Game of Vampire   作:のみみず@白月

560 / 566
旅行計画

 

 

「んー……迷うわね。私はイタリアか、スペインかって感じよ。どっちも捨て難いわ。」

 

ロンドンの中心街からほんの少しだけ外れた位置にある、現在のハリーの住まいであるアパートメントの一室。そこのリビングでソファに座りながら唸っているハーマイオニーを横目に、アンネリーゼ・バートリはダイニングテーブルでチェスの駒を動かしていた。劣勢にも程があるぞ、こんなもん。ロンのやつ、またチェスが強くなっているじゃないか。

 

いよいよ夏という雰囲気になってきた七月の中旬、いつもの四人でハリーの家に集まって旅行計画を立てているのだ。来年度からハリーも長めの休暇を取れるようになるということで、延び延びになっていた四人での旅行を実行に移そうと決めたのである。

 

九月はさすがにどの部署も休みを取り辛いため、十月の上旬あたりに出発する予定なのだが……スペインか。あまり縁がない国だな。ちょっと面白そうではあるぞ。

 

ロンの応手に怯みながら考えていると、ハーマイオニーの斜向かいの一人掛けソファで旅行雑誌を読んでいるハリーが口を開いた。ちなみに四人それぞれに行きたい国を一つ挙げて、そこを巡るというのが計画の骨子になっている。ロンの希望は既にフランスに決定済みで、私とハリーとハーマイオニーが決めかねているという状況だ。

 

「僕もイタリアには興味があるかな。……ハーマイオニーがスペインにするなら、僕がイタリアにするよ。」

 

「あら、そう? ……でも、悩むわね。折角四人で行くんだから楽しめるような場所にしたいわ。」

 

「四人で行くならどこでも楽しめると思うけどね。……リーゼはどう? まだ思い浮かばない?」

 

「ピンと来る場所は特にないね。……まあでも、現状で強いて言えばギリシャかな。私の家にサントリーニの絵があるんだよ。母上が昔旅行して気に入った土地なんだそうだ。」

 

母上はそもそも外出が好きではなかったし、旅行の思い出みたいなものは滅多に話さなかったのだが、サントリーニ諸島のことだけは何度か聞いた覚えがあるぞ。美しい場所だと言っていたはずだ。……まあ、何世紀も前の話なので今どうなっているのかは不明だが。

 

不利な盤面でしぶとく粘りながら応答した私に、ドビーからアイスティーのおかわりを受け取ったハーマイオニーが反応してきた。あのしもべ妖精は予定通りここで暮らしている……というか、働いているらしい。曰く、部屋が狭すぎて掃除がすぐ終わってしまうのだけが物足りないんだそうだ。

 

「ありがとう、ドビー。……サントリーニ島も良いわね。観光地として有名なはずよ。ホテルとかも揃ってるんじゃないかしら?」

 

「なら、私はそこを希望にしようかな。上手く調整すればアテネも行けるんじゃないか?」

 

「あー、アテネ。それも素晴らしい選択肢だわ。……参ったわね、魅力的な土地が多すぎない? こんなの旅程を決められないわよ。目移りしちゃう。」

 

「ホグワーツで授業の選択をしてた時の君を思い出すぜ。あの時もそんな風に『目移り』してたっけな。」

 

していたな。ロンの突っ込みにジト目を向けたハーマイオニーは、迷いを断ち切るような苦渋の顔で自身の希望を宣言する。

 

「……決めた、イタリアにするわ。ローマ、フィレンツェ、ヴェネツィア。この三つを取りこぼすなんて有り得ないもの。」

 

「ハーマイオニーがスペインにして、僕がイタリアじゃなくていいの?」

 

「ハリーはハリーが本当に行きたいところを選択して頂戴。そうじゃなきゃそれぞれに決める意味がないわ。」

 

「そうなると……うーん、迷うね。まだ僕は決められなさそうかな。」

 

一人残ったハリーが再び旅行雑誌に向き直ったのを他所に、赤毛のノッポ君へと降参を伝えた。もう無理だ。我ながらよく粘ったものの、勝ちの目は完全に消えている。ここは潔く終わらせるべきだろう。

 

