Game of Vampire   作:のみみず@白月

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なつやすみ

 

 

「いい度胸じゃないか、ハリー。私からの手紙を無視するとはな。」

 

リビングのソファへと身を埋めつつ、アンネリーゼ・バートリはコツコツとテーブルを叩いていた。……ソファの柔らかさではグリフィンドール談話室に軍配が上がるな。買い換えるべきかもしれない。

 

まあ、ソファはどうでもいいのだ。問題なのはハリーである。誕生日プレゼントも送った。手紙も送った。それなのにハリーからの返信がないのだ。別に楽しみにしているわけではないが、こうまで無視されるとイライラが募ってくる。

 

コツコツが二十回を超えたあたりで、逆側のソファで寛いでいた美鈴がどうでも良さそうに声をかけてきた。

 

「嫌われてるんじゃないですか? 従姉妹様。」

 

……そうなのか? 一応信頼関係らしきものは築けたと思ったのだが、もしかしてそれは勘違いだったのだろうか?

 

マズいな。今後の展開に支障をきたす可能性がある以上、放っておくのは問題だろう。なにより、アンネリーゼ・バートリの手紙を無視するなど許されることではないのだ。長い吸血鬼生のなかでも初めての経験かもしれない。

 

「よし……美鈴、アリスから『お手紙ちゃん八号』を借りてきてくれ。不在なら勝手に持ってきて構わんだろう。」

 

「いいですけど……どんなのでしたっけ? 私には全部同じに見えるんですよね。」

 

「黒い郵便局員の服を着て、腰にゴム製の棍棒を提げてるやつだ。『刑務官ちゃん』と間違えないように気をつけるんだぞ。同じような服装だが、あっちは鉄製の棍棒だからな。」

 

「アリスちゃんって……いや、まあ、行ってきます。」

 

ちょっと引いてる様子で部屋を出て行く美鈴を尻目に、手紙を書くために羽ペンを呼び寄せる。お手紙ちゃん八号には返信催促機能が搭載されているのだ。ハリーが無視しようものならゴム棍棒で滅多打ちにしてくれるだろう。

 

内容などどうでもいい。私の手紙を無視するとどうなるかを知らせることが大事なのだ。適当に近況を聞く内容を書いたところで、お手紙ちゃんを抱っこした美鈴が戻ってきた。

 

「アリスちゃんは留守でしたよ。……それなのに人形置き場から話し声が聞こえたんですけど、本当に自律人形は未完成なんですよね?」

 

「勝手にお喋りする機能でもつけたんだろうさ。アリスの人形に疑問を持つとちょっとしたホラーになるぞ。深く考えないほうがいい。」

 

「えぇ……なんか怖くなってきました。」

 

ブルリとその身を震わせる美鈴から人形を受け取って、手紙を持たせてから声をかける。

 

「いいか? プリベット通り四番地にいるメガネの男の子に届けるんだ。豚みたいな方じゃないぞ。それと、返信を受け取るまで撤退は許されないからな。」

 

ビシリと見事な敬礼をした人形を窓から離すと、凄い勢いで目的地に向けて飛んで行った。どうやら最新型のお手紙ちゃんはふくろうよりも速そうだ。

 

まあ、ハリーもお手紙ちゃんを無視することはできまい。満足して頷いていると、窓枠に頬杖をついて遠ざかるお手紙ちゃんを見ていた美鈴がポツリと呟いた。

 

「ハリー・ポッターを殴り殺したりはしませんよね? あれ。」

 

「さすがにないさ。……ないよな?」

 

ないとは思うが、たまにアリスはぶっ飛んだ人形を作るのだ。先日も『ガーデニングちゃん』が狂ったように花を毟りまくるという誤作動を起こしていたし……ううむ、心配になってきたぞ。

 

私と同じように心配そうな顔になっている美鈴と顔を見合わせながら、一応アリスに聞いてこようと決意するのだった。

 

───

 

しかし、お手紙ちゃんは一向に戻ってはこなかった。もう三日目だというのに、返信を携えてくる気配はない。

 

