Game of Vampire   作:のみみず@白月

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英雄のアドバイス

 

 

「ほれ、触ってみるか? こいつは人に慣れとるから大丈夫だ。可愛いもんだぞ。」

 

絶対嫌だ。ハグリッド先生の腕を這い上がっている『超巨大かたつむり』を前に、サクヤ・ヴェイユは首を横に振っていた。通ったところがネバネバしているじゃないか。これだったらレタス食い虫の方がまだ可愛いぞ。比較のマジックだな。

 

十二月が目前に迫った雪の日の昼、空きコマを使ってハグリッド先生の小屋でお茶をしているのだ。『面白い生き物』が居るからと今朝大広間で招待されたので、魔理沙と二人でどんな『危険な生き物』を手に入れたのかとドキドキしながら来てみたわけだが……まあ、危険性はそこまで感じないな。動きは遅いし、いきなり飛びかかってくる気配もない。無論、『面白い』とは微塵も思えないが。

 

やたらカラフルな巨大かたつむりを見て、ただただ気持ちが悪いという一般的な感想を抱いている私を他所に、魔理沙がちょっとだけ興味深そうな表情でハグリッド先生に返事を送る。

 

「『ストリーラー』だろ? それ。毒があるんじゃなかったか?」

 

「おお、もちろんあるぞ。殻にトゲが生えとるのが分かるか? ここに毒があってな。霧状に毒液を噴射できるって説もあるが、俺はまだ見たことがない。野生のストリーラーしかしないんじゃないかと考えちょる。」

 

「そいつは『野生』じゃないってことか。」

 

「この子は飼育個体のストリーラーだからな。飼われとったストリーラー同士の子だ。その上の世代も飼育されとった個体だろうし、何世代も人に飼われ続けることで身を守る必要がなくなってきたのかもしれん。……俺がホグワーツで飼育学を教えとるっちゅうことで、魔法省から一匹送られてきたんだ。どうも規制管理部がペット用のストリーラーの規制を緩めようと考えとるみたいでな。意見が欲しいと言われちまった。」

 

『もちろん』毒があるのか。その新事実を知った私が少しだけストリーラーから身を離したところで、魔理沙がハグリッド先生に相槌を投げた。彼が淹れてくれたハーブティーを飲みながらだ。こっちは普通に素晴らしい味だぞ。ハーブの育成から乾燥までハグリッド先生が全部やったらしい。幻想郷に行ったら美鈴さんと協力してチャレンジしてみようかな。

 

「おー、凄いじゃんか。魔法省から意見を求められたのか。『魔法生物の専門家』って感じだぜ。」

 

「そこまで大したもんじゃねえが……まあ、俺の授業を受けた卒業生が意見してくれたみたいでな。規制管理部に就職した後、頼るべき専門家として俺の名前を出してくれたらしい。嬉しい話だ。教師としてこんなに嬉しいことはねぇ。」

 

なるほど、ハグリッド先生の飼育学を受けた世代がようやく魔法省に増えてきたってことか。だったらこれは至極当たり前の話なのかもしれない。ハグリッド先生の魔法生物の知識は本物だ。多少の『問題』があることは否定しないが、イギリス魔法界では屈指の魔法生物研究家だと言えるだろう。

 

昔は『森番』だったからそのことが広まっていなかったけど、今はもう教師として生徒たちに知識を授けている。その生徒たちが規制管理部で出世していくと、魔法生物のことを考えた時にハグリッド先生の存在を思い浮かべるわけか。納得の頷きを放ちつつ、ティーカップを片手に口を開いた。

 

「やっとハグリッド先生の実力が世に広まってきたってことですよ。」

 

「俺なんかがイギリス魔法界の役に立てるのかは分からんが、折角紹介してくれた教え子の顔を潰すわけにはいかんからな。きちんと考えを纏めて提出するつもりだ。」

 

「……ちなみに、規制緩和には賛成するんですか?」

 

巨大かたつむりが有り触れたペットになるのはちょっと嫌だなと思いながら尋ねてみれば、ハグリッド先生は意外にも首を左右に振ってくる。反対のようだ。

 