「リザインだ。……キミ、闇祓い局でチェスの訓練をしているんじゃないだろうね? 強くなりすぎだぞ。」

 

「『チェスの訓練』はしてないけど、シャックルボルト副局長がたまに付き合ってくれるんだよ。副局長、かなり強いぜ。三対七くらいで負け越してるからな。」

 

「まあ、あの男がチェスの名手ってのは何となくしっくり来るよ。……ギリシャのことが載っている雑誌はどれだい? 私も細かい部分を詰めるとしよう。」

 

ダイニングテーブルから離れてハーマイオニーの隣に座りながら尋ねると、斜向かいで眉間に皺を寄せて悩んでいるハリーが数冊の雑誌を渡してきた。何冊もある旅行雑誌の半分はハーマイオニーが国際魔法協力部で入手した物で、もう半分はハリーがマグル界で仕入れてきた物らしい。文字や写真が動くか動かないかでどっちの雑誌か一目瞭然だな。

 

「これだよ。……トルコはどうかな? イスタンブール。ちょっと魅力的じゃない?」

 

「イスタンブールか。確か、地下宮殿があるところだろう?」

 

「そうそう、あとは大きなバザールがあったりするみたい。マグル界にも、魔法界にもね。……僕の希望はトルコにしようかな。こんな機会じゃないと行けなさそうだし。」

 

「そうすると一直線に結べるね。フランス、イタリア、ギリシャ、トルコの順が効率的なんじゃないか? 最後はヨーロッパ特急でイギリスに帰ってくれば完璧だ。無論、逆にしてフランスを最後にするのも有りだが。」

 

一気に遠くに行って戻りながら観光するか、徐々に遠ざかりつつ観光して最後に一気に戻ってくるかだな。どっちもどっちかと一人で納得していると、ハーマイオニーが広めの地図を開いて意見を放つ。地域別の物ではなく、ヨーロッパ規模の地図だ。

 

「まあ、順番はそのどっちかね。ポートキーの時間とか、ホテルの混み具合とか、イベントの日付とかを調べてどっちにするか決めましょ。各々行きたい都市に丸を付けて頂戴。」

 

「急に現実的になってきたな。……これ、何日間になるんだ? ロバーズ局長は有給休暇を丸々使ってもいいって言ってくれたけどさ、最長でも二週間プラス休日とかだぞ。」

 

「さすがにそこまではかからないでしょ。……かからないわよね? かかる?」

 

ロンの指摘を聞いて自信がなくなってきたらしいハーマイオニーに、サントリーニ島とアテネに丸を付けながら肩を竦めて応じる。

 

「どうだろうね。例えば一国につき二日ってのは物足りなくないか? 最大まで使えば一国毎に三日半は確保できるぞ。」

 

「確かに二日だと忙しない旅行になるかもね。移動の時間とかも含むわけだし、イタリアなんかは一都市に一日使えなくなっちゃうよ? 姿あらわしとポートキーの使い方次第で色々変わりそうだけどさ。」

 

「待て待て、落ち着いて考えよう。タイミング良く出発すればもっといけるはずだろ? 土日の両方が休みの日に出発すれば、えーっと──」

 

私とハリーの懸念を受けて脳内で計算し始めたロンへと、ハーマイオニーが素早く答えを送った。

 

「闇祓い局は勤務スタイルが特殊だから、もしかしたら間違ってるかもしれないけど、単純に計算した場合の最大日数は十八日間よ。平日の十二日と間に挟まる土日出勤日の二日で有給休暇分を使って、そこに元々休日になってる四日をプラスした数。上手くタイミングを合わせて出発すれば十八日ね。」

 

「一国につき四日とちょっとか。それなら充分楽しめそうだな。」

 

「……そういう取り方をして大丈夫なの? 協力部はまあ、事前に準備してから休みに入れば特に問題ないわけだけど。」

 

「大丈夫だと思うぞ。ロバーズ局長はああいうタイプの人だし、シャックルボルト副局長も『思い出作りは大事にしなさい』って言ってくれたんだ。それに、そんな感じの休みの取り方は珍しくないしな。休み方にも強かさが求められるんだよ、闇祓いってのは。」

