Game of Vampire 作:のみみず@白月
「いいかい? かなりキナ臭い状況だということをキミも自覚しておきたまえ。……おいこら、聞いているのか?」
うーむ、和風の部屋が恐ろしく似合わない男だな。マホウトコロ校内の一室でグリンデルバルドに注意しているリーゼ様を横目にしつつ、アリス・マーガトロイドは室内を見回していた。現地に到着したグリンデルバルドが案内された部屋は、私たちに宛てがわれた客室よりもずっと広いようだ。政治的な格もそうだけど、随行者が多いというのが一番の理由なのかもしれない。
三月十七日の午後、私とリーゼ様はグリンデルバルドが居る客室に到着したところだ。複数の部屋がある広い客室内には、私たちの他に七名もの人影がある。グリンデルバルド本人と、彼の補佐官らしきスーツ姿の男性が二人、そして銀朱色のローブを着たロシア闇祓いが四名。部屋の前の廊下には更に二人の闇祓いが見張りに立っていたし、計九名の大所帯ということになるな。
物々しいとは思うが、同時に頼もしくもあるぞ。部屋に居る四人の闇祓いたちは皆精鋭と言って差し支えないレベルの雰囲気だ。杖捌きを見ずに仕草から力量を測るのはオグデンほど得意ではないけど、少なくともイギリス闇祓いの中堅どころよりは上な気がする。ムーディやデュヴァルあたりと比較してしまうとさすがに見劣りするものの、戦力としては充分すぎるほどの面子だろう。
ローブと同じ色の布で口元を隠している闇祓いたちを観察している私を他所に、椅子に座って書類を読んでいるグリンデルバルドがリーゼ様に返事を投げた。目元しか出ていないから、性別すらよく分からないな。ロシアの闇祓いはあんな格好をしていて戦闘時に支障が出ないんだろうか? まあ、それも含めた訓練を積んでいるんだとは思うけど。
「具体的にどう『キナ臭い』んだ?」
「具体的な説明など必要ないだろうが。キナ臭いもんはキナ臭いんだよ。備えたまえ。」
「……この場では説明できない事情があるということか?」
周囲の随行者たちをちらりと見ながら問いかけたグリンデルバルドへと、リーゼ様が小さく鼻を鳴らして首肯する。……ちょっとイラッとくるやり取りだな。リーゼ様が暗に言わんとしていることを、グリンデルバルドが汲み取っている感じだ。私だってリーゼ様相手なら同じことが出来るんだぞ。
「そういうことだね。」
『……ミハイロフ、前日だからと油断せずに警戒を厳にしろ。お前たちには詳細を語れないが、この吸血鬼の情報は信ずるに足るものだ。ここからは何かが起こるという前提で行動するように。』
『了解しました、議長。……ソコロワ、外の二人にも伝えておけ。』
『了解。』
あの人は女性だったのか。隊長っぽい人物からのロシア語での指示を受けて、ソコロワと呼ばれた女性が廊下で出入り口を固めている二人に指示を伝えに行くのを尻目に、グリンデルバルドは続けて補佐官らしき二名の男性にも声をかけた。どちらも高級そうな黒スーツ姿で、年齢は五十代か六十代ってところかな。通常なら結構なベテランだが、グリンデルバルドからすれば『小僧』だろう。
『事前の計画通り、安全面を重視して細々とした面談はお前たちに任せる。俺の代行として何を確認し、何を要求し、何を受け入れるのかを頭に入れておいてくれ。』
『かしこまりました、同志。』
『……同志はやめておけ。アジア圏の人間には偏ったイメージを抱かせかねん。俺のことは役職で呼ぶように。』
『はい、議長。』
何かこう、ロシア語での会話というのはどうにも堅苦しく聞こえてしまうな。単純に文化の違いなのか、文法や発音がそう思わせるのか、あるいはジョーク塗れのイギリスで育った弊害なのか。最後の理由かもしれないと微妙な気持ちになっていると、グリンデルバルドがリーゼ様に向けて報告を放つ。わざわざロシア語から英語に戻してだ。リーゼ様も私も聞き取れるし話せるんだから、別にロシア語のままでもいいのに。
