Game of Vampire   作:のみみず@白月

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お買い物

 

 

「文句があるのかい?」

 

漏れ鍋のカウンターで、アンネリーゼ・バートリは何か言いたげなバーテンダーを睨みつけていた。

 

ギロリと睨んでやると、バーテンダーはすごすごと店の奥へと消えていく。こちとらファイア・ウィスキーでもひっかけないとやってられない気分なのだ。放っておいて欲しい。

 

もう少しすればハグリッドがハリーを連れてくるはずだ。そうすれば、『新入生のリーゼちゃん』は一緒にダイアゴン横丁で買い物をしなければならない。今ぐらい飲んだくれててもバチは当たらないはずだ。

 

チビチビとウィスキーを口に運んでいると、魔法界側の入り口から奇妙なターバンの男が入ってくる。彼は店内の客を見回して……私に目を止めると驚愕の表情に変わった。なんだ? 知り合いではないはずだが。あんなバカみたいな格好の男を忘れるはずはない。

 

しばらく私を見つめて硬直していたが、やがてこちらに近付いて話しかけてきた。何故かニンニクの匂いをプンプンさせている。香水にしては趣味が悪いぞ。

 

「き、君のような子供がおさ、お酒なんか飲んでは、い、いけませんよ。」

 

「無用なお節介はやめてもらおうか。キミだって香水の趣味をとやかく言われたくはないだろう?」

 

「いいえ、わた、私はホグワーツの教員なん、なんです。子供を導くひつ、必要があります。あ、貴女はどうしてこんな所にいるん、いるんですか?」

 

おっと、教師だったのか。ダンブルドア、ハグリッド、マクゴナガル、そしてスネイプは私のことを知っている。ダンブルドアが秘密を明かす人間を選んだのだ。

 

そしてそれから漏れたらしいこの吃り男は、少なくとも私の正体を明かせるほどの信頼を得てはいないらしい。となれば、適当に誤魔化す必要がありそうだ。

 

「待ち合わせだよ。ウィスキーを飲んでるのは……そう、我が家の伝統でね。魔法界には奇妙な家訓がたくさんあるだろう? 私の家にもそんなのがあるのさ。人を待つときはウィスキーと決まっているんだ。」

 

我ながら滅茶苦茶言っているが、魔法界のアホみたいなしきたりは今に始まった事ではないのだ。というかまあ、考えるのも面倒くさい。今は真面目に付き合う気分にはなれん。

 

「まち、待ち合わせ? 誰とですか? いった、一体なんの──」

 

しつこいターバン野郎が何かを聞こうとしたところで、急に漏れ鍋の店内が騒がしくなった。どうやら『生き残った男の子』が到着したらしい。

 

騒ぎの中心に目をやってみれば、大男を中心とした人集りが出来ているのが見える。人垣に隠れて見えないが、どうやらハリーはあそこだ。大人気じゃないか。

 

同じように目線をそっちに送っているターバン野郎に、肩を竦めて言い放つ。

 

「どうやら相手が到着したらしい。失礼しても構わないかな?」

 

「ハ、ハリー・ポッターですか。なかなかのゆ、有名人と待ち合わ、合わせをしていたようですね。しかし……そ、その背中の飾りはは、外したほうがよろしい。あま、あまり趣味のいいものと、とは言えませんね。」

 

「飾り? ああ、翼のことかい? 残念ながら……ほら、これは自前なんだ。」

 

言葉と共にパタパタしてやる。結局翼は隠さないことに決まったのだ。何たって現在のイギリス……というかヨーロッパでは、『羽根つき』の吸血鬼の印象はすこぶる良い。レミリアの印象が強いのだ。『羽根なし』とは別の種族であることも今では周知されている。

 

私の言葉を聞いたターバン野郎は、顔を引きつらせてからポツリと呟いた。

 

「きゅ、吸血鬼?」

 

「如何にも、吸血鬼だよ。」

 

答えてやると、ターバン野郎は顔を真っ青にした後に魔法界側の入り口に駆け出していく。なんなんだ、一体。呆然とそちらの方を見ていると、後ろから誰かが声をかけてきた。

 

「あのぅ……その、アンネリーゼ……さん。お待たせしたようで。えーっと、そう、こっちがハリーです。ハリー・ポッター。」

 

