Game of Vampire   作:のみみず@白月

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大ファン

 

 

「すみません、お待たせしました。出てくる際に学校で少しトラブルが起きまして。領地の魔法にちょっとした不具合が生じたようなんです。」

 

都内のカフェの店内。慌てた様子で私の向かいの席に腰掛けた細川京介を観察しながら、アンネリーゼ・バートリは適当な頷きを返していた。ふむ? どこが違うとは明言できないものの、去年会った時と何かが違う気がするな。活力を感じるというか何というか、能動的な雰囲気があるぞ。

 

六月の下旬が迫ってきた曇りの日、私は細川と話すために東京を訪れているのだ。今日は外出日ということで早苗もこちらに出てきているので、三バカの相手はアリスに任せてある。ここでの話が終わったら合流する予定なのだが……また何か要求されたら面倒くさいし、話が長引いたフリをしてどこかで時間を潰しちゃおうかな。

 

目の前の男の変化の正体についてを考えつつ、同時にどこで時間を潰そうかと計画を練っている私へと、近付いてきた店員に注文を伝えた細川が会話を切り出してきた。日本語でだ。

 

「ロイヤルミルクティーをアイスでお願いします。……改めましてお久し振りです、バートリ女史。東風谷さんも一緒かと思っていたんですが、そうではないんですね。」

 

「ああ、久し振りだね。早苗は別行動をしているよ。キミとの話が終わったら合流する予定だ。彼女にも何か話があったのかい?」

 

「いえいえ、そういうわけではありません。単に気になっただけです。……先日西内家の仲介で祖父と話したそうですね。気難しい方だったでしょう?」

 

「理知的な人物という印象を受けたが……祖父? 細川政重はキミの祖父なのかい?」

 

同じ苗字であることには当然気付いていたが、そこまで近い血縁だったのか。日本魔法界における細川姓は複雑に分岐しているらしいから、てっきり遠く離れた親戚とかだと思っていたぞ。少し驚きながら問い返した私に、細川は苦笑いで首肯してくる。

 

「私は政重翁の三番目の息子の、これまた三番目の息子なんです。私の父は非常に……何と言うか、女癖の悪い人でして。正式に細川本家に連なる人間と認められているのは四人兄弟の中の長男だけで、次兄と私と弟は皆妾の子なので政重翁との繋がりは薄いんですけどね。一応書類上の関係は祖父ということになります。」

 

「なんとまあ、複雑な家庭だね。長男だけが別の母親を持っているわけか。」

 

「いえ、そうではないんです。次兄の母親も、私の母も、弟の母親も別々の女性なので、兄弟は全員母親が違うんですよ。」

 

凄まじいな。『色狂い』を体現しているような父親じゃないか。現代らしからぬ逸話を聞いて顔を引きつらせていると、細川はさっきよりも更に苦々しい笑みで父親に関する説明を続けてきた。父上がそういうタイプじゃなくて本当に良かったぞ。

 

「父はだらしのない人なんです。若い頃に酒と博打と色事に家の金を使い込んで、政重翁から絶縁されたほどですから。しかし杖捌きだけは他の追随を許さない才能を持っていまして、今は闇祓い局の次席……イギリス闇祓い局の副局長に当たる役職を務めています。だから細川本家も切るに切れないんですよ。才能がある厄介者というやつですね。」

 

「一番嫌なパターンだね。話し方から大体分かるが、キミとも疎遠になっているのかい?」

 

「そもそも『親密だった時期』というのが存在していませんから、疎遠になるも何もありませんよ。十年ほど前に病死した母の葬儀にも来てくれませんでしたし、私の顔どころか名前すら覚えていないんじゃないでしょうか? ……まあ、父の話はこの辺にしておきましょう。あの人は今回の一件には関係がありません。重要なのはバートリ女史が私の祖父と面会し、技研を味方に付けたという点です。」

 

本題に入るつもりらしいな。結構興味のある家庭環境なわけだが……こういうのを掘り下げるのはスキーターとかの役目であって、高貴な私の仕事ではない。頭を切り替えて目線で続きを促した私に、細川はテーブルの上で手を組んで口を開く。

 