ソファに横たわってぼんやり窓を眺めていると、今日もまた向かいのソファでのんびりしている美鈴が声をかけてくる。……私が言えることじゃないが、コイツはいつ仕事をしてるんだ? 最近は庭いじりをしてるかここでゴロゴロしてる姿しか見てないぞ。

 

「お手紙ちゃんがハリーを殺したか、ハリーがお手紙ちゃんを壊したかだと思いますね、私は。」

 

美鈴のアホな予想にも笑えなくなってきた。ハリーが人形に殴り殺されていたら笑い話にもならないし、人形が壊れていたとしてもアリスが怒る。マズいな。ちょっと強硬策を取りすぎたか。

 

一応アリスには安全であることを確認しているが……何を基準とした安全なのかを聞き忘れていた。吸血鬼や魔女基準だとすればちょっと危ないかもしれない。

 

「……様子を見に行ったほうがいいかもね。」

 

「行ってらっしゃいませー。」

 

ソファに寝そべりながらどうでもよさそうに言う美鈴を睨みつけていると、眠そうなレミリアが入室してきた。髪がぼっさぼさじゃないか。どんな寝方をしてるのか知らんが、爆発したみたいになってるぞ。

 

「うぅ……おはよう、りーぜ、めーりん。」

 

「酷い髪だぞ、レミィ。咲夜に整えてもらわなかったのかい?」

 

「咲夜はまだ寝てるわ。私ももうちょっと寝るつもりだったんだけど……こいつが部屋の窓に激突してきたのよ。」

 

目をしょぼしょぼさせながら取り出したのは……お手紙ちゃん八号! ボロボロの姿からは、確かな戦いの後が見て取れる。

 

「お手紙ちゃんじゃないか! 貸してくれ。」

 

レミリアから受け取って机に置いてみると、お手紙ちゃんは何かを訴えるように机をペチペチ叩き始めた。……本当に自我はないのか? こいつ。

 

「ハリーを殺しちゃいないだろうね?」

 

恐る恐る問いかけてみれば、お手紙ちゃんはブンブン首を振って否定してきた。一安心である。バカバカしすぎる理由でゲームに負けないで済みそうだ。

 

「ちょっと、リーゼ? どういうことなの?」

 

「待ってくれ、レミィ。……それじゃあ、どうしてそんなにボロボロなんだい?」

 

怪訝そうな顔で聞いてくるレミリアを置いてお手紙ちゃんに聞いてみると……うん? よく分からんジェスチャーをし始めた。

 

「あー……目が大きくて? 耳が、長い?」

 

「とんがってるってことじゃないですか? それに……小さい?」

 

「お辞儀をしてるわね。謝るってこと?……違うの? それじゃあ……えーっと、礼儀正しい? おっと、当たりね。」

 

私、美鈴、レミリアでなんとか解読していくと……。

 

「屋敷しもべ妖精かい?」

 

導き出した答えを口に出してみれば、お手紙ちゃんは嬉しそうにコクコク頷いた。どうやら正解のようだ。しかし……屋敷しもべ妖精と戦ったってことか? 意味不明すぎる展開だな、それは。

 

レミリアも状況を理解したらしく、首を傾げながら呟いた。

 

「ハリーに手紙を送ったら、屋敷しもべ妖精が人形と戦った? いやいや、意味が分からないわ。」

 

「事実そうなってるんだから仕方ないさ。しかし……ダーズリー家が屋敷しもべを雇っている可能性は皆無だろう。翼を賭けてもいいぞ。」

 

「誰も雇ってるほうに賭けないから意味ないでしょ。えーっと、手紙はハリーに届けられたの?」

 

困惑気味のレミリアがお手紙ちゃんに聞くと、お手紙ちゃんは口惜しそうに足を踏み鳴らしながら首を振る。かなり人間らしい動作だ。やるじゃないか、アリス。

 

それを興味深そうに見ていた美鈴が今度は質問を飛ばす。

 

「まさか、奪われたってことですか? 屋敷しもべに?」

 

お手紙ちゃんは美鈴をビシリと指差して、『正解だ!』と言わんばかりに大きく頷いた。

 

