Game of Vampire   作:のみみず@白月

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学校

 

 

「九月一日に? ……急ですね。」

 

イギリスが誇る魔法の牙城。その城内の校長室でマクゴナガルが相槌を打ってくるのに、アリス・マーガトロイドは一つ頷いていた。私が居るソファの隣には副校長たるフリットウィックが腰掛けており、対面のソファをハグリッドが一人で使っていて、マクゴナガルは執務用の椅子に座っているという状態だ。要するに、私は引っ越しの報告をするためにホグワーツ城を訪れているのである。

 

「どうせなら切りの良い日にしようって決まったの。新たな生活が始まる日として相応しいのは、やっぱり九月一日でしょう? その日になったらレミリアさんと同じ土地に引っ越すわ。」

 

「そうですか、マーガトロイドさんも別の土地に引っ越してしまうんですか。……本当に急ですね。驚きました。」

 

「咲夜も連れて行くわ。ちょっと複雑な土地だから、暫くはイギリスに帰ってこられなさそうなのよ。それでまあ、一応報告をと思って時間を貰ったわけ。」

 

目を瞬かせているマクゴナガルに返事をしてみれば、今度はフリットウィックが質問を寄越してきた。ちなみにハグリッドは……おお、彼もびっくりしているようだ。真っ黒な瞳を見開いている。

 

「バートリ女史は残るということですか?」

 

「リーゼ様も一緒に引っ越すけど、彼女の場合はイギリスに頻繁に戻ってこられるかもしれないの。手紙なんかもリーゼ様経由で送れるから、別に連絡が取れなくなるってほどではないわ。」

 

「バートリ女史だけが、ですか。……複雑な事情があるようですね。」

 

「まあ、そういうことね。詳しい内容までは話せないんだけど、悪い事情ってわけではないから心配しないで頂戴。引っ越すこと自体はずっと前から決まっていたの。咲夜と魔理沙の卒業に合わせて、この時期になったってだけのことよ。」

 

若干心配そうな表情を覗かせたフリットウィックに説明すると、彼は安心したように首肯してから口を開く。

 

「悪いことでないのであれば、私たちは気持ち良く送り出すべきですな。」

 

「そうしてもらえると嬉しいわ。……噛み砕くと、一段落付いたって感じかしら。イギリスや世界の魔法界がそうしているのと同じように、私たちも次に進もうとしているのよ。そういう前向きな変化として受け取って頂戴。」

 

言ってからテーブルの上の紅茶を一口飲んだ私に、ハグリッドが悲しそうな声色でポツリと呟いた。

 

「みんな行っちまいますね。」

 

「二度と会えなくなるわけじゃないわよ。いつか戻ってはくるわ。……ハグリッド、貴方に一つ頼みたいことがあるの。リーゼ様にもお願いしてあるんだけど、テッサたちのお墓のことを頼めないかしら? それだけが私にとっての心配事なのよ。」

 

「そりゃあ、勿論です。勿論ですとも。俺がきちんと様子を見ます。……マーガトロイド先輩がヴェイユ先輩たちのお墓を任せてくれるっちゅう意味を、俺はしっかりと理解しとるつもりです。だからそこは一切心配しないでください。必ず役目を果たしてみせます。」

 

「ホグワーツの番人たる貴方が受け合ってくれるなら安心よ。これで心残りなく旅立てそうね。」

 

ハグリッドなら迷わず信じられるぞ。真っ直ぐに了承してくれた頼もしい後輩へと、微笑みながら言葉を返したところで……複雑そうな笑顔になっているマクゴナガルが声をかけてくる。

 

「見送ることには慣れていたつもりだったんですが、今回はとても寂しい気分になりますね。マーガトロイドさんには随分とお世話になりましたから。貴女が居なければ、私はこうはなれていなかったでしょう。」

 

「貴女は自分の強さをもう少し自覚すべきね、マクゴナガル。私の助けなんて些細なものだわ。貴女が今の貴女になれたのは、昔の貴女の頑張りがあったからよ。」

 

「胸を張ってそう言えるほど自惚れてはいませんよ。……いつか帰ってきてくださるのであれば、その日にホグワーツを訪問してみてください。きっと立派な姿で変わらずここにあるはずですから。それを見せられるように校長職を全うすることを、貴女へのお礼にさせていただきます。」