「いいや、反対するつもりだ。ストリーラーはこう見えて中々飼育が難しい生き物でな。イギリスだと温度や湿度の細かい管理が必要になるし、トゲから滴った毒が強力すぎてたまに発火することもある。慣れちょらんもんが飼育するのは危ないかもしれん。」

 

めちゃくちゃ危険じゃないか。発火するほどの猛毒だったのか。私がストリーラーを見ながら戦慄していると、続いて魔理沙が質問を飛ばした。彼女は毒の強力さにあまり驚いていないし、飼育学で学習済みの生き物だったらしい。

 

「発火するって言っても、乾いた木屑とかに付いちゃった場合だけなんだろ? ケージの中に入れる物に気を使えば大丈夫なんじゃないか? 毒自体も薄めるとホークランプの駆除剤になるわけだし、需要はあると思うぜ。」

 

「魔法省が規制を緩めようとしとる理由は、正にそのホークランプ対策みたいだな。最近は増えすぎてどうにもならんらしい。……だがなぁ、毒のことを抜きにしてもストリーラーは難しいぞ。こいつらのためを思うなら、飼育はある程度知識があるもんだけにさせるべきだ。」

 

「ま、ハグリッドがそう言うならそうなんだろうさ。カラフルで色が変わるのは綺麗なんだけどな。まだまだ楽しめるのは愛好家たちだけか。」

 

「もうちっと魔法生物の飼育のハードルが下がらんと無理だろうな。その辺で手に入る飼育器材が進歩していけば可能かもしれんが、今はまだ早い。魔法省への報告にはそう書く予定だ。」

 

あー、殻の色が変わるのか。そういえばさっきと少し違っている気がするな。カラフルで鮮やかなグラデーション模様が、殻の渦巻きに沿って移動している感じだ。確かにガラス越しとかで見ているだけなら綺麗かもしれない。マグル界のクリスマスイルミネーションみたいだぞ。

 

ハグリッド先生がストリーラーをケージに戻すのを眺めながら考えていると、我らが飼育学の担当教師どのは粘液でベタベタになった自分の革ジャケットを見て言葉を寄越してくる。

 

「服を洗わんといかんな。粘液にも弱い毒があるから。俺は肌が頑丈だから触っても大したことにはならんが、一応水で流しとくべきかもしれん。ちっとばかし待っててくれ。裏で流してくる。」

 

「……ただの水で流して大丈夫なのかしら?」

 

「教科書には『粘液が付いたらすぐにマートラップの触手液で洗い流すべき』って書いてあったけどな。てっきり触手液を準備してあるんだと思ってたぜ。」

 

「さっき触らなくて良かったわ。心からそう思う。」

 

魔理沙と話しながらハーブティーを飲み終えたところで、右袖をびしょびしょにして戻ってきたハグリッド先生が提案を放ってきた。本当にただ水をかけただけっぽいな。何ともワイルドな対処法だ。

 

「二人とも、ハーブティーを飲み終わったならダンブルドア先生のお墓に行かんか? 今日は掃除がまだでな。次の授業が始まる前にやらなきゃならん。」

 

「掃除ですか。いいですね、行きましょう。」

 

「『掃除』でテンションを上げるのはお前だけだぜ。……まあ、行くか。ダンブルドアには世話になったんだから、たまには私も手伝わんとな。パラパラ降ってた雪も止んでるみたいだし。」

 

「よしよし、行こう。ダンブルドア先生もきっと喜ぶはずだ。」

 

掃除と聞いてパッと席を立った私に続いて、魔理沙も苦笑しながら立ち上がる。そのまま掃除道具一式を持ったハグリッド先生と三人で、小屋を出て湖の方へと進んでいくと……あれ? リーゼお嬢様? ダンブルドア先生のお墓の前に、お嬢様と背の高い誰かが並んで立っているのが目に入ってきた。

 

「リーゼお嬢様だわ。お墓参りに来たのかしら?」

 

薄く積もっている雪を踏み鳴らしながら呟いた私へと、魔理沙が感心したような声色で応答してくる。

 

「ああ、ちっこい方はリーゼか。この距離でよく分かったな、お前。……隣は誰だろ? 分かるか?」

 

