Game of Vampire   作:のみみず@白月

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隣人

 

 

「そんなことがあったの。……不思議な感覚よ。私たちが居ないホグワーツでも騒ぎは起こるのね。何とも言えない気分になるわ。」

 

魔法省の食堂のバルコニー席で苦笑するハーマイオニーを前に、アンネリーゼ・バートリは同じ表情で首肯していた。呪われていたのは私たちの世代ではなく、ホグワーツそのものだったようだな。

 

三月の終わりが間近に迫った月曜日の正午、ハリー、ハーマイオニー、ロン、私といういつもの四人で食事をしているのだ。余人にペラペラ喋るつもりは微塵もないが、身内であるこの三人相手なら別だということで、今回の事件のあらましを会話の肴にしていたのである。まあ、さすがに魅魔の詳細についてはある程度曖昧な説明になってしまったが。

 

ハーマイオニーの感想を聞いて、ベーコンエッグバーガーなる料理を食べているロンが相槌を打った。中々美味そうだな。次来た時にでも頼んでみるか。

 

「だけどさ、マリサとサクヤが無事で本当に良かったよ。……未来に行ける時計か。夢があるな。」

 

「もう使用不能になっちゃったから単なる仮定の話になるが、もしキミたちの手が届く範囲にあったら使いたいと思うかい?」

 

アイスレモンティーをストローで飲みながらの私の質問に、三人は……やっぱりか。揃って否定を返してくる。そう来ると思ったぞ。

 

「んー、私はあまり興味ないわね。危険性云々を抜きにしても、未来を先に知っちゃうのは勿体無い気がするもの。ロンはどう?」

 

「僕も使わないかな。過去にも未来にも行きたくないよ。そうまでして変えたいほどの後悔は無いし、それはこれからも同じだと思うから。ハリーは?」

 

「僕もまあ、そこまでの魅力は感じないかな。過去に行って未来を変えたり、未来に行ってその情報を利用するのは……何て言うか、今を否定するってことでしょ? 色々あったけどさ、この『今』は僕たちみんなが頑張って作った今なんだから、それを無かったことにはしたくないよ。……ちなみにリーゼはどうなの? 使いたいと思う?」

 

「いいや、私も興味ないよ。私は未知の面白さをよく知っているし、同時に今の自分に絶対の自信を持っているからね。過去の自分にも未来の自分にも左右されるつもりはないさ。」

 

四人それぞれの意見がテーブルに行き渡ったところで、ハーマイオニーが肩を竦めて結論を口にした。

 

「つまり、私たち四人には逆転時計も『未来時計』も必要ないってことね。……ホグワーツの逆転時計を破壊したのは正解だったと思うわよ。マーリンが隠した理由にも一定の納得は出来るけど、悪用される危険性の方が大きいもの。」

 

「僕、そこがよく分かんなかったな。結局マーリンは何のためにホグワーツに逆転時計を隠したんだ?」

 

「チェストボーンの自宅から押収した『古文書』の内容から推察するに、マーリンはホグワーツを守りたかったんじゃないか? 何かどうしようもない危機がホグワーツに訪れた時、やり直せる手段を残しておいたんだと思うよ。マーリンは随分とあの城に愛着を感じていたようだしね。」

 

ロンの疑問に答えてみると、ハリーがハンバーグを切り分けながら難しい顔で指摘を投げてくる。

 

「でも、逆転時計が隠されてることを誰も知らなかったわけだよね? それだと意味ないんじゃない?」

 

「どこかで伝達が途切れちゃったのかもね。ホグワーツの歴代校長に伝えられていたものの、ある時点で誰かが伝え損ねたってところじゃないかな。」

 

「ダンブルドア先生は知ってたのかな?」

 

「予想でしかないが、知らなかったと思うよ。知っていたらあの爺さんは伝え損ねたりしないだろうし、逆転時計をそのままにしておくかも怪しいもんだ。」

 

ダンブルドアなら破壊しただろうか? ……うーむ、分からんな。逆転時計を私心で利用するタイプではないが、短絡的に破壊するというのもしっくり来ない。私が放った予想を耳にして、ハーマイオニーも自分の考えを提示した。

 

「そうね、仮にダンブルドア先生が知っていたら伝え損ねはしないでしょうね。マーリンほどの大魔法使いが後世に伝え忘れるっていうのも有り得そうにないし、ダンブルドア先生以前の校長の誰かが伝達を途絶えさせたんだと思うわ。」

 

