Game of Vampire   作:のみみず@白月

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プラモデル

 

 

「ん、来たか。少し待て、今茶を淹れてやる。」

 

一体全体どういうことだよ。スキマから出た途端に見えてきた光景に困惑しつつ、アンネリーゼ・バートリは声をかけてきた藍にかっくり首を傾げていた。私が足を踏み入れたのは、ごくごく平凡な日本の民家の茶の間だ。東風谷家よりもやや広めの和風のリビングルーム。どこなんだよ、ここは。

 

十一月に入ってから数日が経過した金曜日の午後、『別荘』と守矢神社の転移先の下見をするために幻想郷に行こうと思い立って、いつものように呪符で移動してきた結果……毎度お馴染みの博麗神社ではなく、この謎の部屋に出てしまったというわけだ。

 

部屋の中央には大きな丸い座卓が置かれており、壁際には箪笥やテレビなんかが生活感丸出しで設置されている。いきなり見知らぬ場所に放り出されて困惑している私へと、部屋から出て行こうとしている金髪九尾が注意を寄越してきた。

 

「あと、靴は脱げ。そっちの障子戸を開けると庭に繋がっているから、そこに置いておくといい。」

 

「いやいや、先ずはここがどこなのかを説明したまえよ。」

 

「紫様の家だ。脱いでから歩けよ? 折角張替えたばかりの畳が汚れるからな。私は台所で茶を淹れてくるから大人しく待っておけ。」

 

紫の家? 呪符で繋がっている先を博麗神社からこっちに変更したということか? そりゃあ紫から渡された呪符で、スキマを使った移動をしたのだから行き先の変更は大いに可能だろうが……何のためにそんなことをするんだよ。びっくりしたじゃないか。

 

言うとさっさと部屋を出てしまった藍に鼻を鳴らした後、説明不足だぞと不満に思いながら障子戸を開けてみれば……今度は何だ? 開けた途端にブラウンの髪の少女がびくりと身を震わせているのが目に入ってきた。しゃがんだ状態で板張りの廊下から部屋の中を覗き見ていたらしい。

 

白いブラウスか何かの上に赤い東洋風のワンピースを着ており、緑色の独特な形状の帽子を被っていて、そして獣の耳と二本の細い尻尾を持っている。見た目だけで言えばホグワーツの一年生にも届かないくらいだが、耳と尻尾があるのだからどう考えても妖怪だろう。尻尾の形からして猫妖怪か? 先端だけが白い毛の、細い二又の黒い尻尾だ。

 

「おい、何だキミは。覗き見とは無礼だな。」

 

覗き見ていた時の体勢のままで硬直している猫妖怪に言ってやると、彼女は……何なんだよ、本当に。分かり易くハッとした直後、私の太ももにぺちんと全然痛くないパンチをしてから素早く逃げ出した。より厳密に言えば『逃げ出そうとした』だが。逃がすわけないだろ。

 

「おいこら、いい度胸じゃないか。私とやる気かい?」

 

「わっ、わっ……藍さまー! らんさまぁ!」

 

首根っこを掴んで捕獲してやれば、猫娘はじたばたと暴れながら哀れみを誘うような声で藍を呼び始める。するとドタバタと喧しい音が背後から聞こえた後、茶の間に藍が戻ってきた。

 

「何だ、どうした! ……バートリ、何をしている。橙を離せ。」

 

「ちぇん? 何だか知らんが、こいつがいきなり私の足を殴ってきたんだよ。キミの身内なのかい? どういう教育をしているんだ。」

 

「……橙、本当なのか?」

 

茶葉が入っているのであろう筒を片手に持ったままの藍がジト目で問うのに、『ちぇん』という名らしい猫娘がぶんぶんと首を横に振る。目が尋常じゃないくらいに泳いでいるぞ。恐ろしく嘘が下手なガキだな。

 

「ちっ、違います! こいつが嘘を吐いてるんです!」

 

「やったのか。……離してやってくれ。後で叱っておくから。」

 

「ら、藍さま? こいつの言うことなんか信じちゃダメです! 嘘吐きで、意地悪ばっかりしてくるバカコウモリのことなんて──」

 

「私は今すぐこの無礼な低級妖怪の首をへし折るのでも一向に構わないんだが? そういえばスイスでは猫を食べるらしいね。今急に思い出したよ。」

 