屋敷しもべが手紙を奪う? それはまた……うん、奇妙な話だ。他の二人も同感のようで、どう反応したらいいのかという微妙な顔になっている。

 

「その屋敷しもべの雇い主が、ハリーへの情報を遮断しているということか? 屋敷しもべが自発的にそんなことをするのは……少々考え難いだろう?」

 

奇妙な事件への考察を口にしてみれば、レミリアが同意の返事を返してきた。

 

「まあ、そうね。そういう種族じゃないわよね。しかし……誰がそんなことを? ハリーが無事なのは、隣のスクイブの報告からも確かなのよ?」

 

リリー・ポッターの遺した守りと、元騎士団員の監視がある。あの家は安全なはずだ。だからこそハリーはあそこに住んでいるわけで、それが無ければモリーかフランあたりが引き取ることを主張しただろう。

 

そもそも手紙の遮断をしたからなんだというのだ。さすがにリドルの一手としてはショボすぎるし、やってることがただの嫌がらせにしか思えない。石ころを逃した腹いせか?

 

……何とも意味不明な事件だが、知ったからには対処すべきだろう。魔法界の手紙なしであの家に缶詰だとすれば、ハリーの性格が歪みかねない。聞いた限りではあり得ない話ではないはずだ。

 

「まあ、一応どうにかしたほうがいいだろう。妖精狩りでもするかい?」

 

「うーん……とりあえず、ウィーズリー家にでも避難させようかしら? モリーはめちゃくちゃ喜ぶでしょうし、しもべ妖精を狩り出すのは一苦労よ? あの連中は人間なんかよりもよっぽど強力な種族なんだから。」

 

その通りだ。本能としてヒトに仕える種族だが、魔法力で言えばヒトよりも遥かに上だろう。ロワーを見れば一目瞭然だ。本当に優秀な使用人だった。

 

「そういえば、去年駅で誘ってたしね。それで良いんじゃないか? しもべ妖精に関しては一応ダンブルドアに報告しておけばいいだろう。」

 

同意してやると、レミリアは執務机に着きながら手紙を書き始めた。

 

「それじゃ、私がダンブルドアとモリーに連絡するわ。そっちはウィーズリーの……ロン? にでも話を通しといて頂戴。」

 

「そうしよう。」

 

短く返して、私も手紙を書くために羊皮紙を一枚取る。しかし、そろそろ魔法界も紙を一般化してくれないだろうか? 今度レミリアを通して要請を出してみるか。

 

どうでもいいことを考えながら、アンネリーゼ・バートリは隠れ穴への手紙をしたためるのだった。

 

 

─────

 

 

「それで? 魔法がかかった車で突っ込んで行ったというわけ?」

 

アリス・マーガトロイドは隠れ穴のリビングで、モリーの作ったパンケーキを食べながら呆れ果てていた。どうやらロンたちは、かなりの『強硬策』に打って出たらしい。

 

予定ではもう少し穏便な方法でハリーを連れてくるつもりだったのだが、ハリーに公式警告が送られたことで焦ってしまったようだ。何らかのトラブルを予想したロンと双子の三人は、空飛ぶ車で友人を救出しに向かったのである。

 

「本当にもう、あんなに心配したのは初めてです! もし墜落でもしたらと思うと、今でもゾッとしますよ。」

 

呆れている私とは違い、モリーとしては心配の色が強いようだ。まあ……無理もないだろう。少なくとも私には、アーサーが改造した空飛ぶ車に乗る勇気はない。なんたって彼はエンジンやらブレーキの原理を知らないのだ。

 

「一応聞くけど、全員無事だったのよね?」

 

「奇跡的に、ですけどね。罰として庭の掃除をさせています。ハリーはゆっくりしてていいのに、あの子たちを手伝っているようで。本当に優しい子。」

 

チラリと窓の外を見れば、その『優しい子』が庭小人をぶん投げているのが見える。悲鳴を上げながら二十メートル近く飛んでいった小人を眺めていると、モリーがうんざりしたように口を開いた。

 

「とはいえ、ハリーの状況も酷かったみたいで……監禁されていたらしいんです。窓に鉄格子が嵌められて、食事は缶詰一つだけ。外に出られるのは朝夕のトイレの時間だけだなんて! アズカバンだってもう少しまともな生活をさせますよ!」

 

「それは……マグルでも犯罪なんじゃないかしら?」

 

アズカバンよりまともかはともかくとして、想像を絶する状況だったのは確かのようだ。ハリーは刑務所並みの生活をさせられていたらしい。あれだけ脅してやったのに、叔父たちは一切反省していないのか?

