Game of Vampire 作:のみみず@白月
「しっかしまあ、何も起きないな。こうなってくるとむしろ不気味だぜ。」
午後の日差しが窓から差し込んでくる、昼食後のホグワーツ城の大広間。手元の木の棒を箒作り用の工具で弄りながら話しかけてくる魔理沙に、サクヤ・ヴェイユはこっくり頷きを返していた。確かに不気味だな。九月も後半に入ったというのに未だトラブルの気配が皆無だ。どういうことなんだろう?
先ず、今年は『怪しい新任教師』が居ない。マクゴナガル先生はチェストボーンの一件を経て新任教師で妥協することをやめたようで、歓迎会にて今学期も自分が変身術の担当を兼任することを宣言したのだ。加えてアズカバンの看守や『ェヘン、ェヘン』みたいな外部からの人間も城に入ってこなかったから、お馴染みだった『新参者関係』のトラブルが発生する確率はゼロに近いと言えるだろう。
次に、今年は大きなイベントが無い。三大魔法学校対抗試合も、クィディッチトーナメントも、ついでに言えば魔法戦争も無しだ。歓迎会の時の帽子の歌は当たり障りのないものだったし、マクゴナガル先生も特殊な発表はしなかったので……むう、やっぱり『常ならぬ普通』っぷりだな。ごくごく平穏に学期が始まっちゃったぞ。
何かの罠かと疑っていると、向かい側の席で魔理沙の作業を興味深そうに眺めているリヴィングストンが口を開く。彼女は午後最初がちょうど空きコマだったようで、魔理沙の作業を見学しているのだ。
「えっと、二人は何かが起きて欲しいんですか?」
「そういうわけじゃないけどよ、これまでの七年間は絶対に何かがあったから……こう、腑に落ちない気分になるんだよ。」
「一年生の時はアズカバンの看守と吸魂鬼の大群に襲われて、二年生は三大魔法学校対抗試合と第二次魔法戦争の勃発、三年生ではホグワーツの戦いがあって、四年生は魔法戦争の終結、五年生ではクィディッチトーナメントと……まあ、『身内のトラブル』があったし、去年もちょっとした事件に巻き込まれたの。だったら七年生にも何かがあるはずなのよ。」
「……どうしてそんなことになってるんですか?」
そんなの私にだって分からないぞ。呆れの色を強めながら首を傾げてくるリヴィングストンに、加工中の棒を様々な角度からチェックしている魔理沙が返事を送る。
「疑問に思ったら負けなのさ。……ちなみに私たちが入学する前の年は、バジリスクが生徒を殺しまくろうとしてたみたいだぜ。その前はヴォルデモートと頭を『シェア』してた死喰い人がハリーを殺そうとしたらしいしな。」
「へ? 頭をシェア? ……あの、よく意味が分からないんですけど。」
「そこは私にだってよく分からんぜ。何にせよ、八年連続で訳の分からん事件が続いてたってことさ。いきなりストップされるとそれはそれで気味が悪いんだよ。」
肩を竦めながら言う魔理沙を見て、リヴィングストンが何とも言えない表情になったところで……そもそも何を作っているんだ? 見習い箒作りどのは木の棒に杖を当ててブツブツ呟き始めた。
「さっきから思ってたんだけど、それって何なの? 箒の柄にしては小さすぎるわよね? それだと庭小人だって乗れないと思うわよ?」
「先ずミニチュアの箒を作ってちゃんと飛ぶかを試すんだよ。こうして飛行のための魔法をかけて、ぶん投げてやれば──」
棒に専用の魔法をかけ終えたらしい魔理沙が、得意げな面持ちで木の棒を軽く放り投げると……あー、マズいんじゃないか? ロケット花火みたいに空中で急加速した棒が窓に突っ込んでいく。最初に実験してみたのは賢明だったらしいな。実際に乗っていたら間違いなく投げ出されていただろう。
「はい、今学期初の罰則ね。おめでとう、魔理沙。」
大広間の窓の一つを突き破って外の世界へと旅立っていった棒を見送りつつ、頭を抱えている魔理沙の肩をポンと叩いた。まあうん、成功っちゃ成功なんじゃないか? 通常の棒では絶対に有り得ない動きだったし。
