Game of Vampire 作:のみみず@白月
「私たちの考えるようなことじゃないだろう? キミはクィディッチに集中すべきだね。」
朝食が並ぶ大広間のテーブルで、アンネリーゼ・バートリはハリーの質問をあしらっていた。
どうやらあの日、犬コロの部屋に入り込んだのはハリーたちだったらしい。談話室に戻った私はそのことを聞かされて、実に面倒な気分になったものだ。詰まる所、彼らは探偵ごっこを始めたのである。
グリンゴッツの事件、ハグリッドの小包、四階の三頭犬。推理を巡らせる名探偵ポッターをはぐらかす私を救ったのは、意外にも棒切れを使ったスポーツだった。
マクゴナガルから贈られた箒を手にしたハリーは、ロンの言葉が真実ならば見事な才能を発揮したようだ。シーカーになることが正式に決まってからは、ウッドとかいうクィディッチ狂いの行う練習に忙しいようで、探偵ごっこをするのを取りやめたのである。
そんな感じで一ヶ月ほどは大人しかったハリーだったが、最近余裕が出てきたせいで推理熱が蘇ってきたらしく、石についてちょくちょく問いかけてくるようになったのだ。勘弁してくれ。
「そうだけど……でも、リーゼは気にならないの? あの小包の中身。」
「ならないね。どうせ大したものじゃないのさ。キミなら大事な物をハグリッドに運ばせるかい?」
「それは、まあ、しないかもしれないけど……。」
ほらみろ、ダンブルドア。キミの行動はハリーから見ても異常みたいだぞ。ハグリッドが信用できないとは言わないが、多少……というか、かなりのおっちょこちょいなのは事実なのだ。
未だ納得しかねる様子のハリーを横目に、中途半端になっていた朝食を再開する。ブラックプディングを切り分けながら考えるのは、銀髪の小さなメイド見習いのことだ。咲夜は誕生日プレゼントを喜んでくれただろうか?
今日はハロウィン。つまりは咲夜の誕生日である。紅魔館ではバースデーパーティーがあるはずだ。参加できないのが非常に悔やまれるが、せめてプレゼントだけは送っておいた。高級ナイフ研ぎセットだ。
被らないようにきちんと相談したし、ナイフ関係なら外れはあるまい。ニヤニヤと咲夜が喜んでいる様子を想像していると、大広間に入ってきた眠そうな顔のハーマイオニーが隣に座る。
ハーマイオニーは真っ先にサラダへと手を伸ばしながら、私に向かって話しかけてきた。肉を食うべきだぞ、ハーマイオニー。芋虫じゃないんだから。
「おはよう、アンネリーゼ。貴女はいつも早いわね。同じ部屋なのに、ベッドに寝ているところを見たことないわ。」
「おはよう、ハーマイオニー。吸血鬼は睡眠が短いのさ。」
「羨ましいわ。……私も同じなら、もっと勉強の時間がとれるのに。」
まあ、実際は寝顔を見られるのが嫌なだけだが。最近は持ってきたトランクの中の小部屋で眠るようにしている。パチュリーが昔使っていたやつだ。
「キミは充分勉強しているだろうに。キミ以上に優秀な成績の一年生はいないじゃないか。」
「それは……まあ、そうだけど。」
ハーマイオニーと話していると、食事に夢中だったロンが横槍を入れてきた。間違いなくハーマイオニーに喧嘩を吹っかけるはずだ。深夜の大冒険以来、この二人は険悪ムードなのである。
「ガリ勉もそこまでいくと病気だな。先に友達を作る勉強をしたらどうだ? 君、女子たちからも嫌われてるぞ。」
そらきた。中々に強めの罵倒を食らったハーマイオニーだったが、フォークで私を指しながら澄ました顔で口を開く。
「余計なお世話よ。友達ならアンネリーゼがいるわ。」
「リーゼも迷惑してるさ。そうだろう?」
言ってやれとばかりにロンが話を振ってくるが……やめて欲しいもんだ。ハーマイオニーは少し不安そうにしているし、ハリーは気まずそうにベーコンを弄っている。
「別に迷惑はしていないよ。それに、ハーマイオニーは四六時中棒切れの話をしてきたりはしないしね。」
「うっ……。でも、ニンバス2000なんだ! 本当にわかってるのかい? リーゼ。」
「分かってるよ、ロン。キミの恋人の名前だろう? 私が棒切れを嫌っていることは知っているはずだ。キミのことは嫌いじゃないが、これ以上その話をするなら実力行使に出るよ。」
