Game of Vampire   作:のみみず@白月

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ルーニー

 

 

「あんた、吸血鬼だ。」

 

九月一日のホグワーツ特急の中。いきなりコンパートメントに入ってきた少女を前に、アンネリーゼ・バートリは困惑していた。

 

見覚えのない、シルバーグレーの瞳が特徴的なブロンドの少女だ。顔は整っているのにも関わらず、巨大なタンポポの髪飾りがそれを台無しにしている。ハグリッドでピッタリのサイズだぞ、それは。

 

「あー……その通りだ。私もよく知ってるよ。なんたって、自分のことだしね。」

 

翼をピコピコさせながら言ってやると、カクリと首を傾げながら少女は別の質問を放ってきた。

 

「いい吸血鬼? それとも悪い吸血鬼?」

 

なんともまあ、抽象的な質問ではないか。早めに到着してしまったのでハリーたちのためにコンパートメントを確保していたわけだが……うん、妙なのに絡まれてしまったな。

 

「いい吸血鬼さ。稀に見るレベルで、ね。」

 

実際は極悪吸血鬼だが、とりあえず適当にそう言ってみると……おいおい、居座るつもりか? 少女は向かいの椅子に座り込んでしまった。と思えば立ち上がってぺこりとお辞儀をし始める。何なんだ、一体。いよいよ混乱してきたぞ。

 

「先に座っちゃダメなんだった。……こんにちは、私はルーナ・ラブグッド。」

 

「……アンネリーゼ・バートリだ。キミは新入生かい?」

 

「ウン、そうだよ。もう座ってもいい?」

 

「あー……多分私の友人たちが来るが、それでもいいなら構わないよ。」

 

少女……ルーナは、コクリと頷いてから再び椅子に座り込む。しかし、『ルーナ()』か。良い名前だが、この分だと『ルーニー(狂気)』の方が近そうだ。

 

今までに会ったことのないタイプに困惑していると、ルーナがまたしても唐突に話しかけてきた。何というか……予備動作の少ない子だな。お陰でやることなす事が唐突に感じられてしまう。

 

「アンネリーゼはレミリア・スカーレットを知ってる?」

 

「ああ、知ってるよ。」

 

「なら気をつけたほうがいいよ。レミリア・スカーレットは本当は悪い吸血鬼なんだもん。グリンデルバルドとダンブルドアを影から操ってたんだ。」

 

は? コイツ……今なんと言った? 警戒心を一気に上げて、ルーナの一挙手一投足に注目する。誰にも気付かれていなかったはずの情報を、何故この小娘が知っているんだ?

 

緊張を強める私を他所に、ルーナはトランクから雑誌のようなものを取り出しながら話を続けた。

 

「でも、誰も信じてくれないんだよ。……ほら、これに載ってる。この号を出した時は吼えメールがいっぱいきたんだ。魔法省からも厳重注意を貰っちゃって、パパが悲しんでたよ。」

 

言いながら差し出されたそれを慎重に受け取ってみれば……『ザ・クィブラー』? 表紙にはデカデカと、『レミリア・スカーレットの真実』という見出しが書かれている。

 

パラパラと流し読みしてみれば……ふむ? ちょっとズレたゴシップ誌のようだ。この雑誌によれば、レミリアはグリンデルバルドを操っていた影の黒幕で、ヨーロッパの大戦は自分の権力を強めるための壮大な芝居だったらしい。おいおい、ほぼ真実じゃないか。

 

他にも『人間を食料にしている』だとか、『太古から生きる吸血鬼で魔法界の支配を企んでいる』、『あの姿は仮のもので本当は老婆の見た目である』といった、見当外れのものから真実を射抜いているものまで様々なことが書かれている。

 

「これは……実に興味深い雑誌だね。初めて見たよ。」

 

「パパが編集長をしてるんだけど、最近はどこの書店にも置いてくれないんだ。みんな嘘つき雑誌だってバカにしてる……でも、本当のことしか書いてないよ?」

 

少なくとも私はバカにはできない。他がどれだけイカれた内容だろうと、少なくともレミリアの一件では真実の側面を突いているのだ。狂人こそが世の真理を知っているものなのかもしれない。

 

……まあ、何にせよ警戒する必要はなさそうだ。他の記事も滅茶苦茶な内容だし、この様子なら誰も信じてはいないだろう。警戒心に蓋をして、肩を竦めながら口を開く。

 

