Game of Vampire   作:のみみず@白月

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「どうする? クィレルに魅了を使うか?」

 

ホグワーツの校長室で、アンネリーゼ・バートリは部屋の主人に向かって問いかけていた。

 

しかし……相変わらずごちゃごちゃした部屋だ。本棚が壁を覆い、その中には本や小物がズラリと並んでいる。シンプルな装飾が好きな私としてはあまり真似したいとは思えない。

 

ダンブルドアは椅子に座りながら執務机を挟んで私と向き合っている。私の言葉を受けてしばらく考えていた様子の彼だったが、やがてゆっくりと首を横に振りながら口を開いた。

 

「反対ですな。話を聞く限り、それでは服従の呪文と何ら変わりないではありませんか。正しい手段を用いなければ、正しい結果は得られますまい。」

 

「実に生温い言葉じゃないか、ダンブルドア。私は最短の手段を提案したつもりなんだがね。」

 

「最短と最善とは違うのですよ。私はそうした選択をして、道を誤ってきた魔法使いを数多く知っております。」

 

そりゃあニコニコ顔で賛成してくるとは思わなかったが、その表情は想像よりも険しいものになっている。つまり、かなり強く反対しているようだ。いやはや……この数ヶ月で理解したことだが、私とダンブルドアは相性が悪い。

 

この男を見ていると、どうしてもゲラートのことを思い出してしまう。そして、ゲラートなら私の提案に諸手を挙げて賛成してくれたであろうことも。

 

迂遠だ。ダンブルドアは迂遠な方法を好みすぎるのだ。愛、友情、信頼。私にとってはさしたる意味を持たないものを、この男はやけに重視する。

 

……ふん、まあいいさ。石に関しての担当はそっちだ。多少気に食わないながらも、矛先を納めるために口を開く。

 

「ま、別に拘りやしないさ。……ハリーに危険がないならばの話だが。」

 

「心配しなくとも監視はつけますよ。それに、ハリーは運命とやらに守られているのでしょう?」

 

「おいおい、当てにしていると痛い目に遭うぞ。運命ってのはレミリアが言うよりもあやふやなものなんだ。」

 

「ほっほっほ。信じてはいますが、甘えてはおりませんぞ。無論、手を抜くつもりは毛頭ありませんよ。」

 

ニコニコ言うダンブルドアだったが……本当に大丈夫なんだろうな? この食えない男は何をどこまで本気で言っているのかが掴みにくいのだ。レミリアやパチュリーには分かるのだろうか?

 

「そうあって欲しいね。」

 

鼻を鳴らす私に苦笑いを浮かべながら、ダンブルドアが話題を変えてきた。

 

「ハリーの様子はどうですかな? ホグワーツでの生活を楽しんでいるのなら嬉しいのですが……。」

 

「なんとも充実しているようだよ。ハロウィンの一件で、ハーマイオニーとも仲良くなったらしいしね。今日もクィディッチの試合を楽しんでいるだろうさ。」

 

朝食での様子を見る限りは微妙な感じだったが……まあ、飛ぶのは好きなようだし、試合に入れば吹っ切れるだろう。一度言葉を切って、首を振りながら続きを話す。上げたら落とす、だ。

 

「とはいえ、あの『探偵ごっこ』はいただけないな。どうやらハリーは好奇心旺盛なタチらしい。」

 

「ジェームズと似ていますな。あの子も、まあ……いわゆる『問題児』でしたから。」

 

「矛先を逸らす私の身にもなって欲しいよ。……それと、ハグリッドにはよく忠告しておくように。あの男は石のことをペラペラ喋りかねないぞ。」

 

痛いところを突かれたという表情で、ダンブルドアは申し訳なさそうに苦笑する。

 

「いやはや、根はいい男なのですが……秘密を守るのには向いていないようで。ご迷惑をおかけします。」

 

「『根はいいヤツ』って言葉ほど信用できないものはないね。ハグリッドが善良なことは分かるが、適した仕事に使うべきだと思うよ。」

 

私の言葉にダンブルドアが苦笑を強めていると、入り口の階段が動き出す音が室内に響いた。ドアの方を二人で見れば……スネイプだ。試合は終わったのか?