このところのロンは、気でも狂ったかのようにハリーの箒の話をしてくるのだ。本人も多少は自覚があったらしく、バツの悪そうな顔に表情を変える。
「あー……まあ、確かにちょっとしつこかったな、うん。もうやめるよ。」
「結構。我々はこの先も友人でいられるらしいね。何よりだよ。」
一件落着だ。ロンはもう棒切れの話をしないだろうし、ハーマイオニーは私の返事に安心した表情になっている。ハリーもぐちゃぐちゃになったベーコンを口に運んで満足そうだ。ベーコンも自分のバラバラ死体が無駄にならずに嬉しかろう。
「……でも、グレンジャーが嫌われてるのは本当だぞ。小言がうるさいってラベンダーが──」
「私、先に行くわ!」
ダメだ、落着していない。ロンの言葉を受けて、ハーマイオニーは我慢できないとばかりに立ち上がって去って行く。頭を抱えたくなる気分でそれを見送った後、元凶に向き直って口を開いた。
「キミはレディの扱いを学ぶべきだね。三年後くらいにこの事を思い出して、ベッドの中で悶える羽目になるよ。」
絶対にそうなるぞ、ロン。私はレミリアではないが、キミがうーうー唸りながら足をバタバタさせている運命が見えるのだ。
残念ながら私の忠告はロンには届かなかったようで、彼はさほど気にしていない様子で返事を返してきた。
「僕、本当のことを言っただけさ。」
「まあ、いいけどね。三年後を楽しみにしておこう。」
忠告はしたからな。首を振ってから立ち上がって、次の授業へと向かうことにする。次は呪文学だ。つまり、『マシ』じゃない方の授業である。
ひとつだけ小さなため息を吐いて、もう見慣れた廊下を歩き出した。
───
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ。」
今日の内容は浮遊呪文だった。『かしこいリーゼちゃん』は一発で成功させて、ペアを組まされたハリーの手伝いをしていたわけだが……あのペアはないだろう、フリットウィック。
視線の先ではハーマイオニーが見事に呪文を成功させ、隣のロンに向かってドヤ顔を放っているのが見える。今日はフリットウィックがランダムにペアを組ませたのだが、ハーマイオニーとロンがペアになってしまったのだ。運命とはかくも悪戯な存在である。
うーむ、もはやロンはイラついた表情を隠そうともしていない。どうもハーマイオニーに間違いを指摘されるのが我慢ならないようだ。それに気付いているのかいないのか、ハーマイオニーがなおも指導を続ける声が聞こえてきた。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサー。」
「違うわ、ロン。貴方がやってるのは『ビュン、ビューン』よ。正確には……こう、『ビューン、ヒョイ』だわ。それに、最後は伸ばさないのよ。『サー』じゃなくて『サ』ね。」
悪夢だな。本人は善意で教えているらしいが、ロンからすれば煽っているようにしか聞こえまい。今や彼はぷるぷる震えながら顔を赤くしている。
私が悲しいすれ違いを見物しているのを他所に、隣で呪文を練習していたハリーが声を放った。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ……やったぞ! 見て、リーゼ。ようやく成功したよ!」
「ああ、見事だハリー。見事だが……あれを見てごらんよ。悪夢のような光景だ。」
自分が浮かせた羽を指差して無邪気に喜んでいたハリーだったが、ハーマイオニーとロンの方向を見た途端に引きつった顔に変わる。彼にとっても愉快な光景ではなかったようだ。
「あれは……酷いね。ロンが茹でダコみたいになってる。」
「どうやら、二人が仲直りする切っ掛けにはならなさそうだ。上手くいかないもんだね。」
授業が終わる頃には、ロンのストレスはピークに達していた。そして、それは教室から出た瞬間に爆発したらしい。ハリーと私に向かって、ハーマイオニーに対する罵詈雑言の嵐を吹きかけてきたのだ。
「何だってあんなに煩いんだ? 僕のママが物静かな存在だと思えたのは初めてだよ! 本当にもう、悪夢みたいなヤツさ!」