「分からないけど、先に行くわね。リーゼお嬢様が居るんだから早く行かないと。」

 

「犬かよ。」

 

犬じゃなくてメイドだぞ。失礼な突っ込みを入れてきた魔理沙をジト目で睨んだ後、二人を背にダンブルドア先生のお墓の方へと駆け出した。何にせよ、ラッキーだ。まさか今日リーゼお嬢様に会えるとは思わなかったな。

 

主人の下へと走りつつ、サクヤ・ヴェイユは思わぬ幸運に顔を綻ばせるのだった。

 

 

─────

 

 

「吸血鬼、お前は覚えているか? アルバスと俺との最後の会話の内容を。」

 

何だその切り出し方は。急にホグワーツのダンブルドアの墓前に呼び出してきたかと思えば、挨拶も無しにいきなり放たれたゲラートの問いに対して、アンネリーゼ・バートリは鼻を鳴らしながら応じていた。ヌルメンガードの戦いの時の会話か? そりゃあ覚えているっちゃ覚えているぞ。

 

「老人同士の友情確認のことかい? 一応覚えているよ。一応ね。」

 

十一月二十九日の昼過ぎ、人形店でのんびりしていた私の下にゲラートからの手紙が届いたのだ。『アルバスの墓の前で待つ』とだけ書かれた手紙が。だから仕方なくホグワーツの敷地ギリギリに姿あらわしで移動して、湖のほとりまで飛行してやって来たわけだが……『急に呼び出してすまなかった』くらいは言ったらどうなんだ? というか、先ずこっちを向けよ。

 

私の返事を受けて、白いシンプルな墓石の方を向いたままのゲラートが首を横に振ってくる。周囲に薄く雪が積もっている所為で、黒いコートが否応なしに目立つな。

 

「そこではない。『アドバイス』の部分だ。」

 

「アドバイス? ……ああ、あれか。余暇を楽しめとかいうやつだろう? それがどうしたんだい?」

 

あの時ダンブルドアは『これまで休みなく歩み続けてきたのだから、全てを終わらせた後に余暇を楽しめ』みたいなことを言っていたはず。ぼんやりした記憶を掘り起こしつつ応答した私に、ゲラートは一つ頷いてから口を開く。古き友であり、数少ない真の意味での理解者であり、そして最大の宿敵でもあった男の墓をジッと見つめながらだ。

 

「そうだ、アルバスは自分に合流する前に己の人生を楽しめと言っていた。……最近はよくそのことを考えていてな。」

 

「……つまり、引退後の生活についてを考えているってことかい? いいじゃないか。ダンブルドアのアドバイスに従っておきたまえよ。」

 

「忘れたのか? 吸血鬼。俺はゲラート・グリンデルバルドなんだぞ。魔法族のために魔法族を殺し、今なお自身の革命に囚われている愚かな男だ。俺が俺である限り、『余暇』など存在すまい。世界がそれを許さないだろう。」

 

「誰もがレミィの引退に文句を言えなかったのと同じように、キミの引退にケチを付けられるヤツだって存在しないさ。ダンブルドアも、レミィも、キミも。皆すべきこと以上をしたじゃないか。だったら少しくらい休んだっていいはずだぞ。……別荘でも買ったらどうだい? そこでゆっくり過ごすのも悪くないと思うがね。」

 

別荘はいいぞ。夢があるからな。肩を竦めて意見してやれば、ゲラートは無表情のままで返答してきた。

 

「俺は死ぬまで俺であるべきだ。スカーレットが姿を消すまでスカーレットで在り続けたように、アルバスがアルバスとして死んだようにな。……俺がゲラート・グリンデルバルドである限り、俺に余暇は有り得ない。別荘での余生など夢のまた夢だ。」

 

「ええい、これだから鬱屈した老人ってのは救いようがないんだ。『夢のまた夢』にしているのは自分自身だろうが。勝手に責任を感じて、勝手に背負って、勝手に自分を雁字搦めにしているだけじゃないか。少しはレミィの自由さを見習いたまえよ。」

 

「スカーレットの自由さをか。……そうかもしれんな。しかし、俺はアルバスのようにもスカーレットのようにもなれなかった。それだけの話だ。」

 

