Game of Vampire   作:のみみず@白月

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大人の対応

 

 

「ハリーはまだ起きてこないのかい?」

 

アンネリーゼ・バートリは、大広間で朝食を食べているロンとハーマイオニーに問いかけていた。……廊下に比べればマシだが、大広間も結構寒いな。もう少しで十月だし、そろそろフリットウィックが毎年恒例の防寒魔法をかけ始めることだろう。

 

私が座るために席を詰めながら、ハーマイオニーが呆れたように返事を返してくる。ロンは……うぇ。ポリッジを掻き込むのに夢中のようだ。あの料理は好かん。

 

「逆だわ、かなり前に起きちゃったのよ。ウッドに叩き起こされてクィディッチの練習に行ったんですって。……それより、貴女は最近どこで寝ているの? とうとう部屋にすら現れなくなったじゃない。」

 

「吸血鬼の秘密さ。」

 

適当に答えてから、ロングボトムの前にあったソーセージを強奪する。そんな顔をするなよ、ロングボトム。大広間の食事は弱肉強食なんだ。

 

ちなみに、最近では寝室にしているトランクをアリスの部屋に持ち込んでいるのだ。起きる時間を気にしなくて良くなったせいで、前よりも快適な生活が送れている。

 

「もう、呪文の練習を手伝ってもらおうと思ってたのに……。妨害の呪文が上手くいかないのよ。」

 

「一応教えておくけど、防衛術の小テストはまだまだ先だぜ、ハーマイオニー。」

 

「見解の相違があるわね。二ヶ月は『まだまだ』じゃないわ。『すぐ』よ。」

 

真剣な顔で言うハーマイオニーに、ロンは反論を諦めたらしい。処置無しというように首を振った後、トーストにイチゴジャムを塗る作業に戻った。

 

それを横目にマスタードをたっぷりかけたソーセージを食べていると、ハーマイオニーが再び私に話しかけてくる。小テストが心配で朝食など既に眼中にないようだ。

 

「ねぇ、シリアルを一欠片ずつこっちに投げてくれない? それに呪文をかけてみるから。」

 

「正気かい? 私の知る限りでは、悪の魔法使いはシリアルを投げつけてはこないよ?」

 

「練習なんだからいいじゃない。シリアルが防げなきゃ、悪の魔法使いなんて夢のまた夢よ。」

 

ため息を吐きながらシリアルの詰まったボールを引き寄せて、中身を一つ一つ投げつけてやる。ハーマイオニーは至極真面目な顔でそれに妨害の呪文をかけているが……史上稀に見る馬鹿馬鹿しい練習方法だな。呪文の製作者が泣いてるぞ。

 

「しかし……ハリーがいないとクリービーが来ないから平和だね。」

 

ハーマイオニーに向かって悪しきシリアルを投げつけながら呟けば、律儀にも呪文を唱える最中に返事を返してくれた。最近はハリーにパパラッチが引っ付いているのだ。生き残った男の子のブランド力は未だ健在らしい。

 

「インペディメンタ。あの子は肖像権ってものを学ぶべきね……インペディメンタ。」

 

そういえば、魔法法ではその辺どうなっているのだろう? シリアルの動きを遅くしているハーマイオニーに問いかけようとしたところで、ジャム塗れのパンを食べ終わったロンが話しかけてきた。

 

「シリアルと戦ってる暇があるんだったら、ハリーの応援に行かないか? せっかくの休みなのにクソ寒い中頑張ってるんだから。」

 

「正確には『頑張らされてる』だろう? ウッドは優勝杯を守るためなら、チームメイトを殺しかねないよ。」

 

言いながらもソーセージを片付けて、席を立って二人を促す。ロンの言う通りだ。シリアルを投げつけているくらいなら、僅差でクィディッチの練習を見学したほうがマシだろう。

 

「まあ、行こうか。気分転換にはなるかもしれないしね。」

 

「そうこなくっちゃ。ほら、ハーマイオニーも行こうぜ。」

 

「ちょっと待ってよ……シリアルを持っていくから。これはいい練習方法になるわ。」

 

ロンと顔を見合わせて肩を竦めた後、シリアルを袋に詰め込んでいるハーマイオニーを置いて歩き出す。頼むからグリフィンドールで流行らないでくれよ。私はシリアルだらけの談話室なんて御免だ。

 

───

 

外に出た瞬間に感じた後悔は、クィディッチ競技場に到着すると確信に変わった。寒い。やっぱり談話室でのんびりしているべきだった。

 

「この気温で練習してるのかい? ウッドの前に、凍死の心配をすべきかもね。」

 

地上でこれなら上空は言わずもがなだ。軽口を叩いてから競技場の一番低い観客席に座ると、最前列でクリービーがカメラを構えているのが見えてくる。あの一年生はハリーの写真を撮るためなら、寒さが苦ではないらしい。

 

「予言者新聞の記者だってあんなに熱心じゃないぜ。」

 

「そのうち飽きるでしょ。あら、箒から降りてるわね……作戦会議中かしら?」

 

ロンに返事をしたハーマイオニーの言う通り、赤いユニフォームの一団は地面で何かを話し合っていた。声を張り上げているのは間違いなくウッドだが、ハリーは……あそこか。ウッドの話を真剣に聞いている。棍棒でチャンバラをやっている双子とは大違いだ。

 

叫ぶウッドに、真剣なハリー。うんざりした様子の他の選手たちと、棍棒で鍔迫り合いをする双子。そしておまけにフラッシュを焚きまくっているクリービー。私たちは一体何を見にきたんだ?