 

私とダンブルドアのことを確認すると、スネイプはうんざりしたように口を開く。よく見るとローブの一部が焼け焦げている。何かあったらしい。

 

「どうも、校長、バートリ女史。先程クィレルがポッターを殺しかけましたぞ。クィディッチの試合中に堂々と呪いを放って、ポッターを箒から振り落そうとしたのです。」

 

「おいおい、ハリーは生きてるだろうね?」

 

「残念ながら、五体満足ですよ。」

 

本気で残念そうに言うスネイプに、思わず苦笑が漏れる。こっちが暢気に相談している間にも、クィレルは強硬手段を選択したようだ。先日の一件で怪しまれたとでも思ったか?

 

ダンブルドアも額を押さえながら、疲れたような表情で口を開く。

 

「防いでくれたのじゃな? ご苦労じゃった、セブルス。……しかし、そのローブは?」

 

「グレンジャーです。私が反対呪文を唱えているのを……どうも勘違いしたようでして。恐らくポッターを救おうとしたのでしょう。私のローブに火を点けてきたのですよ。」

 

「んっふっふ。何とも報われない話だね。日頃の行いが悪いから、そういう勘違いをされるのさ。」

 

なんとも言えない話だが、ハーマイオニーが勘違いするのも仕方がないだろう。ハリーを憎んでいるのは誰の目からも明らかなのだ。そのスネイプがブツブツ呪文を唱えていたら、犯人と勘違いしてもおかしくはない。

 

スネイプにも自覚はあるようで、バツが悪そうな顔になりながら続きを話し出した。

 

「まあ、私の下へ来る際にクィレルにぶつかったようで、結果的に奴の呪文を妨害することにもなりました。現在はマクゴナガル教授が監視しております。」

 

「では、これ以上面倒が起きない内に一仕事するとしようか。適当に魅了してやって、二重スパイに仕立て上げよう。」

 

私が立ち上がりながらさらりと言うと、ダンブルドアが慌ててそれを止めにかかる。うーん、残念。そりゃ止められるか。なんたって数分前にやめると言ったばかりなのだ。

 

「お待ちください、魅了は使わないと言ったはずです。」

 

「確かに言ったが、『ハリーに危険がないなら』とも言ったはずだよ? 箒から振り落とされるってのは、充分に危険の範疇に入るはずだが?」

 

「それでも反対です。トムと同じような手段を使っていては、同じような結果を生むだけでしょう? もっと別に──」

 

「黙ってもらおうか、ダンブルドア。私は提案しているんじゃない、決定を伝えているんだ。」

 

譲る気は無いぞ、ダンブルドア。可能性は低いとしても、万が一ということがあるのだ。こんなところでハリーに死んでもらっては、全てがぶち壊しなのだから。

 

私と睨み合うダンブルドアも、一歩も引かぬという様子で口を開く。

 

「貴女は些か性急すぎますな、バートリ女史。選び得る選択肢は他にあるはずですぞ。」

 

「そしてキミは迂遠すぎるね、ダンブルドア。もしハリーが死んだらどうするつもりだい? 彼はリドルを殺すための大事な武器だろう?」

 

「ハリーは武器ではない。一人の人間です。彼を物として扱うような真似はやめていただきたい。」

 

「分かっているさ。ハリーは『ただの』武器じゃない。大事な大事な銀の杭だ。リドルに打ち込むまでは、無事でいてもらわなきゃ困るだろう?」

 

しばらく二人で睨み合うが……ふん、時間の無駄だな。くるりと身を翻して、ドアへ向かって歩き出す。

 

「お待ちくだされ、まだ話は──」

 

「悪いが、キミとの議論は時間の無駄だ。私は私のやり方でハリーを守らせてもらおう。」

 

肩越しに言い放ってからドアから出ようとすると、かなり居づらそうにしていたスネイプが声を放ってきた。

 

「あー、恐らく自室でしょう。お気をつけて。……まあ、無用の心配でしょうが。」

 

「その通りだ、スネイプ。」

 

肩越しに返事をしてから階段を上る。そのまま教員塔まで真っ直ぐ進み、クィレルの私室へと向かうと……おや、マクゴナガルが猫の姿で監視していた。何となくだが、その辺の猫よりも神経質そうに見える。

 

私が近付くと、耳をピクリと揺らして振り向いた後、人間の姿に戻って話しかけてきた。

 

「バートリ女史、クィレルは中です。対処策は決まったのですか?」

 

「その通りだ、後は任せてくれたまえ。……しかし、猫の動物もどきなのはバレてるんじゃないのかい?」

 