「この後はマホウトコロ内でホソカワ派の重鎮と会う予定だ。他の政治家や文化人たちとの面談は部下に任せられるが、その人物とだけは直接話したいからな。把握しておいてくれ。」
「具体的に誰だい? 話す相手は。」
「マサシゲ・ホソカワだ。お前も以前会っているんだろう?」
「ああ、あの老人か。……確かにあの男とは直に話しておくべきかもね。日本を出られないようだから機会が少ないし、どうせ話すならカンファレンス前の方がいいだろうさ。把握したよ。」
細川政重か。リーゼ様は一度会食したらしいけど、私は会ったことのない人物だな。どんな人なのかと想像していると、廊下から戻ってきたソコロワと呼ばれていた女性がグリンデルバルドに声を送った。
『議長、来客です。日本魔法省の闇祓いが二名、挨拶をしたいと言ってきました。』
『いいだろう、通せ。』
読んでいた書類を補佐官に渡したグリンデルバルドの了承に従って、別の闇祓いが玄関の方へと歩いて行く。僅かな時間を置いた後、迎えに行ったロシア闇祓いの背に続いて姿を現したのは……日本の闇祓いも『制服』があるから分かり易いな。日本魔法界では闇祓いのみが着用を許されているという、黒い『着物ローブ』姿の中年の男性二人組だ。
「お初にお目にかかります、グリンデルバルド議長。日本魔法省闇祓い局の主席を務めております、和泉です。明日からのカンファレンスの会場警備を私が担当いたしますので、一言ご挨拶をと思いまして。」
「次席の細川です。どうぞよろしく。」
また細川か。闇祓い局は細川派の色が濃い組織らしいし、やっぱり細川姓が多いのかな? 若干以上の独特な訛りを感じる英語での挨拶に、グリンデルバルドが綺麗な英語で応対しているが……そのやり取りを背にリーゼ様が次席の男性に近付いて話しかけた。今度は日本語でだ。この部屋は言語がぐちゃぐちゃすぎるぞ。
『やあ、次席君。キミの噂は聞いているよ。』
『あーっと……それはまた、何とも光栄ですね。私も貴女の噂を聞いていますよ。好きこのんで細川派と関わる他種族は珍しいですから。』
『派内では有名な人格破綻者なんだって? 父親とばったり顔を合わせないように気を付けたまえ。今日はここに来ているぞ。勘当されているんだから会いたくないだろう?』
四、五十代ほどの見た目にしてはちょっと軽い雰囲気の男性は、リーゼ様の発言を聞いて分かり易く嫌そうに顔を歪める。『人格破綻者』ってのは凄い評価だな。ムーディやオグデンと同じような人物なんだろうか? どうやら一部の闇祓いの性格が『ぶっ飛んでいる』のは万国共通なようだ。
『っと、頑固親父と会うのは確かに御免ですね。忠告はありがたく受け取っておきます、あー……バートリさん? で合ってます?』
『合っているよ、色狂い君。ついでにもう一つ忠告してあげよう。キミの三男の頭がおかしくなっているぞ。会いに行ってあげたまえよ。』
『京介のことですか? ……頭がおかしいってのは結構な言い草ですね。あいつはまあ、私の息子にしては随分と真っ当な人間だったはずなんですけど。』
『精神的にかなり参っているようでね。私はちょっとだけ話す機会があったんだが、あのままだと自殺しかねんぞ。一応は親なんだろう? どうせマホウトコロに来ているんだから、チラッと様子を見に行くくらいのことをしてもバチは当たらないと思うよ。』
リーゼ様がそう囁きかけたところで、グリンデルバルドと主席の人……恐らく『主席』というのは隊長や局長に位置する役職名なのだろう。の話が終わったようだ。ススッと離れていったリーゼ様に尚も質問しようとした次席の男性に、主席の方が小声の日本語で注意を飛ばす。要するに次席の男は細川京介の父親なのか。そういえばアピスさんの調査報告書にそんなことが書かれていたな。
『細川、行くぞ。頼むから今だけは余計なことをしないでくれ。』
