Game of Vampire   作:のみみず@白月

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マリオネット

 

 

「マルフォイだ!やっぱりポリジュース薬を作ろう!」

 

ロンのひそひそ声で叫ぶという妙技に感心しながら、アンネリーゼ・バートリは先程と同じ返事を返していた。もう『マルフォイ犯人説』は聞き飽きたぞ。

 

「マルフォイじゃないし、ポリジュース薬もいらないよ。彼はハリーにダンスの指導をするのが精一杯なんだ。犯人なわけがないだろう?」

 

パーシー切り裂き事件から一夜明けた現在、生徒たちは談話室に『監禁』されている。安全確認が終わるまでは外出禁止となったのだ。今頃は教師たちが不眠不休で城中を調べ回っていることだろう。

 

昨夜は食事も喉を通らない様子のロンだったが、今朝ようやく目覚めたパーシーに会って元気を取り戻したらしい。戻ってきてサンドイッチを食べまくったかと思えば、いきなり犯人への怒りに燃え始めたのである。

 

ちなみにパーシーは何も覚えていなかった。昼食へ向かうために廊下を歩いていたところ、いきなり視界が真っ暗になったそうだ。胸の傷は一瞬で気を失うようなものじゃないし、最初に失神呪文でも放ってからゆっくりと切り裂いたのかもしれない。うーむ、そう考えると結構残酷な犯行だな。

 

お陰でグリフィンドール寮では犯人探しが大流行りなのだ。大半がバジリスクだと思っていて、牙の毒に考えが回る少数がそれを否定している。明日あたりには周知されることだろう。

 

暖炉の傍で人垣に囲まれている双子を見ながら激動の一夜について考えていると、青白ちゃんからダンスレッスンを受けたハリーが申し訳なさそうに口を開く。

 

「うーん、僕もマルフォイじゃないと思うよ。出来ればやってると思うけど、マルフォイに出来るとは思えない。」

 

「それじゃあ……誰なのさ。スネイプ?」

 

「パーシーを襲う理由がないよ。まあ、僕がやられたんならスネイプだろうけど。」

 

ハリーが被害者じゃなくてよかったな、スネイプ。危うく『セブルス・ザ・リッパー』になるところだったぞ。今頃必死に安全確認をしている報酬がそれでは堪るまい。

 

スネイプの相変わらずな不人気さに苦笑していると、物凄いスピードで本を捲っていたハーマイオニーがポツリと呟いた。

 

「これは関係ないかしら? リヴァプールで起きた切り裂き事件なんだけど……違うわね。三百年も前の事件だったわ。」

 

おいおい、何を読んでるんだ? チラリと表紙を見てみれば……『イギリス魔法事件史』? 調べるにしたって、もっと本を絞り込めなかったのか。

 

ハーマイオニーのチョイスに呆れていると、談話室の隅で真っ青な顔をしている少女が目に入ってきた。ロンの妹、ジニーだ。……大丈夫なのか? あれ。今にも自殺しそうな表情じゃないか。

 

「ロン、キミの妹もパーシーが目覚めたことは知っているんだよな? 随分と青い顔だが……。」

 

「ん? あー……どうもショックを受けちまったみたいなんだ。パパやママと一緒に医務室で無事を確認したんだけど、それでもずっとあんな調子なんだよ。」

 

「元気付けてあげたまえよ。妹だろう? 犯人探しよりはそっちを優先すべきだと思うね、私は。」

 

「それは……そうだな。」

 

頭をポリポリ掻きながら頷いたロンは、ジニーの方へと歩いて行く。一年生にはショックな事件だったろうし、身内が被害者なら尚更のことだ。

 

私がぼんやりジニーの方を見ていると、同じく心配そうに彼女を見ていたハリーが口を開いた。ちなみに隣のハーマイオニーは未だ本に夢中だ。絶対に犯人は載っていないと思うぞ。

 

「『部屋』の件とこの事件、関係あると思う?」

 

「そりゃあ、無関係だとは思い難いね。キミだってそう思うだろう?」

 

「うん。バジリスクの対処が思ったよりも早かったんじゃないかな。それで焦った犯人が、自分の手で生徒を襲った。……どうかな?」

 

『名探偵ポッター』再びだ。ハリーの推理に、ハーマイオニーが本に目を落としたままで同意する。

 

「その可能性は高いわね。問題は犯人が誰かってことよ。前の事件の犯人が分かればヒントになるんだけど……これには載ってないみたいね。」

 

ああ、そっちを調べてたのか。『ホグワーツの歴史』やら『近代魔法犯罪集』やらを最近は熱心に読んでいたのだが、とうとうイギリス全土の事件集に手を出し始めたらしい。迷走するにも程があるな。

