Game of Vampire   作:のみみず@白月

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おかしな男

 

 

「お待たせしました、バートリ女史。」

 

何だその眼帯は。左目に医療用らしき白い眼帯をつけている細川京介に、アンネリーゼ・バートリは挨拶を返していた。ものもらいでも出来たのか? 魔法薬で治せばいいだろうに。

 

「やあ、細川。座りたまえ。……目をどうしたんだい?」

 

「大したことではありません。先日不注意でドアにぶつけてしまいまして。傷口を見せるのは失礼ですし、隠しているだけです。」

 

「ふぅん?」

 

にしたって癒しの呪文なり何なりで対処できるだろうが。ひょっとすると、たまに見る『癒術嫌い』のお仲間なのかもしれない。自然治癒がどうたらこうたらと主張している、ポンフリーに言わせてみれば『偏屈な連中』だ。……何れにせよ、魔法使いが眼帯をしている光景というのは珍しいな。若干間抜けっぽく見えてしまうぞ。

 

マホウトコロ呪術学院が連休に入った九月二十三日の午後、私は細川京介との話し合いのために都内のカフェを訪れているのだ。ちなみにアリスは一人で買い物に行っており、早苗たちとは夕刻に合流する予定になっている。夕食は五人で取ることになりそうだな。

 

脳内で本日の予定を整理しつつ、一番『見えている』はずの目をぶつけるとはドジなヤツだと呆れている私に、細川は愛想笑いで口を開く。……ふむ? 正に『貼り付けたような笑み』だな。西内親子のようにそうと気付かせないほど見事ではなく、以前の細川のように粗いながらも人間味があるものでもなく、無機質な仮面のような笑みだ。何となくベアトリスが『操作』していたアルバート・ホームズを思い出すぞ。こいつ、こんな表情も作れたのか。

 

「それで、私の働きは役に立ったでしょうか?」

 

「性急だね。……まあいい、その件に関して少し聞きたいことがあるんだよ。大前提として、魔法経済庁の長官を要請受諾側に引き込んだのはキミなのか?」

 

「もちろん私です。約束した通り、藤原派の要人を引き込みました。時間が足りなかった所為で一人しか動かせませんでしたが。」

 

「……どうやったんだい?」

 

むう、嘘を吐いている雰囲気ではないな。そして同時に申し訳なく思っているような気配も一切伝わってこない。『どうだ』というちょびっとだけ誇らしげな言い方だ。……引き込んだだけで死んだのは無関係だということか? 色々な意味を込めた私の問いかけに対して、細川はやけに明るい声色でハキハキと説明を寄越してきた。テンションがちょっとおかしい気がするぞ。

 

「長官には個人的な貸しがあったので、それを返して欲しいとお願いしただけですよ。そこまで複雑な話ではありません。」

 

「仮にその説明を信じるとしてだ、長官が決議後に死んだことに関してはどうなんだい? キミの動きが何か関係しているのか?」

 

「病死なんでしょう? 私は関係ありません。たまたま時期が重なっただけです。」

 

そこは明確に否定するわけか。そりゃあ『たまたま時期が重なった』のは有り得ない話じゃないが、だからといってはいそうですかと信じるのはバカのやることだ。非常にキナ臭いものを感じている私に、細川はテーブルにあった砂糖の小瓶を弄りながら話を続けてくる。

 

「それで、グリンデルバルド議長とはお会いできそうですか?」

 

「ん? ……ああ、そういえば会いたいと言っていたね。」

 

「もし私が『仕事』を成功させたら、会わせていただける約束だったはずです。」

 

「おいおい、私はあの時『考えておく』としか言わなかったぞ。だからきちんと考えたし、ゲラート・グリンデルバルドにもキミのことは伝えてあるよ。」

 

まあ、実際は考えただけで伝えてはいないが。……私の記憶が確かなのであれば、最初にこいつと話した時は『ついでに言ってみた』程度の頼み方だったはずだ。にも拘らず、今回はいの一番に『対価』としてゲラートとの接触を要求してくるのか。

 

遠慮がなくなっているというか何というか、あまりにもオープンな態度だな。何とも言えない違和感に眉根を寄せている私へと、細川は穏やかな笑みを顔に貼り付けたままで応じてくるが……おい、近付いてきた店員が話しかけているぞ。何で無視するんだよ。

 