演技のド下手なハグリッドだ。明らかに子供に対する態度ではない。ギロリと彼を睨みつけてから、こちらを見てキョトンとしているハリーに声をかける。

 

「ごきげんよう、ハリー・ポッター。私はアンネリーゼ・バートリ。キミと同じ……あー、新入生だよ。今日は一緒に案内してもらうことになるらしい。よろしく頼むよ。」

 

第一印象は……まあ、こんなもんだろう。ちょっと不健康そうに痩せているし、メガネはつるが折れているが、少なくともアホっぽい感じではない。

 

ハリー・ポッターは私の差し出した手を握りながら、おずおずという様子で名前を名乗った。

 

「えっと、ハリー・ポッターです。その……よろしく、バートリさん。」

 

「リーゼと呼んでくれたまえ。私もキミをハリーと呼ぼう。……ダメかい?」

 

「いや、そんな! もちろん構わないよ、その……リーゼ。」

 

ちょっと強引だが、ハリーは嫌がってはいないようだ。何というか……昔のパチュリーっぽい反応だな。友達いないのか? こいつ。

 

「あー、よし! 仲良くなったみたいだな! そんじゃあ……ほれ、行こうか。ハリー、アンネリーゼ……さん。」

 

ダメだこりゃ。ハグリッドの言葉を聞いて、こいつに演技させるのは早々に諦める。適当な理由を考えて『さん付け』を正当化したほうがマシだろう。後でダンブルドアには文句を言ってやる。必ずだ。

 

キョロキョロと辺りを見回すのに夢中なハリーに続いて、魔法界側の入り口となるレンガの壁に向かう。残念ながら魔法族には自動ドアを作る脳みそはないのだ。百年前から一切変わっていない。

 

「よし、えーっと、俺の傘はどこいった?」

 

「私がやろう。」

 

分厚いコートを弄っているハグリッドに代わり、仕掛けレンガを杖で叩く。途端に現れたアーチの向こうへと一歩を踏み出し、くるりと振り向いてから口を開いた。

 

「ようこそ、ダイアゴン横丁へ。」

 

生き残った男の子はグリーンの瞳を見開いて、大口を開けながらコクコクと頷くのだった。

 

───

 

グリンゴッツでハリーの買い物資金を引き出し、ハグリッドが『石ころ』を回収した後に、一行はマダムマルキンの洋装店へとたどり着いた。間違いなくマグルは入らないであろう古くささだ。『流行』って単語をどこかに置き忘れてきたらしい。

 

この道中でハリーの私に対する緊張も解けてきたし、ハグリッドが畏るのは私がいいトコのお嬢様だからだと納得させることもできた。まあ、嘘は言っていない。バートリがいいトコじゃなかったら、この世に『いいトコ』など存在しないのだから。

 

ハグリッドがトロッコで失った元気を回復するために漏れ鍋へと向かったのを見送り、二人で洋装店へと入ると……先客か。青白いお坊ちゃんといった見た目の少年が、ローブの丈を直しているのが見える。

 

「あら、あなたたちも新入生? さぁさぁ、こちらへいらっしゃい。全部ここで揃いますよ。」

 

「私はもう揃ってるんでね。こっちの男の子のローブをお願いするよ。」

 

声をかけてきた愛想の良い魔女にそう答えて、店の隅にある椅子に座り込む。ハリーが縋るような視線を送ってくるが……肩を竦めてウィンクすると、諦めたように踏台へと向かっていった。

 

私のローブはアリスに頼むことに決めているのだ。なんたって翼の部分に空ける穴は、かなりデリケートな作りじゃないと痛くなるのだから。ありがたいことにフランが学生時代にそれを証明してくれた。

 

ハリーと先客の少年が喋っているのをボンヤリ見ながら、さっさと終わってくれと祈る。私も漏れ鍋に行けばよかった。どうもこの店は暇つぶしには向いていないらしい。

 

自動折り畳みローブに、風が無くともはためくローブ。カップル用の相合マフラー……首に巻きつき、決して離れられません? ノクターン横丁で売るべきだな、これは。

 