そうか、こいつはいつも私を見張っていた黒猫か。人に化けられるほどの妖怪だとは思っていなかったぞ。ぐいと身体を持ち上げて脅してみれば、猫娘はぷるぷる震えながら泣きそうな声で強がってきた。

 

「わ、私を食べたら藍さまがお前のことをやっつけちゃうからね! バーカ! バカコウモリ!」

 

「狐の威を借る猫か。珍しいものが見られたよ。末期の言葉はそれでいいのかい? キミの墓には『世界で最も偉大な吸血鬼にバカコウモリと言ったために死す』と刻んであげよう。後世に向けての良い教訓になるだろうさ。」

 

「……バートリ、頼むから離してやってくれ。その子はまだ幼いんだ。あまり他者と関わった経験がないから、人付き合いが上手くないんだよ。」

 

「人付き合い云々の問題じゃないぞ、これは。きちんと礼儀を教えたまえよ、礼儀を。」

 

呆れ果てた気分で手を離すと、バカ猫は脱兎の如く廊下の先へと逃げていく。曲がり角で一度こちらを振り返って、舌を出して捨て台詞を口にしながらだ。

 

「べーっだ! お前なんか早く出てけ! バーカ!」

 

「……キミ、教育が上手くないらしいね。あの猫は咲夜が二歳の頃より無礼だぞ。語彙力も無いようだし。」

 

「……少々甘やかし過ぎたという自覚はある。これから厳しくしていく予定だ。」

 

絵に描いたようなクソガキじゃないか。咲夜はやっぱり賢い子だったんだなとうんうん頷きながら、気まずげな表情で再び奥へと戻っていった藍を背に庭に靴を置いて、肌寒い外の景色を見渡した。

 

そこまで広くない和風の庭に雪は積もっておらず、木造の高い塀の所為で敷地の外はよく見えなくなっている。神秘の濃さからいって幻想郷内だとは思うが、スキマ妖怪のねぐらだもんな。どんな土地だろうと勝手に濃くなっちゃいそうだ。

 

澄んだ冬の空気を感じながら廊下と庭とを隔てる近代的なガラス戸を閉じて、早苗の実家にもあったマグルの小さな電気暖炉……『石油ストーブ』だったか? で暖かな茶の間に戻ってみると、湯呑みが載ったプレートを持っている藍も同時に部屋に入ってきた。

 

「ここは幻想郷なのかい?」

 

「幻想郷でもあり、外界でもある場所だ。双方に全く同じ建物があって、それを『重ねて』一つの建物にしている。……行儀が悪いぞ。橙に礼儀云々を注意する者の行いではないな。」

 

テーブルに直接腰掛けた私に苦言を呈してきた藍へと、肩を竦めて返事を送る。『二つの建物を重ねた』か。訳の分からん説明だが、『反則級』がやることをいちいち真面目に考えたって無駄だろう。境界を弄って二つの場所を一つにしたということかな?

 

「座布団は嫌いなんでね。……で、私は何故こっちに出てきたんだい? 博麗神社に行く予定だったんだが。」

 

湯呑みの中の緑茶を飲みながら疑問を飛ばしてやれば、藍はピーピー鳴り始めた石油ストーブのボタンを押してから返答してきた。『延長』というボタンをだ。何を延長したんだろうか?

 

「移住先の土地の下見をするつもりだったんだろう? その場合どうせ博麗の巫女ではなく、紫様と会う必要があるはずだ。しかし紫様は冬眠中で自由に動けず、代行者たる私はまだ博麗の巫女と会うわけにはいかない。だからこちらに案内させてもらったんだよ。」

 

「……相変わらず嫌な連中だね。こっちの行動は全部筒抜けということか。」

 

「紫様はそれが出来る大妖怪だということだ。今来るから少し待っていろ。」

 

「ん? 紫が? 『冬眠中』じゃないのかい? というか、この家の中に居るのか?」

 

延長のボタンを私も押してみながら質問を連発してやると、藍は注意をしてから答えを寄越してくる。ふむ? 何も『延長』されている感じはしないぞ。変な機械だな。

 

「無意味にボタンを連打するな。壊れたらどうする。……紫様は冬の間はこの家の寝室で寝ているんだ。とはいえ今はまだ眠りが浅い時期だから、短時間お前と話すくらいならギリギリ問題ないだろう。その分目覚めが遅くなるかもしれんがな。」

 

「ふぅん? 冬の間ずっと土の中で寝ているのかと思っていたよ。」

 