「いらっしゃいませ、お客様。ご注文は──」

 

「なるほど、そうですか。では、グリンデルバルド議長は何と言っていましたか? この前も説明したように、私としては少し会話できるだけで充分なんですが。」

 

「その前にキミ、注文を済ませたまえよ。」

 

見事なほどに無視されて実に気まずげな面持ちになっている、水を差し出すポーズで停止している若い女性店員。哀れな彼女に助け船を出してやれば、細川は……どうした? 五秒間ほどピタリと動きを止めた後で、何事もなかったかのように会話を再開した。店員にではなく、私に向けてだ。

 

「グリンデルバルド議長はお忙しいでしょうから、場所はどこでも構いません。海外に行くことも可能です。ほんの短い時間でもいいので、融通してもらうわけにはいかないでしょうか?」

 

「いやいや、注文はどうしたんだ。適当に何か頼みたまえよ。」

 

何なんだよ、一体。席を使うんだから普通は何か頼むだろうが。もう一度注意を重ねてやると、細川はまたしても数秒間不自然に停止した後、店員にぐりんと顔を向けて言葉を放つ。やけに平坦な声でだ。

 

「……アイスティーをお願いします。」

 

「は、はい。かしこまりました、アイスティーですね。少々お待ちください。」

 

うーむ、本当にどうしたんだ? 慌てて復唱した女性店員が去っていくのを見送りつつ、細川へと心からの疑問を投げた。聞いた上で無視しているというか、店員の存在に気付いていない感じだったぞ。あの距離に立ってあの声量で話しかけていたんだから、普通なら気付かないはずがないのに。

 

「キミ、店員の声が聞こえなかったのかい?」

 

「ええ、すみません。全く気付きませんでした。」

 

「……であれば、目だけではなく耳も調べてもらうべきだと思うよ。あれが聞こえないっていうのは相当だぞ。」

 

「そうですね、そうしてみましょう。」

 

そうするのかよ。私の皮肉をニコニコ顔で流した細川を見て、小さく鼻を鳴らしてから話を戻す。耳が遠くなるって歳じゃないだろうに。そんなんでどうやって授業をしているんだ? こいつ。

 

「とにかく、グリンデルバルドは忙しいからね。キミだけのために時間を作るのは中々難しいんだ。前向きに検討はしているよ。」

 

「そこを何とかお願いできないでしょうか? ……私はまだまだ役に立てると思いますよ? 損はさせません。使う時間以上の利益を生じさせてみせます。」

 

「何故そこまでしてグリンデルバルドに会いたいんだ? ……正直に言わせてもらうとね、私はキミの行動がさっぱり理解できんぞ。グリンデルバルドに会うためだけに、一介の教師でありながら藤原派の重鎮を翻意させたわけか? 狂言回しの仕事を間近で見たいってのはどうなったんだい? 先ず何が目的なのかをはっきりさせたまえよ。でないとこっちとしては信用できないね。」

 

何を目指しているのかも、何が出来るのかも、どうやったのかも分からん。アイスココアをストローで掻き回しながら言い放ってやれば、細川はすとんと表情をかき消して疑問を口にした。私の問いを無視して質問を返してきた形だ。

 

「つまり、私はグリンデルバルド議長には会えないということでしょうか?」

 

「……会えなくはないよ。マホウトコロでまたカンファレンスを開こうと考えているからね。キミがマホウトコロの教師である以上、その際に会う機会が──」

 

「そうですか、会えますか。なるほど、カンファレンスを開くんですね。それは確かに良い機会です。いつ頃になりそうですか?」

 

こいつ、こんな男だったか? 会ったのは数回程度だし、私が細川のことを詳しく知らなかっただけだと言えばそれまでだが……話し方や感情の変化が『独特』すぎるぞ。前々回や前回話した時の印象は『ごく普通』だったのに、今やホグワーツの新任教師レベルの異様な雰囲気を感じるな。

 

いきなり笑顔に戻って早口で捲し立ててきた細川へと、彼のアイスティーを先程の女性店員が運んでくるのを横目に応答する。訳が分からん。何なんだこいつは。大体さっきの質問の返答はどうしたんだよ。会話が噛み合っていないぞ。

 

「……具体的な日程はまだ未定だし、マホウトコロで開催するかどうかも確定していないよ。この連休中にでもシラキに話を通そうと思っているんだ。」

 

