Game of Vampire   作:のみみず@白月

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おバカちゃん問答

 

 

「イベント? ロンドンでニューイヤーのイベントがあるんですか? ……きっと凄く豪華なやつなんでしょうね。見たいです。どうにかなりませんか?」

 

巫女の仕事があるならどうにもならんだろうが。話を聞いて物凄い葛藤を見せ始めた早苗を前に、アンネリーゼ・バートリはやれやれと首を振って呆れていた。相変わらず欲望に忠実な子だな。この辺は紅白巫女の方がよっぽど巫女っぽいぞ。

 

十二月十九日の昼。現在の私たちは日本からイギリス魔法省に到着した三バカを回収して、少しロンドン市街を見て回った後、彼女たちが泊まるホテルに到着したところだ。私、アリス、早苗、神奈子、諏訪子で部屋のテーブルを囲んで、適当な店でテイクアウトした昼食を食べながら話しているのである。

 

そんな中、アリスからミレニアムイヤー突入のイベントのことを聞いた早苗が、また無茶苦茶な『おねだり』を始めたわけだが……よしよし、さすがの二柱も渋い顔をしているな。年始というのは神道において重要な期間のようだし、これなら四対一で何とか思い留まらせることが叶うだろう。

 

二柱の反応を見て安心している私を他所に、ハンバーガーを右手に持ったままの早苗が神々への『説得』を開始した。この子は自分の神社よりもイギリスでのイベントを優先する決断を下したらしい。巫女としてそれでいいのか?

 

「あの、ダメでしょうか? ダメですよね? でも、そこまで盛大なのは今年だけしかやらないみたいですよ? だからつまり、すっごく特別なイベントってことです。歴史的な瞬間になるわけですね。だってここまでキリがいい年は千年に一度しかないんですから、人間にとっては一生に一度ってことになります。」

 

「早苗? 本気で言っているのか?」

 

「いえあの、もちろん神社のお仕事は大切ですけど……こっちでイベントを見たらすぐ帰るっていうのはどうですか? 一月一日の朝に間に合うように。無理ですかね? 私、寝ないで頑張れますけど。」

 

「あんたね、ポートキーの便がないでしょ。どこのどいつが新年になったばっかの深夜に、イギリスから日本に行こうとするのさ。……大体、イギリスで年を越して朝に間に合わせるってのが土台不可能じゃんか。仮に零時ぴったりにこっちを出ても、日本はもう九時になってるんだから。」

 

思いっきり呆れている様子の二柱を目にして、早苗は……おお、諦めないのか。しぶとく抵抗する意思を示してくる。

 

「でも、でも、2000年なんです。特別な年なんです。年明けを海外で過ごしたってなったら、めちゃくちゃ自慢になるじゃないですか。八時ならギリギリセーフですよ。最低限の準備はしてありますし、毎年社務所を開けるのは十時とかですし、無人販売所は年中無休ですし、何より守矢神社にそんな朝早くから来る人なんて居ませんって。」

 

「そりゃそうだけど……そもそもさ、あんたには『海外での年越し』を自慢する友達が居ないじゃん。」

 

「……諏訪子様、ひどいです。」

 

まあ、厳然たる事実ではあるな。ショックを受けたような顔で諏訪子を非難した早苗は、続いてアリスの方へと説得の矛先を向けた。何故アリスなんだ? 本人もサラダを食べながらびっくりしているぞ。

 

「アリスさんって、凄い魔女なんですよね?」

 

「へ? ……凄いかは分からないけど、魔女ではあるわね。」

 

「じゃあじゃあ、ポートキーを作れますよね? 魔法でこう、日本行きのポートキーをパパッと。」

 

「あのね、早苗ちゃん。ポートキーを作るのには特別な許可が必要なの。海外行きとなれば尚更よ。無断で勝手に作るわけにはいかないわ。」

 

うーむ、悪知恵が働くな。確かに今のアリスなら日本行きのポートキーを作るのは余裕で可能だろう。邪智を重んじる吸血鬼として早苗の着眼点に感心したところで、我儘娘どのは今度は私に話しかけてくる。数撃ちゃ当たる作戦を採用したようだ。

 

「なら、リーゼさん! リーゼさんは幻想郷経由で日本に来たことがあるんですよね? この前言ってましたもんね? ね? もしかしたらその方法で──」

 

「無理だぞ。幻想郷との行き来を許されているのはこの中で私だけだし、あれはかなり特殊な移動の仕方だったんだ。……素直に諦めたまえよ。記念の年なればこそ、生家で越せばいいじゃないか。」

