Game of Vampire 作:のみみず@白月
「何でハーマイオニーとロングボトムまでいるんだい?」
深夜のお散歩の途中で、アンネリーゼ・バートリはトロフィー室から飛び出てきた四人にそう問いかけていた。
一応ハリーとロンの様子を見ておこうと寄ってみたところ、そこで二人と一緒にいたのはマルフォイ一派ではなくロングボトムとハーマイオニーだったのだ。……四人でマルフォイを袋叩きにでもしようとしたのか? そこまで恨んでいるとは思わなかったが。
勢い良くトロフィー室から出てきた四人の中から、件の二人が私に向かって口を開く。
「閉め出されちゃったのよ! 二人を止めようと思って、それで……。」
「僕、合言葉を忘れちゃったんだ。一人ぼっちじゃ心細くて、それでついてきたんだけど……。」
口々に説明するハーマイオニーとロングボトムを押し退けて、ハリーが背後を気にしながら言葉を被せる。何かに追われているような雰囲気だ。
「そんなことよりフィルチが来るぞ! ミセス・ノリスに見つかったんだ。早く逃げないと!」
ミセス・ノリス? ……ああ、フィルチの飼い猫か。状況を見るに、どうやらマルフォイは現れなかったらしい。予想通りじゃないか。
脳裏に浮かぶ策士マルフォイのドヤ顔を振り払いながら、肩を竦めて話しかけた。
「わかったわかった。足止めをしといてあげるから、さっさと談話室に戻るといい。」
「でも、リーゼは? 平気なの?」
心配そうに聞いてくるハリーに、ひらひらと手を振りながら返事を返す。
「私は夜に出歩くのが許可されてるんだよ。フィルチが知っているかは分からんが、そう酷いことにはならないはずだ。」
「すっげえ。フレッドとジョージが羨ましがるぞ。」
驚くロンを無視して、ハーマイオニーが全員に向かって言い放った。
「それなら、早く行きましょう! アンネリーゼ、気をつけてね!」
言った途端に走り出すハーマイオニーに続いて、他の三人も口々に礼を言いながらその背を追う。その姿が曲がり角に消えていった瞬間、背後からフィルチが息を切らして走ってきた。
「校則違反だ!」
「愉快な挨拶をどうも。正確には、こんばんは、だね。」
「もう逃げられないぞ。夜間の出歩きは禁止されている。校則違反だ!」
「オウムかい? キミは。それにほら、この翼が見えないのかな? キミはフランのことも知っているんだろう?」
私が翼をパタパタさせてやると、それを見たフィルチは憎々しげな表情に変わった。おいおい、親の仇を見るような目じゃないか。フランは一体何を仕出かしたんだ?
「スカーレットの同類か。あの小娘は夜中に騒ぎを起こしまくったもんだ。あの忌々しい四人組と一緒にな! お前も同類だろう! 私の部屋を爆破したり、廊下をスキー場にしたり……ああ、忌々しい!」
どうやらフランは特例を盾にして、その小さな猛威を振るっていたらしい。さすがは私の妹分だ。権利の使い方というものをよく知っている。
「私は善良な吸血鬼だよ。そんなことを言われるだなんて心外だな。」
「黙れ、ついてこい! 先生方に突き出してやる!」
聞く耳持たずだ。まあ、別に構うまい。実際何もやっていないし、足止めにはなっているのだ。両手を上げて戯けながらついていこうとすると……おっと、通路の先から今度はスネイプが歩いて来た。こいつも深夜のお散歩か? 夜のホグワーツは大賑わいじゃないか。
自分を見ているフィルチと私を前に、スネイプは面倒ごとに遭遇したという顔を隠さずに話しかけてきた。