 

「今度会ったら絶対に文句を言ってやらないと! ……あの子をここで引き取るわけにはいかないんですか? あまりにも酷い扱いです。」

 

ぷんすか怒っていたモリーだったが、後半は切実そうな表情に変わっている。

 

「可能なら今すぐにでもお願いしたいくらいだけどね……リリーの残した守りは、血縁が無ければ効果がないのよ。ハリーにとっての『家』はあの場所である必要があるわ。」

 

顔を見合わせて、二人でため息を吐く。刑務所同然の場所だとしても、安全には代えられないのだ。

 

ちょっと暗くなった気分でパンケーキの最後の一欠片を口にする。すぐさまお代わりを準備しようとしたモリーを慌てて止めていると、上の階からジニーが下りてきた。

 

「あれ? マーガトロイドさん、こんにちは。」

 

「こんにちは、ジニー。」

 

ジニーはこちらに近寄ってきて、私の隣の椅子に座り込んだ。どうもこの子には懐かれている気がする。まあ、もちろん悪い気はしない。なんたってかわいい盛りの年頃なのだ。

 

「ジニーもパンケーキをお上がりなさい。今作ってくるから。」

 

返事も聞かず台所へと向かっていったモリーを尻目に、ジニーに話しかけようとそちらを見ると……ふむ? 窓越しにハリーのことをジッと見つめている。

 

「ハリーが気になるの?」

 

「へっ? いや、その……はい。でも、内緒にしておいてください。」

 

ジニーは頬っぺたをちょっと赤くして、モジモジしながら頷いた。なんとも可愛らしいものだ。この年頃だと……初恋かな? 思わず微笑みながら話しかける。

 

「ふふ、わかったわ。……ほら、それなら髪のハネを直したほうがいいわね。」

 

言いながら櫛を取り出して梳いてやると、ジニーはされるがままでポツリポツリと話し始めた。

 

「あの、こういうのって変なんでしょうか? 私、兄たちには聞けなくって……。」

 

「変なわけないじゃない。とってもステキなことだわ。」

 

よく考えれば兄妹の中で一人だけ女の子なのだ。色々と苦労があるのだろう。ウィーズリー家の男女比について考えていると、ジニーから意外な質問が飛んできた。

 

「マーガトロイドさんは恋人とかっていないんですか?」

 

「んー……そうね、いないわ。どうもそういうことに向かない性分みたいなのよね。」

 

生まれてこのかた恋愛経験は一切ない。……なんかちょっと悲しくなってきた。そんな私の内心も知らず、ジニーは滅多にできないのであろう『恋話』を継続することにしたようだ。

 

「それじゃあ……初恋は? チャーリーが初恋は叶わないものだって。そうなんでしょうか?」

 

「あー……うん、初恋ね。」

 

誰にも言っていない秘密だが……私の初恋はリーゼ様だ。なんというか、尊敬と親愛が重なってそうなったのだと思う。当然ながら今は家族としての親愛しか抱いていないが、今思うと我ながら倒錯した感情だった。思い出すだけでも顔から火が出そうになる。

 

初恋の秘密は墓まで持っていこうと決意しつつ、ジニーの綺麗な赤毛を弄りながら口を開いた。

 

「まあ、一般的には叶わないことが多いのでしょうけど、もちろん例外だってあるわよ。私の初恋は……うん、叶ったような叶わなかったような、微妙な感じね。」

 

「微妙な感じ? それってどういうことですか? それに、どんな人が相手だったんですか?」

 

ぬう、マズいな。興味津々ではないか。カッコいいお姉さんでいるためにも、話題を逸らす必要がありそうだ。

 

「えーっと……まあ、黒髪で年上の人だったわ。そんなことより! 今はハリーの話よ。しばらく一緒に住むわけなんだし、チャンスは沢山あるでしょう?」

 

