Game of Vampire   作:のみみず@白月

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釣りの秘訣

 

 

「魔法界の魔法と、マグル界の技術を融合させて戦争技術の開発を目論んでいたわけですか。……恐ろしい話ですね。」

 

スイスとフランスの境に存在しているレマン湖。そのほとりにある大きめの桟橋で釣り糸を垂らしつつ、アリス・マーガトロイドは隣のリーゼ様に相槌を打っていた。反対側にはアピスさんが居り、三人が三人とも折り畳み式の椅子に座って釣竿を手にしている。要するに、スイスのアピスさんの住まいを訪問したついでに釣りを楽しんでいるのだ。

 

六月に入ったばかりの今日、松平派の情報収集を依頼していたアピスさんにリーゼ様が会いに行くということで、私も何となくついて来たわけだが……何とも気まずい状況だな。私もアピスさんもそこそこ釣れているというのに、リーゼ様の釣果だけが未だゼロだ。どうしてそんなに釣れないんだろう?

 

ピクリとも反応を示さないリーゼ様の竿を横目に考えていると、若干不機嫌そうな竿の主が返事を寄越してきた。時たま複雑に竿を動かしたりしているし、釣りの技術自体は私より上だと思うんだけどな。

 

「今は神秘部みたいな普通の研究機関らしいけどね。昔は色々あったんだそうだ。」

 

「ヨーロッパ魔法界よりも非魔法界との距離が近いからなのかもしれませんね。……マクーザはどうなんでしょう? あそこも非魔法界を比較的理解してますし、同じような研究をやっていても驚きませんけど。」

 

「んー、どうかな。マクーザは相手を理解した上で非魔法界との関係を盛大に断ち切ったからね。ある意味ではイギリス魔法界よりも溝が大きいんだと思うよ。……何れにせよ、細川派の非魔法界への理解度は予想以上みたいだ。期待できそうで何よりってところさ。」

 

言いながらリールを巻いたリーゼ様は、糸の先にある針から餌が消えているのを目にして僅かに顔を引きつらせた後、粛々と新たな餌を付けているが……その姿を見たアピスさんが突っ込みを入れる。やれやれと首を振りながらだ。

 

「吸血鬼さん、餌を無駄にしないでください。貴女の餌の減りだけが早すぎますし、それなのに小魚一匹釣れていません。どういうことなんですか?」

 

「どういうことなのかはこの湖の忌々しい魚どもに聞きたまえよ。無礼な『餌どろぼう』どもにね。私は知らん。」

 

「単純にセンスが皆無なんでしょうね。釣りというのは繊細なものなんです。貴女のような大雑把でいい加減な野蛮妖怪には……はい、出ました。いつもの暴力です。弁論で勝てないからって敗北宣言代わりの暴力ですか。魔女さん、止めるべきですよ。釣り下手吸血鬼を叱ってやってください。」

 

「リーゼ様、ダメですよ。大事な竿なんでしょう? ……そういえば、肝心な松平派の情報についてはどうなったんですか?」

 

やっぱりこの二人はこうなるのか。話の途中で釣竿を使ってアピスさんの頭をペチペチ叩き始めたリーゼ様のことを、まあまあと御しながら気を逸らすための話題を振ってやれば、大きく鼻を鳴らした黒髪の吸血鬼は釣りを再開しつつ話に乗っかってきた。

 

「そうだよ、どうなったんだい? 成果はあるんだろうね?」

 

「当然あります。日本は私にとって苦手な土地ですが、それでも充分すぎるほどの情報が集まりました。……松平派というのは面白い集団ですね。貴女は窓口として細川派を選んだようですけど、私なら松平派を選ぶかもしれませんよ。」

 

「どういう意味だ?」

 

「あの派閥は何もかもが多角的なんです。故に弱点が多く、しかし一つ一つは小さな弱点にしかなり得ない。無数の小集団が集まって形成された派閥という印象ですね。……部分部分を潰すのは容易でしょうが、全体をどうにかするのは一苦労だと思いますよ。ヒュドラのようなものです。斬っても斬っても意に介することなく、新たな頭を生やしてくるでしょう。」