「結果的にはそれで良かったのかもな。だからこそ秘密を秘密のままで留められたわけだろ? ……ヴォルデモートが知ってたらと思うとゾッとするぜ。」

 

「上手い具合にすれ違ったわね。チェストボーン先生が……チェストボーンが知った時にはもうヴォルデモートは死んでいて、過去で伝えることも叶わなかったから、ヴォルデモートが『強力な逆転時計』の存在を知る機会は永久に訪れないで済んだわけよ。」

 

「……他にも居たりするのかな? 生き残った『隠れ死喰い人』って。」

 

ロンの問いかけに、ハーマイオニーは重々しく頷きながら回答する。居るだろうな。一人も居なくなったと考えるのは楽観的すぎるだろう。

 

「間違いなく居るわ。チェストボーンほどの行動力があるかどうかはさて置いて、まだ純血主義を貫こうとしている魔法使いは一定数存在しているはずよ。……そしてそういった魔法使いが『実力行使』に出た時の対処が、貴方やハリーの今後の仕事になるの。」

 

「頑張らないとな。今度は僕たちが魔法界を守る番なんだから。……そういえば、ハリーの方はどうなんだ? 今年の試験まで半年を切ったわけだけど。」

 

「うん、勉強してるよ。シリウスが色々な場所に連れて行ってくれるから、その合間にね。」

 

あの名付け親、まさかハリーの勉強を『妨害』しているのか? ロンに応じたハリーの発言に眉根を寄せた私へと、名付け子どのは慌ててフォローを入れてきた。

 

「いや、勉強の時間がなくなるほどではないんだよ? 息抜き程度の小旅行を繰り返してるだけだから。」

 

「程々にしておきたまえよ? もしキミからいい加減にしろと言い辛いなら、私がブラックにガツンと言ってあげるぞ?」

 

「大丈夫だよ、シリウスだって試験のことは心配してくれてるみたいだから。今年は絶対に受かってみせる。そこは約束するよ。」

 

「ならいいんだけどね。……まあ、対策委員会の動きが加速していけば純血主義どころじゃなくなるだろうさ。もはやマグルが淘汰できるような『弱者』じゃないことに気付けば、純血主義なんて古臭い思想を掲げるヤツは自然と居なくなるよ。」

 

話の内容を『隠れ死喰い人問題』に戻してやれば、サラダを食べながらのハーマイオニーが同意を飛ばしてくる。今や純血の魔法界ってのは、賛成反対以前に不可能なのだ。それを理解すれば純血主義者なんぞ勝手に消え失せてくれるだろう。

 

「純血主義が崩壊するのには同意するけど、非魔法界問題が進展していくとまた違った議論が巻き起こりそうね。……マグルと私たちが別の種族かどうかっていう問題が出てくると思うわよ。」

 

「その議論ならもうやったよ。三年前のゲラートとパチェとダンブルドアとレミィの話し合いの時にね。」

 

「……そうなの? どんな結論になったのか聞かせて頂戴。」

 

興味をありありと示しているハーマイオニーの促しを受けて、あの時の話し合いの後半を思い出しながら返事を返した。

 

「結論は非常に珍しい感じに分かれたよ。ゲラートとパチェの考えが一致して、レミィとダンブルドアの考えも一致したんだ。前者が別種であるという結論で、後者が同種であるという結論だったね。」

 

「私としては、魔法族と非魔法族は同種であると確信してたんだけど……ノーレッジ先生とグリンデルバルド議長は違ったってこと? 意外よ。グリンデルバルド議長はともかくとして、ノーレッジ先生がその結論にたどり着くのは物凄く意外だわ。」

 

驚いたように唸っているハーマイオニーへと、前者の考え方を詳細に説明するために口を開く。あれは私としても面白い議論だったな。要するに、何を以って『種族』とするかの違いなのだ。

 

「パチェたちが問題視したのは生物学的な差異じゃないんだ。『歴史』の違いなんだよ。両者ともに魔法力の有無は人間という生き物の一側面に過ぎないと考えていたようだが、魔法族と非魔法族では根幹となる歴史や文化がかけ離れているから、もはや『別種である』と判断すべきだと主張したのさ。別種というか、近類種ってところだね。」

 

「……なるほどね、そういうこと。それならまあ、理解できなくもない話よ。」

 

「あーっと……つまり、全く同じ生き物でも全然違う文化を築けば別種としてカウントするってことか?」

 

ロンが傍目にも悩んでいる様子で寄越してきた質問に、こっくり首肯してから応答する。生物としての分類ではなく、社会形態の乖離の話なわけだ。

 

