Game of Vampire 作:のみみず@白月
「エクスペリアームス! うっ……。」
武装解除術で自分の武装を解除しているロンを横目に、アンネリーゼ・バートリはハーマイオニーへと衝撃呪文を繰り出していた。うーむ、信じられないほどに間抜けな光景だな。
毒蛇の王の命日からは既に半月が経過しているが、残念ながらあれ以来何一つ進展はない。切り裂き魔もしもべ妖精も姿を現さず、ハグリッドは魔法省の拘留室という小屋よりマシな住処を手に入れ、レミリアは親マルフォイと熾烈な権力闘争を繰り広げているのだ。
そんな中、イベント中毒のフリットウィックによって第二回目の決闘クラブが開かれた。ハグリッドがいなくなって落ち込んでいたハリーたちも、大好きな決闘の誘惑には勝てなかったらしい。お陰で私もこうして引っ張られてきて、毎度お馴染みの意味なし決闘をさせられているわけだ。
「フリペンド。」
「プロテゴ! フリペンド! フリペンド、フリペンド……だから避けないでよ、リーゼ!」
「避けるのも立派な戦術だろう? ほら、エクスペリアームス。」
「プロテゴ! フリ、わっ、プロテ……もう。全然ダメだわ。」
盾の呪文が一瞬遅れたハーマイオニーに私の武装解除術が激突した。授業の成績には文句なしなのだが、どうやら彼女は決闘が苦手なようだ。先程から何度も呪文の選択に迷った挙句に、結局対処しきれないというのを繰り返している。
「武装解除術も使わないと意味がないじゃないか。提案したのはキミだろう?」
くるくる飛んできた杖をキャッチしながら声をかけると、ハーマイオニーは困ったような顔で返事を返してきた。
「そうだけど……咄嗟に出てくるのは衝撃呪文なのよ。守りながら攻撃するだなんて、頭がこんがらがっちゃうわ。」
今回から意味なし決闘に武装解除術が組み込まれたのだ。盾と同じくこちらも二年生にはまだ早い呪文だと思うが、就職に有利ということでハーマイオニーが強硬に主張したのである。……二年生から就職のことを考えるとは、なんとも将来有望ではないか。
「キミはあれだね、考えすぎってやつだよ。もっとこう……反射で呪文を使った方がいいと思うよ。ほら、ハリーみたいに。」
ちょうど向こうで見事にロングボトムの杖を奪ったハリーを指しながら言ってやれば、ハーマイオニーは頰を膨らましながらぷんすか文句を言い出した。
「貴女もズルいけど、ハリーもズルいわ。どうしてそんなに簡単に武装解除術が使えるのかしら。結構難しい呪文のはずなのに。」
「いやぁ、そんなことを言われても困るよ。適性ってやつなんじゃないかな。」
私に関してはともかくとして、ハリーに限ってはあながち間違いとも言えないだろう。この呪文を知ってからまだ間もないというのに、彼は水を得た魚のように武装解除術を使い熟しているのだ。
杖による適性なのか、はたまた個人の素質か。詳細は全く分からんが、とにかくハリーにとって武装解除術は早くも一番の得意魔法になりつつある。もはやロングボトムでは相手にならないようだ。……いやまあ、元から相手になるかどうかは怪しいとこだが。
衝撃で倒れ込んだロングボトムをハリーが引き起こしているのを見ていると、我らがコメディアン、ロン・ウィーズリーが近付いてきた。相手をしていたルーナは清々した顔でハリーとロングボトムの方へと歩み寄っている。ロニー坊やの単独ショーはお気に召さなかったようだ。
「この杖を使う限り、僕はまともに魔法を使えやしないよ。不可能だ! 不可能!」
「おや、今頃気付いたのかい? 私は五ヶ月前には気付いてたがね。キミがそう、スペロテープとかいう訳の分からない代物を貼り始めた時からだ。」
「私はナメクジを吐いてた時に気付いたわ。それは杖じゃないのよ、ロン。棒よ。魔法が逆噴射してくる棒。魔法逆噴射装置だわ。」
私とハーマイオニーの辛辣な言葉に、ロンが勢いをなくして苦い顔をする。もう私もハーマイオニーも同情なんてしないのだ。なんたって彼は怒られるのが嫌で、未だに杖を折ったことを両親に伝えていないのだから。
「昨日は上手くいってたんだ! 今日はその……きっと雨が降ったからだよ。ジメジメしてるから調子が悪いだけさ。」
「おや、湿度まで調べられるとはね。多機能な棒切れじゃないか。……うーむ、魔法が使えないのだけが欠点かな。」
「そうね。ところでロン、それは何だったかしら? 湿度計? それとも耳かき? まさか杖じゃないわよね? 杖なら魔法が使えるはずよ。」