「蛇や蛙じゃあるまいし、そんな野生動物みたいなことをするわけがないだろうが。紫様を何だと思っているんだ。」

 

「しかしだね、『冬眠』と言えば洞穴か土の中だろう? 真っ当なイメージだと思うぞ。」

 

あるいは屋根裏だな。紅魔館の屋根裏で越冬していたコウモリたちのことを思い出したところで、部屋の襖がゆっくりと開いて……布団の妖怪みたいだな。『妖怪布団被り』が現れた。

 

「おはよう、藍、リーゼちゃん。……あー、ねっむ。眠すぎ。藍、ストーブ強くして。そんでもって加湿器持ってきて。早く。」

 

「今持ってきます。」

 

「……キミ、恥ずかしくないのかい? 客人の前に出てくるような格好じゃないぞ。威厳ゼロだ。」

 

ひどい有様だな。掛け布団に包まったままでずりずりとこちらに近付いてきた紫は、藍と私の分の緑茶を立て続けにゴクゴクと一気飲みすると、くでりとテーブルにもたれ掛かりながら応じてくる。凄まじく眠そうな面持ちだ。布団の隙間から覗いている服装が、やけに可愛らしい柄のパジャマなのが何かイラッとするぞ。

 

「眠いのよ。この時期はとにかく眠いの。それにずっと寝てるからアホほど喉が渇くわ。……らーん、冷たい飲み物も追加ね! スポーツドリンク的なやつ! ペットボトルごと持ってきて!」

 

「不便な生態だね。それこそ境界を操ってどうにかすればいいだろうに。」

 

「生態というか、正にその能力の代償なのよ。フランちゃんの『狂気』みたいなものね。私は常に脳の機能を限界まで酷使してるから、一定の『クールダウン期間』が必要になるの。寒いのが嫌いだから冬の時期を使ってそれをやってるってわけ。今はかなり無理して起きてる状態なのよ? だから褒めて? 頑張ってるゆかりんのことを褒めて頂戴。」

 

ふむ、確かにフランの事情に通ずるものがあるな。どちらも強力すぎる能力を持っているが故に、身体に負担をかけているわけだ。フランの場合はそれを賢者の石という『外部装置』で解決し、紫の場合は単純に脳を休ませることで対処しているってことか。要するに能力が原因なんだから能力で解決することは出来ないと。

 

「フランと同じ方法を使うのは無理なのかい?」

 

褒めて云々を無視して気になったことを問いかけてやれば、紫は半分寝ているような顔付きで首をのろのろと左右に振ってきた。

 

「無理ね。フランちゃんとは負荷の質が違うのよ。大昔に魅魔にも相談してみたんだけど、面倒くさすぎるって匙を投げられたわ。未熟だった頃はそれだけ負荷が少なかったから、ここまで寝なくてもどうにかなってたんだけどね。今はもう全力で、全力で能力を使って……る、から──」

 

おいおい、寝たぞ。いきなりだな。会話の途中ですやすやと寝息を立て始めた紫に呆れていると、部屋に戻ってきた藍が布団妖怪のすぐ近くに謎の機械を設置する。

 

「触るなよ? バートリ。これは高い加湿器なんだからな。……加湿器を知っているか?」

 

「バカにし過ぎだぞ。名前から何となく読み取れるさ。湿度を上げる機械なんだろう? そんなもんが何故必要なのかは分からんがね。」

 

「紫様のお肌のためだ。冬場は乾燥するし、ずっと寝ていると更にひどくなるからな。若いお前には理解できないかもしれないが、歳を取ってくると色々と大変なんだよ。……紫様、パックを貼ります。顔を上げてください。」

 

こいつらも結構アホなことをやっているな。守矢神社の連中といい、美鈴やアピスといい、何千年生きていようが根本の性質は変わらないらしい。むしろ開き直っているような印象を受けるぞ。

 

「んー? ……飲み物は? 喉渇いた。」

 

「そこにあります。それより動かないでください。早く貼らないと乾いちゃうんですから。」

 

「うー、どこよ。見えない。……あっ。」

 

主人の顔に大真面目な表情で白いフェイスパックを貼っている藍と、彼女が持ってきたペットボトルを倒して盛大に飲み物を零している紫。これがレミリアと咲夜ならまだ救いようがあったんだが、紫と藍がやっていると何だか哀れになってくるぞ。非常に物悲しい気分だ。