まんじりともせず座っていると、ハリーが目線で助けを求めているのに気付く。……まったく、子守が必要な歳じゃないだろうに。立ち上がって近くに寄っていくと、どうやら先客の少年をどうにかして欲しいようだ。

 

「君は自分の箒は持っているのかい? クィディッチは……おや、君も新入生の子かな?」

 

近寄ってきた私に気付いたらしい少年が声をかけてきた。体勢はそのままに、横目で私を見ている。ハリーは助かったと言わんばかりの表情だ。人付き合いの経験値が無さすぎないか? 今までどんな生活をしてきたんだ、こいつは。パチュリーじゃあるまいし。

 

内心でため息を吐きながら、返事のために口を開く。

 

「如何にも、その通りだよ。」

 

「それは素晴らしい。今ちょうどクィディッチの話をしてたんだ。君も好きだろう?」

 

「あー……残念ながら、然程興味はないね。」

 

実際は然程どころか微塵もない。精々フランがちょびっと話題に出す程度だ。ジェームズ・ポッターはいい選手だったようで、在学中にはよく観に行っていたらしい。

 

私の返答が気に食わなかったのか、少年は眉をひそめながら私を直視するが……その瞬間、顔が驚愕に染まった。

 

「その翼……まさか、スカーレット家の?」

 

「まあ、親戚みたいなもんだよ。……ふぅん? 随分と慌てているじゃないか。」

 

少年は明らかに動揺している。レミリアの名前でこの反応ということは、どうやら後ろ暗いものがある家の出身らしい。

 

んふふ、いいオモチャを見つけてしまった。ニヤニヤ笑いながら顔を覗き込んでやる。

 

「おやぁ? 口数が減ったじゃないか。どうしたんだい? 自己紹介をしようじゃないか。」

 

「いや、僕は……その……。」

 

少年を追い詰めていると、横から店主の声がかかった。タイミングの悪いことだ。

 

「さあ、終わりましたよ、坊ちゃん。」

 

「ああ! それじゃあ、失礼するよ。」

 

むう、オモチャを取り上げられてしまった。逃げ去っていく少年に鼻を鳴らしていると、未だメジャーに纏わりつかれているハリーが話しかけてくる。

 

「助かったよ、リーゼ。僕、なんにも知らないから……どう答えたらいいか分からなくて。」

 

「まあ、今日魔法界を知ったばかりなんだ。知らないことがあっても仕方がないだろうさ。」

 

「それなら、ちょっと質問していいかな?」

 

ハリーに頷いて質問を促す。どうせやることもないんだ。撥水ローブとやらを眺めているよりかは、まともな暇つぶしになるだろう。

 

「えっと、じゃあまず……スカーレットって? それにその翼は? 魔法の世界なんだからそういうものかと思ったんだけど……その、さっきの子は驚いてたから。」

 

「スカーレットってのは、ここ百年くらい悪の魔法使いと戦ってるやつの名前だよ。私の知り合いで、そして……私と同じ吸血鬼なのさ。」

 

ニヤリと笑って言い放つと、ハリーは驚いた顔になる。そうそう、そういう反応が正しいのだ。もっと怖がらせたくなる反応だが、適当にフォローしておいたほうがいいだろう。私は友好関係を築きに来たのであって、ビビらせに来たわけではないのだから。

 

「まあ、そんなに怖がらなくても大丈夫さ。何たって、キミの両親を殺したヤツとは敵対してるんだしね。敵の敵は、ってやつだよ。」

 

「ヴォルデ……『例のあの人』と?」

 

「名前で呼ぶべきだね、ハリー。ヴォルデモートだなんてバカバカしい名前、怖がる必要なんてないのさ。」

 

「でも、ハグリッドが名前で呼ぶなって……。」

 

図体がでかいくせに臆病なもんだ。大体、リドルとは学生時代に会っているだろうに。アリスを見習ったらどうだ。

 

「ま、個人の自由だけどね。私としては、名前なんぞを怖がるのはバカみたいだと思うよ。」

 

「あー……うん、覚えておくよ。」

 

微妙な顔で頷いたハリーだったが、気を取り直すと新たな質問を放ってくる。

 

「えーっと、クィディッチっていうのは?」

 

「そうだな……サッカーとバスケットボールを合わせたようなスポーツだよ。まあ、箒に乗って空中でやることを考えれば、あんまり似てないかもしれないけどね。」

 

