Game of Vampire   作:のみみず@白月

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決闘クラブ

 

 

「ポリジュース薬? なんだってそんなものを作ろうとしているんだい?」

 

目の前で盾の呪文を唱えるハーマイオニーにゴムボールを投げつけながら、アンネリーゼ・バートリはそう問いかけていた。

 

場所は防衛術の教室。つまりはアリスの授業中である。彼女がロングボトムへの指導に四苦八苦している間に、ハーマイオニーがこっそり話しかけてきたのだ。

 

「私の発案じゃないわ。私は反対して……プロテゴ! 反対してるんだけど、ロンが犯人探しのためにどうしてもって言うのよ。プロテゴ!」

 

「犯人探しのため?」

 

「プロテゴ! スリザリン生に化けて、マルフォイのことを、プロテゴ! 探りたいんだって。……ねえ、もうちょっと優しく投げてくれてもいいのよ?」

 

「優しく投げたら練習にならないじゃないか。しかし……マルフォイ? 一ミリも関係のない名前が出てきたな。」

 

首を傾げて問いかけてみると、隣でハリーにボールをぶん投げていたロンが口を開く。ちなみにハリーは八割方を普通にキャッチしてしまっている。シーカーの性なのかもしれない。

 

「そうさ。マグル生まれを憎んでいて、スリザリンの継承者に相応しいクソ野郎。……ほら、どう考えてもマルフォイじゃないか。」

 

「キミね、青白ちゃんがバジリスクを制御できると思うのかい? 私なら一瞬で食われるほうに賭けるがね。」

 

マルフォイがバジリスクに命令している場面を想像するが……ほら、食われたぞ。ペロリと丸呑みだ。どうやらロンも同じ場面を想像したようで、ちょっとバツが悪そうな顔に変わった。

 

「それは……そうかもしれないけど。でも、確かめたところで損はしないだろ?」

 

「するよ、ロン。あの薬は作るのにバカみたいな時間がかかるんだ。キミにマグルの格言を贈ってやろう。『時は金なり』だよ。」

 

ロンはしばらくモゴモゴと言い訳を口にしていたが、やがて困ったような顔で口を開く。

 

「それじゃあ……リーゼは誰だと思うんだよ?」

 

「知らないし、どうでもいいよ。喧しい鶏どもがいる限り、どうせ馬鹿蛇はなんにもできやしないのさ。」

 

肩を竦めて言い放ってやると、ロンは微妙な表情でボール投げへと戻った。あの鶏どもは日に日に増え続けているのだ。下手したら馬鹿蛇はもうこの城にいないかもしれない。私がバジリスクならもっと住みやすい場所に引っ越してるぞ。

 

「どうかしらね? そろそろあの双子あたりが焼き鳥パーティーを開くわよ。みんなうんざりしてるんだもの。プロテゴ!」

 

「多少減ったところで問題ないさ。それより不用意に雌鶏を入れたやつを退校にすべきだね。殺猫未遂よりかはよっぽど迷惑な話だよ、まったく。」

 

「まあ、確かに賢い一手とは言えなかったわね。ヒヨコはかわいいんだけど……。」

 

「一羽なら、だろう?」

 

見当外れなことを言うハーマイオニーに突っ込んでから、一度ボールを集めるために杖を振る。

 

善意から鶏の数を増やそうと思ったのだろうが、間違いなくそいつの予想よりも増えてしまったのだ。今や廊下の至る所に卵が転がり、ヒヨコが列をなして歩いている。成長促進のための餌が裏目に出たらしい。

 

おまけに、バジリスクへの憎悪に染まったフィルチが鶏どもが増えるのを手助けしているのだから堪らない。せっせと巣箱を設置しまくった挙句、鶏を蹴飛ばす生徒を追いかけ回すのに夢中になっているのだ。あの男が鶏の守護神として祀られる日も近いぞ。

 

「アクシオ、ゴムボール。」

 

ついでにハリーとロンの分もボールを回収していると、ハーマイオニーが私のことをジッと見つめながら言葉を投げかけてきた。

 

「リーゼ、後でその呪文を教えてくれない? 練習に最適だわ。」

 

「プロテゴの練習のためにアクシオの練習をするのかい? 一つ一つやったほうがいいと思うよ、私は。」

 

