自転車。
それは俺やナナホシがいた世界においては必要不可欠なものであった。
歩くには遠い距離でも関係なかった。これ一つで何処へでも行けた。
だが今世においては、自転車の影も形もない。
ロキシーも通勤の際には、アルマジロのジローに乗る。
ペダルを漕ぐ事に縁がないのだ。
だからこそ乗り回したかった。そんな思いから、俺は土魔術で自転車を作った。
大まかな構造は把握していたし、人形制作ではもっと複雑な事もしていた。
とはいえ素人だ。
流石にタイヤの中身には明るくなかったので、形だけの再現にとどめた。
何はともあれ完成だ。早速乗り回す…と、言いたいところだが問題が発生した。
そんな深刻な事ではなく、俺の心情的な問題だ。
寂しいのだ。
どうせなら誰かと一緒に、この喜びを分かち合いたい。
俺は愛しい人に声をかけた。
「一緒に出かけませんか?」と。
「ルディ、これは何ですか?」
「青春です」
「そうではなく、これは何というものなのですかと聞いているのです」
訝しげに自転車を見ながら彼女は言う。
ごもっともだ。
とはいえ、事細かな説明よりも抽象的な事を言いたくなったのも事実。
だが、実際に説明を求められては答えないわけには行かないだろう。
神に誤魔化しは御法度だ。
「自転車と言って、ナナホシがいた世界ではメジャーな乗り物です。今日は、ぜひ一緒に乗りたくてロキシーを呼んだのです。」
俺がそう言うと、ロキシーは「しょうがないですね」と顔を赤らめながら答えてくれた。
さて、いよいよ本番だ。
まず俺がサドルを跨ぎ、次にロキシーを後ろに乗せる。
ロキシーも俺に倣って荷台を跨ぐ。
前世であれば咎められただろうが、今はいいだろう。
「……ど、どうぞ」
俺の腰に腕を回しつつ心の準備ができたことを伝えてくるロキシー。
やはり緊張していたようだ。
いい、とてもいい。
思い出されるのは子供の頃の事や、二人きりの夜の事。
激しく熱い夜の記憶を呼び起こすだけで、俺のエースがパウロしてしまいそうだ。
「行きますよ、先生!」
「はい、ルディ!」
気分は最高だった。
憧れの人との自転車の二人乗り。
無職童貞のままでは成し得なかった快挙だ。
町の人に驚かれはしたが、そんなことは問題ではない。
楽しかった。
俺は青春を乗りこなしている。
「ルディ!」
「はい、ロキシー!」
楽しいです、とロキシーの言葉が続き、俺の耳を打った。
ならばもっと、とペダルを漕ぐ足の力を強めていく。
腰に回された腕の力が強くなる。
町を何周かしたところで、自転車を止めた。
「どうでしたか?」
「楽しかったですよ。……またお願いしてもいいですか?」
当たり前だった。
ロキシーの笑顔が見れるのなら、何回でも漕ぐ所存でございます。
当然、自転車の事は家族皆に知れ渡り、
一人ずつ順番に乗せる事となった。
少しは、パパらしいことができた気がする。