「極限まで噛み砕けばそういうことさ。例えばイギリス人とロシア人と日本人では数多の差異があるだろう? それが民族としての差異なのであれば、それ以上に離れている魔法族と非魔法族は種族として違っていると認識すべきだという主張だね。二人によれば種を形成するにあたって重要なのは身体の構造ではなく、思考の根底に何があるかの方らしいよ。」

 

「んー……難しいね。要するにグリンデルバルド議長もノーレッジ先生も、同じ『人間』であるとは思ってるわけでしょ? どっちかって言うと民族の違いに近いんじゃない?」

 

「私は何とも言えないが、生活の基礎に魔法が関わり過ぎているのが問題だとパチェは言っていたよ。その違いがあまりにも致命的なものだから、民族の違いの範疇には収まらないんだそうだ。」

 

ハリーの問いに答えたところで、眉間に皺を寄せているハーマイオニーが疑問を送ってきた。

 

「だけど、『非魔法族が魔法族になる』ことは大いに有り得るわけでしょう? マグル生まれの私が正にそうじゃない。そこはどうなの?」

 

「そう、そこだよ。だから魔法族と非魔法族の関係は非常に歪んだものなんだ。生物としては同種なのに、文化としては別種になっている。そこをどうにかしなければならないって点だけは、四者の意見が一致したのさ。」

 

「……ちなみにダンブルドア先生やスカーレットさんはどんな主張をしたの?」

 

「ダンブルドアは『別の家庭で育っただけの隣人』と表現したよ。魔法族と非魔法族に本質的な違いは無いのだから、どちらかが広い庭を横切ってもう一方の家に近付き、戸を叩いて友になる必要があるのだと。……そしてレミィの主張は更に分かり易いね。人間は人間であり、吸血鬼は吸血鬼であり、小鬼は小鬼であるという主張さ。それらの差異に比べれば魔法族と非魔法族は相対的に近いんだから、別種であるとは言えないという考え方だ。」

 

私としてはまあ、レミリアの意見に賛成だな。ゲラートやパチュリーが言っていることも分からなくはないが、経験上こういうのは案外単純に出来ているものだ。ハリーやハーマイオニーが魔法界に慣れるのに然程時間がかからなかったように、切っ掛けさえあれば同化してしまえる程度の違いだろう。であれば別種であるとまでは言えない。あくまで別の文化を持つ同種に過ぎん。

 

私がダンブルドアやレミリア側ってのも珍しいなと改めて奇妙な気分になっていると、ハーマイオニーが未だ悩んでいる二人を尻目に纏めを口にする。

 

「こればっかりは考え方……というか、捉え方の違いなんでしょうね。どこに線引きを設けるかってだけのことよ。結論は各々で違ってくるはずだわ。」

 

「ま、そうだね。そこに大きな意味なんてないのさ。真に重要なのは、非魔法界の進歩によって二者の関係における歪みを隠し切れなくなってきたという点だよ。」

 

「だからこそグリンデルバルド議長は対策委員会を発足させたわけね。……協力部も少しだけ関わってるんだけど、各国の調査報告を見てゾッとしたわ。まさかあれほど非魔法界を理解していないとは思ってなかったの。」

 

私は実際に確認していないが、ゲラートから聞いた限りでは余程の結果だったらしいな。不安そうな声色のハーマイオニーの発言を聞いて、ロンが苦い笑みで肩を竦めた。

 

「僕は詳しく知らないけど、どんな結果だったのかは大体想像できるよ。……じゃあさ、三人とも僕を見てどう思う? ロン・ウィーズリーはマグル界に詳しいって言えるか?」

 

ロンが? ……そりゃまあ、言えないだろう。マグル界のイギリスの貨幣をいまいち理解しておらず、信号機の意味はうろ覚えで、電球が光る理由にいつまで経っても納得しないのだから。ほぼ同時に首を横に振った私たちへと、ロンは苦笑を強めながら質問の意図を解説してくる。

 

「ところがだ、僕は魔法界基準だとマグル文化に詳しい方なんだよ。パパの趣味があんなんだし、君たちと友達だと知る機会が増えるからな。……そう思うと納得できないか? イギリス魔法界の魔法使いの大半が僕以下なんだぞ? 魔法界で育った一般的な魔法使いは地下に『汽車』が走ってることを知らないし、『話電』の使い方もさっぱり分かんないし、マグル界でも手紙はふくろうが届けるものだと思ってるのさ。僕だって闇祓い訓練で学ばなかったらもっと知らなかっただろうしな。」

 

「……非常に分かり易い説明だったよ。そうか、一般的な魔法使いの理解度はキミ以下なのか。」

 