その罵声が廊下に響いた瞬間、後ろからハーマイオニーが……おや、泣いている? 教室から出てくる生徒たちを押し退けて、泣きながら廊下の先へと走っていった。
それを見た私とハリーが無言でロンを睨みつけると、彼はバツの悪そうな顔で口を開く。
「いや、別に……構わないだろう? 本当のこと、だよ……。」
「でも、泣いてた。ちょっと言い過ぎたんじゃないかな?」
ハリーのやんわりとした警告にも、ロンは考えを翻す気はないらしい。その辺のガキなら微笑ましいが、我が身に関わることとしては迷惑極まりないぞ。なおも睨みつける私に、ロンは目を逸らしながら口を開いた。
「でも、僕、酷い目に遭ったんだ。見てただろう? 拷問だよ、あれは。」
「多少は理解できるがね。ハーマイオニーは善意でやってたんだと思うよ。」
「それは……そうかもしれないけど。」
「それに……ロン、覚えておいたほうがいい。女の涙ってのは途轍もない武器なのさ。このままだとグリフィンドールの女子たちから突き上げられるぞ。彼女たちがハーマイオニーを嫌っているかどうかは、この際問題じゃないんだ。」
肩を竦めながら言ってやると、ロンはさすがに後悔し始めたようだ。そんな彼を背にして廊下を歩き出すと、背中に向かってハリーが声をかけてきた。
「リーゼ、何処へ行くの? 次の授業は……なるほど、飛行術だもんね。」
「その通り。私は大広間で暇つぶしをしていよう。あの馬鹿げた授業は時間の無駄だからね。」
振り返らずに言い放ってから、大広間へと足を進める。適当に空きコマになっている上級生にチェスの勝負をふっかけよう。いい暇つぶしになるはずだ。
───
パーシーが四回目のリザインを宣言したところで、ハリーとロンが大広間に入ってきた。これ見よがしに逃げ去っていくパーシーに鼻を鳴らして、二人の側へと歩いて行く。
私が来た時には中途半端だったハロウィンパーティーの飾りは、チェスに夢中になっている間に完成したようだ。辺りにはカボチャやら骸骨やらが所狭しとぶら下がっている。頑張ったじゃないか、フリットウィック。
入ってきた時には何故か憂鬱そうな顔の二人だったが、飾り付けを見た瞬間にそんな気分は吹っ飛んだようで、笑顔で席に着きながらどんな料理が出るかの話をしている。
「やあ、ハリー、ロン。ハーマイオニーとは仲直りできたかい?」
隣に座りながら聞いてみると……おっと、未だ仲直りには至っていないようだ。私がハーマイオニーの名前を出した途端に彼らの顔が再び曇った。ロンが言い辛そうに、ゴニョゴニョと言い訳を放ってくる。
「あー……その、ハーマイオニーは授業に出てこなかったんだよ。まあ、その、次に会った時に謝るから。」
ハーマイオニーが授業に出ない? 想像以上にショックを受けているようだ。天地がひっくり返っても授業には出ようとする子だというのに。
「ま、談話室に戻ったら謝るんだよ? 私が間に入ってあげるから。」
「うん、まあ……そうした方が良さそうだ。悪いね、リーゼ。」
「悪いと思うなら喧嘩なんかしないでくれよ、まったく。」
「努力はするよ。」
肩を竦めて言うロンを睨みつけながら、とりあえずはパーティーの開始を待つ。ハーマイオニーは談話室で落ち込んでいるのだろうか? 別にパーティーに興味などないし、そっちの様子を見に行こうかと思いついたところで、ダンブルドアが教員席に座ったのが見えた。
ふむ。生徒たちも集まっているし、この分ならすぐに開始するだろう。せめて料理だけでも持って行ってやるかと開始の宣言を待っていると……大広間のドアが勢いよく開け放たれる。そこから必死の形相で中へと入ってきたクィレルが、大広間に響き渡る叫びを放った。
「地下室にトロールが! お知らせしないとと思って、それで……。」
おっと、セリフの途中でパタンと倒れたぞ。こいつ……本当に防衛術の教師なんだろうな? そもそもトロールはお前の得意分野じゃなかったのか。
残念ながら呆れているのは私と教師陣、数人の上級生だけらしく、下級生を中心とした生徒たちはパニックに陥っている。
「落ち着くのじゃ! ……落ち着けい!」
騒つく生徒たちを静めるダンブルドアをアホらしい気分で眺めていると、スネイプが急いで何処かへ歩き出して……そうか、四階か!