 

私が謎のチョイスについて納得していると、ハーマイオニーは本を閉じて首を振る。どうやら諦めたようだ。

 

「ダメ。マーガトロイド先生もハグリッドも詳しく話してくれなかったし、お手上げだわ。」

 

公的にはハグリッドが犯人ということになっているのだ。そりゃあ二人とも言い淀むだろう。全部説明するのにはリドルとヴォルデモートの関係やらも話さねばならないし、面倒くさくなったのかもしれない。

 

両手を広げてバッタリとソファに倒れ込んだハーマイオニーに苦笑しながら、残念そうなハリーに向かって言葉を投げる。

 

「ま、教師陣に任せておこう。バジリスクだってどうにか出来たんだ。切り裂き魔だってなんとかしてくれるさ。」

 

「うん……そうだね。」

 

実際はバジリスクよりも厄介な相手だが、探偵ごっこをされるのはもう御免なのだ。馬鹿蛇、イカれしもべ妖精、切り裂き魔。ただでさえ問題が多いのに、これ以上は抱えきれない。

 

一年生の時よりも面倒な状況に嘆息しながらも、アンネリーゼ・バートリは一応は納得した様子のハリーに頷きを返すのだった。

 

 

─────

 

 

「その必要はないわ。」

 

魔法大臣の執務室へとノック無しで踏み込みながら、レミリア・スカーレットは部屋に居る二人に言い放っていた。……ギリギリ間に合ったようだな。急いで来てよかった。

 

執務机越しのコーネリウス・ファッジと、それに詰め寄っているルシウス・マルフォイ。いきなり入ってきた私にコーネリウスは安心したような顔を、マルフォイは憎々しげな表情をそれぞれ向けてくる。ふーむ、実に対照的な反応じゃないか。

 

断りなしで応接用のソファの上座にどっかりと座り込みながら、未だ言葉を発さない二人に向かって口を開く。

 

「ホグワーツの件はダンブルドアが全て掌握しているわ。魔法省の介入は不要よ。」

 

「これはこれは、スカーレット女史。……生徒が一人襲われたと聞きましたが? それも校長が『掌握』した結果なのですかな?」

 

冷たく返事を返してくるマルフォイは、ホグワーツの事件に介入したくてたまらないのだ。どうもダンブルドアを校長から引き摺り下ろすためにコソコソ動いているらしい。

 

コーネリウスから彼が面会を希望しているとの報告を受けた私は、急いでそれを妨害しに来たわけである。冷や汗ダラダラの魔法大臣を見る限り、タッチの差で間に合ったようだ。

 

「そもそも、貴方に何の権限があって口を出してくるのかしら? おかしいと思わない? コーネリウス。」

 

「へ? あー……そうですな、確かにその通りです。」

 

イギリス魔法界のトップだけに許された席に座るコーネリウスは、私の問いかけに対して慌てて同意してくる。よしよし、今日もちゃんと『ゴマすり君』は機能しているらしいな。

 

マルフォイにとっては残念なことだろうが、コーネリウスは私の犬だ。でなきゃこんな無能が魔法大臣になどなれるはずがない。人脈やら献金やらを融通してやった結果、今では事あるごとに私に確認を取ってくるようになった。立派な操り人形の出来上がりってわけだ。

 

私とコーネリウスのやり取りを見たマルフォイは、僅かに怯んだ様子を見せるが……どうやら諦める気はないらしい。冷静な顔を取り繕って反論してきた。

 

「私はホグワーツの理事なのですよ。生徒たちの安全のためにも、あの学校に介入する義務がある。」

 

「あら、奇遇ね? 私もホグワーツの理事なのよ。意見が食い違っちゃったわけだし……理事会を開きましょうか?」

 

ホグワーツの理事は十二人。正直言って理事会への影響力にはそれほど自信ないわけだが、ダンブルドアと協力すれば過半数は取れるはず……取れるよな?

 

ちょっと自信がなくなってきたのをおくびにも出さずに睨みつけていると、やがてマルフォイは私から目を逸らした。彼もあまり自信がないようだ。ハッタリ勝負なら負けんぞ。

 

「それは……必要ないでしょう。理事会の方々にお手数をかけるほどのことではありますまい。……ではせめて、前回の事件の犯人を拘束していただきたい。未だホグワーツに置いているなど、狂気の沙汰としか思えませんぞ。」

 

ぐぬ、今度はこっちが怯む番か。どうやらマルフォイはちゃんと下調べしてからこの場所に来たようだ。一番突っ込まれたくないところを攻めてきた。

 