「……最悪だぜ。思ってたよりもずっと繊細な調整が必要みたいだ。呪文に関してはフリットウィックに相談した方がいいかもな。」
「だけど、凄い加速性能でしたね。ビュンってなってましたよ? ビュンって。……あの加速と同時にブラッジャーを打ったら効果的な気がします。」
うーむ、相変わらずリヴィングストンは『クィディッチ馬鹿』だな。今の暴走を見て利用することを考えるとは思わなかったぞ。普通は『実際に乗っていたら危なかったな』と考えるべき場面じゃないか? それでいいのかと微妙な気分になっている私を他所に、魔理沙が立ち上がってそそくさと窓を修復し始める。
「
窓を直してから自習やお喋りをしている生徒たちに演説をかました魔理沙は、何事もなかったかのように席に戻って新たな木の棒を彫刻刀に似た工具で削り出すが……太々しいヤツだな。さすがに七年生ともなるとこの程度では動揺しないらしい。
「あのね、監督生たる私が一番近くで目撃してたんだけど?」
「私は友人を信じるぜ。誇り高きバートリ家のメイド見習いは、友を密告したりはしないはずだ。」
「まあ、別にいいけどね。どうせすぐに伝わるでしょうから。」
それがホグワーツってもんだぞ。私がやれやれと首を振って応じたところで、リヴィングストンが机の上に転がっている工具を手に取りながら話題を変えてきた。やはりクィディッチプレーヤーというのは箒作りに興味を持つようだ。
「そういえばマリサ、チェイサーを入れるかシーカーを入れるかは決めましたか? そろそろ探し始めないとですよね?」
「ん、決めたぜ。補充するのはチェイサーだ。今シーズンは私が通しでシーカーをやることにする。」
「マリサがシーカーをやってくれるのは頼もしいんですけど……そうなると、きちんとした戦力になりそうなチェイサーはユーインだけですね。新人に期待しすぎるわけにはいきませんし。」
リヴィングストンの認識だと、ソーンヒルは『きちんとしていない』わけか。幸いにもと言っていいのかは分からないが、魔理沙がキャプテンに就任したグリフィンドール代表チームは現在六名もの選手を保有している。シーカーが七年生の魔理沙で、五年生のニール・タッカーと四年生のリヴィングストンがビーター、これまた五年生男子コンビのユーイン・ピンターとパスカル・ソーンヒルがチェイサーで、三年生女子のマドンナ・オリバンダーがキーパーだ。
七年生一人、五年生三人、四年生と三年生が一人ずつという世代のバラけ方はそう悪くないけど、やっぱりメンバーはもう少し増やした方がいいんじゃないか? 来年のことまで考えるなら、一人じゃなくて何人か補充した方がいいと思うぞ。勉強のために教科書を取り出しつつ思考していると、魔理沙がリヴィングストンに応答を飛ばす。苦笑しながらだ。
「パスカルも頑張ってるんだし、そろそろ認めてやれよ。あいつ、ヘコんでたぞ。アレシアが未だに冷たいって。」
「当たり前です。クィディッチの練習をしてる時に、何の意味もない話をしてくるんですよ? やっぱり髪は長い方が似合うだとか、よく着けるアクセサリーは何かとか……信じられません。練習の時間は有限なのに。」
……それって、ひょっとして好意を持たれているんじゃないだろうか? 正直なところ、四年生になったリヴィングストンは学校内でも有数の美人に育っている。アーモンド色の髪はミディアムくらいまで伸びているし、体付きも女性らしくなってきた。だからまあ、異性から好意を寄せられてもおかしくない見た目ではあると思うぞ。
同じ結論に至ったらしい魔理沙と顔を見合わせている間にも、ぷんすか怒っているリヴィングストンの文句は続いていく。
「しかも、ニールとかユーインも最近は似たようなことを言ってくるんです。真面目なのはマリサとオリバンダーだけですよ。許せません。先輩方が築き上げてきた連勝記録を守らないといけないのに、練習中に無駄話だなんて……寮の代表って自覚が足りてないんです! 自覚が!」