『いや、あの吸血鬼さんに聞きたいことが──』
『やめろ、早く行くぞ。』
『……分かりましたよ。』
私の立っている場所でギリギリ聞こえるくらいの、中途半端に声を潜めた会話……日本語が分からないと思って油断しているのかな? だとすれば『油断大敵』だぞ。本気で潜めるにしてはやや大きめの声でのやり取りを経て、二人の日本闇祓いたちはグリンデルバルドにもう一度挨拶をしてから部屋を出て行った。
「リーゼ様、細川京介の父親を利用する気ですか?」
見送りに行ったロシア闇祓いを見ながらリーゼ様にこっそり尋ねてみれば、彼女は皮肉げな笑みで頷いてくる。
「相柳が掻き回してくるなら、こっちだってそうするまでさ。上手くいけば細川京介を退場させられるかもしれないよ。闇祓いなら向かわせたところで簡単に操られるはずはないし、ちょっとした嫌がらせの一手ってわけだ。藍を落とされちゃったんだから、現地の駒も適度に使っていかないとね。」
「『応手でいく』って言ってたじゃないですか。これは明らかに『先制攻撃』だと思いますけど。」
「このくらいはご愛嬌だよ。裏目に出ても大した被害はないだろうさ。」
肩を竦めて豪語してくるリーゼ様に、何とも言えない気分で応答した。やっぱりリーゼ様は攻める方が得意なんだな。咄嗟にこういうことをするとは思わなかったぞ。『待ちっぱなし』に我慢できなくなったわけか。
「……いっそのこと、リーゼ様が直接細川京介を無力化するのはダメなんですか? 前までは藍さんからの制止があったし、相柳にこっちの思惑を気取られないために干渉を控えていたんですよね? でも、ここまで来たらそんなことは関係ないはずです。私たちは堂々とマホウトコロの領内に入ってるわけなんですから。」
「ゲラートの安全という面ではそれが一番だろうさ。細川だけじゃないぞ。私が休んでいるマホウトコロの教師を片っ端から殺しまくって、相柳の持ち駒を減らせばいい。怪しきは殺せってわけだね。……だが、それをやるとカンファレンスはもちろん中止だ。そもゲラートを来させないという選択肢を選べなかったように、カンファレンスを中止に追い込むような策も使えないんだよ。あそこに居る忌々しい頑固ジジイの願いを果たすためにはね。」
「だけど今日相柳が行動を起こして、結果として大きな騒ぎになればカンファレンスは中止になりますよ?」
「そうなったら相柳が悪いわけであって、私の所為じゃないよ。私が能動的に動いた結果としてカンファレンスが中止になるのが問題なのさ。……まあ、相柳がどんな手を打ってきても出来る限りカンファレンスが成立するようには立ち回るがね。最悪の場合はゲラートの安全が優先だ。」
んー、何とも複雑な拘り方だな。『ケジメの問題』ってやつか。グリンデルバルドは自身の危険を度外視してでもカンファレンスの成功を望んでおり、だからリーゼ様はカンファレンスを成立させた上でグリンデルバルドを守ろうとしているわけだ。
互いに主目的と副目的が入れ替わっているものの、両方を達成しようとする限りは齟齬が生じないって状態だな。相柳の行動がいまいちはっきりしていないのも相俟って、非常にふわふわした状況だぞ。複数の思惑が絡み合って動ける隙間が減っている感じだ。
脳内で現状を整理している私に、リーゼ様は尚も説明を続けてくる。
「大体、細川や休んでいる教師だけが怪しいってわけでもないじゃないか。私は細川の様子から、相柳に操られると精神だか何だかを消耗すると踏んでいるが……そんなもん単なる予想に過ぎないからね。『不調』な連中は分かり易い囮で、普通に生活している教師や生徒の中に相柳の本命の駒が紛れているのかもしれないぞ。」
「……言われてみればそうですね。誰が敵で誰が敵じゃないかが分からないのは、ベアトリスの時を思い出します。」
