけだしね。」

 

時間の研究ってのはやはり難解だな。ぼんやりとした理解で相槌を打つと、ロバーズが更なる情報を寄越してきた。

 

「現場に残されていた文書の内容から推察するに、チェストボーンが実験を始めたのはホグワーツに赴任する一年ほど前……つまり1996年の夏頃だったようですね。ロンドンでの決戦やこの城での戦いがあった少し後です。」

 

「腑に落ちませんね。チェストボーンが死喰い人であり、ヴォルデモートの復活を願っているのであれば、その時期の自分にヴォルデモートの危機を伝えようとは考えなかったのでしょうか? ヴォルデモートが『正式に』死亡したのは1996年の冬です。今はもう1999年の春なのですから、逆転時計を使うチャンスは山ほどあったはずでしょう?」

 

それはそうだな。マクゴナガルの疑問に、難しい顔で思考しているアリスが推理を返す。

 

「やらなかったんじゃなくて、出来なかったんじゃないかしら? 研究によって自作の逆転時計の性能は向上していったでしょうけど、それが経過する時間に追いつかなかったんじゃない? 一年かけて半年を遡行できる逆転時計を作っても、過去のリドル……ヴォルデモートを助けることは出来ないわ。」

 

「んん? 研究の成果を過去に送ればいいじゃないか。半年を遡行できる逆転時計の作り方を半年前の自分に送れば、半年前の時点で半年を遡行できるようになるんじゃないのか?」

 

「……言われてみればそうですね。あれ? こんがらがってきました。」

 

私が自分の混乱をアリスに感染させたところで、マクゴナガルが自説を提示してくる。

 

「つまるところ、単純に大きく遡行できる逆転時計を作れなかったということなのでは? あの時計の製作が非常に困難であることは誰もが知っている事実です。長年時間の研究をしている神秘部の専門家ですら易々と作れていないのですから、二、三年かけた程度では三日前に遡行することすら叶わないでしょう。」

 

「我々闇祓い局としてもそう予想しています。現場に転がっていた自作の逆転時計は、専門家ではない私から見ても『出来が悪い』と断定できるレベルの品物でしたから。」

 

「で、『既製品』を使う方向に切り替えたわけか。」

 

ロバーズの報告を受けてポツリと誰にも聞こえない程度の声量で呟いた後、ソファの上で組んだ自分の膝に頬杖を突いてから質問を口にした。

 

「兎にも角にも、チェストボーンは大好きな『ご主人様』を死から救い出すために逆転時計を使おうとしていたわけだ。……キミたちは彼がどの時点で死喰い人に加わったと予想しているんだい?」

 

「現時点では何とも言えませんが……最悪の場合、第一次魔法戦争の頃から情報を流していたという可能性もあるでしょう。」

 

「まあ、納得は出来るけどね。当時のリセット部隊が『無能集団』だったのは有名な話だ。それにはしっかりとした理由があったわけか。」

 

ロバーズの回答に呆れ声で応じつつ、やれやれと首を振って立ち上がる。情報を流していたどころか、意図的にリセット部隊の動きを遅くしていた可能性すらあるな。どこもかしこもスパイだらけだった第一次戦争の頃ならおかしくもあるまい。

 

「ヴォルデモートは組織を形成するのだけは非常に上手かったからね。嘗てこの城で騒動を起こしたラデュッセルがそうだったように、チェストボーンのことも他の死喰い人とはある程度『分断』した状態で使っていたんだろうさ。だからこれまで尻尾を掴めなかったってわけだ。」

 

「チェストボーンに関しては闇祓い局単独ではなく、執行部全体で捜査を継続する予定です。既にスクリムジョールが元リセット部隊の隊員たちを調べ始めています。ですが……その、姿を消した両名については──」

 

「そっちは結構だ。私とアリスで動くから、キミたちはチェストボーンの捜査に集中したまえ。」

 

かなり言い辛そうに咲夜と魔理沙のことに言及しようとしたロバーズを手で制してから、アリスを目線で促して校長室の出口へと歩き出す。私たちとて具体的に何が出来るわけではないものの、『オリジナルの逆転時計』とやらはとりあえず直に確認しておかなければ。今の執行部は優秀だし、チェストボーンの方は勝手にスクリムジョールが調べ上げてくれるだろう。

 

……予想していた展開ではあるが、咲夜だけではなく魔理沙も遡行したのは僥倖だったな。さすがの魅魔も魔女っ子を過去に置いたままで放っておきはしないだろう。それはつまり、魅魔も確かに『二人は戻ってこられる』と考えている証左に他ならない。

 

「お待ちください、私も同行します。よろしいですね? ……フィリウス、この部屋を任せます。私はバートリ女史たちとやることがありますので。」

 

「……ま、いいけどね。今のここはキミの城だ。好きにしたまえ。」

 

慌てて同行を申し出たマクゴナガルに頷いてから、怪訝そうな他の面々を尻目に三人で校長室を出た。……さて、先ずは『鍵』であるサインを探す必要があるな。幸いにも私とアリスは二人からの発言や手紙を受け取っているので、四つのサインの隠し場所を大まかに把握している。サインを見るためには謎解きをしなければならないらしいが、私とアリスとマクゴナガルの三人でやればそう時間はかからないだろう。

 

咲夜からの手紙に書いてあった場所を頭の中で再確認しつつ、アンネリーゼ・バートリは三階の廊下に続く螺旋階段を上るのだった。

 


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