「おいおい、落ち着けって。……みんなから言われてるのか? ニールとユーインからは具体的にどんなことを話しかけられたんだ?」
「次のホグズミード行きの時の予定とか、クリスマスはどうするのかとか、服の好みとかを聞かれました。そんなのどうでも良いじゃないですか。クィディッチの方がよっぽど大事なのに。」
ムスッとしているリヴィングストンを前に、魔理沙と二人で苦笑いを交わした。これは推理が当たっていると見て間違いなさそうだ。鈍い私でも分かっちゃうぞ。……でも、肝心のリヴィングストン本人がこれだと進展しなさそうだな。この子にとっては恋よりもクィディッチの方が魅力的なのだろう。
私がグリフィンドールチームの男子三人に同情の念を送ったところで、魔理沙がポリポリと頭を掻きながら相槌を打つ。当たり障りのないやつをだ。新キャプテンどのはチーム内の恋愛事情に深く関わるべきではないと判断したらしい。
「まあ、今はまだ本格的な練習に入ってないからな。新メンバーと戦術が決まったらみんな集中し始めるだろ、多分。」
「じゃあ、早く決めてください。……私は家だと箒に乗れないので、夏休み中はずっとうずうずしてたんです。箒に乗れる時間を一秒も無駄にしたくありません。」
「分かった分かった。今年は時間に余裕があるし、早いうちに新メンバーについては考えておくさ。今月末とかに試験をやってみよう。」
現状だと魔理沙はあまり『キャプテンの怨念』に影響されていないようだが、リヴィングストンがキャプテンになる年は大変だろうな。ウッド先輩以上の熱血指導をやりそうだ。……もしかすると、こういう生徒が将来プロのプレーヤーになるのかもしれない。リヴィングストンは才能があるし努力も惜しまない性格っぽいから、実際になったとしても驚かないぞ。
一年生の頃からは考えられない押しの強さで、魔理沙に意見しているリヴィングストン。著しく成長した後輩を眺めつつ、サクヤ・ヴェイユは時の流れというものを実感するのだった。
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「キミはどう思う? 私はもうマホウトコロでいいんじゃないかと思えてきたんだが。」
人形店の一階の作業場で話しかけてくるリーゼ様に対して、アリス・マーガトロイドは人形作りを進めながら応答していた。耳のバランスがちょっとおかしい気がするな。もっと長くした方が良いかもしれない。
「私も条件的にはマホウトコロが適していると思いますけど、あの場所での非魔法界関係の『カンファレンス』は二度目ですからね。同じ場所で似たようなことをするのは何となく……こう、芸がないような印象を受けちゃいます。」
九月も後半に突入した雨の日の午前中、リーゼ様と二人でカンファレンスの開催場所についてを話し合っているのだ。手元のうさぎのぬいぐるみを弄りながら返答した私へと、リーゼ様はこっくり頷いて同意してくる。
「私もそう思うよ。……とはいえ、香港自治区が会場になることを明確に拒絶してきたからね。マッツィーニも覆らないだろうと言っていたし、こうなるともはや消去法さ。」
「せめてマホウトコロじゃなくて、東京のどこかにするのは無理なんですか?」
「マホウトコロ以外の建物だと、何をどうしたって三派閥の色が出ちゃうからね。ゲラートは広く参加者を募りたいようだし、そうなると日本魔法界内で適当なのは唯一『無所属』のマホウトコロだけだ。……だから私は日本魔法界じゃなくて香港自治区にしたかったんだよ。面倒なことになったもんさ。」
リーゼ様は八月末に私たちと行った小旅行の帰り際、香港特別魔法自治区にカンファレンスの話を持ち込んだわけなのだが……どうも街の顔役たちに満場一致で拒絶されてしまったらしい。交渉の余地無しの明確な拒否だったんだとか。