確かに前回の犯人とされている以上、ハグリッドをホグワーツに置いておくのには無理がある。さすがに誰も納得すまい。今はあまり知られていないから誰も騒いでいないが、表沙汰になれば保護者からのバッシングが厳しくなるはずだ。

 

私はまあ、別にアズカバンで休暇を取らせてもいいと思うのだが……ダンブルドアやアリスが嫌がるのは容易に想像できる。である以上、はいそうですねと言うわけにもいかないのだ。

 

脳内で対応策を練りながら、時間稼ぎのために口を開いた。

 

「それはダンブルドアが決めることじゃなくって? 職員の任命と解任に関しては彼の領分だわ。」

 

「平時ならそうでしょうが、今は非常時です。同じ事件が起こり、前回の犯人が事件の起こった場所に居る。私には取り調べないことが不思議でなりませんな。」

 

はい、ごもっとも。……うー、ヤバいぞ。これをひっくり返そうとすれば、かなり強引な手に出る必要がある。やってやれないこともないが……うん、諦めよう。

 

ゴリ押しすればいつか反動が返ってくるのだ。その機会はリドルの対処に取っておくべきであって、ハグリッドを救うために使うわけにはいかない。アズカバンに行ったって死ぬわけじゃないんだし、事件が解決すれば戻って来られるだろう。

 

「……分かったわ。ダンブルドアは残留、ハグリッドは拘束。それを落とし所にしましょう。」

 

「さすがはスカーレット女史だ。話が早くて助かりますな。」

 

皮肉混じりに言うマルフォイも、ほんの少しだけ安心した様子だ。魔法大臣に話をつけに来たのに、何の成果も得られないのではさぞ外聞が悪かろう。一応の成果を手に入れて安心したわけか。

 

「それでは、当局への連絡は頼みましたぞ、魔法大臣。私はこれで失礼させていただく。」

 

意気揚々とドアから出て行くマルフォイを苦々しく見詰めながら、アリスに対する言い訳を考え始める。ダンブルドアはどうでもいいが、アリスを悲しませると怖い保護者が出てくるのだ。咲夜も懐いていることだし、下手すると嫌われちゃう可能性すらあるぞ。……ヤバい、冷や汗が出てきた。

 

私がいきなり訪れた危機をどう乗り越えるかを考えていると、オドオドとコーネリウスが話しかけくる。

 

「あの……よろしかったのですか?」

 

「よろしくはないけど、仕方がないわ。限界まで魔法省内での拘束に留めておいて頂戴。でないと、ダンブルドアからも文句が飛んでくるわよ。」

 

「わ、わかりました!」

 

この男は私の機嫌を損ねるのも怖いが、ダンブルドアにそうするのも怖がっているのだ。二人から揃って睨まれる可能性がある以上、必死に働いてくれることだろう。

 

これでまあ、アリスに対する言い訳もできた。アズカバン行きを遅らせたというのは充分な成果のはずだ。魔法省の拘留室が楽しい場所かは知らんが、少なくとも吸魂鬼はいないのだから。

 

ちょっとだけホッとしてソファに沈み込みながら、魔法法執行部への書類を書いているコーネリウスに話しかける。

 

「そういえば、職員への教育は進んでいるの?」

 

私が問いかけた瞬間、コーネリウスはペンから手を離して姿勢正しく返事を返してきた。うーむ、ここまでくるとちょっと鬱陶しいな。『調教』しすぎたか?

 

「はい。規定の防衛呪文の習得、闇祓いによる定期的な戦闘講習。どちらも順調に進んでおります。しかし、その、意味があるのですか? ……いやいや、別に反対しているわけではありませんが!」

 

「まあ、今は平和かもしれないけどね。だからこそ備えるのよ、コーネリウス。危機はゆっくりと訪れてはくれないわ。グリンデルバルドの時も、ヴォルデモートの時もそうだったでしょ? ……来るべき時になれば、貴方が成したことは高く評価されるはずよ。」

 

ヴォルデモートの名前にビビっていたコーネリウスは、『評価される』の辺りで途端に元気を取り戻す。こういうところが実に操りやすい。先にどんな落とし穴があっても、目の前のニンジンしか見えないのだ、コイツは。

 

「そうですな、備えることは大事です。緊急時の魔法戦士雇用制度についても、もっと急いで進めさせましょう。」

 

「素晴らしいわ、コーネリウス。貴方は私が見た中で最も有能な魔法大臣よ。」

 

適当に褒めてやれば、満足げにペコペコお礼を言ってくる。しかし……こいつ自身はまともに防衛呪文を使えるのか? 甚だ怪しいもんだ。

 