「そうだね、私はいい雑誌だと思うよ。……定期購読してみようかな。」

 

「それって、スッゴイいい考えだもん。アンネリーゼはやっぱりいい吸血鬼なんだね。」

 

ニコリと笑うと年相応のかわいい女の子なのだが……いきなり無表情に戻るのはいただけないな。『コロコロと』というよりかは、『カクカクと』表情が変わっている感じだ。うーむ、観察してると面白い。

 

そのまま雑誌に載っている未確認生物たちについて話していると、私を見つけたらしいハーマイオニーがコンパートメントに入ってきた。ようやく一人目のご到着か。

 

「久しぶり、リーゼ。席を取っててくれたのね。ホームで探しちゃったわ。それと……初めまして。ハーマイオニー・グレンジャー。二年生よ。」

 

前半を私に、後半をルーナに向けて言ったハーマイオニーがトランクを仕舞って席に座る。……ドリル夫妻も来ているのだろうか? なんか気になるな。

 

窓から拷問官たちを探し始めた私を尻目に、ワンテンポ遅れてルーナが自己紹介のために口を開いた。

 

「こんにちは。私はルーナ・ラブグッド。新入生だよ。」

 

「あら、新入生だったのね。分からないことがあったら何でも聞いて頂戴。」

 

早速お姉さん風を吹かせ始めたハーマイオニーだったが、チラリと私の読んでいる雑誌を見て眉をひそめると、呆れたように口を開く。どうやら彼女はこの雑誌を知っているようだ。

 

「ちょっとリーゼ、貴女なんてもの読んでるのよ。みんな言ってるわ。ザ・クィブラーってクズよ。」

 

おおっと、マズいぞ。チラリとルーナの方を見てみると、冷ややかな目でハーマイオニーを見つめている。レタス食い虫くらいならギリギリ殺せそうな視線だ。

 

「ハーマイオニー、ここを読んでみたまえ。きっと窓から飛び降りたくなるぞ。」

 

ため息を吐きながら雑誌の後ろに書いてある編集者の名前を指差してやれば、ハーマイオニーは一瞬で青くなってルーナに謝り始めた。いやはや、近年稀に見る気まずい状況じゃないか。

 

「あの……私、知らなくって。ごめんなさい!」

 

「別に。」

 

おお、怖い。端的な言葉と共に、ルーナは体育座りで拒絶の意思を示す。更にあたふたし始めたハーマイオニーは中々に面白いが……まあ、ホグワーツに着くまでこんな空気なのは御免被る。私の安寧のためにも、場を取り成すためにルーナに向かって声をかけた。

 

「ま、好みはそれぞれさ。ハーマイオニーには後で言っておくから、機嫌を直してくれないかな? ルーナ。」

 

「……うん、わかった。」

 

ふむ? 今気付いたが……なんかこう、この子は昔のフランに似ている気がする。脈絡のない行動といい、本質的な素直さといい、狂気に囚われていた頃のあの子にそっくりだ。

 

そう思うとなんだかかわいらしく見えてきた。在りし日のフランを思い出して目を細めていると、申し訳なさそうなハーマイオニーが再び謝罪の言葉を放つ。

 

「あの、本当にごめんなさい。私、よく余計なことを言うって言われてるのよ。」

 

「ン。もういいよ。」

 

体育座りを解いたのを見て、ハーマイオニーがホッと息を吐いた。どうやら最悪の空気で旅をするのは免れたようだ。安心して座席に背を委ねたところで、出発直前の汽笛が鳴り響く。……ちょっとまて、ハリーとロンが来てないぞ。

 

「おいおい、ハリーとロンは乗り損ねちゃいないだろうね?」

 

「大丈夫よ、ほら。」

 

ハーマイオニーが指差した窓の先を見ると……赤毛の集団が慌てて列車に乗り込んでいるのが見えてきた。ギリギリ間に合ったらしい。ハリーとロンの姿は見えないが、あの集団と一緒に来ていることは間違いないのだ。

 

彼らが乗車し終わったところで、もう一度の汽笛と共に列車が動き始める。つまり、今年もまた収監生活が始まるわけだ。……まあ、アリスがいる分去年よりはマシだろう。少なくとも苦労を分かち合うことはできる。