 

「……今日、一緒にお風呂に入ってあげてもいいですよ? それなら何とかしてくれますか?」

 

「どういう思考回路をしているんだい? 普通に嫌だよ。キミは何か雑に水滴とかを飛ばしてきそうだし、帰ってゆっくり入浴するさ。」

 

また意味不明な発言が出てきたな。何だってこの子はさも譲歩しているみたいな表情を浮かべているんだ? 早苗のちんぷんかんぷんな提案に困惑していると、アリスが横から話に割り込んできた。

 

「そうですね、帰って二人でゆっくり入浴しましょう。……早苗ちゃん、そんなにロンドンのイベントが気になるの? 日本でも同じようなことはすると思うわよ?」

 

「あれ? 『二人で』って言った? 何でさ。どうしてそうなったの? アリスちゃん、何で急に──」

 

「諏訪子さんは今関係ないので黙っててください。……無理してイギリスに残るんじゃなくて、日本でのイベントに参加すればいいじゃない。それなら何とか間に合うんじゃないかしら?」

 

「だって、海外の方がカッコいいんです。その方が思い出に残ります。……神奈子様、ダメですか? どうしても、どうしてもダメですか? もし神奈子様がダメって言うなら潔く諦めますから、考えるだけ考えてみてください。」

 

アリスの言う通りだぞ。別に日本でいいじゃないか。ひしと抱き着いて懇願する早苗を見て、眉間に皺を寄せて懊悩していたぽんこつ軍神は……どうしてお前はそうなんだ。コロッと意見を変えてこちらに問いを寄越してくる。幾ら何でもおバカちゃんを甘やかし過ぎだろうが。その点は諏訪子よりこいつの方がひどいな。

 

「どうにかならないか? バートリ。最近のこの子は勉強を頑張っているんだ。」

 

「だからどうした。無理だと言っているだろうが。」

 

「しかしだな、早苗が可哀想だろう? ……実際のところ、お前ならばイギリス魔法省にポートキーを作る申請を通せるんじゃないか? そしてマーガトロイドに作ってもらえばいい。不可能ではないはずだ。」

 

「不可能ではないから何だと言うんだ。そこまでするほどの価値があるとは思えないってことだよ。理解したならさっさと諦めたまえ。」

 

絶対にやらないからな。全く重要じゃない上に、何一つ必要性のない単なる早苗の我儘じゃないか。今回の一件はさすがに労力と理由が釣り合っていないぞ。断固たる口調で切り捨てた私へと、神奈子からパッと離れた早苗がしがみ付いてきた。ええい、そんなところまで我儘祟り神に似るなよ。教師にするんじゃなくて反面教師にしたらどうなんだ。

 

「リーゼさん! お願いします! 一生のお願いです! もし叶えてくれるなら……な、何でもします! 何でも言う事を聞きますから!」

 

「すっかり忘れているようだがね、そもキミは『何でも言う事を聞く』立場にあるんだよ。その契約はもうしただろうが。」

 

「何でもですよ? 私に何でもしちゃえるんです。……どうですか? 取り引きする気になりました?」

 

「前から思っていたんだが、キミはどうして『与える側』みたいな態度なんだい? しかもアリスにはそうじゃないのに、私に対する時だけそうなるね。」

 

早苗の頭をぐいぐい押し退けながら疑問を口にしてやれば、ぽんこつ娘は不可解な台詞を返してくる。

 

「分かってますから。リーゼさんの気持ちは伝わってます。私は必要なら応えるつもりでいるんです。」

 

「では応えたまえ。私は今、『早く諦めて離れて欲しい』という気持ちを抱いているぞ。」

 

「……やっぱり照れ屋さんなんですね。」

 

ダメだ、会話にならん。その辺に生えている草とか、落ちている石ころとか、忌まわしき『尻尾爆発スクリュート』の方がまだ話が通じそうだ。理解を諦めて早苗から視線を外した後、私のバーガーを盗み食おうとしている諏訪子に指示を飛ばす。こいつもこいつで何をやっているんだよ。

 

「おい、諏訪子。早苗を説得したまえ。それと次に私のバーガーに手を触れたら腕を切り落とすぞ。」

 

「うわぁ、刑罰のシステムが古すぎない? それよりさ、さっきのアリスちゃんの発言についてなんだけど──」

 

「諏訪子さん、余計なことを言ってないで早く説得してください。」

 