「監督生たちは自分の寮の生徒を引率して──」
生徒がダンブルドアの話に集中している隙に能力で姿を消し、急いで私も大広間を出る。小走りのスネイプに追いつくと、姿を現して声をかけた。
「ごきげんよう、スネイプ。」
凄まじい速さで杖を抜き放ったスネイプは、声をかけたのが私だと確認すると、うんざりした様子を隠そうともせずに口を開く。びっくりしちゃってまあ、かわいらしい反応じゃないか。
「ッ! バートリ女史ですか。驚かせないでいただきたい。呪文を放つところでしたぞ。」
「どうせ効きやしないさ。それより、陽動だと思うかい?」
「可能性は十二分にあります。確認しておくべきでしょう。」
二人で四階まで駆け上がって、ドアを調べるスネイプを横目にしながら辺りを窺うが……誰かがいたような形跡はない。ドアも無事だったらしく、スネイプは辺りを丹念に調べてから報告してきた。
「問題ありません。無事です。」
「内側からトロールが通った形跡もないのかい? アトラクションの一つにあの汚物を使っていただろう?」
「見当たりませんな。そもそも、あの脳なしどもが介護無しで外に出られるとは思えません。外部からの侵入でしょう。」
「偶然にしては奇妙な話じゃないか。はぐれトロールが誰にも見られずホグワーツに侵入した? 有り得ないよ。」
まともにドアを開けることすら出来ない連中なのだ。姿を隠してホグワーツに侵入するほどの知能があるとは思えない。スネイプも同感のようで、頷きながらも言葉を返す。
「石を狙っての行動なのか、はたまた別の目的があるのか。詳細は分かりませんが、何者かが介入しているのは確かでしょうな。」
「ヴォルデモートだと思うかい?」
「どうも奇妙に思えます。グリンゴッツの一件といい、今回の騒ぎといい、無用に警戒心を強めるだけでしょう。帝王は緻密な計画を好む人間です。しかし、この騒動はあまりにも……杜撰すぎる。」
「人手が足りないのかもね。馬鹿騒ぎしてたお仲間は、みんなアズカバンの中だ。おまけに本人はゴミ屑のような存在なんだろう?」
『ゴミ屑』の辺りで苦笑しながらも、スネイプは慎重に自分の考えを述べた。
「何にせよ、ホグワーツの内側に協力者がいる可能性がありますな。そやつは石を狙っているが、さほど優秀な人間ではないのでしょう。生徒か、あるいは……。」
「教師か、だね。……しかし、ダンブルドアの計画はボロボロじゃないか。石の在り処を特定されているばかりか、向こうは既に行動に移しているわけだ。ヴォルデモートは焦っているのかね?」
「かもしれません。我々の想像以上に凋落しているのでしょう。プライドの高い帝王には我慢できなかったらしいですな。」
トロールをホグワーツに入学させようとしたイカれ野郎の犯行でないとすれば、リドルの打ってきた一手なのだろう。予定では賢者の石を奪いにくるまでに多少の時間が稼げる予定だったが……これだと微妙だな。ハリーが成長する前にリドルが復活するというのは、あまり嬉しくはない誤算だ。
「ふむ、ダンブルドアと話し合うべきだね。」
「そのようですな。計画に修正を加える必要があるでしょう。」
二人でため息を吐いてから階下へと歩き出す。厄介な動く階段を下ろうとしたところで……おや、クィレルが階段を上がってくるのが見えてきた。
「私は消える。」
短く言って姿を消す。スネイプは小さく頷いた後、こちらに気付いていないクィレルに向かって声を放った。
「ここで何をしているのかね?」
ほう? クィレルは先ほどまでは堂々と歩いていたくせに、声をかけられた途端にいつものオドオドした様子に変わる。実に怪しい仕草ではないか。
「ひっ、セ、セブルス? 私はただ、トロ、トロールを探しにきっ、来ただけです。」
「奇妙な話だ。地下室で目撃したのだろう? 何故四階に来たのかね?」
「地下し、地下室には校長先生がむ、向かいましたので、私は別のば、場所をと思ったのです。」
四階と地下室は正に天と地だ。この場所に向かう理由としては弱すぎる。同じく怪しんでいるスネイプの耳元で、クィレルには聞こえないように小さく囁く。
「泳がせよう。対処するのはダンブルドアと話し合ってからだ。」
なんとも面倒な話だが、リドルを殺すには彼が『死に易い』形を得る必要がある。ここでクィレルを殺したところで、再びリドルが姿を晦ませてしまえば意味がないのだ。
今賢者の石を手にされるのはちょっと困るが、スッパリ諦められるのはもっと困る。取り敢えずは適当に泳がせながら、どう対処するかを考える必要があるだろう。
「ふむ? まあ、ここにはトロールがいないことは私が確認しました。階下へ向かいましょう。……まさか嫌とは言いますまいな?」
「い、いないのなら何よ、なによりです。それでは下へい、行きましょう。」
スネイプに続いてオドオドとクィレルが歩き出す。……一応私もついていくか。幾ら何でも有り得ないと思うが、クィレルがスネイプを攻撃する可能性もあるのだ。リドルの部下だとすれば、服従の呪文くらい使ってくるかもしれない。
姿を消したままで歩き続けると、階下から何かが壊れる轟音が響いてきた。顔を見合わせて走り出した二人に続いて走っていくと……女子トイレ? 女子トイレの中で騒ぎが起こったらしい。
反対側から走ってきたマクゴナガルの背中越しに覗いてみれば、何故かハリー、ロン、ハーマイオニーの三人と、ノックアウトされたトロールが見えてきた。つまり……あれか? どうやらハリーは私の知らないところで死にかけたようだ。
この任務の難易度を再確認しながら、アンネリーゼ・バートリは大きくため息を吐くのだった。