「変身した方が音が聞こえやすいのです。それに、素早く身を隠すこともできますし、意外と便利なのですよ。」

 

「なるほどね。」

 

猫の五感か。かなり興味はあるが、今はクィレルの件に集中しよう。マクゴナガルが再び猫の姿で角に隠れたのを見てから、クィレルの部屋をノックする。

 

「ひっ……だ、誰ですか?」

 

怯えたような……もしくはそんな演技をしているクィレルの誰何に、声色と口調を変えて返事を返す。演技だとすれば大したヤツだ。私なら四六時中こんな演技をしてたら頭がおかしくなるぞ。

 

「あー……クィレル先生? 質問があってきたんですけど。少しよろしいでしょうか?」

 

「し、質問? わか、分かりました。どうぞ。」

 

ドアを開けながら魅了の準備をして、開けた瞬間……よし、目が合った。これで仕事は完了だ。驚愕の表情となったクィレルに……驚愕の表情? 違和感が脳裏で警報を鳴らす。思わず動きを止めていると、慌てて部屋の隅に移動したクィレルが口を開いた。

 

「バッ、バートリさん? も、申し訳ありま、ありませんが、吸血鬼はにが、苦手なのです。質問は他のせ、先生にしてくれま、ませんか?」

 

魅了がかかっていない。クィレルの様子からもそれは明らかだ。しかし……抵抗された? 有り得ない話ではないが、この男はそれほどの魔法使いなのか?

 

魅了に抵抗するには、確固たる自意識と強固な精神力が必要だ。例えばダンブルドアなら抵抗できるだろうし、閉心術を得手とするスネイプも可能かもしれない。

 

しかし、隙を突けばマクゴナガルあたりでもギリギリかけることは可能なのだ。今のは完全に隙を突いてみせたはずだぞ。とすると……私の想像以上に強力な魔法使いなのか?

 

脳内で警戒のレベルを上げつつ、無表情を意識して口を開く。

 

「いやぁ、防衛術に関しての質問だったもんでね。どうしてもダメかい?」

 

言いながらもう一度試すが、クィレルにかかった様子はない。くそっ、面倒なことになったな。

 

「すみ、すみませんが、他の先生におね、お願いします。」

 

「ふむ、残念だね。それなら失礼することにしよう。」

 

警戒心を保ったままでドアへと向かう。情けないが、一時撤退だ。作戦を練り直す必要があるだろう。

 

廊下に出てから小さくため息を零すと、マクゴナガルが心配そうに近付いてきた。……まあ、猫のままなので本当に『心配そう』なのかは定かではないが。

 

「残念だが失敗だ。見張りを継続してくれ。」

 

小声で端的に伝えると、コクリと頷いてお座りのポーズに戻る。うーむ、中々にコミカルな光景だ。アリスあたりに覚えさせたらかわいいかもしれない。

 

余計な考えを振り払いつつ校長室へと歩き出す。ああまで啖呵を切って出てきた手前、無様に戻るのは非常に恥ずかしいが……仕方あるまい。

 

もう一度ため息を吐きながら、アンネリーゼ・バートリは教員塔の廊下で一歩を踏み出すのだった。

 

 

─────

 

 

「つまり、放置すると? 安全は確保してあるのでしょうね?」

 

ホグワーツの校長室に響くレミリアお嬢様の声を聞きながら、咲夜は棚の小物に興味津々だった。

 

勝手にくるくる動く天体模型に、煙を吐き出すドラゴンの像、カゴに入っている炎の鳥。興味深いものが盛りだくさんだ。無理を言ってまで連れてきてもらった甲斐があった。

 

とはいえ、ここにはレミリアお嬢様の従者として付いてきている。無様を晒すわけにはいかないのだ。目線は下げながらも、薄く微笑みを浮かべて……えーっと、なんだっけ?

 

エマさんから教わった使用人の極意を思い出していると、レミリアお嬢様の言葉を受けた校長先生が話し出す。しかし、凄いお髭だ。手入れが大変ではないのだろうか?