「……ハリーはきっと私なんて目にも留めません。服も安いやつだし、持ってる物はお下がりばっかり。」

 

「あのね、貴女は充分にかわいいわ。もしハリーが見向きもしなかったとしたら、彼のセンスがおかしいだけの話よ。」

 

なるべく優しく言葉をかけてみると、ジニーはちょっと元気を取り戻したようだ。仕上げにお気に入りの香水を取り出して、ほんのちょっとだけ香りを移す。

 

「ほら、これで完璧。立派なお姫様だわ。」

 

「そ、そんなこと言われたの初めてです。ジョージもフレッドも、私のことブスだって……。」

 

「あの双子にはお灸をすえる必要がありそうね。」

 

年頃の女の子になんてことを言うんだ、まったく。人形をけしかけてやろうかと考えていると、ジニーが振り向いて上目遣いでお礼を言ってきた。

 

「ありがとうございます、マーガトロイドさん。香水なんてつけたの初めてです。とってもいい香り。」

 

「アリスでいいわよ。……今度良さそうなのをプレゼントするわ。女の子にはオシャレが必要なんだから。」

 

私の言葉に、ジニーははにかみながら嬉しそうに頷く。なんというか……普通すぎて新鮮な反応だな。フランはオシャレなど気にしないし、咲夜も香水よりナイフの方を欲しがるだろう。

 

楽しい気分でジニーの頭を撫でていると、モリーがパンケーキを持って戻ってきた。

 

「ほら、食べなさい、ジニー。マーガトロイドさんもいかがですか?」

 

「残念ながらお腹いっぱいよ。貴女の料理は美味しすぎるのがいけないわね。ついつい食べすぎそうになるわ。」

 

「あらまあ、お上手。」

 

クスクス笑いながらジニーにパンケーキを取り分けるモリーに、そういえば伝えていなかった本題を口に出す。

 

「そうそう、今日はハリーの様子を見に来たのもそうだけど、この家にちょっとした魔法をかけに来たのよ。」

 

「どんな魔法ですか?」

 

「しもべ妖精避けの魔法ね。ハリーにこれ以上ちょっかいをかけられるのも面倒だし、かけさせてもらっていいかしら?」

 

ちなみにパチュリーの自作魔法だが、流行ることは絶対にないだろう。使い道が限定的すぎるし、しもべ妖精を嫌う人間などそういないはずだ。

 

「しもべ妖精を、ですか……。まあ、そもそも我が家にはかかってそうな魔法ですけど、是非ともお願いします。ハリーのためですもの。」

 

案の定モリーは残念そうな顔で同意してくる。子供がたくさんいる家庭なら、しもべ妖精は欲しくてたまらないものなのだろう。苦笑しながらも杖を取り出し、パチュリーに貰った紙を見ながらめちゃくちゃ複雑な魔法をかけ始めた。……私でも手順を書いた紙がないと出来ないぞ、こんなの。

 

「……これでよし。もちろん解決したら解きに来るわ。迷惑をかけるわね、モリー。」

 

「いえいえ、ハリーの安全には代えられませんわ。わざわざご苦労さまでした。」

 

「大したことじゃないわよ。……それじゃ、そろそろ行くわね。」

 

残った紅茶を飲み干してから席を立つと、モリーが慌てたように声をかけてくる。

 

「まあ、もう行くんですか? ちょっと待っててください、ハリーたちを……。」

 

「お構いなく。それに、新学期になったら嫌でも顔を合わせることになるんだもの。」

 

「新学期になったら? どういうことですか?」

 

「ふふ、それはもうちょっと先のお楽しみよ。……それじゃあね、モリー、ジニー。」

 

悪戯な笑みを浮かべて、フルーパウダーを投げ入れた暖炉に入る。慌ててさよならを言ってくるジニーに微笑みながら、我が家の名前をハッキリと口にした。

 

「紅魔館。」

 

忌々しい煙突飛行の感覚に耐えながら、アリス・マーガトロイドは帰ったら香水のカタログを取り寄せようと決意するのだった。

 

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