自治区の窓口になっているサルヴァトーレ・マッツィーニ曰く、要するに香港自治区は『責任を負いたくない』んだそうだ。非魔法界問題に対して協力しようという意思こそあるものの、あの街はそもそも法の隙間にある自治区であって国家ではない。カンファレンスの開催によって発生し得るデメリットが、開催地になることで生じるメリットを上回ったということなのだろう。
まあうん、当然といえば当然の話か。グリンデルバルドが来るなら警備を厳重にしないといけないし、もし何かあった時は会場を準備した自治区側が叩かれることになる。これがきちんとした国家であれば、カンファレンスの会場になることによって『非魔法界問題に力を入れていますよ』という姿勢を示せるメリットがあるものの、自治区の場合は元来グレーゾーンなんだからそんなもの関係がないわけだ。
つまるところ、自治区側からすれば面倒で厄介なだけで大した利益が見込めないのだろう。シビアな話だなと唸る私に、リーゼ様が丸椅子の上で足を組みながら会話を続けてきた。
「西内親子は日本での開催に乗り気だったが、細川派だけが参加するんじゃ意味がない。故にカンファレンスの仕切りに関しては細川派に任せるわけにはいかないのさ。……他に検討してみた場所だと、バンコクや上海も悪くないんだけどね。日本魔法界や自治区と違って、中国魔法界やタイの王立魔法議会には知り合いが一人も居ない。さすがに短期間でゼロから繋がりを構築してカンファレンスを成立させるのは難しそうなんだよ。」
「インドはダメなんですか? あっちの魔法界にならイギリス魔法省経由で働きかけられると思いますよ?」
「それがだね、ニューデリーでもカンファレンスは行う予定なんだ。南アジアと中央アジア向けのやつをね。私が探しているのはあくまで極東……つまり、東アジアと東南アジア向けの開催地なのさ。」
「難しいことになっちゃいましたね。……マホウトコロ側はどう思っているんでしょう? 前回のカンファレンスでは問題を起こしちゃったわけですけど。」
これでマホウトコロも断ってきたらいよいよ厳しくなるなと考えながら口にしてみると、リーゼ様は肩を竦めて曖昧な返事を寄越してくる。
「さぁね、まだ話を通していないから分からないよ。」
「……一度通すと簡単に引っ込められなくなるからですか?」
「それもあるし、先月の旅行の段階では香港自治区に期待していたってのもあるよ。……今月の二十三日にまた日本に行くから、その時にでもシラキと話してみるつもりだ。二十三日からマホウトコロは四連休らしくてね。」
「早苗ちゃんたちから呼び出されたわけですか。」
うーむ、大変だな。守矢神社の三人組の顔を思い浮かべながら言った私に、リーゼ様は首肯してから応じてきた。
「その通りだが、今回は私の方も色々とやることがあるからね。ちょうど良い機会ではあるかな。……西内から非魔法界対策部署の進展を聞いて、マホウトコロ側に話を通して、ついでに細川京介とも会うことになりそうだ。」
「えっと、細川京介っていうのはマホウトコロの教師でしたっけ? リーゼ様に『独力』で協力している細川派の人ですよね?」
「そうそう、そいつだよ。どうにも分からないことが多いから、会って話をすることにしたんだ。細川京介と会うのは二十三日の到着直後で、西内との打ち合わせは二十四日の昼前だね。」
約束自体は済んでいるのか。脳内のカレンダーを確認しつつ、同じく予定を再チェック中らしいリーゼ様に質問を飛ばす。
「それ、私も行くんですか?」
「好きにしたまえ。二十六日まで滞在するから、三泊することになるぞ。一緒に行くかい?」
「じゃあ、行きます。」
守矢神社の三人組に付き合うのは疲れるだろうけど、リーゼ様と一緒に居られるのであれば否など無い。即答した私を見て、リーゼ様はさほど気にしていない様子で頷いてきた。これはもう損得ではないのだ。とにかく可能な限り側に居たいんだから。
「なら、二人で行こうか。シラキとの話し合いは空いた時間に挟んでみよう。……ちなみにキミはさっきからずっと何を作っているんだい?」