どうやらロンは一切の同情が得られないことを理解したようだ。物凄く嫌そうな顔になると、拗ねたような声で私とハーマイオニーに抗議の台詞を放ってきた。
「君たちは人間じゃない、悪魔だ。少しは友達に対して慰めの言葉をかけちゃくれないのかい? 僕は僕なりに頑張ってるんだぞ。」
「あのね、私たちは貴方のためを思って言ってるの。このままだと二年生の成績は絶望的な上に、三年生の授業にだって影響が出るわよ。どうせ夏休みに入ればバレるんだから、今のうちに謝っておきなさい。それが正しい選択ってものだわ。」
ママの言う通りだぞ、ロニー坊や。それに私は人間でも悪魔でもない、吸血鬼だ。私がうんうん頷きながらハーマイオニーの言葉に同意しているのを見て、ロンはバツが悪そうに目を逸らし始める。吼えメールの一件がトラウマになっているようだ。
この様子だともう少し『ロン・ウィーズリー劇場』は続きそうだな。ハーマイオニーと顔を見合わせてため息を吐いたところで、ハリー、ロングボトム、ルーナが近寄ってきた。
ハリーの首元には光に反射する銀色のチェーンが見えている。別にハリーが色気付き始めたわけではなく、私が贈ったパチュリーお手製の魔道具だ。しもべ妖精をどうにかする魔道具だと言うと、ハリーは喜んで身に付けてくれた。ブラッジャー襲撃事件は彼にとっても充分すぎるほどに警戒すべき事態だったらしい。
「そっちも一段落ついたなら、そろそろペアを変えてみない?」
「ああ、そうしよう。……ふむ、次はどうする? また適当にクジでも作ろうか?」
今のペアは一回目のクジの結果なのだ。……となれば、ロンと当たらないように細工をする必要があるな。いくら意味なし決闘が退屈とはいえ、あんなもんに付き合うくらいなら決闘ごっこをしていたほうがいくらかマシだぞ。
悪しき吸血鬼が公正なクジへの細工を考え始めたところで、生き残った男の子が首を振りながら一つの提案を放ってきた。
「それもいいけど……リーゼ、あっちでやってみない? その、もっと実践的なやつを。」
……ほう? 言いながらハリーが指差しているのは中央に設置された舞台だ。つまり、ハリー・ポッター殿は私と『本気の』決闘をしたいようだ。彼にとっても意味なし決闘は物足りないものだったらしい。
「……んふふ、言うじゃないか、ハリー。私は一向に構わないよ。」
「それじゃ、やろうよ。せっかくの決闘クラブなんだ。普段出来ないようなことをやらないと損でしょ?」
「その通りだ。よく分かっているじゃないか。」
言いながら二人で舞台の方へと歩き出すと、残りの四人も慌ててついてきた。ハーマイオニーとロングボトムは心配そうに、ロンとルーナはワクワクしたような顔になっている。
ハリーが何を思って勝負を仕掛けてきたのかは分からんが、別に私をこてんぱんにしたくて堪らないわけではないだろう。さすがにマルフォイと同列に思われているってことはないはずだ。……友人との真剣勝負ってとこか?
何にせよちょうどいい塩梅に手加減する必要があるな。幾ら何でも本気を出すつもりはないが、負けるのだけは有り得ない。どれだけ大人気なかろうと、負けず嫌いは吸血鬼の性なのだ。
つまり、『二年生にしてはお強いアンネリーゼちゃん』くらいの力で勝つ必要があるだろう。今まで普通に授業をこなしてきた以上、ここでいきなり無言呪文を撃ちまくれば今までのがなんだったのかという話になる。お子ちゃまぶってたのがバレるのは体面が悪すぎるぞ。
そんな私の内心も知らず、ハリーは退屈そうに舞台の端に座っているフリットウィックに言葉を放った。めっきり舞台での決闘を申請する生徒がいなくなったせいで、フリットウィックは暇を持て余しているようだ。一回目の『見世物』状態が効いたらしい。
「フリットウィック先生、舞台を使った決闘をしたいんですけど……。」
「おお、ポッター君! それは素晴らしいことですよ。相手は……おや、バートリさんですか! これは面白い決闘になりそうですね。さあさあ、早速始めましょう! 舞台の上へ!」
この小男は舞台を使ってくれることが嬉しくて堪らないようだ。いきなりテンションが上がったフリットウィックに従って、舞台に上がってハリーと向き合う。……少しは手応えを見せてくれよ、ハリー。キミには強くなってもらわなくちゃならないんだ。
「本気できてくれ、リーゼ。勝てるとは思ってないけど、今の自分がどれくらい出来るのかを知りたいんだ。」
杖を眼前に立てながら言うハリーに対して、私も同じ格好で返事を返す。