 

「ハリーにはバートリ女史が付き、クィレルは教師陣が交代で監視を続けております。多少の危険はあるでしょうが、これは十年ぶりに掴んだトムへの手掛かりなのです。この機を逃したくはありませんな。」

 

リーゼお嬢様のことを話してる! ホグワーツでは不便なく過ごせているのだろうか? 誕生日プレゼントのお礼を直接言いたいし、今日は会えると嬉しいのだが……。

 

聞き耳を立てている私を他所に、お嬢様と校長先生の話は続く。

 

「リドルへの接触を待つってこと?」

 

「さよう。クィレルは何らかの方法でトムと連絡を取っているはずです。それを探れば、トムの居場所を見つけ出せるかもしれません。それと同時にセブルスからも探りを入れさせます。こちらは望み薄でしょうが……トムは未だ彼を味方だと思っている可能性がありますからな。クィレルは口を滑らせるかもしれません。」

 

「ふむ……悪くないわね。だけど、油断は決してしないように。魅了が効かないというなら、クィレルはその辺の木っ端魔法使いではないはずよ。」

 

「重々承知しております。」

 

どうやらクィレルとかいう悪い魔法使いのことを話しているらしい。お嬢様方を敵に回すなんてバカなヤツだ。とっても偉大で、とっても賢い方たちなのに。

 

お嬢様方の『ゲーム』についてはあまり聞かされてはいない。知っているのは、ハリー・ポッターとかいう少年を使って、ヴォルデモートとかって魔法使いを殺そうとしているということだけだ。

 

そして、その少年は私と一年ちょっとしか離れていないらしい。……それなら私に命じて下さればいいのに。そうすればもっとお嬢様方と一緒にいられるし、成功すればきっと褒めてくれるのだから。

 

私がお嬢様方からなでなでされる場面を想像していると、校長先生が私に声をかけてきた。

 

「しかし……大きくなったのう、咲夜。ハリーもそうだったが、子供の成長は早いものじゃ。わしのことは覚えておらんかね?」

 

むむ、そんなこと言われても、校長先生に会ったことなど覚えていない。困惑しながらも首を傾げていると、レミリアお嬢様が苦笑しながら取り成してくれた。

 

「何ボケ老人みたいなことを言ってるのよ。まだ一歳にもなってなかったんだから、覚えているはずないでしょう?」

 

「ふむ、実に残念なことじゃ。……咲夜よ、もっと近くで顔を見せてくれんかね?」

 

どうすればいいかとレミリアお嬢様を見ると、苦笑したままで頷いている。恐る恐る校長先生の近くに寄ってみれば、深いブルーの瞳を優しそうに細めながら話しかけてきた。

 

「コゼットの顔に、アレックスの瞳じゃな。しかしながら強気な顔つきは……テッサにそっくりじゃ。アリスとフランはかわいくて仕方がないじゃろうな。」

 

「ふふ、その通りね。フランはよく抱き枕にしてるし、アリスなんて擦り傷一つで大騒ぎよ。」

 

私のお父さんとお母さん、それにお婆ちゃんの名前だ。みんな勇敢な魔法使いだったらしい。お婆ちゃんの話はアリスが、お母さんとお父さんの話は妹様がよくしてくれる。

 

当然ながら全く覚えてはいないが、それでも写真を見る度に胸が騒ぐのは確かだ。毎年きちんと墓参りもしている。……いつか実感が得られる日が来るのだろうか?

 

私が困ったように一礼するのを見て、校長先生は柔らかい笑みのまま口を開いた。

 

「聞くまでもないじゃろうが、幸せに暮らせているかい? 咲夜。」

 

「勿論です。」

 

刹那も迷わずキッパリと答える。私にとっての幸せは全て紅魔館にあるのだ。校長先生は満足したように頷いてから、ゆっくりと背凭れに身を預けて口を開いた。

 

「素晴らしい。分かってはいたが、それでも君の口から聞けると安心するよ。」

 

しわくちゃの顔を嬉しそうに綻ばせて言う校長先生に、レミリアお嬢様が呆れたように言い放つ。

 

「老人ぶってると、またパチェに活を入れられるわよ。」

 

「ほっほっほ。それは恐ろしい。……とにかく、安心しました。後はトムの件を片付けるだけですな。」

 

「その通りよ。糸を千切られないようにね、ダンブルドア。リドルの居場所と現状が掴めるなら、かなりのアドバンテージになるわよ。」

 

「そうなって欲しいものです。」

 

よく分からないが、話は纏まったらしい。となれば、後はリーゼお嬢様に会いに行くだけだ。

 

頷き合うレミリアお嬢様と校長先生を見ながら、咲夜はそわそわと次の話題を待つのだった。

 

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