 

ギリシア神話の多頭の蛇か。独特な厄介さを説明してきたアピスさんに、リーゼ様が面倒くさそうな顔付きで応答を返す。

 

「図体がデカいから纏まりはないが、それ故に一箇所を潰しても他の箇所は気にしないということか。……ま、別にいいさ。私は潰そうとしているわけでも全体を操ろうとしているわけでもないからね。要所だけを操ることが出来ればそれで充分だ。その程度なら可能だろう?」

 

「面白くない選択ですが、非常に現実的な方針ではあるでしょう。全体を味方に付けたり敵に回したりするのは困難であるものの、一部を利用したり操るのはむしろ簡単であるはずですから。全体としての纏まりがある他派には無い性質ですね。……どうぞ、これが調査結果です。支払いはいつもの方法でお願いします。」

 

「了解だ。……おや? マッツィーニからの方が量が多いね。やはり日本の情報収集は香港自治区が一枚上手か。」

 

最後にポツリとリーゼ様が呟いたところで……おお、珍しくあからさまに不満そうだ。アピスさんがちょっとだけムッとした顔で反論を述べた。情報屋としては聞き過ごせなかったらしい。

 

「報告内容がよく纏まっているから書類の量が少ないだけでしょう? ちゃんと読んでから判断してください。量より質というだけのことですよ。」

 

「……被っている部分も多いぞ。ほら、この辺りとかは丸っきり同じだ。松平派の中では一橋家と大友家が『狙い目』らしいね。」

 

「全く同じ調査を依頼したのであれば、同じような結果が出るのは当たり前のことです。……香港自治区からの結果は持っているんですか? 見せてください。検証して私の調査の方が上だと証明してみせます。」

 

「これだよ。」

 

調査結果を熟読しながらどうでも良さそうにリーゼ様が差し出した書類を、アピスさんがひったくるように勢いよく受け取る。左右の大妖怪たちが書類に夢中になっている間に私が魚を釣り上げたところで、頭上を小型のプロペラ機が通過した。うーん、良い天気だな。

 

寒くも暑くもない心地良い気温だし、ちゃぷちゃぷという水音が眠気を誘ってくるぞ。こういうのんびりした時間も大切だなと一人でうんうん頷いていると、リーゼ様とアピスさんがそれぞれに噛み合っていないことを喋り始める。……あ、また釣れた。今度のは結構大きいな。

 

「なるほどね、これで松平派に対しての基本的な方針も決まりそうだ。ゲラートと細川派は繋いだし、次の目標は技研を非魔法界対策における主導機関の位置に持っていくことかな。そのためには先ず日本魔法省に対策委員会の要請を呑ませないとね。」

 

「この報告書には余計な部分が多すぎます。薄っぺらな報告をどうにか厚く見せようという意思が透けていますね。こんな報告は情報屋として三流ですよ。『本物の』情報屋というのは必要な部分のみを必要なだけ知らせるものなんです。」

 

「となると、目下の問題は日本の魔法大臣が藤原派であることかな。……んー、難しいね。早くもこの情報を基に松平派を使わなくちゃいけなくなりそうだ。内部のこととなると他国から圧をかけても効き目が薄いだろうし、松平派の一部を上乗せすることで細川派の動きに重さを持たせようか。近いうちに西内家とも相談してみよう。」

 

「ここ、ここです。見てください、ここが私の報告との最も大きな違いです。私は依頼主の意図を汲んだ上で利用し易いように報告を提示していますが、こちらの報告書はただ現状を書き連ねているだけでしょう? 経験の差が出ましたね。」

 

おおっと、また私の竿だけが引いているぞ。もしかしたら穏やかな心持ちこそが釣りの秘訣なのかもしれないな。……リーゼ様が全く釣れない理由はそこにあるんじゃないだろうか? まあうん、言うと不機嫌になっちゃいそうだから口には出さないけど。

 