勉強中毒のハーマイオニーにそう返していると、ようやくロングボトムの指導が終わったらしいアリスが近付いてくる。まあ……ロングボトムがフィネガンの投げるボールに滅多打ちにされているのを見る限り、指導を諦めたのかもしれないが。

 

「こっちはどうかしら? 上手く出来てる?」

 

「はい! 見ててください。」

 

自信満々に言うハーマイオニーが目線でボールをおねだりしてきた。うーむ、遊んで欲しい飼い犬みたいだな。益体も無い想像に苦笑しながらボールを投げてやると、彼女は二年生としては見事な盾の呪文でそれを防いだ。

 

「プロテゴ! ……どうですか?」

 

「お見事、ハーマイオニー。グリフィンドールに三点。」

 

「ありがとうございます!」

 

有頂天のハーマイオニーに頷いた後、アリスはハリーとロンへと向き直るが……二人とも気まずそうに目を逸らしている。まあ、練習している姿を見る限り、襲いかかるゴムボールを防ぐのは夢のまた夢だ。

 

「二人も一応見せてくれない?」

 

「えーっと……はい。プロテゴ!」

 

ハリーの額にゴムボールが激突したのを尻目に、褒められてご満悦なハーマイオニーへと声をかける。ふむ、こういうところも犬っぽいな。今度ブラシでもかけてやろうか?

 

「ハーマイオニー、呼び寄せ呪文の練習でもしてようか? 前言撤回するよ。キミなら両方同時でも大丈夫だ。」

 

「それはありがたいけど……貴女の練習はいいの?」

 

「プロテゴ。……ご覧の通りだよ。」

 

簡単に盾の呪文を成功させる私に、ハーマイオニーは感心したような顔になるが……やめてくれ。未だにその表情は私にダメージを与えるのだから。

 

内心で湧き上がってくる恥ずかしさに耐えながら、ハーマイオニーに振り方を教えるために杖を上げた。

 

───

 

授業が終わり、毎度のように鶏を蹴っ飛ばしながら四人で廊下を歩いていると、大広間の扉に張り紙が貼られているのが目に入ってきた。……決闘クラブ? 物騒な名前のイベントが五日後の夜に開かれるようだ。

 

「わお、カッコいいな。二年生も参加できればいいけど。」

 

早速とばかりに近付いていくロンの肩越しに読んでみると、どうやらフリットウィックが開催するらしい。助手にはアリスと……スネイプ? おやおや、是非とも見に行かないといけないな。仏頂面で嫌そうに参加してるに決まってる。

 

「大丈夫みたいだよ。ほら、ここ。」

 

ハリーの指差した箇所を見てみると、学年の制限はなく、見学のみも可能なようだ。かなりの生徒が集まりそうだな、これは。

 

他に読みたそうにしている生徒に場所を譲り、昼食の並ぶテーブルに座ったところで、ロンが身を乗り出して口を開いた。

 

「行こうぜ。」

 

「賛成だ。」

 

スネイプ見たさで真っ先に賛成してやると、ハリーとハーマイオニーも迷うことなく同意してくる。あんな面白そうなイベントを見過ごすわけにはいかない。上級生の決闘なら多少は楽しめるだろうし、スネイプがフリットウィックかアリスに吹っ飛ばされるところも見てみたいのだ。

 

「決まりだな。絶対にマルフォイをやっつけてやるぞ。今から呪文の練習をしておかないと……。」

 

「そうだね……僕も付き合うよ。まあ、ウッドに捕まらなきゃだけど。」

 

ハリーとロンはやる気満々だし、ハーマイオニーもコクコク頷いている。……なるほど、教師陣の狙いはこれか。次の防衛術や呪文学の授業は熱心な生徒で溢れることだろう。

 

ま、別に悪いことじゃない。ハリーが強くなってくれるなら私も大満足なのだ。リドルを嬲り殺すくらいになってくれないと困るのだから。

 

巨大な鶏肉を皿に取りながら、アンネリーゼ・バートリは内心でフリットウィックをちょっとだけ褒めるのだった。

 

 

─────

 

 

「ようやく終わったわ。」

 

目の前にあるホグワーツの図面を見ながら、アリス・マーガトロイドはため息混じりに呟いていた。長く、辛い作業だった。

 