よくマグル生まれがクィディッチの説明に使うセリフだが、私の見る限りでは両方掠りもしていないぞ。精々球技って部分が共通してるだけだ。

 

「スポーツだったのか……。それじゃあ、ハッフルパフっていうのは?」

 

「ホグワーツの寮の一つだよ。グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンの四つの寮があるんだ。」

 

ハリーが更に質問をしようと口を開いたところで、店主の魔女が採寸の終わりを告げた。

 

「はい、坊ちゃんも終わりですよ。」

 

「え? あ、はい。」

 

ハリーが店主に声を返すのを聞きながら、すぐさま店の外へと出る。実につまらん時間だった。残念ながら、二度とこの店に入ることはないだろう。マフラーで誰かを絞め殺したくならなければの話だが。

 

店の外ではハグリッドが待っていた。その巨大な両手には、小さなアイスクリームが二つ収まっている。どうやらハリーの分だけでは不自然だと思ったらしい。アイスを買ってもらう子供か……情けなくて涙が出そうだよ。

 

気まずそうな大男へと一歩を踏み出しつつ、大きなため息を吐くのだった。

 

───

 

「ほれ、ここがオリバンダーの杖屋だ。杖っていやあここだと決まっとる。」

 

細々とした買い物を終え、私たちは最後にハリーの杖を買うことになった。道中では私の杖を羨ましそうに見ていたハリーは、ハグリッドの声に続いて意気揚々と店内に入っていく。

 

しかし……百年前から全然変わらん店だ。店内に入ってもその感想は変わらない。いや、壁にかかっている杖の量が増えたか?

 

「おや、いらっしゃいませ。杖をお探しですかな?」

 

店主の挨拶まで変わらんとは。内心で苦笑しながらハグリッドに対応を任せて、店内を眺めながら歩き出す。まあ……ここは洋装店とは違って暇つぶしには困らなさそうだ。壁にかかっている杖には詳細な説明が書かれているのだから。

 

一つ一つ見ていくと、私のものと同じような白い杖を見つけた。どっかの偉大な魔法使いが使っていたヤマナラシの杖らしい。自分のものを取り出して比べてみると……ふん、明らかに私の杖のほうが美しい。勝ったな。

 

「おや? その杖は……。」

 

無言で満足していると、ハリーに巻尺をけしかけていたはずのオリバンダーが声をかけてきた。

 

「ん? 私の杖だが。この店で買ったものだよ。」

 

「おお……白アカシアにドラゴンの琴線。25センチ。狡猾で強大。まさかお目にかかれるとは。」

 

おいおい、百年前に売った杖まで知っているのか? こいつ、あの時の店主のクローンじゃないだろうな?

 

「知っているとは驚きだね。キミの先代……の先代くらいか? 百年前に買ったものだよ、これは。」

 

手渡してやると、オリバンダーは目を細めながら細部まで見ていく。実に嬉しそうな顔だ。

 

「伝え聞いてはおりましたが、再びこの店に戻ることになろうとは。素晴らしい。眼福ですな。」

 

オリバンダーは私に杖を返すと、うんうん頷きながら再びハリーの元へと歩いて行った。結局翼のことも年齢のことも聞かれずじまいだ。フランが杖を買ったときもあんな感じだったらしいし、今代のオリバンダーは中々の変人らしい。……今代『も』、かな。

 

しかし、魔法界ではイカれたヤツほど高い能力を示す気がする。ダンブルドアはちょっとおかしいとこがあるし、ゲラートも大きな矛盾を抱えていた。リドルは自分をトカゲに作り変えたし、ムーディなんかは頭のおかしいヤツの筆頭だ。パチュリーとアリスは……まあ、ちょっと変なところがある。

 

オリバンダーもその一員なのだろう。杖作りの家系に生まれ、杖作りにしか興味がない。なんとも幸せな人生ではないか。

 

益体も無いことを考えていると、ハリーの握った杖から煤けた煙が出てくるのが見えてきた。どうやら苦戦しているようだ。

 

……ふむ。この隙にハリーに誕生日プレゼントでも買ってこようか? 贈り物をされて嬉しくないヤツはいないだろう。……バジリスクの卵と勘違いしてぶっ壊したヤツはいたが。ハリーはあの変人とは違うことを祈ろう。

 

ハグリッドに目線で伝えてから店を出る。まあ、上手く伝わったかは知らない。ちょっと困っていたような気もするが、ちゃんと戻るのだから心配あるまい。

 

ダイアゴン横丁を歩きながら、左右のショーウィンドウを覗くが……ふむ、何を買えばいいんだ?