「どうかしたのかね? フィルチ。」
「スネイプ先生! コイツです! この吸血鬼が何か悪さをしたんです!」
「……バートリは夜の出歩きを許可されているはずだが。」
「あの金髪の小娘と同じなんです! 何か悪さをしようとしているに決まっている!」
捲したてるフィルチと、呆れた顔でそれを見ている私を見ながら、スネイプはため息を吐いて口を開いた。
「なるほど、理解しました。後は吾輩に任されよ。然るべき処置をいたしましょう。」
「しかし、それでは──」
フィルチが食い下がろうとした瞬間、廊下に耳障りな声が響き渡る。
「一年生が出歩いているぞ! 呪文学の教室の前だ!」
ピーブスだ。どうやらハリーたちは逃げ損ねたらしい。聞いたフィルチは途端に血相を変えて、陸上選手並のスピードで走っていった。なんともまあ、ご苦労なことだ。ホグワーツの用務員は足腰が命だな。
それを冷たい目線で見ていたスネイプが、私に向かって話しかけてきた。
「なるほど。貴女がフィルチに構っていたのは、ポッターが原因だからですかな? どうやら親子揃って『冒険』がお好きらしい。」
「まあ、その通りだ。とはいえ、残念ながら今日の冒険は失敗に終わりそうだね。」
「ふん、少しは痛い目を見たほうが良いでしょう。動物と同じですよ。罰がなければ学習しない。」
なかなかに辛辣な台詞だ。多少は同意するが、ホグワーツの教師としては落第点だな。少なくともお優しいダンブルドアは同意すまい。
「それより、キミは何をしていたんだい? まさか月光浴ってわけじゃないだろう?」
「例の部屋の点検ですよ。あの忌々しい三頭犬が、最近爪研ぎにハマっているようでしてね。部屋を破壊する勢いなのです。」
「なんともまぁ……バカバカしい話だね。」
「まさしくその通り。結果として、我々教師が交代で修理させられているのですよ。実に迷惑な話でしょう?」
ストレスなんだろうか? 前に見た限りでは、犬小屋としては狭すぎる部屋だった。そもそも室内飼いには向いてない大きさなのだ。そのうち自分の尻尾を食い始めるかもしれない。
尻尾を追ってくるくる回っている三頭犬を想像しながら、スネイプに向かって話しかける。
「ふぅん。……どうせ暇だし、私もついていこう。まさか嫌とは言わないだろうね?」
「嫌ですが、ついてくるのでしょう?」
「ご明察。」
やれやれと首を振って歩き出したスネイプに続いて、二人で四階の廊下へと歩き始めた。そういえば……コイツはフランのことをどう思っているんだろうか? 前回の会話を思うに、嫌っているという雰囲気ではなかったが。
「キミはフランも苦手なのかい? ジェームズ・ポッターとは仲良くしていたらしいが。」
疑問を言葉に変えてみると、スネイプは珍しく苦笑を浮かべながら答えを寄越してきた。
「スカーレットは……よく私を庇ってくれました。あの見た目の彼女に庇われるのが少々情けなくはありましたが、感謝しておりますよ。それに……。」
「それに?」
「彼女のお陰でリリーと仲直りできたのです。あれが無ければ、リリーとは喧嘩したままで……別れることになるところだった。」
言いながら、スネイプの顔は悲しみに染まっている。ダメだな、あまり良い話題ではなさそうだ。僅かに残っていた良心に従って、会話の話題を変えるべく口を開く。
「ふぅん。……しかしまあ、ダンブルドアも愉快なアトラクションを作ったもんだね。全部終わったら障害物レースでも開けるんじゃないか?」