何が『それだけの話だ』だよ。カッコつけやがって。この男にダンブルドアのような余裕や、私やレミリアのようないい加減さが無いのはよく分かっていたが……ああくそ、面倒くさい性格だな。背負わなくてもいいものまで背負おうとするのは悪い癖だぞ。

 

要するに、クソ真面目なのだ。私の知り合いの中ではアリスあたりが近い性格なのかもしれんな。受け流そうとせずに全てを受け止めようとしてしまうから、必要のない苦労まで背負ってしまう感じの性格。狡賢さが足りていないぞ、まったく。

 

つくづく不器用な男だなと大きくため息を吐いたところで、ゲラートがちらりとこちらに目を向けながら話を続けてきた。

 

「何れにせよ、もはや意味のない話だ。ゲラート・グリンデルバルドという男は近いうちに必ず死ぬ。……だが、別荘は悪くないアイディアだった。死後に試させてもらおう。」

 

「つまらんジョークだね。意味不明な腕時計のことといい、キミは本当にセンスがないな。」

 

「どちらも本気だ。ジョークではない。……恐らく俺が死ぬのは来年の春頃になるだろう。各地で行われるカンファレンスで非魔法界対策に関する然るべき発言を遺し、その上で俺が死ねば問題の注目度は更に上がる。政治的なパワーバランスも一度リセットされるはずだ。俺がいつまでも生き続けていてはむしろ障害になりかねん。」

 

「……キミの『独裁問題』か。柄にもなく気にしているのかい?」

 

静謐な湖面を眺めながら尋ねてみれば、ゲラートは皮肉げな口調で肯定してくる。身勝手な民衆どもめ。権力者が権力を手に入れるのは、得てしてお前たちが望んだからだろうに。祭り上げた末に恐れるなんてのは勝手すぎるぞ。

 

「自分では気付かなかったが、俺は少々力を持ち過ぎていたようだ。アルバスやスカーレットが居ない魔法界では危険に見えてしまうのだろう。……失敗だったな。俺は今まで誰かと戦うためにしか政治をしてこなかったから、権力のバランスを調整することにまでは頭が回らなかった。意外な落とし穴だ。やはり『政治家』には向かん。俺は立ち塞がる『敵』が居なくては十全に戦えない男らしい。」

 

「そんなもん当たり前だろうが。キミは元来『革命家』なんだから、政治を打ち崩す側なんだよ。」

 

「故に齟齬が生じたというわけだ。革命家が政治をするなど冗談にもならんからな。壊し、変えようとする者が、保ち、育むことなど出来ん。力を持ち過ぎた俺が望まれなくなるのは真っ当な結末だろう。ここから先は『壊す者』ではなく、『築く者』の領分だ。」

 

「……何度も言うがね、レミィみたいな『引退』じゃダメなのかい? 別に死ぬ必要はないと思うぞ。」

 

根拠が全くない『腕時計問題』は先ず無視するとして、『グリンデルバルド危険論』が徐々に広まりつつあるのは厳然たる事実だ。無論私としては納得も賛成も出来ないものの、愚かな民衆どもが『もしも』を恐れるのは理解できなくもない。ゲラートに釣り合う対抗馬が存在していないのだから。

 

だったら単に引退すればいいじゃないかと私が送った問いに、ゲラートは否定を返してきた。

 

「引退するからもう安全だと主張して誰が信じる? スカーレットは影を残し続けることで『抑止力』になることを選んだが、俺の場合は明確に死んだ方が民衆が安心するだろう。引退した者がいつか戻ってくるかもしれないのに対して、死者は二度と蘇ってこない。……そうして初めて民衆は俺の言葉を素直に受け止められるんだ。生者は発言を利用するが、死者は言葉をただ遺すだけだからな。非魔法界問題の進展には俺の死が必要なんだよ。」

 

「度し難いね、魔法族って連中は。レミィが全力で推し進め、キミとダンブルドアが死を利用してようやく問題と向き合えるようになるわけか。生まれたての赤ん坊じゃあるまいし、こんなに手を焼いてやらなきゃならないとは思わなかったぞ。」