 

アリスなら人形制作の道具だし、フランなら人形そのものかオモチャだった。今のフランは……編み物セットか絵の道具かな? パチュリーは当然ながら本で、小悪魔と美鈴は菓子でも買っていけば喜ぶ。レミリアには処女の生き血でも持っていけばご満悦なのだが……まさかハリーがそれで喜ぶとは思えない。

 

というか、今のハリーなら『魔法関係』の物ならなんでも喜びそうだ。ある意味悩む必要はないのかもしれない。そうすると……うん、実用品だな。フクロウはハグリッドが買ってやったみたいだし……よし、あれにするか。

 

決めたからにはさっさと買ってこよう。本屋へと歩き出しながら、ついでに咲夜にも何か買っていこうかと考えるのだった。

 

───

 

オリバンダーの店に戻ると、ちょうどハリーの杖から赤と金色の火花が流れ出したところだった。オリバンダーとハグリッドが歓声を上げているところを見るに、ハリーの杖は決まったらしい。

 

随分と長くかかったもんだ。呆然と自分の握っている杖を見つめるハリーに近づいていくと、杖を包むための箱を持ってきたオリバンダーがぶつくさ呟き始めた。

 

「不思議じゃ……不思議じゃ……。」

 

「あの、何がそんなに不思議なんですか?」

 

何というわざとらしい呟きか。ハリーが堪らず質問すると、オリバンダーは長ったらしく説明をし始める。どうでもいい話だろうと適当に聞いていたが……ほう? 中々に面白い話じゃないか。

 

どうやらハリーの杖とリドルの杖は同じ不死鳥の尾羽根を使っているらしい。そしてアリスに聞いた話が確かなのであれば、その不死鳥はダンブルドアが飼っているはずだ。実に運命的な話じゃないか。レミリアの好きそうな話だ。

 

話を神妙な顔で受け止めたハリーが、呆然としたままで代金を払って店を出る。私もその背に続くと、店の前で肩を叩いた。

 

「まあ、気にしすぎないほうがいい。キミはキミ、ヴォルデモートはヴォルデモートさ。」

 

適当に放った慰めだったが、ハリーの心には響いたようだ。はにかんで頷きながら返事を返してくる。

 

「そう、だよね。……なんだか変な気分なんだ。僕はなんにも知らないのに、みんなは僕のことを知っている。何か僕に偉大なことを期待してるみたいだけど、そんなの出来るはずないのに。」

 

「すぐに慣れるさ。周りも、キミもね。」

 

出来るさ、ハリー。やらせてみせる。私はそのためにこの場所にいるんだよ。内心を隠して肩を竦めて言ってから、買っておいた本を渡す。

 

「ほら、誕生日プレゼントだ。ちょっとは元気が出ればいいが。」

 

「誕生日プレゼント? それは……その、ありがとう! 僕、同世代の友達からのプレゼントなんて初めてだよ。でも……『苦痛を伴う呪い ~初めての拷問~』?」

 

顔を引きつらせてタイトルを読むハリーに、ニヤリと笑って言い放つ。

 

「キミには意地悪な従兄がいるんだろう? 次に余計なことをしてきたら、そいつを読み上げてやればいいのさ。向こうは魔法が使えないことを知らないんだ。きっと顔を青くして逃げていくぞ?」

 

贈り物の趣旨を理解したらしいハリーは、満面の笑みになって口を開いた。今日一番の笑顔なところを見るに、私の想像より酷い暮らしをしているようだ。

 

「それは……それは、最高の提案だよ! ダドリーは顔を真っ青にするに違いない! ありがとう、リーゼ。人生最良のプレゼントだよ!」

 

後ろでハグリッドにプレゼントされた白フクロウが抗議の声を上げるのを聞きながら、アンネリーゼ・バートリは初接触の大成功を確信するのだった。

 


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