「任せてください。必ずマホウトコロで開催できるように私が調整してみせます。」

 

「あー……まあ、別にそこは頑張らなくてもいいんだけどね。多分問題なく進むと思うよ。キミが何かをする必要はないさ。」

 

「そうですか、安心しました。……では、私はこれで失礼しますね。」

 

んん? もう帰るのか? そう言った直後に店員がテーブルに置こうとしたアイスティーを……やっぱりおかしいぞ、こいつ。強引に奪うように直接受け取ったかと思えば、そこそこの大きさの氷ごとコップの中身を一気飲みした細川は、そのまま笑顔で出入り口へと歩いて行ってしまう。店員と私がぽかんとその背を見ているのを他所に、細川は店を出た途端に姿くらまししてしまった。

 

おいおい、嘘だろう? 非魔法界の東京だぞ、ここは。機密保持も何もあったもんじゃないなと呆れ果てながら、一応周囲を見回すと……消える瞬間を確と目撃したのはこの店員だけだったらしい。呆然としている女性店員と目が合う。不幸中の幸いってところか。

 

「あの、え? えっと、消えた?」

 

「……オブリビエイト(忘れよ)。」

 

何だって私が後始末までしてやらねばならんのだと思いつつも、魔法界での生活の癖で反射的に記憶修正を行ってから……くそ、そういえば代金も払っていかなかったな。アイスティーの料金まで私持ちか。伝票を手に取ってレジへと歩き出した。払ってやるのは一向に構わんが、食い逃げ紛いの行動をされるのは気に食わないぞ。

 

ムーディだってもう少し『常識的』な行動をするだろうし、となると細川は完全にイカれているということになる。一体全体何が起きているんだ? 早苗と合流したら学校内での細川の態度を聞いてみるか。ホグワーツのトラブルがマホウトコロに伝染したんじゃなければいいんだが。

 

レジで料金を支払いつつ、アンネリーゼ・バートリはあまりにも意味不明すぎる状況にため息を吐くのだった。

 

 

─────

 

 

「そうそう、そうなんです! 同じことをこう、何回も何回も繰り返し喋ってて。しかも内容が支離滅裂だったから、どうしちゃったのかってみんな心配に……あ、そう! その時にマホウトコロが揺れたんですよ! ガタガタッて揺れて、ピタッと収まったんです。ピタッと。それで暫く教室で待機した後に全校集会になりました。緊急の全校集会が開かれたのなんて初めてかもしれません。」

 

うーむ、分かり難い。身振り手振りで『すっごく大変だった!』というのを頑張って表現している早苗ちゃんに対して、アリス・マーガトロイドはとりあえずの頷きを返していた。細川京介の『異常』の話をしていたはずなのに、いつの間にかマホウトコロの揺れの話になっているな。とにかく喋りたいことが多すぎて整理できていないようだ。早苗ちゃんらしいといえばらしい会話内容だぞ。

 

九月下旬の夕刻。現在の私とリーゼ様、そして守矢神社の三人組は東京のバーベキューレストラン……焼肉屋? で注文した品が届くのを待っているところだ。先程合流した早苗ちゃんが、ここで食事をしたいと主張したのである。曰く、ガイドブックに載っているような有名なお店なんだとか。

 

なので五人で店に入って注文を済ませた後、先に運ばれてきた飲み物を飲みながら話していたわけだが、そこでリーゼ様が今日の昼過ぎに会ったという細川京介の話題を切り出したのだ。私はその時間に一人で買い物をしていたから実際には見ていないものの、リーゼ様によれば『かなりおかしい』様子だったらしい。

 

夏休みが明けた直後の出来事を語っている早苗ちゃんに、リーゼ様が冷たい烏龍茶を飲みながら相槌を打った。ちなみに私も烏龍茶で、早苗ちゃんはオレンジジュースを、諏訪子さんと神奈子さんはビールを飲んでいる。神奈子さんはまあセーフだろうけど、諏訪子さんがビールを飲んでいるところは店員には見せない方が良さそうだな。

 

「要するに、その時点で既に細川は『おかしかった』わけか。……次の授業の時はどうだったんだい?」

 

「えと、あれ以降は別の先生が授業をしてます。日本史学の先生は三人居るんですけど、そのうちの一人の鈴川先生って女の先生が九年生の授業をやってる状態です。」

 

「……細川は解雇されたのか?」

 

「いやいや、そういうわけじゃないと思いますよ。病気療養みたいなことなんじゃないでしょうか? 誰にも聞けないので噂には詳しくありませんけど、先生を辞めたわけではないはずです。そうなったらさすがに耳に入ってきますもん。」

 

病気療養か。話を聞きながらメニュー表を眺めている私を他所に、リーゼ様が腕を組んで早苗ちゃんに言葉を飛ばす。不思議な名前の品が沢山あるな。肉の部位の名前なんだろうか?