 

ロンは無理して言っているような雰囲気ではないし、ハリーも同意の首肯をしている。本当に大丈夫そうだな。……十八日間か。思っていたよりも長い旅行になるのかもしれない。

 

ギリシャは二日あれば問題ないから、その分を他に回すべきかと考えていると、ロンが今度は私に予定の確認をしてきた。

 

「リーゼの方は大丈夫なのか?」

 

「ん、キミたちが行けるなら私は平気だよ。時間は有り余っているから気にしないでくれたまえ。」

 

「じゃあ、とりあえず最長十八日間ってことで考えてみようぜ。……フランスは四日も使わないな。余った分をイタリアで使ってくれよ。僕もローマには時間をかけたいしさ。」

 

「細かい振り分けを決めるには、やっぱり観光地を詳しく調べないといけないわね。……国が決まってもまだまだ時間がかかりそうだわ。ここにある雑誌だけじゃ『資料』が足りないかも。」

 

うーむ、ハーマイオニーはまた『目移り』し始めたようだな。……まあ、ゆっくり決めるとしよう。四人揃っての旅行なんて次はいつ行けるか分からないし、私としても楽しい旅にしたいぞ。ここは妥協せずに打ち込んでみるか。

 

四人でテーブルを囲んで意見を交わし合いつつ、アンネリーゼ・バートリは無意識に翼を動かすのだった。

 

 

─────

 

 

「……これ、幻想郷に行った後で美鈴さんに手伝ってもらった方がいいんじゃないでしょうか?」

 

人形店のリビングルームに置いてある山積みのトランク。大きさがまちまちなそれが積み重なっている光景を眺めつつ、サクヤ・ヴェイユはエマさんに話しかけていた。ひょっとすると、買いすぎちゃったのかもしれないな。使い切るのに何年かかるんだろうか?

 

七月中旬の昼前、現在の私とエマさんは二人で大量の荷物を整理しているところだ。先日みんなでリストアップした『幻想郷に持っていくべき品々』を私、魔理沙、アリスの三人で大型スーパーやショッピングモールを何軒か巡って買い漁り、拡大魔法がかかっているトランクに詰め込んだのだが……拡大魔法込みでこの量か。行っては帰ってきてを繰り返していたから当日は気にならなかったけど、改めて見ると物凄い量だな。

 

約二十個の拡大魔法がかかっているトランクが目の前に存在しているので、合計すれば少なくとも家一軒分くらいのマグル製品や食材なんかが詰まっていることになる。それを分類したり整理して詰め直すというのは、果たして私たち二人だけで出来るような作業なんだろうか?

 

あまりの量の荷物を見て怯んでいる私に、エマさんがのほほんとした笑顔で応答してきた。

 

「出来るところまではやっちゃいましょう。どうせ幻想郷に行った後でキッチン裏の食品庫、ムーンホールド区画の地下倉庫、紅魔館区画の地上倉庫、裏庭の小屋のそれぞれに分けないといけないんです。備蓄管理の勉強だと思って頑張ってみてください。」

 

「一度取り出して、四つに分類して、また仕舞い直すってことですよね? ……分かりました、やってみます。」

 

「空のトランクにアリスちゃんが拡大魔法をかけてくれたので、分類してこっちに移してくださいね。赤が食品庫行き、青が地下倉庫行き、茶色が地上倉庫行き、白が小屋行きです。判別できない時は私に聞いてください。こっちのトランクはかなり広めにしてくれたみたいですから、全部入ると思います。」

 

「……了解です。」

 

返事をしてから赤いトランクの中を覗き込んでみれば、天井と壁が滑らかなコンクリート造りの広いスペースが目に入ってくる。トランクの入り口には梯子がかかっており、それを使って内部に下りるようだ。棚すら置かれていないし、殺風景なだだっ広い地下室って感じだな。

 

うーん、移動式の巨大倉庫か。拡大魔法の便利さを改めて実感するぞ。……とはいえこれは呪文の使用者がアリスであり、かつ時間をかけて拡大したからこそ可能な芸当だ。私だとテント程度の大きさに拡大するのが限界のはず。『重さ』をどうにかするのも難しいだろうし。

