Game of Vampire 作:のみみず@白月
「どうぞ、入ってください。」
わあ、髪がボサボサだ。スイスのローザンヌにある何の変哲もない……いやまあ、玄関のドアの鍵が異様な数だけど。それ以外は普通の一軒家のドアから顔を覗かせたアピスさんの『惨状』を目にして、サクヤ・ヴェイユはちょっとだけ怯んでいた。服もかなり汚れているな。きちんとお風呂に入っていないのかもしれない。
十二月二十三日のお昼過ぎ、私とリーゼお嬢様はアピスさんに会うためにスイスを訪れているのだ。イギリス魔法省からポートキーで入国して、ローザンヌの中心街で昼食を済ませた後にこの家を訪問したのである。イタリア風のよりさっぱりしていて、アクアパッツァが美味しかったな。
私たちを屋内に誘ってから気怠げな様子で廊下を歩いていくアピスさんに、リーゼお嬢様が玄関を抜けながら指摘を放った。歯に衣着せぬ指摘をだ。
「キミ、見るからに不潔だぞ。家の中も汚いし、何だってこんなことになっているんだい?」
「単純に忙しいんですよ。2000年を目前に控えた今、私にはやることが沢山あるんです。『四桁目』が変わると色々とトラブルが発生しますからね。」
「キミが何よりも先にやるべきは、入浴と廊下の片付けだと思うけどね。……咲夜、気を付けたまえ。踏むと靴が汚れるぞ。」
デリバリー食品か何かの空箱だろうか? 廊下に無造作に転がっているゴミを指差して注意してきたリーゼお嬢様に頷きつつ、辛うじて存在している板の部分に足を置いて進んでいくと……こっちもひどいな。凄まじく汚いリビングルームが視界に映る。ゴミ箱の中の世界観だ。生ゴミの妖精とかがふわふわ飛んでいそうな感じ。
「……アピス、もっと綺麗な部屋はないのかい? 私はここに入りたくないんだが。」
「私にとっても愉快な状態ではありませんが、掃除する余裕がないんです。我慢してください。」
部屋の入り口で立ち止まったリーゼお嬢様へと、ダイニングテーブルの上のゴミを適当すぎる動作で床に払い落としたアピスさんが応答するが……私ならこんな部屋で生活していたら頭がおかしくなるぞ。よく我慢できるな。
戦慄の思いで『リビング兼ゴミ置き場』を見ている私を他所に、杖を抜いて通り道のゴミを退かし始めたリーゼお嬢様が文句を再開した。奥の方には『ブゥーン』という音を立てている謎の大きな機械が設置されており、その周囲には何台かの起動しているパーソナルコンピューターがある。どこか怪しげというか、SFチックというか、魔法界で育った私からすると不思議な雰囲気だな。
「気が滅入ってくるね。前来た時はそれなりに清潔だったはずだぞ。そんなに忙しいのか?」
「そんなに忙しいんです。だから早く座って、早く用件を話してください。先に言っておきますけど、年内の仕事は受けられませんよ。調査が必要な依頼であれば、年が明けてからの開始になりますからね。」
「それは別に問題ないが……咲夜、外のカフェとかで待っているかい? 無理ならそうしても構わないぞ。」
「ここにリーゼお嬢様を残していくわけにはいきません。……アピスさん、私が掃除しちゃダメでしょうか? せめて話の間だけでも。」
他人の家を掃除する義務も義理もないが、清潔さを求めるべきメイド見習いとしてこの惨状は捨て置けない。どうせ私はリーゼお嬢様のお付きとして同行しているだけなんだから、話し合いに参加する必要はないだろう。だったらさせて欲しいぞ。こんなもん気になって仕方がないじゃないか。
我慢できなくなって提案した私に、アピスさんはさほど躊躇いなく許可を出してきた。
「やってくれるんですか? 私としては特に否はありませんよ。重要な書類や物はきちんと仕舞ってあるので、転がっているのは純然たるゴミだけですから。ケーブル類にだけ気を付けてくれれば大丈夫です。」