「えぇ……私以外ヤバいヤツしか居ないじゃん、この部屋。狂ってるよ。」

 

狂っているのはお前らだろうが。私とアリスはまともだぞ。こいつらと話していると本当に無駄に時間が過ぎていくなとため息を吐いてから、席を立って神奈子を引っ張って少し離れたソファの方へと向かった。このままではいつまで経っても本題に入れん。比較的まともなヤツを引き離して個別に話そう。

 

「神奈子、こっちに来たまえ。二者面談だ。……そっちは三人で話し合うように。アリス、任せたぞ。」

 

「何をする、バートリ。まだ全部食べていないんだぞ。私はこの料理が好きなんだ。酒にも合うし。」

 

「私は持ったまま来いと言っているんだよ。」

 

慌ててフィッシュ&チップスの箱を掴んだ神奈子をソファに誘導して、『年越し問題』のことを議論している三人を尻目に本題を切り出す。手紙にあった蛇の件をだ。

 

「で、どういうことなんだい? 細川京介が飼っている蛇が妖怪かもしれないというのは。」

 

「……ああ、その話か。手紙にも書いた通り、確証は一切無い。しかしどうにも怪しくてな。普通の蛇らしからぬ発言や行動が多いんだよ。」

 

「そもそも『普通の蛇の発言や行動』を知らない私からは何とも言えんがね、具体的にどこがどう怪しいんだい?」

 

「最初に前提を話させてもらうが……最大の問題はだな、私たちが直接蛇を見たのはただの一度きりという点にあるんだ。それ以外の二回は早苗が単独の時の接触だから、基本的にあの子の発言から事態を推察するしかない。しかしあの子は物事の説明をする際に──」

 

そこで言葉を探すように一度区切った神奈子は、やがてかなり柔らかい表現で早苗の報告の問題点を告げてきた。

 

「年頃の多感な女の子らしく、非常に独特な話し方をするんだよ。話の順序が入れ替わったり、後から急に情報を追加したり、あるいは重要な部分を省略したりするわけだ。だから少しぼんやりした説明になるのを承知しておいてくれ。」

 

「要するに、早苗の説明がとんでもなく分かり難かったんだろう? そんなことはとっくに承知しているよ。いいから話したまえ。」

 

何を今更という態度で促してやれば、神奈子は一つ頷いてから口を開く。

 

「まあ、噛み砕けばそういうことだな。……整理すると私たちが持っている判断材料は三つだ。一つは蛇が私たちの居ない時だけに早苗と接触していること。二つ目は蛇がマホウトコロの責任者たる白木に近付くことを望み、『生徒が相手なら油断すると思った』という台詞を残していること。三つ目は蛇が人間を下に見ているような発言をしていたこと。お前はどう思う?」

 

「さっきも言ったが『普通の蛇』の思考回路を知らんから、三つ目については何とも言えないね。大抵の生き物は自分たちの種族が最も偉いと考えているものさ。神も、人間も、小鬼も、ヒッポグリフも、吸血鬼もそうである以上、蛇だってどうせそうなんだろう。正しいのは吸血鬼だけだよ。」

 

『人間を下に見る』というのは妖怪だろうが単なる蛇だろうが有り得そうだぞ。何か反論したげな神奈子を無視しつつ、続けてその他の点に関する返答を送る。

 

「だが、一つ目は確かに気になるね。キミたちが早苗の側を離れている時間は、そうでない時間に対して格段に短いはずだ。その時にだけピンポイントで早苗に接触してくるというのは少々疑わしいかな。」

 

「だろう? こちらからは妖力を感じ取れなかったが、向こうは神力を察知していたというのは有り得なくもない話のはずだ。」

 

「とはいえだ、キミたちが早苗の側を離れていた時、あの子は神札を持っていなかったのかい? あれだけ強力な札なんだから、持ってさえいればキミたちが居なかろうが早苗は神力を撒き散らしていたはずだぞ。」

 

「それは……む、そうだな。最近の早苗は基本的に制服のポケットに札を入れているから、その時も持っていたはずだ。」

 

基本的に入れるなよな。だからあんなに減りが早いんだろうが。悩み始めた神奈子へと、尚も疑問点を提示した。

 

「更に言えば、ポケットに札を入れている早苗と接触して無事でいられるというのが妙だね。例えばさっき私に早苗が抱き着いてきただろう? あの子は今もキミたちを顕現させるために札を携帯しているようだから、布越しにでもちょっとピリッとしたぞ。……大妖怪の私でもずっと接触していれば消耗するんだ。その蛇が仮に妖怪だったとして、無事でいられると思うか? それとも蛇は早苗と身体的な接触はしていないのかい?」