「ベアトリスの時はやや特殊だったが、魔法戦争の頃も似たような状況だっただろう? これ見よがしに旗を掲げて、二つの集団が正面切って殴り合うような戦いじゃないのさ。おまけに迂闊な行動をするとカンファレンスにケチが付きかねないし、マホウトコロの教師が大量死したとなれば後々にも響く。短絡的に相手の駒を潰しまくるわけにはいかないんだよ。……昔だったらもっと『妖怪らしいやり方』を選択できていたかもしれないけどね。常識ってやつを得てしまった今の私にその選択肢は選べないわけだ。我ながら『人間っぽい』思考回路になっちゃったもんさ。」
「……ならせめて、拘束するのは無理ですか? 殺すのは確かに問題かもしれませんけど、操られている可能性が高い細川京介だけでも動けなくしてしまうのはどうでしょう?」
リーゼ様が言っていることも分かるが、『問題点』が見えているのに対処しないのは勿体無い気がするぞ。休んでいる教師たちが相柳の用意した『分かり易い囮』であるケースや、リーゼ様が対処したとマホウトコロ側にバレた場合の後始末の方法、グリンデルバルドの近くから短時間でもリーゼ様を離す危険性だったり、カンファレンスへの影響、相柳がこちらの動きをどこまで把握しているのか、見知らぬ大妖怪が介入してくる可能性等々を考えながら食い下がってみると……黒髪の吸血鬼は困ったように苦笑して返事を返してきた。
「キミ、『深読み』しているね? 顔を見れば分かるぞ。藍からの忠告を忘れたのかい?」
「……積極的に懸念に対処しようとすると、裏目に出かねないってことですか?」
「私はね、アリス。相柳の計画自体はひどく単純なものであると予想しているんだ。藍からの忠告を妄信しているわけじゃないぞ。細川京介の行動からもそれは読み取れるからね。ゲラートと会って、操って、人間社会を無茶苦茶にして、妖怪を救う。相柳は穴だらけの単純明快な計画を自信満々に進行するタイプなんだと思うよ。」
バカにする感じではなく、冷静な口調で相柳の『短慮っぷり』を語ったリーゼ様は、疲れたような顔付きで続きを口にする。
「いいかい? 藍が言っていたように、相柳の計画を複雑にしているのは恐らく周囲の方なんだ。余計に入り組ませているのは細川京介や、早苗たちや、藍や、協力しようとした大妖怪や、幻想郷の鬼たちや、ゲラートや、私たちなのさ。今回の騒ぎもそうだし、六百年前の騒動も多分そうなんじゃないかな。……なまじ基礎となっている相柳の計画が単純すぎるから、周囲からの影響を受けまくっちゃうんだよ。それぞれの意図とは関係なく相柳の計画に干渉し、そして結果として複雑化するわけだね。」
それは……むう、どうなんだろう? 何となくの説得力を感じる考察に私が悩んでいる間にも、リーゼ様はやれやれと首を振りながら言葉を繋げた。
「今回の騒動を最初から辿ってみれば分かるよ。『ペット探し』で早苗と接触して、早苗から更に私に繋ぎ、私経由でゲラートと会うことを考案したのは恐らく細川京介だ。ずっと封印されていた相柳がゲラートと私の繋がりを去年の四月時点で掴めるはずはないが、細川京介なら調べられただろうさ。クィディッチトーナメントでゲラートと同席していたのをシラキから聞いたか、あるいは引退前のレミィがゲラートと連携を取っていたことから関連付けたのか。取っ掛かりは何にせよ探れないほどのことじゃないし、実際彼は最初の段階で既に気付いていたようだったからね。動機だけは未だにはっきりしないが……まあ、相柳に協力させるための対価ってところじゃないか?」
「……そして、計画の要となるカンファレンスに関してはこっちの都合で開いたと。」