 

「ああもう、動かないでと言っているでしょうが。」

 

「ちょっ、違うのよ。飲み物が零れたの。布団と畳に滲みちゃうんだって。」

 

「……私はいつまでキミたちのコントを見ていればいいんだい? こっちも話したいことがあるんだから、早く本題に入りたまえよ。私が帰った後で好きなだけやればいいじゃないか。」

 

とうとう主人の顔をがっしり掴んで遠慮なく固定し始めた藍と、わたわたと布団にスポーツドリンクがつかないように動かしている紫に苦言を申し立ててやれば、イライラした声色の藍が応答を投げてきた。

 

「ちょっと待て、バートリ。私は『シール』を貼るのが苦手なんだ。集中させてくれ。紫様、そのままで動かないように。……ああ、またズレた。こういう細かい作業は本当に好かん。紫様が動くからですよ。」

 

「あのね、藍。毎回毎回言ってるけど、完璧にぴったり貼る必要はないのよ? 大体でいいの。そうやって何度も何度もやり直してるから、いっつもパックが乾いちゃって──」

 

「いいから喋らないでください!」

 

「えぇ……怒鳴んなくてもいいじゃない。何でそんなにイライラしてるのよ。ゆかりん、眠いのに。眠いのに頑張ってるのに。何だか悲しくなってきたわ。今私、シールを何回も貼り直されてるプラモデルの気分。プラモデルはこんな気持ちなのね。」

 

バカなのか、こいつらは。見ているこっちがイライラしてくるぞ。我慢できなくなって藍からパックをぶん取って、それを口の減らないプラモデルの顔に貼り付ける。後でやれよ、こんなこと。今から話をするんだろうが。

 

「ほら、これで終わりだ。さっさと話を始めたまえ。私は早くも帰りたくなっているんだから。」

 

「おいバートリ、ズレているぞ。こっちが一センチも余っているじゃないか。紫様のお肌が荒れたらどうするつもりだ。今でさえ既にボロボロなんだからな。パック無しでは生きられないんだ。」

 

「ええい、もうパックの話は終わりだと言っているだろうが! 剥がすんじゃない、バカ狐! それでいいんだよ! 大体こいつの肌が荒れたところで誰が悲しむんだ。年相応じゃないか。」

 

「ねえ、二人ともどうしてそんなにイライラしてるの? そしてどうして私の肌がこき下ろされてるの? ツヤツヤのモチモチなんだけど? 訂正して頂戴。妖怪なんだから荒れるはずないわよね? 訂正して。早く訂正してよ。」

 

荒れるはずないならパックは要らんだろうが。苛々した空気が場を包んだところで、藍が戸棚から一枚の紙を出してテーブルに置いた。地図か? どうやら幻想郷の地図らしい。

 

「土地のことはこれを見て決めておけ。私は紫様のパックを貼り直すから。」

 

「結局貼り直すのか。キミ、どんだけ完璧主義者なんだい?」

 

「物事のズレは生活の乱れに繋がるからな。玄関の靴も、物の配置も、パックもきっちりしておかないと我慢ならん。」

 

「もういいよ、面倒くさいから好きにしたまえ。……紫、魅魔の縄張りはどこだい?」

 

地図を眺めながら質問してやると……こいつ、また寝たのか。いつの間にか寝顔になっている布団妖怪が目に入ってくる。遅々として進行しない会話にうんざりしつつ、代わりに藍へと問い直した。もう寝室で寝ておけよ。こんな調子なら藍と私だけでいいだろうが。

 

「藍、魅魔の縄張りは?」

 

「森だ。『魔法の森』と書かれている場所は、基本的に大魔女魅魔の縄張りだと思ってもらって構わん。訳の分からない危険な植物が生えている上、瘴気が濃くて人間が入ると短時間で死に至る場所だがな。」

 

「魔境じゃないか。焼き払いたまえよ、そんなもん。」

 

「焼き払えるなら焼き払っているさ。人間は当然として、妖怪もあまり生息していないぞ。幻覚作用がある胞子を撒き散らすキノコが大量に生えているんだ。魔力が恐ろしく濃い土地でな。低級どころか中級の妖怪ですら満足に活動できないだろう。」

 