 

「いや、している。一回目の接触では服の中に入れて他の生徒たちから隠したと言っていたし、二回目も同じようにしたらしい。……そうか、言われてみればおかしいな。妖怪のお前だからこそ気付けたことだ。そうなるとやはり蛇は妖怪ではないのか?」

 

「木っ端妖怪なら一瞬で死にかねない行動だね。中級や上級でも服の中で長時間我慢するのは不可能だろうさ。蛇が本当に妖怪であった場合、そこらの木っ端ではなく札に耐え切れるほどの大妖怪だということになるかな。……キミたちが気付けない程度の妖力しか持っていない癖に、強力な退魔の札には耐え切れる? 支離滅裂だよ。その他に有り得そうなのは大妖怪クラスが妖力を意図的に隠していたってケースだが、すると二つ目に纏わる疑問が浮かんでくるわけだ。」

 

「白木に近付くことを望んだという点か?」

 

神奈子の問いに首肯してから、肩を竦めて話を続ける。

 

「より厳密に言えば発言の方だけどね。周到に妖力を隠すほどの大妖怪が、『生徒が相手なら油断すると思った』なんて口に出すか? 内心で勝手に思っていればいいだろう? わざわざ妖力を隠しているのであれば、それは早苗を何処ぞの神性が保護していると承知しているからのはずで、そうなると早苗に口を滑らせれば神に伝わるのなんて分かり切ったことじゃないか。……というか、その辺を抜きにしたってバカすぎる行動だぞ。悪巧みをしている時に内心を口に出して説明するヤツがどこに居るんだい?」

 

「……蛇は実際に言っていたらしいぞ。」

 

「それがもうバカなんだよ。蛇が悪意を持っていて、白木に何かしようとしていた場合、そんなことを早苗に聞かせるヤツが大妖怪だとは思いたくないね。どの可能性を追ってもそこがぽんこつ過ぎて話にならん。脳みその小さい普通の蛇が、訳も分からず口を滑らせたというのが一番納得できるかな。」

 

札に耐え切れたのであれば大妖怪だが、大妖怪ならそんなバカバカし過ぎる失敗などしないだろう。万が一蛇が『物凄くバカな大妖怪』だったとしても、そうなると今度は二柱が妖力を感知できなかったことに説明が付かない。私なら大きな妖力を抑えるのも可能だが、それはバートリという家の性質による幼い頃からの訓練故だし、何よりそこまで注意深くて経験豊富なヤツが子供でもやらんような口の滑らせ方をするとは思えないぞ。

 

すると残る可能性は蛇が一定の時間札の神力に耐え切れるほどの大妖怪……つまり身体的な頑強さでは吸血鬼をも凌ぐ大妖怪かつ、神力を感じ取って自身の妖力を隠す程度には賢く、それが出来るだけの技量や経験は持っているものの、自分の思考を口に出してしまう『うっかりさん』だというケースだけだ。私はそれを追うくらいなら『単なる蛇だった』という可能性を追わせてもらうぞ。二柱の不在時だけに早苗と接触したという点を偶然で片付ければ、それで一応筋は通るのだから。

 

脳内で思考を回していると、神奈子がやや腑に落ちていないような顔で疑問を発してくる。

 

「飼い主である細川が『おかしくなった』という点はどうだ? 加えて仮にただの蛇だった場合にしても、白木を狙うというのは奇妙じゃないか? 早苗に継続してちょっかいをかけてくるというのも変だぞ。」

 

「早苗は蛇舌なんだから、蛇なら興味を持って然るべきだろう? そこは別に疑問には思わないかな。細川の一件は……まあ、あの男の行動や状態が引っ掛かるという点には同意するよ。だがね、本来怪しいのは細川の方であって、ペットの蛇じゃないんだ。蛇と細川の異常とに確たる関連性を見つけられない以上、それらは分けて考えるべきなんじゃないか? 希望的観測と言われればそれまでだが、蛇が『うっかり大妖怪』だって可能性を追うよりはずっとマシに思えるね。」

 

「では、白木の件は?」

 

「そこは正直分からないよ。蛇の思考回路なんて想像できないし、具体的な経緯も掴み切れていないからね。状況説明が中途半端すぎるぞ。早苗は他に何か言っていなかったのかい?」

 