「犬コロとトロールは除外すべきでしょうな。ハグリッドもクィレルも、あれを制御できているとは思えない。」
「生き物を飼うのは難しいってことさ。彼らは一つ学習できただろう。」
「少なくともハグリッドは学んではいないでしょう。同じ失敗を半世紀も繰り返しているのですから。」
もの凄くどうでもいい話をしている間に、目的地へとたどり着く。スネイプがドアを開けようとするのを見ていると……おや? 彼は開けずに辺りを調べ始めた。この男がブツブツ言いながら錠前を調べていると、どうにも疚しいことをしているようにしか見えないな。
「どうしたんだい? コソ泥ごっこをするなら場所を選びたまえよ。」
「ご忠告感謝しますが、私はコソ泥ごっことやらをしているのではありません。……何者かが侵入したようです。だから言ったのだ、もっと強力な呪文で封じるべきだと。」
「どうやらダンブルドアを叱りつける必要があるね。」
呪文の痕跡を調べ終わった後、中に入れば三頭犬がバリバリと爪研ぎの真っ最中だ。ふんふん鼻を鳴らしているのを見るに、少し興奮しているらしい。
私とスネイプのどっちを喰おうかと三つの頭で喧嘩している内に、スネイプが懐からオルゴールを取り出した。彼が開いたオルゴールの音を聞いた途端、犬コロはうつらうつらと船を漕ぎ始める。しかし……きらきら星? どういう選曲なんだ。
床に置かれたかわいらしいオルゴールのことを微妙な気分で見ていると、床の仕掛け扉を杖でコンコンしていたスネイプが口を開く。
「仕掛け扉は……無事のようですな。」
「どうやら犬コロは役目を果たしたらしいね。ふむ、オヤツを差し入れるべきかもしれないよ?」
「腕ごと喰おうとしなければいいアイディアだったかもしれませんね。生徒は襲わないように躾けられているらしいですが、教師の命を守るつもりはないようですな。」
音楽を聞くとスヤスヤ眠るが、人を喰うのには躊躇いがないわけだ。メルヘンなんだか、スプラッタなんだか、いまいち決めかねる生き物だな。
もはや熟睡の域に入った三頭犬をちょんちょん突っついていると、スネイプが仕掛け扉を開く。目線で問いかけてやると、嫌そうな顔で口を開いた。
「一応、石の安全を確認してきます。……ついてきますか?」
「やめておこう。普通に面倒くさいよ。」
「羨ましいことで。」
飛び降りていったスネイプを手を振って見送り、談話室に戻るために歩き出す。なんだかんだ言いながらも真面目なヤツだ。苦労人なタイプだな。
途中で出会ったポルターガイストを妖力弾でからかいながら、アンネリーゼ・バートリは薄暗いホグワーツの廊下を歩くのだった。
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「ヒマだわ。」
紅魔館のリビングで呟くレミィを見ながら、パチュリー・ノーレッジは我関せずと本を読んでいた。
ハリーやリドルに動きはないし、ダンブルドアも待ちの一手を選んだ。おまけにリーゼが不在となれば、やることがまったくないのだ。
美鈴は輝く笑顔で庭いじりを楽しんでいるし、アリスは人形作りに夢中だ。咲夜は妹様と一緒に『ピコピコ』を楽しんでいる。珍しく妹様がおねだりしたせいで、レミィが八雲紫に頼んで取り寄せてもらったらしい。……私も今度触らせてもらおうかな。なんたって、妹様のハマり具合は常軌を逸しているのだ。
ともあれ、私はいつも通りの読書だし、小悪魔も私たちにお茶を淹れた後に本を……『転職のススメ』? こいつ、生意気にも転職を企んでいるのか?