「やらせてください。『純然たるゴミ』だらけの環境で、何もせずに話を聞いているのには堪えられません。……いいでしょうか? リーゼお嬢様。」
「やりたいならやってもいいが、私の従者が他人のために働くのは何となく気に食わないね。……何か対価を支払いたまえよ、アピス。私にじゃなくて咲夜にでいいから。」
「では、対価としてメイド見習いさんの懐中時計を整備しましょう。それなら話をしながらでも可能ですしね。持っていますか?」
懐中時計? これのことかな? 懐から『月の懐中時計』を取り出してみると、アピスさんは手を伸ばしてそれを受け取ってくる。今日は魔理沙から貰った方ではなく、美鈴さんから贈られた方を携帯していたのだ。だけど、私が懐中時計を持っていることをよく知っていたな。
「ああ、綺麗に使っているようですね。これなら軽く手入れをするだけで問題ないでしょう。」
「アピスさんはその時計を知っているんですか?」
「誰よりも知っていますよ。これは私が作った時計ですから。」
へ? そうだったのか。意外な事実にびっくりしている私を尻目に、あまり驚いていない様子のリーゼお嬢様が席に着きながら口を開く。
「キミは時計技師をしていたわけだし、薄々そうだとは思っていたよ。キミが作った時計を、美鈴が咲夜に贈ったわけか。」
「その通りです。紅さんがそういった頼み事をしてくるのは珍しいので、私にしては丁寧に作ったことを覚えています。……身に着ける時計はその人物を映す鏡なんですよ。紅さんは贈り物のセンスがありますね。依頼された当初は不思議なデザインに思えましたが、改めて考えるとメイド見習いさんにぴったりの時計です。」
そっか、美鈴さんは私にプレゼントする時に『知り合いの妖怪に作ってもらった時計』って言っていたっけ。それはアピスさんのことだったのか。あの時点で既に私とアピスさんには『縁』があったことに感心していると、リーゼお嬢様が若干不機嫌そうな表情で小さく鼻を鳴らす。
「ふん、キミも『時計教』の信者か。私は時計は嫌いだよ。最近嫌いになったんだ。だから時計技師も嫌いだね。特に腕時計が好かん。」
「相変わらず奇妙な偏見に満ち満ちているようで何よりです。……それで、今日はどんな依頼があって来たんですか?」
リーゼお嬢様、時計が嫌いだったのか。知らなかったぞ。全然そんなことは口にしていなかったのになと怪訝に思いつつ、とりあえず片付けを始めようとゴミ袋を探し始めたところで、お嬢様がアピスさんへと返答を返した。
「二つ調査を依頼したい。一つはマホウトコロの日本史学の教師である、細川京介という男の調査だ。」
「具体的に何を知りたいんですか? ……メイド見習いさん、ゴミ袋ならそっちに沢山あるはずです。」
「思想やら経歴やら行動やらを適当に調べてくれたまえ。私の日本魔法界に対する干渉に協力している男なんだが、目的がいまいち掴めなくて不気味なんだよ。判断の取っ掛かりになりそうなことを暴いて欲しくてね。」
「曖昧な依頼ですね。……まあいいでしょう、他の仕事が落ち着いたら調査に入ります。二つ目は何ですか?」
私がゴミの下敷きになっていたゴミ袋を救出している間にも、リーゼお嬢様たちの会話は進行していく。ゴミに埋もれるとは、何とも可哀想なゴミ袋だ。今役目を全うさせてやるからな。一緒にゴミを退治しよう。
「二つ目もその細川に関係する依頼なんだが、彼が飼っている蛇のことを調べて欲しいんだよ。」
「蛇? ……吸血鬼さんにしたって珍妙な依頼内容ですね。別件の調査対象のペットの蛇の調査ですか。さすがに小動物のことを調べるのは困難ですし、大した情報は渡せないと思いますよ?」