「そういうことだね。別に相柳が何かしたわけじゃない。その間相柳がしたことと言えば、下手な芝居で二柱に違和感を持たせたり、不用意に出歩いて早苗に見つかったり、無謀にもシラキを操ろうとして失敗した挙句、盛大に口を滑らせてヒントを残したことくらいだ。……相柳のバカさ加減を思うに、日本魔法省に要請を通す際の工作も細川が主導したんじゃないかな。とはいえ決議後に長官が急死したのはあまりにも不自然すぎるから、そこは相柳のミスなんだろうさ。中途半端に操って何らかのトラブルが発生した結果、殺さざるを得なくなったとか? 詳細はさっぱり分からんが、細川としても予想外だったんだと思うよ。」
「……騒動の前半の骨子を組んだのは細川京介だったってことですか。」
私の相槌に首肯したリーゼ様は、書類の確認やサインをしているグリンデルバルドの方を見ながら会話を続ける。
「だがその細川が『壊れちゃった』から、私との二度目の話し合いは無茶苦茶なことになってしまったわけだ。本来相柳の計画はあの段階で迷走して崩壊していたはずなのに、今度はゲラートが地域別カンファレンスの開催を決定し、私がその会場をマホウトコロに決めてしまったのさ。結果的に相柳は労せずしてゲラートをマホウトコロに誘き出すことが出来て、おまけとして『勝手に』行動する妖怪たちの援護も得られた。……ちなみに相柳が私の動きに気付いているとすれば、それも彼女の功績ではなく私のミスから発生したものだ。基本的に相柳自身はまだ何も成功させていないんだよ。失敗は何度かしたようだがね。」
うーん、恐ろしい話だな。相柳は不用意に早苗ちゃんに姿を見せて不審な言動を残し、意図せずして長官を死なせてしまったり細川京介を不自然に操ることでリーゼ様の疑いを煽り、グリンデルバルドを誘き出すのに失敗して八雲藍さんまで追っ手になるところだったのに、結局は何もかもが解決して今の状況に繋がっているわけか。
相柳は当初リーゼ様と幻想郷の繋がりには勿論気付いていなかっただろうし、早苗ちゃんに二柱の神が憑いているどころか、目的たるグリンデルバルドの存在すら知らなかったはずだ。細川京介経由でグリンデルバルドに目を付け、支離滅裂で問題だらけの計画を考案し、殆ど何も成功させていないのに現状に繋がった? 凄まじいな。天運を持っているぞ。
改めて考えてみて唸っている私に、リーゼ様は呆れ果てた口調で話を締めてきた。ある意味では他人の『結果的な失敗』を利用しているとも言えそうだな。本来は意味を持たないはずの賽の目が、予想外に組み合わさって相柳の望む目に変わってしまっている感じだぞ。
「カンファレンスの成功という制限が私にあるのも、間接的に相柳に味方しているわけだしね。何もかもが追い風なのさ。……だから応手なんだ。さっき父親を使って細川京介に干渉しようとしたあたりが限界だよ。私たちが極力何もしなければ、相柳は思い通りに計画を進められるはずだろう? それこそが一番対処し易い状態なんじゃないかな。藍が言っていたのは多分そういう意味さ。」
「元々ある相柳の計画通りに進めば、結局は失敗するってことですか。つまり、リーゼ様は私たちが『何か』をしようとするほどに厄介なことになると思っているわけですね?」
「ま、そうだね。元来バカが立てた計画なんだから、相手取るに当たっては元々の形こそが一番楽ってわけだ。……多少不条理な意見であることは認めるが、実際そうなんだと思うよ。相柳はそういう妖怪なのさ。多分ね。」
だけど、今度はそれが裏目に出る可能性はないんだろうか? ……これは難しいな。整った論理では片付けられない、非常に妖怪らしい厄介さだぞ。賢人を翻弄できるのは愚者だけ。それを体現しているような相手じゃないか。
やっぱり何だか、早苗ちゃんの在り方に似ている気がする。本人の思惑すら関係なしに場を乱すところがそっくりだ。相柳を相手取った六百年前の日本の神々も、私たちと同じように悩んだのかもしれない。どの札を選んでも相柳に利するような気分になってくるな。
ふわふわしていて、故にもやもやする厄介さ。どうにも掴み切れないそれについてを思案しつつ、アリス・マーガトロイドは息を吐いて腕を組むのだった。