「うさぎのぬいぐるみですよ。近所の知り合いが依頼してくれたので、子供と一緒に遊べるような魔法力で動くぬいぐるみを作っているんです。親戚の子供にプレゼントしたいらしくて。」
「うさぎ? そうか、うさぎだったのか。白いキツネかと思ったよ。」
「……うさぎに見えませんか?」
私は基本的に人を模した人形を専門としているので、ぬいぐるみを作った経験はあまり豊富ではないが……それでも人形は人形だ。それなり以上の自信はあるぞ。恐る恐る尋ねてみれば、リーゼ様はちょっと気まずげな顔付きでぼんやりした答えを返してくる。
「んー……うさぎと言われればうさぎかな。キツネと言われればキツネだし、猫と言われれば猫だよ。」
「……もし下手なら下手って正直に言ってください。売り物なわけですし。」
「いやいや、下手ではないよ。可愛らしいぬいぐるみだし、作りもしっかりしているが……何だろうね? どう表現したらいいのか分からんぞ。ちょっと待っててくれ、『例』を持ってくるから。」
例? 別にフォローしているわけではなく、本気で怪訝そうな表情のリーゼ様は、席を立って店舗スペースの方へと歩いて行く。……変なのかな? 私はうさぎに見えるんだけど。やっぱり耳の短さが原因か?
手元のぬいぐるみを様々な角度から眺めて検証している間にも、戻ってきたリーゼ様が両手に持った二体のぬいぐるみを私に示してきた。どちらも店頭に置いてある、私が昔作ったやつだ。
「こっちの猫と犬は違和感がないんだ。リアルな猫と、可愛らしくデフォルメされた犬。見事なぬいぐるみだと思うよ。……しかしそのうさぎは若干変だぞ。何かこう、『人造うさぎ』って感じで。」
「まあその、うさぎのぬいぐるみなんだから『人造うさぎ』で間違ってはいませんけど……デフォルメの仕方が変だってことですか?」
「ああ、そうだね。そういうことだ。リアルな部分が中途半端に残っているのに、二足歩行なのが少し不気味なのさ。『うさぎ人間』って言えばいいかな。人間っぽさの割合が大き過ぎるんだと思うよ。」
『うさぎ人間』か。……んんん、そう言われるとそう見えてきたぞ。一緒に遊べるぬいぐるみということで、動きを柔軟にするために手足を長くし過ぎたかもしれない。確かにテディベアとかよりも人間寄りの造形だ。
ぬう、これは作り直しだな。機能的に有意義だとしても、見た目が可愛くなければ意味がないのだから。デフォルメするならとことんやるべきだと学んだところで、リーゼ様が苦笑いで声をかけてくる。
「まあ、人形に関してはキミの方がよっぽど詳しいわけだし、気にならないならそれでいいんじゃないかな。所詮『素人』の、しかも吸血鬼の意見だよ。」
「いえ、やり直します。言われてみればアンバランスですね。……正直なところ、こういう人形は少し苦手なんですよ。『可愛さ』は時代によっての変化が大きいので、むしろ昔の知識が邪魔になったりするんです。文化による美的感覚の差もありますし、人形作りの奥深さを改めて実感します。『万人に愛される人形』を作るのは本当に難しいですね。」
「魔女としては良いことじゃないか。キミの主題は噛めば噛むほど味が出てくるってことさ。」
「技術面ならともかくとして、造形のセンスを磨くのは困難でしょうね。……幻想郷に行く前に、新しい物に触れておくべきなのかもしれません。」
『食わず嫌い』をせずに色々と見て回ってみるか。幻想郷に行った後だと幻想郷の文化しか知れないんだから、やるなら今のうちからやっておくべきだ。……よし、そうしよう。技術は作業場の中でも磨けるが、センスの方はそうもいかない。残された時間を有効活用しなければ。
移住前に資料となる人形のコレクションも充実させねばと心に決めつつ、アリス・マーガトロイドは『うさぎ人間』の耳をちょんと突くのだった。この子もこの子で可愛いし、折角作ったんだから自分の部屋にでも置くことにしよう。