あの作戦会議の後、小さな吸血鬼に助けを求めてみたところ、えらく的確なアドバイスが返ってきたのだ。曰く『パイプが怪しい』とのことだった。

 

その言葉に従って調べてみれば、ホグワーツ城には網目のように巨大な配管が張り巡らされていることが判明したのである。確かにここを通れば隠れることは容易いし、ハリーが聞いた声が壁から聞こえたというのも説明がつく。

 

そしてこの場所をバジリスクが利用している可能性がある以上、手をこまねいて放置するわけにはいかない。結果として教職員総出で無数のパイプに警戒魔法をかけまくることになったのだ。

 

パイプに響く独り言を背に、この忌々しい場所から出るために歩き出す。……まあ、ここはまだマシなほうだ。何故なら乾いているのだから。

 

最悪なのは雨水が入り込んだパイプだった。撥水魔法を全身にかけた状態でも、あのヌメヌメした場所を歩くのは至難の技なのだ。おまけにネズミの死体やらムカデやらが……うえぇ。思い出したくもないぞ。

 

無理やり開けた入り口から外に出て、修復魔法で壁を直す。何にせよ私の担当は終わりだ。これでもう配管工の真似事はしないで済む。

 

「レパロ、スコージファイ。」

 

一応服も綺麗にして……よし、終了! 大きく伸びをしてから、私室へ向かって歩き出した。今夜は決闘クラブの第一回目が開かれるのだ。助手を頼まれてしまった以上、その準備をしなくてはなるまい。

 

舞台はフリットウィックがどうにかすると言っていたから……えーっと、何が必要なんだ? 私の時代にはそんなクラブは無かったし、どうすればいいのかさっぱりだ。

 

一応傷薬くらいは準備しておいたほうが良いかと考えながら歩いていると……おや、向こうの方から俯き気味のジニーが歩いてくるのが見えてきた。

 

「あら、ジニー。どうしたの? 元気が無いようだけど。」

 

「アリスさん。えっと……。」

 

私の言葉に顔を上げたジニーは、少し迷った様子で何かを言いかけるが……結局言葉に出さずに首を振った。

 

「……いえ、大丈夫です。ちょっと具合が悪くって。」

 

「そうなの? ポピーに診てもらったほうがいいわね。私も一緒に行きましょうか?」

 

「一人で行けます。その……心配してくれてありがとうございました。」

 

ぺこりとお辞儀をすると、ジニーはそのまま歩き去ってしまう。具合が悪いと言っていたが……ふむ、悩みがありそうな感じにも見えた。授業では友人もできていたように見えたのだが、ちょっと気にかけたほうがいいかもしれない。

 

遠ざかる綺麗な赤毛を少しだけ見つめてから、再び私室へと歩き出した。

 

───

 

「スネイプ、その仏頂面をやめなさい。」

 

夕食後。決闘クラブが開かれる時間になると、いつもの長机の代わりに大きな舞台が準備された大広間へと徐々に生徒が集まってきた。その目はクラブへの期待でキラキラと輝いているが、正反対の表情をしている男が私の横に立っているのだ。言わずもがな、不満タラタラのセブルス・スネイプである。

 

スネイプは舞台の下に集まる生徒を冷ややかに見渡しながら、チラリと私を見て無表情で口を開く。

 

「私の表情は元よりこうなのです。」

 

「雰囲気が壊れるでしょうが。満面の笑みとは言わないから、少しは穏やかな表情にすることはできないの?」

 

「努力はしましょう。」

 

ダメだこりゃ。この男の笑顔というのは、ムーディのそれと同じくらい想像がつかない。諦めて小さくため息を吐いてから、再び集まった生徒の方へと向き直る。そろそろフリットウィックが開会の挨拶を始めるはずだ。

 

ヒョコヒョコと舞台の中央に歩み出たフリットウィックは、大仰に両手を広げながら生徒たちの方へと声を放った。

 

「ようこそ、決闘クラブへ! ここでは決闘における作法と礼節、そして相応しい呪文を学んでもらいます! もちろん、見学だけでも結構ですよ!」

 

キーキー声が響く中、生徒たちは真剣な表情で話を聞いているのが見える。授業でもああなら楽なのだが……。もうちょっと実技を増やすべきかもしれないな。

 

私が普段の授業態度との差を嘆いている間にも、フリットウィックの説明は続く。

 