 

「これはまた、応援って感じじゃないね。もう帰らないか?」

 

城の方を指差しながら言う私に、ロンは気まずそうに返事を返す。

 

「まあ……そのうち飛ぶよ、うん。」

 

「ウッドの演説が終われば、だろう? 放っておけば来年まで続けるよ。」

 

いつから話しているのかは知らないが、双子の様子を見る限りではついさっきというわけではないだろう。やっぱり談話室に行くべきだったのだ。

 

それでも動こうとしないロンにため息を吐いていると、一人だけ別の場所を見ていたハーマイオニーが声を上げた。

 

「スリザリンよ。スパイにでも来たのかしら?」

 

ハーマイオニーの視線を辿ってみると……おや、確かにグラウンドの端から緑色のユニフォームを着た集団が歩いてくる。彼らはそのままグリフィンドールのチームへと近付くと、なにやら言い争いを始めた。うーむ、ちょっと面白くなってきたな。

 

「いいぞ、退屈しないで済みそうだ。煽りに行こうじゃないか。」

 

「ちょっと、リーゼ? 止めに行くの間違いでしょう?」

 

立ち上がってグラウンドへと下りていく私に、ハーマイオニーとロンが慌ててついてくる。このままウッドの演説を見せられるよりかは、棍棒で殴り合いでもしてもらったほうが面白いのだ。

 

そのままグラウンドを横切って近寄ってみると、スリザリンのキャプテン……フレント? フリット? フリントだったか? まあ、そんな感じの名前のヤツが箒自慢をしているのが聞こえてきた。

 

「マルフォイさんは素晴らしい贈物をしてくれたのさ……ほら、ニンバス2001だ。これに比べれば、おまえたちの箒なんかガラクタ同然だぜ。」

 

何が凄いのかはわからんが、少なくともグリフィンドールのチームは怯んでいる。しかし……マルフォイさん? ルシウス・マルフォイか?

 

その息子がユニフォームを着て後ろに立っているところを見るに、あの男は賄賂を使ってまで息子をチームに入れたかったらしい。魔法使いってのはどいつもこいつもクィディッチが大好きだな。死喰い人でもそれは変わらないようだ。

 

私がクィディッチを楽しむ死喰い人たちを想像している間にも、フ……なんとかの自慢げな話は続く。

 

「とにかく、新しいシーカーのために我々は練習しなければならないんだ。スネイプ先生の許可もある。競技場を明け渡してもらおうか。」

 

そしてスネイプも大好きか。ここまでくると、私の感性がズレていることを認めざるを得なくなってくる。あんな球遊びの何が楽しいんだ、まったく。

 

誇らしげにスネイプのサインを突きつけた『フなんとか』に、ウッドが唾を飛ばしながら反論した。違法じゃなければ死の呪いを放ってそうな表情だ。

 

「我々が先に練習していたんだ! 許可も随分前から取っているんだぞ。横暴だ!」

 

「その箒じゃあここは広すぎますね。中庭でやったらどうですか? ちょうどいい広さでしょう?」

 

前に進み出て嘲るようにマルフォイが言うと、応じるように私の背後からハーマイオニーが飛び出した。ママに逆らうと怖いぞ、マルフォイ。

 

「そっちこそ、まずは補助輪付きで練習したほうがいいんじゃない? お金で選ばれたシーカーがまともに飛べるとは思えないわ。」

 

そら見たことか。ハーマイオニーの痛烈な皮肉を受けて、途端にマルフォイの顔が歪む。自分でもそのことは分かっていたのだろう。彼はほんの少しだけ頰を赤くしながら、ハーマイオニーに吐き捨てるように言い放った。

 

「黙っていろ、穢れた血め!」

 

おおっと、これはマズいな。その言葉は魔法界じゃかなりの暴言だ。案の定グリフィンドールの選手たちは激昂して罵詈雑言をマルフォイに投げかけている。双子は今にも棍棒で殴りかかりそうだ。

 

しかし棍棒が青白ちゃんに炸裂する前に、今度はその弟が前へと進み出た。我らがロン・ウィーズリー殿だ。杖を構えているが……いや待て、その杖はマズくないか?