 

哀愁を感じながら遠ざかるホームを見つめていると、ハーマイオニーが思い出したように問いかけてきた。

 

「そういえば、防衛術の先生は誰になるの? そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」

 

本当は歓迎会でビックリさせたかったのだが……まあいいか。ちょっとだけ自慢気にハーマイオニーへと答えを放つ。

 

「アリスさ。」

 

「マーガトロイドさん? それはまた……予想外だわ。」

 

目をパチクリさせるハーマイオニーに満足していると、ルーナがいつの間にか手にしていた別号の雑誌から顔を上げて、ほんの少しだけ驚いたように口を開いた。

 

「アリス・マーガトロイド。七色の人形使いだ。」

 

「七色の……?」

 

「人形使い。たくさんの死喰い人と戦った人だよ。マッド・アイとかと一緒に。」

 

首を傾げるハーマイオニーに向かって、ルーナがちょっと得意げに解説する。この世代はあまり知らない情報のはずだが、彼女は色々とご存知のようだ。編集長とかいう父親から聞いているのかもしれない。

 

「凄い人だったの?」

 

「よくわかんないけど、死喰い人の裁判の時はよく名前が出たんだって。死喰い人はみんな嫌ってたから、つまりは活躍したんだよ。」

 

「へぇ……知らなかったわ。近代ももうちょっと勉強すべきかも。」

 

今だって勉強過多だというのに、ハーマイオニーはまだ範囲を広げるつもりなのか? ……まあ、確かに裁判の時はよく名前が出ていた。パチュリーと違って前線に出ることが多かったアリスは、それなりに顔が売れていたのだ。

 

とはいえ、騎士団の中で一番多く名前が出たのはムーディだろう。ムーディを殺せるなら、リドルたちは裸でブレイクダンスだって踊ったはずだ。あの被害妄想の狂人はそのくらい恨まれていた。

 

イカれたグルグル目玉について考えていると、ハーマイオニーが通路の方を気にし始める。

 

「ハリーとロンが来ないわね。見つけられないのかしら?」

 

「双子のほうにくっついていったのかもね。彼らは男の子のハートを掴む方法を知っているのさ。」

 

例えばトイレの便座を爆破する、とかだ。ハーマイオニーも納得したようで、ため息を吐きながら通路から目を離した。

 

「まあ、クィディッチの話でもしてるんでしょう。降りる時にどうせ会えるし、放っておきましょうか。」

 

「それが賢い選択だよ、ハーマイオニー。私はロンからあのバカバカしい球遊びの話を聞くのは御免なのさ。……ルーナ、他の号も見せてくれないか?」

 

後半をルーナへと言うと、彼女は頷いてトランクから雑誌の山を取り出す。何だってそんなに大量に持っていくのかは知らないが、お陰で退屈しないで済みそうだ。この雑誌は中々面白い。

 

「いっぱいあるから、好きなのを読んでいいよ。」

 

「ありがとう。それじゃあ……先ずはこれにしよう。」

 

『伝説の魔法生物の謎に迫る!』を手に取って読み始める。フィクションとして読むならロックハートの本より百倍マシだし、ノンフィクションとして読んでもこちらに軍配が上がるだろう。吸血鬼は絶対に船旅などしないのだから。

 

ハーマイオニーの宿題談義に生返事を返しつつ、アンネリーゼ・バートリの旅は退屈とは無縁に過ぎていくのだった。

 

 

─────

 

 

「トラブルの申し子ね、ハリーは。」

 

歓迎会の終わったホグワーツの教員用休憩室で、アリス・マーガトロイドは向かいに座るマクゴナガルに苦笑していた。歓迎会は途中からの参加になってしまったが……まあ、自己紹介はできたのだ。問題ないだろう。

 

ハリーが列車に乗っていないとのリーゼ様からの報告を受けて、それどころではなくなってしまったのだ。歓迎会を放って慌てて行方を探していた私たちに届いたのは、スネイプからの冷ややかな報告だった。

 

曰く、空飛ぶ車でホグワーツへと飛んで来た後、暴れ柳に激突する形で到着。そして歓迎会が開かれている大広間へと忍び込もうとしていたらしい。何がどうなったらそうなるんだ。

 

そして、最悪なことに空飛ぶ車はマグルに目撃されていた。今頃アーサーは詰問会の真っ最中だろう。……大事になっていなければいいが。

 