「もしかしたら妖怪かもしれないんだ。限りなく薄い可能性だとは思うんだが、私の方の『クライアント』が心配していてね。疑念を完全に晴らすために、一応キミに調べてもらおうってわけだよ。」
「依頼であり、正当な対価が得られるなら情報屋として努力はしますが……妖蛇ですか。もし妖怪ならあまり相手にしたくない存在ですね。」
ほんのちょっとだけ嫌そうな感情を滲ませたアピスさんの発言に、リーゼお嬢様が首を傾げながら質問を送った。
「嫌いなのかい? 蛇。」
「蛇の人外というのは大抵強力な存在ですから、好んで関わり合いになりたくないんですよ。執念深いタイプが多いですしね。恨みを買うと面倒なんです。」
「ふぅん? 『強力な存在』ね。知らなかったな。その判断の根拠は?」
「非常に簡単な理由ですが、蛇という存在が『メジャー』だからです。古代ギリシア、エジプト、中国、インド、そして日本。他にも数多くの文化圏で蛇は神性を抱えています。その反面、キリスト教やユダヤ教では強力な悪魔や妖怪とされているでしょう? ……神か、妖か。相対する二つの側面を持ってはいますが、どちらにせよ蛇の人外は大きな力を持つことが多いんです。吸血鬼さんもご存知の通り、人々の認知というのは人外にとって重要な要素ですから。」
そうなのか。掃除を進めながら帰ったら魔理沙にも教えてあげようと思っていると、リーゼお嬢様が少し真剣な口調で相槌を打つ。
「大妖怪か、力ある神かに二極化するということかい?」
「もちろん例外だっていくつもあるでしょうけどね。蛇の低級妖怪は確かに存在しているはずですし、落ちぶれた蛇神だって居るでしょう。しかし私の経験上、蛇の人外は強力かつ厄介な個体であるケースが多いんです。……妖蛇を指して『始まりの人外』と呼ぶ者も居ますよ。人間を唆して、神の庭から追放させたのは蛇ですから。その身で輪廻や円環を表し、豊穣や太陽を司り、成長すれば天を舞う竜となる。多面性があるというのは人外にとっての長所の一つなんです。侮っていい存在ではないでしょうね。」
「……何故私はこれまで知らなかったんだろうね? 別に侮っていたつもりはないが、蛇がそこまでメジャーな存在だとは思っていなかったぞ。」
「それは吸血鬼さんがイギリスの人外だからでしょう。イギリスやフランスなんかは比較的関係が薄い国ですからね。……紅さんが『こちら』に残っていれば話を聞けたかもしれませんよ。彼女と妖蛇とには浅からぬ因縁がありますから。」
因縁? 何だか物騒な言葉に興味を惹かれつつも、ゴミをどんどんゴミ袋に投入していく。やっぱりデリバリー食品の空箱が多いな。自炊するタイプではないらしい。あるいは忙しくてその余裕がなかったのかもしれないけど。
「ふぅん? 因縁ね。幻想郷に行ったら聞いてみようかな。……しかし、神性か。その可能性は考慮していなかったよ。」
「神そのものというか、その使いというケースが殆どですけどね。所謂神獣ですよ。」
「守矢の二柱が一度だけ接触しているんだが、別段妙な気配は感じなかったらしい。神性同士というのは直に会えば相手がそうだと気付けるものなのかい?」
「そこは妖怪と大して変わりません。吸血鬼さんも他の妖怪に会えば大抵は気付けるでしょう? 妖怪と神性は相反するものですから、比較すれば同族よりもそちらの方が気付き易いということは言えますが、神性同士だからといって気付けないわけではありませんよ。」
淀みない手付きで私の懐中時計を分解して清掃しながら解説したアピスさんに、難しい顔になっているリーゼお嬢様が腕を組んで応答を投げた。
「……何にせよ、神性かもしれないという可能性は二柱に伝えておこう。調査の結果はいつ頃出せる?」