「魔法界と非魔法界の融和の困難さを改めて実感したわ。……どうしてそんなに知らないのかしらね? 私からするとそこが意味不明よ。」

 

「つまりさ、興味がないんじゃないかな。マグルは『不思議な魔法』に興味があるから、僕やハーマイオニーみたいに新しく魔法界に入るとあれこれ知りたがるけど……魔法使いはそうじゃないってことなのかも。別に知ろうと思えば簡単なわけでしょ? マグル界のロンドンに出て、その辺をぶらぶらすればいいだけなんだから。誰もがそれをしないってことは単純に興味がないんだよ。マグル界の技術にね。」

 

ロンに応じた三人の中のハリーの推理に、深く頷いてから肯定を放つ。突き詰めればそういうことなのだろう。

 

「それで合っていると思うよ。心の奥底で劣っていると見下しているのさ。優れたものは知りたがるが、劣っているものに興味を抱く人間は少ないからね。……別に魔法族批判をしようってわけじゃないぞ? 事実として西暦紀元の開始以前から現代までの大半は魔法族の『圧勝』だったんだから。しかし、たった数世紀……ともすればこの百年程度の間に一気に差を詰められてしまったわけだ。」

 

「非魔法界の変化が急すぎたのね。だから魔法族は対応できていないのよ。なまじ魔法文化が便利すぎたから、これまで変える必要がなかった所為もあるのかも。魔法族は変化に慣れていないんじゃないかしら?」

 

「魔法界は遥か昔に形を作り終えて、そこから大きく変化していないからね。宜なるかなってところだよ。」

 

魔法族は大昔から人類という種の中の『絶対強者』だったわけだ。だが、今になって頂点を脅かす存在が育ってきてしまった。魔法族よりも数が多く、戦い慣れていて、進歩に貪欲な非魔法族という連中が。

 

それを予期したゲラートは魔法族に危機を知らせ、間に合わなくなる前に立ち向かおうとしたわけか。ハーマイオニーに答えた私の言葉を最後に沈黙してしまったテーブルに、ハリーがおずおずと声を投げた。

 

「でもさ、対策委員会が何とかしようとしてるわけでしょ? 実際のところマグルたちだっていきなり戦争を吹っかけたりはしないだろうし、きちんと進めていけばどうにかなるんじゃないかな。」

 

「ギリギリだと思うけどね。魔法族に非魔法界を理解させるだけじゃなく、非魔法族にも魔法界を理解させる必要があるわけなんだから、今ゲラートがやっているのは下準備の下準備ってところだよ。私たちが真っ先に願うべきは彼の長寿さ。有能な牽引役が居なくなるとかなりキツいぞ。全ての準備が整う前に魔法界が非魔法族に認識されてしまえば全てが終わりだ。その時何が起こるかまでは私にも予想できないね。」

 

「……凄い人だよね、グリンデルバルド議長って。あの人と比べると僕の人生だって『平坦』に思えてきちゃうよ。」

 

「私はグリンデルバルド議長一人に背負わせている現状を先ずどうにかすべきだと思うけどね。彼が力を持ち過ぎるのも危険だし、彼に頼りすぎている魔法界だって問題よ。……昔リーゼが言ってたでしょう? 『魔法族に問題を認識させる必要がある』って。最近になってその意味がよく理解できてきたわ。魔法界と非魔法界の融和において、確かにそれが最初にして最大の一歩なのよ。」

 

ハーマイオニーが疲れたように呟くのに首肯してから、テーブルに頬杖を突いて思考を回す。結局あの時四者が導き出した結論が正しかったわけか。……果たして間に合うのだろうか? ゲラートは現時点で『めちゃくちゃ長生き』と評して差し支えないほどに生きているし、余計な延命を望みはしない男だ。もしかしたら私が思っている以上に危ない状況なのかもしれないな。

 

あれだけ魔法族にその身を捧げたゲラートが、失意の中で死んでいくというのは……うーむ、幾ら何でも救いがなさすぎるぞ。咲夜の遡行問題は解決したし、いよいよ本腰を入れて手伝ってやるか。私は魅魔みたいな無責任な大妖怪ではないのだ。嘗てあれほど振り回したのだから、末期を成功で飾るくらいのことはしてやらねば。

 

よし、先ずは既に依頼されている日本魔法界に関する仕事を片付けよう。久々の『お仕事』に本腰を入れることを決意しつつ、アンネリーゼ・バートリはアイスレモンティーの氷を噛み砕くのだった。

 

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