「ああ、『本気』でいかせてもらうよ、ハリー。私は負けず嫌いなんだ。良く知っているだろう?」
同時に杖を振り下ろし、くるりと振り返って舞台の端へと……おや、アリスとスネイプが生徒たちの向こうから呆れたような表情で私を見ている。そんな顔をするなよ。今回のは私から吹っかけたんじゃないぞ。吹っかけられたんだ。
弁解の視線を送ってから舞台の端で振り返って杖を構えると、フリットウィックが開始の合図を放ってきた。
「では、開始!」
「エクスペリアームス!」
「ペトリフィカス・トタルス。」
開始直後、ハリーの武装解除術と私の全身金縛術が空中で激突する。……おいおい、思ったよりやるじゃないか、ハリー。今のは結構速かったぞ。
弾かれてあらぬ方向へと飛んでいく呪文には目もくれず、ハリーは素早く追撃を放ってきた。
「フリペンド……
「プロテゴ、
衝撃呪文を盾で防ぐと、今度は私の足元をツルツルに変えてくる。なんとも面白いことを考えるもんだ。苦笑しながら終わらせ呪文で元に戻したところで、ハリーが再び杖を振り上げるが……次は先手を頂こうか。防御のお手並みを拝見だ。
「タラントアレグラ。」
「くっ、プロテゴ!」
これはこれは。授業での成功率は三割を切っていたというのに、ハリーはここ一番で盾の呪文を成功させた。先程の滑らかな杖捌きといい、もしかすると本番に強いタイプなのかもしれない。日々の努力を是とするハーマイオニーが聞いたら怒りそうだ。
「
「デパルソ。」
ハリーの生み出した縄を私が吹き飛ばすが……ふむ? どうやらそれは予想済みだったようで、ハリーはすぐさま杖を突き出しながら大きく叫ぶ。
「ルーモス・マキシマ!」
目眩し……というか、目潰しに近いな。恐らく強い光で視界を奪おうとしたのだろう。手持ちのカードを存分に使うところを見るに、どうもハリーは戦いへの適性があるらしい。魔法は発想力。それがアリスの口癖なのだ。
まあ、見事な奇策だった。もしかしたら大人でも引っ掛けられたかもしれないほどに。……しかし、残念なことに光というのは私の得意分野だ。暗闇も光も。私の能力のお陰で味方にはなれど、敵に回ることは有り得ない。詰めの一手をハリーが放つ直前、光を直視しながら呪文を放った。
「エクスペリ──」
「エクスペリアームス。」
杖を振り下ろす直前のハリーに私の武装解除術が激突する。……いやはや、想像以上だったぞ。ハリーはまだ十二歳なのだ。それでこれだけやれるなら、充分に将来有望だと言えるだろう。
飛んできた杖をキャッチすると、ハリーが苦笑しながら歩み寄ってきた。
「参ったよ。最後の目眩しは自信あったんだけど……やっぱりリーゼには敵わないね。」
「いやいや、結構焦ったよ。授業で見るよりも随分と呪文のキレが良かったじゃないか。」
「なんて言うか、相手がいるとやり易いのかも。……変かな?」
「別に変ではないと思うよ。きっと実戦に強いタイプなんだろうさ。試験じゃ困るだろうけどね。」
ハーマイオニーとは正反対だな。会話しながら舞台を下りれば、フリットウィックがペチペチ拍手しながらのお出迎えだ。えらくご機嫌じゃないか。
「素晴らしい闘いでした!どちらも二年生とは思えないほどです。グリフィンドールに五点を差し上げましょう!」
いつの間にか舞台を囲んでいた生徒たちも拍手をしている。……まあ、スリザリン生は当然していないが。みんな大好き決闘クラブも、獅子寮と蛇寮の隙間を埋めるには至らなかったようだ。
適当に手を振って応えながら四人の下へと戻ろうとしたところで、ハリーがこっそり話しかけてきた。
「三回目にまたやろうよ、リーゼ。次こそはもう少し頑張ってみせるから。」
「んふふ、もちろん構わないよ、ハリー。いつでも受けようじゃないか。」
ハリーが少しでも強くなってくれるのならやる価値はあるだろう。……ふむ、私が手ずから鍛えるってのも悪くない考えだな。ゲラートもパチュリーも最初から杖魔法は私より上だったし、アリスやフランなんかは勝手に強くなってしまった。ここらで師匠ごっこをしてみるのも面白そうだ。
ま、しばらく先の話になるか。せめて無言呪文を使えるようになる……五年生あたりか? いや、特訓すれば四年生にはいけそうだな。そのあたりで練習を提案してみよう。これだけ決闘を楽しんでいるのだ。きっとノリノリで応えてくれることだろう。
生き残った男の子特訓計画を考えながら、アンネリーゼ・バートリは興奮した様子の四人へと歩み寄るのだった。