 

「ええ、貴女が築き上げたホグワーツの姿を楽しみにさせてもらうわ。いつの日か絶対に見に来るから、胸を張って出迎えて頂戴。」

 

ダンブルドア先生がそうだったように、彼女なら良い学校にしてくれるはずだ。すっかり校長職が板に付いてきたマクゴナガルに約束した後、ソファからスッと立ち上がって発言を場に投げた。

 

「まあ、それだけよ。レミリアさんがそうしたように、私たちも静かに旅立つわ。……だけど、本当に助けが必要な時はリーゼ様を通じて連絡して頂戴。意地でも戻ってきてみせるから。」

 

別れは潔くあるべき。私はレミリアさんと、パチュリーと、そしてリーゼ様からそのことを学んだぞ。送ろうとする三人を視線で制して校長室を後にしようとしたところで、マクゴナガルの背後にある肖像画の一枚が声を上げる。最も新しい歴代校長の肖像画がだ。

 

「アリス、旅立つ前に一つだけ教えておくれ。君にとってイギリス魔法界はどんな場所だったかね?」

 

安楽椅子に腰掛けているダンブルドア先生。振り返って絵画の中の慈愛を秘めた青い瞳を見返しつつ、彼に対して答えを放った。

 

「ホグワーツと同じですよ。イギリス魔法界は私に喜びと、悲しみと、達成と、後悔と、愛と、喪失を教えてくれました。……だからつまり、私を私にしてくれた場所なんです。ここで手に入れたものは、余さず私の『終わり』まで持っていきます。」

 

「……ならば、もはやわしに助言できることは何もないようじゃのう。行っておいで、アリス。君の歩む道に幸多からんことを願っているよ。」

 

「……行ってきます、ダンブルドア先生。」

 

イギリス魔法界は私の『学校』なのだ。良いことも悪いことも全部引っくるめて、この土地は私に様々な経験を与えてくれたのだから。……幻想郷がどれだけ滅茶苦茶な土地だとしても、私はもう私のままで変わらないだろう。アリス・マーガトロイドという魔女が生まれ、学んだ土地。私の礎はずっとずっとイギリス魔法界にあるはずだ。

 

恩師に行ってきますをしてから、アリス・マーガトロイドはドアの向こうへと一歩を踏み出すのだった。

 

 

─────

 

 

「やっぱ故郷に帰っちまうのか。……分かってはいたけどよ、残念だな。マリサほどの悪戯娘を余所にやっちまうのは惜しいぜ。正にイギリス魔法界の損失だ。」

 

大袈裟に残念そうな身振りをしながら言ってくるフレッドに、霧雨魔理沙は苦笑して応じていた。『イギリス悪戯界』の間違いだろ。イギリス魔法界は厄介払い出来て喜んでいると思うぞ。

 

「ま、故郷でも悪戯は続けるさ。お前ら二人の教えを胸にな。」

 

「それはそれは、嬉しい台詞だな。派手で、楽しくて、ほどほどに迷惑。それが真の悪戯だってことをお前の故郷に示してやってくれ。」

 

七月の上旬、現在の私はウィーズリー・ウィザード・ウィーズの手伝いをしているところだ。先程までは混雑していたのだが、お昼時ということでやっと客足が落ち着いてきたので、カウンター裏でサンドイッチを食べながら三人で話しているのである。

 

悪戯の美学を語ってきたジョージへと、肩を竦めて応答を放った。

 

「お前らの場合は『ほどほどに迷惑』じゃなくて、『大迷惑』だろ。……まあでも、最近は大人しいグッズも作ってるみたいじゃんか。」

 

「ああ、どうやら俺たちは腑抜けちまったようだな。ヴィックの所為でスランプ気味なんだよ。あの子にプレゼントするって考えると、どうしても大人しめの物を作っちまうんだ。」

 

「『幼児向け』だったら大人しめで正解なんだけどな。赤ん坊に危険な物を渡すわけにはいかんだろ。……例えばこれとかは良い商品だと思うぞ? そりゃまあ、悪戯グッズとしては弱いけどよ。」

 