「一月中には提出できるはずです。もし込み入ったことになれば延びますけどね。」
「キミにしては長いじゃないか。蛇をそんなに危険視しているのかい?」
「それも全く無いとは言いませんが、むしろ問題なのは場所ですよ。マホウトコロの教員とその人物に飼われているペットということは、調査対象はどちらもマホウトコロの領内に住んでいるんでしょう? 堂々と入って調べられるような場所ではないので、調査にもそれなりに時間がかかるんです。」
あー、なるほど。言われてみれば当たり前のことだけど……でも、『調べられない』とは言わないのか。つまりアピスさんはマホウトコロの内部事情を調べるための手段を持っているということだ。どうやっているんだろう? よくよく考えるとアピスさんには謎が多いな。
情報屋を情報屋たらしめる『手段』。掃除をしながら一体全体どんな方法なのかと想像していると、リーゼお嬢様が一つ首肯して了承を口にする。
「ま、分かったよ。出来れば一月中に頼む。報酬は報告の時に請求してくれ。……ちなみにだが、キミは『日本の蛇の人外』と聞いて何を思い浮かべる? 参考程度に聞かせてくれたまえ。」
「日本に限るのであれば、真っ先に頭に浮かぶのは『相柳』ですね。」
『あいやなぎ』。その名前は知っているぞ。前に中城さんから聞いたやつだ。……だけど、相柳は相良柳厳とかいう闇の魔法使いの別名じゃなかったっけ? 蛇舌で細川派に倒された歴史上の人物のはず。人外じゃなくて人間じゃないのか?
私の内心の疑問を代弁するように、こちらも既知だったらしいリーゼお嬢様が問いを飛ばした。
「それは日本における『最悪の陰陽師』の俗称だろう? イギリスで言うヴォルデモートみたいな存在じゃないのかい?」
「相柳は妖怪の名前ですよ。相良柳厳という陰陽師を操っていた、蛇の大妖怪の名前です。恐らく相柳が操る対象に自身に因んだ名前を名乗らせたのでしょう。少なくとも日本の妖怪たちにとっての『相柳』は妖蛇を指す名前になっています。」
「ふぅん? かの陰陽師の蛮行は、人間が起こした騒ぎじゃなかったのか。『表側』の歴史とは異なっているわけだ。」
むう、これまた意外な新事実だな。ヨーロッパ大戦の裏側に吸血鬼が居たように、マーリンとモルガナの戦いの裏に大魔女が居たように、日本の魔法史に残る大事件の裏側には蛇の大妖怪が居たわけか。何かこう、妖怪が魔法界に関わるというのが結構有り触れた出来事のように思えてきたぞ。
いきなり他国の歴史の裏側を知ってしまって困惑している私を他所に、アピスさんが詳細な説明をリーゼお嬢様に語り始める。
「あれは人間を駒にした妖怪と神性の『代理戦争』ですよ。相柳に賛同しなかったごく一部の妖怪が神性側に付いたりもしましたけどね。……詳しく知りたいのであれば、幻想郷の『彼女』に聞いてみては? かの大妖怪は相柳と敵対した側に参加していたはずですから。」
「紫のことかい? ……あいつが参加したら一瞬でケリが付いちゃうだろうに。」
「そう簡単な話でもなかったんですよ。言うなれば……そう、ゲラート・グリンデルバルドとアルバス・ダンブルドアの戦いに近い理由があったんです。ゲラート・グリンデルバルドを相柳に、アルバス・ダンブルドアを『彼女』に、魔法族を妖怪に、非魔法族を人間に置き換えたような理由が。相似であって同一ではありませんけどね。各々の思想の細部が致命的に異なっていますから。」
そこまで言ったアピスさんは、ふと何かに気付いたような顔になった後……薄い笑みを浮かべながら言葉を繋げた。興味深そうな、哀れんでいるような、それでいて喜んでいるような複雑な笑みだ。ひょっとしたら、これはアピスさんの『妖怪としての笑み』なのかもしれない。