二柱が不在の時に蛇の方から早苗に接触してきて、蛇が白木に近付くことを望んで、実際に白木と会った後で『生徒が相手なら油断すると思った』という発言を残した。手紙と今の会話から判明した事象はそれだけだ。たったこれだけの材料で推理しろってのには無理があるぞ。

 

私の質問を受けた神奈子は、未だ説得を続けているらしい早苗の方を横目に答えを寄越してくる。

 

「人間を支配した後、早苗を奴隷長にすると言っていたらしい。特別にネズミやウズラを食べさせてもらえるんだそうだ。それと将棋の話もしていたとあの子は証言していた。」

 

「『奴隷長』? 益々ただの蛇っぽい発言じゃないか。バカ丸出しだよ。言葉を喋る鳥と一緒で、受け取った情報をそのまま口にしているだけじゃないのか?」

 

「……まあ、お前の考えを聞いた後ではそう思えてきたな。早苗はテレビで得た知識を語っているんじゃないかと予想していた。要するに、細川か誰かが観ている時代劇やアニメをケージの中から観て、そこから話し方や物事を学んだのではないかという予想だ。」

 

「小動物らしい逸話じゃないか。ウズラだのネズミだのは小さな頭で必死に絞り出したアレンジなんだろうさ。警戒すべき相手だとはとても思えないね。」

 

小さく鼻を鳴らして応じた後、神奈子のポテトフライを一つ取って話を締めた。やはり怪しむべきは細川の方だな。蛇も中々に意味不明だが、あの男はそれにも増して訳が分からん。

 

「ま、どうしても気になるのであれば札を使いたまえ。私だって直接貼られれば無傷じゃ済まないんだ。それで何か反応があるなら妖怪で、無いならただのバカな蛇だよ。」

 

「それは既に諏訪子が提案済みだ。早苗にも注意してある。……蛇はともかくとして、細川の方はどうするつもりなんだ? 気になっているんだろう?」

 

「面倒くさくて放置していたってのが本音かな。細川は別に私の邪魔をしているわけじゃないし、親しくもないんだから狂おうが死のうが知ったこっちゃないさ。ゲラートに拘っていたのは気にかかるが、彼の狂信者は百年近く前から世界中に一定数存在しているからね。……とはいえもやもやしたままなのは気に入らんから、今度知り合いの情報屋に軽く調査を依頼するよ。蛇のことも一応調べてもらおうか。私は十中八九ただの蛇だと思うが、キミたちが気になると言うなら頼んでみよう。」

 

そこまで言ったところで、アリスと諏訪子と早苗がこちらに歩み寄ってくる。ようやく我儘娘が諦めたのかと目を向けてみれば、太陽のような笑顔を浮かべている早苗が代表して『結論』を報告してきた。

 

「リーゼさん、イギリス魔法省にポートキーの許可を通す作戦でいくことになりました! よろしくお願いします!」

 

「……アリス、諏訪子、説明したまえ。」

 

「あのですね、リーゼ様。早苗ちゃんを諦めさせるのは無理です。説得に使う労力のことを考えれば、イギリス魔法省に許可を通した方がまだマシだと判断しました。」

 

「私はそもそも、一月一日の十時くらいに神社に戻れてれば文句ないからね。最悪私と神奈子だけが実体化を解いて先に帰ればいいんだし、早苗がしたいって言ってるならさせてあげればって感じ。……って言うか、もう面倒になってきたから叶えてあげてよ。こうなった早苗を説き伏せるのは無理だって。じゃないとこの子はずっと言い続けるよ? 本当にずーっと言ってくるんだからね? 『ノイローゼ・バートリ』になる前に叶えちゃいな。そうすりゃ解決するんだから。」

 

何がノイローゼ・バートリだよ。……二人が早苗を説得したわけでも、早苗が二人を説得したわけでもなく、アリスと諏訪子は頑固さに負けて諦めたということか。魔女や神でも早苗の我儘には勝てないらしい。普段ならさすがに引き下がるだろうし、早苗の方としても是が非でも実現させたい覚悟なのだろう。

 

だけど、そんなにか? ロンドンのニューイヤーイベントというのはこの子にとってそんなに魅力的なのか? 蛇よりも、そして細川よりも意味不明な問題が目の前に存在していたようだ。早苗は本当に読めない子だな。この子の心の内は吸血鬼にだって解き明かせない迷宮だぞ。

 

ニコニコしながら私の許可の言葉を待っている早苗を前に、アンネリーゼ・バートリは自分にも『苦手な存在』が居ることを改めて実感するのだった。

 

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