頭を抱えているジョージの発言を受けて、近くに置いてあった『百変化積み木』を手に取って評価してやれば、フレッドが至極微妙な面持ちで返事を寄越してくる。この商品は要するに形が変わる色取り取りの積み木だ。ここまで大人しくすると悪戯グッズというか、むしろ魔法の知育玩具と呼ぶべきかもしれないな。

 

「百変化積み木は売れると思うし、幼児へのプレゼントには最適だって自信もあるが、この店には相応しくないんだよ。あまりにも無難すぎるだろ? 失敗したぜ。このままだと誇り高き『悪戯専門店』じゃなくて、単なる『おもちゃ屋』になっちまうぞ。」

 

「お前らが言わんとすることも分かるっちゃ分かるが……何て言うか、勿体無くないか? こっち方面の才能もあるってことなんだと思うぞ。」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいが、少なくともこの店で売るのはダメだな。扱うとしたら別の名前の店舗でだ。今はまだそこまでの余裕がないし、暫くは封印しておくことにする。ヴィックに渡す分だけ作るさ。」

 

「そりゃ残念なこった。……んで、二店舗目はどうするんだ? パリにある魔法族の町を狙ってるんだろ?」

 

ヴィクトワールが積み木で遊べるようになるのはもう少し先だろうけどな。ジニーとロンも相当なものだが、こいつらも結構気が早いのかもしれない。内心で考えながら話題を変えてやると、フレッドがよくぞ聞いてくれたとばかりに答えてきた。

 

「おう、土地と建物の確保は何とかなりそうだ。とはいえ、開店自体は最短でも来年の春ってところだな。商品の名前をフランス風にしなきゃだし、パリ店だけの目玉商品なんかも作らないといけない。作業が山積みなんだよ。」

 

「おまけに従業員も増やす必要があるし、フランス魔法省に商品の販売許可を通さなくちゃだからな。向こうはイギリス魔法界ほど『寛大』じゃない可能性もあるだろ? どうにかして安全に見せかけないとなんだ。」

 

「バレた時の言い訳も考えとけよな。……しかし、パリねぇ。お前らには何とも似合わない街だぜ。」

 

サンドイッチを食べ切りながら正直な感想を述べてやれば、双子はお揃いの苦笑いで頷いてくる。

 

「自覚はあるさ。だからまあ、その辺を逆手に取ってみせるぜ。『バカ臭い香水』とか、『エスカルゴ・ガム』とかって形でな。」

 

「嫌味に取られない程度にやろうと思ってるんだ。そこの匙加減は何度かフランスに行ってみて学ぶしかないだろうな。フラーもアドバイスしてくれてるし、店を開くまでには物にしてみせるさ。」

 

「悪戯も大変だな。正に『ほどほどに』ってわけだ。」

 

「下準備こそが悪戯の肝なんだよ。そこは店の経営にも、人生にも通じる部分だぜ。」

 

何だか尤もらしいことをフレッドが口にしたところで、カウンターを出て別れを告げた。今日の店の手伝いは昼までと決まっていたのだ。もう少しで他の店員が出勤してくるから、このタイミングで抜けても大丈夫なはず。人形店に帰る前に箒屋にでも寄ってみるか。

 

「ま、頑張ってくれよ。お前らの店がパリに進出すれば、イギリス魔法界の知名度は否が応でも上がるだろうからな。ユーモアでは世界最高の国だってのをパリの連中に教えてやってくれ。」

 

「任せとけ。パリの悪戯っ子たちにこの店の名前を刻み込んでやるから。……引っ越す前にお袋がパーティーか何かを開くと思うから、ちゃんと出席してくれよ? 俺たちも行くからさ。」

 

「ん、分かってる。またな、フレッド、ジョージ。」

 

フレッドの声に応じつつ店を出て、夏の太陽に照らされているダイアゴン横丁を箒屋目指して歩き出す。箒屋のおっちゃんにも世話になったわけだし、引っ越しのことをきちんと知らせないとだな。……うーむ、他にもダイアゴン横丁には挨拶しとかないといけない人物が沢山居るぞ。毎日ちょっとずつやっていくべきかもしれない。

 

自分が築き上げた繋がりの数々を頭に浮かべながら、霧雨魔理沙は脳内で計画を立てるのだった。

 

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