「東風谷さんから既に聞いていると思いますが、私は彼女へのお礼としてバートリ女史の計画に協力したいんです。……私は貴女が非魔法界対策を推し進めたいのだと予想しています。そこは間違いありませんか?」

 

「その認識で間違っていないが、キミの行動は若干不審に思えるぞ。『早苗へのお礼』という部分も腑に落ちないし、一介の教師にしてはやけに詳しく事情を把握しているようじゃないか。」

 

「バートリ女史相手につまらない言い訳は通用しないでしょうし、ここは正直に話しておきましょう。……私は貴女の『仕事振り』を近くで観察したいんですよ。去年の五月の会話を覚えていますか? つまり、『狂言回し』についての会話を。」

 

「覚えているよ。……まさか、私のやり方を観察して盗もうとしているってことか?」

 

この男は確かに去年、『日本魔法界を変えたい』みたいなことを言っていたな。自分は改革者たる器ではないから云々と腐っていたはずだ。頭の片隅にぼんやりと残っている記憶を掘り起こしながら問いかけてみれば、細川は首を縦に振って肯定してくる。

 

「噛み砕けばそういうことですね。若輩者たる私には経験が必要なんです。折角日本魔法界が舞台になっているんですし、先達の『狂言回し』である貴女から技を盗ませてもらおうと思いまして。」

 

「明け透けに言うじゃないか。」

 

「加えて私は非魔法界対策に個人的に賛成しています。その旗頭が自派である細川派になることに不都合などありませんし、バートリ女史の行動は私にとってデメリットが皆無なわけです。なので勉強がてら協力させていただこうと思ったんですよ。……どうでしょう? 『不審さ』は消えましたか?」

 

「……ペットの蛇が逃げ出したというのは切っ掛け作りの芝居だったのかい?」

 

ポーカーフェイスで疑問を呈してみると、細川は少しの間だけ沈黙した後で困ったように否定してきた。こいつ、僅かにだが考えたな。今の質問に考えるような要素があったか? 本当に『正直に話す』のであれば、イエスかノーで回答できる簡単な質問だろうが。

 

「あれは本当に逃がしてしまっただけなんです。東風谷さんに頼んだのもバートリ女史の存在を意識してのことではありません。助けてもらった後で東風谷さんの後ろ盾が貴女であることに気付いたので、言い訳として利用させてはもらいましたけどね。」

 

「ふぅん? ……ま、意図は掴めたよ。それでキミは何が出来るんだい? 現状私には何一つメリットが無いわけだが。」

 

うーん、どうにも違和感が残るな。私はその場に居合わせていないので三バカからの情報になるが、『蛇捜索』の時の流れがかなり不自然だったみたいだし……何よりそんな理由でこんなに頑張って介入しようとするか? 別に外側から見物していればいいじゃないか。

 

早苗から出た『リーゼさんとの面会を結構しつこく催促されました』という発言を思い出しつつも、とりあえずは様子を見るために話を先に進めてやれば、細川は店員が持ってきた謎の飲み物に口を付けてから会話を再開する。『ミルクティー』が何なのかは直感的に分かるものの、随分と不思議な色をしているな。見た感じミルクの割合が多いようだが、どの辺が『ロイヤル』なんだろうか? 今度私も試してみるべきかもしれない。

 

「バートリ女史がこういった形で日本魔法界に干渉してきているということは、非魔法界対策委員会……というか、グリンデルバルド議長と何らかの繋がりがあるわけですよね?」

 

「だとしたら?」

 

「であれば、先月の上旬に対策委員会が出した要請を日本魔法省に通したいと思っているはずです。そのお手伝いをさせてもらえませんか?」

 

「よく分からんね。細川派の協力は既に得られているのに、キミ個人を頼る理由が見つからないよ。」

 

アイスティーをストローでかき回しながら指摘した私に、細川は自信を感じる笑顔で自らの『セールスポイント』を告げてきた。さっきから思っていたが、こいつは交渉用の表情の作り方が甘いな。西内親子と比べると雲泥の差だぞ。経験の少なさが透けている感じだ。少なくとも、こういうことを日常的にやっている人物ではないらしい。

 

「私は結構知り合いが多いので、細川派という集団では届かない部分にまで手を伸ばすことが出来るんです。……松平派の一部を引き込むための策があります。実はあの派閥には付け入る隙が多いんですよ。」

 

「その策はとっくに思い付いているし、もう実行に移しているから必要ないよ。」

 

「……そうでしたか、さすがですね。」

 

おっと、ここは予想外だったようだな。若干がっかりした様子を覗かせた細川は、気を取り直すようにもう一つの案を提示してくる。やけに立ち直りが早いじゃないか。その場で思い付いたことを適当に言っているんじゃないだろうな?