 

「それが人だ。そこは魔法族も非魔法族も変わらん。だからこそ俺たちのような存在にも価値が出てくるわけだな。……今度こそ俺の『死の理由』に納得したか? 吸血鬼。」

 

「全然納得していないぞ。論点をすり替えないでもらおうか。キミは『そうするために死ぬ』んじゃなくて、『死ぬからそうする』と言っているんだろう? 死ぬことが最初に決まっていて、ならばそれを利用しようと考えているわけだ。死期を悟ったダンブルドアが、愛する生徒を……『生徒たち』を救うためにそうしたようにね。違うかい?」

 

自己犠牲を躊躇わなかった男。『イギリスの英雄』の墓石を指差しながら指摘してやれば、ゲラートは間を置かずに首肯してくる。

 

「その通りだ。何か問題があるか?」

 

「ダンブルドアの場合は命を懸けねばならないやむを得ぬ理由があって、だったら残り少ない自分の命を使おうという話だったんだよ。それには私も納得したし、見事な死に方だったと今でも思っている。そこだけは素直に褒めるさ。吸血鬼からしてもあっぱれな自己犠牲だった。文句なしの英雄の死に様だ。」

 

「不気味なほどに素直だな。」

 

「しかしだね、キミの場合は違うだろう? 先ず死ぬ理由からして『腕時計の予言』とかいう訳の分からんものだし、キミが死ぬ以外に非魔法界問題を進める手段が無いとは思えない。もっと他にやりようがあるはずだ。根拠が無茶苦茶なんだよ。キミらしくなさすぎるぞ。だから私はこれっぽっちも納得していない。これっぽっちもね。何か反論はあるかい?」

 

人差し指の先と親指の先をギューッと合わせて『これっぽっち』を表現した私に、ゲラートは一度冬の澄んだ青空を見上げた後、小さくフッと笑って返事を寄越してきた。

 

「反論は無いが、この件に関しては議論をするつもりもない。この腕時計の針が止まったことが俺の死を表していて、故にゲラート・グリンデルバルドは死ぬ。それさえ理解しているなら充分だ。」

 

「だから、していないと何度も何度も言っているだろうが。議論もせずに自己完結とは卑怯だぞ。」

 

「俺は卑怯な男だからな。前にも言ったはずだ、俺が死んだ後で全てが分かると。今日の会話もついでに覚えておくといい。……誰か来たぞ。お前の知り合いか?」

 

何? ……咲夜か? 何故かこちらに小走りで駆けてくる咲夜と、その少し後ろを歩いている魔理沙とハグリッド。私がそちらに目をやったところで、ゲラートは杖を抜いて別れを告げてくる。

 

「また会おう、吸血鬼。春はまだ先だ。顔を合わせる機会は残っている。」

 

「言っておくが、春に死ぬってのも意味が分からんぞ。普通の人間はそんなに細かく自分の死期を断定できないはずだ。……それと、ホグワーツでは姿くらましは出来ないんだからな。」

 

「何事にも例外はあるものだ。死期の断定にも、そして姿くらまし妨害術にもな。」

 

言うと、ゲラートは杖を振って……どうやったんだ? 姿くらましで消えてしまう。試しに私も跡追い姿あらわしをしようとしてみるが、呪文はきちんと妨害されているようだ。何か特別な方法を使ったらしい。本物の魔女であるアリスですら出来ないことなのに。

 

「リーゼお嬢様!」

 

「……やあ、咲夜。」

 

「ダンブルドア先生のお墓参りに来たんですか? 誰かと一緒だったみたいですけど。」

 

「『理不尽男』と話していたのさ。意味不明すぎて疲れたよ。うんざりだ。」

 

走り寄ってきた咲夜に応じつつ、額を押さえて小さくため息を吐く。何もかもが分からんな。ゲラートの死を私がどう思っているかはこの際置いておくとして、あの男にしては死の理由に筋が通っていなさすぎるぞ。まるで自分で強引に決めた予定を語っているようじゃないか。

 

どうしようもない違和感を抱えながら、アンネリーゼ・バートリは疲れた気分で咲夜に寄り掛かるのだった。

 


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