無茶苦茶だな。さすがは魅魔だ。自分自身だけじゃなくて、縄張りの土地すら迷惑千万なわけか。幻想郷の結構な割合を占めている『汚染地域』を見て唸っていると、またしてもパックの貼り直しを行っている藍が話を続けてくる。ひょっとしてこいつ、不器用なのか? 紫は寝ているんだから動いていないだろうに。

 

「まあ、お前なら問題ないだろう。お前の従者のハーフヴァンパイアも恐らく大丈夫だ。むしろ住み易いと思うぞ。森の深い場所は木々に日光が遮られるからな。……ちなみに魅魔からは土地の使用を許可するとの手紙をもらってある。場所は好きに決めていいそうだ。」

 

「ふん、魅魔にも筒抜けってことか。もう驚かないさ。……アリスはどうなんだい? あの子も森に住まわせる予定なんだが。」

 

「本物の魔女ならばお前たちよりも更に『大丈夫』だろう。キノコの胞子が魔力を高めるからな。本物の術師たちにとっては楽園のような場所さ。魔女による、魔女のための森というわけだ。……『別荘』はそこにしておけ。こちらとしてもあの土地に干渉するための足掛かりを欲していたんだ。」

 

「キミたちにとっても都合が良いというわけかい? 期待するのは結構だが、好き勝手に利用されてやるつもりはないぞ。……まあいい、余計な生き物が周りをウロつかないのは魅力的だ。いちいち木っ端妖怪どもに生活を邪魔されるのは面倒だしね。」

 

人間である咲夜の往来の手段だけが問題だが、そこはパチュリーやアリスが対策を立てられるだろう。魔理沙はホグワーツの入学以前にここに住んでいたはずなんだから、少なくとも魅魔は弟子の安全を確保できていたということだ。それならパチュリーたちにだって可能なはず。

 

考えながら自分の別荘計画の骨組みを纏めた後、地図上の適当な平地っぽい場所を指差して話を締めた。守矢神社の『置き場所』はここでいいや。多分大丈夫だろう。多分。

 

「じゃあ、私の別荘は森に転移させるぞ。大体の当たりは付けたから、あとは実際に現地を見て判断するよ。……そして、守矢神社はこの辺にしよう。これにて移住計画の骨子作りは完了だ。」

 

「……守矢神社の土地を適当に決めすぎじゃないか?」

 

「別にいいじゃないか、ここで。地面は平坦そうだし、人里も程良く近いし、スペースもある。誰かの縄張りなのかい?」

 

「いやまあ、そこはまだ誰も使っていない土地だが……本当にいいのか? 私はもう少し慎重に考えるべきだと思うぞ。」

 

うなされている様子の紫に乾いて貼り付かなくなってきたパックを押し付けている藍に、肩を竦めて返答を放つ。哀れなプラモデルだな。不器用な従者を持つとこうなるわけか。エマや咲夜が器用で助かったぞ。

 

「住めば都さ。どんな場所にしたって文句は出てくるんだから、こういうのは思い切りが大切なんだよ。……ちなみに私の別荘の方は何度も入念に下見をするからな。そろそろ神社の敷地内から出ても問題ないだろう? 魔法の森の中だけで構わないから立ち入らせてくれ。」

 

「私が同行するのであれば可能なはずだが、念のため実際の下見は紫様が起きる春になってからにしてくれ。移住は来年の秋なんだから充分間に合うだろう? ……ひょっとしてお前、守矢神社の方は面倒くさくなって雑に決めていないか?」

 

「失礼なことを言わないでくれたまえ。私は脳内で丹念な検討を重ねた末に、守矢神社が在るべき場所を緻密に計算して弾き出したんだよ。」

 

守矢神社の三バカとしても、人里が近ければ文句はないだろう。まさか『妖怪の山』の上とかに神社があっても仕方がないし、この辺で問題ないはずだ。あっちはまだまだ準備期間があるんだから、現時点ではざっくりと決めるだけで充分なはず。

 

しかしまあ、この分では二柱の債権についての話は出来なさそうだな。魅魔はそもそも姿を現さなかったし、紫は藍にパックをぐいぐい押し付けられているのに起きる気配がないし、仮に起きたとしてもさっきのような『寝ぼけ状態』だろう。そっちに関しても急ぐ必要はないんだから、大人しく春を待つことにするか。

 

兎にも角にも、今最も優先すべきは自分の別荘だ。優先順位の低い物事を頭から追い出しつつ、アンネリーゼ・バートリは幻想の郷の地図を眺めるのだった。

 

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