 

「ふぅん? ……明らかに行動が異常だったし、精神的な病気なのかもね。」

 

「何の病気かまでは分かりませんけど……まあその、そんな感じではありました。ストレスとかが原因なのかもしれません。ちょっと怖くなるような様子でしたし、ゆっくり休んで欲しいです。」

 

「マホウトコロのガキどもを相手にしてればおかしくもなるよ。どいつもこいつも生意気なクソガキばっかりだもん。教師ってのは大変だよね。……神奈子、おかわり頼んで。私が頼むと変っしょ?」

 

「む、それはそうだな。……こっちに生中を二つ!」

 

もう一杯目を飲んだのか。半個室の入り口から顔を出して大声で注文した神奈子さんへと、リーゼ様が呆れた声で注意を送った。

 

「細川もおかしいが、キミたちもペースがおかしいぞ。もっと味わって飲みたまえよ。」

 

「ビールはこうやって飲むものだ。お前は飲まないのか?」

 

「私はもう少し上品な酒を好むんでね。肉料理屋の癖にワインはロクなのがないようだし、今日はやめておくよ。」

 

「うっわ、金持ちっぽい台詞。酒に上品も何もないでしょ。……んで、リーゼちゃん的にはマホウトコロの騒動の方は気にならないの?」

 

諏訪子さんが茶化しながら放った問いを受けて、リーゼ様がジト目で応答する。まあうん、私も日本のビールは苦手かな。味がどうこうというか、単純に強すぎる炭酸が苦手なのかもしれないけど。

 

「気にならないってほどではないが、原因ははっきりしているんだろう? 魔法の不具合だと新聞に書いてあったぞ。だったら直せばいいだけの話さ。それで終わりだよ。」

 

「えー、もっと注目してくれてもいいじゃん。すっごい騒ぎになったんだから。ね? 早苗。」

 

「はい、凄かったです。だけど騒ぎのお陰で次の日とその次の日がお休みになったので、寮でお二方といっぱい遊べました。そういう意味ではラッキーだったかもしれません。」

 

『お陰』ではないし、『ラッキー』でもないと思うぞ。基本的には悪い出来事なんだから。ニコニコしながら言う早苗ちゃんに、烏龍茶を一口飲んでから質問を投げた。

 

「その二日間で魔法の点検をしたってことよね? 結局は何が問題だったの?」

 

「んと、全校集会では魔法の一部に『欠損』があったって説明されました。魔法省の専門家の人とかも調べに来てたみたいです。」

 

「欠損、ね。」

 

奇妙な表現だな。魔法自体は経年劣化とは無縁だが、『魔法がかけられている物体』はその限りではない。そっちが何らかの原因で破損して、結果として魔法の一部分が欠損したということかな? つまりマホウトコロの『反転』は単一の大規模な魔法を領地全体にかけているわけではなく、複数の魔法を繋ぎ合わせて成立させているわけか。

 

まあ、安全性という面では理に適っているのかもしれない。それなら一箇所がダメになっても全体に致命的な影響が出ないし、今回の一件においては正にそのメリットが出たと言えるだろう。仮に一部分が機能不全に陥っても、残る箇所が反転魔法を支えてくれるわけだ。

 

でも、定期的な点検とかはしていなかったのかな? マホウトコロは大部分が木造建築なんだから劣化そのものは起こり得るだろうけど、年に一、二回程度チェックしておけば事故は充分に防げるはずだ。あれだけ危険な立地なのにそれすらやっていないとは思えないし、いきなり『欠損』したというのはやはり奇妙な話だな。

 

脳内で思考を回していると、店員がビールと生肉の皿が満載になったプレートを運んできた。途端に早苗ちゃんと諏訪子さん、リーゼ様がそちらに興味を移したところで、神奈子さんが私に話しかけてくる。