 

「では、藤原派はどうですか? 私はそちらにもルートを持っていますよ?」

 

「それは確かに魅力的だが……キミ、本当に出来るのかい? 私は細川派と藤原派が並び立たないと判断して切り捨てたんだぞ。」

 

「一部だけに干渉するなら不可能ではありません。何とかしてみせます。要請の受け入れの是非を決める会議で、藤原派の要人を転ばせてみせましょう。」

 

「……まあ、別にいいけどね。こっちの邪魔にならないなら文句はないよ。好きにしたまえ。」

 

やっぱり妙だな。あまりにも『協力的』すぎるぞ。疑わしく思いながらも一応了承してから、席を立ってテーブルに千円札を置く。やれると言うならやらせてみるだけだ。それで失敗したところで私が困るわけじゃない。期待なんて端からしていないわけだし。

 

「それじゃ、私は失礼するよ。キミが実際に仕事を成したのかどうかは決議の結果を見て判断させてもらおう。」

 

「っと、もう一ついいですか? ……ゲラート・グリンデルバルド氏と直接会うことは出来ないでしょうか?」

 

このままではタダ働きをする羽目になるのだから、素っ気無く席を立ってやれば慌てて何らかの『要求』をしてくるだろうとは考えていたが……ゲラートと会いたい? 予想外の言葉が出てきたな。

 

「何故会いたいんだい?」

 

「『革命家』として尊敬している方なんです。なので前々から是非話をしてみたいと思っていまして。……短時間で構いません。五分や、三分でも。どうにかならないでしょうか?」

 

「……考えておくよ。」

 

「よろしくお願いします、バートリ女史。それに値する仕事は果たすつもりです。」

 

わざわざ席を立って頭を下げて見送ってきた細川を背に、カフェを出て曇天を見上げながら歩き始めた。……たった三分間ゲラートと話すために苦労して藤原派を転ばせる? 意味が分からんな。どんな『大ファン』なんだよ。

 

うーむ、話してみてもいまいち目的が掴めなかったな。私の手際を見たいならむしろ手助けなんてしない方がいいし、あれだけ事情を把握できているなら懐に入り込まなくても『観察』は出来るはずだ。とはいえ最後のゲラート云々の要求が細川の本当の目的だとも思えない。さっぱり分からんぞ。

 

人も妖怪も神も自身に利益のない行動などしないのだから、細川は行動に見合うメリットを目指しているはず。それが判然としないことに小さく鼻を鳴らしつつ、アンネリーゼ・バートリは異国の歩道を歩くのだった。

 

 

─────

 

 

「そんなに欲しそうにしても買いませんよ。そもそもそれを買えるだけのお金を持ってきてませんから。」

 

展示販売されているパーソナルコンピューターをジーッと見つめている諏訪子さんに注意しつつ、アリス・マーガトロイドはデパートの店内を見回していた。いつの間にか早苗ちゃんが居なくなっているな。神奈子さんの姿も見えないし、また何か『獲物』を発見したらしい。相変わらず忙しない三人組だ。

 

咲夜と魔理沙が帰ってくる夏休みが迫っている今日、私は何度目かも分からなくなった早苗ちゃんたちとのショッピングを行っているのだが……遅いな、リーゼ様。細川京介との話し合いを終えたらすぐに合流するって言っていたのに。

 

リーゼ様から『合流するまで三人を見ておいてくれ』と頼まれたので、最初は三人ともを制御しようと頑張っていたわけだが、現在はもう早苗ちゃんの監督は神奈子さんに一任している。早苗ちゃんと諏訪子さんがバラバラの方向に動き回るから、物理的にリードとかで繋がない限りは制御できないのだ。

 