 

「ハーマイオニーに謝れ、マルフォイ!」

 

「何を謝るんだ? ウィーズリー。貧乏で頭がおかしくなったのかい? 僕は単なる事実を──」

 

「こいつ! これでもくらえ!」

 

私が何か言う前に、ロンが杖を振ってマルフォイに呪文を放つと……残念ながらテープだらけの杖はまともに動作しないようで、呪文を放ったロン自身が吹っ飛んでいく。

 

うーむ、私が手を出すのは大人気ないが……ハリーは単語の意味を知らないのだろう。状況を理解していない様子だし、ハーマイオニーは数メートルも飛んで行ったロンに駆け寄っている。グリフィンドールチームの上級生たちが手を出すのは問題だろうし……仕方ない。適当におちょくってやるか。

 

倒れ込むロンを見ながら微妙な静寂に包まれた場を尻目に、今度は私が歩み出た。

 

「撤回したほうがいいと思うよ、マルフォイ。さすがに暴言が過ぎるんじゃないか?」

 

いつもならこれで後ろに引っ込んでいって終わりだが、今日のマルフォイは一味違うようだ。ちょっと顔を青くしながらも反論を放ってくる。

 

「だ、黙ってろ、バートリ。穢れた血の次は半獣か?」

 

……ほう? グリフィンドールの選手たちから再び怒りの声が上がる。『半獣』ね。穢れた血に勝るとも劣らない暴言じゃないか。

 

「……私は大人気ないことはしたくない。だから、一度だけ機会を与えよう。謝罪するんだ、マルフォイ。」

 

無表情で言う私に更に顔を青くするマルフォイだったが、もう後には引けないとでも思っているのか、鼻を鳴らして首を振った。

 

「ふん、断る。半獣ごときが僕に──」

 

「残念だ。……口を閉じていたまえ、マルフォイ。」

 

途端にマルフォイは口を閉じて、モゴモゴ言い始める。ま、軽く魅了を使っただけだ。成人してたら磔の呪文を楽しんだ後に殺していたが、子供に怒るほど私はガキじゃないのだ。

 

そう、ガキじゃない。ガキじゃないが……まあ、私が解くまで食事も喋ることも出来ないだろう。精々苦しむんだな。吸血鬼をナメるとこうなるんだよ。

 

「ふん。」

 

目をパチクリしながらモゴモゴ言っているマルフォイに背を向けて、ロンの方へと近付いてみると……おい、何の呪文を使おうとしたんだ? ナメクジを吐き出しながら苦しんでいる。

 

「あー……キミは何の呪文を使ったんだい? 見たこともないような症状だが。」

 

「うぇっ……ナメクジの呪いを、うえぇ、使おうとしたんだけど、ぐっ。」

 

世にはバカバカしい呪いが溢れているもんだ。見てるだけで吐きそうになってくるぞ。一応解呪を試みてみるが、どうやら杖が壊れていたことが影響しているらしく、効果があるようには見受けられない。

 

「医務室に運ばないと!」

 

「その方が良さそうだね。しかし……ナメクジはどこから生まれているんだ? 体内で作られているのか、それとも何処かから呼び寄せているのか……。」

 

「そんなのどうでもいいでしょう? いいから行くわよ、リーゼ!」

 

怒ったように言うハーマイオニーに肩を竦めてから、ロンを支えるハーマイオニーに続く。ハリーも練習を抜けてついてくるようで、走り寄って肩をロンに貸した。なんとも友人想いなことだ。私なら今のロンには触りたくもない。

 

そのまま城内に入り、廊下を歩きながらナメクジに関して考えていると、ハリーがポツリと問いかけてきた。

 

「えっと、『穢れた血』って? 悪い言葉だったのは分かるけど。」

 

「マグル生まれの魔法使いを揶揄する言葉だよ。純血狂いがよく使う暴言さ。半獣の方は……説明はいらないね?」

 

「あー……うん。あんまりいい言葉じゃないってのは分かったよ。」

 

「キミも気をつけた方がいいよ。心の広い私だからこそ、あの程度で許したのさ。」

 

ロンが吐き出すナメクジを眺めながら答えると、ハリーが恐る恐るという感じで再び質問を飛ばしてきた。でかいのを数匹吐き出しているところを見るに、フィルチが苦労するのは間違いなさそうだ。

 

「マルフォイに何をしたの?」

 

「文字通り、口を開けなくしたのさ。私が解かなければ少なくとも今年はマルフォイの声を聞けないだろうね。……食事は点滴かな?」

 

ニヤリと笑って答えてやると、ハリーはドン引きした様子で顔を引きつらせる。

 

「うん、なんとも……心が広い対応だね。僕、絶対にその言葉を使っちゃいけないって、心の底から理解できたよ。」

 

まあ、マルフォイはスネイプに泣きつくだろうし、スネイプはダンブルドアに泣きつくだろう。そしてダンブルドアがアリスに泣きつけば、それを断れない私は二、三日で解く羽目になるのは間違いない。……一週間くらいはゴネてみようか?

 

脳内で点滴を受けるマルフォイを想像しながら、アンネリーゼ・バートリはせめて五日は解かないことを決意するのだった。

 

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