「『彼女』が吸血鬼さんに興味を持った理由の一つはそれなのかもしれませんね。無論全てではないでしょうが、欠片の一つではありそうです。……我ながら面白い発見をしてしまいました。」
「どういう意味だい?」
「今は教えてあげません。ゲラート・グリンデルバルドとアルバス・ダンブルドアを知る貴女が、『彼女』と相柳の物語を知れば嫌でも気付けるはずです。二つの物語が似通っていて、それでいて異なっていて、そして決定的に違う結末に至ったことに。……自分で気付いてください。私は他者の『気付き』を奪うほど落ちぶれてはいないんです。他者に気付きを促すのが情報屋というものなんですよ。私は今促したんですから、ここから先は吸血鬼さんが追うべき謎でしょう?」
ぼんやりした台詞と共に席を立ったアピスさんは、いつの間にか再び組み立てられていた懐中時計を私に差し出してくる。
「どうぞ、メイド見習いさん。掃除のお礼です。そもそもが頑丈な物ですから、これならあと五百年は余裕で動き続けるでしょう。」
「えと、こちらこそメンテナンスしてくれてありがとうございます。でも、まだまだ掃除は終わってないんですけど……。」
「これで充分ですよ。『私たちの話が終わるまで』という契約だったでしょう? 話は終わりました。吸血鬼さんを連れて帰ってください。これ以上話していると余計なことを喋ってしまうかもしれませんから。」
「おい、私はまだ聞きたいことがあるんだが?」
席に座ったままのリーゼお嬢様の文句を受けると、アピスさんは無表情で小首を傾げながら返事を返す。唐突な内容の返事をだ。
「吸血鬼さんは私が『人間の魔女』の正体を明かさなかったことを怒っていますか? 熊さんはともかくとして、『アビゲイル』の真実に私は一定の予想を立てていたわけですが。」
「いきなり話を蒸し返すじゃないか。……当然、怒っているよ。」
「嘘ですね。あの時私から真実を明かされていた場合、貴女は心の底から納得できていなかったはずです。舞台に上がった貴女が真実を暴いたからこそ、あの物語は完成したんですよ。……故に『彼女』と相柳の件も私から全てを明かすわけにはいきません。その一件において貴女が『役者』かどうかは未知数ですが、少なくとも私は明確に『観客』なんですから、これ以上余計なことはしたくないんです。諦めて帰ってください、吸血鬼さん。そして出来れば私に見せてください。相柳と『彼女』の物語の続きを。」
「……兎にも角にも、もう話す気は無いということか。相変わらず面倒くさいヤツだね。」
大きく鼻を鳴らして腰を上げたリーゼお嬢様は、そのままリビングルームから出て玄関へと向かう。私も主人に続いて入り口のドアまで移動したところで、見送りに来たらしいアピスさんがお嬢様に声をかけた。
「期待していますよ、吸血鬼さん。上手く話を繋いでください。今回の貴女は物語を締め括る『探偵』ではなく、きっと場面を進めるための『狂言回し』なんです。主要ではないものの、絶対に必要な存在。私はそんな貴女の役割を気に入っています。また楽しませてくださいね。」
「……観客を自称するなら黙って観ていたまえよ。」
「私は観客ですが、野次の一つくらいは飛ばしてもいいはずでしょう? ……では、調査が終了したら結果を報告しに行きます。魔女さんにもよろしく伝えておいてください。」
その発言と共にパタリと閉まったドアを背に、リーゼお嬢様と二人で歩き出す。……姿あらわししないのかな? お嬢様は何だかイライラしているようだし、ちょっと話しかけ辛いぞ。アピスさんの言っていたことを考えているらしい。
黙考しながら歩く主人の背中を追って、サクヤ・ヴェイユはスイスの道をひた歩くのだった。