 

もっと杖魔法を練習すべきかと悩みつつも、目に付いた『移動元』のトランクをとりあえず一つ手に取った。ちなみに何故移動元のトランクに最初から整理して入れなかったのかと言えば、買い物の時のゴタゴタの所為である。さすがにこれだけの量を買うとなると混乱するし、そこまで気を使っている余裕がなかったのだ。

 

今にして考えると何日かかけてゆっくり買い物をすれば良かったのだが、私も魔理沙もアリスも慣れない『業者買い』で妙なハイテンションになってしまい、『買ってきた物を差し当たり適当に拡大魔法をかけたトランクに仕舞った後、姿あらわしで別の店に再出発する』という行動を繰り返した結果……まあ、この通り。中途半端な拡大魔法がかかったトランクが積み上がってしまったわけだ。しかも、中身がごちゃごちゃの状態で。

 

買い物の当日は楽しかったし、一日がかりだったから疲れたし、故に達成感もあったんだけどな。もう少し後のことを考えて行動すれば良かったぞ。今更後悔しながら移動元のトランクの中に大量に入っている買い物袋の一つを取り出して、その中身を更に個別にチェックしていく。

 

「こっちの袋に入ってるのは食料品ですね。大量のパスタと……あと、缶詰です。三軒目に行った大型スーパーの荷物じゃないでしょうか?」

 

「あれ、そっちもですか。こっちのも同じ店の袋です。野菜なんかが沢山詰まってますね。」

 

「あー、それは魔理沙が買っておけって言ったんです。幻想郷の野菜はあんまり美味しくないからって。……保存魔法をかければ大丈夫ですよね?」

 

「大丈夫だと思いますよ。詰め直したらアリスちゃんにかけてもらいましょう。」

 

まあ、アリスがかけるなら問題ないか。エマさんの言葉に納得しながら分類を進めていると、件の魔女どのがリビングに入ってきた。

 

「咲夜、手紙が……何してるの?」

 

「この前買った荷物の整理だよ。分類して詰め直すの。」

 

「ああ、そういうこと。だから新しいトランクが必要になったのね。てっきりまだ買う物があるんだと思ってたわ。」

 

「これ以上買ったら収拾がつかないよ。」

 

現時点で既に限界を超えているんだぞ。苦笑いのアリスに突っ込んでみれば、彼女は手に持っていた手紙をダイニングテーブルに置いてから口を開く。

 

「そういうことなら『荷運びちゃん』と『整理ちゃん』を出動させましょう。汎用の半自律人形も単純な反復作業なら出来るから、全部を動かせばかなり楽になると思うわ。……それと咲夜、ホグワーツからの手紙よ。イモリの結果じゃないかしら?」

 

「へ? もう来たの?」

 

「イモリの結果はフクロウより早いのよ。一度中断して確認してみなさい。私は一階から人形を取ってくるわ。」

 

言うと階段の方へと歩いて行ったアリスを見送ってから、テーブルに近付いて手紙を手に取る。……そういえばそうだったな。イモリ試験の結果は七月中なんだっけ。一気に緊張してきたぞ。

 

私と同じく作業の手を止めたエマさんが見守る中、ごくりと唾を飲み込みながら封を切って中身を……ぬああ、何か多いぞ。謎のチラシみたいな紙が沢山入っているようだ。やけに分厚かったのはその所為か。

 

「何故か魔法省のチラシがいっぱい入ってます。執行部とか、協力部とか、惨事部とかのが。」

 

「じゃあじゃあ、良い成績だったってことなんじゃないですか? だってほら、『足切り』を突破してない卒業生にチラシを送ったりはしないはずでしょう?」

 

「……そうなんでしょうか?」

 

「きっとそうですよ。」

 

エマさんの推理を受けてちょびっとだけ期待が膨らむのを感じつつ、人形を引き連れた状態で戻ってきたアリスを横目に、チラシの中から探し当てた質の良い羊皮紙を両手で広げてみれば──

 

「……どうでしたか? 咲夜ちゃん。満足できる成績でした?」

 

「あの……はい、予想より良い成績みたいです。」

 

「あら、やっぱりね。手紙が分厚かったから心配してなかったわ。」

 

然もありなんという顔で覗き込んでくるアリスと二人で、並んでいる成績を再度確認していく。最高の評価である10がいくつかあって、殆どが9、そして8は変身術と魔法薬学だけだ。8にしたって『良い成績』と言えるような評価だし、これは結構誇れる内容なんじゃないだろうか?