 

「そういえばマーガトロイド、神社の転移に関してはどうなっているんだ?」

 

「一応術式の骨組みは完成しました。……一応ですけどね。正直なところ、ぶっつけ本番で成功させる自信があるとは言えません。向こうのどの場所に転移させるかが決まっていない現状だと、細かい数値も確定させられませんし。」

 

「やはり難しそうか。」

 

「色々考えてみたんですけど、いっそのこと私の師匠に頼んだ方が確実かもしれませんよ? 私がこっちに居る間に守矢神社周辺の詳しい環境を調べておいて、幻想郷に行ってから師匠に情報を渡して術式を組んでもらった後、それをリーゼ様経由で神奈子さんたちに伝えるっていうのはどうでしょう?」

 

『伝言ゲーム』はあまり褒められたやり方ではないが、大掛かりな転移魔法はちょっとした計算ミスが命取りになりかねないし、万全を期するのであればパチュリーに頼むべきだろう。私の『白旗宣言』を受け取った神奈子さんは、我先にと肉を焼き始めた三人を見ながら難しい顔で返事をしてきた。

 

「お前の師匠ならば術式自体は問題ないのかもしれないが、それをバートリ経由で受け取った私たちが正確に起動させられるかが疑問だな。出来ると思うか?」

 

「んー、何とも言えませんね。だけど私がこっちで直接術式を組んだとしても、結局起動させるのは神奈子さんたちです。移住時期がズレている以上、実際に起動させる頃には私はもう幻想郷ですから。」

 

「……悩ましいな。実際のところ、神術でも同じようなことを出来なくはないんだ。しかし今の私たちでは神力が不足しているし、そんな大規模な術を使うのは久々すぎて自信がない。バートリに大量の札を準備してもらった挙句、失敗して無駄になったら目も当てられん。」

 

「そもそも準備しないぞ、私は。皮算用はやめたまえよ。土地をごっそり転移させるための神力をあの札で賄ったら、尋常じゃない枚数を使う羽目になるだろうが。そんなもん無理に決まっているさ。真っ先に候補から外したまえ。……おい、諏訪子。それは私の肉だろう? 何故さっきから人が焼いた肉を取ろうとするんだい?」

 

突っ込みながら諏訪子さんと肉を奪い合っているリーゼ様を横目に、苦々しい顔付きになっている神奈子さんへと口を開く。今のリーゼ様の発言を苦く思っているのか、それとも肉に夢中になっている諏訪子さんの無関心っぷりが原因なのか。何とも微妙なところだな。

 

「何にせよ、もっと詳細を詰めないとどうにもなりませんね。どの方法を選ぶにせよ移住先の座標は絶対に必要になります。そこを決めない限りは話が前に進みません。」

 

「道理だな。……バートリ、聞いているか? 幻想郷のことを直接調べられるのはこの場でお前だけなんだぞ。次に幻想郷に行った時、守矢神社の転移先の候補を決めてきてくれ。」

 

「この疫病神め、だから人の肉を取るなと……ん? 分かったよ。土地の候補だね? 調べておくさ。そんなことより早く諏訪子を止めたまえ。自分で焼かずに人のばかりを食べているぞ、こいつ。」

 

「だって私、神だもん。偉いんだもん。それが許されるんだもーん。……あっ、泥棒! 肉泥棒! もう皿に取ったやつを横取りするのは卑怯だよ、リーゼちゃん! それは違うじゃん! はい、ルール違反で罰金ね。その肉寄越しな。ついでに盗った肉も返し……あああ、助けて早苗! 邪悪な吸血鬼がこんなことしてるよ! 折れちゃう折れちゃう! 首が折れちゃうって!」

 

これはダメそうだな。食事が終わるまで『知的な話し合い』はお預けらしい。遂に実力行使に出たリーゼ様が諏訪子さんの首根っこを掴んで押さえ付けたのを見て、早苗ちゃんが慌てて仲裁に入っていく。神奈子さんも会話を諦めて肉を焼き始めたし、私もとりあえず食べることにするか。

 

いやはや、この三人との話し合いはいつも三歩進んで二歩下がる感じだな。本当に前進しているのか疑問になってくるぞ。騒がしい会話を耳にしながら、アリス・マーガトロイドはトングで野菜を掴むのだった。

 

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