興味津々とばかりにそれを読んでいる部下に、ちょっとだけ眉を吊り上げながら話しかける。
「ちょっと、こあ? なんでそんな本を読んでいるのよ。」
「やだなぁ、パチュリーさま。他意はありませんよ。ただちょっと……自分の能力を確かめておこうと思いまして。悪魔にもキャリア形成が必要な時代なんです。」
「相変わらず悪魔の社会は意味不明ね。」
キャリア形成? やはり悪魔の社会には謎が多い。どうでもいいものにやけに拘ったり、わざわざ苦労する方を選んだりするのだ。小悪魔はかなり『まとも』な部類だが、たまにおかしなことをやり始める。
「ヒマだわ。」
レミィが再び呟くが、当然無視だ。小悪魔も聞こえないフリをしている。
「そうだわ! ねえ、パチェ?」
「弾幕ごっこなら嫌よ。何回もやったでしょう?」
先んじて断ってやると、多少怯んだ様子のレミィだったが、諦めずに説得を仕掛けてきた。
「幻想郷に行ったら必要になる技術なのよ? 八雲紫からも練習しておくように言われてるんだし、ちょっとだけやりましょうよ。」
「あのね、そっちの弾幕は撃っても疲れるだけでしょうけど、私の場合はリソースが必要なの。賢者の石だって無限じゃないのよ。」
魔力の使い方には色々あるが、私の場合は魔道具を用いることが多い。そうなると当然使った魔道具は消耗するわけで、消耗したなら補充しなければならないのだ。貴重なストックを遊びで一々減らすのは勿体ないのである。
私の理性的な反論に苦い顔をしたレミィは、やがて何かを思い出したかのように口を開いた。
「そりゃあそうかもだけど……そういえば、フラメルの賢者の石じゃリドルは復活できないのよね? ダンブルドアがそんな感じのことを言ってたけど……。」
んん? そんなことはないと思うが……ダンブルドアの勘違いというか、どちらかといえばレミィの理解不足か? 何にせよ訂正しておく必要がありそうだ。
「別に復活できないってことはないと思うわよ。ただ……そうね、簡単じゃないわね。」
パタリと本を閉じてから、本格的な説明のためにレミィへと向き直る。彼女はしまったとばかりの顔をするが……失礼なヤツだ。聞いてきたのはそっちだろうに。
「そもそも、延命と蘇生の違いを理解すべきね。ユニコーンの血、長命薬、そして命の水。この辺の有名所は全て、現状を『維持』するための代物よ。現状を『改善』するようなものじゃないの。」
「あー……よく分かったわ! もう充分よ、パチェ!」
「いい? 例えば私は賢者の石を飲み込んで永遠の命を得たわ。でも、不滅の命を得たわけじゃないの。変化しないだけであって、不死になれるわけじゃない。フラメルの不完全な賢者の石ならなおさらね。」
「もういいから! 分かったから!」
必死に私の話を止めようとするレミィを無視して続きを話す。やめないぞ。こうやって何かを説明するのは大好きなのだ。なんたって、自分の知識を再確認する良いきっかけになるのだから。
「反面、リドルの状況を考えてみましょう。十一年前の現場を見るに肉体が消滅していることは確定なんだから、彼は先ずそれを取り戻そうとするはずよ。グリンゴッツに強盗が入ったことでそれがより確かになったわ。彼は賢者の石を得ようとした。つまり今の彼は、肉体なしの思考あり、そして何者かへと命令を下せる程度の力も残っているということね。そうなると……何かに憑依しているとか? リドルの特性を考えれば、蛇とかかしらね? 」
だんだんと賢者の石から思考が逸れてきているのを自覚しながら、リドルに関しての考えを組み立てる。
ただ存在することにしたってエネルギーを使うのだ。肉体を持たぬ状態よりかは、何かに憑依しているほうが効率よくエネルギーを摂取できるはず。
「となればリドルは──」
顔を上げて続きを話そうとするが……おい、誰も居なくなっているじゃないか。レミィも、小悪魔も居ない。目の前には無人のリビングが広がっているだけだ。
「……。」
よしよし、前言撤回しよう。弾幕ごっこに付き合ってやる。たっぷりとな! 懐からとっておきの触媒を取り出しながら、無礼な吸血鬼と悪魔をとっちめるために歩き出す。
「レミィ? こあ? 出てきなさい。怒ってないから。」
久々にやる気になりながらも、パチュリー・ノーレッジはにこやかな笑みを浮かべて二匹の獲物を探すのだった。