「あとはまあ、細川……教師の方の細川ともそろそろ会っておかないとね。ポートキーでの移動もいよいよ面倒になってきたし、いっそ幻想郷経由で日本に出られないかを試してみるか? 要するにあの土地は日本に隠されているんだから、別段不可能ではないはずだ。ふむ? 良い考えじゃないか。冴えていると思わないかい?」

 

「そんなことよりきちんと見比べてください。私の報告書には写真がありますが、こちらにはありません。情報の可視化は非常に重要な要素です。一目見ただけでも私の報告書の方が価値があると分かるでしょう? ……認めない限りは引き下がりませんからね。私にだってプライドはあるんです。」

 

多く釣れ過ぎてもさばくエマさんが困るだろうし、リリースの基準をもう少し厳しくしてみるか。私の左右で騒ぎ続ける大妖怪たちを尻目に、アリス・マーガトロイドは釣れた魚を湖に放り投げるのだった。

 

 

─────

 

 

「感心しないな。抵抗できない東風谷さんを標的にしようってわけか? あまりにも卑劣な行いだ。同じマホウトコロの生徒として恥ずかしいよ。」

 

えぇ、何これ? 何この状況? 私を挟んで睨み合っている二つの集団を交互に確認しつつ、東風谷早苗は目をパチパチと瞬かせていた。火花を散らしているのは同じ学年の桐寮生と、藤寮生たちだ。そして争点になっているのはこの私。私は『透明人間』だったはずなのに。

 

六月に入り、『外』では雨の日が多くなっているマホウトコロの領内。反転している敷地内では当然ながら外の天気など関係ないので、今日は中庭で祓魔学の実践授業を受けているわけだが……そこで久し振りに私に突っかかってきた藤原派の生徒たちを見て、何故か細川派の生徒たちが援護に入ってきたのだ。

 

「お前らには関係ないだろ? 引っ込んでろよ、野蛮人どもめ。その辺で木刀でも振り回してたらいいじゃないか。」

 

「ああ、この前の校内試合で負けたことを妬んでいるわけだ。剣道で負けて、杖でも負けて、このままだと前期末テストでも負ける。……教えてくれ、藤原派の魔法使いたちは何が得意なんだ? 他国へのゴマすりだけしか出来ないのか?」

 

「黙れ、野良犬どもが! ……お前たちはまともに他国との関係を築けないから、吸血鬼に取り入ったんだろ? 退夷鎮守が聞いて呆れるな。今の細川派は見境なしか。」

 

「多様性を認めたんだよ、僕たちは。いつまでも古い考え方に支配されているお前たちとは違う。……ほら、どうした。さっさと逃げ出して和歌でも作りにいったらどうだ? 決闘をやって勝ち目があると思うのか? こっちはお前たちと違って毎月のように実戦訓練をしているんだ。『弱い者』苛めは好きじゃないから早く消え失せてくれ。」

 

意味がさっぱり分からないぞ。いつもならちょっかいをかけてくるのは大抵松平派で、他の二派閥は見て見ぬ振りをしているだけなのに、今日は藤原派がからかってきて細川派が助けに入ってきた。藤原派の行動は相手が『無派閥のまともに魔法を使えない蛇舌』なのでそこまでおかしくもないけど、細川派の行動は明らかに異常だ。

 

しかも、どっちも引き下がる気配が全くない。遠巻きに眺めている松平派の生徒たちを横目にしつつパニックに陥っていると、諏訪子様が私にしか聞こえない声で話しかけてくる。

 

『アリスちゃんに買ってもらった新しいソフトを賭けてもいいけど、原因は間違いなくアンネリーゼちゃんだね。細川派との繋がりを深めて、逆に藤原派とは遠ざかったんじゃない?』

 

『巻き込まれるこちらとしては迷惑な話だな。要するに細川派は早苗がバートリの関係者だから助けに入って、藤原派も同じ理由でちょっかいをかけてきたわけか。』

 

『葵寮の連中は傍観してるし、松平派にはまだ何もしてないっぽいね。……あー、なるほど。だから最近は早苗に冷たくしてこなかったんだ。他の二派と違って松平派は出方を窺ってる段階なんでしょ。敵にも味方にもなれるように様子を見てるってわけ。』