 

無論幻想郷では何の役にも立たない上、メイドとしての仕事に活かせるかも不明だけど……でも、間違いなく一つの証明にはなるはずだ。私がホグワーツできちんと学業を修めたという証明には。

 

そのことにホッとしている私へと、アリスとエマさんがお祝いを投げてきた。

 

「素晴らしいわ、咲夜。よく頑張ったわね。この成績ならどこにだって行けるわよ。」

 

「凄いです、咲夜ちゃん。お嬢様を起こしてきますね。絶対褒めてくれますよ、これは。」

 

「いや、えと……後で見せますから。エマさん? エマさん!」

 

私の制止を背にリーゼお嬢様を起こしに行ってしまったエマさんと入れ替わるように、今度は魔理沙がリビングに入ってくる。この時間まで寝ていたらしい。

 

「おっす、おはよ。……どうしたんだ? エマが何か慌ててたけど。」

 

「咲夜の試験結果が届いたのよ。」

 

「うお、マジでか。……見ていいか?」

 

「いいわよ、はい。」

 

急に目がパッチリ開いたな。恐る恐るという雰囲気で尋ねてきた魔理沙へと、持っていた試験結果を渡してやれば……それを見た彼女は満面の笑みで私の背中をバンバンと叩いてきた。痛いじゃないか。

 

「いいじゃんか、いいじゃんか! 大した成績だぜ。これならハーマイオニーとも渡り合えるぞ。」

 

「成績は『渡り合う』ようなものじゃないし、ハーマイオニー先輩には敵わないわよ。」

 

「いやー、良かったな。あんなに頑張ってたのに成績が悪かったらどうしようかと思ってたんだよ。そんなもん何て声をかけたらいいか分からんぜ。……ま、杞憂で済んで何よりだ。万々歳な結果じゃんか。」

 

「紅魔館内じゃ一番かもしれないわね。リーゼ様もフランもイモリは受けてないし、多分私よりも良いわよ。……ああでも、パチュリーが居たわ。聞いたことないけど、全部10とか取ったのかも。」

 

アリスよりも良いのか。何だか複雑な気分になるな。パチュリー様が『全部10』というのは私も想像できちゃうけど。金髪の魔女の発言に違和感を覚えている私と同様に、そこが引っ掛かったらしい魔理沙が質問を口にする。

 

「アリスよりも良いのかよ。それはちょっと意外だぜ。」

 

「私はまあ、苦手な科目がいくつかあったのよ。特に薬学はどうにもならなかったわ。受けてた授業の数自体も咲夜より少なかったしね。」

 

「まあうん、アリスは『一点集中型』だもんな。私にも魔法史って難敵が居たし、何となく分かるぜ。」

 

「でも、本当に見事な成績だわ。……これならレミリアさんの指令も達成したと言えるでしょう。幻想郷に行ったら褒めてくれると思うわよ。」

 

アリスに頭を撫でられて擽ったく思いつつ、魔理沙が返してきた成績表をもう一度ジッと眺めた。……これならお嬢様方だけじゃなく、お父さんとお母さんにも胸を張って見せられるな。近いうちに頑張ったよと言いに行こう。イギリス魔法界のどんな職業にだって就けるくらいに成長して、その上で自分が希望する仕事を『選び取った』のだと伝えなくちゃ。

 

私は両親が誇れるような娘になれたんだろうか? その答えを直接二人から聞くことが出来ない私は、こうやって自分に対して証明していくしかないのだ。……うん、大丈夫。少なくともイギリス魔法界での『証明』はこれで充分だろう。あとは幻想郷でも胸を張れるような生き方をすればいい。誇り高きヴェイユとしての生き方を。

 

褒めてくれる両親の姿を幻視しながら、サクヤ・ヴェイユは小さな笑みを浮かべるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。