「信じられないような事態ですね。私の教師生活の中でも、こんな事件は初めてですよ。」

 

マクゴナガルは呆れ果てたとばかりに首を振っている。そりゃあ初めてだろう。こんなことが何度もあったんじゃたまらない。

 

「怪我が無いのは本当に幸運だったわね。それに、ダンブルドア先生が校長だったことも。別の人なら退学になっていてもおかしくなかったわ。」

 

「危うく彼らの両親に顔向けできなくなるところでした。本当にもう……勘弁して欲しいです。」

 

珍しいマクゴナガルの白旗宣言が出たところで、部屋にイライラした様子のスネイプが入ってきた。今の彼には絶対に生徒は近付くまい。

 

「暴れ柳の修復はなんとかなりそうです。それと……バートリ女史には知らせておきましたが、次からはマーガトロイド先生に行っていただきたいですな。」

 

「あら、からかわれたのかしら?」

 

薄く笑いながら問いかけてやると、スネイプはピクリと顔を引きつらせて鼻を鳴らす。正解か。リーゼ様はこの能面男をおちょくるのが気に入ったようだ。

 

ちなみに私はこの男をあまり好いてはいない。ジェームズとリリーが死に、ロングボトム夫妻が拷問されたきっかけはスネイプにあるのだ。その後の働きから見て信用してはいるが、深く付き合おうとは思えない。

 

スネイプは部屋の片隅にある暖炉でお湯を沸かしながら、報告の続きを話し始める。

 

「駅のホームには確かに細工の跡があったようです。が、残念ながら痕跡を追うことは不可能でした。誰が何の目的でやったのかは不明です。」

 

「誤作動ではないってこと? ……まあ、あれに干渉するのは難しいことじゃないわ。どこかの愉快犯の仕業かもね。」

 

別にそこまで複雑な魔法がかかっているわけではない。やろうとするヤツがいないだけで、駅のゲートに細工するくらいなら誰でも出来るだろう。

 

マクゴナガルも同感のようで、頷きながら口を開く。

 

「愉快犯であることを祈りますよ。去年は大変だったんです、今年は面倒事があって欲しくはありませんね。」

 

「全くですな。」

 

言いながら紅茶を淹れたスネイプは、私たちにもカップを差し出してくる。一口飲んでみると……悔しいが、美味いじゃないか。

 

内心で唸りながら紅茶を飲んでいると、スネイプは杖を振ってクッキーを出しながら口を開いた。こいつ、意外と気が利くタイプなのか? 外見とのギャップが凄まじいな。

 

「罰則はどうします? 私にお任せいただければ、相応しい罰を与えてみせますが。」

 

そうしてくれと言わんばかりのスネイプに、マクゴナガルが苦笑しながら答えを放つ。

 

「まあ、しばらくは雑用をやらせましょう。心配しなくても軽い罰にする気はありませんよ。これだけのことを仕出かしたのだから、反省させるためにも厳しい罰を与えるつもりです。」

 

「是非そうあって欲しいですね。明日には『英雄』扱いする愚か者どもが出てくることでしょう。勘違いさせてはいけませんぞ。」

 

冷たく言い放つスネイプだが……まあ、今回ばかりは彼の言う通りだ。二度とこんなことが起きないようにしなければならない。

 

「列車に乗り遅れたときの対処法を周知すべきかもね。少なくとも空飛ぶ車での登校は禁止すべきだわ。」

 

「ポッターとウィーズリー以外に、そんな馬鹿げた選択肢を選ぶ魔法使いはいないと思いますがね。」

 

「油断大敵、よ。ホグワーツでは『馬鹿げた事』が日常でしょう?」

 

ムーディの口癖を真似てやると、スネイプは嫌そうな顔をしながらも頷いた。この男はムーディが苦手なのだ。前回の戦争でスパイとして働くことが決まった際に、髪の毛の一本一本まで調べられたらしい。それは確かに嬉しくない経験だろう。

 

何にせよ、教師生活のスタートとしては珍妙な事件だった。リーゼ様のためにも、今後は平凡な一年が送れることを祈っておこう。

 

無駄に美味しい紅茶を飲みながら、アリス・マーガトロイドは自分も紅茶を淹れる練習をしようと決意を固めるのだった。

 

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