 

『つくづく気に食わんな。早苗は関係ないのに余計なことをしてくる藤原派も、今まで冷たかったのにあからさまに態度を変えた細川派も、早苗をバートリに対する道具としてしか見ていない松平派も愚かしさの集合体だ。非常にイライラしてくるぞ。』

 

ふむ、リーゼさんが原因なのか。お二方が話している間も続いている二派の言い争いを聞き流しつつ、じゃあ私はどうするのが正解なのかと悩んでいると……祓魔学の先生がこちらに近付いてきた。マホウトコロでは同じ科目に数名の担当教師が居るのだが、今日の私たちの授業を担当しているのは教頭でもある大ベテランの立花先生だ。つまり、『超こわい先生』が騒動に介入してきたということになる。

 

「諸君、何をしているのかね? 私は盾の無言呪文を練習させるためにこの中庭の使用許可を取ったわけであって、好き勝手に騒いで構わないなどと言った覚えはない。どういうことなのかを説明したまえ、柳原君、鈴元君、東風谷君。」

 

あれ、私も? 細川派と藤原派のリーダー格の男子の名前に加えて、自分の名前が飛び出してきたことに物凄い違和感を覚えている私を尻目に、男子二人はそれぞれ冷静な顔付きで言い訳を口にした。どうしよう。私は何を言えばいいんだ?

 

「彼らが東風谷さんを呪文の『標的』にしようとしていたんです。盾の呪文の練習に付き合ってやると言って。……東風谷さんのことを悪く言うつもりはありませんが、彼女は杖魔法が苦手だったはずでしょう? そんな彼女に数名がかりで呪文を放ったら何が起きるかなど目に見えています。僕たちはそれを止めようとしただけですよ。」

 

「違います、先生。僕たちは東風谷さんの練習に付き合ってあげようと思っただけです。いつも独りぼっちなので練習相手が居ないと思って声をかけただけなのに、こいつらが勘違いして文句を言ってきたんですよ。変な邪推をされて迷惑しています。」

 

「……東風谷君、君からは何かあるかな?」

 

「へ? えっと、あの……よく分からないです。」

 

今の気持ちを正直に声に出してみれば、教頭先生は疲れたようにため息を吐いた後で、二つの集団に向き直って指示を出す。

 

「君たちは離れて練習しなさい。次に何かトラブルが起きた場合、私が罰則の宣言を躊躇わないということをよく覚えておくように。……東風谷君、盾の有言呪文はきちんと使用できるかね?」

 

「その、二十回に一度は成功します。水鉄砲を弾く程度のやつならですけど。」

 

「では、君は向こうで有言呪文を練習しておきなさい。」

 

「……はい。」

 

左右に分かれて去っていく二派の集団を見送ってから、とぼとぼと中庭の隅にある松の木のところに向かった。そりゃあそうだ。有言呪文すら全然できていないのに、無言呪文なんて使えるはずがない。『一人でやってなさい』は当然の指示だろう。

 

なんか、惨めだな。結局は神奈子様の言葉が全てってことだ。細川派も藤原派も松平派も私を通してリーゼさんを見ているだけであって、私自身は前と変わらず空っぽのまま。呪文はまともに使えないし、箒に乗ると真っ直ぐ飛べないし、学友が出来たわけでもない。一人隅っこで何学年も前の内容を練習しているのが私。何にも変わっていないじゃないか。

 

プロテゴ(護れ)。……あう。」

 

虚しい。頭上に投げた小石を盾の呪文で防ごうとして、やっぱり防げずに額に当たったことに悲しくなっていると、諏訪子様と神奈子様が声をかけてくる。元気付ける感じの声色だ。

 

『早苗、杖魔法なんて使えなくていいんだよ。こんなもん神術に比べればカスみたいなもんだからね。あんたは私たちの祝子なんだから、神秘が濃い幻想郷に行けば代行者としてもっと凄いことが出来るようになるの。頑張って棒切れを振るより符学に力を入れな。あっちの方が絶対役に立つって。』

 