まあ、神奈子さんは比較的常識があるから早苗ちゃんを任せておいても大丈夫なはず。好奇心旺盛な子犬だってもう少し大人しいぞとため息を吐きつつ、監督経験が豊富なリーゼ様の合流を願っていると……諏訪子さんが可愛らしく小首を傾げながら上目遣いでおねだりしてきた。『本性』を知っているんだから何をしても無駄だぞ。

 

「ダメ?」

 

「ダメです。財布のお金が足りてないんですってば。許可云々じゃなくて不可能なんですよ。」

 

「クレジットカードは?」

 

「魔女はクレジットカードなんて使いませんし、使えても買いません。ダメったらダメです。早苗ちゃんたちを探しに行きましょう。」

 

こういう展開を見越して、今回は財布の中身を事前に減らしてきたのだ。これならこっちの意思とは関係なく絶対に買えないわけだし、今度リーゼ様にも勧めてみようかな。完璧な作戦を内心で褒めている私に、諏訪子さんは残念そうな表情で不満を漏らしてくる。

 

「欲しいんだけどなぁ、パソコン。早苗はこういうのに疎いし、神奈子は興味がある癖に及び腰なんだよね。……アリスちゃんは欲しくないの? 魔女でしょ?」

 

「いやいや、魔女であることとこの機械がどう繋がるんですか?」

 

「だってさ、色んなことを調べられるんだよ? ……パソコンに全然興味を持たないってのはヤバいと思うけどなぁ。好奇心の劣化ってやつじゃない? 老いだよ、老い。魔女として死にかけてるようなもんじゃん。」

 

「私は『一点集中』するタイプの魔女なので平気です。ほら、行きますよ。」

 

『広く深く』のパチュリーなら興味を持つんだろうか? ……うーむ、想像できないな。どうにも似合わない気がするぞ。彼女は情報を伝達する媒体として真っ先に本を選ぶだろうし、そう考えるとむしろ相性が悪い機械なのかもしれない。『競合相手』だ。

 

師匠のことを思い浮かべながら手を引いてやれば、諏訪子さんはパーソナルコンピューターの前で踏み止まって抵抗してきた。しぶといな。

 

「でもでも、欲しいんだもん。ゲームとかも出来るんだよ?」

 

「大体ですね、これってマホウトコロで使えるんですか? 一年の大半はあそこに居るんでしょう?」

 

「マホウトコロじゃ使えないけど、神社なら使えるじゃん。どうせ夜しかネットに繋げないんだし、早苗が寝た後に神社の方で実体化して使えばいいんだよ。昼は寮の早苗の部屋でゲームして、夜は神社でパソコンで遊ぶの。」

 

「ダメダメじゃないですか。もっと神らしい生活を送ってくださいよ。……はい、もう終わりです。買う気がないのに見ていたら、お店の人の迷惑になっちゃいますからね。」

 

何故夜しか使えないのかはさっぱり分からないが、そんな生活を続けていたら札をとんでもない枚数消費することになるぞ。可哀想なリーゼ様がノイローゼになってしまうじゃないか。注意しながら諏訪子さんの両脇に手を添えて、持ち上げることで無理やりパーソナルコンピューターの展示スペースから引き剥がしてやると、金髪の駄々っ子はバタバタと暴れて文句を飛ばしてくる。

 

「アリスちゃんの意地悪! けち! 拗らせ女!」

 

「『拗らせ女』? ……最後のって言う必要ありました? これ以降諏訪子さんには何も買いませんからね。」

 

「ひどいよ、ひどすぎるじゃん。私ったら神なんだよ? もっとちやほやしてくれてもいいじゃんか。」

 

「何かご利益を感じたらちやほやしてあげますよ。今のところは迷惑しか感じてませんけど。」

 

小さな神様を持ち上げたままで売り場から遠ざかる私に、諏訪子さんはがっくり項垂れながら泣き言を呟いてきた。

 

「アリスちゃん、段々可愛くなくなってきたね。前は素直な良い子だったのになぁ。悲しいよ。」

 

「学習したんですよ、私は。諏訪子さん相手に遠慮するとロクなことにならないって。……早苗ちゃんたちはどっちですか? 実体化できているってことは近くに居るはずでしょう? 札の神力を辿ってください。」

 

「あっちだよ。……おっ、本屋じゃん。そうだ、新刊! 新刊見ないと!」

 