「おっと、心配ご無用! 魔法使いの決闘について詳しくなくとも構いませんよ。今日は素晴らしいお手本を見せてもらえるのですから!」

 

言葉と共に手で合図してきたフリットウィックに従って、スネイプと並んで前に出る。おおっと、スネイプがより無表情になったぞ。今の顔をデスマスクにしたら、さぞ迫力があるだろう。

 

「助手を引き受けてくださった、マーガトロイド先生とスネイプ先生です! まずはこの二人の決闘の様子を見て、やり方について学びましょう!」

 

フリットウィックの声に従って、舞台の中央でスネイプと向き合って杖を眼前に立てる。リハーサルなんぞしなかったので今初めて分かったが、この身長差だとかなり滑稽に見えるんじゃないか? ……まあ、フリットウィックよりはマシか。

 

「このように、杖を目の前に立てて……振り下ろす! そして一礼した後、お互いに距離を取って──」

 

フリットウィックの解説通りに作法をこなし、お互いに舞台の端まで移動してから杖を構えた。うむ、ちょっと緊張してきたぞ。制限付きのデモンストレーションとはいえ、リーゼ様の前であんな小僧に負けるわけにはいかないのだ。

 

「──開始!」

 

フリットウィックの言葉を合図に、まずは牽制の無言呪文を数発放った。さすがにその程度は軽く捌いたスネイプは、お返しとばかりに武装解除術を放ってくる。

 

「エクスペリアームス!」

 

「プロテゴ、フルガーリ(閃光)!」

 

魔力を込めた有言呪文をこちらも盾の有言呪文で防いでから、煌めく光の縄を出現させてスネイプに巻きつけた。彼は少し焦った表情に変わるが、次の瞬間には冷静な声で自身に対して呪文を使う。結構やるじゃないか。

 

エマンシパレ(解け)サーペンソーティア(蛇よ)……オパグノ(襲え)!」

 

デパルソ(退け)!」

 

スネイプが生み出した蛇が襲いかかってくるのを一気に吹き飛ばしてやると……その隙にスネイプが大きく杖を振って、舞台の中央に生み出した炎で二人の間を分かった。

 

……うん、やってみてわかったが、これは決闘とは言えないな。殺傷能力のある呪文など勿論使えないし、舞台を壊すわけにもいかない。おまけに舞台ギリギリで見ている生徒たちに当たるような呪文も使えないのだ。

 

まあ、この辺で終わらせとくか。ちょっと短いかもしれないが、これ以上はグダグダになるだけろう。緊張してたのが馬鹿みたいだ。茶番を終わらせるために、手加減抜きのスピードで杖を振る。

 

パーテイステンポラス(道よ開け)……ブラキアビンド(腕縛り)!」

 

炎を吹き飛ばしたのと同時に数発の無言呪文を放ち、スネイプの対処が一手遅れた瞬間に本命の腕縛りを撃ち込んだ。

 

「ぐっ……。」

 

スネイプが後ろ手に縛り上げられたのを見て、フリットウィックが拍手をしながら口を開く。

 

「お見事! さあ、皆さんも素晴らしい模擬戦を見せてくれた二人へ拍手を!」

 

キラキラした瞳で拍手する生徒たちに苦笑しつつ、拘束を解くためにスネイプに近付いて呪文を唱えた。苦々しげな表情だが……こいつ、本気を出さなかったな? 別に負けるとは思わないが、さすがにちょっとヌルすぎたぞ。

 

「エマンシパレ。……手を抜いたわね? スネイプ。」

 

「お互い様ですな。これは貴女の本来の戦い方ではないのでしょう? 七色の『人形使い』どの。」

 

「あら、人形有りだと勝負にならないわよ。」

 

鼻を鳴らして言い放ってから、勝負を解説しているフリットウィックへと向き直る。この男は手の内やら内心やらを隠す癖があるらしい。そんなんだから嫌われるんだぞ。

 

さて、フリットウィックの解説が終われば、いよいよ生徒たちの実技が始まる。そうすれば絶対に厄介なことになるだろう。訳の分からない呪いを受ける生徒で溢れるに違いないのだ。

 

楽しそうに実技の説明を始めたフリットウィックを見ながら、アリス・マーガトロイドはほんの少しだけため息を吐くのだった。

 

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