まあいいか。重要なのは肩書きであって、能力じゃない。妙な野心さえ抱かねば文句などないし、私に操られている限りはそこそこの実績を残せるだろう。ウィンウィンの関係ってやつだ。

 

「それじゃあ、私はこれで失礼するわ。ダンブルドアと今回の処分について話し合わなきゃだもの。」

 

「おお、それはそれは、ご苦労様です。その……私が善処している件をダンブルドアに伝えていただければ、なんというか、非常に助かるのですが……。」

 

「もちろん伝えるわ。ダンブルドアもちゃんと分かってくれるはずよ。」

 

「いや、助かります! ささ、ドアを開けましょう。足元にお気をつけて……。」

 

ゴマすり魔法大臣に適当な返事を口にしながら、彼が開けてくれたドアを抜けて歩き出す。ここまでくると一周回って面白く思えてきた。イギリスの魔法族たちに見せつけてやりたい光景だ。

 

歴代の魔法大臣の中で誰が一番無能だったのかを考えながら、アトリウムに向かうためにエレベーターに乗り込むと……おや、私に続いて闇祓い局局長どのが乗り込んできた。

 

「あら、ごきげんよう、スクリムジョール。」

 

「おや、スカーレット女史。今帰りですかな?」

 

「その通りよ。マルフォイとやり合ってきたの。」

 

ルーファス・スクリムジョール。魔法族にしては珍しくスーツを見事に着こなしているこの男は、最近ムーディの後釜に座った闇祓いたちのリーダーだ。顔には大きな爪痕が刻まれている。ハロウィンの戦いで、狼人間のフェンリール・グレイバックから受けた爪痕らしい。

 

頰に走る傷跡を歪ませながら、スクリムジョールは心底嫌そうな表情で口を開いた。

 

「あの男が野放しなのはなんとも納得がいきませんな。間違いなく元死喰い人だというのに。」

 

「証拠が出なかったんだから仕方がないわよ。まあ、元死喰い人なのには同意するけどね。」

 

肩を竦めて言い放つと、スクリムジョールは納得しかねる様子で不承不承頷く。名家のネームバリューも彼には通じないようだ。ゴマすり君とは大違いじゃないか。

 

この男は……そうだな、野心抜きのクラウチだ。ムーディに鍛え上げられた杖捌きと、敵を倒すためなら自分ごと爆破するようなクソ度胸。おまけに闇の魔法使いたちへの強い憎悪。闇祓いとしては一級品だろう。

 

クラウチ同様少しやり過ぎるところはあるが、少なくともその辺の無能よりはよっぽど頼りになる。うーむ、もう少し交友を深めたほうがいいかもしれない。来るべき戦いの時には優秀な駒になってくれるはずだ。

 

私がそんなことを考えている間にも、スクリムジョールはマルフォイへの怒りを仕舞い込むことに成功したらしい。話題を変えて私に話しかけてきた。

 

「そういえば、職員への必須技能の見直し。あれはスカーレット女史の発案でしょう? 見事な提案でした。お陰で盾の呪文もまともに使えないようなヤツが入ってこなくなる。」

 

「一応はコーネリウスの発案ってことになってるはずだけど?」

 

「あの男にこんな改革が出来るとは思えませんな。少し頭が回る者なら、誰が立役者なのかに気付いていますよ。」

 

「まあ、気に入ってくれたならなによりよ。前回の戦争では能力のバラつきが目立ったからね。次に備えて改善する必要があるわ。」

 

そう言うと、スクリムジョールは満足そうに頷く。この男は平和ボケとは無縁のようだ。

 

「その通り。『次』は必ず来るはずです。気を抜くわけにはいきません。」

 

「ま、そう考えている職員は多くないみたいだけどね。」

 

別にリドルの復活を信じているわけではないのだろうが、そういった考えの魔法使いが闇祓いを率いているというのは大きなメリットだ。ムーディは良い後継者を指名してくれた。

 

アトリウムに到着したエレベーターから出ながら、さらに下層に用があるらしいスクリムジョールに別れを告げる。

 

「それじゃ、頑張ってね、スクリムジョール。ムーディほどの被害妄想は御免だけど、危機感を持ってる貴方には期待してるわ。」

 

「そちらも頑張ってください。これからの魔法界がどうなるかは、貴女の『操縦』に懸かっているのですから。」

 

パタリと閉じたエレベーターに背を向け、暖炉の方へと歩き出す。『操縦』か。上手いこと言うもんだ。今代の闇祓い局局長は、少なくともムーディよりは諧謔のセンスがあるらしい。

 

あのハロウィンの痕跡など一切ない美しいアトリウムを歩きつつ、レミリア・スカーレットは次なる戦争について考えを巡らせるのだった。

 

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