自分が指差した方向を見てけろりと元気になった諏訪子さんは、身体を捻って私の拘束を器用に抜け出したかと思えば、次の瞬間には一目散に書店スペースへと駆けて行く。どこまでも自由な神だな。きっと毎日が楽しいんだろう。

 

あまりの奔放さに額を押さえながら私も書店に近付くと、先ずは雑誌を立ち読みしている神奈子さんの姿が目に入ってきた。早苗ちゃんの管理を放棄して車の雑誌を読むのに夢中になっているようだ。こっちの神も結構ダメなのかもしれない。

 

「神奈子さん、早苗ちゃんはどこですか?」

 

「む、マーガトロイドか。早苗は店内に居るぞ。この店から出てはいけないと言っておいたから大丈夫だ。」

 

「それ、効果があるとは思えないんですけど。」

 

「早苗は良い子だから平気だぞ。……それより、これを見てくれ。私の車に装着したいんだが、お前はどう思う? カッコいいと思わないか?」

 

神奈子さんは賢く見える時もあれば、ちょっとぽんこつになっちゃう時もあるな。ちなみに今の彼女は後者だ。神奈子さんが見せてきたページには、『カッコいい』とは到底思えないようなゴテゴテした装飾がくっ付いている自動車の写真が載っているのだから。

 

「あー……その、目立ちすぎじゃないでしょうか?」

 

「それがいいんじゃないか。特にこの蛇の形のマフラーが魅力的だ。……ふむ、バートリに相談してみる価値はありそうだな。合流した後で話してみよう。」

 

「……じゃあ、私は早苗ちゃんを探しに行きますね。」

 

絶対にダメ出しされるだろうし、絶対に買ってはくれないだろうけど、もはやいちいち突っ込む気力など残っていない。神奈子さんに適当に応じてから、店内の狭い通路を回っていると……あの子はあの子で何をしているんだ? 大量のコミックを抱えて彷徨っている早苗ちゃんの姿が視界に映る。

 

「早苗ちゃん?」

 

「あっ、アリスさん! 面白そうな漫画を見つけたんです!」

 

呼びかけを受けて嬉しそうな満面の笑みで歩み寄ってきた早苗ちゃんは、ふと何かに気付いたような顔になった後、モジモジと身体を揺らしながらさっきの諏訪子さんそっくりの上目遣いでこちらを見つめてきた。

 

「……えと、ダメですよね? 多すぎますもんね。」

 

「……まあ、それくらいなら買ってあげるわ。レジに行きましょう。」

 

「わあ、ありがとうございます!」

 

ギリギリ常識の範囲内の値段だし、早苗ちゃんは二柱の神と違って正真正銘の子供だ。ここは買ってあげても問題のない場面だろう。太陽のような笑顔でお礼を言ってきた早苗ちゃんに頷いてから、二人でレジに向かおうとすると──

 

「あー、ズルい! 早苗ばっかりズルいじゃん! 何で私はダメなのに早苗はいいのさ! アリスちゃん、贔屓するつもりなの? 私のも買ってよ!」

 

どこからともなく飛び出してきた諏訪子さんが、早苗ちゃんとは別のコミックを持って糾弾してきた。この短時間でよくもまあそこまで集められたな。

 

「諏訪子さんは大人なんだから自分で買ってください。私は知りません。」

 

「神だから年齢とかないもん。私は大人でも子供でもなくて、神なの。神ってのは人間から漫画を買ってもらうものでしょ?」

 

「訳の分からないルールを捏造しないでくださいよ。とにかく諏訪子さんには何も買いませんからね。拗らせ女とか言った罰です。」

 

「うわぁ、めっちゃ根に持つじゃん。冗談だよ、冗談。親愛表現ってやつ。……っていうか、アンネリーゼちゃんはいつになったら合流するのさ。買いたい物がいっぱいあるのに。」

 

だから一向に合流してこないのかもしれないな。何となく有り得そうな予想をしつつ、諏訪子さんが押し付けてくるコミックを突き返す。諏訪子さんとは理由が正反対だが、私も早く合流して欲しいぞ。もう疲れた。この三人組を制御するには私はまだまだ実力不足だ。

 

神を御することの難しさを実感しつつ、アリス・マーガトロイドは早く帰りたいなと深いため息を吐くのだった。

 

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