『さすがにカスとまでは言わないが、向き不向きというものは確かにあるだろう。符学のやり方でも盾の呪文と同じことは出来るし、元来日本の陰陽師たちが使っていたのは符の方だ。……符学は凄いんだぞ。人間の内にある小さな力ではなく、季節や方角、霊脈や自然といった外在する大きな力を利用するための技術だからな。その成績が良い早苗は他の連中よりも遥かに優れているんだ。』

 

『こんなつまんない学科は期生になったら切り捨てちゃえばいいんだよ。みんなが使えるありきたりな魔法力なんてのはこっちから願い下げだっつの。早苗は特別な存在なんだから、特別でカッコいい神力の方が合ってるってことだね。狙うべきは符学と天文学あたりかな。神術に関係があるそっちを頑張ればいいんだって。』

 

『諏訪子にしては珍しく正しいことを言ったな。その通りだ。魔法力を持っている者は少なくないが、神力を扱える権利を持っている人間はごく少数だろう。それは紛れもなく才能だぞ、早苗。盾の呪文なんかで一体何から身を守れる? 符術や神術なら災厄から都市を丸ごと守るのだって不可能じゃないんだぞ。現に昔の陰陽師たちはそれをやったじゃないか。そういうことが出来る素質を秘めているのはこの場でお前だけなんだ。』

 

……私自身はあまり変われていないけど、変化は確かにあったな。今の私はこうやって慰めてくれるお二方の声を聞くことが出来るし、憂さ晴らしをするために外出日にリーゼさんやアリスさんと遊びに行くことだって出来るのだ。相変わらず落ちこぼれなんだとしても、少なくとも独りぼっちではなくなったのかもしれない。

 

「……私、そんなに凄いことが出来るんですか?」

 

『あったり前でしょ? 風祝はね、私たちの神権の代行者なの。あんたが本気で心から望めば、どんな奇跡だって起こせるんだよ? 私たち単独じゃ出来ないことだって出来ちゃうんだから。』

 

『無論、早苗が杖魔法を頑張りたいと言うのであれば私たちも応援しよう。しかし神術との親和性が高い符学ならば直接的な手助けが出来るぞ。符学の授業は教師もまともだしな。……大体何だ? さっきのあの立花の態度は。諍いの仲裁もなあなあだし、一人で練習させるんじゃなくて少しは指導する気を見せたらどうなんだ。あれでベテランの教師とは聞いて呆れる。』

 

『本当だよ、教頭だか何だか知らないけど偉ぶっちゃってさ。なーにが向こうで練習しておきなさいだよ。給料泥棒じじい。』

 

これも多分本心から言っているわけじゃなく、私を元気付けようとしてくれている……のかな? 微妙なところかもしれないと苦笑いになりつつも、お二方へと言葉を放った。

 

「そうですね、符学を頑張ります。……あと、次の外出日に水族館に行きたいです。この前テレビでやってたところに。」

 

『いいねいいね、行こうよ。アンネリーゼちゃんにおねだりしよう。ゴールデンウィークの時みたいにパーッと遊んで、嫌なことは全部忘れちゃおっか。』

 

『まあ、頼んでみるか。幻想郷に行った後で払うんだから大丈夫だ。悪いことをしているわけではない。……大丈夫、きちんと払うさ。私は契約を投げ出すような悪い神じゃないからな。』

 

『分かってないなぁ、神奈子は。借金をする時は返す時のことを考えないのがコツなんだよ。そりゃあ神としてしっかり契約は守るけどさ、いちいち返すことを計算してたら楽しめないじゃん。今は派手に遊んで、後で派手に後悔すりゃいいの。』

 

私はみんなと違って杖魔法を上手く使えないけど、生まれた時から物凄い神様が二柱も一緒だし、偉い吸血鬼さんや美人の魔女さんと水族館に行くことだって出来るんだぞ。うん、そう考えたら自分が凄い人間に思えてきたな。実はこの場の全員に『勝っている』のかもしれない。

 

段々と気分が良くなってきたことを自覚しつつ、東風谷早苗は後で水族館の詳細を調べておこうと決意するのだった。

 


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